トランプ氏の仕掛けた貿易戦争 犠牲は自国農民・労働者
トランプ氏がしかけた貿易戦争。中国、EU、カナダ、メキシコの対抗措置により、自国内に犠牲がひろがっている。
大豆の主要輸出先の中国の報復関税で、中西部の大豆・穀物農家が危機に直面。乳製品の大輸出市場のカナダ、メキシコをはじめ多くの国が関税の大幅引き上げに引き上げようとしており、チーズ工場、酪農農家も犠牲になろうとしている。さらにハーレーの生産の海外移転と・・・さらに高関税による物価高と消費者負担増。
「アメリカ・ファースト」が、とんだ事態を生み出しつつある
【酪農・乳業もトランプ貿易政策の犠牲者 牛乳は畑に棄てる? 農業情報研究所6/25】
【トランプが仕掛けた対中貿易戦争 米国中西部農民が名誉の戦死?農業情報研究所6/20】
【「対中関税、米消費者の負担に」 産業界で反発広がる 日経6/19】
【トランプ氏激怒も、自ら招いたハーレーの生産国外移転 米メディアも呆れ気味 newsphere6/27】
【酪農・乳業もトランプ貿易政策の犠牲者 牛乳は畑に棄てる? 農業情報研究所6/25】先日、トランプ大統領が仕掛けた貿易戦争で米国中西部大豆・穀物農家が瀕死の危機に直面していると書いた(トランプが仕掛けた対中貿易戦争 米国中西部農民が名誉の戦死? 18.6.20)。
しかし、“アメリカ・ファースト”を唱えてアメリカ産業の再生をめざすトランプ貿易政策の犠牲者は大豆・穀物農民だけではなく、チーズ工場や酪農農家でもあった。米国乳製品の大輸出市場をなすカナダ・メキシコその他の国が、工業製品に対するトランプの高額関税賦課に対する報復措置として米国乳製品に対する輸入関税を大幅に引き上げようとしており、おまけに北米自由貿易協定(NAFTA)や12ヵ国TPPからの離脱で、アメリカの乳製品輸出市場が他国に侵食されれる恐れが強まっているからだ。
カナダと共にNAFTAを構成するメキシコはアメリカチーズの最大輸出国であり、米国から輸出されるチーズの4分の1位以上を吸収している。そのメキシコは15%の関税を課し、7月5日からは25%に引き上げる。トランプ氏は6月8日、ツィッターで、カナダは乳製品に270%の関税を課すとつぶやいたそうである。その上、トランプ氏はカナダ、メキシコばかりでなく日本を含む新市場を含む12ヵ国TPPからも離脱した。
ウィスコンシンの100以上の酪農場から買い入れる牛乳でチーズを製造する乳業会社・Sartori CompanyのJeff Schwager社長は、“輸出市場から締め出されたらミルクを畑にぶちまけることにもなりかねない”、大きな影響が州全体に及ぶと言っているとのことである。
Trump’s Trade War Could Shut Cheesemakers Out of Foreign Markets,The New York Times,18.6.25こんなアメリカ・ファースト貿易政策、何時までのさばるのだろうか。言い換えれば「個人の啓示や英雄的行為その他の指導者的資質に対する、まったく人格的な帰依と信頼に基づく支配、つまりカリスマ的支配」(マックス・ヴェーバー 職業としての政治 岩波文庫)、何時まで続くのだろうか。日本の安倍政権といい、まったくわけの分らん世の中になったものだ。
確かなことは、今の社会、カリスマ的指導者に服従することで「物質的な報酬と社会的名誉」、「官職の独占に基づく被治者の搾取や政治的な役得」、さらには「虚栄心の満足」を求めることを「さもしい」と思わない人間ばかりが威張り腐っているということだ。
【トランプが仕掛けた対中貿易戦争 米国中西部農民が名誉の戦死?農業情報研究所6/20】トランプ大統領が仕掛けた対中貿易戦争のエスカレートで米国中西部大豆農家が戦死に追い込まれようとしている。
中国は先週末、中国製品に25%の追加関税を課したトランプ政権への報復措置として米国製品に25%の追加関税を課すと発表した。この追加関税を課される品目には、米国が中国に輸出する農産物の中心品目をなす大豆が含まれる。最近作物年度、米国が中国に輸出した大豆は3620万トン、大豆輸出総量の61%、大豆総生産の31%を占める。
中国は輸入米国大豆に3%の関税と10%の付加価値税、計13%を課税してきた。それが一気に計38%に引き上げられる。中国の大豆輸入はブラジル産に切り替えられ、米国大豆の輸入は大幅の減るに違いない。
かくて、世界の価格をリードするシカゴ商品取引所の大豆先物相場は急落、19日には主産地中西部の高生産性農家も採算が取れないというブッシェル10ドルを大きく割り込む8ドル台に突入した。それに引きずられて穀物(トウモロコシ、小麦)も大きく下げた。大統領選挙でトランプ氏を支持した中西部農民「皆殺し」の様相だ(→農業情報研究所:小麦・トウモロコシ・大豆先物相場の推移)。. 大豆生産者のロビーグループ・アメリカ大豆協会(ASA)は言う。
「大豆価格は貿易紛争の直接的結果として下落している。価格は5月末以来ブッシェル1ドル半も下がり、なお下がり続けている。2018年作物年度、1ヵ月足らずの間に60憶ドル以上の損害だ」。「市場の安定と大豆生産者の生計を脅かさない非関税的解決策を望む」(Soy Growers in Middle of Tariff Feud with China Stand to Suffer Most,ASA,18.6.19)。
大豆生産者だけではない。全「産業界」も望むところだろう(「対中関税、米消費者の負担に」 産業界で反発広がる 日本経済新聞 18.6.16)。
トランプ政権に先はあるのだろうか。大丈夫、日本の安倍政権のような例もある。だが、「ほかの内閣より良さそうだから」とはいかないかもしれない。
【「対中関税、米消費者の負担に」 産業界で反発広がる 日経6/19】【ニューヨーク=中山修志、宮本岳則】トランプ米政権が中国製品に25%の追加関税を課す制裁の発動を決めたことに対し、米産業界で15日、反発の声が上がった。中国も報復関税を課すと発表し、米国産の大豆や牛肉など農産物の対中輸出が落ち込む懸念が出ている。
米産業界には、対中制裁が米国の家計圧迫や雇用悪化の形で跳ね返ってくるとの懸念がある(米ボストンのコンテナターミナル)=ロイター米小売業界団体は「消費者の家計が圧迫される」と懸念を表明した。プラスチック製品などが対中制裁関税の対象に加わった化学品業界は「貿易戦争をすぐやめるべきだ」と批判を強めている。
全米小売業協会(NRF)のマシュー・シェイ最高経営責任者(CEO)は「関税は米国の消費者が負担することになる。中国の横暴を止めることにはならず、物価の上昇が家計を圧迫する」との声明を発表した。
米通商代表部(USTR)が15日に発表した818品目の課税対象には、日用品や食品は含まれていない。ただ、NRFは中国の報復関税で米国の雇用が悪化する可能性があると指摘。米国内総生産(GDP)が30億ドル(約3300億円)減少するとの試算を示した。7月に制裁関税を発動する対象品目は、USTRが4月に示した原案より約500品目少ない。米製造業から反発が強かった鉄鋼とアルミニウムへのさらなる追加関税は対象から外れた。米国は中国製の鉄鋼にすでに25%の関税をかけており、今回の対象に含まれれば追加関税は50%に達する見込みだった。
建機大手のキャタピラーは1~3月期の決算発表で「原材料費の高騰により4月以降の業績が悪化する」との見通しを示した。米商工会議所も「米国の鋼材価格は1月に比べ4割も上昇した」と指摘し、鉄鋼とアルミニウムを追加関税の対象から外すよう米政府に求めていた。また、テレビや空調設備、プリンターなどの耐久消費財も対象から外れた。織機や生地のプリント機が関税対象から外れた米アパレル・フットウエア協会は「我々が使用する設備のほとんどを対象外とした今回の決定に拍手を送る」とコメントした。
USTRは鉄鋼や消費財をリストから外した一方、代替として半導体やエチレンなどの化学製品を中心とする同規模の284品目を追加した。米ゴールドマン・サックスによると、半導体関連の中国からの輸入額は58億ドル、化学製品は22億ドルに上る。
ダウ・デュポンや3Mが加盟する米国化学工業協会(ACC)は15日、「化学製品が貿易戦争の対象から外されなかったことに失望している」との声明を出した。「化学製品は全ての製品の96%に関係するサプライチェーンの基礎だ」と強調。「数多くの企業を傷つける貿易戦争をすぐにやめるよう、政府と議会に働きかける」と表明した。
トランプ大統領は「中国が報復すれば、さらなる追加関税に踏み切る」と表明しており、貿易戦争が激化する懸念が高まっている。15日のシカゴ穀物市場では、中国が報復関税の対象とする大豆が約1年ぶりの安値をつけた。
中国は年間142億ドル(約1兆5000億円)の米産大豆を買い付ける最大の輸入国だ。アイオワ大豆協会のビル・シップレー会長は「食物を武器とした貿易戦争は数百万の米国の農家にとって大きな懸念だ」と語った。
【トランプ氏激怒も、自ら招いたハーレーの生産国外移転 米メディアも呆れ気味 newsphere6/27】アメリカのシンボルとも言える二輪車メーカー、ハーレーダビッドソンは、今後生産の一部を海外に移転する方針を示した。これは、トランプ大統領が鉄鋼・アルミに課した追加関税への報復として、EUが米産二輪車に課した追加関税に対応するためだ。これまで「メイド・イン・アメリカ」と同社を絶賛していたトランプ氏だが、一転批判に転じている。
◆ 海外工場に不満 トランプ氏、ツイートで猛攻
ハーレー社の発表を受け、トランプ大統領は、「(同社製品は)絶対に他国で作られてはだめだ。彼らの従業員や顧客はすでにとても怒っている」とし、移転すれば終わりの始まりであり、オーラを失い、これまでにないほど課税されるだろうとツイートした。トランプ氏はさらに別のツイートで、同社が以前ミズーリ州の工場を閉鎖し、タイに生産を移転すると発表していたことに言及。関税問題をすでに決まっていた計画の言い訳に利用していると、非難している。
ロイターによれば、ハーレー社がミズーリ州の工場を閉鎖する理由は、アメリカでの二輪車の需要が急速に落ち込んでいるためだという。それでも、ミズーリ工場での業務はペンシルバニア州の工場と統合し、アメリカでの生産を止めるわけではない。タイでの工場建設は昨年5月に発表しているが、ここで組み立てられるのは東南アジア市場向け製品のみだ。建設を決めたのは、TPPによって成長するアジア向け輸出の関税が下がるはずだったが、米国がTPPから脱退してしまったためだと、ロイターは説明している。
◆海外生産は企業なら当然 関税は逆効果
トランプ氏はハーレー社の海外移転を責めるが、すでに同社はブラジルとインドに組立工場を持っている。ヤフー・ファイナンスは、落ち込むアメリカの需要を海外で補うという戦略は、今に始まったことではないと指摘している。ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)は、ハーレー社の二輪車の40%は海外向けであることを指摘し、グローバル企業にとって、生産ラインを海外の顧客のより近くに持つことは珍しくもないと述べている。
EUからハーレー社の二輪車に課せられる関税は6%から31%となり、製品価格を約2200ドル(約24万円)押し上げることになる。ロイターによれば、EUの追加関税により、ハーレー社のコストは年間9000万ドル(約99億円)から1億ドル(約110億円)増加すると見られている。
そうなれば消費者にコストは転嫁される。そこで同社は新たな関税の費用負担を避けるため、EU向け製品の生産を海外シフトするという、戦略の再設定を選んだ。結局のところ、雇用を失うアメリカの労働者とアメリカ経済が敗者となり、ハーレー社とEUの消費者が勝者となるとヤフー・ファイナンスは述べている。商品に課税することは、工場移転のインセンティブを企業に与えるだけだとし、グローバル化した今、関税で自国を守る古いやり方に疑問を呈している。
◆ メディアもげんなり 気分屋トランプ氏
トランプ氏は2016年の大統領選の選挙運動で、「Bikers for Trump(トランプ氏のためのバイク乗り)」というグループの支援を受けていた。大統領就任後はハーレー社の代表をホワイトハウスに招き、「メイド・イン・アメリカ」のお手本として同社は厚遇されたが、一転して攻撃の対象にされてしまった。
ヤフー・ファイナンスは、政権の経済アジェンダに協力してくれるものと思っていたハーレー社が、報復関税がもとで海外移転すると明言したことが、トランプ氏には気に入らなかったのではないかとしている。これまでもアマゾンやボーイングといった企業も攻撃を受けており、ハーレー社も様々な理由でターゲットにされた企業の一つにすぎないともいえる。
LATは、アメリカ企業だからトランプ氏の貿易戦争に巻き込まれなければならない理由はないとする。他国の企業同様、自社を守る手段を取ったまでで、ハーレー社を脅すようなトランプ氏の態度にすっかり呆れ顔のようだ。
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