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変容する世界のエネルギー地政図~再エネの急速な普及。原発依存の日本は大丈夫か?

 自然エネルギーの急速な発展は、場所と輸送ルートに縛られていた従来型のエネルギーをめぐる国際的な権力を構造的に変えつつある。多くの国が高い目標をかかげ、技術革新・イノベーションに力を傾注している(ここでも中国の存在は極めて大きい)。

そうしたもとで、新しい国際協力、民主的な管理をどう構築していくか、が問われる時代に突入している。

原発依存に固執する日本は、取り残されるのではないか・・・いくつかのレポート、記事より。

 【変容する世界のエネルギー地政図――IRENA Geopolitics 解説記事 古屋将太 / 環境エネルギー社会論  シノドス2019.04.08

【<原発のない国へ>再エネ加速、日独けん引を 独経済・エネ相が寄稿 東京5/30

【米国のエネルギー転換は止まらない:グリーン・ニューディールの経済効果 ニューヨーク・タイムズ紙 オピニオン5/10 日本語訳 】

【変容する世界のエネルギー地政図――IRENA Geopolitics 解説記事 古屋将太 / 環境エネルギー社会論 シノドス2019.04.08

 自然エネルギーの急速な普及拡大と従来型エネルギー資源の利用減少という流れのなかで、世界のエネルギー秩序はどのように変容していくのか。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)がまとめたレポートから、変容する世界のエネルギー地政図を見ていきましょう。

 IRENAは、20191月に開催された第9回総会でレポート「新しい世界:エネルギー転換の地政学(A New World: The Geopolitics of the Energy Transformation)」を発表しました。

 このレポートは、IRENA事務局長のアドナン・アミン氏の呼びかけのもと、エネルギー政治・経済・貿易・環境と開発にかかわる世界のリーダーたちが集まり、1年にわたって議論を積み重ねた成果をまとめたものです。「エネルギー転換の地政学に関する世界委員会(Global Commission on The Geopolitics of Energy Transformation)」と呼ばれるこの委員会は、アイスランド元大統領オラルフ・ラグナル・グリムソン氏が議長を務め、エネルギー転換が国際政治に与える影響や新しいエネルギー経済の方向性などを分析し、今後の行動指針をまとめることをミッションに招集されました。

レポートでは、化石燃料を中心に形成されたこれまでのエネルギー地政図が、自然エネルギーの急速な普及拡大によってどのように変容しつつあるのか、また、その変容が世界の国や地域のリーダーたちにどのような対応を迫ることになるのかが述べられています。

本稿では、このレポートの主要な論点を手がかりに、変容する世界のエネルギー地政図を見ていきます。

 ◆なぜ自然エネルギーが地政を変えるのか

 レポートでは、そもそもなぜ自然エネルギーが地政を変えるのかについて、4つの観点から述べられています。

 第一に、エネルギーをめぐる国際的な権力は、これまで化石燃料資源の集中する場所とその輸送ルートに生じていましたが、自然エネルギーが増え、化石燃料の利用が減ることで、そういった場所やルートの重要性は当然弱まります(図13)。

 略)図1 世界の難所を通じて海上輸送される原油の量(1日当たり)|出典:IRENA2019A New World: The Geopolitics of the Energy Transition

 略) 図2 世界の太陽光のポテンシャル|出典:IRENA2019A New World: The Geopolitics of the Energy Transition

 略)図3 世界の風力のポテンシャル|出典:IRENA2019A New World: The Geopolitics of the Energy Transition

 第二に、化石燃料資源がストック型であったのに対して、自然エネルギー資源はフロー型であることから、そもそも資源利用の形態が根本的に変わることが指摘されています。

 第三に、自然エネルギーはさまざまな規模で導入することが可能であり、分散型の生産と消費がエネルギーの民主化を推し進める力学をもっています。

 第四に、自然エネルギーの限界費用がゼロであることが、エネルギーシステムの変化を推し進める強力な要因となっていると同時に、政策によってその安定性や収益性を高めるよう、国や地域に要請する圧力が発生します。

 このように、自然エネルギーは従来型のエネルギーをめぐる国際的な権力を構造的に変えつつあることが理解できます。

 

  ◆引き直される地政図

 自然エネルギーが主流化する時代に入り、国同士の関係や位置づけは再構成されていきます。国際関係における競争力の源泉のひとつは経済ですが、自然エネルギーに関しては技術の面で世界的なリーダーになることが大きな意味をもつようになります。このような競争力の変化が規定する国際関係は非常に複雑であるものの、レポートでは変化の速度を読み解く上では「イノベーション」がカギとなることが指摘されています(図4)。

 略)図4 自然エネルギー特許の累積数(X軸)と化石燃料への依存度(Y軸)における各国の位置づけ

 

◆自然エネルギーリーダーの台頭

 レポートでは、今後、世界で影響力をもつようになる自然エネルギーリーダー国家を3つのタイプで述べています。

 第一に、自国や自らの地域の自然エネルギー資源を利用してエネルギーを自給するに留まらず、自然エネルギー電力や燃料を輸出する国が世界的な影響力をもつようになる可能性があります。

 実際に、ブラジルはすでに周辺国に水力による電力を輸出する主要な国となっています。また、ノルウェーは周辺のスカンジナビア諸国とオランダに電力を輸出しており、今後、ドイツや英国への系統を新設しています。さらに、ラオスやブータンも水力による電力を周辺国に輸出しており、ブータンからインドへの輸出は、政府の歳入の27%以上であり、これは国のGDP14%に相当します。

 第二に、鉱物資源を豊富にもつ国は、自然エネルギー設備の製造に必要なサプライチェーンを担うことで、経済的機会を得るようになる可能性があります。レポートでは、ボリビア、モンゴル、コンゴ民主共和国などに、そうした可能性があると述べられています。

 第三に、技術イノベーションをリードする国は、世界的なエネルギー転換の恩恵をもっとも享受すると見られています。これについて、いまや自然エネルギー技術のイノベーションにおける超大国となった中国に敵う国はいません。中国は太陽光パネル、風力発電、電気自動車などを世界でもっとも製造し、輸出し、導入しており、世界のエネルギー転換の最前線となっています。風力発電の部品、結晶シリコン太陽光発電モジュール、LEDパッケージ、リチウムイオン電池の製造付加価値を示す図5は、中国の圧倒的な競争力を表しています。

Enetoshi

5 自然エネルギー設備製造による付加価値(2014年、US十億ドル)

 中国による研究開発および投資は、これまで自動車やエネルギー機械の分野を独占していた米国や欧州の企業を追い越し、貿易における比較優位性をもたらし、国の経済成長に貢献すると見られています(図6)。また、自然エネルギーを増やすことで、燃料輸入を減らすことができるため、中国の経済成長のボトルネックとして指摘されるエネルギーリスクを避けることもできます。

 )6 2016年末時点における自然エネルギー特許の累積割合

 一方で、自然エネルギー技術の競争は、モバイルテクノロジーの分野で先行して起こっている(HuaweiSamsungAppleなど)ように、結果として独占を招くことが予見されています。そうした技術独占が生じることで、健全な競争が妨げられ、市場が歪められ、イノベーションが抑圧されてしまうリスクがあります。そのようなリスクを避けるため、公平でルールに基づいた国際的な貿易システムを構築し、その中で競争力のあるバリューチェーンが生まれるような措置が必要となることが指摘されています。

 ◆新しいアクターの参入 – 市民、都市、企業

 自然エネルギーは分散型であることから、エネルギーシステムの民主化を推し進め、政治経済の力学を再構成する可能性があります。

 すでに多くの国や地域で見られているように、分散型の自然エネルギーは、家庭や地域に自律性をもたらします。これまで単なる消費者だった市民は、エネルギー生産も同時におこなうプロシューマーとなり、それらが増えていくにつれ、新たな市場設計や貯蔵、IoTなどのイノベーションを求める圧力が生じます。その普及速度の例として、系統につながったスマートデバイスの数は、2017年の260億件から2025年には750億件へと増加すると予測されています。

 こうした「プロシューマー」の世界では、エネルギー資産は中央集中型の電力会社や国に独占所有されるものではなくなります。金融の面でも同様に、メリットの分配は分散化されていきます。また、消費者が自らのエネルギー源を選択し、経済的便益を共有することで、自然エネルギーに対する社会的受容性も高まると見られています。顕著な例として、ドイツでは2016年に導入された自然エネルギー設備の31.5%が市民によって所有されており、もっとも大きな投資家の「ブロック」が形成されています。

 分散型の自然エネルギーが、地域コミュニティの災害に対するレジリエンスを高めることも指摘されています。具体的な例として、日本の東松島市が東日本大震災の後、マイクログリッドと分散型自然エネルギーでエネルギーインフラを再建した事例があげられている他、米国ではハリケーン・サンディの影響を受けた後、マイクログリッドが広まっていったことが述べられています。

 また、エネルギー転換において、都市が中心的な役割を担う傾向が強まっています。都市は世界で生み出されるエネルギーの2/3を消費し、炭素排出の70%を占めているため、取り組みを進める意義が大いにあります。また、都市は消費・排出源であると同時に、沿岸地域では水位上昇や洪水、中心部ではヒートアイランドなど、気候変動の影響を受けるリスクも孕んでいます。

 一方で、大都市の中には中小規模の国よりも大きな経済力をもつため、独自の権限のもとで積極的な取り組みを展開し、国際的な舞台で政治経済的な影響力を行使するプレイヤーとなる可能性もあると見られています。

 要約すると、自然エネルギーへの転換は権力の分散化と密接に関連しているということです。近代国民国家は、化石燃料経済と並行して進化してきました。そして、その化石燃料の時代が衰退し、分散型でますます電化が進む世界が到来するなかで、国民国家が果たす役割には奥深い意味が隠されているといえます。

  ◆エネルギー外交の再編

 エネルギー転換が進むプロセスでは、OPECに象徴されるような産油国のもつ影響力は構造的に変化していきます。それは、世界の国や地域にエネルギー外交の再考を迫ることにつながります。

レポートでは、エネルギー外交の再編に関する例がいくつかあげられています。日本は、もはや化石燃料の輸入確保に専心する外交戦略をとることはできず、自然エネルギーを含めた方向へと舵をきることが述べられています。

 ドイツは、IRENAの創設を主導し、多数の国と自然エネルギーを柱とするエネルギーパートナーシップを構築することで世界に影響力をもちはじめています。

  UAEは、産油国でありながらアブダビにIRENA本部をホストし、アブダビ開発ファンドを通じて途上国の自然エネルギー事業に資金提供・投資することで、自然エネルギーのリーダーシップを手に入れています。

 インドは、パリ気候変動会議を機に発足した 「国際ソーラー同盟(International Solar Alliance, ISA)」を通じて途上国との政治経済的なつながりを強化する「太陽外交(solar diplomacy)」を展開しつつあります。モディ首相はISAの総会で「ISAは将来のOPECの役割を担うだろう」と述べるなど、新たなエネルギー外交の動きが進みつつあります。

 ◆新しい貿易地理

 自然エネルギーが増え、化石燃料の重要性が相対的に低下するのにあわせて、貿易の地政も変化します。特に、ホルムズ海峡やマラッカ海峡のような難所をおさえることで行使できる影響力は顕著に低下していくと考えられます。

 その一方で、系統や貯蔵設備といった物理的インフラは重要性が高まることが見込まれます。さらに、物理的インフラに留まらず、デジタル化を通じた情報面での相互乗り入れなど、各国同士のコネクティビティとネットワークが、領土・海域・空域の安全保障を補完する可能性があります。

 具体的には、中国の「一帯一路」や「グローバル・エネルギー・インターコネクション」といった構想は、20世紀に米国を中心として構築された海路のヘゲモニーと同等の重要性をもつ可能性があります。ただし、これについては、中国の影響力の増大やその経済性、環境影響に対する懸念も見られます。

 その他にも、「自由で開かれたインド太平洋戦略(Free and Open Indo-Pacific Strategy)」のもとで米国・日本・インドのインフラとコネクティビティを高度化しようと試みるプロジェクトや、ASEANによる戦略「Connectivity 2025」、EUによる「欧州とアジアを連結するための戦略(Strategy on Connecting Europe and Asia)」など、各地で独自に連携を模索する動きが多数あり、インフラやネットワークの連携は、貿易地理めぐる新たな戦場になりつつあります。

 このようなインフラやネットワークの連携は、新たな相互関係のなかで国や市民に連帯をもたらす地政的な接着剤となる可能性もあります。ネットワーク化されたコミュニティの創出と継続には高いレベルで信頼と自信が必要とされる一方で、いったん物理的および人的な相互連携が創られると、それが協力と共存を媒介するようになり、安定性と繁栄につながる可能性があります。

 ◆新しいエネルギー地政図と日本

 ここまでIRENAのレポートを手がかりに、変容する世界のエネルギー地政図を概観してきました。このレポートが指摘する論点は、数年前から関係者の間で直感的に理解されていましたが、今回、IRENAのレポートというかたちで発表されたことで、方向性がより明確になったといえます。そして、このレポートで示されている論点は、現在、日本が世界の中でどのような位置にいて、どのような役割を果たす可能性があるのかを考える良い材料を提供しています。

 では、変容する世界のエネルギー地政図のなかで、日本は今後どのような方向性に進む可能性があるのでしょうか。

 ひとつの大きなリスクは、政治経済のリーダー層が、このレポートで示された変化の流れや速度を見誤り、分散型の自然エネルギーがもたらす競争の機会を見逃し、世界のなかで日本が立ち位置を失ってしまうことです。

 近代化以降、日本の政治経済とエネルギーシステムは中央集中型で確立されてきたことから、長年、分散型の自然エネルギーを推進する動きは周辺に追いやられてきました。しかし、2011年の東日本大震災と福島原発事故を受け、ようやく自然エネルギーと支援政策の必要性が認識され、2012年に固定価格買取制度が導入されました。

 その後、太陽光発電の普及は大幅に加速したものの、依然として従来の中央集中型の思考とガバナンスがエネルギーシステムを規定しているため、分散型の自然エネルギーのポテンシャルを最大限活かすような方向へと転換できているとは言い難い状況にあります。

 日本が分散型への転換に向けた一進一退に時間をかけている間に、中国をはじめとする世界の国々は急速に自然エネルギーを増やし、技術の覇権を競い、新たな影響力を獲得する動きを推し進めています。そして、その変化のスピードは年々速まっているため、気付いたときには日本は見る影もない、という状況に陥ってしまうことが予見されます。世界の急速な変化を認識することは難しく、また、変化は人々の認識を追い越して次々と先へ進んでいくため、政治経済のリーダー層は特に積極的に認識をアップデートすることが必要です。

 一方で、日本は東アジアで自然エネルギーを通じた信頼の構築と相互連携をリードする役割を担える可能性もあります。国レベルでは歴史問題や領土問題をめぐって緊張関係があるものの、3.11後に国内各地で立ち上がった地域主導型の自然エネルギーの取り組みには、韓国や台湾などから視察も多く、日本が知見を共有できる重要な分野となりつつあります。

 このような草の根レベルの人的ネットワークのもとで交流を重ね、相互の信頼を醸成することで、将来的には自然エネルギーを通じた北朝鮮へのエネルギー支援や、東アジアの平和のためのエネルギー対話をはじめることも不可能ではないと考えられます。

 

【<原発のない国へ>再エネ加速、日独けん引を 独経済・エネ相が寄稿 東京5/30

  脱原発と脱石炭を進めるドイツのアルトマイヤー経済・エネルギー相(60)が本紙に寄稿した。日本が初めて議長を務め、六月十五~十六日に長野県軽井沢町で開かれる二十カ国・地域(G20)エネルギー・環境相会合は「世界のエネルギー転換を加速する契機になる」と期待。日独が共同で再生可能エネルギーの技術開発をすれば、地球温暖化対策の「世界的なけん引役としてのメリットを長期にわたって享受できる」と強調し、日本に連携を呼び掛けた。 (伊藤弘喜)

 寄稿文のタイトルは「エネルギーシフト(転換)の世界的推進のために」。

 ドイツは国内の原発を二〇二二年までに全廃する方針。アルトマイヤー氏は石炭火力発電も「利用を近い将来やめる」と宣言した。一方で、既に発電量の40%(日本は17%)に達している再エネについて「今や最も重要な電源となっている」と指摘し、「この比率を一層高める」と強調した。エネルギー転換と国際競争力維持の両立をはかり、経済成長を目指す方針も明確にした。

 日本には「日本とドイツが一貫してこの(エネルギー転換の)道を進んでいくことが重要」と呼び掛け。その上で「知見を共有し、二国間協力プロジェクトを実施することで互いの強みを相互に生かしていくことが可能になる」とラブコールを送った。具体例として、日本は再エネ普及の拡大の経験をドイツと共有し、ドイツは日本から水素やエネルギー貯蔵などの知見を学ぶことを挙げた。

 アルトマイヤー氏は再エネの拡大には「電力網の拡充の推進」が急務とも強調。ドイツでは風力発電所の大部分が北部に集中する一方、電力の需要は工業地帯の南部で多く、両地域を結ぶ送電網の整備が「焦眉の急」であると指摘した。さらに今後は電気自動車の拡大などで送電網不足が生じる可能性があるとし、「二一年までに数百キロに及ぶ新規送電網建設に着手する」との方針も示した。

 天候によって発電量が増減する再エネが拡大すれば電力供給量の変動も大きくなる。このため変動を調整する蓄電池やスマートグリッド(次世代送電網)の重要性が「一層高まっていく」と予想した。

◆原発依存の日本へ重い問い

 <解説> 日本でのG20を前にドイツが日本国民に「ともに再生可能エネルギーのけん引役に」との強いメッセージを送った。技術力をテコに、自動車などモノづくりで生きてきた日本とドイツ。だが再エネでは日本は大きく後れをとる。責任あるエネルギー政策へと、かじを切る決断ができるのかが問われている。

 ドイツは発電量に占める原発の割合を二〇一八年現在の13・3%から二二年末までにゼロにする。石炭火力も政府の諮問委員会が三八年末までに全廃すべきだと答申。脱石炭に向け、炭鉱閉鎖など痛みを伴う政策にも取り組む。一方、再エネは40・4%(昨年)まで伸び、政府は三〇年までに65%に引き上げる方針だ。経済・エネルギー相が強調したように、ドイツはエネルギー転換を経済成長と両立させており、風力発電の技術は今や有望産業だ。

 これに対し日本政府は「温暖化対策には原発が不可欠」とし、石炭も使い続ける。米国などで開発中の小型原発の活用も視野に入れ、原発や石炭の復活を図る米トランプ政権と歩調を合わせる。だが原発は数万年もの保管が必要な「核のごみ」を排出し、将来世代にツケを残す。持続可能なエネルギーとはいい難い。

 それでも原発に依存し、使い続けるのか-。ドイツの呼びかけは国としてのあり方までも含めた重い「問い」を日本に突きつけている。 (伊藤弘喜)

 <ペーター・アルトマイヤー経済・エネルギー相> 1958年6月、ドイツ南西部のエンスドルフ町生まれ。76年にドイツキリスト教民主同盟に入党。国際法の研究員、EU官僚などを経て政界入り。メルケル政権で環境相、首相府長官を歴任し2018年3月から現職。

 <G20> 世界経済やテロ対策などを議論する国際会議で、20カ国・地域で構成する。当初、経済だけを議論する枠組みだったが、2008年の米国での首脳会合を機に議題が拡大した。日米やロシア、中国など19カ国と欧州連合(EU)が参加。19年は日本が初めて議長国を務める。大阪市での首脳会合に合わせ、農業、エネルギー、貿易など8つの関係閣僚会合も開催される。

 

 

【米国のエネルギー転換は止まらない:グリーン・ニューディールの経済効果

ニューヨーク・タイムズ紙 オピニオン5/10 日本語訳 】
A Market-Driven Green New Deal? We’d Be Unstoppable

◆エネルギー転換に真正面から取り組むには、強くて創造性に富む経済を最大限に活用することが不可欠

【筆者】
エイモリー・B・ロビンス 米国ロッキーマウンテン研究所 共同設立者・チーフサイエンティスト・名誉会長ラシャド・ナナバッティ 同研究所 プリンシパル

※この提言は2019418日に米国ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたオピニオンを自然エネルギー財団が承諾を得て翻訳したものである。

【原文】
[OPINION] A Market-Driven Green New Deal? We’d Be Unstoppable
Any serious energy transformation will need to harness America’s powerful and creative economic engine.
The New York Times (
April 18, 2019

  米国議会で「グリーン・ニューディール」(経済成長を促す環境政策)の議論が活発だ。その中で最も良識ある意見を表明したのは、上院のエネルギー・天然資源委員会で委員長を務めるリサ・マコウスキー議員(共和党、アラスカ州選出)である。共和党と民主党の議員に向けて、議場で次のように語った。「われわれは両党の力を合わせて、温室効果ガスの削減を進めるべきである。強い経済を維持し続け、弱い立場の人たちを守り、そしてすべての人にとって大切な環境のために、気候変動という現実の問題に対処しなくてはならない。あれこれと理屈を述べるよりも、実用的で現実的な、党派を超えた解決策を求めたい」。

 その道筋はすでに描かれている。あとは指導力のある政治家が選択するだけだ。われわれロッキーマウンテン研究所が2011年に 「新しい火の創造」(Reinventing Fire)iiiで発表したエネルギーに関する研究結果がある。ビジネス主導型の転換を進めていくことで、エネルギー効率が3倍に高まり、自然エネルギーは4倍に増えて、2050年の米国経済を2010年の2.6倍に拡大させることができる。それまでには、石油・石炭・原子力のすべてが不要となり、天然ガスも3分の1削減できる。実質的にコストを5兆ドル減らすことができるし、炭素の排出に価格を付ければ、さらに効果を高められる。

 グリーン・ニューディールでも、マコウスキー上院議員言うところの現実的な党派を超えた解決策でも、どちらでも構わない。エネルギー転換に真正面から取り組むには、強くて創造性に富んだ米国経済の力を最大限に活用することが不可欠だ。利益を生み出しながら温室効果ガスを削減することは可能である。その方法が明らかになっている領域(電力、輸送、建築物)では、市場を開放することが重要になる。まだ十分に答えが見つかっていない領域(重工業、農業)では、解決策を提供するための新しい市場を創る。さらに現在の市場が抱えている問題も解消しなくてはならない。例えば炭素に価格が付いていないとか、電力会社が電気料金の低減よりも販売量の増加に力を入れるほうが報われる、といった問題に対してである。 

 ◆自然エネルギー80%でも電力を安定供給

 それぞれの課題に対して具体的な施策がある。第1に、電力システムを競争性と柔軟性を発揮できるよう、変えることだ。自然エネルギーによる将来の電力システムのほうが、現在よりも安いコストで運営できることを数多くのデータが示している。ワシントンの連邦政府が知らなかったとしても、電力の供給者は把握している。すでにインディアナ州ミシガン州、ミネソタ州、コロラド州ユタ州の電力会社は、需要家のお金を節約するために、古い石炭火力と原子力発電所を段階的に撤廃して、風力と太陽光に切り替え始めた。カリフォルニア州 とニューヨーク州では、安価になった蓄電池などを活用して、柔軟性に富んだクリーンエネルギーの供給体制を作り、天然ガスを代替する取り組みに着手している。

 自然エネルギーの比率が高くなった場合、四六時中安定して電力を供給できるのか、という懸念をよく聞くが、ほとんどが見当違いな不安である。エネルギー省が評価した結果によると、すでに現時点で導入可能な自然エネルギーをより柔軟な送配電網と組み合わせることで、2050年に80%まで比率を高めても問題なく電力を供給できる。自然エネルギーと送配電の技術は年々進化している。米国よりも信頼性の高い送配電網が整備されている欧州の4では、水力発電がほとんどない状況でも、自然エネルギーの比率は4671%に達している 

 米国内ではアイオワ州 とテキサス州が風力発電で先頭を走る。アイオワ州では35%以上の電力を風力で供給している。風車が建っている土地の農家には副収入がもたらされ、この州の住民は全米で最も安い料金で電力を使うことができる。米国全体で自然エネルギーを活用できる柔軟性の高い送配電網を構築するには、4,760億ドル(約50兆円)の投資が必要になる見込みだが、その経済効果はエネルギーの節約と信頼性の向上がもたらす便益によって、投資額をはるかに上回る2兆ドルに達する 

 ◆炭素税の収入をすべての国民に平等に還元

 2の施策は、炭素に価格を付けて税金で徴収し、その収入をすべての国民に平等に還元することである。温室効果ガスの排出を必要な規模とスピードで削減するためには、これが最もコスト効率の良い手段になる。3,500人を超える経済学者(そのうち27人はノーベル賞の受賞者)が署名した文書の中に書いてある 。炭素に価格を付けるカーボン・プライシングを国境税にも適用して、国民に還元する。そうすれば、米国は排出量を輸出することなく、労働者階級の人たちに損害を与えることもない。エネルギー効率化とクリーンエネルギーの障壁になっている市場の問題を解消すれば、価格シグナルの効果によって、もっと安いコストで温室効果ガスの排出削減に必要な対策を実行できるようになる。

 一方で産業・農業分野のように、温室効果ガス排出削減のための代替策が限られていて、しかも燃料価格に対する感度が低い領域では、別の手段が必要になる。

それが第3の施策である。世界で最も成功している研究開発機関は、米国の連邦政府だ。その力を活用して、まだ残っている技術的な課題を解決する。これまでに連邦政府の研究開発を通じて、インターネットをはじめ、GPS(人工衛星による位置情報計測システム)、シェールガスの採取に使われる水圧破砕法、数多くの重要な新薬、そして最近では蓄電池の技術革新を生み出してきた。今こそ連邦政府は民間企業と協力して、産業・農業分野の排出削減に有効な初期段階の技術開発に投資力を振り向けるべきだ。初期段階の技術に投資すると、成功例よりも失敗例のほうが多くなる。しかし大きな成功をいくつか生み出すことができれば、米国の経済、そして地球全体に計り知れない価値をもたらす。

 ◆エネルギー転換は低所得層に最大の恩恵

 最後に提言したい第4の施策は、投資判断をコストだけではなく、正味価値(ネットバリュー)に基づいて決定することである。「経済成長を促す環境政策」を批判する人たちは 、会計項目の一面しか見ていないことが多い。例えばウォールストリートジャーナルのコラムニストが書いた最近の記事では 、米国内の建築物のエネルギー効率を改善する費用として、合計で4,000億ドルかかることを指摘している。本来は改善によるエネルギーの節減額から費用を差し引いて、正味価値で判断すべきだ。その効果が14,000億ドルにのぼることに記事では触れていない。

 エネルギー転換による正味価値の多くが、労働階級の国民にもたらされる。米国全体で見ると、低所得の家庭が負担するエネルギーコストの割合は、所得の多い家庭と比べて3倍にもなっている。低所得の家庭は高価な暖房用燃料に依存せざるを得ず、古くて非効率なボイラーや機器を使い、断熱性の悪い家に住んでいる。化石燃料を使っている近くで生活して、病気にもかかりやすい。彼らがエネルギー効率を改善した建物に住み、化石燃料に依存した暮らしから解放されて、より低コストの自然エネルギーで生活できるようになれば、誰よりも大きな恩恵を受ける。

 あらゆる分野の産業競争力を考えると、こうした変化を急がずにはいられない。中国は2018年に、米国の 4倍の規模の太陽光発電設備を新たに導入した。これから何十年にもわたって産業競争力を強化できることだろう。米国の自動車メーカーが現政権による貿易戦争の影響を大きく受けているあいだに、中国では2019年に電気自動車の販売台数が前年比2倍200万台に達するとの予測がある。これは全世界の電気自動車の販売台数の半分を占める。

 ◆二度とないチャンスが目の前にある

 エネルギー効率化と自然エネルギーは、一般の人たちから圧倒的な支持を得られる。それは数多くの便益をもたらすからだ。競争力と雇用、国家の安全保障と地域の選択権、健康と環境、公平性と技術革新を期待できる。こうした成果のいずれかを好ましいと思えるならば、たとえすべての成果を望まないとしても、市場が先導するグリーン・ニューディールを支持できるはずだ。あるいは、どの成果が最も重要であるかについては賛同できるだろう。 

 これまで米国のエネルギー転換は、意欲あふれる起業家と民間企業によって進められてきた。決して政治家によって進められてきたのではない。いま、ようやく議会が非常事態に野心的に取り組むようになり、現実の危機とともに二度とないチャンスがわれわれの目の前にある。イデオロギーを超えた賢明な政策を通じて、市場の力をフルに活用すれば、エネルギー転換の動きが止まることはない。 

 

 

 

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