「分かち合い」の社会保障へ〔メモ〕
高橋正幸・埼玉大準教授 :経済2018.6 よりの備忘録
(著書「支え合いへの財政戦略」〔『転げ落ちない社会 困窮と孤立を防ぐ制度戦略』所有 宮本太郎編著〕)
格差と貧困を拡大する「機関投資家資本主義」と対極のとりくみ
【「分断社会」を超え、「分かち合い」の社会保障へ】
1.「財政赤字だから社会保障は抑制」という落とし穴
●「私たち」という意志が持てない社会に
・80年代「第二臨調」の「増税なき財政再建」…“財政が厳しいので社会保障の支出を抑制しなければならない”という政策が40年近く継続/安心して暮らせる社会は実現できずにきた
・結論/“財政が厳しいから…”といっている限り、暮らしは破綻し、同時に財政も破綻する
→人々の生活を支えるために有効に働かない財政は、税負担に同意しない社会を創出し、政府への信頼を損ねる
→さらに、貧富の格差を広げ、人々が生活経験、価値観の違いによりバラバラにされ、互助・共助の前提である「私たち」という意識が持てなくなる
・人間は、自分に余裕がないと、他に手を差し伸べるのが難しくなる
(メモ者 災害救助の鉄則 支援者にこそ暖かい食事を/使命感だけでは、困難な中での支援がもたなくなる/教員の多忙化が、ゼロトレランス、ダークペタゴジーが横行し、子どもをおいつける)
~ 自分の生活が苦しいと、他者を妬む感情が生まれ、社会連帯を損なっていく
・財政とは、みんなでお金で支えあおうという制度/それへの同意を損ねていく。結果して、人々が安心して暮らせない社会は、やがて財政も破綻に向かっていく。
● 日本社会に根深い「残余主義」的社会保障
・「残余主義」~「対話主義」の対語/“本人が働き、自立して、福祉に頼らず、生活上の困難に対応するの”が普通とみなす見方
~ 例外的な状態にある弱者を救うのが「社会保障」の役割という見方/そのために対象者を選び出し、その人にだけ公的な保障を向ける(メモ者 その際、普遍主義の最低ラインに満たない「劣等処遇」となす)
・「普遍主義」~不安定な市場経済の下、家族環境、生活条件も異なる人々の生活は、自分で維持(メモ者 またはコントロール)できるものではない、という理解がベースにある
~ 必要なニーズを権利として、社会保障でカバーすべきだという考え/それによって初めて、人間の生活は安定し、人々が自由を獲得できるというもの
(メモ者 出発点は、貧困を防ぐための「労働市場の組織化」/社会保障は労働者階級のもの=「間接賃金」)
・国際的な比較/日本「働かざるもの食うべからず」という残余主義的な社会意識が非常に強い
~ 現役世代を社会保障として支えてこなかった/限定されたものだけ福祉で救済(メモ者 ゆえに強烈なスティグマ感を持ち出した)
(メモ者 貧困な福祉を企業内福祉が補い、終身雇用制をあわせ、強固な企業支配を確立。高度成長を支えた/戦前からの恩給、医療制度の階層性…高級官僚、軍隊、大企業・・そして最後に臣民という制度の誕生時期、処遇の厚薄など階級支配の制度としての枠組みをひきずっている。)
・北欧・・・普遍主義(メモ者 「高負担」への合意)
・「公的な社会支出」(OECD定義の社会保障支出、GDP比)のうち
・「現金給付」の割合~日本 高齢者向けの年金の比率が他国より高く、現役世代への給付が非常に少ない
・「現物給付」 日本 医療が大きい。それ以外では高齢者介護が近年増加、家族給付が小さく、障碍者向けサービス、失業者への支援は極端に少ない。
~しかも、医療・福祉サービスを受け取る際の自己負担が、じわじわと増加/基礎的な「支援」を「買わせる」傾向が強化(介護保険、障害者福祉、子ども子育て支援制度…いずれも市場化に適合的な制度)
・国民所得 97年をピークとして20年間で確実に低下
~ 世帯単位で、一番厚い層 年間所得200~400万円 老後の生活を支えられない層の増加/今の30代、40代は、非正規化・雇用所得の低下、社会保障制度の改悪で、所得・貯蓄が一段と悪化
(2)「分断社会むをどう克服するか
●「必要原理」に立って、社会保障制度を変える
・今日の日本。自立で暮らせることが普通だという考え方は、もはや成立しない
・「必要原理」(井手英策・慶応大学教授が提唱)~人々が生活するうえで誰もが必要とするニーズに着目し、それを満たすことを土台とする
→ 子育て世帯 子育てのコストが親が負担し、家計上厳しい世帯に、厳しさに応じ児童手当を出す
/が、本来、子どもは社会全体の資産。裕福な世帯も貧しい世帯も、子どもの命の価値は同じ。よって子育ては社会が担うという考えに立ち、所得のあるなしで制限せず、支給額も区別なしに手当てを出すあり方
(メモ者 その上で、財源につい累進課税で支える。/スティグマを生まず、事務上も簡素)
・例)介護保険の現状…介護度で給付限度があり、保険で賄えるサービス量に枠。超える分は全額自己負担(メモ者、サービス量に応じた利用料負担も発生。よって低所得者ほど、サービス量の抑制が発生)/ニーズがキチンと満たされないために「介護利殖」が増え、子ども世代の困窮化を招く/最低限の人間的な老後を送ることは、本来、権利であるはずが、私的な経済的な問題にされ、それにより子世代の働く自由までも奪われている。
→ 利用限度額を大幅に緩和し(メモ者、利用料負担に大幅に抑制し)、ニーズを満たす制度にすることで、高齢者の人権保障、子世代も仕事をつづけ、困窮化を防止できる。
● 生活保護制度を、すべての階層を支える生活保障へ
・生活保護は最後のセーフティネット/利用すると生活扶助、住宅扶助、教育扶助があり、介護・医療も無料
→なぜ保護世帯だけ、なんでも無償か?/教育、住宅、医療・介護などサービスを買わされる仕組みの中で、保護世帯だけ、あたかも得をしているようになっている。
(メモ者 政府認定の「困窮者」だけ公的扶助。強力なスティグマを生み出し、社会を分断するシステム)
→ 誰もが必要するサービスを無償とすれば、「特権」にならない(メモ者 財源は累進課税)/住宅、医療、介護、教育、年金、所得保障を、ニーズのみに応じて普遍的に行う
(現在の制度は、所得制限があり、申請主義…貧しい、「自立」できないことを申告しないといけない制度、知らなければ利用から排除されるシステム ここにも「自己責任」論、「お上から施しを受ける」思想が貫徹)
●すべての人への生活保障が「連帯」の可能性をつくる
・自力で何とかするのが普通で、それができない人を救済するという残余主義的政策は社会的連帯を崩していく
・多くの国民が生活が十分苦しい(厚労省調査 約6割)。が、苦しい中で自分たちが払った税金によって、一部の人だけが助けられるのか、という意識を生み出す~ネットに溢れるバッシングの背景
・ここで考えないといけないこと・・・ではなぜ自分はこんなに苦しいのか、ということ/生活を自分の力だけで成り立たせるのが当たり前だ、という社会的圧力に、多くの人たちが押しつぶされそうになっていること
・すべての人に生活のためり基礎的なニーズを保障することは、ワーキングプアと生活保護を受けている人が分断され叩き合う状況――共倒れになる負のスパイサルを避け、互いの連帯を作っていくための戦略
・誰もが等しく(そのニーズに合わせて)社会に支えられているという意識によって、厳しい状態にある人への寛容さと、社会制度そのものを向上させる意識がつくられていく
(3)「分かちたい」の財政への合意をつくるために
・財源…大事なのは、めざすべき社会像を描いて確保していくこと〔優先順位をきめていくこと〕
・税負担が経済成長を妨げるは根拠なし/ 北欧はリーマンショックの影響も比較的少なく、その後、良好
〔競争力も高い〕/当然だが、税負担をしても、社会保障で国民の生活にもどってくる。
●税制による所得再配分を強める
・日本 社会保険が、先進諸国中、もっとも比率が大きい…年金、医療、介護が保険制度であるうえ、その他の社会保障制度が手薄
→基礎年金が低額、国保・年金・介護も標準報酬月額に上限があり頭打ち…全体として逆進性/保険料負担を増やして社会保障を賄う今のやり方では、所得格差を助長するだけ
・税 80年代後半から累進性か低下、分離課税となっている株式譲渡益などの税率が低く、所得再配分機能が著しく低下。
・改革方向/所得税の再配分機能を高める。社会保険に偏重した社会保障負担をより公平性を高めた税システム
・まずは資産所得の分離課税の改善を
→ 財政とは、見知らぬ他人同士が、負担を分かち合うシステムである以上、広く納得できる、わかり易い原理での改革を
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