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国のCLT推進  林業活性化につながらない

 東京新聞「こちら 特報部」で「新建材CLT 国が100%補助 異例の厚遇 疑問の声」〔5/17〕という記事が掲載されている。
 その中で、「CLTに魅力はあるが、柱に使えない安価な木材を使うので林業者の利益は出にくく、産業振興にならない」と述べている森林ジャーナリストの田中敦夫氏は、森林経営管理法案など一連の林業政策に厳しい声をあげている。
 林野庁の計画は、国産材産出量を20年後に2.3倍にする。そのために、所有者が不明、反対の人がいる森林を、A材となった入口段階での皆伐を全面展開できるように新法を制定。森林の多面的機能を維持するとの理由で間伐に出されていた補助金だが、多面的機能を破壊する皆伐にはじめて補助金をだすよう大転換。大量の木材を消費するためにCLTを普及させるため異常な厚遇の補助金を導入、というもの。だが、CLTは研究途上であり、欧州産と価格で対抗できない。官庁として「何らかの成果」を示したい焦りから、「生産量」拡大が自己目的化したものである。
 このままでは大量の原木があまり、価格低下を招き、日本の森林を荒廃させ、林業を破壊するだけだろう。そもそもA材を軸に、間伐などで出てくるB材にも価値をつけようという位置づけであり、発想が逆転している。

 以下は、田中氏のブログの転載
【林野庁の目標  生産量2.3倍化 5/19】
【CLT関係の新聞記事 5/17】

【林野庁の目標  生産量2.3倍化 5/19】

今の国会で森林経営管理法案や森林環境税などを通すでしょ。だから来年度から新スキームの林政が始まるわけよ。で、目標を立てたの。どこかのジャーナリストに「林野庁はビジョンがない」なんて言われないように?(笑)

少し数字を並べてみようか。

・全国の私有人工林約670万ヘクタールのうち、10年後に全体の5割、20年後は7割を集積してちゃんと管理する!という大計画。残り3割は、もともと生産性が低いところだから市町村の直接管理にするとか。
・林道や作業道の延長距離は10年後に24万キロメートル、20年後が32万キロメートルにする。現在(統計は2015年度)が約15万キロメートルだったから2倍以上に伸ばすわけ。 
・なんと国産材の生産量が、1500万立方メートルから10年後に2800万立方メートル、20年後に2・3倍の3400万立方メートルに。

林業の付加価値生産額は、2500億円から10年後が5000億円、20年後はを2・5倍の6200億円に拡大!

ちなみに、こうして生産した木材の使い道も考えている。高層ビルの木造率を、10年後は25%!(今は、ほぼ0%だけど)にするんだ。低層非住宅建築も、木造率を現在の10%から10年後に60%までアップだよ。これらには当然、イチオシ建材のCLT(直交集成板)がたっぷり使われるわけだ。でも、価格が普通の建材の2倍以上だけど、きっと売れるよね。あ、木造住宅も、現在は外材が中心だけど、これを国産材に置き換えるって。

人口が減る中で、これだけの目標を達成しようというのだから、林野庁はなんて凄腕なんだ。
今の2・3倍に木材生産を増やすんだから、山ではバンバン皆伐するだろうな。仕事が増えて、林業は活性化するだろうね。そしたら山村の経済も潤うよね。林業の成長産業化は間違いないよね。バンザイだよね。。。

【CLT関係の新聞記事 5/17】

このところ、新聞でCLT(直交集成板)関連の記事が目立つようになった気がする。
福島の復興住宅にCLTを使うというニュースもあったが、何やら政府の広報ぽい記事が続く。いかに有望な建材かと期待を煽る。
たとえば5月16日の朝日新聞〔略〕。

高層ビルを木で建てるというテーマだから建設系の記事なんだが(紙面そのものは教育面という不思議?)、なぜかその中に「林業再生の切り札に」という言葉が。

建築分野から見てCLTに興味を示すのは結構だ。たしかに新たな建材であり木造高層ビルという新分野を切り開いてくれる。だが、林業をなぜ持ち出すのか。両者がいかにつながるかを記者は全然考えずに、説明を受けた通りおうむ返ししているのではないか。何か裏で政府筋から記事化のプッシュがあった気がする。 

そこに東京新聞が2面に渡る特報面「林業活性化つながらぬ」 で書いてくれました。(5月17日 下記)

実は、こちらの記事は調査スタート時点から私も関わっていて、私が提示した問題点や疑問点をしっかり裏を取って報道してくれた。私の推測もそれなりに正しいことが示せた。輸入CLTに関する疑惑やスギでCLTを作る際の難点、そして唐突な補助金制度。
 面白いのは、朝日ではCLTの建築物が急増とあるのに、東京新聞では伸び悩みとしている点かしら(笑)。
 実は、100%補助については、かなり政治案件であった可能性も浮上しているのだが……。むしろ締め切り日程を厳しくしたのは、採用されないための林野庁の密かな抵抗?   

ちなみに東京新聞でもCLT礼賛記事は出ていて、新聞社のスタンスとは関係ない。ようは記者の視点の取り方であり、勘だろう。



【 新建材CLT 国が100%補助 異例の厚遇 疑問の声 /東京新聞5/17 】

 政府は国産木材の活用を促進するとして、商業施設などを建てる際、新パネル建材CLT〔直交集成板〕を使用すれば、建設会社にその購入費用の全額を丸ごと補助する異例の制度を今月から始める。政府は以前からCLTの活用を後押ししてきたが、普及は進んでおらず、この優遇策で利用拡大を図る狙いとみられる。しかし、林業関係者からは他の建材との補助率の差を疑問視する声や「CLTが普及しても国内林業の活性化にはつながらないむ」との指摘が出でいる。

 CLTとはクロス・ラミネーデッド・ティンバーの略で、複数の木の板を繊維が互い違いになるように重ね合わせで接着した建材パネル。1990年代に欧州で開発され、強度が高いことから、欧米では中高層ビルヘの活用も進んでいる。
 従来の木造建築と異なり、CLTは箱を作るようにパネルを組み立てる。柱や梁のほか、壁や天井もパネルが兼ねる。
 本年度の林野庁の「JAS(日本農林規格)構造材利用拡大」事業は、建設会社が、JAS規格に適合したCLTや無垢材(丸太から切り出した木材)を構造材として活用し、中高層のオフィスビルや店舗などの商業施設を建設する際、その部材費を補助する制度。鉄骨造が多かった店舗などを木造に誘導し、国産材の利用を増やし、林業を活性化させる狙いだ。しかし問題は、CLTへの補助率の額が無垢材と比べ、極めて高いことだ。
 制度では、CLTは1500万円を上限に、一立方メートル当たりの補助額は市場の平均価格の15万円。つまり、補助率は100%だ。

 一方、工法が異なる無垢材は100万円を上限に、建物面積1平方メートル当たり二千円に設定されている。
 単位が異なるので比較しにくいが、林野庁の担当者は「無垢材は1平方メートルで柱を1本使うという計算にしている。いずれも部材が工場から出たときの価格に合わせた。これに運搬費などが加わるため、建設現場に届けられた時の価格はおおむね二倍になる。実質的な補助率はどちらも50%で妥当」と説明する。

■国内産以外の輸入材もOK

 実際はどうなのか。「こちら特報部」では、ある建築関係者に試算を依頼した。同じ二百平方メートルの建物を想定した場合、無垢材を利用した一般的な工法による部材使用量は30立方メートルで、推定260万円かかるという、補助金の額は40万円のため、補助率は15%となった。これに対してCLTで建設した場合、部材量は約3倍となるのが相場で、90立方メートルを要するという。部材費は1350万円に上り、全額が補助で賄われる。やはり大きな差があるように見える。
 地にも奇妙な点がある。同制度の背景には、戦後造林した人工林を活用し、林業を成長産業にするという大義がある。ところが、補助金は輸入材にも出る。実は、輸入CLTは国産の半額程度と安価だ。{国内産だけに税金を投入するとWTO(世界貿易機関に提訴される恐れがある」というが…。

 さらに不思議なのは、昨年秋に各省庁が行った本年度予算の概算要求で、同制度は「JAS無垢材の利用拡大」とされ、CLTへの言及はなかったことだ。林野庁の担当者は「概算要求時点ではCLTは考えていなかった」と認めた上で、「その誤、思索の誘導などがあり、もっと広げるべきだとの意見があったので、CLTも入れることになった」と釈明するが、無垢材の事業が、CLT中心にすり替わったように見える。

■林業活性化に つながらず  進まない普及に焦りか?

 政府は以前らCLTの普及ににやっただ。2014年6月に閣議決定した新成長戦略(日本再興戦略)で、CLTを使った建築物の設計法を確立し、生産体制の構築を進めて「林業の成長産業化」につなげるとした。同年11月には国土交通省と林野庁がロードマップも作成している。

○使用建物182件 高層建築なし

 では、実際にどのくらい利用されているのか。内閣官房のまとめによると、昨年度末時点で完成したCLT使用の建物は住宅や店舗、事務所など、計182件にとどまる。高層建築も、三菱地所が仙台市内で建設中の十階建でマンションは、床材として使っているが、CLTだけで造られた高層建築物は、日本にはまだない。

 CLTを製造するJAS認定工場は、全国に八つあったが、今年三月に秋田県能代市の会社が自己破産を申請し、七つに減った。CLTへの設備投資に見合う需要がなかったことが一因と考えられる。

 CLTの研究や普及啓発に取り組む一般社団法人「日本CLT協会」は「普及しているとは言えない」と認めた上で、「まだ工場が少なく、施工例も少ないために設計者に知られでいない。これから実績が増えれば広まっていくはずだ」と期待する。
 林野庁の補助事業は鶴及へり起爆剤のつもりかもしれないが、CLTとは別の新建材開発に取り組む、ある企業の担当者は「こんな哺助は闥いたことがない。CLTを製造できる工場が七ヵ所しかない以上、特定メーカーの優遇になっている。大きな違和感がある。」と不満を漏らす。

 建築関係者からね疑問が出ている。木材建設のコンサルティングに携わる渡辺豪巳氏は「CLTの活用自体は否定しない」と語るが、「製造時の木材の乾燥技術が未確立という課題があるのに、拙速に推進し、日本の林業再生の救世主であるかのごとく扱うのは疑問だ」と強調する。

 経済面でも「乾燥などのコストがかかるため。製造栞者にとっては丸太の価格が安ければ安いほどよい。ところが林業者は、安くなればなるほど圧迫される。両者は利益相反の関係にある」と指摘する。現在のスギ丸太価格は、1立方メートルあたり、1万三千円。国産CLTが安価な輸入品に対抗するには、これを同3千円まで下げなければならないとの試算もある。「CLTの推進を目的に丸太価格を下げる圧力が高まれば、林業者の破綻につながりかねない」

 さらに渡辺氏は「白紙の状態から、この制度はを利用するのは時間的に難しい」と首をかしげる。補助事業の申請期限は今年十二月21日、交付申請は構造材が組みあがった上棟後に行うが「6月以降に着手したとしても、設針に時間がかかる上、確認申請も一か月は見ないといけない。期限までに完了させるのは困難だ」{渡辺氏}
 実綴、林鈴庁の担当者も「すでに設計が終わり、部材を購入しようとしている業種を念頭においている」と認める。

 森林ジャーナリストの田中敦夫氏も「CLTに魅力はあるが、柱に使えない安価な木材を使うので林業者の利益は出にくく、産業振興にならない」とみる。

 林野庁がCLTを推進する理由は「焦り」からだと分析する。 「何らかの成巣を出さなければならない中、木材の生産量を上げようと考えたのではないか」

 林野庁が力を入れる主伐(=かいばつ)も生産量の向上が狙いだ。本年度からね主伐を含めた作業にも補助を始める。従来は気の成長を促す間伐を補助していたが、方向転換した。
 今国会には、所有者が管理しない森を市町村が管理できるようにする森林経営管理法案が提出された。すでに衆院を通過しているが、審査過程で、データ偽造疑惑が浮上した。林業者に今後の経営を尋ねたアンケー卜で最多だった「現状維持」の回答を、林野庁が「経営意欲が低い」と解釈して議員に説明したのだ。

 田中氏は「木を切るために何とかしで法律を通さないといけない、と考えたのだろう」と嘆く。「林野庁にはに、日本の森林を長期にわたってどうしていくか、というビジョンがない。直近2-3年間の木材利用を増やすという考え方ばかりだ。このままて10年後、20年後には、日本ははげやまだらけという、ぼろぼろの状況になってします」

◎デスクメモ
 CLT推しの背景に、製造時にでる大量の木くずを木贅バイオマス発電に回せば、木材が無駄なく使えるという「うまい話」がある。安倍政権を牛耳る経産省の役人が飛びつきそうな話だが、現実はそんなに単純だろうか。功を焦る役人に、日本の林業を破壊されては元も子もない。


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