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社会的つながりが弱い人への支援のあり方について  学術会議提言

 高齢化社会、地方の過疎化において、住民の共同の力による暮らしを支える視点は重要であるが、その際、支援を拒否したりするなど「受権力」の弱い、困難な人への専門的で継続的なアプローチがないと、住民共同の力も発揮できなくなる。提言は「同質性を基盤にした地域の互助と・・・社会的つながりが弱いが故に、異質な存在として排除されやすい者を包摂する」という困難さを指摘している。政府の「丸投げ」策だけでは、崩壊への道となる。
今後、ひきこもり、ニートの高齢化、特に男性高齢者の孤立化など、困難な状況が増加していく。自治体によっては、生活困窮者自立支援事業の包括的な取り組みと地域福祉コーディネーターの連携で対応しようとしている高知市などの例もがあるが、抜本的な強化が必要として、学術会議が提言。

【社会的つながりが弱い人への支援のあり方について-社会福祉学の視点から- 2018/9/13 学術会議】

【社会的つながりが弱い人への支援のあり方について-社会福祉学の視点から- 2018/9/13 学術会議】

【提言の内容】

(1) 短期的課題

① 包括的な相談支援体制の構築のために
ア 全国の自治体にコミュニティ・ソーシャルワーカーを配置すること(中期的には日常生活圏域に1 人、全国で1 万人を目標とする)。
イ 市町村社会福祉行政の縦割りの弊害を解消するための第一歩として、情報共有や機関連携を推進するための組織再編を行うこと。
ウ 縦割りで予算化されている事業予算を市町村が柔軟に再編成できるようにして、社会的つながりが弱い人の新たなニーズに対応できるようにすること。
エ コミュニティ・ソーシャルワーカーとしての専門性の向上を図るための養成教育及び現任者研修プログラムの検討を行うこと。

② 社会的つながりを再構築するために
ア 地域住民への生涯教育として福祉教育を推進し、社会的つながりが弱い人が置かれている状況を理解し、そうした困難への気づきを促すこと。
イ 市町村において、住民参加、専門職参加、自治体職員参加による分野横断的な地域福祉計画の策定を義務化すること。

(2) 中期的課題

① 包括的な相談支援体制の構築のために
ア 各行政機関や公共サービス事業者が有する生活困難リスクに関する情報を市町村において集約化する体制を構築すること。
イ 既存の市町村社会福祉行政や保健所等の一部の機能を再編成し、専門的緊急支援が可能な体制(「福祉署」(仮称))を創設すること。

② 社会的つながりを再構築するために
ア 社会的つながりが弱い人が、適切な受援力を高めるための学校教育プログラムの開発や、市民への社会教育や広報を行うこと。
イ 差別を受けやすい人の社会参加を促進するために「合理的配慮」の対象を障害者に限らず拡大すること。
ウ 属性ごとの社会福祉法体系からニーズベースの社会福祉法体系へ転換すること。

【本  文】
1 社会的つながりが弱い人たちになぜ支援が必要か

(1) 社会的つながりが弱い人とは

私たちは、家族、職場、地域社会に帰属し、相互に承認し、承認されるつながりを形成することで、生活を安定させてきた。しかし以下のようなことから、安定的な帰属の場が得られず、社会的つながりが弱い人が増加している。
家族では、そもそも家族を形成しない生涯未婚者が増加しており、また高齢者の単身世帯も増加している。従来の男性稼ぎ手の標準世帯を前提にした社会保障制度とのミスマッチを起こし、ひとり親世帯など公的な支援が十分に受けられない人がいる。また家庭内暴力(DV)や虐待などを受けて社会的に孤立している人がいる。職場では、雇用の流動化・非正規化が、雇用を通じた社会とのつながりを弱くしている。特に、これまで新卒一括採用システムにより課題となっていなかった学校から職場への接続に支援を必要としている人が増加している。
また中高年齢層においても、求職活動や通学・家事もしていない無就業・無就学者が増加している。これらの結果、若年から中高年に渡るひきこもりが大きな社会問題になっている。
地域社会では、高齢化・過疎化が進み、コミュニティそのものが消滅する可能性が指摘されている。また都市部においても、コミュニティにおける関係性の希薄化が指摘されている。

こうした社会的つながりが弱い人は、家族、職場、地域社会の変化によって、今後も増加していくことが予想されている。そこで本提言は、これまで社会福祉の支援対象として明確に位置付けられてこなかった社会的つながりが弱い人に着目して、その支援のあり方を提言するものである。

本提言で言う社会的つながりが弱い人とは、自らそうした生き方を選択した訳ではないのに、①家族・職場・地域における人間関係が希薄になっているため、②家族の成員間の関係性があったとしても家族の外部に対しては閉鎖的なため、自ら社会的な相互承認欲求を持ちながらも、その場を十分に持てない人をいい、これらの人への社会福祉を中心とした支援の必要性を提言するものである。なお関連する用語として、「孤立」や「孤独」の状態があげられる。社会的つながりが弱い人とは、現在「孤立」や「孤独」の状態とは言えなくても、その状態に至るリスクが高い人を含む広義の概念である。

《資料》
・社人研の「人口統計資料集2018」によると、50 歳時の未婚率である生涯未婚率は、男性で23.37%、女性で14.08%であり、ここ20 年で急増している。
・ 高齢者社会白書(平成30 年版)によると、65 歳以上の高齢者の単身世帯は増加しており、高齢者人口の男性で13.3%が、女性で21.1%が単身であり、今後も増加が予想されている。
・こども・若者白書(平成26 年版)によると、子どもがいる現役世帯の内、大人が一人の世帯の貧困率は50.8%であり、大人が二人以上の世帯の4 倍以上となっている。
・警察庁の「平成28 年度におけるストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等への対応状況について」によると、配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた被害者の相談等を受理した件数は69,908 件と配偶者暴力防止法施行以降最多となっている。
・厚労省労働力調査によると非正規雇用者の比率は、1990 年の20%であったが、2017 年は37%に増加している。
・こども・若者白書(平成30 年版)によると、15 歳から34 歳のうち、家事も通学もしていない者は71 万人(2.1%)、引きこもりは54.1 万人と推計している。


(2) 社会的つながりが弱い人が抱える問題

社会的つながりが弱くても、自ら積極的につながりを求めない生き方を選択している人に対しては、社会福祉による支援が必要でない場合もあろう。
問題なのは、自らそうした生き方を選択した訳ではなく、社会からの承認欲求を持ちながら、社会的つながりが弱いため、相互承認する場に帰属できない人である。社会的な承認が得られない状態が長く続くと、孤立感が増し、自己肯定観や自尊感情が低下し、自らの力で社会的つながりを回復する意欲を奪ってしまう。その結果、自殺やホームレスになるなど、社会から排除され、ドロップアウトしてしまう危険性すらある。

こうした社会的つながりの弱さがもたらす問題を、本人の自助努力で解決することは困難であり、家族、職場、地域社会の変化が増加させていることを考えれば、社会問題として、社会の責任において取り組むべき課題なのである。例えばイギリスでは、平成30 年1 月に孤独担当相を設置し、900 万人以上(イギリスの人口の13%以上)の孤独を感じている人への政策を検討している。OECD の平成17 年の報告書によれば、家族以外の人との交流がいない人の割合は、日本が最も多い(イギリスの3倍で15.3%であり)との結果が出ており、イギリス以上に深刻な社会問題となる可能性が高いのである。


(3) 社会的つながりが弱い人への支援体制の課題

社会福祉の専門的な技術であるソーシャルワークは、まさに当事者と、その人を取り巻く社会環境とのつながりに着目して支援するものであり、社会とのつながりが弱い人への支援に有効と考えられる。
しかし社会的つながりが弱い人に対して、ソーシャルワークによる支援を行う上では、いくつかの課題がある。

第一に、援助対象者の属性ごとに縦割りで作られた支援体制がもたらす問題である。
これまでの社会福祉制度は、高齢者・児童・障害者・ひとり親家庭・低所得者など、生活問題を抱える人の属性に応じて、それぞれへの支援法や支援制度を構築してきた。こうした支援体系は、安定的な家族・職場・地域社会を前提として、それらで支えきれない生活問題を抱えている人を支援の側から類型化したものと言える。しかし家族・職場・地域社会そのものの不安定化が生み出している社会的つながりが弱い人々は、こうした属性による類型化ではとらえきれないのである。類型化された制度を乗り越えて、社会的つながりが弱い人に柔軟に寄り添える援助者が必要であり、支援体系そのものの見直しを含めて考えなければならない。

また社会的つながりが弱い人への支援は、社会福祉制度や社会福祉実践だけで解決することはできない。特に社会的つながりが弱い人への支援ニーズを発見するためには、保健医療、教育、住宅、雇用、司法などとの横断的かつ包括的な支援体制の構築が必要だが、現状では、相互の連携は一部で進んでいるものの、全体を通してみるとほとんどとれていない。

第二に、福祉サービスの契約化がもたらす問題である。
1990 年代の社会福祉基礎構造改革により、福祉サービスの提供は、措置制度から利用契約制度に多くが変更された。このことは、福祉サービスの利用者に、サービスの選択を可能にするなどの利点をもたらした。その一方で、行政の責任は、福祉サービスの提供基盤の整備に留まり、実際にどのように福祉サービスを利用して生活問題を解決するのかは、当事者の責任に委ねられかねない。しかし、もしこのように社会福祉行政の役割を限定すれば、自ら支援ニーズを主張できない社会的つながりが弱い人への支援はなされないままになってしまう。単に、基盤整備だけでは、社会的つながりが弱い人のつながりを回復することはできないのである。

こうした状況に対して、政府は平成27 年に生活困窮者自立支援制度を創設した。この制度では、地域社会との関係性を含めて「最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」を対象に含め、個々の生活困窮者の事情、状況等に合わせ、包括的・継続的に支えていく伴走型の個別的な支援のための体制を整備することを求めている。しかし各自治体によって任意事業の実施率等にばらつきがあり[6]、制度を検討する段階では社会的つながりが弱い人への支援も対象としているが、生活困窮者を実際上経済的困窮に限定して運用しているなどの問題が浮上している。

さらに政府は、平成28 年には「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部を立ち上げ、「地域共生社会」にむけて、地域住民を主体にしたつながりの再構築と行政や相談支援機関による包括的支援体制の整備を謳っている。高齢者・障害者・児童などの福祉サービスの対象者ごとの縦割りの弊害を指摘し、「社会的孤立」や「制度の狭間」に対応できないがゆえに、「丸ごと」支援の対象にするように転換を求めている。さらに、公的サービスがサービスの「支え手」と「受け手」という関係に固定化しているため、すべての住民が「我が事」として相互に支えあう関係性への転換を求めている。また平成29 年には、こうした一連の地域共生社会の実現にむけた社会福祉法等の改正、それに基づく厚生労働大臣の指針が告示された。

このような転換がなされれば、社会的つながりが弱い人への支援に関する問題点も解決できるであろうか。一定の前進を期待したいがいくつかの課題も残されている。

第一に、政府や自治体の責任が不明確である。社会福祉法第6 条に国及び地方公共団体の責務として地域福祉の推進が位置付けられたが、その財源や専門職配置などの面は明確にされていない。
社会的つながりが弱い人が増加している背景の一つには、「子ども/若者の貧困」のように、政府による再分配政策がうまく機能していないことがある。まさに本来、人々の社会への参加を促すための社会保障政策が、逆に分断を助長している。また育児や高齢者・障害者へのケアにおいて、家族-特に女性-に多大な負担を強いており、これらに従事している人の社会的つながりを弱くしている。また家庭内暴力(DV)や虐待、様々な差別など、強制力をもつ政府や自治体の一定の介入がなければ解決できない問題がある。こうした問題への対処を行わなければ、ますます社会的つながりが弱い人が増加するであろう。

第二に、地域の助け合いには限界があるという点である。
「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部の「『地域共生社会』の実現に向けて(当面の改革工程)」では、わが国の過去の地域社会における地域の助け合いへの言及がなされているが、このような同質性を基盤にした地域の互助と、一方で言及している「多様性を尊重し包摂する地域」とは全く異なるものである。社会的つながりが弱いが故に、異質な存在として排除されやすい者を包摂するためには、住民の自主的な活動では困難な場合もある。地域社会と社会的つながりが弱い人をつなげる役割を持つ専門職(コミュニティ・ソーシャルワーカー)が必要なのである。

よって本提言は、今後ますます深刻化することが予想される社会的つながりが弱い人が抱える問題を、社会が解決すべき問題としてとらえ、政府や自治体がなすべきこと、そしてこうした人が抱える問題への支援に焦点化した相談支援体制のあり方や社会的に包摂するための政策のあり方について社会福祉学の視点から提言するものである。
まず2章では、支援を必要としていながら社会的つながりが弱いため相談支援に結び付きにくい人への支援体制のあり方を述べる。次に3章では、要支援者が社会的つながりを再構築するための方法を述べる。4章では、こうした社会的つながりが弱い人の増加を防ぎ、包摂するための社会福祉関連政策について述べ、最後に提言としてまとめる。


2 社会的つながりが弱い人への支援体制のあり方

(1) 社会的つながりが弱い人のニーズ特性

社会的つながりが弱い人への支援体制を構築するには、行政や相談機関などが個人や世帯のニーズを敏感にキャッチするとともに、継続的な相談支援につなげることが必要である。社会的つながりが弱い人のニーズは潜在化しやすく、ニーズをキャッチすること自体に困難が伴う。また、仮にニーズがキャッチされたとしても、継続的な相談支援につながりにくい。それらの要因は、①本人らのニーズ特性と、②それらのニーズに対応できない支援体制の両面から検討する必要があるが、まずはニーズ特性としては以下の三点が挙げられる。

① 声を奪われ(VOICELESS)支援ニーズが表明できない

社会的つながりの弱い人が支援につながるためには、自らが支援ニーズを認知し、ニーズを表明できる環境が必要である。しかしながら、他者や制度に依存しない状況を「自立」とみなし、社会福祉の制度利用を、個人の意欲の欠如や怠惰など道徳的な問題とみなす社会的な風潮がある中では、当事者は声をあげにくい状況に置かれやすい。ボイスレスな状態に長く置かれていけばいくほど、社会的つながりがより一層奪われていくという負のスパイラルに陥る傾向にあり、ニーズが潜在化していく。
また、かつて相談・支援を求めたことがある場合にも、正当なニーズとみなされなかったり、尊厳を侵害されるような対応を経験したりしている場合も少なくない。「暴力を振るわれるのは、あなたにも原因があるのではないか」「選ばなければ仕事はいくらでもあるではないか」など、相談の場で投げかけられる言葉は、当事者にとっては日常の中での「裁き」とも受け取れ、二次被害となって相談・支援から遠ざかったり、支援を受けること自体を拒絶する場合もある。

② 支援ニーズの多様化、深刻化、複合化による支援の困難さ

社会的つながりが弱い人々の状況は、短期間で生み出されたというよりは、長期に渡る生活の積み重ねの上に形成される場合が多く、その抱える支援ニーズは時間とともに多様化、深刻化しがちである。また、家族がいる場合でも、世帯員がそれぞれ抱える課題とも関わって、ニーズが複合化する傾向にある。
このように多様化、深刻化、複合化した支援ニーズは単一あるいは短期間の支援やサービスでは解決しないことが想定され、多様な制度や機関にまたがる、より長期的、専門的な支援を要することが少なくない。また、こうしたニーズの中には、いわゆる「制度の狭間」に陥り、いずれの制度の支援対象にもならない課題も含まれ、包括的、早期的、継続的な支援を一層困難にしている。

③ 受援力の脆弱性による継続的支援の困難さ

支援の継続的利用には、多様な判断や行動が関わる複雑なプロセスが介在している。本人の身体的、精神的、心理的、経済的、社会的な機能に脆弱さがある場合、社会的つながりによる助言や支援が得られなければ、支援に関わる情報を取捨選択しながら支援を自分のニーズに対応させて利用することが難しい。また社会的つながりが弱い人々にあっては、そもそも生きる意欲が低下していたり、自暴自棄になっていることも多い。そのため支援者と信頼関係を形成し、継続的な関係性を確立・維持していくことが容易ではない。またひとたび支援機関とつながったとしても、継続的な支援の利用を可能にする、いわゆる「受援力」が十分に機能しない可能性がある。


(2) 社会的つながりが弱い人に対する支援体制の課題

このように社会的つながりが弱い人は、長期に渡って生活困難を抱えているほど、複合的・重層的なニーズを有しているが、現行の行政システムでは、分野別や縦割りの組織機構から表面上のニーズに対応するに留まることも少なくない。例えば、子ども期の性暴力被害によって、成人期以降にも就労困難が持続して生計が営めない場合、生活保護相談として対応がなされても、性暴力被害への支援ニーズはキャッチされないままに、就労困難ケースとして対処されていくこともある。つまり行政や民間の相談機関の連携や、ワンストップでの包括的な支援体制が十分に構築できていないことがまず問題である。

こうした状況に対して、生活困窮者自立支援制度や、「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部は、谷間のない包括的な相談支援体制の構築を目指しているが、現行の法体系や国の行政組織が、高齢者、児童、障害者などの縦割りのままであり、それぞれの領域ごとに包括的な相談支援体制の構築が求められている。また平成29 年6 月には社会福祉法が改正され、第106 条の3において市町村により包括的な相談体制を構築する努力義務が明記されたが、その具体的な体制は市町村に任されており、地域格差が懸念される。


(3) 社会的つながりが弱い人に対する支援体制の構築

では、社会的つながりが弱い人の支援ニーズの特性を踏まえた、相談支援体制はどのように構築すればよいのだろうか。二つの視点から支援体制を考える必要がある。
第一に、日常生活圏域を基盤とした包括的な相談支援体制であり、第二に、基礎自治体行政によるリスク・アセスメントによる緊急支援体制である。

① 日常生活圏域を基盤とした包括的な相談支援体制の構築

生活困窮者自立支援制度では、生活困窮者を「現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」と定義し、対象を状況的、予防的にとらえた点が特徴であった。しかしながら、その運用において対象を自治体が狭義にとらえたり、支援を外部の民間団体に丸投げし、制度が目指す包括的、個別的、早期的、継続的支援につながらない状況も認められている。

その一方で、複雑かつ多岐に渡る生活課題への包括的な相談支援にむけて、相談支援をワンストップで提供する体制を積極的に整備する自治体も出てきている。例えば、東京都世田谷区では、平成28 年7 月から区内全地区で区のまちづくりセンター、あんしんすこやかセンター(地域包括支援センター)、社会福祉協議会の一体整備を進め、身近な地区で高齢者、障害者、子育て家庭等の相談を幅広く受け、適切な支援に結び付ける「福祉の相談窓口」を開設し、複合的な相談にも三者が連携して相談対応を行っている。また、東京都中野区では、平成23 年に「地域支え合い活動の推進に関する条例」を制定し、「見守り対象者名簿」による地域での見守り活動を推進するとともに、地域支えあい推進室(平成28 年から地域包括ケア推進室に改組)のもとに区内4 か所の「すこやか福祉センター」(対象統合型地域支え合い拠点)を創設し、一元的な情報集約と24 時間365 日のバックアップ体制を確立している。さらに平成29 年3 月には「中野区地域包括ケアシステム推進プラン」を作成し、日常区民活動圏域に事務職及び医療・福祉の専門職からなるアウトリーチチームを設置し、潜在的な要支援者の発見や支援が難しい人々への対応に取り組んでいる。また地方都市の長野県茅野市では、2000 年に「保健福祉サービスセンター」を市内4 か所に設置し、医療・保健・福祉の総合相談支援の拠点とシステムを地域福祉計画に基づいて構築してきた。

しかしながら、こうした展開ができている自治体は一部であり、多くの自治体では従来通りの縦割り組織であり、社会福祉に関して専門性の高い職員が少なく、改革の方向性を明確化できていない。

このように、日常生活圏域を基盤としながら対象領域を横断する包括的な支援体制を、自治体に努力義務を課すだけで全国に展開することが困難であることは、生活困窮者自立支援制度の実施状況を見ても明らかである。  
地方分権による自治体の選択を尊重することは重要な側面もあるが、このような国民の生活の質を左右するような事柄については、積極的に国が必要な財源を用意し、制度化することが必要である。さらに、社会的つながりが弱い人のニーズ特性を踏まえると、以下のような措置をとることが必要である。

ア コミュニティ・ソーシャルワーカーの配置

社会的つながりが弱い人とは、地域のインフォーマルな関係も弱く、「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部が提唱するようなすべての住民が相互に支え合う関係性の中に入ることが難しい。場合によっては、そうした関係性を築くことを拒絶することもある。こうした人々に対して支援を行うためには、関係を媒介する専門的な支援を行える人材が不可欠である。
また社会的つながりが弱い人々は、多様化、深刻化、複合化するニーズのもとで、十分な受援力を保持しない場合もあり、あるいは支援に対して消極的あるいは拒否的な態度を形成することもある。このような状況においては、専門職が民生委員や地域住民と連携しながら、積極的に本人のもとに出向き、情報を提供しながら必要な相談支援を提供する、アウトリーチ型の相談支援を展開する必要がある。さらに、このような訪問型の支援を継続的に行い、地域生活の継続を支援する、個別の生活に寄り添った伴走型の支援が求められる。

これらの課題に対応するには、コミュニティ・ソーシャルワーカーの配置が有効である。大阪府では、平成16 年度よりコミュニティ・ソーシャルワーカーを中学校区等の単位で設置している。平成29 年度では、府内37 市町村(政令市・中核市を除く)において160 名が配置されている。コミュニティ・ソーシャルワーカーは、制度の狭間や複数の福祉課題を抱えるなど、既存の福祉サービスだけでは対応困難な事案の解決に取り組むことを期待されている。そのために、地域において、支援を必要とする人々の生活圏や人間関係等環境面を重視した援助を行うとともに、地域を基盤とする支援活動を発見して支援を必要とする人に結びつけたり、新たなサービスを開発したり、公的制度との関係を調整したりすることを行っている。大阪府以外でも、コミュニティ・ソーシャルワーカーを配置している自治体が増えてきているが、全国の自治体での展開が必要である。住民に身近な圏域、とりわけ「日常生活圏域」として想定されている中学校区に1 名程度、全国で約1 万人のコミュニティ・ソーシャルワーカーを配置していくことが望ましい。

イ 行政組織の分野領域ごとの縦割りの弊害の解消

「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部は、対象者の属性ごとの縦割りの弊害を指摘し、分野を問わない包括的な相談支援体制の実施を提唱しているが、多くの法律、制度、事業は、分野ごとの縦割りのままである。それに伴い、多くの自治体においても、高齢者、障害者、児童、生活困窮などの属性ごとに所管部署を分けている。  
 これらすべてをすぐに東京都の世田谷区や中野区、あるいは長野県茅野市のように行政組織を再編することはできないにしても、それぞれの行政部署がキャッチした複数分野に係るニーズ情報を共有化したり、専門的対応が必要な場合に適切な機関へ確実につなげるため仕組みの構築が急務である。社会福祉法の第106 条第3項が求めている市町村による包括的な相談体制を構築するためには、福祉行政の在り方を見直し、必要に応じて組織の再編が不可欠である。

またサービス給付においても、多くの市町村の福祉予算は、高齢者福祉、障害者福祉、子ども福祉など対象属性ごとの法体系のもと組まれている。そのため、社会的つながりが弱い人に対する事業を実施する際、既存の事業の対象になっておらず、財源に裏づけがない場合が多い。分野別の資源を相互に利用し、地域の特性に応じた弾力的な運用を行うためには、国からの補助金を再編成する権限を市町村に持たせなければならない。従来の「再分配」の機能とは別に、限られた財源を有効に活用する「再構築」の機能が求められているのである。その際には国からの補助金だけではなく、それ以外の財源確保もあわせて市町村が関係者とともに計画的に進めていく必要がある。さらに地域で支え合う福祉の推進のための費用を市町村の実情に応じて集約化するなど、福祉関連予算の運用を市町村が柔軟に行えるような仕組みづくりが必要である。

さらに将来的には、現行の属性ごとの法体系から、サービスニーズごとの法体系に移行する必要がある。社会的つながりの弱さは、特定の人だけが抱える問題ではなく、すべての人に関わる問題である。社会的つながりが弱い人が、生活上の困難を抱えた場合、必要に応じて、適切な社会福祉サービスを利用することが、問題を深刻化・複雑化させないために必要なことである。そのためには、特定の属性ごとに対象を限定した現在の社会福法体系から、属性に関わらずサービスニーズを持つすべての人を対象にした法体系(例えばスウェーデンの「社会サービス法」などを参照)に移行する必要がある。

② 自治体による専門的緊急支援体制の構築

社会的つながりが弱い人のニーズは、日常生活圏域の住民やコミュニティ・ソーシャルワーカーの気づきや発見で顕在化する場合もある。しかし支援ニーズの表明のしにくさを考えると、それだけではなく行政が利用可能な様々な情報を、社会的つながりが弱く孤立している人々にアプローチする有効な資源として、個人情報の保護に配慮しつつ、活用することが望まれる。また、状態によっては専門的な緊急支援が必要な場合もあり、それが可能な施設や人的体制が必要である。

ア 生活困難リスクに関する情報の集約化

現在、乳児から学齢期にかけては、様々なデータの活用が可能でありながら、支援ニーズの把握のためには十分な活用ができていない。例えば「出生前」から発生する困難については、妊産婦検診を受診しないまま、いわゆる「飛び込み出産」となっている人々の実態調査を大阪府が行っており、妊娠・出産包括支援事業の推進に役立てている。乳幼児期にリスクを抱えている親子にアプローチするには、新生児全戸訪問や乳幼児健診において、妊産婦や小児保健の観点からの栄養や発達の把握に加えて、経済的困窮状況などを把握できれば、福祉的支援につなげることが可能である。また小学校に就学する以前に保育所にも幼稚園にも通所していない親子を把握する方法がある。この他にも、保育所にソーシャルワーカーを配置するなど、多くの市民が利用する社会資源にソーシャルワーク機能を付加し、ニーズをキャッチする工夫もできよう。

義務教育終了後に雇用の場にも学校教育の場にも所属がない若者をフォローするためには、中学校卒業後に非進学の生徒や高校を中退した生徒のデータから支援体制を組むことが求められる。また児童養護施設退所者の中に生活困難が重層化していることから、近年では、実態把握のためのアンケート調査を実施する自治体も増えてきており、保有データをもとにした調査の実施も有効である。また厚生労働省は、平成24 年からいわゆる「孤立死」防止という観点から、公共料金や公営住宅家賃などを滞納している人のデータや、ガス・電気・水道事業者などが持つ情報を有効に活用して地域において支援を必要とする者の把握を推進している。ただし、これらの情報提供のシステムを構築する際では、個人情報の保護に関する法律が規定する個人データの第三者提供に当たるため、本人から事前に同意を得る等の措置を組み入れる必要がある。

イ 専門的緊急支援が可能な体制の構築

住民に関する様々な情報を集めるだけでは、有効な活用できない。情報をアセスメントしなければならないが、特に重要なのは、緊急支援の必要性という観点からリスク・アセスメントをすることである。
児童虐待に関しては、「児童虐待に係る児童相談所と市町村の共通リスクアセスメントツールが開発されている。だが児童虐待以外についても、緊急支援の必要性という観点から、得られた情報をリスク・アセスメントできる体制が必要である。そのためには、リスク・アセスメントツールの開発等も必要であるが、定型化できない問題や複合的な問題も想定されるため、アセスメントツールでの運用には限界がある。そこで専門的なリスク・アセスメントが可能な人材が必要であり、さらにはハイリスクと判断された場合に緊急的な支援も行わなければならない。
現在、社会福祉士や精神保健福祉士の福祉専門職を職員として採用する自治体も増えているが、福祉専門職を採用せずに一般職で対応している自治体も多い。こうしたリスク・アセスメントは、高度で専門的な判断を要し、行政情報の閲覧権限や、個人情報保護の観点からも、福祉専門職を行政職員の中に位置付けていくことが必要である。

しかし、小規模の市や町村部では、福祉専門職を採用してこうした体制を構築することが困難な場合もある。実際に現在の行政組織の場合、福祉部署以外への職員異動があるため十分な専門性が蓄積できない、あるいは専門性が十分にない職員が対人援助をしている状況にある。結果として、旧態的な「社会福祉主事」制度(1950年発足)が現存させざるを得ないのは、社会福祉士の配置ができないからである。
それに加えて、様々な対人援助の業務を民間外部委託しており、福祉行政の組織は課題が山積している。特に人口減少社会の中で財政が緊迫し職員数を増やすことが厳しい状況で、多様化する住民の福祉ニーズに対応し、「措置権」や「監査権」、予算編成等を有する行政力をどう担保していくかは重要で、その専門性が求められている。
そこで将来的には、社会福祉主事を廃止して社会福祉士に一本化することに加えて、市町村、福祉事務所、児童相談所、保健所(公衆衛生を除く)等のリスク・アセスメントや緊急支援機能を一元化するなどの行政組織の再編成も検討する必要があるのではないだろうか。例えば「福祉署」(仮称)のような独立した専門機関の設置が構想される。「福祉署」を、消防署(全国で消防本部750 か所、消防署1709か所設置)や警察署(都道府県の警察本部と警察署1163 か所)のように市町村に広域で設置し緊急支援の第一線機関に位置付ける。職員は公務員であり、社会福祉士資格等を有するソーシャルワークの専門職、また保健師や介護支援専門員、各種相談員など保健、介護、心理といった多職種連携ができる職員配置と機能が必要である。また緊急時対応では、一時的に避難するシェルターとの連携も必要である。現在、女性や児童・若者が家族による暴力から避難するシェルターは、増大するニーズに対応できておらず、民間のシェルターに依存している地域もある。シェルター機能の整備・拡充が必要である。

3 社会的つながりを再構築するための方法

社会的つながりを再構築としていくということは、ソーシャルキャピタルを構築していくという過程でもある。ただし地域社会全体からのアプローチとは異なり、社会的つながりの弱い人たちの支援を通しての地域づくりである。その視点から3つの方法を示す。

(1) ソーシャルサポートネットワークの構築

社会的つながりが弱い人たちを支えていくために、住民に身近な圏域でソーシャルサポートネットワークを作っていくことが大切である。本人を中心としたサポートネットワークである。
このネットワークをつくるためにはコミュニティ・ソーシャルワーカーによる支援が必要である。まず本人がこうしたつながりを望むようにしていくこと、特にセルフネグレクトの状態にある人々に生きる意欲を喚起しなければならない。また周囲に対しても、丁寧な説明や同意が必要である。とりわけ排除されそうな関係にある場合には関係性を修復し、生活の安定を図らなければならない。こうしたことを調整しながら、ソーシャルサポートネットワークをつくることは、従来のような熱心な住民活動に頼ったインフォーマルな支え合いだけでは困難である。専門職と地域住民等が協働して一人ひとりの生活を支えるネットワークを形成する必要がある。富山県では「ケアネット活動」を推進しているが、氷見市ではこの事業に先駆的に取り組み、氷見市社協にケアネットセンターを設置し、専門職と地域住民が協働して、市内で約750 を越えるチームが活動を展開している。つまり750 人の人を支えるネットワークをつくっており、様々なニーズをもつ人を支えている。
こうした丁寧な支援をしていくためには、前述のように全国の日常生活圏域に1 名程度のコミュニティ・ソーシャルワーカーを配置していくことが必要である。またコミュニティ・ソーシャルワーカーの支援を受けた住民相互相談支援ができる拠点の整備をあわせて行う必要がある。

(2) 福祉教育(福祉意識の啓発、理解、参加)の推進

地域住民が地域生活課題について共有し、その解決にむけて協働しようという意識、つまり「我が事」になっていくためには、住民の意識変容を伴う学びが必要である。なぜその人たちと関わっていくことが大切なのか、社会的孤立が自己責任ではなく、今日の地域社会の構造的な問題としてとらえ、社会的つながりが弱い人たちとの積極的な関係をつくることが、支援を通して地域づくりにつながっていくことを理解し、そのための行動を喚起していく学習と、そうした一連の動きについて省察をしていくことが必要である。
そうした学びは成人だけではなく、幼少期から学校教育等と社会福祉関係者の連携のもと、自己肯定感を高め、多様な他者との関係を結べるような力を育んでいく必要がある。そのことは人権意識の涵養にもつながり、まさに幼少期から生涯に渡り、生涯学習の視点から「共に生きる力」を身につけていくことが重要である。
このような一連の学びを「福祉教育」として、特に社会福祉協議会が中心になって進めてきた。厚生労働省の「地域における住民主体の課題解決力強化・相談支援体制の在り方に関する検討会(地域力強化検討会)」の最終とりまとめにおいても、「福祉教育」の重要性が指摘されている。福祉教育は支える側だけの変容を求めるものではない。相互の関係性を育みながら、お互いがよりよく生きていこうとする学びを展開していくことである。

しかしながら、平成29 年の学習指導要領改正によって、総合的な学習の時間が減り、体験学習としての福祉教育の機会が減少することが懸念される。子どもの貧困問題やスクールソーシャルワークが着目されているが、支援ニーズのある児童・生徒への対処だけではなく、すべての児童・生徒にとって福祉を学ぶ意義、それが生涯学習として公教育の中に位置付けられていくことが重要である。
大阪府豊中市社会福祉協議会は、小学校区ごとに「なんでも相談」を受けているが、その都度、住民の人たちと学びの機会をつくっている。また宮崎県日向市社会福祉協議会や大阪府岸和田市社会福祉協議会などは、地域と学校が連携して本格的なサービスラーニングを展開している。宮崎県都城市社会福祉協議会などは、地域福祉計画の策定にあたって中学生を策定委員として参加させている。福祉教育を土台として地域福祉が推進されている。

(3) 地域福祉計画の策定

このような働きかけについては、個人の善意だけに頼るものではない。行政計画の中にきちんと位置付け、それにむけた対応策として施策化していくことが必要である。社会福祉法第106 条では、地域生活課題の把握と連携、解決にむけた包括的支援体制の構築が具体的に盛り込まれた。換言すればコミュニティソーシャルワークが展開できるシステム、つまり包括的支援体制を構築していくためのツールが地域福祉計画である。
平成29 年に改正された社会福祉法第107 条では、地域福祉計画が介護保険事業計画など各分野計画の上位計画とされ、それらに共通した事項について盛り込むこと、その進行管理のあり方について規定された。

また平成29 年12 月の通知「地域共生社会の実現にむけた地域福祉の推進」では地域福祉計画、地域福祉支援計画の策定ガイドラインが示された。これによると今後の地域福祉計画は、従来のように住民参加だけではなく、多様な専門職(専門機関における保健・医療・福祉等の専門職)や関係する多部門の行政職員の参加が必要になる。この「住民参加」「専門職参加」「職員参加」という3つの参加を促しながら、計画策定にむけた共通合意を作り出していくために、マネジメントを担う職員が計画策定の技法等を身につけておかなければならない。

さらに社会福祉関連の分野別計画だけではなく、市町村では自殺対策計画、成年後見制度利用促進計画、再犯防止計画、住宅セーフティネット法による市町村賃貸住宅供給促進計画などとも社会福祉は一体的に整合性をもって取り組んでいく必要がある。

しかしながら、こうした分野横断的に地域福祉計画を策定していくためには、庁内でそれを企画担当できる部署や職員が不可欠である。先述した3つの参加を促しながら計画策定をしていくための担当職員の研修も不可欠である。こうした取り組みを踏まえて、すべての市町村で地域福祉計画の策定がされるように、社会福祉法の改正によって策定を義務化すべきである*。

*市町村地域福祉計画の策定状況は、厚生労働省の調査(2017 年4 月1 日時点)によると、1,289 市町村(74.0%)が策定済みである。市区部では89.7%が策定済みであるが、町村部では60.3%に留まっている。未策定の理由は、「計画に係る人材やノウハウ等が不足していため」が最も多く、74.5%の市町村があげている。


4 社会的つながりが弱い人を包摂する社会にむけて

社会的つながりが弱い人の問題を深刻化させないためには、2 章や3 章で述べた支援が必要になる前に、社会的つながりからの排除を防ぎ、包摂するための施策が必要である。このことは、単に従来の家族、職場、地域社会におけるつながりを維持するための施策に留まらず、新たなつながりを構築するための施策が求められていることを意味している。

こうした施策を検討するためには、社会的つながりの弱さを社会問題化させている社会構造の分析を踏まえる必要がある。日本学術会議では、平成26 年に提言「いまこそ『包摂する社会』の基盤づくりを」などを出し、こうした分析を踏まえた提言を行っている。

本提言では、これら提言を踏まえた上で、さらに社会福祉学の立場から、社会的つながりが弱い人を包摂するための施策を述べる。

(1) 受援力を高める教育・広報

社会的つながりが弱くても、自ら必要に応じて相談機関を利用し、社会サービスを活用して生活困難を解決できればよいが、多くの人は相談機関に赴こうとしない。それには様々な理由があるが、一つには自らの生活問題を「自己責任」の問題と過度にとらえすぎる点が挙げられる。自治体やNPOなどの民間福祉機関の支援を受けずに「自己責任」の下に自立した生活をしていくことは、一見すると望ましい生活スタイルのように思えるかもしれないが、それは健康、収入などの特定の条件が満たされた人生のある時点にしか当てはまらない。病気、失業などの生活困難が発生した場合、すべて「自己責任」で対処しようとすることが、返って問題を複雑化する場合もある。全面的に他者に依存することや、問題を他者に転嫁することは望ましくないとしても、他者の力も必要に応じて借りながら、一緒に問題を解決することは望ましい対処法である。そのためには、人々が上手に社会福祉などによる援助を受け入れる力(受援力)の形成が必要である。平成20 年に改訂された学習指導要領の理念である「生きる力」をつけるためには、この受援力の形成という視点も必要である。適切な受援力を高めるための学校教育プログラムの開発や、市民に対しての社会教育や広報活動を行う必要がある。

(2) 社会参加を促進するための「合理的配慮」の対象拡大

平成28 年4 月から施行された障害者差別解消法(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」)では、障害者に対する不当な差別的取り扱いを禁止するとともに、障害者の社会参加を促進するための「合理的配慮」の提供を求めている。この「合理的配慮」とは、障害者が他の者と平等に社会参加するために、行政機関等及び事業者に対して、過度の負担ではなく合理的と認められた配慮の提供を求めるものである。「合理的配慮」という考え方は、配慮を必要とする者と配慮を求められた者との対話を促し、具体的な場面でどのような「合理的配慮」を提供できるかを検討するという意味では個別的対応である。しかしひとたび合理的と認められた配慮を提供しなければ、それは差別と認定され、この点において普遍的な権利性を有している。
差別を受けやすい人の社会参加を推進するためには、単にサービス給付をするだけでは解決できない場合がある。差別を生み出してきた社会的障壁の除去が必要なのである。そのために「合理的配慮」を行うことは有効な措置となるのである。したがってこの考え方は、障害に限らず、人種、宗教、性的指向、年齢などにより差別を受けやすい人々の社会参加を促進し、対話に基づく社会的つながりを作り出す上でも有効な概念であり、対象の拡大を検討すべきである。
このように「合理的配慮」の対象を拡大することは、平成29 年度の社会福祉法改正で追加された第4 条第2 項に定める多様な「地域生活課題」を解決し、地域住民の社会参加を促進するために必要な措置である。

(3) コミュニティ・ソーシャルワーカーとしての専門性の強化

社会的つながりが弱い人を包摂するための社会を作るためには、社会福祉専門職の役割についても見直すことが必要である。これまで社会福祉専門職は、高齢者・児童・障害者・ひとり親家庭・低所得者など、生活問題を抱える人の属性ごとの事業に配属され、ともすれば担当する事業の対象者のみを相手に支援してきた。もちろんこうした領域ごとの専門性も必要ではあるが、今後社会的つながりが弱い人の問題が深刻化することが予想される状況においては、対象者を限定せずにニーズを総合的に把握するコミュニティ・ソーシャルワーカーとしての専門性の強化が求められている。
そのためには、社会福祉士等の養成教育課程や現任者研修の見直しが必要になる。社会的つながりが弱い人につながるためのアウトリーチ、生活困難のリスク・アセスメントやマネジメント、社会的つながりが弱い人を包摂するためのソーシャルサポートネットワークの形成などの知識や技能を修得する教育が必要であり、そのための研究が必要なのである。


《資料》
・コミュニティ・ソーシャルワーカーの配置状況に関する全国調査としては、野村総合研究所が行ったものがある。この調査では、コミュニティ・ソーシャルワーカーを「名称・呼称は問わず、①小地域単位で担当し、②制度の狭間の課題も含めて、個別支援と地域の社会資源をつなぎ、③地域特性に応じた社会資源やサービスの開発を含めた地域支援を行う役割を担っている人」と定義して行われた。市町村、市町村社協、地域包括支援セター等を対象に行ったアンケート調査では、2012 年の調査時において、636 の機関・団体でコミュニティ・ソーシャルワーカーが配置されていた(調査対象2,255 件、有効回答数1,061 件)。ただしこれらの中でも、専任のコミュニティ・ソーシャルワーカーを配置しているのは、約4 割にとどまっていた。また都道府県・政令市の37.3%でコミュニティ・ソーシャルワーカー研修が実施されていた。
・厚生労働省の調査(2016 年10 月1 日時点)によると、全国の福祉事務所の生活保護担当職員の社会福祉士資格の取得状況は、査察指導員で8.7%、現業員で13.5%に留まっている。


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