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安全・安心な国産農産物の守り方~無防備な貿易自由化の危険

JA新聞から鈴木宣弘・東大教授のコラム

 安全・安心な国産農産物の守り方として、SDGsに代表される様々な手立てが発展してることを紹介。

①関税(税)→直接支払い(財政)→ルール(知恵)②カーボン・フットプリント(低投入・地産地消・旬産旬消の評価指標) ③ソーシャル・ダンピングとエコロジカル・ダンピングの排除。

いっぽう、関税や直接支払制度でしっかり国内農業を守っているカナダの例も。 日本農政はお寒い限り・・・

 【安全・安心な国産農産物の守り方~無防備な貿易自由化の危険~2019.06.27 鈴木宣弘】

【農業保護大国カナダ   鈴木宣弘・東京大学教授 2019.07.11】 

 

【安全・安心な国産農産物の守り方~無防備な貿易自由化の危険~2019.06.27 鈴木宣弘】

 ◆関税(税)→直接支払い(財政)→ルール(知恵)

 「関税(税)→直接支払い(財政)→ルール(知恵)」、石井勇人共同通信編集委員は欧州での「農業の守り方」の進化をこう表現する。

例えば、ドイツでは、持続可能性指標として、持続性のある資源利用(有機肥料や家畜糞尿の活用など)、生物多様性、土壌・水・大気の保護、雇用環境、採算性、安定性、社会貢献などの指標に基づいて農産物の生産環境・背景などを各10点満点で評価し、それを取引きに活用していこう(例えば、点数が基準以下のものは取引きしないとか、点数の高いものを優遇するなど)という動きがある。

 ◆カーボン・フットプリント(低投入・地産地消・旬産旬消の評価指標)

 木下順子氏・201110月撮影。TescoPB商品。1pint(パイント)当たりのCO2排出量として、全乳には900g、低脂肪乳には800g、無脂肪乳には700gと表示されている。Tesco2009年に英国で始めて牛乳にカーボン・フットプリントを表示した小売店。

  英国のカーボン・フットプリント表示の取組みも参考になる。フード・マイレージは輸送に伴うCO2排出を数値化するものだが、それだけでなく、生産から加工、輸送を経て店頭に並び消費されるまでの全過程を合計したCO2排出量であるカーボン・フットプリントを記載する取組みである。生産・加工・流通・消費の全行程でのLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)に基づくカーボン・フットプリントは、低投入・地産地消・旬産旬消が環境にもっとも優しいことを数値化して消費者に納得してもらう試みである。こうした指標を可能な限り取引ルールに活用していければ、国産の安全・安心なものが「正しく」評価され、安くても持続性に問題のある農産物は排除できる。

 ◆ソーシャル・ダンピングとエコロジカル・ダンピングの排除

  スイス新憲法の「104a条 食料安全保障」の「d. 農業と農産食品部門の持続可能な発展に資する国際貿易」が注目されるのも、「大きな流れとしては安価な労働力を利用して輸出競争力を高めるようなソーシャル・ダンピングや、利益を優先させるために環境破壊を認めるエコロジカル・ダンピングなどを許さず、輸入相手国に対しても持続可能な農業生産や、国内と同等の基準を順守させることが「公正」だという考え方は根づいていくと思う。要するに、生産段階で燃料や化学肥料を大量に使う国の農産物は受け入れない、衛生、労働、動物福祉などについて、基準の低い国からの輸入を制限するということでしょう」(前出・石井氏)ということである。
 「直接支払い」も「ルール」も極めて不十分なまま、関税削減・撤廃に突き進む我が国は非常に危険である。

 (注) スイス新憲法(2017年)
104
a条 食料安全保障
国民への食料供給を確保するため、連邦は持続可能性を支援し、以下の事項を促進するための条件を整備する。
. 農業生産基盤、とりわけ農地の保全
. 地域の条件に適合し、自然資源を効率的に用いる食料生産
. 市場の要求を満たす農業および農産食品部門
. 農業と農産食品部門の持続可能な発展に資する国際貿易
. 自然資源の保全に資する食料の利用
特に、「d. 国際農産物市場へのアクセス」という連邦参事会案が、最終的に「d. 農業と農産食品部門の持続可能な発展に資する国際貿易」とされた点が重要である。

 

 

【農業保護大国カナダ   鈴木宣弘・東京大学教授 2019.07.11】 

 

 カナダは、穀物を中心に農産物の大輸出国で、農産物関税も低いと思い込んでいる人が多いと思うが、衝撃のデータが表1に示されている。WTO(世界貿易機関)によると、単純平均で16%というカナダの農産物関税率は、日本の13%、EUの11%よりも高い。しかも、カナダが徹底的に守る姿勢を崩さない酪農については、平均関税が250%という突出した水準になっている。

20190716

 ニュージーランド(NZ)とオーストラリア(豪州)以外は、乳製品の関税は世界的にも総じて高い。なぜだろうか。まず、世界の酪農の競争力については、NZと豪州の競争力が突出しており、米国、カナダ、欧州、日本などは、全面的な関税撤廃をしたら、国内の酪農がもたない、という構造がある。

  そして、米国でも「公益事業」(電気やガスと同じく必要量が必要なときに供給できないと子供が育てられないので海外に依存できない)と言われるくらい、特に、欧米諸国にとって牛乳・乳製品は最も重要な基礎食料である。だから、その国産の牛乳・乳製品を守るためには、NZと豪州に対して全面的貿易自由化はとてもできないという事情がある。

  だから、NZと豪州以外の国は、ガットのウルグアイ・ラウンド(UR)合意以前は乳製品の輸入数量制限をしていた。UR合意で、数量制限はやめて「関税化」したけれども、低関税の輸入枠と禁止的二次税率を設定した。そのため、いまでも、各国の乳製品の平均関税も高く、最高税率はNZと豪州以外のほとんどの国で100%を超えている。農産物全体の平均よりも乳製品の関税が総じて高いことからも乳製品の特別な位置づけがわかる。

 「関税化」と併せて、輸入量が消費量の3%に達していない国(カナダも米国もEUも)は、消費量の3%をミニマム・アクセスとして設定して、それを5%まで増やす約束をしたが、実際には、せいぜい2%程度しか輸入されていない。ミニマム・アクセスは日本が言うような「最低輸入義務」でなく、アクセス機会を開いておくことであり、需要がなければ入れなくてもよいのである。欧米諸国にとって、乳製品は外国に依存してはいけないのだから、無理して、それを満たす国はない。かたや、日本は、すでに消費量の3%をはるかに超える輸入があったので、その輸入量を13700トン(生乳換算)のカレント・アクセスとして設定して、毎年、忠実に満たし続けている、唯一の「超優等生」である。

 カナダの牛乳は1リットル300円で、日本より大幅に高いが、消費者はそれに不満を持っていない。筆者の研究室の学生のアンケート調査に、カナダの消費者から「米国産の遺伝子組み換え成長ホルモン入り牛乳は不安だから、カナダ産を支えたい」という趣旨の回答が寄せられた。生・処・販のそれぞれの段階が十分な利益を得た上で、消費者もハッピーなら、高くても、このほうが皆が幸せな持続的なシステムではないか。「売手よし、買手よし、世間よし」の「三方よし」が実現されている。

 カナダがこのようなシステムを維持するには、海外からの安い牛乳・乳製品を遮断する必要があるため、TPPで断固たる対応が必要になり、カナダはそれを押し通した。カナダはTPP参加国に対する無税の輸入枠(TRQ)を少しだけ新設したが、それを超える輸入に対する高関税には手を付けずに維持することに成功した。カナダとEUとのFTA(自由貿易協定)でも同じ、新たなNAFTA(北米自由貿易協定)交渉でも同じように、実質的には、ビタ一文譲らなかった。


 また、カナダ政府が20年も前からよく主張している理屈でなるほどなと思ったことがある。それは、直接支払いというのは生産者のための補助金ではなく、消費者補助金なのだというのだ。なぜかというと、農産物が製造業のようにコスト見合いで価格を決めると、人の命にかかわる必需財が高くて買えない人が出るのは避けなくてはならないから、それなりに安く提供するために補助金が必要になる。だから、これは消費者の皆さんを助けるための補助金を生産者の皆さんに払っているだけだから、消費者はちゃんと理解して払わなければいけないのだという論理である。こういうふうな側面も考えると、生産サイドと消費サイドが支え合っているという構図が別の側面からも見えてくる。カナダは立派だ。見習うべき点が多い。

 

 

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