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なぜ3等空佐の発言は暴言か~ 米軍なら起訴対象  スパイク通信員

「スパイク通信員〔田中昭成氏〕の軍事評論」より。
この自衛官の発言が世界の軍隊の常識とかけ離れていることを法律の視点から説明している。

米軍には「第88条 公職者への不服従罪」があり、要人への侮辱は米軍なら軍事裁判にかけられる。最高刑は、解任、すべての給与と手当の没収、禁固1年間。一方で「制服を着用せず傍聴人として政治クラブ、政治的会合や集会に参加する」「政治組織に献金する」「編集者に個人的な意見を表明する手紙を書く」「自家用車にバンパーステッカーを貼る」「制服を着用せずに地方の非党派政治活動への個人で参加する」などの市民的自由が法律上明記されている。

 こうした明確な規定が自衛隊にはない

また米軍の上記のような規定があっても、信念から軍法会議覚悟でイラク派兵を拒否した事例もある。国会議員が抗議すると簡単に謝罪、「国民の敵」に屈するのは、いかなる覚悟もなく、大した理由もない行動だったとしか、いえない。とのこと。

 社会科学上「暴力装置」である自衛隊。文民統制にふさわしいルールの確立がいる。また、海外活動中に現地の民間人を殺傷させた場合に裁く法律もなく、国際人道法違反の状態でもある。
 「暴力装置」の存在を(当面でも)認めるなら、コントロールするための世界各国の知恵に学ぶ必要がある。

【自衛官の暴言は米軍なら起訴対象 4/18】

【なぜ3等空佐の発言は暴言か? 4/19】

【自衛官の暴言は米軍なら起訴対象 4/18】

 統合幕僚監部指揮通信システム部の30代の3等空佐が、民進党の小西洋之参院議員に16日夜、「お前は国民の敵だ」などと繰り返し罵倒し、河野克俊統合幕僚長が17日、小西氏に謝罪するという事件が起きました。3等空佐は小西氏が撤回を求めたが撤回せず、小西氏が人事担当に電話した後になって撤回したとのこと。

 規律が甘い自衛隊、特に航空自衛隊らしい事件といえます。過去に空幕長の田母神俊哉氏が暴言を吐いて、処分された事例があります。このとき、田母神氏は「私には表現の自由がある」と主張しました。

 こうした自衛官の発言が世界の軍隊の常識とかけ離れていることを法律の視点から説明します。

 米軍では統一軍規法典(軍法)によって、こうした行為を禁じています。自衛隊には軍法がなく、一般の法令である自衛隊法だけで問題に対処します。軍法があると、軍裁判にかけられるため、有罪判決を受けるとキャリアに致命的な汚点となります。自衛隊法による処分は自衛隊の内規ですが、軍法は一般の法律なら刑事裁判にあたり、軍を辞めたあともついて回ります。

 統一軍規法典第88条は将校が合衆国大統領をはじめ、連邦政府や州政府を侮辱することを明確に禁じています。

第88条 公職者への不服従罪
大統領、副大統領、議会、国防長官、軍事省長官、運輸長官、すべての州、準州、コモンウェルスの知事と議会、あるいは彼が任務中や出勤中に占有したものに対して侮辱する言葉を用いた全ての将校は軍裁判が指示し得る通りに処罰するものとする。

 「準州」はプエルトリコやグアムなど、「コモンウェルス」とはケンタッキー州、マサチューセッツ州、ペンシルベニア州、バージニア州を正式な形で呼ぶときに使う言葉です。

 第88条の最高刑は、解任、すべての給与と手当の没収、禁固1年間です。

 また、国防総省命令(DOD Directive 1344.10)はこの規定を、将校だけでなく、下士卒すべてに拡大しています。つまり、米軍隊員(沿岸警備隊を含む)の隊員すべてに適用されます。
 「モニカ・ルインスキー事件」の間に、クリントン大統領を馬鹿にするために電子メールを用いたことで、隊員2人が公式に処罰されました。リンカーン、トルーマン、カーター、ブッシュ、オバマなどの大統領は軍高官を懲戒処分にしたことがあります。

 最近の軍高官の処罰では、2010年6月のアフガニスタン駐留米軍指揮官、スタンリー・マクリスタル大将の解任があります。

 彼は「Rolling Stone」誌の記者の取材を受け、長時間記者を彼の幕僚とともに帯同させるという誤りを犯しました。幕僚たちと気軽な軽口を交わしたのが、そのまま雑誌に掲載されました。その軽口の中にはオバマ大統領を題材としたものが含まれていました。フランス政府の大臣を同性愛者だという場面があり、これが軍隊の同性愛者差別撤廃を推進しているオバマ大統領への侮辱とみなされました。

 マクリスタル大将はアフガンからワシントンへ呼び戻され、彼はそこで事態を知り、愕然とします。マクリスタル大将にはコメントを公にする気はまったくありませんでした。記者がそれを書くとは思わなかったのです。しかし、結果責任を自覚した大将は辞任を申し出て、退役しました。この時、大将から中将へ降格することが検討されましたが、オバマ大統領はロバート・ゲーツ国防長官と相談の上で、大将として退役させることを認めました。

 このように、米軍では現地の最高指揮官の大将であっても、違反行為が認められた場合は解任されるのです。
 この制限は現役だけでなく、予備役の隊員にも適用されます。1968年の事例ではジョンソン大統領を「ファシスト」と呼んだ予備役将校が逮捕され、有罪判決を受けました。反戦運動が起きたベトナム戦争時に多くこうした事例が見られます。

 ここでは詳しく触れませんが、軍人の権利の制限は合憲であるとの連邦最高裁判決があります。この判決で、軍人には表現の自由がないのではなく、一定の制限を受けるとしていることを理解するのは重要です。

 最近のその他の処分事例はこのリンクで読めます。記事を読めば分かる通り、失言をした者の氏名、階級、所属は原則的に公開されます。軍報道官が記者に容赦なく発表してしまいます。「統合幕僚監部指揮通信システム部の30代の3等空佐」といった匿名表現は使いません。

 自衛隊には第88条に相当する法律はありません。第58条の「隊員は、常に品位を重んじ、いやしくも隊員としての信用を傷つけ、又は自衛隊の威信を損するような行為をしてはならない」や第46条の懲戒処分の中の「隊員たるにふさわしくない行為のあつた場合」を適用することになります。第61条の「政治的行為の禁止」は、発言が個人の見解に留まる場合は適用しにくそうです。このように、自衛隊法には「誰」に対する「どのような発言」が禁止されるかを明快に記した条文はありません。自衛官は自衛隊法に守られて、内規による処分を受けない範囲なら、公職にある者を侮辱してもかまわないということになります。
 
 こういう米軍の規律を大半の自衛官は知らないでしょう。それが将来、米軍と共同で活動する際に、大きな障害となる可能性は否定できません。
 では、米軍はどのような市民権なら行使できるとしているでしょうか。

選挙人登録、投票、個人的な意見の表明
投票権を行使するよう他の隊員を鼓舞する
制服を着用せず傍聴人として政治クラブ、政治的会合や集会に参加する
政治組織に献金する
特定の立法措置の申立てに署名するか、候補者の名前を投票用紙に記入する
編集者に個人的な意見を表明する手紙を書く(組織的な手紙作成キャンペーンの一部でない場合のみ)
自家用車にバンパーステッカーを貼る
制服を着用せずに地方の非党派政治活動への個人で参加する
政府の所有物と資源は使えない
任務に干渉しない
政府の態度や関与を暗示しない

 献金の統計からは、軍人がどの政治家に献金したかは、自己申告ではありますが、分かります。2012年には、軍人からオバマ大統領への献金が増えたことが記事になりました。(関連記事はこちら)
 軍人は政治に対して何も言えないのかという疑問が湧くかもしれませんが、任務の範囲内では進言することが許されています。その見本は現職の統合参謀本部議長、ジョセフ・ダンフォード海兵対象が示しています。報道記事から大将の発言を要約します。(記事はこちら)

 ドナルド・トランプ大統領は大統領選挙期間中、「拷問は機能する」と言い続けました。そして、自分が大統領になったら、米軍にもテロリストを拷問するよう命じるつもりでした。

 しかし、ジュネーブ条約を遵守する上で、正規軍は捕虜を人道的に扱う必要があります。2016年2月、下院公聴会でベティ・マッカラム下院議員はダンフォード大将とアシュトン・カーター国防長官に直球を投げました。「米兵や諜報界が拷問を使うことを認めるのに賛成ですか?」。
 カーター長官は大統領選挙期間中に政治的発言をするのは好ましくないと考えました。「正当な質問ですが、私は我が省は選挙のシーズンから離れている必要があると強く思いますので、慎んで進行中の政治的議論を引き起こす質問に答えるのを辞退します」。

 しかし、ダンフォード大将は発言したがり、カーター長官は妥協し、大将はこう言いました。
 「この制服を代表するために私に誇りを持たせることの一つは、我々がアメリカ人の価値観を代表することです。我々の若い男女が戦争に行く時、彼らは我々の価値観と共に行きます。我々が例外を見いだす時、米兵が捕虜を虐待する時、いかに我々がこうした例外に厳しく対処するかを見られます。我々はアメリカ人の価値観と共に戦争に行ったことで決して謝罪してはなりません。これは我々が歴史的に行ってきたことで、将来にも行うと予測することです。繰り返しますが、これがこの制服を着ることで、私に誇りを持たせることなのです」。
 ダンフォード大将は見事に直接的表現を避け、反対の意向を表明しています。

 さらに、トランプ大統領はトランスジェンダーを軍隊から追放する政策を行おうとしています。これに対しても、ダンフォード大将はトランプ大統領とは意見が異なります。2017年9月、上院軍事委員会で、大将はクリステン・ギリーブランド上院議員の質問に対して「私は、身体的、精神的な基準に合致し、世界に展開できて、現在軍務についている個人すべては軍務を続ける機会を与えられるべきだと信じると、恐らくいうでしょう」と答え、大統領にそう進言することを約束しました。(記事はこちら)
 これらの発言はギリギリの部分もありますが、 規則には違反しません。ダンフォード大将の発言は実に見事です。

 日本国民が自衛隊を立派な組織にしたければ、表現の自由の制限は避けて通れない道です。自衛隊が一流の武装組織になりたいのなら、世界をリードする武装組織になりたいのなら、自らを律する規律を確立することです。

【なぜ3等空佐の発言は暴言か? 4/19】

 国会議員に暴言を吐いた3等空佐に対する同情論があるようです。ですが、私は彼に同情する気はまったくありません。なぜかというと、彼に覚悟がまったく感じられないからです。

 国会議員が防衛省に抗議すると、3等空佐は謝罪したということです。謝罪した相手は「国民の敵」です。「国
民の敵」にこうも簡単に屈した理由が分かりません。そう考えているのに、処分が目の前で現実化すると態度を変えてしまう。これは一体どういうことでしょうか。大した理由もなく非難したとしか解釈しようがありません。

 昨日書いたように、要人への侮辱は米軍なら軍事裁判にかけられます。最高刑は軍からの追放、給与と手当の全額没収、禁固1年間です。(昨日の記事はこちら)

 米軍にはもっと信念を貫いた人がいます。日系アメリカ人のエーレン・ワタダ陸軍中尉は二度目のイラク派遣を拒否し、カナダへ渡りました。その後、米軍は彼を起訴したため、彼は裁判を受けるためにアメリカに戻りました。

 イラク派遣は同時多発テロとは無関係だと考えた彼は、オサマ・ビン・ラディンがいるとされるアフガニスタン派遣を志願しますが、軍に拒否されました。さらに除隊しようとしたところで、起訴されます。彼は脱走罪(第85条)には問われませんでしたが、将校と紳士にあるまじき行為(第133条)、イラクへの移動を拒否したとして敵前逃亡罪(第87条)に問われました。敵前逃亡罪の最高刑は死刑ですが、最近は2年以上の禁固刑になることが普通です。

 ワタダ中尉は裁判でも信念を曲げず、禁固8ヶ月などの判決が出ました。しかし、検察側の手続きの誤りが発覚して審理無効となりました。しかし、手続き上のトラブルがなければ有罪判決は避けられませんでした。

 このように軍隊の処罰覚悟で信念を貫く軍人がいるのです。それに比べたら3等空佐は腰抜けと呼ばれても仕方がない行動に走りました。なぜ、処罰を覚悟で主張を貫かなかったのでしょうか。自衛隊は米軍と違って、この種の行為で裁判にかけることはありません。内規による処罰のみで済むのにです。

 前にも書きましたが、現在の統合参謀本部議長、ジョセフ・ダンフォード海兵大将はドナルド・トランプ大統領がいう「トランスジェンダーを軍隊から追放しろ」「テロリスト容疑者を拷問しろ」には反対の意見であると議会で証言しています。いずれ、これらの件で大統領と対立した場合、ダンフォード大将は躊躇なく主張を貫き、解任される道を選ぶでしょう。なぜなら、トランスジェンダーの件は大統領の意向が出される前に軍の方針は決定していましたし、拷問の件は国際法に違反します。

 覚悟がないのなら、それを口にするべきではありません。

 防衛省は政治活動を禁止するだけでなく、米軍のように許容すべき政治活動を認める規則を作るべきです。その上で違反者を処罰すれば、憤懣を膨れ上がらせる隊員も減るでしょう。

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