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ゴーン氏保釈と日本の「人質司法」

 この事件、海外での日本の「人質司法」=自白するまで拘留し続けるという、事実上の刑罰の実施への注目・関心が高まっており、日本の司法制度を改善させる契機になる可能性をもっている。
 そうした国際的な関心もあり、「異例」といわれる保釈となった。
保釈され、公的な活動が可能(制限があるとは言え)になり、「人質司法」の問題点が明らかになることは、すべての国民の利益にかかわることになる。
保釈時の変装がどうとか・・どうでもいい話。

【ゴーン氏保釈が、検察、日産、マスコミに与える“重大な影響” 郷原信郎3/7】
【解説  カルロス・ゴーン前会長と日本の「人質司法」 BBCニュース2/15】

【ゴーン氏保釈が、検察、日産、マスコミに与える“重大な影響” 郷原信郎3/7】

 3月5日、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長について、東京地方裁判所は、保釈を許可する決定をし、同日夜、検察の準抗告も棄却され、ゴーン氏は、6日に、昨年11月19日の逮捕以来、108日ぶりに身柄拘束を解かれた。

 ゴーン氏の身柄拘束がここまで長期化したのは、検察が、「罪証隠滅のおそれ」を理由に、身柄拘束を続けて、被告人の無罪主張を抑え込もうと、なりふり構わず、逮捕・勾留・勾留延長を行い、起訴後も保釈への強い反対を繰り返して「身柄拘束の長期化」を図ってきたからである。

 1月10日の最終の起訴後、2回にわたる保釈請求が却下されていたが、前提条件が特に変わったわけではない今回の3回目の請求で保釈が許可された。それは、弁護人が「特捜検察マインド」を色濃く残す元特捜部長の大鶴基成弁護士中心のチームから、弘中淳一郎・高野隆弁護士中心の「検察と戦うチーム」に変わったことの影響が極めて大きかったと考えられる。

 弁護団の一新によって、ゴーン氏にとって名実ともに「検察の支配下」から離れ、検察・日産と戦う体制が整ったことが、今回の保釈許可決定という具体的成果につながったものと言えよう。

 そして、今回のゴーン氏保釈は、今後、各方面に重大な影響を生じることになる。

◆「罪証隠滅のおそれ」についての判断の変化

 以前は、「起訴事実を否認している」というだけで「罪証隠滅のおそれがある」とされ、保釈却下の事由とされていたが、最近の裁判所は、「罪証隠滅のおそれ」を個別的な事情に応じて具体的に判断する傾向を強めつつある。

 平成26年11月17日の最高裁決定では、痴漢事件で、「被害少女への働きかけの可能性」が勾留の要件である「罪証隠滅のおそれ」にあたるかが争われたが、「被害少女に対する働きかけの現実的可能性もあるというのみで、その可能性の程度について理由を何ら示さずに勾留の必要性を認めた原決定」を「違法」として取り消し、勾留請求却下を是認する判断が示された。

 この最高裁決定もあり、一般の事件では、「罪証隠滅のおそれがない」として勾留請求が却下されたり、保釈が認められたりするケースは、以前より多くなっている。

 それでも、特捜部の事件など、裁判結果が検察組織の面子に関わるような事件では、無罪を主張する被告人の保釈が早期に認められることは殆どなかった。検察が、「保釈を認めて被告人が罪証隠滅行為を行い、検察の立証に支障が出たら裁判所のせいだ」と言わんばかりの意見書を出して保釈に強硬に反対するのを、裁判所が受け入れて、保釈請求を却下することで、身柄拘束が長期化するというのが通例だった。

 一連の検察不祥事などを契機に、検察の取調べが可視化されたことなどで、従来の特捜部の捜査手法であった「供述調書中心主義」が見直され、従来のような、脅し・すかしによって検察官の意に沿う供述調書に署名させるという従来の特捜検察の捜査手法はとれなくなった。しかし、それは逆に、検察が身柄拘束の継続によって被告人の無罪主張を封じ込めようとする「人質司法」の悪用に一層拍車をかけている。公判で無罪主張する可能性がある被告人の保釈に強硬に反対し続け、長期勾留で体調不良を訴え釈放を懇願する被告人側に、自白を内容とする書面を作成して提出することを要求し、その書面を公判で提出させて公訴事実を争わせないようにするというやり方で、無罪主張を封じ込めた事件もある(【“人質司法の蟻地獄”に引きずり込まれた起業家】)。

◆「ゴーン氏身柄拘束継続」に対する検察の姿勢

 そのような検察の「人質司法」を悪用する姿勢が極端な形で表れたのが今回のゴーン氏の事件であった。

 昨年11月、特捜部は、ゴーン氏を、帰国直後の羽田空港の航空機内で、「2015年までの5年分」の役員報酬についての有価証券報告書虚偽記載の金融商品取引法違反の容疑で逮捕し、勾留延長の上で起訴したのに引き続いて、「直近3年分の虚偽記載」で再逮捕・勾留し、勾留延長請求したが、裁判所に請求が却下され、準抗告も棄却されるや、急遽、特別背任罪で再逮捕、勾留・勾留延長した上で起訴。その後2回にわたる保釈請求に対しても強硬に反対し続け、まさに、なりふり構わず、ゴーン氏の身柄拘束の継続を図ってきた。

 しかし、裁判所の姿勢は、従来の特捜部事件への対応とは異なったものだった。上記の勾留延長請求却下に加え、ゴーン氏と同じ有価証券報告書虚偽記載で逮捕されたグレッグ・ケリー氏が、勾留延長請求却下後、全面否認のまま保釈を許可されるなど、裁判所には「検察と一線を画する姿勢」も窺えた。

 こうした中、ゴーン氏は、金商法違反に加えて特別背任でも起訴されたが、最近の裁判所の一般的傾向からすると、「罪証隠滅のおそれ」が具体的に認められるのか疑問であり、早期保釈許可も十分に考えられた(【“ゴーン氏早期保釈”の可能性が高いと考える理由】)。

 デリバティブの評価損の「付け替え」についても、サウジアラビア人への送金についても、ゴーン氏が保釈された場合に、日産関係者に対して「口裏合わせ」を依頼することは考えられない。そもそも、ゴーン氏が、日産の社内に影響力を持っていたのは、経営トップとして社内で強大な権限を持っていたからである。代表取締役会長を解職され、経営トップの座から引きずり降ろされたゴーン氏の影響力は大幅に低下しており、日産役職員の事件関係者との間で「口裏合わせ」ができる状況ではない(しかも、日産経営陣は、社員に対して、ゴーン氏・ケリー氏やその弁護人との接触を禁止している)。

 そういう意味では、今回の保釈許可決定は、「罪証隠滅のおそれ」に関する裁判所の判断として「当然の決定」と言える。

 しかし、一方で、検察が組織の面子をかけて逮捕・起訴したゴーン氏の事件で、公判前整理手続すら始まっていない現時点で保釈が許可されるというのは、検察にとっては衝撃であり、それを敢えて裁判所が決定したことは「画期的」と言える。

 今回の保釈許可決定は、「当然だが画期的な決定」と言うべきだ。

◆1、2回目の保釈請求と3回目の保釈請求の違い

 今回の保釈に関して、自宅玄関への監視カメラの設置、パソコンでのインターネット使用制限など、ゴーン氏の「罪証隠滅」が行えないようにする物理的措置が保釈条件とされたことが、保釈許可の大きな要因となったとされている。

 しかし、本当に罪証隠滅を行おうとすれば、そのような措置があっても完全に防止することは困難だ。そのような措置は、従来の特捜事件とは異なった保釈の判断をするための一つの「口実」に過ぎず、むしろ、決定的な違いは、裁判所も、事件の中身や証拠関係を踏まえて、長期の身柄拘束を避けたいと考えていたこと、そのような状況の中で、弘中・高野チームが、それまでの大鶴チームとは異なり、「人質司法」を打破してゴーン氏の保釈を獲得することに並々ならぬ情熱をもって取り組んだ成果と見るべきであろう。

 保釈決定の前日に外国特派員協会で記者会見を行った「無罪請負人」と言われる弘中弁護士に注目が集まっているが、私は、今回の保釈獲得に関しては、むしろ高野弁護士によるところが大きかったのではないかと見ている。

 今年1月18日の長文ブログ【人質司法の原因と対策】にも書かれているように、高野弁護士は、日本の「人質司法」の根本的な問題を指摘し、実際の刑事事件の中で、その打破を実践してきた弁護士だ。「罪証隠滅のおそれ」を振りかざし、無罪主張をする被告人の保釈を阻止しようとする検察と戦ってきた。今回も、保釈に強く反対する検察官の意見書を、手続調書の閲覧で把握し、そこで指摘されている「罪証隠滅のおそれ」を徹底的に否定して、保釈を認めない理由がないことを論証したことが保釈許可の大きな要因になったと考えられる。

 一方の大鶴基成弁護士は、記者会見でも、「一般的に言うと第1回公判までは保釈が認められないケースが非常に多い。」などと「人質司法」について、やや的外れな発言を行い(「人質司法」は第一回公判までだけの問題ではない)、「これは人質司法などと呼んで弁護士は強く批判している。」などと他人事のように言っていた。かつて特捜部長として、ライブドア事件・村上ファンド事件などの事件で特捜検察の中核を担ってきた大鶴弁護士は、特捜部側で無罪を主張する被告人の保釈を阻止した経験は豊富でも、全面否認事件の弁護人として検察と戦い、被告人の身柄釈放を勝ち取った経験は乏しかったのだろう。「人質司法」が典型的に表れているゴーン氏事件で、保釈を獲得する使命を果たす弁護人としてはミスキャストだったと言わざるを得ない。

◆ゴーン氏保釈による「重大な影響」

 今回のゴーン氏の保釈には、監視カメラの設置等の異例の保釈条件が付されている。しかし、保釈条件は不変のものではない。今後の公判前整理手続や公判審理の状況に応じて、不要となれば、条件が解除されることもあり得る。

 美濃加茂市長事件では、現職市長だった藤井浩人氏は、収賄容疑について現金の授受を含めて全面否認していたが、4回目の保釈請求が許可され、逮捕以来62日間の身柄拘束で保釈された(【藤井美濃加茂市長ようやく保釈、完全無罪に向け怒涛の反撃】)。このときは、副市長を含む多くの市役所職員との接触禁止等の保釈条件が付され、保釈に水を差したいマスコミは、「市長職を務めることは事実上困難」などと報じた。しかし、公判前整理手続の中で、「罪証隠滅のおそれ」が全くないことが客観的に明らかになり、弁護人の保釈条件変更申請で接触禁止は順次解除されていった。

 ゴーン氏についても、今後、公判前整理手続や公判審理の中で、検察が提示する事実や証拠、それに対する弁護側の対応によって、「罪証隠滅のおそれ」がないことが明らかになれば、保釈条件の変更の可能性もある。そういう意味では、保釈条件は、被告人にとって決定的な問題ではない。

 重要なことは、いかなる保釈条件が付されていても、拘置所での身柄拘束が続くのと、社会内での活動が可能になるのとでは、その拘束の質が決定的に違うということだ。

 今回の保釈によって、今後、ゴーン氏の刑事事件の公判対応や、マスコミへの対応、ゴーン氏が関わる企業の経営などに、大きな影響が生じる可能性がある。

 第1に、公判前整理手続や公判に向けて、弁護団と十分な準備ができるということだ。言語の違いに加え、関連資料も膨大なため、拘置所での弁護団とゴーン氏との打合せは困難を極めたはずだ。保釈されたことで、検察の開示証拠を踏まえて、効果的で綿密な打合せを行うことが可能となる。

 第2に、ゴーン氏は、今後、検察や日産側のリークによる夥しい数の「有罪視報道」にくまなく目を通し、弁護士らとともに、事実無根の名誉棄損報道に対して法的措置を講じる準備を始める可能性がある。それは、ゴーン氏事件の報道の流れを変え、これまでの報道で生じた世の中の認識を是正することにつながる可能性がある。

 第3に、軽視できないのは、日産自動車・ルノー・三菱自動車の経営に与える影響だ。

 ゴーン氏は、日産自動車・ルノー・三菱自動車の3社で会長職は解職されたが、今も取締役の地位にはある。ゴーン氏が、各社の取締役会に出席すれば、これまで全く弁明の機会を与えられず、一方的に「不正」とされている、起訴事実以外の「不正」についての弁明を行うことも(少なくとも、ルノー・三菱自動車においては)可能となり、今後の3社の取締役会での議論に大きな影響を生じる可能性がある。

◆ゴーン氏の取締役会への出席の可能性

 そこで問題となるのが、今回のゴーン氏の保釈条件の中には、事件関係者との接触禁止のほか、日産自動車の取締役会・株主総会への出席には裁判所の許可が必要というのが含まれていることが、ゴーン氏の取締役会への出席にどのように影響するかだ。

 まず重要なことは、取締役は株主総会で株主に選任され、会社のために、善管注意義務を果たし、忠実に職務を行う立場だということだ。会社法上、「取締役会への出席義務」は明記されてはいないが、格別の支障がない限り、取締役会に出席することは取締役の義務であると言えよう。ゴーン氏も、格別の支障がない限り、取締役として日産の取締役会に出席するのは当然であり、健康上の理由など出席できない事情がない限り、取締役会に出席すべく裁判所の許可を求めることになるであろう。

 ゴーン氏が取締役会への出席の許可を求めた場合、株主に選任された取締役として、職務を行う上で必要と判断して出席を求めているのであるから、裁判所としても「必要性がない」と判断する余地はないだろう。裁判所は、保釈条件の一つである「接触禁止」に違反する可能性があるかどうかによって可否を判断することになると思われる。

 保釈条件としての「接触禁止」というのは、起訴事実についての「罪証隠滅」が行われないようにするため、外形的に、その「恐れ」がある場面を作らないようにすることを保釈の条件にするという趣旨だ。

 取締役会の出席者のうち西川廣人社長が、金商法違反との関係でゴーン氏が接触を禁止されている「事件関係者」の一人だと考えられるし、他にも「事件関係者」が含まれている可能性がある。問題は、取締役会への出席について「西川氏らとの間での『罪証隠滅のおそれ』があると言えるかどうか」だ。

 裁判所は、ゴーン氏が許可を求めた場合、検察官に意見を求めることになる。弁護人側は、ゴーン氏に対する「反逆者」の西川氏を含め、日産関係者に対するゴーン氏の影響力はなくなっており、発言がすべて記録される取締役会への出席による「罪証隠滅のおそれ」は皆無だと主張するだろうが、検察官は、ゴーン氏の取締役会での発言が西川社長らにも影響を与え得ること、ゴーン氏が取締役会に出席していることや発言すること自体が公判立証に影響を与えるなどとして、出席に強く反対するであろう。

 ここでの裁判所の判断は、結局のところ、現時点でのゴーン氏の立場について、「推定無罪の原則」を尊重し、株主に選任された取締役としての職務の履行として取締役会に出席することを重視するか、「罪証隠滅」が公判審理に影響を与える可能性を最小化することを重視するかという観点から行われることになり、そこでは、保釈の可否と同様の枠組みでの判断が行われることになる。

 ちなみに、前記の美濃加茂市長事件で藤井市長が保釈された直後、保釈条件として副市長を含む多数の市役所職員との接触が禁止されている状況で、藤井市長が、起訴された収賄容疑についての説明を求める市議会に出席できるかどうかが問題になった。しかし、藤井市長は、市議会に出席して、自らが潔白であることなどを、公判での主張に支障を生じない範囲で説明した。その際、藤井市長と副市長とは離れた席に座らせ、直接の話をすることがないよう配慮した。

 この市議会への藤井市長の出席は、当然、検察・警察も把握していたが、それが「接触禁止」の保釈条件に反するとして保釈取消請求されることはなかった。

 仮に、日産の取締役会への出席が許可されないとしても、ルノーと三菱自動車の取締役会への出席は話が別だ。両社は、本件起訴事実と直接の関係はないのであり、三菱自動車の取締役会への出席、ルノーの取締役会への電話やビデオ会議システムでの出席が制限される理由はないだろう(三菱自動車の日産出身取締役が「事件関係者」に該当する場合には、日産取締役会と同様の問題が生じる。)。

 ゴーン氏が、両社の取締役会に出席しようとするかどうかは不明だが、自己の潔白を主張し、会長解職の不当性を訴えるために出席したいと考えた場合には、出席が可能となる可能性が高い。

 大鶴弁護士が記者会見で予測していたように「第一回公判まで保釈が許可されない」ということであれば、ゴーン氏は、日産の臨時株主総会で取締役を解任され、ルノー・三菱自動車の定時株主総会で両社の取締役も解任され、3社への影響力を完全に失った後に、ようやく保釈されるということになっていたであろう。

 そういう意味で、「検察と戦う弁護士チーム」に一新された弁護団の保釈申請によって、それまで拘置所で検察の支配下に置かれていたゴーン氏の身柄が弁護団の元に奪還されたことが、今後のゴーン氏の検察・日産やマスコミ等に対する「反撃」に、極めて重要な意味を持つことは間違いない。

【解説  カルロス・ゴーン前会長と日本の「人質司法」 BBCニュース2/15】

ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ、BBCニュース東京特派員

○日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(64)は3カ月にわたって拘置所生活を送っている。そしてそれは今後も数カ月は続くだろう。

ゴーン前会長の弁護人を務めていた元東京地検特捜部長の大鶴基成弁護士は、ゴーン前会長が「人質司法」の被害者になっていると訴えてきた。なお、大鶴弁護士は13日に突如、ゴーン前会長の弁護士を辞任している。

日本国外に住む人にとって、「人質司法」という言葉はこれまで聞き慣れないものだ。いったいどういう意味なのか。

日本で暮らしていると、犯罪をあまり心配しなくなっていく。そもそも、あまりに少ないので。日本の犯罪発生率は驚くほど低い。社会文化が単一的で、所得格差が小さく、終身雇用もある。そういう要素が、関係していると良く言われる。しかし、逮捕されること自体を大勢が恐れているからだと言うのも、あながち間違いではない。

私が最初にこう思うようになったのは2014年、アーティストの「ろくでなし子」こと、いがらしめぐみさんが「わいせつ物」を送信したとして逮捕された時だった。いがらしさんは自分の性器のデジタルスキャンを作り、その型を元にキーホルダーや大きな黄色いカヤックなどを作った。

多くの人はこれを最高に愉快だと歓迎し、いがらしさんは「女性器アーティスト」というあだ名を付けられた。しかし、東京地検は感心しなかった。そして、いがらしさんを3週間も勾留したのだ。
私は友人に、「検察は一体どうして、こんな馬鹿馬鹿しいことで彼女を3週間も勾留したのか?」と尋ねた。
友人からは、「勾留できるから」という答えが返ってきた。

イギリスでは、訴追前に勾留できるのはテロ容疑者だけで、期間も14日間だ。批判も多い。
一方の日本では、万引き犯でも場合によっては最大23日の勾留が認められる。

◆自白への圧力

検察に23年所属していた郷原信郎弁護士は、「日本の刑事司法では取り調べで得られる供述で立証する。(中略)自白を得ることを目的にしている」と説明する。

郷原弁護士は現在、日本の司法改革のために活動している。

「罪を認める被疑者・被告人は早く身柄の拘束を解くけれども、(罪を)認めない人間は認めるまで、自白するまで検察官が強く保釈に反対し続ける」

石川知裕さんは、まさにこの通りのことを経験した。
当時、衆議院議員だった石川さんは2010年、政治資金規正法違反の容疑で逮捕された。それから3週間もの間、石川さんは暖房のない小さな独房に勾留され、弁護士の同席しない状態で毎日12時間の取り調べを受けた。石川さんは最終的に、より軽い罪を認めた。

10年近くたった今も、石川さんはこの経験を苦々しく思っている。

「日本の検察はとても頑固だ」と石川さんは語る。
「検察官が書いた筋書きがあり、それに添った形で逮捕する。自分たちが思ったとおりの自白をさせようとする。調書にも実際に(私が)言ったことを書いてくれるわけではない。検察官が元々書いたものを調書とすると言って、署名と捺印を求められる。私が何度『これは私が言った内容ではない』と言っても認めてくれない」
「時折、怒鳴ることもある。特捜部の副部長が泣き出して、なぜ嘘をつくのかと泣き落としにかかられたこともあった」

日本における刑事事件の有罪判決の89%が自白を一部、あるいは全体的な根拠としている。それだけに、取り調べにおけるこうした自白圧力はことさらに厄介だ。
明らかに「危うい」自白のせいで、無実の人が何年も投獄されたり、有罪判決に深刻な疑念が生じた事例が、日本には数多くある。

元プロボクサーの袴田巌さんは、1968年に殺人罪で死刑判決を受けた。袴田さんの有罪判決は長時間の取り調べの末に罪を自供したことが、根拠となった。

46年後の2014年、袴田さんの死刑執行は停止され、釈放された。袴田さんの自白を支持する証拠がなく、死刑判決には問題があると判断されたためだ。
現在82歳の袴田さんはなお、無罪確定を目指して再審を求めている。

◆検察の権力

郷原弁護士は、こうした日本の司法の問題は検察が絶大な権力を持っていることが原因だと指摘する。

「日本の刑事司法では検察官が起訴する権限を独占している。その裁量で不起訴にすることもできる。(検察は)刑事司法に関して絶大な権力を持っており、裁判所も検察官の判断に追従する」

検察トップがどれほどの権力を持つか、同志社大学のコリン・ジョーンズ法学教授が昨年12月のジャパン・タイムズへの寄稿で説明している。

「法務省では表向き、法務次官が行政側のトップとされる。しかし実際には職位も報酬も、検事総長や複数の検察幹部より格下だ。また、大半の官僚トップと異なり、検事長以上の任命には天皇の認証が必要だ」

ゴーン前会長が直面しているのはこのような、自白しなければ長期間勾留され、より深刻な嫌疑をかけられるシステムだ。検察官が起訴すれば99%の確率で有罪になるという。

郷原弁護士は、「建前としては推定無罪を否定していない。(中略)しかし仮に無実であっても、早く認めた方が得だということになる。これが日本の人質司法の大きな弊害です」と指摘した。

計23日間の勾留期間が終わっても、容疑者の苦労は終わらない。検察は裁判所に認められれば、少しだけ異なる内容の別件で同じ容疑者を再逮捕できる。その場合、時計は振り出しに戻り、さらに20日間の取り調べが可能となる。

ゴーン前会長は最初に逮捕された後、2度にわたり再逮捕された。結果として前会長は正式に起訴される前に、すでに53日間勾留されて事情聴取を受けた。

◆ゴーン前会長は保釈もされず

多くの国では正式な起訴をもって、被告は保釈される。しかしここでもやはり日本は例外だった。ゴーン前会長も、その例に漏れなかった。

東京地方裁判所は1月、ゴーン前会長の保釈請求を却下した。AFP通信の取材に応じた前会長は、保釈請求の却下は「他の民主主義国なら普通のことではない」と述べ、東京地裁が「有罪判決の前に私を罰している」と非難した。

ゴーン前会長は現在、家族との面会が認められている――1日15分、ガラス窓越しに。

ゴーン前会長の日本での扱われ方を、カナダで起きた別の企業トップの逮捕劇と比べてみよう。昨年12月1日、中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)創業者の娘で同社最高財務責任者(CFO)兼副会長の孟晩舟氏がヴァンクーヴァー空港で逮捕された。逮捕はアメリカの警察当局の要請で、イラン制裁違反と関連した詐欺の容疑に問われている。

孟容疑者は逮捕から10日後の12月11日、1000万カナダドル(約8億5000万円)の保釈金を支払い保釈された。孟氏は足に電子タグを着用し、ヴァンクーヴァーにある自宅で過ごしている。

日本の検察は、日本には容疑者を自宅に軟禁したり、電子タグの着用を義務付ける法規定がないと主張する。しかし勾留経験のある石川さんは、裁判所がゴーン前会長の保釈請求を却下したのは、海外逃亡を怖れてのことではないとみている。

「ゴーン前会長ほどの人が隠れられるとは思えない。逃げたら名声が落ちることは分かっているはず。(勾留を続ける)一番の理由は嫌がらせであり、自白を強要しているのだと思う」

日本の司法制度を擁護する人は、有罪判決率99.9%は自供によって成り立っているという指摘を否定する。有罪率が極めて高いのは、アメリカに比べて日本ではそもそもの起訴件数が圧倒的に少ないからだと。

言い換えれば、検察は必ず勝訴できると確信した場合だけ、起訴しているのだということになる。法務省の犯罪白書によると、2015年の全事件の起訴率は33.4%だった。

◆正義の番人

しかし、ゴーン前会長の事件は、日本の司法に対する疑問を浮き彫りにした。何人かの弁護士が、ゴーン前会長の容疑は弱いと話している。

スティーヴン・ギヴンズ弁護士は、日本経済新聞の英文媒体「ニッケイ・エイジアン・レビュー」への寄稿で、ゴーン前会長への嫌疑は「薄いスープのようだ」と指摘した。
「あらゆる客観的な見地から見るに、日本でたびたび見過ごされている企業の違法行為に比べれば、(ゴーン前会長の)不正容疑はさほど深刻なものではない」
「我々が知っているゴーン前会長の容疑の中に、懲役刑に値するような深刻な犯罪の気配は全くない」

ではなぜ、東京地検特捜部はこの事件をこれほど執拗(しつよう)に追及しているのだろうか。

石川さんは、日本の検察トップから見たゴーン前会長の本当の罪は「強欲」だという。ゴーン前会長は日本企業の最高経営責任者(CEO)として初めて数十億円の報酬を受け取った人物で、それが日本の企業文化を一変させたからだ。

「東京地検特捜部には、自分たちは正義の番人だというモチベーションがある。貧富の差が激しくなっていく中で、金持ちを叩いて、時代を象徴する事件を扱いたかったのだと思う」

拘置所の独房で戦略を練っているゴーン前会長は、日本の司法システムにはもう一つ隠し玉があることを承知しているはずだ。英米では、一事不再理の原則に従い無罪判決に対する検察官の上訴が禁止されるが、日本では認められているのだ。

もしゴーン前会長が逆境を跳ね返し、現在の罪状で無罪を勝ち取ったとしても、検察当局は高等裁判所に上訴し、逆転判決を求めることができる。
この問題もあり、日本では多くの容疑者が自供してしまうしてしまうのだというのが、日本の司法制度を批判する人たちの主張だ。

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