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社会保障費 GDP比でなく名目値で膨張を煽る「政治的意図」

 権丈 善一 : 慶應義塾大学商学部教授のダイオモンドオンラインのレポート
 将来の社会保障費の推計は、経済成長率、物価上昇の前提を立てておこなう。その額が大きくなればGDP比は同じでも、額は膨張する。その前提を無視して名目比で1.6倍と大きく報道するが、GDP比では、1.11倍である。 医療費、年金を取り上げて「誤報」の正体を明らかにしている。
 この「誤報」が功を奏してか、社会保障費抑制、消費税増税への同調圧力、また年金不信による民間保険推進の土壌を提供してきた。
同氏は、社会保障審議会、社会保障国民会議、社会保障制度改革国民会議委員、社会保障の教育推進に関する検討会座長などを歴任。社会保障国民会議の発言をみても「医療は産業としての側面がある」とか、全体の抑制基調の中では異色の発言をしていたような印象がある。
20180805
〔他のグラフはウェプページで〕
【医療費膨張を煽る「誤報」はこうして生まれる 医療費を決めるのは高齢化でなく政治的判断8/2】
【社会保障への不勉強が生み出す「誤報」の正体 名目値で見ても社会保障の将来はわからない 7/25】


【医療費膨張を煽る「誤報」はこうして生まれる 医療費を決めるのは高齢化でなく政治的判断8/2】

十年一昔より少し前の2006年、医療保険制度の大改革のころ、この国は、奇妙な話で、大いに盛り上がっていた。
1994 年に出された2025年の医療費の見通しは141 兆円で、その6年後の2000 年に試算された2025 年の医療費は81兆円、そしてさらに6年後の2006 年になされた2025 年医療費試算では65 兆円であったことを受けて、「なぜこんなにも予測の失敗を繰り返すのか。過大な予測をわざと出して、医療費抑制機運を高めようとする厚労省の陰謀ではないか!」と、みんなで盛り上がっていたのである。もちろん、この話は国会でもとりあげられていた。

◆過大推計は本当か

そこで、2006年12月に「医療費の将来見通しに関する検討会」が開かれ、この問題が議論されることになった(2007年7月まで)。私もこの会議に呼ばれたのであるが、それは、一国の医療費は、通常の再分配政策と同様に政治的に決められるものであって、それは所得という支払能力が決める形で現れ、高齢化のような医療ニーズが決めているわけではないという、医療経済学の常識を日頃から論じていたからであろう。
しかし、医療費は所得が決めるという話は、会議の中でみんなに理解してもらえなかった。すると、第3回目の会議の場に、事務局が作成した次の図が提出された。

図をみればわかるように、名目経済成長率が高かった1994年に2025年の医療費は141兆円と試算され、成長率が落ちた2000年の2025年医療費見通しは81兆円、さらに成長率が鈍化した2006年時の2025年国民医療費見通しは65兆円と試算されている。

このあたり、医療経済学者ゲッツェンの説明を借りよう。 当時の試算は、過去数年間の年齢階級別医療費と将来の年齢階級別人口構成に基づいて行われていたのであるが、どうして、名目経済成長率が高かった時に試算された将来医療費は大きくなり、成長率が落ちてくると将来の医療費は小さくなっていたのか?

「医療費は、(中略)グループでプールされた売買、より包括的には社会全体(普通は国家を意味する)でプールされた売買である。医療費は、あたかも家計における医療費が家族のメンバーの間でシェアされるように、市や県の間でもシェアされる。その結果、国内で利用される医療費総額の予算制約は、州や市や家計の所得ではなく、国の総国民所得となる」

総医療費の国際比較研究では、医療費は所得が90%程度を説明し、高齢化のような医療ニーズを表す指標は影響ないことは、かなり前から確認されてきたことであった(逆に、皆保険を持つ国々での国内の地域間比較では、所得は影響がなくなり、医療ニーズが効くことになる)。

この研究分野の古典とも言えるニューハウスの1977年論文には次の一文がある。「制度要因は内生的である:医療の制度要因――患者による医療費自己負担の在り方、医師や病院への医療費の支払方式、病院経営の分権・集権的性格等々――は、内生的に取り扱われるべきであり、各国は自国の所得水準に相応しい医療制度を、みずから発見するであろう」。

◆総医療費を決めるものは何か

「制度要因は内生的」というのは、総医療費を決めているのは医療の制度要因ではなく、総医療費がある一定の水準に収まるように医療の制度要因が決められているという話である。こうした何十年も前からわかっていた医療経済学上の常識が公の場で再確認されたのが、先の「医療費の将来見通しに関する検討会」であり、その報告書に、次が記されることになる。

「診療報酬改定率は政策的に決定されるものであるが、長期的には、タイムラグはあるものの、経済動向との間に結果として一定の関係が見られることから、医療費の伸び率を設定するにあたり(中略)将来見通しの前提となる診療報酬改定率は経済との関係を勘案して設定することも考えられる」

ここに、「タイムラグはあるものの」とあるのは、第3回「医療費の将来見通しに関する検討会」に出された次の資料に基づいている。日本の経験では、診療報酬改定時における過去の経済動向を踏まえつつ、改定率が決定されるため、経済の影響は4~5年遅れて診療報酬の改定に表れるのである(医療費と経済のタイムラグは他国でも観察されている)。


こうした「医療費の将来見通しに関する検討会」の報告書を反映させた初めての医療費の将来見通しは、2008年の社会保障国民会議における「医療・介護費用のシミュレーション」であり、そこでは、次の方式が用いられた。

医療費のみならず、介護費についても、将来見通しに「量×価格」の構造を取り入れたことにより、あるべき医療・介護提供体制の絵姿を先に描いて、それがどの程度の経済規模になるのか、そしてどの程度のマンパワーを必要とするのかを試算する道が拓かれるようになった。
このように、価格を分離して、医療や介護の提供体制という「量」サイドのあるべき姿を描き出す方法を準備し、提供体制のあるべき姿という、この国の大きな政策課題を集中的に議論できるようにしたのが、2006~2007年の「医療費の将来見通しに関する検討会」の報告書だったわけである。

2008年の社会保障国民会議でなされた2025年までの医療介護費用のシミュレーションは、2011年と2012年の2回にわたって改定された。そして今年の5月21日に、 初めて2040年の試算「2040 年を見据えた社会保障の将来見通し (議論の素材)」が示された。この「議論の素材」では、単価に乗じる伸び率は、前回の仮定が使用されており、その仮定とは次である。

ケース①:
医療の高度化等による伸び率(A)
+ 経済成長に応じた改定の要素(B) 
- 薬・機器等に係る効率化要素(C)  

(A)近年の動向等から年率1.9%程度と仮定
(B)当該年度の名目経済成長率の3分の1程度と仮定
(C)年率0.1%程度と仮定

ケース②:
賃金上昇率と物価上昇率の平均 + 0.7%程度

この方法においては、経済成長率や賃金、物価上昇率が仮定値から外れると、名目医療費の試算結果も変動するのは当たり前である。そうした経済前提の振れの影響を取り除くために、将来見通しは、対GDP(国内総生産)比で示された実質値でなければ意味をなさないのである。このことは、公的年金にも言えることは前回の「社会保障への不勉強が生み出す『誤報』の正体」で説明した。

◆政府資料では名目値はカッコ扱いだったが……

 このような背景があるため、将来の社会保障給付費を議論する際に名目値で論じても「議論の素材」にはなりようがない。それゆえに、今回の試算においても、政府報告は、次のように、まず対GDP比を示し、()内に名目値を載せているだけであった(私は名目値を表示しないほうがよいと思っている)。

「社会保障給付費の対GDP比は、2018年度の21.5%(名目額121.3兆円)から、2025年度に21.7~21.8%(同140.2~140.6兆円)となる。その後15年 間で2.1~2.2%ポイント上昇し、2040年度には23.8~24.0%(同188.2~190.0兆円)となる」

これだけの基礎知識を得た上で、一例として政府発表翌日の日本経済新聞朝刊1面トップ記事のヘッドラインを紹介すれば、「社会保障費、40年度6割増の190兆円、政府推計」。社説は、前回に紹介したように、「医療・年金の持続性に陰りみえる長期推計――社会保障給付費の長期推計は、このままだと医療・介護や年金を持続させられないおそれを映し出した」と論じていた。

毎日新聞も例に漏れず、18年から40年に公費負担の名目値が約30兆円増加することについて、「現在の消費税収は1%で3兆円程度。30兆円の税の負担額は単純計算すれば10%の規模に相当する」と、目を疑う記事。彼ら記者たちは、先述の基礎知識を持っていないことがわかる。

正確な情報を伝えている社説は、全国紙の中では読売だけであり、そこには、「対GDP比でみると1.1倍だ。際限なく膨張して制度が崩壊する、といった一般的なイメージとは異なるのではないか」とあった。

◆名目値では見えてこない本当の将来像

今回の試算が2040年を対象としたのは、40年ごろに65歳以上人口がピークを迎えるからである(正確には42年)。そして今回の試算でも確認されたことに、今後、65歳以上人口比率は、2018年28%から、2025年30%を経て2040年35%へと高まるにもかかわらず、公的年金給付の対GDP比は低下さえすることがある。
こうした試算結果のメッセージは、将来見通しを名目値で論じていたのでは見えてこない。そうであるのに、年金給付費が2018年56.7兆円から、2025年59.9兆円を経て2040年73.2兆円と報道し続ける記者たちのリテラシーはどうしたものか。

将来の話は名目値で論じてはいけないということは、2006~2007年の「医療費の将来見通し検討会」の場でも、委員であった私は繰り返し言ってきた。しかし報道は、一部の例外を除いて、いまだにわかっておらず、誤ったメッセージを発する情報を流し続けてきており、その誤報を訂正することもない。

現実には、繰り返された誤報のおかげか、社会保障費抑制の方向に世論は強く傾き、日本でも所得と社会保障給付費との間に強い関係があるとはいえ、国際的には所得の割には給付費が低いまま、つまりこの国では社会保障の抑制にしっかりと成功してきているのである(以下の2つの図は、「『社会保障費が2040年に1.6倍』は本当か」より引用)。


この国が抱える問題はまさに、国民のニーズに見合った社会保障が本当に提供されているのかということにある一方で、必要な財源確保を何十年間も先送りしてきたゆえ、今後の財政健全化のために社会保障の量的充実も相当に難しいというジレンマに直面していることにある。
そして今、このジレンマの中で、よりニーズに見合った給付を行うという意味での制度の効率化・給付の重点化を、各制度の関係者たちの協力の下に懸命に進めながら、国民の生活を守るために、可能な限りの財源の確保が模索されているのである。
ところが、メディアが不勉強のままで将来の社会保障費を名目値で論じる誤報を続ければ、考えなければならない方向とは異なるメッセージをメディアは発し続け、誤報に誘導された誤った政治的判断につながっていく。そうした危惧を書いた一文をもって本稿を閉じようと思う。
増補版』132~133ページ) 「この国では、世界一の高齢国家を突き進んでいるのに、GDP に占める社会保障給付費がなお低く、年金などは将来の方が給付のGDP 比が下がってしまい、このままでは多くの人にとって自立した尊厳のある人生を全うしてもらうのが、相当に難しくなるというのが、取り組まなければならない課題となっているわけです。将来の社会保障給付費の名目値で議論をしていると、道を誤ることになりかねません 」(権丈善一『ちょっと気になる社会保障


【社会保障への不勉強が生み出す「誤報」の正体 名目値で見ても社会保障の将来はわからない 7/25】

まずは、間違い探しから始めてみようか。

次の3つの記事は、日本経済新聞の社説からである。
「社会保障給付費の長期推計は、このままだと医療・介護や年金を持続させられないおそれを映し出した。(中略)年金と医療・介護、育児支援などを合わせた給付費は現在121兆円強。厚労省と財務省などが一定の前提をおいて推計した結果、2040年度に190兆円となる。およそ70兆円の増加だ」(2018年5月22日)
「(2009年2月の年金財政検証での)苦肉の策は、積立金の運用利回りを4.1%と高めに想定したことだ。2004年時点の想定は3.2%、実績は2001~2007年度の平均で2.3%だった。(中略)どうみても過大だろう」(2009年2月24日)
「2009年の検証では、年金積立金の超長期の運用利回りを標準ケースで年4.1%に設定した。これは『現実的でない、甘過ぎる』という強い批判を浴びた」(2014年3月8日)

◆記事に含まれる間違いは何か?

いかにももっともらしく見えるが、これらの記事には実に面白くはあるが罪深くもある間違いが含まれている。
しかもその間違いは、根底において原因が同じである。

1つ目の社説にある190兆円という値は、2018年5月に、65歳以上人口がピークを迎える2040年(正確には2042年)を対象に、社会保障給付費がいくらになるかを試算した報告書「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」の中の数値である。これまで政府が示す社会保障給付費の試算は、2025年までのものしかなかった。それがこのたび初めて、2040年までの試算が示された。

実は、年金や医療をはじめとした社会保障給付費の長期試算は、まず、GDP(国内総生産)や賃金の伸びが前提とされ、これらの変数の一定の割合だけ年金や医療をはじめとした給付費が伸びるという方法で試算されている。したがって、GDPや賃金の伸びが前提と異なると、社会保障給付費の額も、当然異なってくる。

こうした方法の下では、長期試算の社会保障給付額を190兆円というような名目値で議論しても意味がなく、この数値は、社会保障の将来のありようを考える際の「議論の素材」としてはまったく使うことができないのである。

加えて公的年金の収支は、制度上、賃金に連動して上下する。ゆえに、2つ目と3つ目の社説にある、名目の運用利回り4.1%という数値も完全に意味がなくなってしまう。このあたり、公的年金を語るうえでは必須の基礎知識なのであるが、あまり知られていないので、まずは年金から説明しておこう。

次の図を見てもらいたい。

公的年金財政の収入は、①保険料と②国庫負担、それに③積立金の3つから構成される。それぞれの規模は、今後100年の単位で見れば、①保険料収入は70%強を占め、②国庫負担20%程度、③積立金の取り崩しおよび運用収入から得られる収入は9%弱にすぎない。ゆえに、収入の大半は保険料が占めると考えてよい。

◆大半が賃金に連動する年金財政収支

次に、公的年金の財政収支のバランスを描いたてんびんの絵を見てもらいたい。

①保険料収入のほとんどは、賃金の一定割合で保険料が賦課されるので、保険料収入も賃金に連動する。また収入のうち、②国庫負担については、給付の一定割合として定まっているので、給付が賃金に連動すると、同様に国庫負担も賃金に連動する。

一方、てんびんの右側にある④年金給付は、賃金の伸びが高いと給付水準も高くなり、賃金の伸びが低いと給付水準も低くなる仕組みの下にある。ゆえに公的年金の給付は「長期的にはおおむね、賃金上昇に連動」することになる(=新規裁定年金の賃金スライド)。

このように、人口構造の変化による影響を除けば、公的年金財政の収支は、多くの要素が賃金に連動する性質を持つため、GDPや賃金の伸びに関する前提の高低にかかわらず、財政は自然とバランスが取れる。

そして、この仕組みの下での名目年金額は、GDPや賃金、物価が変動すれば、それに応じて変動する。ゆえに、将来の年金の給付水準は、名目年金額ではなく、ミクロでは所得代替率(年金給付額/現役世代の平均手取り収入)、マクロでは年金給付総額/GDPという実質値を用いて議論する場合にしか意味を成さない、つまり「議論の素材」にはなりえないのである。

こうした中で、収支に一部、「賃金に連動しない部分」があり、それが年金財政のバランスに対して影響を与えることになる。まず、③積立金部分がこれに該当する。具体的には、賃金の上昇率と積立金の運用利回りの差に当たる、実質的な運用利回りである。

上述のように、年金給付はあくまで賃金上昇率でおおむね決まってくるため、年金財政のバランス上、積立金の運用に求められるのは、絶対的な名目の利回りでなく、賃金上昇率を何%上回るかという相対的なものになるのである。公的年金の世界では、これは「スプレッド」と呼ばれている。

もう1つ賃金に連動しないのは、④年金給付にかかわるものだ。すでに受給し始めている年金(既裁定年金)は毎年、賃金ではなく物価に連動して給付額が決まる(=既裁定年金の物価スライド)ので、これが賃金と連動していない部分になる。すなわち、賃金上昇率と物価上昇率の差に相当する実質賃金上昇率が、年金収支のバランスを考えるうえで、重要となる。

以上をまとめると、公的年金の試算で置かれる経済前提で重要な要素は、賃金を上回る実質的な運用利回り、つまりスプレッドと、実質賃金上昇率の2つであり、決して名目運用利回りではない。

それゆえに、年金積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に厚生労働相が求める運用の中期目標は、名目運用利回りではなく、「実質的な運用利回り(名目運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いたもの)」、すなわちスプレッドで示されるのであって、GPIFが厚生労働省で報告する運用実績は、スプレッドと実質運用利回りなのである。
このあたりは、日頃から資産運用のプロを自任している人にも、理解が難しいようである。

◆甘すぎるどころか、利回り目標を大幅超過

そして2009年の財政検証時、名目賃金上昇率の想定は2.5%で(基本的には内閣府の前提に従っている)、運用の目標値であるスプレッド1.6%と合計した4.1%という数値が、残念ながら論者たちの不勉強のために冒頭の社説に書かれたように独り歩きした。しかし実際には、2009年度から直近のデータが得られる2016年度までの過去8年間の平均(年率)では、名目運用利回りは5.37%だったが、名目賃金上昇率がマイナス0.22%に低下したため、スプレッドは5.64%となり、目標値の1.6%を大きく上回っていた。

最近GPIFが厚労省に報告した運用実績を見ても、2016年度までの、リーマンショック時を含む直近11年間のスプレッドは3.12%であった。2009年時の目標値1.6%は「現実的ではない、甘すぎる」どころか、大幅に超過されていたのである。

今後も、運用実績がスプレッドの目標値を超えるかどうかは不確実ではある。しかしながら、公的年金の収支の仕組みを学ぶこともせず、名目運用利回りの年4.1%だけを取り上げて批判することがいかにピント外れかは、もうおわかりだろう。どうしてそうした誤報が新聞の社説、つまり論説委員会で複数の論説委員の合意として執筆される文章に堂々と出てくるのか、随分と前から不思議で仕方がなかった。

年金財政へ影響を与える要因を語るうえで名目運用利回りを持ち出すこと自体が間違いであるという基礎知識を、普通の人たちが持ち合わせていないことは理解できる。しかしながら、論説委員たちが複数集まっても誰一人として間違いに気づかないままできたということ、そしてそうした誤報を、新聞社は社として訂正もしないままできたというのが、いまだにどうしてもわからない。

◆誤報で国民の年金不信は高まった

ところが、運用利回りが高すぎる、粉飾決算であるといった批判は、いかにも国民が飛びつきそうな話であったためにメディアは大きく取り上げ、国民の公的年金への不信感を高めていった。「そもそも、この財政検証はバーチャルな要素が強い。(中略)年4.1%に背伸びさせた積立金の運用利回りなど、これから百年間の経済の想定も仮想値といわざるを得ない。それらに基づく検証結果そのものに、信用がおけないのだ」(2009年5月27日の日本経済新聞)というようにである。
研究者にも、4.1%を取り上げて「粉飾決算」と大声(たいせい)を発する者が出てきて、それを疑うこともなく信じる経済学者も大勢いた。
もしかすると、彼らには今でも、公的年金を語るうえでの基礎的な知識が欠けており、自ら信じ切っている常識が間違っているという意識がまったくないのかもしれない。それゆえに、自分たちの言動が、国民の年金不信を高め、この国の政治を大きく不安定化させたという罪に対する意識が、今でもないのかもしれない。
本当は、そうした罪の意識のない罪こそが、最も重い罪のように思えるのであるが、彼らは、学ぼうとしないためにその罪に気づくこともなく、これからも間違った情報を流し続けいくのであろう。

では、社会保障給付費の中で、年金に次ぐ規模を占める医療費についてはどうだろうか。この報道でも、多くのメディアにおいて名目値で論ずるという過ちが犯され続けてきた。この点については、次回論じよう。

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