子どもの貧困対策 対抗見直しにあっての要望 全国ネット
子どもの貧困対策大綱は、5年毎に見直しされることとなっており、今年度が見直しの年度にあたる。政府は、有識者会議で、夏ごろをめどに見直し案をとりまとめるとされている。
その見直しについて「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワークが、「これまでの活動と議論の蓄積を基礎に、この要望書を作成」している。
改善・充実させるべき内容について、整理されており勉強になる。子どもの貧困は、親の貧困、社会の貧困であるが、子どもの貧困は、「自己責任論」を突破して貧困問題を社会的に解決していくうえで、重要なキーワードとなる。
【子どもの貧困対策法及び子供の貧困対策大綱の見直しについて 2019年4月15日 「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワーク世話人会】
【子どもの貧困対策法及び子供の貧困対策大綱の見直しについて 2019年4月15日 「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワーク世話人会】
(要望/第2次案)
私たち「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワークは、2010年4月の発足以来、直接支援に取り組む個人や団体のほか、現に貧困状態にある子どもとその保護者、若者、学生、地方自治体の議員や職員、研究者、メディア関係者が個人として参加するネットワークを通じて、子どもの貧困対策を市民の立場で議論し、子どもの貧困とその解決について知見を深めてきました。
今後の議論で生かしていただきたく、これまでの活動と議論の蓄積を基礎に、この要望書を作成しました。
A 基本的な理念
子どもの貧困対策の推進に関する法律(平成25年6月26日法律64号。以下、子どもの貧困対策法)を見直す際は、この法律の基本理念として次のことを書き込むよう要望します。
(1) [子どもの権利]
国及び地方公共団体は、すべての子どもに対して、日本国憲法に定める基本的人権及び児童の権利に関する条約(平成6年5月16日条約第2号)に定める子どもの権利を尊重するとともに、家庭の経済的環境にかかわらず、一人ひとりの子どもの最善の利益を実現する責務を負うことを明確にすること。その際、児童の権利に関する条約に規定する子どもの権利の広がりに留意するとともに、国連子どもの権利委員会が総括所見で指摘する諸問題、とくに社会や学校の過度の競争性を改善することに留意すること。
(2) [すべての子どもの最善の利益、貧困状態にある子どもの問題解決]
子どもの最善の利益を実現するため、すべての子どもの福利を増進する普遍的な制度・施策を基盤として、経済的困窮や困難に直面する子どもの必要に応ずる特別な支援を通じて子どもの貧困問題の解決を図ること。その際、子どもの貧困対策に関する施策を策定したり、個々の子どもに対する支援や措置について決定したりするときは、子どもの意見を尊重すること。
(3) [経済的格差と貧困の元を断つ]
子どもの貧困が社会構造的に生み出されていることを確認し、子どもの貧困問題の解決をその家族や子ども本人に責任を負わせることなく、国の責任において子どもの貧困解決に取り組むこと。
(4) [持続的発展のために]
社会の持続的発展にとっても、子どもの貧困解決は不可欠の課題であること。
B 子どもと家族への貧困対策
現在の子どもの貧困対策法と子供の貧困対策大綱(平成26年8月29日、閣議決定)では「教育の支援」「生活の支援」「保護者に対する就労の支援」「経済的支援」が貧困対策の柱とされていますが、子どもの貧困により有効な手立てを講ずるために、次のことに留意して子どもの貧困対策法を改正し、子供の貧困対策大綱を適切に改定してください。
1 労働環境・労働市場の改善
(1) 親の低所得は、親が働いていないためではなく、働いても子育てに必要な賃金を得られないことや、安定して継続的に働き続けることが難しいことにあります。労働環境と労働市場を改善することなく、親の就労支援だけを行う施策では子どもの貧困を解決することはできません。
(2) 子育て世帯の親の失業率はきわめて低いにもかかわらず相対的貧困率が高い背景には、賃金が低く、不安定な雇用形態が拡大しているという事情があることに留意し、「保護者に対する就労の支援」の前提として、最低賃金の引き上げや非正規雇用の解消、働き続けられる職場の確保など、労働環境・労働市場の改善を重視すること。
(3) すべての人が家族との生活時間を犠牲にすることなく働き続ける権利を有すること、また働く親をもつすべての子どもが親に養育される権利を有することを確認すること。その際、賃金水準の低さや雇用の不安定性のために多くの勤労者が長時間労働を余儀なくされていることに鑑み、労働と家庭生活とをバランスよく営み、尊厳ある生活をおくることができるよう、長時間労働の規制や最低賃金の引き上げに留意すること。
2 所得再分配の強化
(1) 自由主義経済による富の分配には、経済的格差の拡大と貧困の生成という欠陥が伴うことを確認し、税と社会保障を通じて所得再分配が適切に確保されること。
(2) すべての段階の教育及び保育の完全無償化や、子どもの成長をサポートする施設や制度の充実を通じて、親の所得や家庭環境に依存することなく、すべての子どもに成長と発達の機会が保障されるようにすること。
3 貧困状態にある子どものしあわせのために
(1) すべての子どもを対象とする普遍的な制度や施策を基盤的なものとして整備・実施し、その上に貧困等に起因する特別なニーズに応答する制度や施策を整備・実施すること。
(2) 国連子どもの権利委員会がこれまでの総括所見で繰り返し指摘していることを踏まえて、とくに競争主義的教育環境の改善をはかりつつ、すべての子どもが自己の価値を認識するとともに、他者と協力して生きることに価値を見いだせるようにすること。
(3) 貧困状態にある子どもが自己肯定感・自己有能感・自己の未来への希望と展望をもつことを阻まれる傾向にあることを認識し、子どもを支える施設の設置や職員の配置を進めるとともに、子どもを支える社会的関係の構築を促進すること。
(4) 経済的困窮以外のさまざまな要因(障がい、虐待、不登校、海外にルーツをもつこと、社会的養護を離れた後、若年出産など)で社会的不利を抱えている子どもが存在することにも留意し、すべての子どもの貧困問題を解決し、それぞれの最善の利益が実現されるよう必要に応ずる対策を講ずること。
4 格差・貧困とその解決に関する認識の普及
(1) 学校教育、社会教育、子どもの関わる専門職員の養成・研修、国・地方公共団体の広報や啓発を通じて、すべての人々が、
①子どもの権利を尊重し、
②経済的格差や貧困が生まれる社会的メカニズムとその解決に関する認識を獲得できるようにし、
③子どもの貧困解決が社会の持続的発展の不可分の課題であることを認識し、子どもの貧困解決を社会的課題として共有できるようにすること。
5 国及び地方公共団体の責任の明確化
(1) 国は、子どもの貧困問題解決のために必要な財政措置を継続的に講ずるとともに、地方公共団体が実施する子どもの貧困対策事業に対する財政援助を強めること。
(2) 都道府県は、地域の実状と現に貧困状態にある子どもとその保護者及び支援者を始めとする地域住民の意向を尊重して、子どもの貧困対策推進計画の策定および定期的な見直しをする義務を有すること。
(3) 基礎自治体(市区町村)は、子どもの貧困対策推進計画の策定・実施にあたって、現に貧困状態にある子どもとその保護者及び支援者を始めとする地域住民の意向を尊重し、また関係する部署が密接に連携して、貧困状態にある子どもとその保護者の必要に応ずる利用しやすい施策を実施すること。
C 政策目標の設定・検証、調査・研究と推進体制
1 子どもの貧困解決の目標の明示と検証
(1) 国は、子どもの貧困問題解決の目標を明示し、都道府県及び基礎自治体と協力してその達成に努めなければならないこと。その際、その進展状況を客観的に検証できるようにするため、少なくとも子どもの貧困率と貧困ギャップの削減目標とその達成年度を法定し、その進展状況を公表すること。とくに、ひとり親の貧困率については、先進国の中で最も高い水準にあることから先進国の平均値並みとする目標を掲げること。
2 子どもの貧困に関する実態把握・調査の実施
(1) 子どもの貧困の実態・実相は多様であり、十分に明らかにされているとは言いがたい。研究的知見を生かしつつ、多様な指標・方法で実態把握に努めること。
(2) 調査や指標の開発にあたっては、実態把握に留まらず、経済的格差や貧困が生まれる社会的メカニズムを明らかにする視点を大切にすること。
(3) その際、国連子どもの権利委員会総括所見及びユニセフ報告等を踏まえ、子どもの権利保障の実態が把握できるデータの収集と活用を促進すること。
3 政策・計画策定にあたっては、子どもの権利と意見表明権尊重の立場から、子ども・家族・援助職の声に耳を傾けること。
(1) 子どもや家族、援助職等が参加する会議やシステムの構築。
(2) 日常的に子どもに関わる実践現場からの声を聞くこと。
4 子どもに関わる援助職・専門職の安定的な雇用と労働条件の改善を確保すること。
5 子どもの貧困対策法・大綱の5年ごとの見直しを継続すること。
―――――――――――― なお、私たちは、子どもの貧困対策についてさらに具体的な提言を行う準備を進めています。子どもの貧困対策法及び子供の貧困対策大綱の見直しにあたっては、私たちの要望に耳を傾け、その実現にご尽力いただきますようお願いいたします。(以上)
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