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幼児教育・保育の無償化 ~その前に、3歳未満の待機児解消、保育士処遇改善を

 法学館憲法研究所「今週の一言」に、普光院亜紀さん(保育園を考える親の会代表・保育ジャーナリスト)が寄稿している。
 8000億円もの予算を使うのに、すべての子どもの育ちを支えるという本来の目的と逆行するのではないか。待機児の多くは3歳未満であり、無償化は住民税非課税世帯に限られる〔いまでも所得で保育料が決まっている。一方、これまで保育料に含まれていた給食費が徴収され、負担増になる恐れも…〕、待機児の原因の多くは保育士の処遇の悪さにある。質の高い集団保育は、子どもの発達〔その後の社会的経費に多寡にも影響〕にとって極めて重要…そうしたことを考えれば、無償化の恩恵は、高所得〔保育料が高い〕層に多く配分される。優先順位が違うのではないか・・・。
【幼児教育・保育の無償化を考える 2019年1月28日】

【幼児教育・保育の無償化を考える 2019年1月28日】

◆ 子育て世代が幼児教育無償化に反対

 2019年10月には、幼児教育無償化が実施されます。対象は保育所、認定こども園、幼稚園に通うすべての3歳以上児で、親が就労しているなど「保育の必要性」が認められれば、認可外保育施設や幼稚園の預かり保育、ベビーシッター等の費用も無償化されることになりました。3歳未満児については、住民税非課税世帯のみ無償化されます。
 実際の金額は、保育料が公定の認可保育園等は全額、保育料が公定ではない幼稚園は上限25,700円(預かり保育利用の場合は合計で37,000円)まで、認可外保育施設等は37,000円までということになっています。これらの財源は、国の負担分、地方の負担分を合わせて約8000億円に上るとされています。
 2017年10月の衆議院選挙でこの政策が自民党の公約に上ったとき、ツイッターで「#保育園に入りたい!」をかけ言葉に集まっていた待機児童問題の当事者たちのグループが反対の声を挙げました。このグループは、change.orgというネット署名で、無償化よりも待機児童対策を優先してほしい旨の署名を3万2000筆集め、自民党本部に提出しました。
 私が主宰する「保育園を考える親の会」でも、この無償化がすべての子どもの育ちを支えるという本来の目的とは逆行するものになるのではないかという懸念についての意見表明を政府に送りました。

◆ 幼児教育無償化が注目される理由

 幼児教育無償化は、今、先進各国が注目する施策です。世界中に大きなインパクトを与えたのが、1960年代に行われた米国のペリー・プリスクールの社会実験です。貧困地域で質の高い幼児教育(3〜4歳児対象)を実施し、そのプロジェクトに参加した子どもと参加しなかった子どもを追跡調査したところ、40歳の時点で、学歴・収入・犯罪歴その他に顕著な差が現れたのです。経済学者のヘックマン教授は、すべての子どもに幼児教育を行き渡らせることにより、国家は将来の福祉や治安のコストを低減させることができる、幼児教育は国家にとって最も費用対効果が大きい教育投資であると結論づけました。
 現代の日本にも、2歳時点での保育所利用について調べた追跡調査があります。21世紀出生児縦断調査を分析した山口慎太郎氏(東京大学大学院経済学研究科准教授・労働経済学)は、社会経済的に恵まれない子どものうち、2歳時点で保育所に通っていた子どもは、通っていなかった子どもよりも、多動性・攻撃性などの問題行動が減少し、家庭でのしつけの質(叱るときにたたかないなど)、子育ての満足度が増加していたことを明らかにしました。山口氏は、日本経済新聞の取材に答えて、無償化よりも、社会経済的に恵まれない子どもが保育所を利用できるようにする対策を急ぐべきであるとコメントしています。

◆ 無償化の本来の目的から乖離

 子どものために年額8000億円という大きな財源が確保されたことは、素晴らしいことです。しかし、だからこそ、そのお金を有効に使う必要があります。
 日本では、3歳以上児の就園率は非常に高く(5歳児で96%)、また低所得層や多子世帯の保育料減免もすでに実施されています。保育所等は所得に応じた保育料になっているので、この無償化が実施されて最も恩恵を受けるのは高所得層であることが指摘されています。その一方で3歳未満児の待機児童が多く、社会経済的に恵まれない家庭であっても保育を利用できていない現状があります。
 幼児教育・保育を受けられない子どもにそれを提供するという本来の幼児教育無償化の目的に照らせば、優先されるべきは3歳以上児の全面無償化ではなかったはずです。無償化よりも待機児童対策、そしてそれを妨げている保育士不足への対応を優先すべきだと、多くの関係者が口をそろえます。
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◆すべての子どもに受けさせたい幼児教育・保育とは?

 保育士不足の背景には、急激な施設増もありますが、待遇の低さや仕事の負担の重さを理由とする離職が多いことも大きな要因となっています。資格をもちながら現場を離れている「潜在保育士」は70万人以上に上ります。
 私は、保育の質の確保のためにも、保育士の待遇改善や負担軽減を急がなければならないと考えています。保育士は保育の質の最も大きな部分を占める要素です。相応の待遇を保障して、保育士という仕事に意欲と適格性をもった人材を確保すること、仕事の負担を軽減して離職を防ぎ、専門性と経験を蓄積できるようにすることが必要です。保育士に余裕がなく、子どもに暴言を吐くなど虐待まがいの保育が行われているという内部告発を聞くことがありますが、これは重大な人権侵害です。
 子どもの発達に関する多くの調査研究は、保護者や保育者などの子どもへの関わり(応答性、言葉がけなど)が子どもの心の発達に大きな影響を与えることを明らかにしています。子どもを無視したり否定したりするような関わりは、その発達にネガティブな影響を与えます。すべての子どもに提供したいのは、質の高い幼児教育・保育であったはずです。質をおざなりにすれば、逆効果になってしまいます。

◆ 子どもの利益の観点から問い直す

 保育士の待遇改善と負担軽減は急務です。賃金構造基本統計調査の数値で保育士の平均賃金を全産業平均に追いつかせるためには、単純計算であと4000億円の財源が必要となります。そして、保育士の負担軽減には、保育士の配置基準を改善することがもっとも即効性のある対策ですが、そのためにもお金は必要です。無償化後にその財源は確保できるのでしょうか。
 今回の無償化の対象には、認可外保育施設も含まれています。認可外保育施設の指導監督基準を満たしていなくても、当面5年間の猶予期間は無償化されます。待機児童対策が間に合わないために認可保育所等に入れず、無償化の恩恵にも預かれないのは不公平だという声に応えた結果です。
 しかし、質の低い施設も無差別に無償化の対象とすれば、その利用が促進される恐れがあります。子どもは自分で施設を選べません。子どもの利益という観点から、もう一歩議論を詰めるべきではなかったかと思います。
 このまま進むのであれば、無償化するすべての保育施設について、国や自治体が徹底的に責任を負い、その質を確保するよう万全をつくしてほしい。それが、子どもに対する大人たちの責任だと思います。

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