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“とにかく楽しい3年間”がモットー 校則全廃の公立中 いじめ激減、学ぶ力向上

“とにかく楽しい3年間”をモットーに、生徒自身の意思が尊重され、授業開始のチャイムもなければ、服装も、授業に出るかどうかさえ自由と校則なし。その結果、いじめ、暴力の激減、そして学ぶ楽しさを実感できる授業改善で、学ぶ力もアップ。区立桜丘中学校の実践。公立学校でも、ここまでできるのだ、というのが強烈な印象(区長の姿勢も大きいと思うが…)

競争と管理による教育産業への利益提供と単一の価値観の埋め込みを第一とする政府の教育政策とは対極にある。

【かつては荒れていた区立桜丘中学校でいじめが激減 西郷孝彦校長が様々な施策を明かす】

【校則全廃の公立中、名門高校に続々進学 校長の思い】

【校則全廃の公立中、LGBTの生徒にも配慮 制服や修学旅行でも】

【校則ゼロ公立中、生徒と先生の信頼関係作る「指名制度」】

 

 

 

【かつては荒れていた区立桜丘中学校でいじめが激減 西郷孝彦校長が様々な施策を明かす】

20190306 1840NEWSポストセブン

 

 私立中学校への進学率が高い東京・世田谷区に、「越境してでも行きたい」と人気の公立中がある。区立桜丘中学校だ。かつては歴代の校長が「一日でも早く異動したい」と嘆息するほど荒れた学校だったが、2010年に現在の西郷孝彦校長(64才)が就任し、以後足かけ9年を費やし、自由にして多様な学校をつくり上げた。

 

 納得のいかない校則の一つひとつを検証し、ついには全廃してしまったが、そんな西郷校長が何をおいても優先して守るよりどころがある。

 

「それは“生徒が3年間楽しく過ごせる学校にする”という目標です。校則がないのも、実はその目標が先にあり、“校則があると楽しくないよね。だったらなくしちゃえ”となったわけです。

 

 授業にいろいろな工夫をしているのも、“勉強ができないと、学校が楽しくないし、高校受験も大変だよね。だったら学力のつく授業を採り入れよう”と逆算して考えていった結果です。桜丘中学の取り組みは、学校が楽しくない条件を改善することで、出来上がっていったんです」(西郷校長)

「服装自由」「スマホ・タブレットの使用可」「授業に参加せず、職員室前の廊下に設置された席で自習をしてもOK」「100円でご飯も食べられる『夜の勉強会』の開催」「生徒が好きな先生を指名して語り合える『ゆうゆうタイム』の導入」「理科の授業に3Dプリンター導入」など、様々な施策を行ってきた。

 

 そうして、桜丘中学校はいじめが激減、校内暴力も消え、有名校進学数も平均学力も区のトップレベルとなった。

 

◆あえて波風を立てる

 

 あらゆる学校にとって大きな課題であるいじめの問題。219日には、2011年に起きた大津中2いじめ事件で自殺した中2男子の同級生2人に、約3700万円の賠償を命じる地裁判決が出た。

“とにかく楽しい3年間”がモットーの桜丘中にも「いじめは当然ある」と西郷校長は言う。

「小学校で大きなストレスを抱えてきた子ほど、鬱積された自分のイライラを人にぶつけて発散しようとする。

 

 実際、区内のほとんどの小学校では、学級が崩壊する傾向があるといわれています。そうした小学生時代の思考を引きずったまま入学してくるので、中学生になってもいじめを起こしやすい。最も大変なのは、中1です」

 

 しかし、生徒自身の意思が尊重され、授業開始のチャイムも鳴らなければ、服装も、授業に出るかどうかさえ自由という桜丘中で過ごすうちに、生徒は徐々にストレスから解放され、自分とは違う多様な他者を受け入れられるようになっていく。すると、決まって中2の夏を迎えるころまでには、いじめが激減する。

 

 もちろん、多感な時期の人間関係のこじれは、ケースバイケース。解決が難しい場合も少なくないが、西郷校長が心がけるのは、「あえて波風を立てる」ことだという。

「人間関係が一度悪くなると修復するすべを知らない生徒がいます。そこで関係を絶ってしまい孤立しがちです。だからあえて簡単な人間関係の波風を立て人間関係を修復する練習をさせるのです。大人が思っている以上に、子どもには“よりよく生きよう”との意識がある。その意識を引き出すことが必要なんです」

 

 西郷校長は今、ある生徒とあえて話をしない。

「相手は関係の修復を望んでいても、“仲直りしたい”と自分からは言えないタイプ。ぼくの方から声は掛けませんが、用事もないのに彼女の横を通りすぎて、“気にしているよ”というメッセージを送ります。すると、休み時間、廊下のいちばん奥の机に座っていたのが、1つ、また1つと校長室に近い机に座ります。言葉にはならない彼女の仲直りしたいという行動です。どうです、微笑ましいでしょう?」

 

 

【校則全廃の公立中、名門高校に続々進学 校長の思い】

 

「チャイムも鳴らなければ、服装は自由で校則もありません」(3年生・女子生徒)

「英語で巻き寿司の作り方を教わったのは初めて。なんとかうまく作れました」(2年生・女子生徒)

「理科の実験で、3Dプリンターで心臓を作った。そうしたら、人間くらい大きな体を動かすには、2心房必要だってわかった。すごくないですか!?」(2年生・男子生徒)

「ハロウィンは先生も生徒も仮装して来るし、バレンタインチョコだって持ってきて叱られるなんてことはありません」(2年生・女子生徒)

「前の学校では、登下校中にしゃべっちゃいけなかったんです。とっても息苦しかったけれど、ここは自由。生き返った心地です」(1年生・男子生徒)

 

──まるで大学か、はたまた最先端をゆく私立高校の話かと思いきや、ここは中学校。しかも東京都世田谷区の区立桜丘中学校、つまり公立中だ。

「中学受験する子どもの多い世田谷区は、“当然私立の方が優秀だ”という風潮が強いので、“そんなことはないぞ”という気持ちでやってきました。私立に対して競争心があるんですよ」

 

 普通なら格好つけて取材では話さないようなことを、ニコニコと語るのは、同校の西郷孝彦校長(64才)。

 校長室の扉はいつも開けっ放しで、次から次へと生徒が顔を見せる。「スマホを充電させて」とやってくる生徒もいる。なんだかんだと理由をつけながら、その場で相談事をしたり、愚痴を聞いてもらったりしているようだ。

 

 歴代の校長が「一日でも早く異動したい」と嘆息するほど荒れた同校で、2010年に校長に就任すると、足かけ9年を費やして、自由にして多様な学校をつくり上げた。

「着任した当初は、朝礼の時も、“並べ!”“黙れ!”“遅れるな!”と、先生が声を張り上げる始末。力で押さえつける指導が目立ちました」(西郷校長・以下同)

 

 しかし現在は「どうしてもこの学校で、わが子を学ばせたい」と、わざわざ学区外から越境したり、転居までして入学する生徒も少なくない。

冒頭のような英語教育やプログラミング教育など、あまり公立中学では体験できそうにない本格的な内容の授業を組み込み、名門・日比谷高校や早慶など、進学実績も都内随一を誇る。

 

 しかし西郷校長が目指したのは、決してエリート校をつくることなどではない。

「私自身が、もともと窮屈な規則が苦手なんです」

 

 納得のいかない校則の一つひとつを検証し、ついには全廃してしまったが、そんな西郷校長が何をおいても優先して守るよりどころがある。

「それは“生徒が3年間楽しく過ごせる学校にする”という目標です。

 

 校則がないのも、実はその目標が先にあり、“校則があると楽しくないよね。だったらなくしちゃえ”となったわけです。授業にいろいろな工夫をしているのも、“勉強ができないと、学校が楽しくないし、高校受験も大変だよね。だったら学力のつく授業を採り入れよう”と逆算して考えていった結果です。桜丘中学の取り組みは、学校が楽しくない条件を改善することで、出来上がっていったんです」

 

 だからこそ、同校では「授業中に教室の外にいてもいい」や「タブレットやスマホは解禁」「私服でも制服でもいい」となっており、「すべてを英語だけで他の教科の勉強をしたり作業をする“CLIL”(Content and Language Integrated Learning=内容言語統合型学習)」「夕食(100円)がつく『夜の勉強会』」などの取り組みを行っている。

 

【校則全廃の公立中、LGBTの生徒にも配慮 制服や修学旅行でも】

 

東京都世田谷区の区立桜丘中学校。この公立中学校が既存の学校の価値観を転換し、注目を集めている。学校での校則をやめ、生徒の自由としたのだ。授業においても、3Dプリンタの導入、スマホ・タブレットの使用可、果てには「授業中教室の中にいなくてもいい」なども導入した。生徒の関心から学びにつなげていく工夫が随所に光る。

 

 その結果、いじめが激減。校内暴力も消え、有名校進学数も平均学力も区のトップレベルとなった。今では、私立中進学率の高い世田谷で「越境してでも行きたい」と人気の公立中学校となっている。

 

 オレンジ色のパーカ、ピンクのジャージー…。桜丘中の校内ですれ違う生徒たちの服装は色とりどり。制服の上から大きめのセーターを羽織る“おしゃれ上級者”もいる。同校の西郷孝彦校長(64才)はこう言う。

「ここでは私服でも制服でもOK。『私立は制服がかわいいけど、公立は地味』という固定観念を覆そうと、知り合いのデザイナーに依頼して、5年前に制服を一新しました。コンセプトは“原宿でスカウトされる制服”。実際に青山界隈を男女4人の生徒に歩いてもらったんですが、本当に声を掛けられたそうです」

 

 また、校長らしからぬ話を、楽しそうに教えてくれた。それにしてもこの制服、女子のスカート丈は膝上10cmという短さ。これにも意味がある。

「もし、“もっとスカートを短くしなさい”と言ったら、それはセクハラ。ならば逆に、“もっとスカートを長くしなさい”と言うのだって、本来はセクハラなんです。子どもたちにはこんなふうに、みんなが当たり前だと思っている価値観をひっくり返して考えることを知ってもらいたい」(西郷校長、「」内以下同)

 

 もちろん、制服が嫌だったら着なくてもいい。“私服OK”の裏には、LGBT(性的少数者)の生徒への配慮もある。

「先日、都内の一部の区の中学校で、『男女問わずスカートとズボンから制服を選択できるようになった』というニュースがあり、画期的などという論調もありましたが、でもそれは違います。スカートかズボンのどちらかを選んだ時点で、カミングアウトしたのも同然。もしかしたら、いじめや差別の対象になるかもしれない。だからここでは、制服はスカートとズボンのどちらでも構わないし、制服を着ないという選択肢だってあります」

 

 日本におけるLGBTの割合は13人に1人といわれている。30人のクラスであれば、2人が該当する計算になる。

「修学旅行では、LGBTの生徒はみんなと一緒に大浴場に入ることはもちろん、それを言い出すのも難しい。ですから、すべての部屋の内風呂を断りなく使えるようにしたいと、女将に相談したんです。ところが、向こうはダメの一点張り。

 

 ついには女将とけんかになっちゃって、今年はこの旅館をキャンセルしました。社会では、まだ理解が追いついていないことを痛感した出来事でした。だからこそ、クラスに数人いるかもしれないLGBTの生徒が、どうしたら学校生活を楽しめるのか、これからも考えていきたいと思っています」

 

 

【校則ゼロ公立中、生徒と先生の信頼関係作る「指名制度」】

 

私立中進学率の高い東京都世田谷区で、「越境してでも行きたい」と人気となっている公立中学校がある。世田谷区立桜丘中学校だ。校則は全廃され、理科の授業での3Dプリンター導入や、スマホ・タブレット使用可能など革新的な授業にも取り組んでいる同校では、いじめが激減。校内暴力も消え、有名校進学数も平均学力も区のトップレベルだという。

 

 2月に入ってからだけでも、山形県内の高校の空手部に群馬県内の高校の剣道部と相次いで体罰が問題になった。校内暴力の風が吹き荒れる1980年代から40年近く経とうとする現在でも、力で生徒を押さえ込もうとする教師は存在する。

 

 一方でモンスターペアレントに教師が畏縮したり、東京・町田市内の高校で生徒が挑発し、教師が暴力を振るう動画が拡散されて大きな議論を巻き起こすなど、先生と生徒の関係は複雑化している。

「お互いを信用できないような関係は、不幸でしかない」

 

 そう言い切る桜丘中学校の西郷孝彦校長(64才)にとって、先生と生徒はあくまで“対等”だ。

「上から目線で指導する教師がいますが、教師と生徒も本来、“人間として対等”の立場であるはずです。

 

 偉い人間が劣った人間を管理するのではなく、ともに教え、教えられるという関係にあると思っています」(西郷校長・以下同)

 

 桜丘中学校では年に2回、生徒が好きな先生を指名して語り合える「ゆうゆうタイム」という取り組みがある。話す内容は、進学や家庭の相談だけでなく、思春期ならではの恋バナが飛び出すこともある。秘密は厳守されるため、身構えることなく、先生に本音の相談をすることができる。

「ゆうゆうタイム」は先生の成長のきっかけにもなる。人気のある先生に生徒が列をなす一方で、生徒からまったく声がかからない先生も。

「するとその先生は、なぜ自分のところに生徒が話しに来ないのかを、考えるようになるわけです。自分の何がいけなかったのか、これから生徒に対してどう接していけばいいのかを、自問するようになります」

 

 だが、それが生徒に好かれようとしてご機嫌取りになったとしたら、どうだろう。

「うわべだけ取り繕っても、“あの先生は調子いいだけで、責任感がない”と生徒はちゃんと見抜きます」

 

 先生と生徒の間に信頼関係が生まれると、荒れていた生徒にも変化が訪れる。

 入学して、毎日のように物に当たり壊したり、教師に悪態をつく生徒がいた。いわゆる問題児だが、彼はスポーツが得意で、2年生になって、駅伝大会に出場することになった。この時、西郷校長以下、副校長、学年の先生が全員で会場までその生徒の応援に出かけた。

「まさかわれわれが総出で、自分を応援に来るとは思わなかったのでしょう。彼は発奮し、前を走る選手を5人もゴボウ抜きにしましたよ」

 

 この日をきっかけに、この生徒は大きく変わっていった。次第にクラスにとけ込み、ついには学級委員長を務める。

「今でも、『女性の先生に向かって“クソババア!”と言っていたのは誰だっけ?』と言うと、きまり悪そうに照れ笑いをします。

 教師が生徒に本気で愛情をもって、ひとりの人間として対等に接すれば、子どもにはちゃんと伝わるのだと思います」

 

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