高齢者福祉における大津市の取り組み 福祉サービスにおける公的責任
地方自治問題研究機構の研究論文。大津市は、直営の地域包括支援センターに、保健師等が常駐した保健センターの機能を果たす「すこやか相談所」を併設し、赤ちゃんから高齢者までの健康と福祉を相談を行い、必要に応じて過程訪問もしている。市内にこの基幹型の施設が8箇所あり、16チーム〔1チームの体制は、保健師・看護師、社会福祉士、主任介護支援専門員で構成〕で対応している。育児から介護の問題まで地域の課題を、官民が連携し共有、人材育成の場ともなっている。
そして、これらの福祉を下支えしているのか「養護老人ホーム」の存在。65歳以上で、環境上の理由及び経済的理由により居宅において養護を受けることが困難な高齢者に、最低限の住まいを確保する施設とのこと。
「論稿」のあとに、今後の検討のために、県内の「養護老人ホーム」、軽費老人ホームA型・ケアハウスをまとめてみた。
【高齢者福祉における大津市の取り組み ~大津市調査から見えるもの~ 2018/2/27】
【高齢者福祉における大津市の取り組み ~大津市調査から見えるもの~ 2018/2/27】小澤 薫 (新潟県立大学准教授)
自治労連・地方自治問題研究機構の社会保障・社会福祉研究会(代表:河合克義)は、「福祉サービスにおける公的責任を問う」をテーマに研究を続けており、2017年12月に高齢者介護・福祉における措置業務を中心とした取り組みについて、大津市の現地視察を行った。健康長寿課の担当から市の高齢者施策の現状と今後の方向性について、地域包括支援センターの担当からは、組織体制と地域の状況について話をうかがった。あわせて、2ヶ所の養護老人ホームを訪問した。
大津市は、中核市で人口343,103人(平成29年)、平成26年以降減少、横ばいの傾向にある。65歳以上人口が87,188人、高齢化率25.9%(平成24年21.4%)となっている。2025年には高齢化率27.4%と推計されている。要介護認定率は19.0%、16,255人でここ5年で2,500人を超える増加をしている。2025年には22.0%、20,898人になると推計されている。高齢者虐待(通報受理件数)については、平成22年から26年まで右肩上がりで増加し(45→191人)、それ以降は横ばいで、ほぼ全国的な傾向と同様である。
大津市では、地域包括支援センターを「あんしん長寿相談所」という愛称で呼んでいる。住民に対して「地域で暮らす高齢者を、介護・福祉・健康・医療などさまざまな面から総合的に支えるために市町村が設置する機関」と説明している。さらに、この「あんしん長寿相談所」には、「すこやか相談所」が併設されている。「すこやか相談所」とは、保健センターの機能を果たす機関であり、「市民の方が健康でいきいきと暮らせるまちづくりをめざして、保健師、ヘルスアドバイザーが常駐し、赤ちゃんから高齢者までの健康や福祉に関する相談(育児、健康、介護予防など)」を行い、必要に応じて、家庭訪問をしている。つまり、地域包括支援センターと保健センターが併設されているため、妊娠期から高齢期まで世代を問わず、地域の拠点として、地域のすべての人を対象とした、誰もが相談できる機関となっている。フィンランド発信で、日本でも注目されている、妊娠期から子育て期までの切れ目のない支援体制としての「ネウボラ」を、さらにひろげるしくみとなっている。育児と介護の「ダブルケア」が社会問題化しているなかで、専門職が常駐するワンストップで相談できるしくみが整備されている。実際、乳児を育てる若い夫婦の相談から老夫婦の問題が見えることもあったという。縦割りのサービスでは発掘できないニーズをしっかりキャッチすることにつながっている。
市としては第6期の「高齢者福祉計画・介護保険事業計画」において、「地域包括ケアシステムを確立するためには、その体制づくりと地域におけるネットワークの構築が必要。このため、地域包括支援センターが、すこやか相談所との併設により、保健、福祉のワンストップ相談窓口として、総合相談、包括的・継続的ケアマネジメント、認知症施策、虐待防止、権利擁護等複雑かつ多様化する問題に速やかに対応できるよう、地域包括支援センターの機能及び体制の充実を図ります。また、地域ケア会議や多職種協働による在宅医療・介護の連携事業を通じて、医療・介護・保健・福祉の関係機関が相互理解を深め、高齢者の状態に応じたきめ細やかなサービス提供をめざします。さらに、7つの拠点において、地域包括支援センターがすべての活動のコーディネーター役を担い、地域に根ざしたサポート体制を整備します」と挙げ、年代を問わず相談できるしくみを土台としながら、地域課題の解決に向けた体制づくりを目指している。
現在、地域包括支援センターは、大津市内に8ヶ所ある。これまでの7ヶ所の基幹型の地域包括支援センターに加えて、平成29年度から圏域型の地域包括支援センターが1ヶ所整備された。今後は、さらに2ヶ所の圏域型を整備し、全体で11ヶ所に増やす計画にある。第7期の「高齢者福祉計画・介護保険事業計画」においても引き続き「地域包括支援センターの機能強化」を掲げ、相談窓口を地域につくる方向性が示されている。
組織体制として、基幹型の地域包括支援センターは市の直営であり、圏域型は委託で法人が運営している。この基幹型と圏域型との関係について「基幹型については、圏域型間の総合調整や後方支援、地域ケア会議の開催、虐待対応等、基幹的な役割を担うあんしん長寿相談所とし、官民一体で直営により運営することを基本と」すると説明している。具体的に、基幹型はインフォーマルサービスの活用、開拓、社会資源の活用、開拓、地域支援、地域ケア会議の開催、医療介護連携の推進、介護予防活動支援を行い、圏域型は基幹型との連携、支援の体制をとりながら地域での支援を行っている。なお、「すこやか相談所」は基幹型に併設されている。大津市内には15の日常生活圏域があり、これを地域包括支援センター8ヶ所、16チーム体制で対応している。その1チームの体制は、保健師・看護師、社会福祉士、主任介護支援専門員で構成されている。専門的な資格を持った職員が連携しながら、チームとして活動をしている。なお、基幹型においては、所長(保健師)は、「すこやか相談所」と「あんしん長寿相談所」を兼務している。地域包括支援センターとしては10名の職員体制になっている。そのなかで保健師、看護師は大津市の正規職員であり、主任介護支援専門員、社会福祉士は、法人からの在籍出向である。そのため、役所においても、法人においても地域の状況、地域の実践を共有することができる。このことは地域の人材育成にも大きな役割を担っていると言える。相談支援の質を確保しながら、地域力の向上につながっている。こうして官民連携で高齢者を支え、地域住民を支えるしくみが整備されている。さらに、社会福祉協議会の生活支援コーディネーターとの連携も密接である。
このような包括的な体制を整備することによって、子ども、障がい、高齢など分け隔てなく対応が可能となる。あわせて、社会資源としても、特定の分野にとらわれることなく、例えば、地域包括支援センターも、子どもの支援の社会資源となっていくことが可能となる。
地域課題を把握する最前線として地域包括支援センターがあり、ケースの発見、対応を行っている。そのなかで、1つの受け皿となっているのが、養護老人ホームである。大津市は県内の養護老人ホームにおける措置入所の4割近くを占めている(2017年4月1日)。全国で見ても養護老人ホームの被措置者数は上位に位置している。市内にある養護老人ホーム真盛園の利用状況をみると、入所現況が平均46人、平均年齢85歳、平均所在期間5年9ヶ月であった(2017年12月現在)。
なお、老人保護措置として「居宅において養護を受けることが困難な高齢者を養護老人ホームに入所させ、生活の安定と福祉の増進を図る。また介護が必要な高齢者で、虐待等で緊急やむを得ない場合に、特別養護老人ホームに入所させる。対象者は、65歳以上で、環境上の理由及び経済的理由により居宅において養護を受けることが困難な高齢者」と規定されている。そのため介護ニーズだけではなく、複合的な福祉課題を想定した施設となっている。
入所理由をみると、「独居、身寄りなし」「65歳未満との同居で同居者との関わりが難しいため」「病院退院後の入居先がないため」「精神科通院者」「虐待保護」「身元引受人なし」が聞き取りのなかで挙げられていた。21・老福連2016「全国老人ホーム施設長アンケート」においても、入所理由に「経済的理由」「家族環境」「虐待」「住宅喪失など住環境上の理由」が上位に挙がっている。
実際、虐待保護から、家族と離れたことによって関係が改善し、自宅に戻るケースや、101歳で在宅復帰したケースも紹介された。このように、養護老人ホームの存在意義として、介護中心ではなく自立支援が中心となっており、地域の拠り所となるような場所としての位置づけが重要と言える。ちょっとした支援で、退所が可能となる場である。介護だけで切り取らない、生活全般をみなおすことが可能となっている。
その一方で、低所得の高齢者が多く入居する共同住宅での火災などが起こるたびに、その施設が「無届け」であることが問題であるかのように取り上げられる。それによって自治体は、「無届け」を締め出す規制を強化するという公的責任を果たすことがある。そこに住む必要がある人の安心した生活、環境の確保こそが公的責任の果たす役割ではないか。養護老人ホームの存在は、最低限のすまいの確保であり、それは公的責任である。
また、身元保証等がいないことで、施設入所などが躊躇されることがあとをたたない。第二東京弁護士会の調査では、9割超の病院や施設で利用者に身元保証人を求めており、親族や民間事業者が担う保証人がいない場合、入院や入所を拒否するケースもあった。措置から契約になったからこそ、責任の明確化が強調されることいよって利用自体が妨げられることにもなっている。こうしたなかで、養護老人ホームという地域資源があることが大津市の福祉を下支えしている。現実的には、養護老人ホームは措置費が一般財源化されて以降、財政的な制約が示され、地域によっては措置控えが行われている。そのため老朽化施設の建て替えなど課題も抱えているところも少なくない。
そのなかで、改めて公的責任の領域を問い直すこと、公的機関が果たしてきた役割の大きさを理解する必要がある。
地域での生活課題は複合化していて、例えば介護が必要な高齢者世帯であっても、単純な介護ニーズだけではなく、他の疾病、多重債務、障がいのある子どもの将来、地域住民とのトラブルなど様々な課題が重なっていることが少なくない。だからこそ特定の機関だけでは対処の範囲を超えてしまう。関係機関、団体間同士の合意形成を図り、事例の動きに的確に対応できる体制づくりが不可欠になっている。地域力向上が求められ、地域づくりが大きな課題となっているなか、関係機関には地域資源を創出していくことが求められている。養護老人ホームの意義を改めて見直していくことが、地域の福祉力の向上につながっていく。
そのため、地域を支える自治体労働者の果たす役割が大きい。大津市職員労働組合連合会の小川治彦執行委員長は、これまで「必要な人には必要」という立場で関係部局を説得し、措置入所に必要な予算の確保につなげてきたという。こうした現場を知る職員から必要な施策を挙げ、共有してきたことが、いまの地域福祉を支えている。縦割り、トップダウンということではなく、現場からの積み上げ、職員による共有が人の暮らしを、地域を守っていくことにつながっている。
【養護老人ホーム】
65歳以上で、身体上、精神上または環境上の理由に加え、経済的理由(市町村民税均等割がかからない程度)により、居宅において生活することが困難な高齢者が入所できる施設です。一部屋数人で生活する
施設への入所は、市町村の措置の決定に基づいて行われます。
費用は、本人及びその扶養義務者の負担能力に応じた負担が必要です。。
● 県内施設
施設名 運営主体 所在地 定員
清香園 (福)香南会 安芸市 80
白寿荘 香美郡老人ホーム組合 香北町 60
山吹 (福)香南会 本山町 60
五葉荘 高吾北広域町村事務組合 越知町 50
千松園 (福)海の里 高知市 80
福寿園 (福)ミレニアム 高知市 130
双名園 (福)ふるさと自然村 中土佐町 100
高原荘 津野山養護老人ホーム組合 津野町 50
白藤園 (福)梼の木福祉会 四万十市 75
[盲養護]土佐くすのき荘 (福)土佐平成福祉会 日高村 50
[聴覚障害者養護]静幸苑 (福)土佐平成福祉会 日高村 30
【軽費老人ホームA型】
・入居対象 身寄りがないか、家庭の事情等で家族と同居できないなど家庭環境や住宅事情等により、自宅で生活することが困難な低所得の方(利用者の資産等が基本利用料の2倍以下)で、60歳以上の高齢者を対象。
・入所 低額な料金で、給食その他、日常生活に必要なサービスを供与することが目的
・入居については、ホームと直接契約。
あかねの里 (福)高知新聞社会福祉事業団 高知市 60名
【軽費老人ホーム ケアハウス】
・入居対象 自炊ができない程度の身体機能の低下等が認められる、又は独立して生活するには高齢のために不安が認められるが、家族による援助を受けることが困難な60歳以上の高齢者
・入所 食事の提供その他日常生活上必要なサービスを受けることができる。
〜介護保険では居宅とみなされるため、介護や支援が必要になった場合には、介護保険サービス(外部からの訪問介護(ホームヘルプサービス)など)の利用も可能。
・入所については、ホームと直接契約
ケアハウス 土 佐 (福)せと 高知市長浜 120
ケアハウス パールマリン (福)海の里 高知市仁井田 50
ケアハウス 花の郷高知 福)ふるさと会 高知市横浜 60
ケアハウス 集家 (福)山寿会 高知市円行寺 50
ケアハウス ぬくもり (福)香南会 香南市赤岡町 30
ケアハウス まごの手 (福)香南会 香南市吉川町0 40
ケアハウス せいらん (福)香南会 安芸市川北 50
ケアハウス さくら草 (福)香南会 本山町 30
ケアハウス 菜の花 (福)ふるさと自然村 香南市野市 100
ケアハウス つくしんぼ(福)ふるさと自然村 南国市岡豊町 30
ケアハウス たんぽぽ(福)ふるさと自然村 南国市岡豊町 100
ケアハウス 安芸 (福)ふるさと自然村 安芸市川北 70
ケアハウス 白山荘 (福)和香会 南国市稲生 50
ケアハウス 四万十ピア(福)清流会 四万十町 50
ケアハウス すくも (福)愛生福祉会 宿毛市平田 50
ケアハウス にしとさ (福)西土佐福祉会 四万十市西土佐31 19
ケアハウス 虹の丘 (福)梼の木福祉会 四万十市右山1 70
ケアハウス 好日館 (福)土佐香美福祉会 香美市土佐山田町 50
ケアハウス あじさいの里(福)ふるさと会 高知市春野 29
ケアハウス すさき (福)あおば会 須崎市多ノ郷 70
小規模ケアハウス あんきな家 福)清和会 土佐清水市加久見 29
ケアハウス ひだまり (福)尽心会 土佐清水市天神町 29
ケアハウス いの (福)伊野福祉会 いの町波川 50
●備考
軽費A型がケアハウスに変わった理由は、家賃がゼロなので公費の負担が大きい、職員配置基準もケアハウスより多い。建物が古くなった(一番古いもので昭和30年代)ことなどがあります。
ただ、利用する方からすれば軽費A型は有利です。
ケアハウスの多くは入居一時金(前納家賃)がありますが、軽費A型にはありません。
職員の数も多く、食事も施設内で手作りされている(ケアハウスは外食業者に外注しているところもある)など、古いだけに家庭的な雰囲気があります。月額利用料もほとんどケアハウスと同水準です。
A型……6~17万円程度(食事代込み、入所者の経済状況よって異なる)
B型……3~4万円程度(食事代を含む生活費はすべて実費)
ケアハウス(C型)……6~17万円程度(食事代込み、入所者の経済状況よって異なる)
/入所金が必要な場合も
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