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道内全域停電 連系線の直交変換所 「他励」式で機能せず

 道内のブラックアウト。大型集中型のシステムの脆弱性を示したものだが・・・ 危機管理としては本州と結ぶ連系線〔60万kW・直流〕を交流に変換する函館変換所が、外部電源に依存する「他励」式のために、機能しなかったというのだから・・・ 来年、運用開始の新たな連系線〔30万kW〕は「自励」式とのこと。
元東京大特任教授・元Jパワー上級研究員などの経歴をもつ阿部力也さんは「北本連系をさらに増強するとともに、総需要の10%程度の出力の発電所を分散配置するよう転換すべきだ」「(交流の発送電網が張り巡らされている)北海道を、自前の発電所を持った自立可能な中小のエリアに分け、エリアごとに直流を介して北電に接続すれば大規模連鎖停電も防げる」と提言している。
 その下は、牧田氏の解説。深層防護の考えに基づいて、今回の問題点を整理している。
【道内全域停電 なぜ起きた 周波数の急激な低下が原因 交流・直流の変換所 機能せず 北海道9/14】
【北海道胆振東部地震「泊原発が動いていれば停電はなかった」論はなぜ「完全に間違い」なのか  牧田寛 ハーバービジネス 9/10】

【道内全域停電 なぜ起きた 周波数の急激な低下が原因 交流・直流の変換所 機能せず 北海道9/14】

 道内全域の停電により、道民生活に大きな混乱を引き起こした今回の胆振東部地震。1951年の北海道電力設立以来初めてという異常事態はなぜ起きたのか。電力のメカニズムはどうなっているのか。元東京大特任教授で、自立可能な電力系統の概念を提唱する阿部力也さんの話などをもとに、三つのキーワードで探った。

 一般的に電気は流れる向きや電圧が一定周期でプラス、マイナスに交互に切り替わる。1秒間で何回繰り返すかを「周波数」と言い、1秒間で50回なら50ヘルツ、60回なら60ヘルツとなる。各電力会社の区域内では一定の周波数を保たねばならない。北電を含む東日本側は50ヘルツ、西日本側は60ヘルツの電気が送られている。明治時代、関東に50ヘルツ、関西に60ヘルツの発電機が別々に輸入されたなごりだ。

 周波数は電力の供給が需要を下回ると低下し、上回ると上昇する。また、周波数は発電機の回転数と比例し、急激に変わると、産業用の電気機器などに影響を与える可能性がある。電力会社が電力の需要と供給のバランスをとっているのは、周波数を安定させるためだ。

 阿部さんによると、一つの電力系統(北海道なら道内全域)の総需要の10分の1の容量の発電機が壊れると、周波数が下がり、停電する可能性があるという。今回の地震発生時、道内の総需要は約310万キロワットだったが、道内の電力供給量の半分を占めていた北電苫東厚真火力発電所(胆振管内厚真町、出力165万キロワット)が一気に止まった。

 阿部さんは「みこしの担ぎ手10人のうち5人が一気にいなくなったようなもの。残った担ぎ手(発電所)の負担が激増して、みこしを投げ出した状態」と例える。周波数の急激な低下は発電機の故障、機能低下につながる。これを防ごうと、他の発電所が連鎖的に停止する「ブラックアウト」が起き、道内全295万戸の明かりが消えた。

 電気には「交流」と「直流」の2種類がある。電流と電圧がプラスとマイナスに交互に切り替わることを交流と言い、現在の電力システムで主流となっている。これに対し直流は、電池をつないで豆電球に灯をともした状態のように、電流は一方通行で電圧もほぼ一定に保たれている。エジソンが発明したのは直流発電機だ。

 ただ、直流は電線の抵抗を多く受け、電気を送る際に電力の損失が大きい。このため、エジソンに続く研究者たちが開発した、より効率的な交流の送電が一般的になった。

 直流送電にもメリットはあり、長距離の送電では、交流よりもコストが低くすむ。津軽海峡の海底を通る送電ケーブル「北本(きたほん)連系線」では直流が採用された。最大容量は60万キロワットだ。

 電源開発(東京)が管理・運用する北本連系線は今回の地震直後、最大60万キロワットを出力したものの、苫東厚真発電所の停止分をカバーすることはできなかった。連系線の両端に、交流を直流に、直流を交流に変換する設備があるが、大規模停電で渡島管内七飯町の「函館変換所」が動かなくなったため、送電が一時的にできなくなった。現在の変換設備は「他励(たれい)式」と呼ばれ、外部電源がないと稼働しないためだ。

 2019年に北電が運用開始予定の新たな連系線(30万キロワット)では「自励(じれい)式」が採用され、外部電源がなくても電力変換ができ、大規模停電時の復旧が速やかになる。しかし、そもそも大規模停電はあってはならない。阿部さんは「北本連系をさらに増強するとともに、総需要の10%程度の出力の発電所を分散配置するよう転換すべきだ」と指摘。また、「(交流の発送電網が張り巡らされている)北海道を、自前の発電所を持った自立可能な中小のエリアに分け、エリアごとに直流を介して北電に接続すれば大規模連鎖停電も防げる」と提言する。(原田隆幸)

 <略歴>あべ・りきや 1953年福島県生まれ。東京大卒。電源開発(Jパワー)に入社。米国電力研究所派遣研究員、Jパワー上席研究員を経て、2008年から東京大大学院特任教授。昨年退職し、現在は新たな電力供給システムを進める「デジタルグリッド株式会社」会長を務める。


【北海道胆振東部地震「泊原発が動いていれば停電はなかった」論はなぜ「完全に間違い」なのか  牧田寛 ハーバービジネス 9/10】

去る9月6日3時8分、北海道胆振(いぶり)地方の深さ37kmを震源とするM6.7の地震が発生しました。最大震度は震度7(激震)で、これは北海道では記録上最大の揺れとなりました。
 この地震により直後から北海道全道で電力供給が止まり、執筆中の9月8日6時現在で2万戸が停電しています。また、電力供給能力が下がっており、需要家への節電が呼びかけられており、計画停電の可能性も報じられています。電力供給能力の完全復旧までには地震発生から1週間以上かかると見込まれています。
 この地震により北海道電力は、離島を除く管内全域で停電を起こし長期間運転休止中の泊発電所では、外部電源喪失という原子力発電所としては極めて深刻なインシデントを生じました。
 そして、例によってこの地震発生直後から、「泊発電所は大丈夫か、福島核災害の再来とならないか。」「泊発電所を運転していれば停電は起こらなかった。今からでもすぐに運転しろ。」という2つの声がSNSで飛び交っています。特に後者はそれぞれ一部の工学系研究者、科学技術系ライター、起業家、急進右派政治家と、ネット右翼(ネトウヨ)によりオルゴール様言論と化しています。
 さて、この地震では北海道電力に何が起きたのでしょうか? そして、これら2つの言論は意味のあるものなのでしょうか。本稿ではこれらを検証します。

◆日本では起きないとされていた「ブラックアウト」

 2018年9月6日3時8分、北海道胆振地方中東部深さ37kmを震源に、M6.7の地震が起きました。この地震は北海道胆振東部地震と命名されましたが、本稿では北海道大地震と略称します。

図1.北海道胆振中東部地震推計震度分布図(気象庁ホームページより)

 この地震により胆振地方では震度7を記録した地域を中心に甚大な人的、物的被害を生じました。一方で、地震の規模は日本での大地震としては際だって大きなものではなく、人口密集地での震度は最大で6弱、多くは5強以下となり大きな人的被害を生じませんでした。したがって地震被害のみでは、北海道の社会機能は早期に回復するはずでした。
 ところが、地震発生直後から17分以内に北海道全域で電力供給が止まり、短時間での復旧が不可能となりました。この状態をブラックアウトと呼び日本では起こりえないとされてきた極めて深刻な電力事故でした。このような大規模広域停電としてよく知られているのは2003年北アメリカ大停電で、5000万人が影響を受けました。当時日本では、小規模電力会社で構成されるため、広域送電技術の遅れている合衆国、カナダ固有の問題であって優れた送電技術を持つ日本では起こりえないとされました。今回それが北海道で発生したといえます。
 ブラックアウトが生じると、火力、原子力などの汽力発電所(蒸気や高温ガスでタービンを回し発電する発電所)の再起動は単独では不可能となり、水力発電によって電力を汽力発電所に供給し、その電力によって起動してゆきます。そのため再起動にはたいへんな時間がかかります。

 このブラックアウトによって泊発電所が外部電力喪失となり、非常用ディーゼル発電機(DG)によって所内電力を供給することになりました。2011年の福島核災害(Fukushima Nuclear Disaster)は、地震により夜の森27号鉄塔が倒壊したことによる外部電源喪失が引き金になって起こっていますので、多くの市民がまた核災害が起きるのではと恐怖を感じ、一時騒然となりました。幸い、泊発発電所では非常用DG起動に成功し、その日のうちに外部電源も回復しましたので事無きを得ています。

 このブラックアウトがもしも厳冬期に起きれば、確実に数多くの凍死者がでていました。また不幸な条件が重なり、泊発電所で大規模核災害が生じた場合、福島核災害と異なり、発電所の東側に広大な居住地が広がる為にきわめて深刻な被害を生じていました。今回、この二つの最悪の想定に比してきわめて軽微な損害で終息しつつありますが、それでも人的、物的、経済的被害は大きなものとなります。

◆止まっていてむしろ幸いだった泊発電所

 震災当時、泊発電所は福島核災害後の再審査に手間取っており、運転認可がありませんでした。結果、泊発電所の全原子炉は停止後6年を経て冷温停止状態でした。そもそも、核燃料は原子炉の中になく、すべて使用済み核燃料プール(SFP)で冷却中でした。

 核燃料は、原子炉での連鎖核反応が終わったあとも核分裂性物質(FP)の崩壊によって熱を発生させます。これを崩壊熱と呼びますが、原子炉停止直後には原子炉熱出力の10%の崩壊熱を持ち、冷却が途絶すると数時間で炉心溶融が生じます。この崩壊熱は1年後に0.2%となり、5年後には一万分の一程度になります。この為、SFPの中の核燃料の崩壊熱によってプールの水が沸騰するまでには電源喪失後一週間以上の時間的余裕があると予想されます。

 原子力・核施設の安全を確保する為にとても大切なのは時間的余裕(時間稼ぎ)です。使用から何年も経過した使用済み核燃料は、十分に「冷えて」いて電源喪失後も緊急時対応に使える時間はたっぷりあります。したがって、人の手が加えられる限り(人が近づける限り)燃料溶融のような破滅的危機に陥ることは無いと考えて良いです。

 これがもしも運転中の原子炉ですと、外部電源喪失後に非常用DG起動に失敗し、更なる措置にも失敗して原子炉の熱除去に失敗した場合、速やかに(約2時間程度で)炉心は溶融し、最悪の場合は原子炉が爆発、崩壊することで大規模核災害に到ることになります。もちろん、非常用DGは二重化されており、高い信頼性がありますし、今回は無事に起動しています。したがって、運転中であっても今回は無事に冷温停止に持ち込めたと思われます。

 しかし、事実として運転中と停止中の原子炉では根本的に内包するリスクは異なります。

 停止中の原子炉と運転中の原子炉とでは、安全余裕に雲泥の差があります。時々見受けられる運転中の原子炉も停止中の原子炉も、安全性に違いがないから運転していたほうが良いと言う無根拠の意見は、根本的かつ完全に誤っています。そのような言論には塵芥ほどの価値もありません。

 では今回、原子力安全の柱である多重防護においてどのような意味を持ったのでしょうか。その前に多重防護について概説します。

 原子力は、多重防護によって、安全対策を多段化し、確実性を高めています。具体的には多重防護は、安全の5つの段階(例)からなります。

  1.異常発生の防止(設計、点検、品質保証、運転)
  2.異常の拡大の防止(止める、固有安全性)
  3.事故時の影響の緩和(冷やす、閉じこめる)
  4.シビアアクシデント対応(ベントなど、緊急時対応)
  5.サイト外の緊急時対応(原子力防災)

 きわめて重要なことですが、多重防護は、「前段否定の論理」(※各レベルの十分な対策を前提にして, あえてその効果が十分でなかった場合に備えて安全対策を多層にすること)であって、相互に完全に独立していなければ意味がありません。具体的には、「冷やすから、止まらなくてよい」「閉じ込めるから、冷やさなくてよい」ではないのです。今回の場合、「非常用DGがあるから、外部電源喪失しても良い」という考えは絶対に認められません。

 多重防護について表1にまとめます。

表1 多重防護の概要
IAEA基準の動向 − 多重防護(5層)の考え方等
平成23年3月2日 (独)原子力安全基盤機構 原子力システム安全部 次長 山下 正弘 より引用

 多重防護はかつては第3層まででしたが、5層への増層が1979年にフランスで導入されその後欧州では90年代に一般化し、合衆国でも第4層を除いて導入されました。しかし、9.11同時多発テロにより、合衆国でも第4層の導入が迅速になされ、5層の多重防護は旧西側世界での標準となっています。
 ところが、日本では2011年3月11日まで多重防護は3層までしかありませんでした。
表2 2011年3月時点での我が国における多重防護の考え方 ※平成23年3月2日 (独)原子力安全基盤機構 原子力システム安全部 次長 山下 正弘 より引用

 日本で5層の多重防護を導入しなかった理由は,3層の多重防護により、シビアアクシデント(SA)が発生しないと言う考えによります。この考え方自体が、多重防護の大原則である「前段否定の論理」に反します。実際には、 多重防護の5層化で「寝た子を起したくなかった」、市民に不信感を持たれたくなかったと言うのが実態でした。代替としてアクシデントマネジメント(AM)の自主対応が提唱されましたが、このAMは福島核災害において2号炉、3号炉の爆発を誘発したとの指摘があります。

 今日の日本では、多重防護の第5層は事実上導入されていません。第4層まではハードウェアと言う形で導入されていますが、原子力防災という第5層、社会的ソフトウェアが主体となるものには責任を取るものが居ない、ようするに実体がありません。これを如実に示すのが図2です。

図2:原子力発電所の新規制基準
原子力発電所の規制基準に多重防護の第4層やテロ対策を新設しているが、多重防護の第5層に該当する原子力防災が存在しない。したがって、原子力防災に国は責任を持たない。
資源エネルギー庁 原子力・エネルギー図面集2015より(2018年版も同じ)


 さて、それでは今回のブラックアウトにおける泊発電所の重大インシデントはどの位置づけになのでしょうか。

 今回、地震によって送電系統が破綻を来し、全道で送電が長時間停止しました。これにより泊発電所は、外部電源をすべて喪失し、回復には半日を要しています。これは多重防護の第1層が破れたことを意味します。次いで非常用DGが起動して電力を原子炉へ供給することに成功しました。これは多重防護の第2層が有効に機能したことを意味します。今回のインシデントは、外部電源を長時間、完全に失うと言う重大インシデントですが、一方で多重防護の第2層が正常に機能したと言うことは確かなことです。国際原子力事象評価尺度(INES)でもレベル0相当と思われます。

 しかし、諸外国では起きても日本では起こり得ないとしてきたブラックアウトが現実に発生し、その送電網に接続されている原子炉に重大インシデントである長時間の外部電源全喪失が発生したことはたいへんに深刻なことです。しかも実際には北海道電力の送電網はブラックアウトに対して脆弱性があることが以前から分かっていたとのことで、ここに日本の宿痾である「安全神話」が存在します。

 安全神話は、発見次第潰さねば多重防護に大きな穴を開けます。今回のインシデントは大きな教訓を残しています。

◆「泊発電所が稼働していれば大停電はなかった」論の愚

 私がSNSを見ていた限りにおいて、9月6日8:22に次のようなTweetがありました。下に要約します。

”こういう脆弱な状況がずっと続いてきた
 恐れていた事態が遂に起こった
 発電所が一つ停止しただけで破綻する状況が異常だ
 泊が動いてればこういう事態にはならなかった。”

 このTweet以後、申し合わせていたかのように泊が稼働していれば大停電は起きなかったと言う主張が雲霞の如く発生しました。

 この主張は正しいのでしょうか? 答えは否。この主張は、何重にも誤っています。

◆そもそも「不適格」状態だった泊原発

 まず、泊発電所は、原子力規制委員会による審査に合格することが出来ずに稼働できていません。したがって、大前提として泊発電所は商用原子力発電所として法的に稼働できません。したがって、「泊が動いていれば」という仮定自体が全く無意味です。

 泊発電所は、優先して審査が進められている加圧水型原子力発電所(PWR)の中でも当初最優先で審査が進められていました。これは再稼働の実績を作る為にPWRの中でも反発の少ない田舎の発電所を優先した為と指摘されています。ところが、泊の審査が進まず、伊方発電所が最優先となり、この伊方も愛媛知事選前年の市民による反対集会に予想外に多くの市民が集まり、翌年の愛媛県知事選挙への影響を恐れて繰り延べになりました。結果、既に県知事選挙を終えていた鹿児島県の川内発電所の審査を最優先に進められた経緯があります。この当時、鹿児島県知事であった伊藤祐一郎氏は、自治官僚時代に石川県に出向し、志賀原子力発電所の立地計画に携わった経緯がありました。

 伊方発電所は1年遅れの2016年8月に再稼働し、既に隣接県、市町村などの反発が強く逆風の強い関西電力でも大飯、高浜発電所の再稼働がはじまっています。PWR陣営では、老朽化著しい美浜発電所、直下に活断層があり、審査合格の見込みがない原電敦賀2と泊発電所が再稼働未達成で残るだけです。

 では何故、泊発電所は新規制基準の適合性審査に合格できないのでしょうか。泊発電所は3号炉が2009年運開と、国内PWRではずば抜けて若く、1号炉2号炉も第1次改良標準化炉の後期運開で、問題になるほど古い訳ではありません。

 理由は単純に、北海道電力が原子力規制委員会(NRA)の求める水準を満たせないからです。書類不備が次々にNRAに指摘され、適合性審査は遅れに遅れています。国や関係者は、NRAの適合性審査を、「世界一厳しい」と僭称(せんしょう)していますが、実際には多重防護の第5層が存在しないことからも分かるように、旧西側世界ではザルといって良いくらい大変に甘いものです。その適合性審査の合格水準に遠く及ばないのが北海道電力泊発電所です。

 また、泊発電所は、東京電力柏崎・刈羽発電所と並んで構内で不審者の侵入や不審火が多発(参照:泊発電所の安全管理体制 北海道庁)する世界でも珍しい原子力発電所で、これも原子力安全という点で著しい欠格事項です。

 もともと2014年には運開が見込まれていた泊発電所が審査に合格できず運転再開できない、この先順調に審査が進んだとしても来年後半の運開も怪しいのは単純に泊発電所が基準を満たせない為です。したがって、「泊が運転中であれば」という「たら」「れば」論は、6年越しで車検に合格できない整備不良の無車検車を乗り回せ「たら」と言うようなものです。
 要するに、手続き論としこれらの主張は破綻しています。

◆動いていてもブラックアウトは起きていた

 次に、仮に泊発電所が適合性審査に合格していて、3号炉が運転中だった場合、どうでしょうか。泊発電所3号炉はどのような炉でしょうか。

○泊発電所3号炉
・第二次改良標準化加圧水型原子炉(耐寒特別仕様)
・ループ数 3
・電気出力 912MWe
・運転開始 2009年12月22日
・建設 三菱重工(ウエスチングハウス系)

 PWRとしてもたいへんに手ごろで使いやすい炉で、日本の第二世代型(2G)原子炉としては決定版と言っても良い、優れた原子炉と言えます。運開日が今は亡きソ連邦原子力産業記念日であることもあって私のお気に入りの原子炉です。(チェルノブイル4号炉の運開日なので、普通は避けると思いますが……)

 今回の地震は、3時8分と言う需要が最も少ない時間に発生しており、この時間の電力需要は3GWe前後、日中の最大需要が3.8GWeと推測されます。

 ここで震源から至近距離にある苫東厚真発電所2号機4号機(石炭火力600MWe, 700MWe)合計1.3GWeが緊急停止しました。負荷(需要)の40%を超える発電機が脱落したため、送電網は過負荷となり、周波数が限界を超えて低下した為、遮断器が自動動作して回路を切り離して行きます。また苫東厚真1号機(石炭火力 350MWe)も短時間で脱落し、合計1.65GWeとこの時間の負荷の過半を超える発電量を短時間で失いました。

図3 北海道電力の送電網(北海道電力HPより)

 図3と図1を比較するとわかるように、地震の震源と苫東厚真発電所、送電網の結節点である変電所が重なっています。執筆時点ではまだ分かりませんが、苫東厚真発電所が脱落し、更に変電所の打撃で道東が送電網から切り離されたと考えられます。こうなると送電網の制御が不可能となり、次々と遮断機が自動動作し、停電域は急速に拡大して行きます。結果17分間でほぼ全道が、8時ころまでに全道が停電してしまいました。

 北海道電力の特徴は、産炭地であったと言う歴史的経緯から火力発電所にしめる石炭火力発電所の割合が高いことです。石炭火力発電所は、負荷追従運転が苦手で、出力調整運転も余りしません。基本的に定格出力運転をする為に出力変動調整能力に欠けます。これは原子力発電所も同じで、日本の原子力発電所は負荷追従運転ができませんし、出力調整運転の認可を受けていません。結果、やはり定格出力運転のみを行います。

 北海道電力は、電力需要が少ない一方で、需要に対して容量の大きな発電所が多く、それらは出力調整能力を持たない(あっても負荷追従が出来ない)と言う特徴があります。

 結果、電力需要の少ない夜間に発電容量の大きな発電所が急に脱落すると出力調整余力がなく連鎖的に送電網が破綻してしまうという弱点があります。

 送電網を通る電力は三相交流(図4)です。そのため、すべての発電所は、正確に同期しながら発電します。

図4 三相交流(Wikipediaより)

すべての発電所が50Hz(東日本の場合)で正確に同期して発電する。周波数変動は±1.2Hz以下でなければならない。

 この為、直流の電池をつなげるのと異なり、ただ単に容量のたし算が出来れば良いと言う訳でなく、すべての発電所が歩調を合わせながら常時変動する需要(負荷)に合わせて発電します。ムカデ競走の様なものと考えれば良いです。

 その中で原子力発電は出力調整をしません。石炭火力も出力調整を苦手とします。しかもそれらは大出力です。結果、北海道電力は、数人の大人が交じった小学生のムカデ競走のようなもので大人が一人でも転ぶと全体が転ぶ弱点があります。

 本来、石油火力発電所、天然ガス火力発電所、一般水力発電所、揚水発電所によって出力を調整し発電量と消費量を一致させますが、原子力と石炭火力の占める割合の大きな北海道電力ではその調整力がたいへんに弱いのです。とても弱いムカデ競走チームです。

単一の電力会社の管内で電力需給の調整ができない場合、他の電力会社との電力融通を行います。これを連系線(図6)と呼びます。例えば四国電力では、本州との間に二系統合計3.8GWeの連携線を持ちますが、北海道電力は、北本連携線600MWeしか持たず、調整力が弱いのです。
図6 連系線の概要(長期需給見通し小委員会資料抜粋)
北海道電力は、津軽海峡を挟む為に本州との連系線が一本しかなく容量が小さい(細い)。

 結論を書けば、今回仮に泊発電所が動いていた場合、定格出力運転中の原子炉は苫小牧での送電網破綻の影響で緊急停止することになり、その上ブラックアウトの為に外部電源を喪失します。これはたいへんに危険なことで、もしもここですべての非常用DGの起動に失敗すれば最終的に原子炉が爆発する可能性があります。

 これは北海道電力特有の弱点で、今回その弱点が露呈したと言えます。これにより、今後泊発電所の適合性審査はさらに難しいことになると考えられます。なぜなら、安定した送電と外部電源という多重位防護の第1層に弱点を露呈したことになるからです。

◆北海道電力は今回のブラックアウトを糧にせよ

 北海道電力は初の天然ガス火力発電所となる石狩湾新港発電所(総出力1.7GWe)を建設中ですが、このうち1号機(570MWe)が来年2月に運開予定です。これにより苫小牧に集中している発電所が石狩湾岸に分散されます。また、北本連系線の増強も2019年に完成し、現在の600MWeから900MWeに増強されます。

 現状では完成は2030年と予定されていますが、石狩湾新港発電所が3号機まで完成すると、苫東厚真発電所と同等の容量の発電所が石狩湾岸に分散され、また天然ガス火力は出力調整能力を持ち、起動特性も良好です。なお、天然ガス火力発電所は着工後3年で完成できます。

 北海道電力は泊発電所の再稼働に経営資源を配分してきた為に石狩湾新港発電所への投資が遅れており、今回のブラックアウトは投資判断の誤りの結果と考えることも出来ます
 冒頭のTweetの要約を再掲します。

”こういう脆弱な状況がずっと続いてきた
 恐れていた事態が遂に起こった
 発電所が一つ停止しただけで破綻する状況が異常だ
 泊が動いてればこういう事態にはならなかった。”

 このTweetは、発電所を乾電池と勘違いしています。実際には、三相交流の同期を厳密に維持せねばならず、泊発電所のような大出力で、出力追従が出来ず、出力調整には新たな適合性審査の必要な原子力発電所は現状の北海道電力の送電網の持つ脆弱性を更に大きくしてしまいます。むしろ、そのような脆弱性を持つ発電網に原子力発電所を接続することは、多重防護の考えに反します。多重防護は原子力安全の大黒柱です。このTweetはその大黒柱にシロアリを住まわせるような危険な発想です。このような考えは、最悪、原子炉を爆発させてしまいます。

 北海道は、風力発電にきわめて好適です。また、炭層メタン(コールベッドメタン:CBM)と呼ばれる合衆国始め諸外国ではとっくに実用化している天然ガスが閉山した炭坑に豊富に存在します。更に、ロシアのサハリンからの天然ガス輸入に好適であり且つ資源がだぶついているアラスカ産の天然ガス輸入にも好適な位置にあります。天然ガスは有効な資源として来世紀いっぱい持つほどに豊富にあり、現在世界は新・化石資源革命と呼称できるほどの大変革に見舞われています。

 天然ガス火力は、出力300~600MWeが主力であり、北海道電力の送電網に丁度よい発電規模を持ちます。無理な大出力化をしなくても十分にやすいのです。

 北海道電力は過去100年間「常敗無勝」を誇る日本のエネルギー政策に翻弄されてきました。その結果が今回の北海道大停電です。この停電がもしも冬に起きていればたいへんな数の凍死者が生じていました。もはや常敗無勝路線から脱せねばならないと私は考えます。

<文/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガを近日配信開始予定

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