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障害者サービス 65才打ち切りは「違法」 浅田訴訟判決

 障害福祉サービスは、低所得者は自己負担なしにサービスが利用できますが、65歳になると「介護保険優先」とされ、介護保険サービスに移行され、原則1割の自己負担が強制され、サービスも制限されるという問題が起きている。

 2018年12月、広島高裁岡山支部は、65歳になった障害者に対し障害福祉サービスを打ち切り、自己負担のある介護保険サービスを強制したことが「違法」とする判決を出した(岡山市が上告を断念。判決が確定)。

 判決は「障害者自立支援法(現障害者総合支援法)7条の「介護保険優先原則」について、介護サービスの利用を申請した場合に二重給付とならないよう調整する規定だと指摘している。(アップがぬかっていたので、遅まきながら・・・)

【介護優先原則・浅田訴訟について きょうされん大阪支部 雨田信幸  /大阪社保協通信2019/1/15

【障害者 再び勝訴 高裁岡山支部  福祉65歳打ち切りは違法 介護保険優先原則 岡山市の処分批判 赤旗2018/12/14

【介護優先原則・浅田訴訟について きょうされん大阪  支部雨田信幸  /大阪社保協通信2019/1/15

<はじめに>

 2018年12月13日、介護保険優先原則(いわゆる65歳問題)を理由にした障害福祉サービスの打ち切り問題で岡山市と争っていた浅田達雄さんの控訴審判決公判が、広島高裁岡山支部で下されました。地裁判決を踏まえた原告の全面勝訴。岡山市長が上告しないことを市議会で表明し、判決が確定しました。優先原則に係る問題は自治体キャラバンの中でも取り上げてきたことですが、この判決は今後全国の自治体でのサービス提供に一定の影響を与えていくと思います。そこで、提訴に至る経過・争点・判決の内容等についてまとめます。

<提訴に至る経過>

 原告の浅田達雄さん(岡山市在住)は、重度の身体障害と言語障害がある方です。日常生活を支えるためにはヘルパーなどの支援が不可欠ですが、本人の希望で若い頃から障害福祉制度を活用し地域での自立生活を送っていました。

重度訪問介護…重度の肢体不自由・知的障害・精神障害等があり常に介護を必要とする方に対して、家事、生活等に関する相談や助言など、生活全般にわたる援助や移動中の介護を総合的に行うもの。

 2012年11月、浅田さんは、その翌年の2月に65歳を迎えるという時点で介護保険への申請と制度移行を打診されました。移行後のおおよその自己負担額を聞いた浅田さんは「これでは生活ができなくなる」と驚き、地元の障害者団体とともに行政と何度も話し合いを重ねましたが、結論を得ぬまま誕生日を迎えることとなりました(介護保険は未申請)。

 すると岡山市は、浅田さんに対して「介護給付費等不支給(却下)決定通知」を出し、誕生日前日より浅田さんに対するサービスの支給(月249時間の重度訪問介護)をすべて打ち切りました。浅田さんは、人権無視の非道なやり方にすぐに抗議を行いましたが、決定が覆えることはありませんでした。

 浅田さんはボランティアの力を借りながら、ぎりぎりの生活を維持しましたが、公的な支援がない生活には限界があります。そのため、不本意ながら、介護保険申請を行い同制度のサービス支給を受けざるを得ませんでした。

 現在、障害福祉制度・介護保険制度等を利用するには、自らがこの意向を自治体に申し出る申請主義が基本となっています。浅田さんからすれば、介護保険への申請は主体的な選択ではありませんでした。人権を無視した制度移行の強制に他なりません。さらに、2011年に国(厚生労働省)が障害者自立法違憲訴訟団と締結した「基本合意」を考えても、岡山市の決定には到底納得がいきませんでした。

 そこで、支援者や弁護士らとともに不服審査請求や学習会を重ねて、2013年9月19日岡山市長を提訴、①決定の取消し ②月249時間の介護給付費支給決定 ③損害賠償金209万4037円の支払いをもとめたのです。浅田さんは提訴にあたり、「人間として生きる権利を否定された。障害者に対する差別は絶対許したくない」と、自らの思いを語っていました。

「基本合意」では「国(厚生労働省)は、速やかに応益負担(定率負担)制度を廃止し、遅くとも平成25年8月までに、障害者自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施する。」ことが確約され、「国(厚生労働省)は、障害者自立支援法を、立法過程において十分な実態調査の実施や、障害者の意見を十分に踏まえることなく、拙速に制度を施行するとともに、応益負担(定率負担)の導入等を行ったことにより、障害者、家族、関係者に対する多大な混乱と生活への悪影響を招き、障害者の人間としての尊厳を深く傷つけたことに対し、原告らをはじめとする障害者及びその家族に心から反省の意を表明するとともに、この反省を踏まえ、今後の施策の立案・実施に当たる。」と明記されています。浅田さんには、介護保険制度への移行に伴う1割負担が発生は、「基本合意」に反するという強い思いがありました

<争点>

 第1回口頭弁論で原告代理人から、「①障害福祉の実態を明らかにする ②岡山市の非人道的態度を問う」と裁判の意義が2点あげられ、具体的に岡山市決定内容に関する違法性・違憲性についていくつかの争点が提起されました。

 障害者総合支援法第7条(資料1)では、「障害福祉から介護保険に移行する時には、国や自治体が障害福祉制度の自立支援給付に「相当する」と定めている介護保険給付を優先する」旨を定めています。しかし、一方で国は、「適切な支援を受けることが可能か否か等、必要に応じて適切に支給決定すること」等を定めた事務連絡(適用関係通知)も発出しています。介護保険給付の優先は絶対的なものではなく、サービスごとに介護保険制度を優先するか否かを決定する一定の裁量権が自治体に認めていることは、この通知からも明らかです。

 しかし、岡山市の弁護団は、浅田さんの心身の状態及び取り巻く環境に変化がないこと、重度訪問介護と介護保険サービスは必ずしも相当しないこと、引き続き自立支援給付を希望していることなどを十分に考慮すべきことは明らかだったにも関わらず、65才ということだけを必要以上に強調。障害福祉サービスの打ち切りは自治体の自由裁量で決定できる裁量処分ではなく、障害者総合支援法第7条に基づく羈束(きそく)処分である」、「あくまで介護保険を使うことが前提であり、障害福祉サービスの打ち切りには問題がない」と主張しました。

 浅田さんの裁判が始まったことで、全国各地から「サービスを打ち切られた」という声が上がりマスコミ等で多数取り上げられるとともに、千葉市において、同様の裁判が始まりました(天海訴訟)。こうした事態を受けてか、厚労省は自治体の運用に関する調査(H26・8月)や介護保険移行に伴う利用者負担に関する調査(H27・7月)を行う等、実態の把握を行うようになりました。これらの調査の結果で明らかになったのは、介護保険制度の対象となり同制度への申請をしなくても、障害福祉サービスを打ち切る自治体は64%しかないこと、介護保険制度の移行によって生じる非課税世帯の障害者の費用負担はかなり重いという事実でした。

 また、岡山地裁第18回口頭弁論(2016年10月12日)に行われた証人尋問では、当時の中区福祉事務所長は、「浅田さんの生活への影響については,支援団体が支援をしており、必要最低限の支援までも失われるとは思わなかった」と証言。自治体職員が、社会保障に係る公的責任を十分に理解せず、市民の助け合いで支援ができるという考えのもとに、支援の打ち切りを決定していたことが明らかになりました。

 浅田さんの地裁訴訟では途中裁判長が変わるなどが様々な変遷を経ましたが、これらの事実が重要な判断要素となり2018年3月14日に完全勝利、9月11日の高裁でもたった一度の審議で、原告の勝利が確定しました。

<判決の内容>

 岡山地裁判決は、①岡山市の処分取消 ②不足部分の96時間(従前の249時間-変更。処分153時間)の介護給付費支給決定の義務付け ③慰謝料100万円+5か月の介護保険自己負担部分75000円の計107万5000円の損害賠償を認める」という内容でした。

 広島高裁岡山支部判決では、「控訴を棄却し控訴費用は控訴人の負担とする」として地裁判決を支持しました。また地裁の判決では不明確であった第7条問題に踏み込み、障害福祉サービスの支給決定のあり方から不支給決定も覊束処分ではなく裁量処分としました。さらに、7条は障害福祉サービスを利用していた障害者が介護保険サービスの利用を申請した場合に生じうる二重給付を避けるための調整規定であり、介護保険制度に申請していない場合、この調整規定は採用されないこと。同制度への不申請は障害福祉サービスの打ち切りの理由にならないことを明文化し、岡山市の判断は裁量権の逸脱であるとしました。

 さらに、岡山地裁と広島高裁の判決ともに、介護保険制度への制度移行によって発生する自己負担を問題視していること、適用関係通知における「一律に介護保険給付を優先的に利用するものとはしないこととしていること」、障害者自立支援法違憲訴訟(2008年10月31日提訴。14地裁71人の原告。2010年4月に和解)において結ばれた「基本合意文書において自立支援法7条の介護保険優先原則の廃止を検討することを約束したこと」などへの言及もあり、積極的な内容を持っているものでした。

 判決を受けて、浅田さんは、「65歳以上になってもこれまでと変わらずに僕の人間として生きる権利と65歳に関係なく、平等な介護が保障され、僕の尊厳が回復してとてもうれしいです。この喜びは、人間らしく生きたいと思う願いを弁護団の先生、支援する会のみなさん、全国で支援してくださった方々の支えもらったお蔭です」と喜びをかみしめていました。

【資料1】障害者総合支援法第七条(他の法令による給付との調整)

 自立支援給付は、当該障害の状態につき、介護保険法(平成九年法律第百二十三号)の規定による介護給付、健康保険法(大正十一年法律第七十号)の規定による療養の給付その他の法令に基づく給付であって政令で定めるもののうち自立支援給付に相当するものを受けることができるときは政令で定める限度において、当該政令で定める給付以外の給付であって国又は地方公共団体の負担において自立支援給付に相当するものが行われたときはその限度において、行わない。

※自立支援給付と介護保険制度との適用関係通知(抜粋)

 (障害者が)その心身の状況やサービス利用を必要とする理由は多様であり、~中略~、一概に判断することは困難であることから、障害福祉サービスの種類や利用者の状況に応じて当該サービスに相当する介護保険サービスを特定し、一律に当該介護保険サービスを優先的に利用するものとはしないこととする。

<今後について>

 浅田さんの6年に渡る闘いは終了しましたが、今後判決の確定を受けて国がどのような措置をとるのか注目されます。

 現在のところ、例えば総合支援法第7条の廃止や新たな事務連絡等を出す動きは見えません。また自治体においては、現在も含めきちんとした支給決定実務が行われるか不安です。自治体キャラバンにおいて明らかになってきている優先原則に付随する障害福祉サービス上乗せ基準(介護保険を利用してなおかつサービスが足りない場合の支給に関する独自基準)をもつ自治体も多く存在しています。

 社会保障制度全般の見直しが進められる中、介護保険の更なる改悪も検討されており、その中に障害者福祉を包含していく危険性もあると思われます。

 この闘いこの闘いの成果を地域で共有しながら大きな運動につなげていきたいと思います。

 

 

 

【障害者 再び勝訴 高裁岡山支部  福祉65歳打ち切りは違法 介護保険優先原則 岡山市の処分批判2018/12/14

  障害者自立支援法(現障害者総合支援法)7条の介護保険優先原則にそって、介護保険の申請がないからとして、65歳の誕生日で障害福祉サービスを打ち切った(不支給決定)のは違憲・違法だと岡山市を相手取り、脳性まひで重度の身体障害がある浅田達雄さん(70)=同市=が訴えていた裁判で、広島高裁岡山支部(松本清隆裁判長)は13日、原告勝訴の一審判決を維持する判決を出しました。

  判決は、岡山市側が市の自由裁量がないと主張したことに対し、浅田さんへの障害福祉サービスを打ち切ったことは「裁量処分と解するのが相当」だとしました。そのうえで、市側は不支給決定をしても浅田さんの周りにボランティアがいるので必要最低限度の支援まで失われることはないと主張したことに「看過しがたい誤り」と批判しました。

  浅田さんにとって介護保険サービスの利用料負担が「大きかったことも認められる」として、市の処分は「裁量権の範囲を逸脱し、または濫用(らんよう)にわたるものであって、違法」だと指摘。市の不支給決定は「国家賠償法上も違法」だと断じました。

  判決後の集会で浅田さんは「年齢に関係なく僕の人間としての生きる権利と平等な介護が保障され、尊厳が回復してとてもうれしい」と笑顔で語りました。代理人の呉裕麻弁護士は「一審判決より良い判決だ」と評価。金馬(こんま)健二弁護士は「人間の尊厳を守る運動の成果が表れた判決だ」と述べました。

  介護保険優先原則 障害福祉サービスを利用していた障害者に対し、65歳の誕生日を迎えたとたん介護保険の優先利用を求める規定。非課税世帯が障害福祉サービスを利用した場合、2010年4月から利用料自己負担はゼロになりました。一方、介護保険サービス利用では原則1割の自己負担が発生。また、サービスの質と時間は障害福祉の方が柔軟性があり、介護保険に移行させられた障害者は多くの不自由を強いられています。

 ◆尊厳の運動前進

  「障害者運動として一歩進んだ」。岡山市の重度障害がある浅田達雄さん(70)が同市を相手取り提訴していた裁判で、広島高裁岡山支部が、浅田さん全面勝訴の二審判決を出し、関係者や全国から駆けつけた支援者らは喜びを分かち合いました。

 「年金は下がる一方なのに65歳で利用料を負担しなければいけないのか」「年を取って障害は重くなっているのに介護保険に移行したらサービス支給量は減ってしまった。理不尽だ」。障害者の高齢化がすすむなか、介護保険への移行が全国的な問題となっており、多くの関係者が同判決を注目していました。

  浅田さんの代理人、金馬健二弁護士は「この訴訟は歴史上初めて、障害福祉サービスと介護保険サービスの違いは何かを、掘り下げてきた」と述べます。

  二審判決は、障害福祉サービスと介護保険サービスの違いを述べ、障害者自立支援法(現障害者総合支援法)7条の「介護保険優先原則」について、二重給付とならないよう調整する規定だと指摘しました。

  障害福祉サービスは障害者自立支援法施行時、原則1割の利用料負担がありました。これに対し違憲訴訟を起こすなど全国の障害者が声をあげ、現在、非課税世帯は無料になっています。

 「障害者自立支援法違憲訴訟の成果が今回の判決につながっている。地域、全国でのたたかいと過去・未来、現在がつながっていることを示した判決だ」。呉裕麻弁護士は、そう語りました。

  同訴訟の元原告で、広島県廿日市市から車いすで駆けつけた秋保和徳さん(67)は「この判決は浅田さんだけのものではない。圧迫された福祉施策のもとで暮らす全国の障害者、高齢者のものだ」と強調。「私たちが声をあげて国を変えていこう」と語りました。

 名古屋市の上田孝さん(68)は現在、支給決定を2カ月に1度更新しながら障害福祉サービスを利用しています。「今回の勝利で、通常通り1年に1度の支給決定を市に迫っていきたい」

 岡山県地域人権運動連絡協議会の中島純男議長は「判決は、若い人のための社会保障を守るものだ」と述べました。

 

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