外注が地方を滅ぼす…育てよう、公務の役割
行政需要が激増する中、人的体制は削減が続くなか、各種の法令にもとづく「計画づくり」が、それぞれの地域の特性、住民の声の反映とかはスルーされ、コンサル委託の「体裁だけ整えた」になっている。
住民の努力もふくめた知見の蓄積、他分野で取組のネットワーク化・・これは公務にしか出来ない。どういう行政、職員を育成していけるか、合意をどうひろげるか・・・議会論戦、市民運動のとりくみも、いつも気にかけているポイントである。
【地方創生計画 外注多数 交付21億円超 都内企業へ 東京1/3】
【なぜ「なんでも外注主義」が地方を滅ぼすのか 地方に大事な「3つの能力」が消えかけている 木下 斉 : まちビジネス事業家 2018/07/23】
なお、国の地域創生の計画づくり・・・高知県で7年越しにつみあげてきたスタイルの表面だけをきりとったものである。
【地方創生計画 外注多数 交付21億円超 都内企業へ 東京1/3】政府の地方創生政策の出発点として、全国の市町村が独自で作った地域再生の基本計画「地方版総合戦略」の七割超が、外部企業などへの委託で策定されていたことが分かった。委託先は東京の企業・団体が過半数を占め、受注額は少なくとも二十一億円超に上ることも判明。地方自治を研究する専門機関による初の全国調査で浮き彫りになった。 (前口憲幸、横井武昭)
地方創生政策は、人口や雇用の減少で疲弊する地域の自立と活性化が目的で、第二次安倍政権が看板政策として打ち出した。政府は地方の主体性を促し、民間に全面依存しないよう求めたが、東京一極集中の是正に向けて地方に配られた策定段階の交付金の多くが東京に還流した形だ。
雇用創出や移住・定住促進などを盛り込んだ戦略策定は二〇一四年十二月にスタート。法的には努力義務だったが、政府は一六年三月までの策定を強く要請した。交付金申請の前提条件とされたため、事実上は策定がノルマとされ、わずか一年余りでほぼすべての自治体が作り終えた。
調査したのは公益財団法人「地方自治総合研究所」(東京)。一七年十一月、全国約千七百の自治体にアンケートしたところ、白紙などを除いた有効回答千三百四十二市町村のうち、千三十七市町村(77・3%)が、コンサルタントやシンクタンクなど外部に委託していた。その理由として多くの自治体が「専門知識を補う」「職員の事務量軽減」を挙げた。
実際に外部へ支払った金額については、約六百市町村が回答。総額は約四十億円で、半数近くの市町村が七百万~一千万円で委託していた。戦略策定のため国が支出する交付金は一市町村当たり一千万円で、委託費には政府の予算枠が色濃く反映されていた。
委託先は、東京の企業が上位十社のうち七社を占めた。愛知、大阪、福岡などが都道府県別の占有率で3%にも届かない中、東京の大手一社だけで全体の12・5%となる五億円超を請け負う極端な偏りも浮かんだ。
各地の自治体から委託された大手コンサルの責任者は本紙の取材に「瞬間風速的に大変な需要過多になった。手が足りなくなり、いくつも依頼を断った」と証言。別の責任者も「明らかな地方創生バブルだった。業界全体でもすべては受け止めきれない状態だった」と振り返った。
◆一極集中の表れ
<首都大学東京の山下祐介教授(社会学)の話> 地方創生で東京一極集中を止めると言っているのに、この調査結果こそまさに東京一極集中を表している。情報を一番持っている東京のコンサルに頼むという判断は自治体として当然かもしれないが、地元で考えるべき問題を投げてしまえば人口減少にしっかり向き合う機会を失う。積み上げるべき知見が積み上がらず悪循環だ。自前でやったところは問題点を自覚したはず。本来は政策形成競争だったはずが、補助金獲得競争や人口獲得競争になってしまったことをしっかり検証すべきだ。
(東京新聞)
【なぜ「なんでも外注主義」が地方を滅ぼすのか 地方に大事な「3つの能力」が消えかけている 木下 斉 : まちビジネス事業家 2018/07/23】自治体の「地方創生プラン」はどこも似たり寄ったり。地方がダメになっているのは「なんでもかんでも外注体質」にもある。
「地方のことは地方で考えよう」。こんなことが言われて久しくなりました。しかし、地方が策定するさまざまな計画は「どこかで見たような内容」ばかりであることがいたるところで見られます。「今は地方が独自に決められる」と言われているのに、なぜ複数の地域が似たような事業を実施して共倒れになっていくのでしょうか。この背景には何があるのでしょう。
その病巣の1つが「なんでも外注依存」です。◆地方を蝕む「なんでもかんでも外注主義」とは?
今の地方のさまざまな業務は、計画するのも外注、開発するのも外注、運営も外注、と、なんでもかんでも外注するような状況です。「名ばかりコンサルタント」たちの適当な仕事の問題もまったく消えず発生し続けている背景には、実際には地方側が「なんでも外注」しているからという、「発注者側の問題」もあります。
もう4年ほど経ちますが、地方創生政策がスタートした際は、事実上、地方創生総合戦略のほとんどが外注にまわされ策定されました。では今どんな結果となっているか、はみなさんのご存じのとおりです。「地方が独自に考えて計画を出しなさい」といったのに、結局東京のコンサルなどに「計画を考えてください」と地方が頼んでしまったりする奇っ怪な状況が多発していました。
その後も「移住定住のキャンペーンをやってくれ」と外注したり、「地元をPRする動画を策定してYouTubeでいっぱい再生されたい」といった外注をしたり、「ふるさと納税をもっと集める企画を考えてほしい」などの外注もしています。ひたすら外注、外注、外注です。
しかしながら、こうした依頼を受注するような東京本社の有名企業もシンクタンクなどは、全国津々浦々まで知り尽くしているわけでもありません。また、地域の状況に応じてゼロから提案を作るわけでもありません。どこかでやったことを、データベースから引っ張ってきてつなぎ合わせて計画をまとめたり、はたまた同じようなイベント事業を別の場所で展開したり、揚げ句の果ては「ヤバイ開発」をそのまま複数地域に提案して、実際に地方が大失敗していることもあります。
せっかく東京などから分配された税金が、地方がなんでも外注することで、また東京の会社に還流して、そこから適当な提案をされる。しかも地方はそのいい加減な計画を鵜呑みにして失敗事業をやってしまい、負担を増加させて衰退を加速させる、という悪循環が発生しています。◆外注主義で奪われる「地方の3つの能力」とは?
このような外注主義が生み出す悪循環は、地方から3つの能力を奪います。
(1)執行能力がなくなり、何も自分たちでできなくなる
つねに何をするのにも外注していると、自ら企画を考えたり、計画を立案したり、さらには実行する能力がなくなってしまいます。結局、何をするのも外注ではできないため、機動力も遅く、また自前でやっていないので変更をかけるのにも外注先との協議、時に追加予算まで必要になることも少なくありません。となると単年度主義の行政などでは、途中でうまくいかないのがわかっていながら、頑なに計画どおりに進めることに固執したりします。
(2)判断能力がなくなり、「みそくそ一緒」になる
もともと自前でやったうえで、一部を外注するのであればよいのですが、何をするのも外注してしまうことで、まったく何もわからないため、人にやらせる業務の内容を設計することさえ外注任せとなり、さらに納品物の「良し悪し」の判断能力までも削がれていきます。「名ばかりコンサル」があちこちで仕事できる理由の一つです。
メーカーなどでは外注を使うにしても、自らその見積もり内容の正当性などを判断したり品質を判断したり、技術開発能力を維持するために小規模な内製用の子会社を維持し続けたりすることがあります。自分たちに判断能力があるからこそ、人に任せる外注はうまく使えるのです。(3)経済的自立能力が削がれ、カネの切れ目が縁の切れ目
さらに外注主義の最悪なところは、毎年つねに「言われるままのコスト」がかかり続けるということです。自分で執行できない、さらには判断さえできないことを他人に任せてしまえば、イザという場合「なら自分でやりますよ」と出られません。そのため、いったん任せたら永遠におカネを払いつづけなくてはならなくなります。何をやるのにも予算、予算。そしてやった事業は失敗するものばかりなわけですから、おカネが尽きるのも当たり前なわけです。
頼むためのおカネがなくなれば、何もできなくなり、カネの切れ目が縁の切れ目、外注先であったときには相談を聞いてくれていた企業は「おカネがないなら仕事はできません」と去っていくことになります。そして手詰まりになるのです。では地方はどうすればいいのでしょうか。答えは以下です。
外注よりも人材へ投資をする。
◆外注依存の「毒抜き」のためにも、自前の事業を一定の割合で残せ
当事者たる地元の人たちの知識や経験を積み上げて、独自の動きをとるのがなんといっても大切です。
もし、自分たちが取り組む事業の参考に少しでもなる事例について調べたければ、自分たちがその地方に訪ねてその実態を細かく調査してレポートを書かなくてはなりません。調査を業者に外注したうえに「どうやったらいいか」まで考えてもらっても、本当にそうなのかわからないままに鵜呑みにしてやることほど、恐ろしいことはありません。◆「自力で考える力」を養うためには?
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調査などレポート作成に多額の予算を積むのであれば、その一部でも行政であれば職員に、企業であれば社員が自ら調べたり、考えるのに必要なスキルを身に付けるのに調査予算を委ねて自前で調査させたり、自ら研修に参加する予算を捻出して人材投資をするほうが、地方にとっては「自力で考える力」を形成できます。
たとえば、岩手県の紫波町では前町長の藤原孝氏の方針によって、住民参加に向けたワークショップは外注が禁止されました。そのかわり、職員が最低限のスキルを身に付ける研修を受ける研修費には予算をつけました。ある時「なぜ外注させずに研修に予算だすのか」と藤原氏にお聞きすると、「毎年300万円の外注をすれば10年で3000万円かかる。しかし、職員に50万円の研修でも受けさせて学ばせたら、大抵の役場職員はやめないから、同じことを職員だけで何度でもやれる。10人に研修うけさせても、500万円で済んで、あとは外注はいらないから地元の負担も軽く、職員もプライドと責任をもってやる」とおっしゃっていました。今では周辺自治体から紫波町の職員を指名してワークショップ講師の依頼が出るほどになっています。
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また別の自治体では、研修などを自腹で学んだ職員たちが、コンサルタントに多額の業務委託で調査してもらった内容に、大きな間違いがあることを発見しました。なぜわかったかといえば、なんと研修で来た講師が、その調査事業の対象となった事業の実践者だったのです。このケースでは、実践者が自ら解説する内容をもとに学んでいたため自治体の担当者が、「実際の内容と違いますよ」と指摘したところ、コンサルタントも「いや、現地にいって聞いてきた」と言い張ったといいます。「そこまでいうなら今、やっている人に電話するから」といったら、コンサルはびっくりして謝ったのです。これでその自治体は、「外部はどれだけずさんな調査をしているのか」と初めて認識したといいます。このように、自ら学べば判断もつき、自分で考える糸口もつかめるわけです。
数十年前の総合計画などは自治体職員や地元専門家、メディアたちが自ら集まり策定したかなり数字も細かく掲載されている秀逸なものが多くあります。たとえば福岡市の「第二次総合計画」などは今の福岡市の優位性を形作った基礎とも言えます。さらにまちの小さな公衆トイレなどの公共建築なども役所の技師が自ら設計した優れたものが全国各地に残っています。外注管理ではない仕事が、地方の独自性を作り出すのです。
地方が自ら考え、自ら決めていくためには、まずはなんでもかんでも外注依存の現状を問題として認識し、段階的に「自分たちの頭で考え、実行する」自前事業の割合を増やしながら依存度の軽減に努める必要があります。まずは地方自らが「外注依存デトックス計画」を自分たちでたてるのが第一歩ではないでしょうか。
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