IWC 「堂々脱退」の真相は「まったくの惨敗」~自らチャンスを捨てた日本
わらずこれを拒否してきた結果、脱退せざるを得なくなった。
排他的経済水域なら自由に捕鯨ができるかというと、国連海洋法条約では鯨類の管理は「適切な国際機関を通じて」行わねばならないと規定されている(第65条)。国際組織の立ち上げは過去何度が試みられたが失敗しており、簡単ではない。
脱退を主導した二階俊博自民党幹事長自身が述べている通り、捕鯨を推進する側から見ても、「堂々脱退」の真相は「まったくの惨敗」としか呼べないものだった、とのこと。
ナショナリズム煽る「堂々の脱退」・・・先の無謀な戦争の悪夢と重なる
【IWCでの妥協案の模索と挫折(1997~2010):決裂は不可避だったのか 真田康弘の地球環境・海洋・漁業問題ブログ5/31】
【IWCでの妥協案の模索と挫折(1997~2010):決裂は不可避だったのか 真田康弘の地球環境・海洋・漁業問題ブログ5/31】
報道されています通り、6月30日に日本は国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し、7月より商業捕鯨を排他的経済水域内で実施する予定です。調査捕鯨、南極海捕鯨から撤退し、200カイリ内のみで操業することとなります。
ところで、「調査捕鯨・南極海捕鯨から撤退する代わりに、200カイリ内のみで捕鯨を行う」というのは実のところ、IWCに留まるかたちで合意が可能なのではないかと思われるほぼ唯一の妥協案ではないかと関係者の間で言われてきました。もしそうだとすると、日本の脱退は何の意味もなかったことになります。これに関するエッセイをニューズレターに書いてみましたので、今回はそれをここにもアップしてみました。結論から先に言いますと、日本は「公海からの撤退、200カイリでの商業捕鯨再開」という妥協案が提示されていたにもかかわらずこれを拒否したこと、そうこうしているうちに捕鯨船はどんどん老朽化、結局立ち行かなくなり「IWCからの堂々脱退」というフレーミングの下、IWCで交渉していたら得られたはずの案を脱退によって実現するという倒錯的状況に陥ったことを記しています。や長いのですが、ご関心おありの方は是非。
- 小結
以上簡単に1990年代後半から2010年までのIWCでの妥協案策定のための交渉を振り返ってみた。これら妥協案のなかでもアイルランド提案は、穏健な反捕鯨国はもとよりニュージーランドや英国からも交渉の用意があるとの姿勢が示されており、「南極海撤退の代わりに200カイリ内での操業を認める」との案が成立する可能性は相対的にではあるが高かったのではないかと想像される。他方2010年までの「IWCの将来」プロセスでは、ブエノスアイレスグループの結成やEUの共通ポジションの策定により立場の固定化が進み、妥協案の策定は相対的に困難となったと考えられる。
しかしながら、2010年の交渉でも「南極からの撤退」が最大の論点となっており、これを受け入れていれば沿岸での商業捕鯨が再開された可能性は十分考えられる。「調査捕鯨中止、南極からの撤退」というカードを、日本側は効果的に利用することができなかった、と捉えられよう。
2010年の「IWCの将来」プロセスの挫折以降、商業捕鯨を求める側と反捕鯨国との歩み寄りのための真摯な外交努力は試みられなかった。日本側は2014年以降、「クジラと捕鯨に関する立場の違いに起因する本質的な問題を議論」するとし、書面で反捕鯨国側に捕鯨問題に関する自国の基本的な態度の表明を求めるなどの努力を行ったとしている(41)が、基本的立場の相違や妥協のための最大の問題点がどこにあるかは2010年までの交渉で既に明白であり、「本質的な議論」アプローチは時間を無為に費やしたのみであった。
こうしたなかでも捕鯨母船「日新丸」の老朽化が時を追って進み、代船建造の見込みも立たない。推進母体の日本鯨類研究所と日本捕鯨協会は2010年11月以降水産庁OBの役員受け入れを行っておらず、最悪なくなったところで役所に実害はない。そこで公海からの撤退を決断した、これが政策担当者の本心の一端なのではなかろうか。
日本は2019年7月にIWCから脱退することになるが、国連海洋法条約では鯨類の管理は「適切な国際機関を通じて」行わねばならないと規定されている(第65条)。北太平洋で地域的鯨類管理機関を設立する試みは過去にも試みられてきたがいずれも失敗しており、設立に成功する可能性は極めて低い。こうしたなか排他的経済水域内だけであれ商業捕鯨を再開すれば、小松正之・元IWC日本政府代表代理が指摘するように「一種の違法、無規制、無報告(IUU)状態であると批判する国か非政府組織(NGO)が必ず現れる」であろう(42)。小松元代表代理のみならず島一雄元IWC日本政府代表も脱退という決定を「無責任の誹りは免れない」と批判している(43)。捕鯨の継続を支持する立場に立ったとしても、この脱退で失うものは多く、得るものは少ない。
脱退で得られた数少ないものの一つと言えるのが、この政策判断に対する国内的支持である。与党は脱退をむしろ推進する側に回り、外務省の実施した世論調査では7割近くが回答者が脱退を評価している(44)。「IWCからの堂々脱退」というナショナリズム的レトリックの賜物であったろう。しかしながら脱退を主導した二階俊博自民党幹事長自身が述べている通り、捕鯨を推進する側から見ても、「堂々脱退」の真相は「まったくの惨敗(45)」としか呼べないものだった。
必要だったのはナショナリズム的レトリックではなく、IWCを通じて沿岸捕鯨を認めさせるべく交渉を尽くすことではなかったのだろうか。そしてその際、「調査捕鯨の中止」「南極海での操業撤退」「排他的経済水域内のみでの操業」といったオプションを外交交渉におけるカードとして用いるべきではなかったのだろうか。結局のところ日本側はこれら全てのカードを自ら捨て去り、何の見返りもなく自ら交渉のテーブルから降りてしまったとも言えよう。外交的失敗との評価は免れないであろう。
(45) 産経新聞電子版2018年12月26日。
https://www.sankei.com/life/news/181226/lif1812260040-n1.html
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