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増加する学校統廃合 今こそ転換を ~実態と課題 

 自治体問題研究所のウェブササイトから、学校統廃合にかかわる論文2本。
 地方創生というなら、地域コミュニティの核である学校の位置づけはきわめて重い。統合すれば、教員が減り、教員一人当たりの児童・生徒数が増える。子どもにとって現在の学校は、過度に競争的で過度なつめこみにより強いストレスがかかるものになっている。丁寧な対応ができる小規模校は大切な存在である。

【学校統廃合で広域化が進む学区域とマンモス校―学校再編の実態と課題― 山本由美・和光大学教授 『住民と自治』 2018年9月号】
【公共施設等総合管理計画と学校統廃合 平岡和久・立命館大学教授 『住民と自治』 2018年9月号】


【学校統廃合で広域化が進む学区域とマンモス校―学校再編の実態と課題― 山本由美・和光大学教授 『住民と自治』 2018年9月号】


コスト削減、新自由主義的な地域再編のため、政策誘導による学校統廃合が急増し、「義務教育学校」や小中一貫校を用い、合併した旧自治体の全小・中をまとめる広域学区が出現しています。

◆増加する統廃合

全国で学校統廃合が急増しています。文科省は廃校数の公表に積極的ではないようです。図は廃校数の年度推移について文科省が公表した2つのデータをもとに作成したものですが、同年度の廃校数がデータによって微妙に違っていました。また2016、17年度の廃校数は公表されていませんが、2018年7月に直接文科省に問い合わせたところ、まだ集計中であるとの回答が戻ってきました。
20181002

この増加の背景には、第1に、2014-2016年度の間に全自治体が総務省に提出を「要請」された公共施設等総合管理計画の影響があります。人口減に対応して「算定」される赤字を前提に公共施設の総量(延べ床面積)を減少させることを数値目標に掲げさせようとする同計画のために、多くの小中学校が統合対象にされています。計画に沿えば、施設解体費や規模の「最適化(単なる統廃合であろうが)」、施設の「複合化」などに地方債を適用することが可能になるなど、強力な財政誘導によって統廃合が進められています。第2に、2015年に文科省が58年ぶりに公表した「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」も大きく影響しています。第3に、2016年度から開設された新たな学校種である「義務教育学校」および増加する小中一貫校の影響があります。

文科省は「小中学校及び高等学校の統廃合の現状と課題」という資料で、2014-2016年までの統廃合件数とそれに伴う校数の減少を、順に216件(531校⇨225校)、202件(503校⇨219校)、221件(543校⇨234校)と公表しています。そのうち、2016年度から導入された義務教育学校および施設一体型小中一貫校による統廃合が29件あり、94校が48校に減少したと公表しています。文科省自身が小中一貫校を統廃合の方途として認識しているのです。
・「表」略

表は、2016・2018年度に開設された「義務教育学校」の一覧です。「義務教育学校」とは小・中9年間を一貫させた、校長1名、教職員集団1つの学校です。9年一貫の教育課程は適当なコピー&ペーストでも作れる上に、教員の定数削減には有効な手段となります。2016年度に22校、表にはありませんが2017年度に26校、2018年度の開設校の約2分の1が過疎地の小規模校であり、地域に学校を存続させるために小・中を一体化させざるをえなかったケースも多くあります。他方、教員定数を確保するためか、もしくは極端な変更を避けて保護者や住民の抵抗感を和らげるために、「義務教育学校」化せず、とりあえず小中校長2名体制の施設一体型小中一貫校をめざすケースもあります。

それらのなかには、同時に「小規模特認校」となり、学区外から入学者を集めて存続を図る学校もあります。不登校傾向や大規模校を避けたいなどの理由から、あるいは小規模校ならではの「特色」を求めて、市街地から越境して入学してくるような学校となっています。

全校児童生徒が十数名の「小中併置校」がそのままスライドしただけの学校も複数あります。他方、2016年度の茨城県つくば市の春日学園の約2100人(2018年度に新設校に分離)を筆頭に1000人以上の規模の学校も一定程度開設されており、二極化が進んでいます。一度に統合する校数もつくば市の秀峰筑波義務教育学校の2中学校7小学校を筆頭に、多くの校数を一度にまとめるケースが増えています。同校は旧筑波町のすべての小中学校を約1000人規模の新設校にまとめたもので、スクールバス20台を利用する広域学区の学校になりました。当初は旧町東部の1中学校4小学校のみの統合計画だったものに、西部の1中学校3小学校が地元の「要望」を発端に参入することになったという異例のケースです。その背景には、統合しないと校舎が老朽化したままにおかれることへの不安や、同市の「義務教育学校」の過剰なブランド戦略があると思われます。

増加の背景には「義務教育学校」法制化に伴う「義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律」改正の影響があります。これまでは小学校同士、中学校同士の統合の場合のみが、校舎建設費の2分の1国庫負担の対象となっていましたが、「義務教育学校」も加えられたのでした。それに対して危険校舎の改修の場合、国庫負担は3分の1のみです。

すなわち、もし小学校と中学校を統合し「義務教育学校」にしさえすれば、2分の1を国が負担して校舎を建てられることが統合を誘導しています。単なる「施設一体型小中一貫校」では対象にならないのです。たとえば、岡山県美咲町では、老朽化した中学校のみの改修で済むのに、補助金を得るためにわざわざ近隣の小学校2校を巻き込んで「義務教育学校」を計画しています。町は、財政的理由を前面に出しています。しかし、多くのケースで保護者や住民は「義務教育学校」とは何か十分に説明されていません。

◆広域化する学区域

また、合併した旧自治体の全小中学校を1校にまとめるような強硬な統廃合、小中一貫校化が出現しています。平成の合併から10年を経て地方交付税減額期を迎え、5年後には合併後自治体分のみの交付となり、財政難から以前の自治体が保持してきた公共施設を維持できなくなることを「口実」にあげることも多いです。とくに延べ床面積の大きい小中学校施設が絶好のターゲットにされています。たとえば、2町2村が合併した愛知県愛西市では、公共施設等総合管理計画の筆頭に、まず地方交付税減額期を迎える財政事情が図示されています。その上で、30年間で公共施設の延べ床面積の約30%を削減することが数値目標とされ、学校統合計画が盛り込まれています。それを受けて2中学校4小学校を1校に統合する計画が教育委員会で議決されました。この計画が実現すれば、合併した旧八開村からはすべての学校施設がなくなることになります。

このような施策によってこれまでの小学校区は消滅します。小学校区は昭和の合併前の旧村であることが多く生活圏として自治的な機能を持ち、福祉などの基礎単位でもありました。それを壊すことで地域は自治的な機能を奪われ、容易に大企業が活動しやすい新自由主義的な大規模再編の対象となります。何より小学校を失った地域に子育て世帯がもう戻ることはなく、衰退を待つだけになってしまいます。せっかく自然豊かな教育環境を求めてIターンやUターンした家族が増えてきた小学校区コミュニティーが簡単に壊されてしまいます。そして、このような家族と小学校区単位の町会など自治組織が、最も強く地域の学校統合に反対しているのが現状です。前者は地域のしがらみに縛られにくい、といった理由も存在するのでしょうが、何よりも地域で子どもを育てることの教育的価値を実感として認めているからこそ、抵抗するのです。

◆利用される「教育的」理由と保護者の切り崩し

このような統廃合、小中一貫校導入に際して、行政は「教育学」的根拠を利用し不安をあおられた保護者が分断されます。まず統合理由として学校規模、児童・生徒数についての自治体の独自基準が用いられます。昭和の合併期に、当時の文部省が人口8000人に1中学という行政効率性から算出した学級規模である「12~18学級」が「標準学級数」として学校教育法施行令などに残っています。それを独自に「適正規模」とし、それ以下の学校を統合対象とするケースは一般的です。しかしそれ以上に統合したいターゲットに合わせて勝手に基準を小さめに設定する自治体が多くあります。前出の文科省「手引」も、単学級以下校の「統廃合の適否を速やかに検討する」などと「学級数」別対応基準を公表しています。1973年に文部省が公表した、いわゆるUターン通達が小規模校の教育的価値を認め機械的な統廃合を否定しているにもかかわらず、それを無視した形になっています。
たとえば広島県福山市は1学級16人以上・単学級の小学校を「第1要件」とし、2020年までに統廃合で「適正規模」にするといった期限付きの極めて厳しい統合基準を公表しています。その計画に従うと、合併した旧内海町(離島)の1中学校2小学校はすべて消え、橋を越えた旧沼隈町の小中学校と一体化されてしまいます。

さらに、教育的俗説なのに多用されてきた「切磋琢磨」などに加え、新学習指導要領に盛り込まれた「新しい学び」「対話的な学び」「双方向的な学び」などを行うのに一定規模の集団が要る、という説明が保護者の不安をあおります。そのような「学び」は具体的にどのようなもので何人が必要なのか、また教育的効果との相関など実証されているわけではありません。究極の脅しは「複式学級の導入」です。しかし2011年の「公立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数法」の一部改正などにより、自治体の学級編成は自由裁量が認められるようになっていて、長野県阿智村などは村費講師で複式学級を解消しています。また、複式学級と普通学級の教育的効果やデメリットの相違については教育学的には差異は認められていません。複式学級には独自の学びのスタイルなどの豊かな教育学的蓄積があるのに、それを無視して行政は偏見的な批判を行っているのです。

◆巨大規模校の出現も

表において、過疎地の小規模校とは対照的に大規模な学校も出現しています。最初に「義務教育学校」になった東京都品川区の6校は全国モデルとして施設一体型小中一貫校からスライドしたものですが、生徒指導面などの課題も多く早急な検証が必要であると思われます。また、前述のつくば市の春日学園は2017年度の1年生が9クラス編成となり、運動会は1年生のみ対象、2~4年生対象、5~9年生対象と3回に分けて行われました。2018年度から、新たに近隣地域に学園の森、みどりの学園という2校の義務教育学校が新設され、春日学園の児童生徒が移行して、それぞれ1000人規模の学校となっています。

この背景には、つくば市を含むつくばエクスプレス(2005年開通)沿線への子育て世帯の大量流入があります。同沿線の千葉県流山市にもさらに大量の児童・生徒増が見られます。流山市では、当初、子育て世帯を呼び寄せる目玉とされたおおたかの森小中併設校は、1学年4クラスを予定していましたが、児童生徒数急増に対応して増築し、現在1~9年生で56クラス(特別支援級を含む)の巨大校となっています。さらに、市はやや離れた農地に新設小学校を予定していますが、「適正規模」の上限を「48学級(学年8クラス)」に設定しています。しかし学校が大規模すぎることや、新たな学区割りが、生活圏を無視し従来の住民自治組織を分割するものになるなど、多くの課題が生まれています。何よりも、一過性の人口増に対応するだけで、小学校区を核に地域コミュニティーをつくっていくなど持続可能なまちづくりのビジョンがない点は問題です。コミュニティーが形成されないと反対運動が組織されません。

他にも、東京都杉並区高円寺地区の1中学校2小学校を統合する6階建て大規模小中一貫校など、教育の中身は後回しにした大規模「収容」型の学校が、地域住民の反対を押し切って建設されています。新自由主義教育改革が進むアメリカで、切り捨ての対象となる都市の代表格であるデトロイト市において、校種を超えた統廃合が繰り返され、幼稚園から短大を含むような超大規模「収容」型学校が出現したことを後追いするかのようです。それによって同市の公立学校数は10年で3分の1以下になりました。このような地域の切り捨て・再編に教育が利用される改革に対して、コミュニティーが共同して対抗していくことが求められます。


【公共施設等総合管理計画と学校統廃合 平岡和久・立命館大学教授 『住民と自治』 2018年9月号】

いま、公立学校が、公共施設の総量削減を目指す公共施設等総合管理計画の主要なターゲットになっています。
公立学校の個別計画の策定にあたって、考えるべき点を提起します。

◆はじめに

現在、全国の自治体は、公共施設等総合管理計画を策定し、公共施設の総量削減を含む計画を進めています。自治体の当面の課題として、個別施設計画(長寿命化計画)の策定がありますが、そこでは公立小中学校のあり方が焦点の一つとなっています。それには以下のような理由があります。第一に、公共施設の4割近くを占める学校施設のウエートの大きさです。公共施設の集約・複合化や延べ床面積の削減目標を達成するため、公立小中学校の集約・複合化は主要なターゲットになっています。第二に、学校施設の老朽化が進行しており、建築後25年以上を経過している公立小中学校施設が保有面積の7割超となっていることから、老朽化対策を迫られている事情があります。第三に、文科省による小中学校適正規模・適正配置の名のもとでの学校統廃合の推進です。第四に、地方創生政策における地域再編・行財政合理化策において、小中学校の統廃合がポイントとなっていることです。

本稿では、現在、各地で強力に推進されている学校統廃合の背景にある公共施設等総合管理計画の概要を整理するとともに、公立小中学校に適用されることによる問題点を明らかにします。また、人口減少下における学校施設のあり方や公立小中学校と地域との関係のあり方を考えます。

◆学校施設の老朽化対策と長寿命化計画

文科省は、総務省が公共施設等総合管理計画を推進する以前から、学校施設の耐震化や老朽化対策を進めており、老朽化した学校施設に対して改築への補助とともに大規模改造への補助を行ってきました。しかし、大規模改造は補助率3分の1であり、地方財政措置はありません。それに対して、改築には3分の1補助とともに地方財政措置が講じられ、地方の実質的負担が26・7%と有利な制度となっています。それゆえ、自治体においては改築が選好されてきました。

文科省は、政府が2013年11月に策定したインフラ長寿命化基本計画にもとづき、2015年3月、インフラ長寿命化計画(行動計画)を策定しました。そこでは、これまでの改築中心から長寿命化への転換による、中長期的な維持管理などに係るトータルコストの縮減が目指されました。2013年度には長寿命化改良事業が創設され、改築と同様な地方財政措置により、地方の実質的負担が26・7%とされました(国庫補助3分の1、地方負担分の地方債充当率90%、交付税措置率66・7%、下限額7000万円)。

学校施設の長寿命化を進めることは重要ですが、問題は、そこに政府の経済・財政再生計画、文科省の公立小中学校の適正規模・適正配置推進策および地方創生政策が入り込んだことによる影響です。次にこの点を確認していきます。

◆経済・財政再生計画、地方創生政策と学校統廃合

(1)文科省による学校統廃合推進

学校統廃合に大きく影響を与えているのが、文科省の適正規模、適正配置および小中一貫教育校の推進です。文科省が2015年1月に公表した「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」において、通学条件の基準である小学校4㌔㍍、中学校6㌔㍍を超える場合でも、交通機関の利用を前提に1時間以内の通学時間を一応の目安とすることが示されました。ただし手引では、学校の地域コミュニティの核としての性格に配慮が求められることも指摘しており、地域住民の十分な協力を得るなど「地域とともにある学校づくり」の視点を踏まえた丁寧な議論を行うことが望まれるとしています。また、地理的要因や過疎地などの事情を考慮した小規模校の存続が必要と考える地域や休校した学校の再開を検討する地域があり、市町村の判断を尊重する必要があるとしています。そこで、文科省の政策としては、①学校統廃合を行う自治体を支援、②小規模校を維持する場合の教育活動の高度化を支援、③休校した学校の再開支援の推進、といった3つの支援が位置付けられています。ただし、学校統廃合推進に重点があることはいうまでもありません。

財政措置については、文科省は2015年度に既存施設を活用した学校統廃合の整備に係る補助制度(2分の1補助)を創設しました。また、統合校に対する教員定数の加配期間の延長や特色ある教育活動への支援を行っています。

以上のように、文科省の政策が適正規模、適正配置および小中一貫教育校の推進に傾斜したことから、学校施設の長寿命化への財政措置が改築への財政措置と同様であっても、長寿命化改良のみが選択されるとは限らず、統廃合と、それに伴う改築、増築などが選択されるケースが増えることが予想されます。

(2)地方創生政策による学校統廃合推進

学校統廃合の推進は、「地方創生」政策における「コンパクト化+ネットワーク化」、「集約・活性化」による地域再編・行財政合理化策とも一致した方策として推進されています。なかでも農山村地域においては、「小さな拠点」推進が公立小中学校の統廃合を加速化させるのではないかという懸念があります。また、コンパクトシティを目指す立地適正化計画も学校統廃合を促進するものです。

(3)経済・財政再生計画と学校統廃合推進

公共施設問題は財政問題としての性格が強いために、財政縮減圧力は、自治体が学校統廃合を推進する主要な要因となっています。政府レベルでは経済・財政再生計画による国と地方を通じた歳出抑制策が大きく影響します。経済・財政再生計画改革工程表(2015年12月閣議決定)におけるKPI(重要業績評価指標)に「学校の小規模化に対する対策の検討に着手している自治体の割合」が盛り込まれたことから、学校統廃合は政府をあげて推進されることになりました。

とくに、財務省は文科省に対して教職員定数の削減を求めており、2016年度予算をめぐっては、財政制度等審議会が9年間で3万7000人削減の方針を打ち出し、翌年度の2017年度予算編成に対しても、文科省に2026年度までの10年間に教職員定数4万9000人削減を求めました。結果的には財務省の主張は通らなかったものの、少子化に伴う自然減とともに学校統廃合による定数削減が一定程度盛り込まれました。
こうした財務省の主張に対しては、地方団体から厳しい批判が行われました。小中学校教職員定数に係る地方六団体意見(平成28年度予算・地方財政対策等について、2015年12月14日)には以下の記述があります。「今後の少子化の見通しを踏まえた機械的試算により小中学校の教職員定数の合理化を図り教育費を削減することは、義務教育に対する国の責任放棄であり、単に国の財政負担を地方に転嫁することになりかねず、また、強制的な学校の統廃合につながり、地域コミュニティの衰退を招く恐れもあることから、決して行うべきでないこと」
以上のように、学校統廃合推進策は、財政再建を重視する財務省による教職員定数削減圧力を背景としながら進められているのです。

◆公共施設等総合管理計画の展開

(1)公共施設等総合管理計画の概要と財政措置

総務省は、すべての自治体に対して公共施設等総合管理計画の策定を要請し、策定に係る経費に対して特別交付税措置がとられました。総務省は計画策定のための指針を示しましたが、そのポイントは以下のとおりです。第一に、すべての公共施設等を対象に、公共施設等の状況、人口の今後の見通し、財政収支の見込みを把握することです。第二に、現状分析を踏まえて10年間以上の計画期間を設定し、すべての公共施設等の管理に関する基本的な方針を定めることです。そこでは更新・統廃合・長寿命化など公共施設等の管理に関する基本的考え方を記載することが求められています。第三に、計画策定に関する留意事項として、議会や住民との情報共有など、数値目標の設定、PPP/PFIの積極的な活用の検討、市区町村域を超えた広域的な検討などが示されました。

総務省は、2014年度以降、公共施設等総合管理計画の実効性を確保するため、公共施設等の除却に対する地方債の特例措置、公共施設の集約・複合化のための地方債措置(公共施設等最適化事業債)、および転用事業に対する地方債措置を導入しました。

2017年度予算からは公共施設等最適化事業債が公共施設等適正管理推進事業債に名称変更され、拡充されました。同地方債が適用される事業のうち、集約化・複合化事業は充当率90%、交付税算入率50%と最も優遇されます。転用事業、長寿命化事業および立地適正化事業については、充当率90%、交付税算入率30%となっています。2018年度からは、長寿命化事業、転用事業、立地適正化事業、ユニバーサルデザイン化事業(新規)の交付税算入率は財政力に応じて30~50%に変更され、財政力の低い団体に配慮したものになっています。
公共施設等総合管理計画の策定状況を確認すると、2018年3月末時点で都道府県・指定都市は全団体、市区町村の99・6%が策定を完了しています。国は数値目標(削減目標)の設定を求めていますが、公共施設等総合管理計画においては数値目標を設定する自治体と設定しない自治体に分かれています。

(2)個別施設計画の策定へ

各自治体は、公共施設等管理計画策定のうえで、さらにインフラ長寿命化計画及び公共施設等総合管理計画を踏まえて個別施設計画を2020年度末までに策定することが求められます。個別施設計画では、点検・診断によって得られた個別施設の状態、維持管理・更新等に係る対策(機能転換・用途変更、複合化、集約化、廃止・撤去、耐震化など)の優先順位の考え方、対策の内容や実施時期を定めるものとされています。
自治体内部では全庁的な調整会議などで検討されていますが、議会や住民への情報共有と住民参加のあり方が問われています。数値目標達成のため、個別施設計画や立地適正化計画を性急に策定するおそれがあります。
なお、ここで注意しなければならないことは、内閣府が、人口20万人以上の自治体が公共施設の整備などを進める際に、PPP/PFI手法導入を優先的に検討するよう要請していることです(「多様なPPP/PFI手法導入を優先的に検討するための指針」(2015年12月)。学校統廃合においてPFIなどの導入が検討される可能性があります。

(3)長寿命化計画とその効果

インフラや公共施設の長寿命化に関しては相当の効果が期待されています。この点に関して、内閣府による社会資本ストック推計(2018年3月、内閣府資料)が参考になります。内閣府によると、2015年度の社会資本の維持管理・更新費は9兆円でしたが、2054年には16兆円(1・75倍)に増加すると推計されています。それに対して、189団体の公共施設等総合管理計画を分析した結果、インフラ・公共建築物の両者を対象とした長寿命化は維持管理・更新費の大きな削減効果が期待できる一方、施設の統廃合などによる施設縮減がもたらす削減効果の全体に対する比率は一定程度にとどまるとしました(189団体の維持管理・更新費削減率24%のうち、長寿命化によるものが20%、施設縮減によるものが4%)。

総務省が提供している公共施設更新費に関するシミュレーションソフトにおいて、更新年数の初期値は公共施設(ハコモノ)で建て替え60年(30年で大規模改修)、道路の舗装部分の打ち替え15年、橋りょうの架け替え60年、上水道管40年、下水道管50年となっています。実際には、経済的耐用年数、物理的耐用年数は法定耐用年数より長いために、経済的耐用年数や物理的耐用年数をもとに目標使用(耐用)年数を設定し、長寿命化改良をはかることによる財政効果は大きくなります。公共施設(ハコモノ)の目標使用(耐用)年数を80年に設定する自治体もあります。

◆学校施設のあり方と学校統廃合問題

(1)学校施設と公共施設マネジメントのあり方

学校施設に関する個別施設計画の策定状況は、2017年4月1日時点で4%にとどまっています(総務省「公共施設等総合管理計画の更なる推進に向けて」2018年4月23日、参照)。それゆえ、各自治体における学校施設の検討のあり方が問われており、正念場を迎えているといえます。
公共施設の評価においてよくみられるのは、建設評価、コスト評価、サービス評価といった一律の基準で評価することです(日本建築学会編『公共施設の再編:計画と実践の手引き』森北出版、2015年、11㌻)。
しかし、公共施設の評価にあたっては、施設としての側面とともに、機関のための施設であるという観点がきわめて重要です。公立学校であれば、その統廃合は施設の再配置という問題である以上に学校という機関の改編という問題なのです。

学校と地域コミュニティとの関係を重視しながら、自治体財政の持続性を確保するには、学校施設管理は長寿命化を基本にすべきです。学校施設においても、目標使用(耐用)年数を80年に設定し、長寿命化改良を行う自治体もあります。例として、山口県防府市教育委員会の学校施設長寿命化計画(2017年3月)が参考になります。同計画では、基本方針として、①地域と学校が密接に結びついていることから学校施設の統廃合は難しい状況である。児童生徒数が少ない学校については小規模校として活用を図るなど方策を検討する、②学校施設は安全性とともに防災機能を備えていく、③地域の拠点として学校施設が利用されるよう必要な整備を行う、④長寿命化を実施することで財政負担の縮減や平準化を図る。使用年数は一般の公共施設と同じく80年とする、といった点を掲げています。そのうえで、建築後47年で建て替えるとした従来の修繕・改築を今後40年間継続した場合のコストを591億円(年平均14・8億円)と試算し、それに対して長寿命化を実施し、80年使用した場合、40年間のコストは525億円(年平均13・1億円)となり、66億円(年平均1・3億円)、11%のコスト縮減となると試算しています。こうした取り組みは示唆に富むものです。

(2)学校を守る地域づくり

地域コミュニティの力量がある地域では、反対運動により学校統廃合をストップするケースがあります。例をあげると、兵庫県川西市では、教育委員会による小学校統廃合方針に対して、緑台小学校を守る会と保護者の結束、住民による署名運動、議会への要請を行い、凍結への流れが進んでいます(本特集の今西論文を参照)。反対運動においては、保護者の理解と運動、地域住民の理解と運動、教職員の協力、およびそれらの連携がカギとなるでしょう。

学校統廃合問題が起こる以前に、学校を守る地域づくりを地道に取り組むことの重要性が指摘されなければなりません。例をあげると、京都府綾部市の志賀郷地区においては、住民グループによる空き家を活用した移住促進により、小学生数が維持され、志賀小学校存続の基盤となっています。

地域づくりにおいては、自治体の基盤として地域共同体が存在し、その存立は自治体の存在意義にかかわることを認識することが重要です。公立学校は地域の総合性の重要な要素であり、公立学校において地域共同体の凝集性、統合性が実現・維持するということへの認識が深められなければなりません。そのうえで、自治体の政策は、公立学校がコミュニティの存立基盤になっていることを位置づけ、踏まえたものでなければなりません。さらに、公立学校の存在意義は、地域共同体の住民の居住権と教育権の両方を保障することにあることを認識する必要があります。地域に即して適正規模や校区は多様ですが、地域と学校の関係性を踏まえれば、歩いて通える校区が基本でしょう。

◆おわりに─学校統廃合推進からの転換を─

地域共同体の基盤としての学校という位置づけは、コミュニティ破壊型「地方創生」政策の一環としての学校統廃合推進と真っ向から対立します。
地域における公立学校存続・発展への取り組みの経験は、人口減のなかで学校統廃合をやむを得ないと考える「あきらめ」ではなく、住民の自主的・組織的な取り組みによって地域と学校を維持していくことの重要性を示しています。

自治体財政の逼迫のなかでの公共施設等総合管理計画にもとづく個別施設計画の策定に際しては、公共性の観点からの優先順位と住民参加による熟議を基本としながら、インフラを含む長寿命化改良を基本に財政見通しを立てることが肝心です。

学校施設に関しては、自治体は安易に地区からの学校の「撤退」と「集約化」に走るのではなく、まずは地域共同体の基盤としての公立学校の公共性を正当に評価することが求められます。「小さな拠点」づくりや小中一貫校を実現するために統廃合を行うのは本末転倒です。コンパクトシティに関しては、そもそも日本の地域実態からみて、適するケースは少ないという指摘があります(中山徹『人口減少と大規模開発』自治体研究社、2017年)。
財政的検討を行う際には、地方交付税算定において、公立学校の経常的経費は生徒数、学級数、学校数が測定単位になっており、それにもとづいて財源保障される仕組みになっていることを踏まえる必要があります。そのうえでなお、学校統廃合を含む検討を行う場合には、公立小中学校と地域コミュニティとの関係性を重視し、校区の変更・統合は地域コミュニティ同士の融合につながるものでもあるということから、熟議にもとづく合意形成が不可欠であることを踏まえて進めなければなりません。

【参考文献】
平岡和久「安倍政権の『地方創生』と学校統廃合政策─問題点と対抗軸」『人間と教育』2016年12月
山本由美「『地方創生』のもとの学校統廃合を検証する」『住民と自治』2016年7月
安達智則・山本由美編『学校が消える! 公共施設の縮小に立ち向かう』旬報社、2018年
2018年9月10日


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