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「学校における働き方改革答申素案」に対する意見書〔変形労働時間制/給与法改正〕 全教弁護団

 教員の多忙を、「自発的意思」など意識の問題に矮小化し、抜本的な増員、残業代支払いなど財政的な手当てをなしに、見かけ上、変形労働などで、「労働時間減少」を演出しようとするもので、経済・外交の実態を隠して、「やっている感」で、印象操作しようという安陪フェイク政権の特徴と共通する。
 制度の枠組みは違うがアメリカでは教員ストが住民支持のもとで勝利が続いている。ロスでは、▽6%の賃上げ▽今後4年間で1学級当たりの生徒数4人減▽すべての学校にフルタイムの養護教員配置▽中学以上のすべての学校に図書館司書の配置―など組合側の要求のほとんどが盛り込まれ妥結している。

【中教審「学校における働き方改革答申素案」に対する意見書〔変形労働時間制〕〔給与法改正〕を発表 全教常任弁護団2019/1/9】
【米教員ストまた勝利 教育環境改善・賃上げ ロサンゼルスで妥結 赤旗1/24】

【「働き方改革答申素案に関する意見」〔変形労働時間制〕】

2018 年12 月18 日
全日本教職員組合 常任弁護団
代表弁護士 加藤 健次

~はじめに~

中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」は、2018年12月6日、「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」と題する答申素案(以下「答申素案」という。)をまとめ、そのなかで「1年単位の変形労働時間制」を地方公共団体の判断で導入できるよう制度改正をすることを提案している。
しかし、教員の業務に、1年単位の変形労働時間制を導入することは、要件的にも教員の労働実態からも無理があり、結果として教員の長時間労働の歯止めにはならないというべきである。
全教常任弁護団は以下に述べるように、1 年単位の変形労働時間の導入には反対であり、最終答申において、同提案の撤回を求める。

1 教員の長時間労働の実態

(1)長時間労働は誰の目にも明らか

2016年、文部科学省(以下「文科省」という。)は全国の小中学校の教員の「勤務実態調査」を発表した。教員の1日の労働時間は、学校内勤務時間だけで小学校11時間15分、中学校11時間32分であり、いずれも所定労働時間7 時間45 分を大幅に上回っている。学校内勤務時間だけで、小学校の3割、中学校の6割の教員が過労死ライン(月80 時間以上)を超える時間外労働をしていることも明らかとなった。2006年の前回調査より教員の労働時間は長時間化しており、文科省の進めてきた「業務改善」も現実には効果がなかったことがうかがわれる。2012年全教教職員勤務実態調査結果でも、過労死ラインを上回る時間外労働をしている教員は、全体の3 分の1以上となっていた。労働組合の調査でも文科省の調査でも、教員の長時間労働の実態は誰の目にも明らかというべきである。

(2)深刻な悪影響

2017年度厚生労働省・文科省委託「過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究事業報告書」(教職員に関する調査)(2018 年3月みずほ情報総研株式会社。以下「教職員調査結果」という。)では、教職員の80.7%が業務に関連するストレスや悩みがあるとし、その内容は「長時間勤務の多さ」(43.4%)が最も多く、次いで「職場の人間関係」(40.2%)、「保護者・PTA 等への対応」(38.3%)となっている。
過重勤務防止に向けて必要だと感じる取組は「教員(専科教員を含む)の増員」(78.5%)が最大で、次いで「学校行事の見直し」(54.4%)、「教員同士のコミュニケーション円滑化」(43.1%)である。
文科省によれば、公立学校教職員の病気休職者は、90 年代後半から増加し、2007 年に8000人を超え、以後8000人前後を推移している。そのうちおよそ6割が精神疾患によるものである。全教の2017年「教職員要求・意識アンケート」でも、「体がもたないかもしれない不安」は78.1%、「心の病気になるかもしれない不安」は62.9%にのぼる。
これらの調査結果が示すのは、教員に、所定内労働時間で終わらせることが不可能なほど大量の業務が割り振られ、その結果、教員が長時間労働をせざるを得ず、その中で心身ともに極度の疲労状態におかれていることである。
教員の長時間労働の実態は「看過できない深刻な事態」(松野博一文科相)として、一刻も早く改善しなければならない課題である。

2 1年単位の変形労働時間制と教員の業務

(1)労働時間規制の趣旨と弾力化

労働基準法(以下「労基法」という。)が労働時間を規制した趣旨は、長時間労働による身体的・心理的な負荷から労働者を解放して健康と安全を保障するとともに、労働者に文化的・社会的な生活を保障して職業生活と家庭生活を両立させることにある。労働者にとって、生命、健康な身体がなければ、労働することも生活することもできないのであるから、労働時間規制は、職種を問わず、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活を営む」(憲法25 条)ために必要不可欠であり、「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」(労基法1 条1 項)。

憲法の趣旨や労基法の目的を達成するための具体的な制度として、労基法32条1項は法定労働時間を1日8 時間、1週48 時間(制定当初)と定めたのであるが、1987年の労基法改正において、1週の法定労働時間を段階的に40 時間に引き下げることに伴い、例外として、各種の変形労働時間制やみなし労働時間制が導入された。
変形労働時間制は、一定の期間において所定労働時間を平均して週の法定労働時間を超えなければ、期間内の一部の日又は週において所定労働時間が1 日又は1 週の法定労働時間を超えても、所定労働時間の限度で、法定労働時間を超えて労働者に労働させることを認める制度をいう。
そして、「変形労働時間制は、労働基準法制定当時に比して第三次産業の占める比重の著しい増大等の社会経済情勢の変化に対応するとともに、労使が労働時間の短縮を自ら工夫しつつ進めていくことが容易になるような柔軟な枠組みを設けることにより、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化し、週休二日制の普及、年間休日日数の増加、業務の繁閑に応じた労働時間の配分等を行うことによって労働時間を短縮することを目的とするものである」(昭和63 年1 月1 日基発第1 号)。

このように変形労働時間制は労働時間規制の弾力化ではあるが、時間外労働を含む総労働時間を短縮することにより1 年を通じて所定の範囲内に労働時間を収めることが制度趣旨であることを銘記しなければならない。

(2)1 年単位の変形労働時間制の要件

ア 要件
1年単位の変形労働時間制の要件は次のとおりである(労基法32 条の4)。

(ア)当該事業場における過半数組合又は過半数代表者との書面による協定(労使協定)において、次の事項を定めること。
①変形労働時間制により労働させることができることとされる労働者の範囲
②対象期間(その期間を平均し1 週間当たりの労働時間が40 時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、1 か月を超え1 年以内の期間に限る)
③特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間)
④対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間(対象期間を1 か月以上の期間ごとに区分した場合は、当該区分による各期間のうち当該対象期間の初日の属する期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間並びに当該最初の期間を除く各期間における労働日数及び総労働時間)
⑤有効期間(労基法32条の4第1項5 号、労働基準法施行規則12条の4第1項。以下「労基則」という。)
(イ)当該労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出ること(労基法32条の4第4項、32条の2第2項)。

イ 労働日数及び労働時間の上限

労働日数の限度は、対象期間が3 か月を超える場合は対象期間について1年当たり280日である(労基法32 条の4 第3 項、労基則12 条の4 第3 項)。
1日の労働時間の限度は10 時間、1週間の労働時間の限度は52 時間とされている。ただし、対象期間が3 か月を超えるときは、対象期間における労働時間が48 時間を超える週が連続3週以下であること、対象期間の初日から3 か月ごとに区分した各期間における労働時間が8 時間を超える週が3 週以下であることが必要である(労基法32 条の4 第3 項、労基則12 条の4 第4 項)。
連続労働日数の限度は6 日であるが、特定期間中は12日(1週間に1日の休日が確保できる日数)である(労基法32 条の4 第3 項、労基則12 条の4 第5 項)。

ウ 区分期間

労使協定において、対象期間の全日について労働日や労働時間を定めるのが原則であるが、区分期間を設けた場合には、最初の区分期間における労働日や労働時間を定めればよく、次の区分期間以降については各期間における労働日数と総労働時間を定めておけばよい。
しかし、これでは、第2 区分期間以降については、労働日や労働時間が特定されなくなるので、当該各期間の初日の少なくとも30 日前に、当該事業場における過半数組合又は過半数代表者の同意を得て、労使協定で定めた労働日数と総労働時間を超えない範囲内において労働日と労働時間を定めなければならない(労基法32 条の4 第2 項)。

(3)1 年単位の変形労働時間制の問題点

変形労働時間制は時短を建前として導入されたものであるが、以下の疑義がある。

ア 人間の生活サイクルとの矛盾

人間の1 日の生活サイクルは、起床してから、食事、通勤、仕事、余暇を終えて、睡眠に至るというものであり、その1 日が積み重なって人間の生活のサイクルは成り立っているといえる。労働者の生活にとって、1 日の始業・終業時刻が一定であり、毎日の労働時間が一定していることが必要である。その意味で1 日単位の労働時間規制が重要なのである。この規制が失われることにより、生活サイクルが狂い、閑散期に休日が多く取れても、繁忙期に1 日の労働時間が伸長され、休日が少なくなるとすれば、疲労やストレスが蓄積し、文化的な生活を営むゆとりがなくなる。これでは、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が奪われ、「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべき」労働条件とはいえなくなる。

イ 週休2 日制と週40 時間労働制との矛盾

対象期間が3か月を超える変形制を採用する場合には、労働日数の限度は1 年当たり280日とされており、年間の最低法定休日日数が52 日である場合と週休2 日制を採用する場合のほぼ中間の日数に設定されている。これでは年間総労働時間を短縮することにはならない。
年間を通して総労働時間数や休日日数が法定の枠内であればよいというのは、週40時間労働制の趣旨を没却することになる。閑散期に休日を割り当てられても、業務量が減らなければ、結局はその休日にも出勤せざるを得ないということになりかねない。
このように1 年単位の変形労働時間制は、もはや変形ではなく、1 日8時間、週40時間の労働時間規制の原則が死文化し、変形労働時間制自体が原則に入れ替わってしまうという危険をはらんでいるのである。

ウ 時短の制度的保障

変形労働時間制度は、時短を目的として掲げながらも、所定労働時間数を減少させたり、休日を増加させたりする制度的な保障はない。すなわち、1 年単位の変形労働時間制を採用する場合には、対象期間を平均して1 週間の労働時間を40 時間以内としなければならないが、1 年間(365 日)を対象期間とする場合には2085.7時間(≒40×365÷7)となるのであり、何ら時短を保障するものではない。
 また、労働時間の限度が1 日10時間、1週52 時間とされたとしても、この限度はあくまで所定労働時間に関するものであるから、三六協定を締結すれば時間外労働をさせることもできる。三六協定の延長限度時間が決められており、1 年単位の変形労働時間制においては通常より短い時間数が設定されているとしても、1日又は1週の時間外労働時間数自体の法的拘束力を持った規制はないのであるから、1 年単位の変形労働時間制を採用したことにより、長時間労働を防止するという法的保障は全くないのである。
以上のことは、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の「仕事特性・個人特性と労働時間」(労働政策研究報告書No.128、2011 年)からも明らかである。

勤務時間制度別に非管理職の月間総労働時間の分布を見ると、次表のとおり、変形労働時間制の方が通常の勤務時間制度よりも、181 時間以上の割合が高く、月221 時間以上労働する割合は2 倍近くに上り、平均時間は15 時間多い。これに対し、181 時間未満の割合は通常の勤務時間制度の方が高いことからすれば、変形労働時間制の方が、通常の勤務時間制度よりも労働時間が長くなる傾向が認められる。
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1年を365日、年間の労働日を261 日、所定労働時間が1日8 時間であると仮定すれば、1か月の平均所定労働時間数の上限は174時間(=261×8÷12)となるが、これに1年単位の変形労働時間制における1 か月の延長限度時間である42時間を足すと合計216 時間となるところ、この延長限度時間を超えて残業をする割合は、変形労働時間制の方が、通常の勤務時間制度よりも多いのである。
また、非管理職の月間残業時間の分布を見ると、次表のとおり、変形労働時間制の方が通常の勤務時間制度よりも、40時間以上の割合が高く、平均時間は約4時間多い。これに対し、残業0 時間の割合は通常の勤務時間制度の方が高く、さらに1~40 時間未満の割合も同様であることからすれば、2018 年通常国会で改正された労基法36 条4 項が定める時間外労働の上限規制を超えて残業をする割合が、変形労働時間制の方が高い傾向が認められる。

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このように、「業務の繁閑に応じた労働時間の配分等を行うことによって労働時間を短縮する」という立法趣旨は達成されず、逆に長時間労働化しているのが実態なのである。
教員においても、後述する近時の調査では、全体の平均実勤務時間が11時間17分で、1日の超過勤務時間が3時間半を超えていることからすれば、JILPTの研究結果と同様の勤務状況に陥るおそれがあるというべきである。

エ 使用者のメリットと労働者のデメリット

変形労働時間制は、業務の繁閑に応じて所定労働時間を増減させるものである。したがって、この適用下において通常の法定労働時間を超える労働は、1 日10時間などの上限時間を超えない範囲では時間外労働が観念されず、所定内労働時間となり、使用者は時間外労働の割増賃金を支払う義務を負わないことになる。
これに対し、労働者には労働時間規制の原則を超える労働に従事する義務が発生する。
例えば、宴会場を有するホテルは、真冬や真夏は比較的会議や結婚式などの宴会が入ることが少なくなるのであるが、客足を遠のかせないため、バイキングなどのイベントをセッティングするのが通常であり、1年を通してみると業務の繁閑は多少あるかもしれないが、利潤追求のためには、使用者が閑散期だからといって業務量を減らすことは想定しづらい。JILPTの研究結果からも明らかなとおり、変形労働時間制は時短を保障するものではなく、仕事量や仕事の性格から変形労働時間制適用労働者は所定労働時間を超えて労働しており、使用者は、その分の割増賃金の支払いを免れているのである。

変形労働時間制は、使用者にはメリットがある反面、労働者にとって大きなデメリットがあるといえる。


3 教員の働き方と変形労働時間制

(1)教員の業務の性質

変形労働時間制は、「変形期間を平均して週40 時間労働制を実現し、適正かつ計画的な時間管理をすることで、労働時間の短縮を図るものであること」、「あらかじめ業務の繁閑を見込んで、それに合わせて労働時間を配分するものであるので、突発的なものを除き、恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度であること」(平成6 年1 月4 日基発第1 号)が制度の本質である。
そのため、「1年単位の変形労働時間制を採用する場合には、労使協定により、変形期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を具体的に定めることを要し、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度は、これに該当しない」から、「業務の性質上1日8時間、週40 時間を超えて労働させる日又は週の労働時間をあらかじめ定めておくことが困難な業務又は労使協定で定めた時間が業務の都合によって変更させることが通常行われるような業務については、1 年単位の変形労働時間制を適用する余地はないものである」(平成6 年1 月4 日基発第1 号)。

しかし、教員の業務は、長期休業期間があるといっても、その間も研修、プール指導、補充学習、個人面談、部活動指導などの業務があり、業務量自体が減るわけではないのであって、あらかじめ業務の繁閑を見込むことは困難である。仮に夏季休業期間中に残業時間が少ないという調査結果があったとしても、現行の所定勤務時間を下回る業務量しかないのに教員が学校等で拘束されているという実態があるわけではない。答申素案のいう部活動指導時間の縮減や研修の精選(46 頁)だけで業務軽減策として足りるのかは疑義があり、これらの対策すらも実現していない現在の状況下で変形労働時間制を導入する基礎は存在しない。

また、教員の業務は、その性質上、予測できない業務が生じることも多く、労働日や労働時間をあらかじめ定めておくのが困難であり、対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間が業務の都合によって変更せざるを得ない事態が生じることがあり得る。この点につき、教職員調査結果によれば、定められている出勤時刻より前、定められている退勤時刻より後に(所定勤務時間を超えて)業務を行う理由は、「自身が行わなければならない業務量が多いため」が69.6%と最も多く、次いで「予定外の業務が突発的に発生するため」が53.7%、「業務の特性上、その時間帯でないと行えない業務があるため」が48.9%となっている。

変形労働時間制は、業務の繁閑がある営業・販売、接客、製造・生産といった業種や職種であれば、対象期間における業務内容や役割分担を明確にすることで採用の前提が生じるかもしれない。しかしながら、教員の業務の性質を見ると、業務の繁閑や突発的な業務を見込むことが困難であるだけでなく、そもそも答申素案は、「自発的勤務」を想定しており(42頁)、使用者の指揮命令下にある勤務と「自発的勤務」との区別を明示していないこと、また、「教師は、(学習指導や生徒指導などの本来的な)業務に加え、その関連業務についても、範囲が曖昧なまま行っている実態がある」と自認していること(27 頁)にも鑑みれば、対象期間における業務内容や役割分担を事前に特定することは困難である。そうすると、学校長と過半数組合又は過半数代表者が対象となる教員の範囲や対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を労使協定においてあらかじめ定めることは不可能である。

仮に1か月ごとの区分期間を設けたとしても、労使協定の締結段階で期間ごとの労働日数と総労働時間を定めること自体が困難であろうし、当該期間の初日の30 日前に学校長が労働日と労働時間を特定し、当該事業場における過半数組合又は過半数代表者の同意を得ることも困難であろう。

そして、1 年単位の変形労働時間制に関する労使協定において、労使双方が合意すれば、協定期間中であっても変形制の一部を変更することができる旨の規定があったとしても、変形期間の途中で労働日や所定労働時間を変更することはできない(昭和63年3月14日基発第150 号、平成11年1月29日基発第45 号)。この変更は、突発的な事故やトラブルなどだけでなく、天候による学校行事の中止もあり得るが、いったん労働日や労働時間を特定すれば、単に雨が降ったというだけで変更することは許されないのである。

 以上のような行政解釈に照らしても、教員の業務の性質上、変形労働時間制はなじまないばかりか、学校側に無用な事務・作業が増加して長時間労働の温床になりかねない。


(2)変形労働時間制の導入理由

変形労働時間制において、1日の労働時間の限度は10時間、1週間の労働時間の限度は52時間とされており、突発的なものを除き、恒常的な時間外労働はないことが前提とされている。

したがって、そもそも1 日10 時間超の労働を余儀なくされている事業場においては、1年単位の変形労働時間制を導入する基礎がない。

教職員調査結果によれば、通常期における平日1日の実勤務時間は、「10時間超12時間以下」が50.2%と最も多く、次いで「12 時間超14 時間以下」が24.1%であり、約4 分の3の教員が通常期においても10 時間超の労働に従事しているのが実態である。全体の平均実勤務時間は11 時間17 分であった。また、過去1 年間で一番忙しかった時期(繁忙期)における平日の平均実勤務時間は12 時間56 分であり、「変形労働時間制を導入した場合の勤務時間のイメージ」(学校における働き方改革特別部会第19 回配付資料3。以下「導入イメージ」という。)が想定する長期休業期間から学期中に週3~4 時間を割り振るというだけでは長時間労働が抜本的に解決されるわけではないのであり、実態を省みないものである。

答申素案は、1年単位の変形労働時間制を「実際に学校現場に導入するに当たっては、長期休業期間中の業務量を一層縮減することが前提となる」(46 頁)と述べているが、通常期における業務量自体を縮減しなければ、実効性が全くない運用がなされるだけである。

また、答申素案は、1年単位の変形労働時間制を導入しても、「第3 章で示した上限ガイドライン」の範囲内での超過勤務を想定しているかのようである(47 頁)が、1 年単位の変形労働時間制は恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度であることを看過したものである。

変形労働時間制の方が平均勤務時間が長くなるというJILPT の研究結果からしても、恒常的に長時間労働をしている教員には1 年単位の変形労働時間制を導入する合理的な理由はない。
1年単位の変形労働時間制は、現状の違法な超過勤務を少しでも合法化したいという意図があると推測されるが、教員の業務の在り方を見直して、どのような方法により長期休業期間中に休日を取得するのかといった業務の繁閑に応じた労働時間の配分方法を具体的に議論しないのであれば、1 年単位の変形労働時間制を導入する前提を欠く。数合わせのような「導入イメージ」を作成したとしても、結局は新たな違法状態を生み出す温床になるおそれがある。

このような状況で、仮に労働時間規制を「弾力化」したとしても教員の長時間労働問題を解決することにはならないというべきである。


(3)教員のメリットなし

上記のとおり変形労働時間制は、所定労働時間を短縮させるための制度が用意されておらず、休日が増える制度でもない。

制度上、教員の所定労働時間が短縮され、所定休日が増加するのであれば検討の余地はあろうが、そうではなく、単に夏季休業などの長期休業期間中に休日を集中的に取るというだけでは、その余の期間には休日が減って休養を取ることができなくなるのであり、教員にとって不利益はあっても、メリットがあるとはいえない。
教員の自己研鑽や健康の保持増進は、年次有給休暇の取得日数や取得率を向上させるために必要な措置を講じることにより、その時間を確保すべきであり、現行法で十分対応できる。

したがって、教員の資質向上や健康管理は、1 年単位の変形労働時間制を導入する根拠にはなり得ない。


4 労使協定等の排除

 答申素案は、地方公共団体の条例やそれに基づく規則等に基づき一律に学校への変形労働時間制が導入できるかのように記載している(46 頁)が、仮に労使協定を手続要件から除外することを想定しているのであれば、労基法の目的を没却し、教員を無権利状態におとしめることになる。

そもそも労基法は、労働条件の最低基準を定め、労働組合が存在しない職場でも最低の労働条件が維持できることを目的に制定されたものである。特に労働者にとって不利益な施策を実施する場合は、過半数組合又は過半数代表者による労使協定の締結を要件とすることで労使の話し合いによる労働条件設定機能を果たすこととなり、これにより労基法の目的に適うこととなる。1 年単位の変形労働時間制も労働時間規制の弾力化という労働者に不利益な制度であることから、労基法は過半数組合又は過半数代表者との労使協定締結や同意を手続要件としたものである。

答申素案が、職員団体に労働協約締結権が保障されていないことを理由に、労使協定を手続要件から除外しようとしているのであれば、労使協定の性質や効果を理解していないものといわざるを得ない。すなわち、「労使協定の効力は、その協定の定めるところによって労働させても労働基準法に違反しないという免罰効果であり、労働者の民事上の義務は、当該協定から直接生じるものではなく、労働協約、就業規則等の根拠が必要である」(厚生労働省労働基準局編「平成22 年版労働基準法〈上〉」428 頁、労務行政、2011 年)。労使協定と労働協約の性質や効果が本質的に異なるものであり、労使協定が事業場ごとの実情に応じた労働条件を設定する機能があることからすれば、労基法32 条が適用される地方公務員である教員においても、教員の民事上又は任用上の義務を定めた条例や規則の外、免罰効果のある労使協定等、すなわち独立した事業場である学校ごとに少なくとも過半数代表者との労使協定締結や過半数代表者の同意が手続要件とされなければならない。

教員についても、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法5 条及び地方公務員法58 条3 項において、労基法36 条は適用除外とされていない。したがって、現行法上、三六協定の締結は可能なのであるから、仮に答申素案が地方公務員である教員において労使協定を導入することはできないと考えているとしたら、労働法の体系を全く理解していないものである。

1年単位の変形労働時間制、労使協定や過半数代表者の同意について、基礎的な理解もできていないまま、労使協定締結権や同意権を教員から奪い、地方公共団体の判断だけで1 年単位の変形労働時間制を導入できるとの提案を、拙速になすべきではない。


5 長時間労働解決の方向性

教職員調査結果によれば、業務に関連するストレスや悩みの内容は、「長時間勤務の多さ」が43.4%で最も多く、教員が学校における過重勤務防止に向けて必要だと感じる取組は、「教員(専科教員を含む)の増員」が78.5%と最も多く、次いで「学校行事の見直し」が54.4%となっている。

これだけを見ても、長時間労働を是正するには教員の増員や業務量の軽減などにより絶対的な労働時間の量を減らすことが先決であり、文科省は、小手先の制度変更により教員の長時間労働を是正しようとするべきではない。

これに対し、不十分な人員体制・勤務体制の下で業務量が絶対的に多いという状況が変わらないにもかかわらず、1 年単位の変形労働時間制を導入したとしても長時間労働は解消せず、逆に不規則な勤務形態により教員が健康を害するおそれがある。

長時間労働を防止するには、教職員調査結果を分析した2018 年版過労死等防止対策白書が、「学校は集団分析を活用することにより教職員の職場環境改善に繋げていく仕組みが必要である」、「校長が取り組んでいる取組においても、校内会議時間の短縮や学校行事の見直し等が多くなっており、長時間勤務の削減に向けた業務の見直しが重要となっている」(第4章1(2))と指摘していることからしても、学校が主体となった取組を推進することが重要である。

文科省は、まず教員のニーズを把握した上で、中長期的な課題として教員の増員を目指しつつ、労働時間規制の原則を踏まえた抜本的な長時間労働防止対策を策定するというトップダウンと、日々学校で行われている違法な超過勤務を解消するという短期的な課題を解決するため、教育委員会と連携しながら、現場の声を尊重してその取組を支援するというボトムアップを有機的に連携させていかなければならない。

これを怠ったまま、1 年単位の変形労働時間制を導入することは本末転倒であり、立法事実は認められないというべきである。
以 上


【「働き方改革答申素案に関する意見」〔給与法改正〕】

2018 年12 月18 日
全日本教職員組合 常任弁護団
代表弁護士 加藤 健次

中央教育審議会の「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」(素案)(以下「素案」という)について、主に「第6 章 教師の勤務のあり方を踏まえた勤務時間制度の改革」に対する意見を述べる。

1 超過勤務の実態を認めながら時間外割増賃金の支払を否定することは許されない

(1)問題の所在

「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)は、教育公務員について、いわゆる「超勤4項目(「限定4項目」ともいう)に該当する場合を除いて超過勤務を禁止するとともに(6 条1 項)、労基法37 条に基づく時間外割増手当の支払を否定し(3 条2 項)、本俸の他に給与月額の4%相当額を基準として条例で定める「教育調整額」(調整給)を支給するものとされている(3 条1 項)。つまり、超勤4原則以外の超過勤務の禁止と時間外割増手当の不支給が一体のものとして規定されている。

素案は、教員の長時間労働の実態を認めた上で、「教員勤務実態調査の結果によると、所定の勤務時間外に行っている業務としては超勤4項目に関する業務以外のものがほとんどであることが明らかになった。」と述べている(42 頁)。このことは、給特法の根幹をなす「超勤禁止原則」が遵守されていないことを示している。

そこでまず検討しなければならないのは、超勤禁止原則が遵守されていない場合に時間外割増手当の支給をしないことが適正かどうかである。それは、所定時間外で教員が行っている超勤4項目以外の業務を本来給与支給の対象となる労働(勤務)と認めるかどうかという問題である。

(2)校務分掌に基づく勤務は給与支払いの対象となる労働時間である

これまで、給特法の下で、教育公務員の超過勤務は「自発的勤務」とみなされ、給与支払いの対象とはならないとする不合理な解釈がまかり通ってきた。

素案は、この点について、「こうした『自発的勤務』は、管理職からの超過勤務命令の下で行っているものではないものの、そのほとんどが、教師が自らの校務分掌を踏まえて実施しているものであり、それぞれの教師としては業務としてやらなくてはならないものとの意識から行っていることが実態となっている。」と述べる(42 頁)。
この記述は、教師の超過勤務を個々の教師の「意識」に基づくものとしている点で、従来の「自発的勤務」論を維持しているといわざるを得ない。しかし他方で、素案は、これらの超過勤務が「校務分掌を踏まえて」行われているとも指摘している。

校務分掌に基づく業務を行うために超勤せざるを得ないのであれば、明示の超勤命令がなくても、労働時間として時間外割増手当を支給しなければならないというのが、以下述べるように確立された法理である。

超勤4項目以外の長時間の超過勤務の実態を認めながら、「在校等時間」などという曖昧な言葉を使って、労働時間として正面から認めないところに、素案の最大の問題があるといわざるを得ない。


(3)超勤命令に関する裁判例

ア 時間外勤務の認定においては、時間外勤務命令を受けた業務が対象となるが、地公災基金愛知県支部長(豊橋市立石巻中学校)事件で名古屋高裁平成24 年10 月26 日判決は、「教育職員が所定勤務時間内に職務遂行の時間が得られなかったため、その勤務時間内に職務を終えられず、やむを得ずその職務を勤務時間外に遂行しなければならなかったときは、勤務時間外に勤務を命ずる旨の個別的な指揮命令がなかったとしても、それが社会通念上必要と認められるものである限り、包括的な職務命令に基づいた勤務時間外の職務遂行と認められ、指揮命令権者の事実上の拘束力下に置かれた公務にあたる」と判断した。

そして、名古屋高裁判決は、さまざまな校務分掌だけでなく、土曜日や夏休みの陸上部の指導、日曜日の地域クラブ活動の指導、学校祭前夜の夜警なども公務と認め、これらの公務に従事した精神的緊張や長時間労働により脳出血を発症したと判断した。

イ 日常業務を遂行する上で、絶対的な業務量から所定勤務時間内に完了できないのであれば、上司の包括的な職務命令があったものとして勤務時間性が認められるべきである。

地公災基金京都府支部長(宇治市立西小倉小学校)事件で、大阪高裁平成16 年9 月16日判決は、「授業やその他の校内活動をより充実させ、教育の効果を上げるためには、相当の準備が必要と認められ、相当程度の時間外勤務を要する」ところ、被災者は「小学校担任教諭として、相当熱心に授業等の通常の業務や音楽発表会などの学校行事を準備・指導したが、それ自体でも時間外労働をしないではすまされ」ず、「そのほか、担当したクラスが学級崩壊に近い状況であったことから、問題児等に対する教育・指導等のためにも時間と労力を尽くした」ため、「勤務時間内で職務を賄うことができず、学校及び自宅で、相当時間の時間外勤務を行った」のであり、「仮に緊急かつ必要性がそれほど強いと認められないものであっても、時間外勤務に含まれる」と判断した(労判885 号57 頁)。

(4)時間外割増手当の不支給を正当化することはできない

素案は、「これまで『自発的勤務』と整理されてきた超勤4項目以外の業務のための時間についても在校等時間として勤務時間管理の対象とすることが明確となった。」とする(43頁)。超勤4項目以外の業務を勤務時間管理の対象とすることは当然であるが、素案は、時間外勤務手当は支給しないとする現行給特法の枠組みを維持し、超勤4項目以外の勤務時間を給与支払対象となる勤務時間と認めることを否定する。

つまり、素案は、恒常的かつ長時間の超過勤務の実態を認めているにもかかわらず、給与支払に関しては、従来の「自発的勤務」論に固執しているのである。

その背景には、超勤4項目以外の業務を時間外割増手当の対象とすることによって、多額の財政負担が生じるという配慮があると思われる。しかし、財政問題を口実にして、「自発的勤務」という空論によって教員の長時間勤務の実態を覆い隠すことは許されない。


2 教師の長時間労働の実態を直視し、給特法改正を含む抜本的対策が求められている

(1)素案が提起する方向は実効性に欠ける

素案は、超勤4項目以外の超勤について、「在校等時間」として、勤務時間管理の対象とすることを提起し、かつ「上限ガイドライン」による規制を行うとしている。しかし、このような方策だけでは、教員の長時間労働の実態を改善することは期待できないというべきである。

そもそも、現行法制度においても、労基法36 条の適用は排除されておらず、協定がないもとで超過勤務をさせていれば、罰則の対象になる。素案では、この点が全く看過されている。また、前述したとおり、超勤時間に対して時間外割増賃金の支払を否定しているために、時間外割増賃金の抑制という点から勤務時間の短縮を図る動機付けが著しく弱まってしまう。

(2)給特法改正を含む抜本的対策を

教員の長時間労働の改善のために求められているのは、何よりもまず、現実に行われている長時間勤務を「自発的勤務」として教員に責任を転嫁するのではなく、使用者が責任を負うべき勤務時間として正面から認めることである。そのためには、時間外割増手当の支給を否定する給特法3 条2 項の廃止を含めた抜本的改善措置を実施することが必要である。

もっとも、勤務時間に応じた時間外割増手当が支払われればそれでよしとするものではない。給特法が定める超勤禁止原則が実現される方向で、勤務時間の短縮を図る措置を実施しなければならない。最も必要な措置は、教員定数の増加による1人1人の教員の業務負担の軽減である。そして、当面の過渡的措置として、勤務時間の上限、たとえば先の通常国会で成立した改正労基法が定める原則である月45 時間、年360 時間という超勤の上限を定める(但し、例外は認めない)ことが考えられる。


(3)全教弁護団の「給特法改正の基本方向に関する提言案」

全教常任弁護団は、2011 年1 月、「給特法改正の基本方向に関する提言」を発表した。
その概要は以下のとおりである。ぜひ参考にしていただきたい。

① 法改正の趣旨・目的を明確にするために、法律の名称を「教育職員の労働時間の適正な管理と給与等に関する法律」に改め、第1条の「趣旨」も、これに沿う内容に改める。
② 教育の質の確保、教職員の専門制、自主性の保障の観点から「超過勤務禁止の原則」規定(6 条1 項)は維持する。
③ 法律で管理者に教育職員の労働時間を管理する義務があることを明記するとともに、労働時間の上限規制(総量規制)を行う。
④ 時間外割増手当の支払を否定する給特法3 条2 項を廃止し、超過勤務時間については、労基法37 条に基づき、時間外割増手当の支払を義務付ける。但し、現行の「調整給」との関係については別途検討する。

(4)財政的制約を口実にせず、実態に即した抜本的改革を

定員増にしても、時間外割増手当の支払にしても、相応の財政的手当が必要となることは事実である。しかし、財政的制約を前提として、勤務時間制度の改定を論ずることは本末転倒である。

中教審が、教員の長時間勤務の実態をまず直視し、その改善を本気で実現するために、給特法改正も含む抜本的な措置を提起することを求めるものである。

以 上


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