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水産特区の失敗に学ばない安倍・水産「改革」~漁村崩壊、環境・安全保障のリスク

農業・職の安全・農地、林業・山林につづいて、多国企業へ水産業と浜の管理を売り渡す亡国政策。
 資源管理を口実に、沿岸・中小漁業者に、生活できない「漁獲枠」しか与えず、廃業などに追いやり、「浜の適正管理ができないのなら、漁業権を管理できる民間に付与する」と・・・強制執行するもの。
 外資系の企業が浜と沿岸をおさえることになる。食料確保、環境保全とともに安全保障上も大問題です。
 大騒ぎして導入した宮城県の水産特区の失敗こそ学ぶべきである。、

【漁村崩壊につながる 失敗例に学ばない漁業制度改革 農業情報研究所11/7】

【<浜再生の道 検証・水産業復興特区>(上)誤算/雇用の大義経営を圧迫 河北新報 2018/8/23】
【<浜再生の道 検証・水産業復興特区>(中)対立/漁業者 自治の崩壊懸念  河北新報8/24】
【<浜再生の道 検証・水産業復興特区>(下)針路/衰退歯止めへ模索続く 河北新報8/25】
【民間企業への「漁業権」開放に思う 宮城県漁業協同組合十三浜支所 運営委員長 佐藤清吾さん 生活と自治2/7】

【漁村崩壊につながる 失敗例に学ばない漁業制度改革 農業情報研究所11/7】

 水産改革関連法案が閣議決定された6日、東北の水産県は約70年ぶりとなる漁業制度の改変を厳しく受け止めた。特に漁業者の減少から養殖業への企業参入を促す漁業権見直しは、長年培った「浜の自治」を揺るがすとして強く反発。法案の全容が浜に十分周知されているとは言えず、漁業者は「性急すぎる」といら立ちを募らせる。
 「漁村の崩壊につながりかねないのではないか」

 綾里漁協(大船渡市)の佐々木靖男組合長は、漁協の優先権廃止をうたう漁業権見直しの行方を危惧する。同漁協はホタテ養殖の数量制限などに取り組むが、指導管理が及ばない企業が参入すれば利益優先で数を増やし、質の低下や単価下落につながりかねない。
 宮城県漁協の松本洋一理事長も「漁業者は地域コミュニティーを基盤として共同で漁場を管理してきた。企業が参入した場合、規律を守った使い方ができるだろうか」と不安視した。
 養殖ホタテの水揚げが全国有数の青森県。平内町漁協の柴田操参事は「組合員は減っているが、若手の後継者は育っている」と説明。「企業は生産性を考える。うまくいかなければ放り投げ、漁業が廃れる可能性がある」と否定的だ。
 石巻市で特産のカキの養殖を営む高橋文生さん(68)は「どれだけ現場の事情を理解した上で議論を進めてきたのか。影響は未知数だ」と指摘した。一方、宮城県漁協かき部会長の須田政吉さん(65)は漁業の先細りを懸念し「国産の水産物を消費者に届け続けるには仕方のないこと」と一定の理解を示した。
 法案に先行し宮城県は2013年、漁業権の優先順位を廃止する水産業復興特区を導入した。提唱した村井嘉浩知事は取材に「達成感がある。(宮城のケースを)政府が成功事例として捉えた。全国的に漁協が面倒を見られない地域には民間が入っていくだろう」との見通しを示した(<漁業権見直し>東北の漁業者「漁村廃れる」強く反発 「仕方ない」理解の声も 河北新報 18.11.7)

◎ 投資に見合う利益困難/東北大大学院農学研究科 片山知史教授 
 -国は漁業権の優先順位廃止を盛り込んだ水産業改革を推し進めている。

 「ハマチやタイなどの投餌養殖と異なり、カキなどの養殖は海のプランクトンなどを利用する。野生生物を捕っているのと同じで、自然に規定された量以上は見込めない。企業参入の道を開き投資を呼び込んでも、それに見合った利益を確保するのは困難だろう」

 -漁協は「浜のルール」を主張する。

 「漁場の調整は非常に難しい作業。海中に多数の小規模漁業が混在し、海流の良しあしなどの問題もある。漁業者同士の亀裂を生まないよう漁協が細やかな調整を担ってきた。行政が一手に担うのは難しい」

 -宮城の水産特区から何を学ぶか。

 「漁業権の優先順位廃止は水産業改革の大看板の一つであり、発想や仕組みは(宮城の)特区と同じ。今回の特区制度で水産業の問題は解決できなかった。持続可能なのは、やはりコミュニティーを基盤とした身の丈に合った漁業だ」〔 <浜再生の道 検証・水産業復興特区>2氏インタビュー/LLC、その成否と展望 河北新報 18.8.24〕

*河北新報・連載/生活と自治記事

水産特区構想は震災直後の2011年5月10日に急浮上したものです。津波で疲労困憊している漁民に、上から石を投げているようなものではないかと強い憤りを覚えましたね。当時はちょうど漁業権の更新時期の直前で、大災害に乗じて許認可権を持つ知事が、漁業者の権利の割譲を迫った制度改変を許してはならないと思いました。というのも、あえて特区にしなくても、民間企業が漁協の組合員になり、漁業に参入している事例があるからです。特区導入を急いだのは、別の狙いがあるとしか考えられません。

問題は特区推進論者が求めてきた漁業権の更新時期に隠されていると私は捉えています。宮城県の特区構想の前身となったのが2007年に経団連が発表した「高木提言」です。元農林水産省事務次官と水産庁の資源課長、財界、金融、流通、大手水産会社の代表者らがまとめたものです。そこには漁業権の更新時期を20年に1回とし、その権利を譲渡可能なものとする方向性が示されています。事実、宮城県の水産特区で漁業権を取得した場合、当該企業が返上の意思を持たない限り、更新時期が来ても漁業権を喪失することはないと聞いています。

漁業権は本来、資源管理をして漁業を営み、漁村で暮らしていく人びとのためにあるものです。漁業をしなくなれば、割り当てられた権利はいったん手放す形になりますし、権利自体に金銭価値はありません。今後、水産特区構想が一般化するようなことがあれば、宮城の事例のように更新時期が来ても、参入企業は漁業権を失うことなく、他の企業に渡すときには金銭交換できるようになる可能性も否定できません。さらに最終的には漁業権は証券化され、投機対象として自由に売買できるようになる恐れまで出てきます。私たちの共有財産であり、いのちの源でもある海の「切り売り」が許されていいはずがないのです。

【水産業改革の是非を問う漁業権開放は何をもたらすか(特報) 東京新聞 18.11.3 朝刊 28-29面】
181132935
 
 「西欧では国境の山間地で・・・安全保障政策として補助金を出している」・・
 フランス農業近代化政策の立役者であるE・ピザー二を山地政策の模索に駈りたてたのは、欧州が統合に向かうその時に、ヨ-ロッパの中心、すなわちアルプス等フランス東部山地に広大な無人の地が存在することへの危機感、「我々の同国人でない者がこれらの土地に住むことへの恐れ」であった(北林寿信 フランス山地政策の胎動 レファレンス 1998年5月号 91頁)。


【<浜再生の道 検証・水産業復興特区>(上)誤算/雇用の大義経営を圧迫 河北新報 2018/8/23】

 東日本大震災からの漁業再生の呼び水として宮城県が2013年に導入した水産業復興特区は、9月予定の漁業権一斉更新を前に次期の適用が見送られた。震災直後、県漁協の激しい反発を押し切って動きだした漁業の新しい形は浜の復興にどんな役割を果たしたのか。7年半の歩みとこれからを探る。(石巻総局・関根梢)

 津波の爪痕を残す荒涼とした浜で、ひときわ目立つ白い社屋がある。
 牡鹿半島北西部の石巻市桃浦にある「桃浦かき生産者合同会社(LLC)」。地元漁業者15人と仙台水産(仙台市)が12年、1年後の特区活用を前提に設立した。特区が適用された初の、そして唯一の企業だ。
 特区が描いた絵は希望に満ち、華々しかった。

<若者呼び込む>
 目標の設定期間は16年までの5年間。「年間生産額は震災前比50%増」「地元漁民15人の雇用とさらに約40人の雇用創出」。そして「持続的、安定的な産業形成によるコミュニティー再生」(県復興推進計画)。
 LLC設立後に加わった社員は11人。漁師の世界に初めて入った人もいる。県内の13~16年の新規就業者は132人。一つの浜だけで11人を確保したことは、漁業新時代の息吹を感じさせた。
 「漁師に憧れがあった」「給料をもらいながら漁業ができる」
 県が3月に発表した特区の検証には、LLCに入社した新規就業者の声が並ぶ。企業人として漁業に携わるスタイルは就業のハードルを下げ、若者らから一定の支持を得た。
 光が差し込む一方、数字は現実の厳しさを物語る。

<生産伸び悩む>
 16年度のカキ生産量は95トンで、計画比の68%にとどまった。生産額は1億9268万円で、同64%。雇用は16年度、社員27人とパート14人の計41人。当初計画比15人のマイナスだ。
 生産額は、漁協所属の経営体が14年度に震災前水準まで回復したのに対し、桃浦地区は震災前に達しておらず、描かれた目標に比べると物足りなさが残る。
 16年度の純損失は3800万円に達した。17年度も370万円の赤字。要因は生産額の伸び悩みと、水揚げの多少にかかわらず固定された人件費だった。生業の維持という特区の大義名分が経営を圧迫する。
 県水産業振興課の担当者は「特区導入の目的を考慮すると、不漁だからといって人件費を抑制することはできない」と説明する。
 何より、津波で壊滅した地域のコミュニティー再生は完全な空振りだった。
 震災前、桃浦には74世帯185人が暮らした。今は18世帯30人。漁港周辺は災害危険区域に指定されている。新たな住民受け入れのハードルは高い。
 今年3月まで桃浦地区の行政区長を務めた甲谷強さん(89)は言う。
 「地元に住むLLC社員は10人足らず。特区を取り入れても何の変化もない。住宅関連の制度と連動しておらず、特区だけでは地域の再生は見通せない」

[水産業復興特区]漁業法を一部緩和し、地元漁業者だけでは復旧が困難な地域に企業の参入を促す制度。漁業法は漁業権の優先順位を規定し、競合があれば第1位の地元漁協に免許が付与される。特区では優先順位が撤廃され、漁業者主体の法人に県が直接免許を与える。政府方針として6月にまとめられた水産改革にも優先順位廃止が盛り込まれている。



【<浜再生の道 検証・水産業復興特区>(中)対立/漁業者 自治の崩壊懸念  河北新報8/24】

 あの喧噪(けんそう)は何だったのか。
 「申請の競合がなく、現行の漁業法に従って漁業権を付与する」。今月10日、漁業権の適格性を審査する宮城海区漁業調整委員会。県は水産業復興特区の適用見送りを淡々と説明した。
 東日本大震災の津波が漁場を破壊して間もない2011年5月10日。村井嘉浩知事は政府の復興構想会議の席上、水産特区構想を提起し、「民間資本の導入を促し、担い手の選択肢を広げるべきだ」と打ち上げた。

<「変わる時期」>
 「鉄のルール」に風穴を開ける提案だった。態度を硬化させた県漁協の反応は素早かった。翌11日、「企業参入は容認できない」との見解を表明する。「企業に隷属するつもりはない」「地域の荒廃と崩壊を招く」。反対の文言は激烈を極めた。
 騒然とする漁業者を相手に、村井知事は主張を曲げなかった。
 「今までのスキームで企業が入れるなら、県内に企業がたくさん入ってきているはず」。構想の提起から1カ月後の定例記者会見で意義を改めて強調し、「(農業と同様に)漁業も民間の力を借りながら力を付ける。シフトチェンジをする時期ではないか」と迫った。
 現行の漁業法でも企業の漁業権獲得は可能だ。ただ企業が漁業権を取得しても、優先権がある漁協がその漁場への参入を表明すれば撤退せざるを得ない。事業継続の不透明さは、看過できないリスクだった。
 対する漁業者は「浜の自治の崩壊」を恐れた。
 県漁協が主導する衛生管理などの規則は、宮城のカキのブランド力を保持する上で欠かせない。漁場の割り当ては漁協が主体となって漁業者間の調整を担う。漁業者は自主的にルールを作り、現場の紛争防止や漁場の保全を図ってきた。
 当時県漁協会長として村井知事と対峙(たいじ)した木村稔さん(78)=石巻市=は「民間に開放すれば浜の分断を招くだけだ。県から直接免許を受ける企業が、浜のやり方に従うとは思えなかった」と振り返る。

<連携も選択肢>
 県は13年9月、桃浦かき生産者合同会社(石巻市)に漁業権を付与する。村井知事は県漁協側に導入の経緯をわび、「休戦」となった。
 津波は多くの漁民の命を奪った。漁船や漁具を失った漁業者は途方に暮れた。
 11年6月に県漁協会長に就いた菊地伸悦さん(73)=宮城県亘理町=は「明確に反対の意思を持っていた組合員は半数に満たなかったのではないか」と推測。「『一刻も早く復旧復興を果たさなければ』という思いは同じ。知事の決断は責められない」と理解を示す。
 震災後、県内の漁業集落は過疎化が進み、人手不足が深刻化する。菊地さんは「従来のやり方では、後継者を生まなかった。これからは、信頼のおける企業との連携も一つの選択肢になっていい」と話した。

【<浜再生の道 検証・水産業復興特区>(下)針路/衰退歯止めへ模索続く 河北新報8/25】

 水産業復興特区の導入から5年。この間、宮城県内の浜には3度、不穏な空気が流れた。
 桃浦かき生産者合同会社(LLC、石巻市)は2014、16年、県漁協などが申し合わせたカキの解禁日前に出荷を始めた。17年には県漁協の共同販売向けに出荷された他地区産を「桃浦かき」の商品名で販売したことが明るみに出る。

<対立に嫌気も>
 「裏切られた。漁業者の本分を忘れている」「県産カキの信用を失墜させるつもりか」。漁業者の「おきて」を破る行為に生産者らは不信感を強めた。
 一方、浜に呼び込まれた対立の構図に嫌気が差す漁業者も増えていった。
 県漁協は7月、2カ月後に控えた区画漁業権免許の更新の際、LLCが使う漁場への免許申請を回避することを確認。事実上、LLCの事業継続を容認した。
 幹部の一人は「特区反対の姿勢は変わっていない」と語りつつ、「もう5年前のような衝突は繰り返したくない」とこぼした。
 懸念された漁場利用を巡るトラブルは生じていない。管内に桃浦地区を抱える県漁協石巻地区支所の伏見真司運営委員長は、地元漁業者の代表としてLLCとの付き合い方を模索してきた。今は「それぞれに粛々とやるだけ」と静観する。
 LLC側も地元漁民との連携を探り始めた。「石巻湾」「石巻地区」「石巻市東部」の漁協3支所が取り組む水産養殖管理協議会(ASC)の国際認証取得に参画。協調して品質アップに取り組む姿勢を鮮明にした。社員と地元支所青年部の交流も図る。

<43年に半減か>
 震災後に加速した漁業の衰退は、三陸の海にも襲い掛かる。
 宮城県内の漁業就業者は08年の約9700人から、震災を挟み6516人(13年)に激減。減少率は33%に達し、全国平均(18%)を大きく上回った。高齢化はさらに深刻で、13年は60歳以上の就業者が全体の47.8%を占めた。
 県は17年、新規就業者の確保や育成策を講じなければ、県内の漁業就業者は43年に半減するという衝撃的な推計を公表した。
 新たな一手を打たなければ、日本の水産業は衰退の一途をたどる。改革のうねりが顕在化した。
 政府は6月、漁業の成長産業化を打ち出し、水産業改革の議論を本格化させた。企業参入を促すため、水産特区に倣う形で漁業権の優先順位廃止を明記。かつて特区に反対した全国漁業協同組合連合会(全漁連)は受け入れる方向で検討を進める。
 村井嘉浩知事は今月6日の定例記者会見で「漁業権を民間に与えても当初問題視されたことは発現しなかった。日本の水産業に大きな一石を投じた」と意義を強調した。
 水産特区の成否は。あるいは功罪は。先駆けとなった桃浦の浜は今も模索を続ける。

【民間企業への「漁業権」開放に思う 宮城県漁業協同組合十三浜支所 運営委員長 佐藤清吾さん 生活と自治2/7】

東日本大震災の際に発生した巨大津波は、国内屈指の漁獲量を誇った東北地方の太平洋沿岸地域に押し寄せ、壊滅的な被害を与えた。地元漁業の早期再開を訴える宮城県は、地元の漁業者に割り当てられていた「漁業権」を民間企業に開放する「水産業復興特区制度」を導入。この水産特区導入を糸口に、政府は漁業権のさらなる民間開放を進める意向を示している。これら一連の動きの背景を宮城県漁協十三浜支所運営委員長の佐藤清吾さんに聞いた。

──「漁業権」とはどういうものですか。

ワカメ、カキ、ホタテ、アワビなどの海産物には、宮城県の三陸地域で養殖された海産物が少なくありません。これらが都市部の小売店の店頭に並び、みなさんの手元に届くのは漁業者の仕事があるからです。漁業者の仕事場である海には、生産条件のいい場所もあれば、生産効率の悪い場所もあります。同じ地域で暮らしを営んでいる漁業者に、条件が異なる漁場(生産現場)を割り振るには、みなで話し合って平等に調整する必要があります。
加えて、海産物の種類によっては、採取の禁止区域、禁止期間、体長(大きさ)制限などを設定して、限られた海洋資源を取り尽くさないようなルールも作ります。そうした調整や規則をもとに、「とりすぎない」「よごさない」という漁業秩序を守りながら、水産資源を維持しようとする漁業者に与えられるのが、海を利用する権利として、漁業法で定められた漁業権です。

漁業権は江戸時代に原型が作られました。漁村に住んでいる人間が魚や貝を採り、将来に渡って海のそばで暮らせる、資源が枯渇しないような持続的な漁業を続けながら漁村で暮らしていくための知恵といってもいいでしょう。漁業権は漁業をやめた時点で失われ、売り買いできるものではありません。

──「漁業権」はだれにでも取得できるのですか。

漁業権は都道府県知事の免許制度に基づいて与えられます。しかし、だれに操業を認めて、どんなルールを適用するかは個別の地域でなければ判断しにくいため、各地の漁業協同組合(漁協)が免許を受け、運用しています。全国に979(2013年3月末現在)ある漁協が、それぞれの構成員である組合員と調整した結果を踏まえ、各漁業者に漁業権を付与し、海の利用を認めています。あくまでも漁協は漁業権の配分を調整する組織であり、権利の主体は漁業者です。

漁業権は大きく2種類に分けられています。一つは特定のだれかに与えられれば他の人は使えなくなる権利で、カキやホタテなどの養殖業に適用される「区画漁業権」と、漁具を固定してブリやサバなどの漁獲を目的に定置網を仕掛ける「定置漁業権」。もう一つが、漁場を交代で利用する「共同漁業権」です。貝や海藻、刺し網漁など、比較的陸地に近いところで行われる漁業に必要とされます。「区画漁業権」と「定置漁業権」は5年ごと、「共同漁業権」は10年ごとに更新され、だれに付与するかは漁協が調整して判断します。

──東日本大震災の後、宮城県の村井嘉浩知事が「水産業復興特区」の構想を発表。漁協の組合員に与えられてきた漁業権が、漁協を通さなくても企業や法人にも与えられるようになったそうですね。

水産特区構想は震災直後の2011年5月10日に急浮上したものです。津波で疲労困憊している漁民に、上から石を投げているようなものではないかと強い憤りを覚えましたね。当時はちょうど漁業権の更新時期の直前で、大災害に乗じて許認可権を持つ知事が、漁業者の権利の割譲を迫った制度改変を許してはならないと思いました。というのも、あえて特区にしなくても、民間企業が漁協の組合員になり、漁業に参入している事例があるからです。特区導入を急いだのは、別の狙いがあるとしか考えられません。

問題は特区推進論者が求めてきた漁業権の更新時期に隠されていると私は捉えています。宮城県の特区構想の前身となったのが2007年に経団連が発表した「高木提言」です。元農林水産省事務次官と水産庁の資源課長、財界、金融、流通、大手水産会社の代表者らがまとめたものです。そこには漁業権の更新時期を20年に1回とし、その権利を譲渡可能なものとする方向性が示されています。事実、宮城県の水産特区で漁業権を取得した場合、当該企業が返上の意思を持たない限り、更新時期が来ても漁業権を喪失することはないと聞いています。

漁業権は本来、資源管理をして漁業を営み、漁村で暮らしていく人びとのためにあるものです。漁業をしなくなれば、割り当てられた権利はいったん手放す形になりますし、権利自体に金銭価値はありません。今後、水産特区構想が一般化するようなことがあれば、宮城の事例のように更新時期が来ても、参入企業は漁業権を失うことなく、他の企業に渡すときには金銭交換できるようになる可能性も否定できません。さらに最終的には漁業権は証券化され、投機対象として自由に売買できるようになる恐れまで出てきます。私たちの共有財産であり、いのちの源でもある海の「切り売り」が許されていいはずがないのです。

──昨年12月、「津波のあとの十三浜」という本を自費出版されたそうですね。

東日本大震災から、多くの人の力をもらい、支援を受けて復興につなげられました。とてもありがたく思っています。震災は実に悲しく厳しい体験ですが、見て見ぬふりをしない人間のいいところが、あの震災で顕在化したなと実感しています。私は十三浜に支援に来てくれた人たちの受け入れ窓口でしたし、自分が死んだらだれも被災体験を語り継ぐ者がいなくなるという思いから、どういう人が支援をしてくれたかという震災後の記録を残しておきたいと考えました。

──震災後の十三浜の漁業の様子や、水産特区に対する思いも書かれていますね。

310人いた十三浜支所の正組合員は、120人になりました。私たちは減った組合員の漁場を、残った漁業者に割り当て、経営面積を増やしました。これにより所得が向上し、一度は故郷を離れた子どもが戻ってきたという漁業者もいます。対して、村井宮城県知事の主張は「この震災で30%の漁民がいなくなり、漁場が余る。そこに企業をいれよう」という発想でした。

そうではなくて、空いた漁場を残された漁業者に割り当てれば、所得も上がり、後継者は増えるのは確実です。えさのないところに生き物が住まないのと同じように、安定した暮らしを支える所得が確保できなければ、別な道を選択するしかありません。漁業者の所得問題を解決するには、漁場の規模拡大が重要です。

たとえば養殖漁場が拡大すれば、ゆったりした面積でカキやホタテが育てられます。資源管理も進み、良質な水産物が出荷でき、所得もおのずと向上するはずです。株主利益のための利潤追求を至上目的とせざるを得ない企業とは異なり、組合員の暮らしを守るための協同組合である漁協は、常に地域の漁業者とともにあり、彼らを見捨てたりはしません。

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