障害者雇用の偽装問題~働く環境の改善と一体で
2018年4月には、障害者雇用率制度の対象に『精神障害者』が入り、雇用率の2.2%の引き上げとなっている。そうしたもとでの「水増し」事件。
2014年に、厚労省所管の独法「労働者健康福祉機構」で起きた障害者雇用の「水増し」事件。当時の厚労相が「許し難い行為」と発言していたが・・・抜本対策がとられていなかった無責任さが生み出したもの。
障害者団体の声明とともに、同制度にかかわってのメモ。
手帳をもたない難病患者、ごく軽度の障害を有している人がはじきだされないよう、無理な人員削減が進められてきた公務職場の働く環境の改善と一体ですすめることが重要。、
【国などによる障害者雇用「水増し」問題は障害のある人への背信行為-第三者機関による徹底した真相解明と障害者の労働政策の抜本的改革を- 8/27】
【「国民への背信行為」=障害者団体、怒りあらわ ゛時事8/28】
【障害者雇用の偽装 国民欺き続けた根本をただせ 8赤旗/29】
【国などによる障害者雇用「水増し」問題は障害のある人への背信行為-第三者機関による徹底した真相解明と障害者の労働政策の抜本的改革を- 8/27】NPO法人日本障害者協議会(JD) 代表 藤井 克徳
今般発覚した中央省庁や自治体等における障害者雇用「水増し」問題は、自ら法を遵守しなければならない行政による国民への背信行為である。障害分野に走った衝撃は計り知れない。わけても、範を垂れるべき中央省庁において法律違反が重ねられてきたこと、また40年余にわたって不正を正せなかった障害者雇用の総元締めたる厚生労働省の責任は重大である。
なお、政府は、本年3月に「第4次障害者基本計画」を閣議で決定した。その中に、「国の機関においては民間企業に率先垂範して障害者雇用を進める立場であることを踏まえ、法定雇用率の完全達成に向けて取り組むなど、積極的に障害者の雇用を進める。」と明記している。今般の出来事はこれに背くものである。個々の省庁の責任は言うに及ばず、内閣を中心に政府の中枢および閣議としての責任が問われよう。
私たちは、現段階で以下の諸点を指摘したい。
第一は、多くの障害者の公的機関で働く機会が、政府によって奪われたことである。その数は2017年度だけでも3400人を下回らないとされているが、42年間の累計の数は一体どれくらいに上るのか、精緻な数値を詳らかにすべきである。第二は、政府公表の各種データへの信頼が決定的に揺らいだことである。「制度の理解が不十分だった」「悪意はなかった」などが通用するとすれば、政府の公表とは何なのか、政府データを元に策定される関連政策全体が崩れることとなろう。
第三は、民間企業の障害者雇用に悪影響が及ぶことへの懸念である。行政自らに不正があれば指導力が鈍るのは必至であり、企業としても行政に不信を抱くのは当然である。結果として、法定雇用率の未達成企業が半数に上る民間企業での雇用促進に水を差すことは間違いない。
以上の諸点を踏まえて、私たちはさらに重大な問題を感じずにはいられない。それは、「障害分野だから許されたのでは」の疑念であり、また、「できることなら障害者を新規に雇い入れたくない」とする本音が、しかも政府全体として垣間見られるのである。これらを障害者差別と言わずして何と言うのだろう。そうでないと言うのであれば、それを完全に払拭するだけの説明責任を果たしてほしい。
政府が当面為すべきは、二つである。一つは、徹底して今般の法律違反の実態を明らかにすることである。障害者の前に、国民の前に、すべての関連する事実を公表してほしい。もう一つは、実質的で本格的な検証体制を確立することである。政府自らの不正であり、検証体制にあって恣意的な人選は許されない。障害当事者団体の代表を含む、透明度の高い検証体制を求めたい。
最後に、障害者の「労働及び雇用」分野は、私たちの国が積み残してきた重点課題の一つである。自治体の状況を含めての実態把握や検証と合わせて、福祉的就労を含む、障害者の「労働及び雇用」政策全体の抜本的な改革に着手すべきである。立法府も総力を上げるべきである。マスコミも力を貸してほしい。前代未聞の出来事が、そのための契機となることを切に願う。
【「国民への背信行為」=障害者団体、怒りあらわ ゛時事8/28】国の33機関のうち8割超が障害者数を過大に計上していたと政府が発表した28日、障害者団体は「国民への背信行為だ」「大きな怒りを感じる」と口々に非難した。一方で、しっかりと検証し、障害者雇用の改善につなげるきっかけとするべきだとの指摘もあった。
DPI(障害者インターナショナル)日本会議の西村正樹副議長は「大きな怒りとやり場のない思いを感じる」と語る。政府が地方自治体へと調査範囲を拡大することを評価し、「これを機に、障害者の雇用実態や労働環境を検証し、改善につなげていくべきだ」と訴えた。
日本難病・疾病団体協議会の森幸子代表理事は「障害者の雇用を推進する立場で水増しが起こったことは驚き」と話す。その上で、障害者手帳を持たない難病患者は法定雇用率算出の対象になっていない現状に触れ、「(今回の問題を受け)手帳のない難病患者が働く割合が低くなっては困る」と危ぶむ。
森氏は「就労の選択肢を増やすため難病患者も雇用率算出の対象に認めてもらいたい。難病患者も含めた障害者が働くためどんな支援が必要なのか、この機会に現状をつかんでほしい」と求めた。(2018/08/28-18:37)
【障害者雇用の偽装 国民欺き続けた根本をただせ 8赤旗/29】事実とあまりにかけ離れた数字で国民を欺いてきたことに、強い憤りを禁じえません。中央省庁が雇用する障害者数を「水増し」した問題で厚生労働省が発表した調査結果です。昨年、障害者雇用数を約6900人としていたのに、実際は3400人余と半数にも届いていませんでした。人数を偽っていたのは国の省庁など33行政機関のうち27にのぼりました。「水増し」というレベルをはるかに超えた、でたらめという他ない実態です。なぜこんな行政ぐるみの背信行為がまかり通り、放置されてきたのか。根本にメスを入れ、責任を明らかにすることが急務です。
◆雇用率1%未満も相次ぐ
問題発覚から10日余り―。「精査中」と繰り返してきた厚労省がようやく発表した「水増し」の実態は、極めて深刻なものでした。
国が昨年公表していた障害者雇用者数のうち、半分以上が障害者手帳の確認など国の指針で定めた措置がとられず、対象になる障害者として雇用者数に算定されていたのです。適切でない算定をしたのが国機関の8割以上にあたる27もあったことは問題の根深さを改めて浮き彫りにしています。
調査結果では、昨年の国の障害者雇用率は、法律で義務付けられた法定雇用率2・3%を大きく下回る1・19%にしかなりません。国は昨年の雇用率は法定を上回る2・49%を達成したと公表しましたが、全くの虚構だったのです。調査結果では2・3%に届かないところがほとんどでした。1%未満の機関は18になりました。
民間企業には、法定雇用率を下回れば納付金の徴収を課す事実上の罰則があります。国の機関には、そのような罰則はありません。民間企業に障害者雇用推進を促し指導する中央省庁が、実際と異なる数字を使い、あたかも「目標」を達成しているかのように偽った―障害者行政への信頼を根本から覆す、裏切り行為そのものです。
だいたい障害者の働く機会を増やすことで実質的に雇用率を引き上げる努力を放棄し、数字のつじつま合わせでごまかそうというやり方自体、障害者の雇用を真剣に保障しようという姿勢とは無縁のものです。偽装を横行させた構造にメスを入れることが必要です。
今回の調査は、昨年の発表分に限られたものですが、「水増し」は1976年の障害者雇用率制度の導入当初から行われていたとの指摘もあります。40年以上にわたって多くの障害者の雇用機会を奪ってきたおそれがある大問題の全体像を、徹底的に明らかにしていくことが求められます。
とりわけ2014年に、厚労省所管の独立行政法人「労働者健康福祉機構」で起きた障害者雇用の「水増し」事件をめぐる安倍晋三政権の対応の検証は不可欠です。当時の厚労相が「許し難い行為」と同機構を批判していたのに、なぜそれを契機にして、省庁全体の総点検を行わなかったのか。再発防止にとって、安倍政権の責任は絶対にあいまいにできません。◆閉会中審査急いで実施を
安倍政権は関係閣僚会議を開き、省庁連絡会議を設け、第三者チームで検証なども行うとしています。地方自治体の調査も実施するとしていますが、一連の問題を安倍政権任せにはできません。国会で閉会中審査を行い、政府の姿勢をただすことが急がれます。
【メモ 地方自治体での問題】
・無理な人員削減がつづき、現場がまわらなくなっている。障害者をフォローする体制がなかなか容易ではない、というトレンドの中で発生した。十分な人的体制を確立していく中で、障害者雇用を拡大する。でないと軽度の「障害あり」と雇用されていた人がはじき出されることになる。
・厚労省の通知。これまでは障害者雇用に含まれる身体障害者の定義を「原則として身体障害者福祉法に規定する身体障害者手帳の等級が1級から6級に該当する者」と通達。それが5月頃に水増しの疑いがあると「原則」を今年から削った。→ 「原則でない」ものも認める余地があった/その変化に自治体が十分対応できてない。
また、障害者雇用率制度と障害者雇用に関する助成金の対象が違っているのも、混乱の一因か?
さらに問題としては・・・
・療養手帳は、都道府県の発行であり、障害の認定程度に差がある
・障害手帳をもたない難病患者についても、同様に推進方針を持つ。
〔発達障害については、2010年に障害者自立支援法が改正され、精神障害者の中に含まれると明記されてから、手帳の取得できる〕
《「障害者」の範囲》
・障害者雇用率制度の上では、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳〔2018年度4月より〕の所有者を実雇用率の算定対象としています(短時間労働者は原則0.5人カウント)。
・ただし、障害者雇用に関する助成金については、手帳を持たない統合失調症、そううつ病(そう病、うつ病を含む)、てんかんの方も対象となり、またハローワークや地域障害者職業センターなどによる支援においては、「心身の障害があるために長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な方」が対象となります。
「雇用率制度における障害者の範囲等について」 厚労省の「範囲等の在り方に関する研究会」資料より
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002dvk4-att/2r9852000002dvmg.pdf#search=%27%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E8%80%85+%E9%9B%87%E7%94%A8+%E9%9B%A3%E7%97%85%27①障害者雇用促進法第2条第一項で規定する障害者のうち、現在雇用義務の対象とならない者を雇用義務の対象とすることについて、どのように考えるか。
②仮に、現在雇用義務の対象とならない者を雇用義務の対象とする場合、その範囲や確認方法等はどのように考えるか。
③雇用義務の対象にならない障害者の雇用促進のためにどのような施策が必要か。<ヒアリングにおける主な意見>
○ 改正障害者基本法の障害者の定義に基づいて、高次脳機能障害者、難病、てんかん等のために職業生活を行う場合に継続的で相当な制限を受ける状態にある人に関する雇用義務化を検討すべき。ただし、雇用義務化の対象範囲の拡大に関しては、雇用率上昇に関して明確な根拠を基に検討しなければならない。対象範囲の拡大に伴って、既に企業に就労している人の数合わせにより実質的就労の拡大につながらなかったり、これまで職業生活を行っていた人の就労の機会を失うことにならないようにしなければならないような配慮が必要。きちんとしたデータ、根拠に基づいた雇用率の検討を行うべき。【日身連】(再掲)○ 手帳の有無だけで、発達障害のある人の職業的困難を評価することは不十分である。社会性・コミュニケーション能力、注意や記憶に関する能力、作業の巧緻性など、発達障害の障害特性に焦点を当てて、独自に職業的障害を判定し、雇用率の対象に含める仕組みを開発して欲しい。どの程度のものを雇用率制度の対象者とすべきかということについては、別途提案をさせていただきたい。【JDDネット】
○ 他の障害と区別する理由はないので、雇用義務における障害者の範囲も、難病や慢性疾患で社会的支援を必要とする障害者にも広げるべきと考える。病気は誰もがかかるものであり、特別でも患者本人の責任でもない。【JPA】
○ 1つの理想としては、病気や障害を問わず、そのことを原因として福祉サービスの支援を必要とする人を対象とするべきだと思うが、制度の運営には基準を設ける必要があり、それは難しいことであるが、やはり1つは診断だと思う。診断書については、医療関係者は福祉制度の運用について疎いところがあるので、福祉や介護との連携によって、どういう支援が必要かを判断した上で、制度の利用に結び付けるのがいいと思う。
同じ病名でもさまざまな違いがあるので、病名指定は新たな差別を作らないという意味では不適切だと思う。特定の病名を入れる・入れないということは、たくさんの患者を抱えている当団体としては言うべきことではなく、あくまでもそういう理想に向かって制度が設計されることを望む。【JPA】○ 発達障害の就労継続のためには、就労支援・生活支援の両面からのフォローが大切であり、福祉と労働のきめ細かな連携が求められている。雇用率制度の対象にならず、職業的困難を抱える発達障害のある人は少なくない。若年不就労者の雇用対策と障害者雇用対策の狭間にある発達障害のある人が適切な支援を受けられるよう、発達障害の診断のみで受けることができる支援制度を充実して欲しい。現状の発達障害者雇用開発助成金など、発達障害独自の取り組みを引き続き積極的に行っていただくことが必要であり重要である。【JDDネット】
○ 現在、一部の地域障害者職業センターにおいて実施されている「発達障害者就労支援カリキュラム」を含めた、発達障害者に対する専門的支援について、すべての地域障害者職業センターにおいて常設として実施してほしい。【JDDネット】
○ 法定雇用率を引き上げだけでは難病や長期慢性疾患をもつ人の雇用は解決しない。職場での病気の理解や、受け入れる環境づくりが進むような施策が必要である。就職活動をする上での課題としては、体力的な不安、倦怠感などがあるが、具体的に伝えにくい困難を抱えていることを理解することで十分対応が可能ではないか。特別大きな仕掛けや整備の必要はなく、人的な要素が大きく関わっていると思う。【JPA】
○ 難病や長期慢性疾患患者の特性や必要な配慮について、企業や社会への理解を促進するための対策を当事者団体とともに具体化し進めることが必要。また、トライアル雇用やモデル事業などを効果的に活用して、その経験を蓄積し普及していくことが必要。せっかくある制度も十分に使われないと意味がないが、患者は自分が病気や障害になることを想定して普段から知識を得ているのではないので、医療機関がそれをサポートすべき。【JPA】
○ 難治性疾患患者雇用開発助成金については、正社員以外や在職中も利用できるよう柔軟な対応をしていただきたい。精神障害者等のステップアップ雇用奨励金およびグループ雇用奨励加算金制度を、難病患者にも適用できるようにしていただきたい。【JPA】
○ ハローワークなどの就労支援機関において、難病の就労支援に関する人材養成・配置が必要。また、難病相談・支援センターにおいても就労相談を行っているので、ネットワークの中で明確に位置づけしていただきたい。【JPA】
◆ 療育手帳 都道府県の知事が発行している知的障害者(および知的障害児)が補助を受けるために必要な手帳です。自閉症などの発達障害において、知的障害を伴う場合は療育手帳を取得することができます。ここでは療育手帳の取得方法や、取得によってどのようなメリットがあるのかなど、療育手帳のしくみについて解説。・療育手帳のしくみ
療育手帳とは知的障害のある本人またはその家族が申請し、都道府県知事から公布される手帳のことです。この手帳には都道府県が知的障害者(または知的障害児)に対して適切な指導・相談をおこなう目的と、本人が各種支援を受けやすくする目的とがあります。
知的障害とは、先天性または出生時のトラブルによって脳機能に何らかの障害が起こったために知的な発達が遅れている状態で、「他人とのコミュニケーションが取りづらい」「複雑な話や抽象的な言葉が苦手」「読み書きや計算が不得意」など、社会生活に困難が生じる障害です。知的障害は福祉用語であって法律による具体的な線引きがありません。そのため知的障害と認められる基準は、各都道府県によって異なります。知能指数をおおむね75以下としているところもあれば、70以下にしているところもあり、この基準を超える場合は原則として交付対象にはなりません。
手帳の交付を受ける場合、18歳以上の人は各都道府県に設置されている心身障害者福祉センター、18歳未満の人は各児童相談所で審査を受けましょう。
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