教員定数の抜本改善を~「変形労働時間制」「意識改革」に逃げ込む文科省
教員の多忙化、長時間労働を無視できなくなったが、人員増を要求するのではなく〔今年度は、概算要求の段階で少人数学級を求めていない。〕・・・見かけの残業時間を減らすだけで、かえって過重労働を押し付ける「変形労働時間制」や、教師が好んで長時間労働しているかのような「意識改革」を求める啓発・・・というとんでもない対策を打ち出した文科省。
教員が疲弊し、追い詰められている環境で、どうして子どもの個性を全面的に認め、生かすような対応ができるか ・・・あまりにも自明なのだが・・・。
【「働き方改革答申素案に関する意見」 全教 12/12】
http://www.zenkyo.biz/modules/opinion/detail.php?id=505
【「働き方改革答申素案に関する意見」 全教 12/12】はじめに
文部科学大臣が「看過できない」とした教職員の長時間過密労働を解決するためには、教職員定数を抜本的に改善することをはじめとした教育条件の整備が不可欠です。「答申素案」においても、「はじめに」には「教職員定数の改善」について触れられているにもかかわらず、国が果たすべき財政的措置も含めた具体策は示されていません。また、1 年を単位とする変形労働時間制の導入など、教職員の長時間過密労働をさらに深刻化させる内容が含まれており、このまま答申されることは看過できるものではありません。以下、全教としての「答申素案」に対する考え方を示すものです。1.教職員の長時間過密労働を解消するために、次の3 点を答申に盛り込むべきだと考えます。
(1)教職員の長時間過密労働の解消のためには、教職員定数を抜本的に改善することによって一人あたりの業務量を減らすことが不可欠です。文科省が抜本的な教職員定数改善のための予算を確保し、教職員1 人当たりの持ち授業時間数の上限設定をおこなうとともに少人数学級の実施が必要です。
「特別部会」では国と地方合わせて約9000 億円分に相当する時間外勤務があるとした文科省の試算が示されました。「答申素案」はその事実を踏まえて、抜本的な教職員定数の改善を鮮明に打ち出すことが求められます。(2)過度な競争主義、管理と統制の教育政策を抜本的に転換することです。
全国一斉学力テストや各県独自の学力テストは、学校や市区町村、都道府県間の競争を煽り、特別な事前指導を行うなど、一年間を通じて子どもたちや教職員に心理的にも大きな負担となっています。ただちに中止すべきです。
改訂学習指導要領などによって特定の指導・評価方法を押しつけることはやめ、各学校における学術研究の成果をふまえた科学的な教育内容、教職員の専門職性と自主性を生かした教育課程・学校づくりを保障することが必要です。(3)給特法を教職員の長時間過密労働の解消という視点に立って改正することです。そのために、給特法の原則である「時間外勤務自体が、あくまでも例外的な働き方である」という基本的な理念を維持したうえで、教職調整額4%を上回る時間外労働があった場合には、4%分を上回る金額を精算する形で時間外手当が支給できるようすることです。そのような法的な裏付けを持たない「勤務時間の上限規制に関するガイドライン」は教職員
の長時間過密労働をさらに深刻なものにするだけで、課題の解決に役立つものにはなりません。
2.1 年を単位とする変形労働時間制を「答申素案」に盛り込み、教育現場に導入することには反対です。(1)文科省の2016 年「勤務実態調査」によっても、小学校で3 時間30 分、中学校で3時間47 分の時間外勤務があることが明らかになっています。1 年を単位とする変形労働時間制の導入によって、週3 日~4 日の課業日の勤務時間を1 時間延長しても、実労働時間が減るわけではなく、教職員の時間外勤務時間が短縮されたように見せかけるだけのものとなってしまいます。これでは、教職員の長時間過密労働を覆い隠すものでしかありません。
(2)日常の勤務時間が1年単位の変形労働時間制によって8 時間45 分となれば当然のことながら職員会議や官制研修の終了時間を1時間遅くすることも可能になります。今でも職員会議が終わり、やっと翌日の授業準備や報告書の作成などの業務をしている実態を踏まえれば、帰宅時間がますます遅くなります。また、現行の退勤時間で帰ろうとすれば、1時間の年休を取得しなければならなくなります。
女性教職員が多く、しかも世代交代によって若い教職員が増えている学校現場では育児や介護などを抱えていたり、自らの病気疾患で時間外勤務を極力控えなければ働き続けられない教職員も少なくありません。そうした教職員にとっては、より働きづらいものとなってしまいます。(3)1 年を単位とする変形労働時間制は、そもそも教育現場に導入する余地はありません。
① 1994 年3 月11 日に労働省(当時)が示したガイドラインに反しています。
ガイドラインでは、「あらかじめ業務の繁閑を見込んで、それに合わせて労働時間を配分するものであるので、突発的なものを除き、恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度であること」「業務の性質上一日八時間、週四〇時間を超えて労働させる日又は週の労働時間をあらかじめ定めておくことが困難な業務又は労使協定で定めた時間が業務の都合によって変更されることが通常行われるような業務については、本変形労働時間制を適用する余地はないものであること」とされており、教育現場に導入する余地はありません。② 教育現場の実態を踏まえているとは言い難いものです。
文科省の2006 年の勤務実態調査においても、長期休業中に時間外勤務が存在していることを認めています。2006 年以降も、教育現場では長期休業期間の短縮、土曜授業の振替日の設定、長期休業期間に法的に義務付けられた初任者研修、10 年研、免許更新講習、など様々なものが目白押しで、安易に長期休業期間に休日を増やせるような実態はありません。
長期休業期間は教職員の自主的・創造的な教育実践を作り出すためにも教特法で保障された研修権を行使できるようにすることが必要です。
3.長時間過密労働の解消を教職員の意識改革や自己責任に帰結させることは誤りです。(1)「答申素案」では、「可能な限り短い在校等時間で教育の目標を達成する成果を挙げられるかどうかの能力や働き方改革への取組状況を適正に評価する」「人事評価についても,同じような成果であればより短い在校等時間でその成果を上げた教師に高い評価を付与することとすべき」「現在の長時間勤務の実態の中で,教育の質を向上させるためにこれまでの仕事のやり方を見直し,勤務時間を意識しながらより短い時間で成果を上げることが大切であるという姿勢をそれぞれの教師が持つことができるよう,…積極的な普及啓発を行うべき」などとしています。これでは教職員の自己責任が問われ、「時短ハラスメント」を生み出すことにもつながりかねません。長時間過密労働の要因を個々の教職員の意識や『能率』に矮小化するもので、「答申素案」から削除すべきです。
(2)「答申素案」の「最後に,中央教育審議会として保護者や地域の方々にお願いをしたい」で始まる文章は、文科省をはじめとした教育行政がおこなうべき教育条件や労働条件の整備の不十分さの責任を回避し、父母・保護者の願いを切り捨てることにつながりかねません。ひいては教職員と父母・保護者との間に分断を持ち込むものであり、「答申素案」から削除することを求めます。
以上
「働き方改革ガイドライン案に関する意見」1.給特法の原則に立って、時間外勤務は命じられないことを明記すべきです。
2.その上で、それでもなお生じる時間外勤務があることを認めるのであれば、時間外勤務手当を支給できるように給特法を改正することを明記すべきです。
3.以上の2 点を踏まえた上で、上限規制をするのであれば、違反した場合の罰則規定を含めた上限規制が守られる実効ある施策とセットで示されるべきです。また、勤務時間は重要な労働条件であることから、教職員組合との誠実な協議を前提とすることを明記すべきです。4.上記の3 点についての言及もなく、時間外勤務時間の上限の「目安」のみを示すだけでは、教職員に「ただ働き」を事実上強いるものとなります。上限規制という名で教職員の時間外勤務に正当性を与えることは許されません。
5.とりわけ、「特例的な扱い」として月80 時間から100 時間の時間外勤務を認めようとすることは、際限のない長時間労働に道を開き、教職員の過労死を容認・促進するものであり、断じて容認できません。
以上
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