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日本経済グローバル経済の顛末 製造業の空洞化と新属国化

 「グローバル経済の迷宮」として、2月「製造業の空洞化」、4月「日本の新属国化」と赤旗に連載された「坂本雅子名古屋経済大名誉教授に聞く」シリーズ。大著「空洞化と属国化」のエッセンスを著者自身が語ったもの。
 
 同シリーズでほとんど触れられていない「インフラ輸出」。以下は、著書からの摘要。
【インフラ輸出 空洞化と国民負担増の道 ~その実態と安全保障との一体化〔メモ〕2018/04】

【グローバル経済の迷宮 製造業の空洞化】

 名古屋経済大名誉教授 坂本雅子さんに聞く~低コストを求めて海外に生産を移す大企業の多国籍化(グローバル化)により、先進資本主義国の製造業の空洞化が進んでいます。日本の製造業空洞化を近著『空洞化と属国化』で実証した名古屋経済大学の坂本雅子名誉教授に、現状と課題を詳しく聞きました。(聞き手・杉本恒如)


① 母国捨て福祉国家破壊

 1990年代以降、世界で「グローバル化」という言葉がとびかうようになりました。グローバル化とは「IT化と一体となった経済活動の地球大の広がり」と言われます。しかしこうした定義はグローバル化の本質をあいまいにするものです。90年代以降、グローバル化の名で急進展したものの正体は、桁外れの海外投資でした。

 世界の対外直接投資残高は、1985年の0・9兆ドルから1995年の4兆ドル、2005年の12兆ドル、15年の25兆ドルへと、30年間で28倍に異常に膨れ上がりました。

 先進国の企業がこぞって低賃金国への生産移転を無規律に行ったからです。ヨーロッパ企業は域内の低賃金国などへ。米国企業も北米自由貿易協定(NAFTA)を利用してメキシコへ、あるいはアジア諸国へ。

 グローバル化とは、多国籍企業が母国を捨てて海外投資を激増させた放恣(ほうし)な企業活動そのものなのです。だからそれは母国経済に打撃を与え、資本主義の矛盾を大きく拡大しているのです。

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◆海外生産が急増

 日本で対外直接投資が急増するのは欧米より遅れ、2000年代、特にその後半です。2000年にはまだ0・3兆ドルだった日本の対外直接投資残高は、16年には1・4兆ドルに達しました 。世界での順位も米国、香港、イギリスに次ぐ4位に急上昇しました。

 海外生産比率も急上昇しました。1990年代半ばの海外生産比率は国内全法人ベースで一桁台、海外進出企業ベースでも20%内外でした。ところが2015年には前者で25%を超し、後者で40%近くになりました。

 企業が海外投資のみに注力した結果です。12年になると、資本金10億円以上の日本企業では、海外投資が国内投資を上回るようになりました。

◆国内生産が衰退

 海外への投資や生産の拡大と表裏一体で、国内生産の衰退が進行しました。1991年の国内総生産(GDP生産者側・名目)は469兆円、そのうち製造業が125兆円(国内産業の28%)を占めました。ところが2014年になるとGDP487兆円のうち製造業は90兆円と34兆円も減り、1980年代半ばの水準に後退したのです(グラフ1)。特に活発に海外投資を行った電気機械分野は8兆円も激減しました。(グラフ2)

 海外投資の急拡大は、日本だけでなく先進国全体の空洞化・衰退、国民の職の喪失、貧困化、そして福祉国家の崩壊を招いています。


②日本だけ成長せず敗北

 海外投資、特に低賃金国への生産移転は、母国の産業空洞化と経済力低下を引き起こします。しかし2000年代以降、日本の政府、企業、研究者たちはこれを無視し、こぞって海外への生産移転を美化し続けました。

 海外、特にアジアへの投資や生産移転は、「アジアの成長を日本に取り込む」もの、「東アジアに中枢部品を輸出してアジアの生産ネットワークを日本がけん引する」ものであり、日本企業はむろん、日本経済そのものを大きく成長させる道だというのです。

 しかし現実に起きたのは、日本だけが成長に取り残されて敗北するという結果でした。

◆中国から輸入増

 世界の国内総生産(GDP)での日本の地位は、1991年には3・5兆ドルで世界2位、米国の約6割ありました。しかし2015年には4・4兆ドルで、3位に落ち、米国の2割強に。2位に躍り出た中国の4割弱になりました。

 輸出でも、1991年には3100億ドルで、米国、ドイツに続いて3位でしたが、2016年になると日本は約6400億ドルで4位。しかも米国(2位)、ドイツ(3位)の半分以下になってしまいました。ダントツ1位は中国で、輸出総額は約2兆ドル。15年間で日本の5分の1から3倍に激増したのです。

 中国の輸出急成長をけん引したのが、輸出の約3割を占める電気機械です。電気機械は中国の輸出の中心になっただけでなく経済成長もけん引したのでした。
 中国とは真逆に日本では、輸出の3分の1を占めていた電気機械は減少し、逆に輸入の15%程度を占めることも多くなりました。

 パソコンや携帯電話などの現代の生活必需品のほとんどが、中国からの輸入品になったからです。日本企業は、これらの生産を台湾企業に委託しましたが、台湾企業は世界に供給する製品のほとんどを中国で生産しました。日本企業のアジアへの生産移転が輸入拡大に直結したのです。

 結局、日本の貿易収支は、年間10兆円にも及んだ黒字が激減し、11年には赤字に転落してしまいました。

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◆電子機部品輸出も低落

 日本は1990年代、アジアに中枢部品を輸出し、東アジア域内での生産分業、工程間分業の中核になりました。しかしこのアジア向け中間財輸出も、2000年代以降、東南アジア諸国連合(ASEAN)、中国、韓国、台湾に次々と追い抜かれ、日本は最下位になったのです(グラフ)。

 「アジアの生産ネットワークを日本がけん引する」などという論は、今となっては悪い冗談になりました。

 日本の電機産業の海外生産比率は、経済産業省の報告書では、情報通信機械で30%前後、電気機械で十数%。意外に低い数値です。
 これは日本企業の海外工場での生産しか計算せず、委託生産を除外しているからです。委託生産とは、生産を他社に丸投げし、ブランド名だけ自社の名前を付けるやり方です。委託生産を含めると、海外生産比率は電子工業全体で66%、携帯電話で89%、薄型テレビで97%(14年)という恐るべき数値です(表)。国内生産はもはや壊滅状態とさえ言えます。

 生産の海外移転は、前回述べたGDPの後退だけでなく、移転先のアジア各国の成長に寄与した結果、貿易面での敗北と赤字化も生み、日本経済を不可逆的に後退させ、揺るがし始めているのです。(つづく)


③電機産業は崩壊過程に

 前回までは、生産の海外移転が日本経済に停滞・後退をもたらしたことを論じました。
 では企業にとってはどうか。海外投資に逼進(まいしん)することがグローバル競争での勝利と成長を企業にもたらすのか。最も早くから徹底して海外投資を行った電気機械分野で見てみましょう。

 かつて日本の電機各社は半導体や情報機器で世界のトップに立っていました。例えば1990年の半導体生産の世界トップ10には日本企業が6社も入り、上位3社を独占しました。薄型液晶テレビの2005年の世界シェアでも日本企業は41%を占めました。

 ところが現在、日本の大手半導体メーカーはルネサスエレクトロニクスだけです。世界のトップ10に唯一残っていた東芝の半導体部門も昨年、米国買収ファンドと韓国企業などの手に落ちました。

 アジア企業による日本企業の買収も活発化しています。一昨年にはシャープが丸ごと台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収され、日本人に衝撃を与えました。

 パソコンでも、11年に中国のレノポがNECのパソコン部門を実質吸収しました。レノポは今年、富士通パソコン子会社の経営権も握るので、日本国内販売の4割を支配することになります(日本国内では旧ブランド名を使用)。東芝のパソコン部門も昨年末、売却交渉を開始しました。

 日本の電機産業は業界全体の崩壊過程に入った観すらあります。

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◆技術が海外流出

 こうした電機産業の惨状の根本原因は何か。それは技術流出と一体となって進行したアジアへの生産移転にあったと言わざるを得ません。特にアジア企業に生産を丸投げする委託生産は最悪です。

 例えば半導体生産の中心だったシステムLSI(多機能集積回路)でも、日本企業は2000年代に台湾企業に生産を委託する際に技術指導を行いました。カモがネギを背負っていくように台湾企業を教育し、技術を移管したのです。技術力を高めた台湾企業は、世界の企業からの生産請負を加速し、低賃金の中国で生産を拡大して急成長しました。

 1990年代に韓国が半導体メモリーのDRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)生産で急成長した背景も同様です。日本が生産を独占していたこの分野で、日本企業は高度技術の塊である半導体製造機械を技術指導と一体で売り込み、高度素材も売り込みました。韓国企業がその後市場を席巻する基礎を築いたのです。パソコンでも、日本企業は2000年代に生産の100%近くを台湾企業に委託するようになりました。委託開始時には日本企業が徹底した技術指導を行いました。

◆投資競争も負け

 テレビなどに使われる最新の有機ELパネルも同様です。もともと日本が開発した技術だったのに、日本企業は早くに生産を放棄しました。数年前から、世界でトップの技術を誇る日本の素材メーカーや製造機械メーカーが韓国に結集し、韓国企業と共同で有機ELの大型パネルの開発を進め、成功したのです。

 昨年、東芝、ソニー、パナソニックが相次いで最新の有機ELテレビを新発売しました。ところが使われている大型有機ELパネルは韓国LGディスプレイ社製です。日本の各社はこれを購入し組み立てただけなのです。

 日本企業は技術流出と一体になった生産の海外移転や委託生産を繰り返して、技術的に差別化できなくなりました。その上、投資競争にも負けて、電機産業全体からの撤退を余儀なくされていったのです。

④ 国民の英知集めるとき

 自動車産業は日本の製造業と日本経済を支えてきました。ここでも海外生産のみが拡大しています。

 日産やホンダは国内では十数%しか生産していません。つまり八十数%を海外で生産しています。日本の自動車12社全体でも、国内生産の約2倍の台数を海外で生産しています。今後の各社の経営戦略も、海外での生産のみを拡大する方向です。「輸出」も、海外生産拠点からの「輸出」だけ拡大する計画です。

 その上、各社が現在推し進めている、「モジュール化」と呼ばれる生産システム上の「改革」も重大です。部品を組み合わせてモジュール(ブロック)をつくり、共通部品やモジュールの組み合わせで、あらゆる車種を生産する方式です。これは従来の方式を根底から破壊するものです。

 完成車メーカーは従来、1次、2次、3次などの下請けメーカーと一体になり、車種ごとに部品をすり合わせて自動車の品質をつくり込んできました。ところがモジュール化のために、従来の10倍、20倍、あるいはそれを上回る桁違いの量の部品やモジュールを供給するよう下請けに求めるようになっています。従来の下請けではとてもついていけません。そのため完成車メーカーは、外国の巨大部品メーカーからの調達を拡大しています。日本の下請けは根本的な解体の危機に直面しています。

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◆最後のとりでも

 辛うじて大量発注に応じられる、ほんの一握りの日本の巨大下請けメーカーも、安い部品を供給する中国などのメーカーに大きく依存するようになっています。巨大下請けメーカーにおいても、海外生産・海外調達のみが進んでいるのです。

 完成車の逆輸入も始まっています。各社はタイなどで生産した日本車の輸入を少しずつ拡大しています。今後、警戒すべきは中国から日本への輸入です。

 中国は世界一の自動車生産大国になりました(グラフ)。日本メーカーでも、日産のように今や日本国内の生産能力より中国の方が多いというメーカーもあります。遠からず各社もそうなるでしょう。

 もしも中国から日本メーカー車の逆輸入が始まったら、それが日本の自動車生産、いやものづくりが壊滅する時になるでしょう。地域に重層的な下請けメーカーを抱えて、ものづくりと日本経済の最後のとりでとなっている自動車産業も、下請けも含めて危機に直面しています。

◆空洞化への批判

 国境を越えて「最適地」で生産する「グローバル企業」の経営行動が、本当に「グローバル企業」の成長と勝利の道なのかも考え直すべきでしょう。国民をぼろぼろにし、技術を流出させて、その上に築かれる企業の繁栄と未来などありません。

 米国では、オバマ政権期に製造業を国内に呼び戻す国内回帰策を打ち出しました。トランプ氏は「グローバリゼーションを追い求めた結果、仕事、富、工場をメキシコに追いやった。何百万人もの労働者がすべてをなくし、貧困に追いやられた」と演説して大統領になりました。グローバル化と空洞化への怒りと批判が世界の国民に拡大しているのです。

 いま、経営者、官僚、国民の英知を結集して、国内生産と技術を守り発展させる新しい資本主義のあり方を、日本でこそ、模索すべきときではないでしょうか。(おわり)


【グローバル経済の迷宮 日本の新属国化】

 名古屋経済大名誉教授 坂本雅子さんに聞く~日本企業の多国籍化(グローバル化)が日本の製造業空洞化を招くとともに、米国企業のグローバル化は日本の新たな属国化を推し進めています。前回(2月20~23日)に続き、『空洞化と属国化』の著者、名古屋経済大学の坂本雅子名誉教授に聞きました。(聞き手・杉本恒如)


①企業本位に政策を支配

 前回の連載で、グローバル化は多国籍企業の対外投資と一体であり、それが先進国の製造業空洞化や諸矛盾の原因になっていることを述べました。今回は、グローバル化と国家間の関係を考えます。それは、日本と米国の関係や、なぜいまアジアで平和を破壊する動きが起きているかを考えることになるでしょう。

 外国に投資し、外国で活動する企業にとって不可欠なことがあります。投資先の国での自由な企業活動と権益が守られることです。この投資環境の整備を相手国に行わせるために、企業の母国は投資協定を締結します。つまり企業の母国がグローバル企業の利益を代弁、代行するのです。

 投資協定は1989年の385から2009年の2753へと、1990年代以降に激増しました(累計)。多くは貿易自由化と一体で自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)として締結されました。

◆外国資本に開放

 投資協定に最も早くから積極的だったのは、世界の対外直接投資で圧倒的な比重を占める米国です。米国がメキシコ、カナダと締結した北米自由貿易協定(NAFTA=1994年発効)は投資協定に新たな時代を画するものとなりました。

 それまでの投資協定は、他国にすでに投資された企業の財産を守るものでしたが、NAFTAは投資相手国に対する投資前からの「自由化」強制や、投資相手国の政策への異議申し立てまで行えるようにするものです。

 環太平洋連携協定(TPP)は、NAFTAを完全に踏襲しています。製造業はむろん、サービス分野(金融、保険、医療、通信、流通など)も含むあらゆる分野を外国資本に開放するよう締約国に求めるものです。投資を受け入れる国の国有・公営企業、独占企業の解体まで要求します。外国企業の参入と活動を有利にするためです。

 また、TPPにはNAFTAと同じく、「投資家対国家紛争解決」(ISDS)条項があります。外国企業の活動に不利に作用する新たな法律や措置に対して、外国企業が投資相手国政府を国際仲裁廷に提訴し、賠償させることができるものです。

 ISDS条項による過去の提訴の例を挙げると、カナダ政府が人体に有害なガソリン添加物を禁止したことに対し、それをカナダに輸入していた米国企業がカナダ政府を訴えたことがあります。従来容認してきたものを取引禁止にするのは「間接的収用」にあたると、NAFTAを根拠に2億5000万バの損害賠償を求めたのです。

◆民主主義を破壊

 TPPはまた、いったん緩和した規制は何があっても後戻りさせられないというラチェット(逆回転できない歯車)原則で全編縛られています。自国の政策を自国で決められないという問題が多々生じるのです。

 つまりTPPの本質は、グローバル企業本位のルールを締約国に押し付け、逆戻りできないよう固定化するものです。企業が他国の政策まで支配し、国境を越えた統治圏を形成する属国形成のシステムなのです。国民の意思を最も尊重すべき民主主義国家が、根底から破壊されます。

 米国はTPPから脱退しましたが、今後、日米FTAが締結される可能性は極めて高く、ISDS条項も確実に入るでしょう。ISDS訴訟大国・米国とのFTAが締結されれば、日本政府は米国企業に顔を向け、米国企業の意向を忖度(そんたく)して政策を決定しなければなりません。


②米のアジア戦略の先兵に

 米国が環太平洋連携協定(TPP)を打ち出したのはアジア回帰の軍事戦略や対中国政策の一環でもあります。2000年代に進んだアジアの協働を破壊し、米国がアジアのハブ(中枢)として返り咲く構想と一体のものでした。

 アジアでは、2000年代に米国抜きの協働が進展し、アジア各国政府が参加して「東アジア共同体」を形成する動きも本格化しました。アジア全体で関税を撤廃し、投資のゆるやかな自由化と保護を行い、政治、経済、金融面でも協力していこうというのです。その背後にはアジアへの投資急増や国境を越えた分業など経済的紐帯(ちゅうたい)の拡大がありました。

 こうした米国抜きのアジア連携が米国にとって面白いはずがありません。しかもアジアの経済と政治の中核に座っているのが急成長する中国です。米国の世界秩序への大きな脅威とみなしたのです。

◆中国包囲視野に

 米国はアジアに回帰しアジアの中核に返り咲こうと2000年代末に本格的な活動を開始し、経済面では09年末にTPPを打ち出しました。

 アジアの大多数の国が最終的にTPPへ結集することを米国はもくろんでいました。しかし参加国は拡大せず、アジアではブルネイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、日本にとどまりました。米国を核としたアジアの再結集をはかるという大目的はついえたのです。

 軍事面でも米国はアジア回帰戦略をとり、海軍戦力の60%とその他の軍備を20年までにアジアに集中するという大再編を12年に開始しました。それは中国包囲を視野に入れたものでした。

 06年ごろから米国は中国を脅威とみなし始めていましたが、単に警戒網を構築する(ヘッジ)だけでなく、一方で取り込み(関与)をはかる二面作戦を採りました。多数の米国企業が中国に投資するとともに、中国が米国債の最大の購入者になっており、真正面からの対立を避けたのです。

 米国が選択したのは、日本を巻き込み、日本に集団的自衛権行使の道を開かせ、軍事面でも米国の先兵、アジア戦略の前衛に、日本を仕立てることでした。

◆影響力を最大化

 15年4月に18年ぶりに日米防衛協力の指針(ガイドライン)が改定されました。ここで自衛隊の集団的自衛権行使を容認することが日米間で合意されたのです。つまり安全保障関連法(15年9月成立)が日本の国会で通る5カ月も前に、日本は集団的自衛権の行使容認を米国に確約していたのです。

 ガイドライン改定に合意した直後、米国側の担当者デビッド・シアー国防次官補は「今回のガイドライン改定は米国の『アジア回帰』の一部です」(15年4月29日付「朝日」)と述べました。日本の集団的自衛権行使容認が、米国のアジア回帰戦略のためになされるものであることを明言したわけです。

 彼はまた、「『アジア回帰』は、中国や東南アジア諸国の台頭」などを踏まえ、「この地域における米国の影響力を最大化することを狙った米政府全体の取り組みです」とあけすけに」語りました。

 そして今年1月に、米国は中国への軍事的対抗を前面に押し出しました。「国防戦略2018」で「米国の国防が最も重視しなければならないのは「『対テロ戦争』ではなく『大国間の戦略的競争』だ」として、その相手に「中国」をあげたのです。

 企業のグローバル化と対外投資の結果成長した中国を、今度は企業の最強の母国が大国間軍事対立の相手国と規定する。そして日本は大国間対立の最前線に立つことを強いられる―。

 なぜこんなことが起きるのか。21世紀の「新帝国主義論」を、焦眉の課題として論議しなければならない時代が来たのかもしれません。

③米国のための「成長戦略」

 安倍晋三政権の成長戦略(日本再興戦略)は驚くほど膨大な項目からなります。ところが国民の切実な要求や製造業の空洞化対策とは全く縁がないばかりか、日本企業の要求とも必ずしも一致しません。ほぼすべてが米国の対日要求に端を発したものなのです。

 米国は1980年代末からさまざまな「協議」で日本に譲歩を強要し、94年からは毎年、「規制撤廃要望書(年次改革要望書)」を突き付けて、経済の全分野の「改革」を迫りました。鳩山由紀夫内閣が2009年にこれを停止しましたが、安倍内閣は宿題を果たすように、未実現の項目を成長戦略に入れました。

 グローバル企業の後ろ盾である米国は、各国政府と投資協定を締結して相手国の国内政策まで支配する「企業の属国」化を追求してきました。日本に対しては、自国は義務を負わない一方的な「要望書」の形でそれを追求したのです。01年以後は「日米投資イニシアチブ」という協議の場まで持ちました。

◆安定雇用を破壊

 安倍成長戦略の三大分野「働き方改革」や医療・福祉「改革」、電力自由化のほとんどの項目は、米国のこの「要望書」の要求です。

 例えば、働き方改革で拡大しようとしてきた裁量労働制も、米国が要求してきた「ホワイトカラー・エグゼンプション」(残業代ゼロの働き方)の一種です。米国は06年の「日米投資イニシアチブ」の協議で、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入を日本に要求しました。当時の第1次安倍内閣は、これを導入しようとして断念しています。

 安倍成長戦略は労働分野で、他にも多様な正社員の拡大、雇用維持から労働移動支援への転換、労働者派遣業など民間人材ビジネスの活用強化を掲げています。雇用を徹底的に不安定化し、賃金の3~4割以上もピンハネされる派遣労働を拡大し、人材ビジネスに労働者を依存させるもので、すべてが「要望書」の要求実現です。

 もともと派遣労働の幅広い解禁は1995~96年の「要望書」での要求に始まります。これを受け日本政府は、小泉純一郎内閣を筆頭に派遣の分野を拡大し続け、不安定雇用が横行する日本にしました。

 米国がなぜ、他国の労働者の働き方にまで注文を付けるのか、誰もが不思議に思うところです。米国自身の論拠では、日本の終身雇用などの雇用の安定や労使一体、高賃金は対日投資にとって障害だというのです。多国籍企業の「企業属国」にするには、雇用の安定や労働者の権利、民主主義などをまず破壊し、新興国並みの低賃金、無権利状態にする必要があるのでしょう。

◆電力の自由化も

 安倍成長戦略の目玉である電力の自由化も同じです。米国は94年の最初の「要望書」で電力独占を解体して自由化せよと要求しました。日本政府は要求に従い、何度も段階的な電力改革を行いました。その都度米国は、ここが不十分、次はこれと要求を続け、安倍内閣で完全自由化が実現したのです。

 いま大規模太陽光発電(メガソーラー)に、米国のゴールドマン・サックスなど外資が参入し、利益追求の場になっています。いずれ9電力の一角を米国のファンドが買収する日が来るかもしれません。
 米国の要求は、こうした公共性や国民生活を保護するために国家が介入してきた分野を、企業のむき出しの利潤追求のために開放せよというものです。

 「要望書」は他にも、米国が強い金融などのサービス分野も外資に開放せよと要求しています。米国はこれらの分野を世界で開放させようと世界貿易機関(WTO)でのルール制定に長年、取り組みました。しかし企業本位のグローバル化に反対する運動の高揚もあって合意には至らず、投資協定で実現しているのです。日本の政権だけは要求を進んで受け入れ続け、日本経済の強さを自ら破壊してきました。


④ 外国株主の利益を優先

 米国は「規制撤廃要望書」で日本国民の年金基金まで米国投機資本の餌食(えじき)にすることを求めました。全国民の公的年金の積立金は200兆円前後と巨額ですが、高齢化が進む日本では、いずれ取り崩して年金受給者に支払わなければならないものです。

 公的年金基金の運用枠は従来60~80%が日本国債で、安全に運用すると同時に日本の財政を支えていました。しかし安倍晉三政権の成長戦略で運用枠の方針変更が打ち出されました。その結果、例えば国民年金と厚生年金の基金(GPIF)では外国株(25%)と外国債券(15%)に合計40%、日本株にも25%を投資できるようにしました。投機ファンドなども運用対象に含められ、リスクの大きな運用への比率も拡大されました。

 これも米国の要求の実現です。米国はそれまで年金基金が独自運用していた資金を、投資顧問会社に委ねることを日本に受容させました(日米包括協議「金融に関する合意」1995年)。翌年以降は「要望書」で合意の早期実現、運用比率の拡大、リスク投資の容認などを要求したのです。GPIFなどでは現在、外国投資はほぼ米国の運用会社が担うようになっています。

◆日本財政も危機

 安倍政権は外国投資の比率を大幅に増やし、危険な投資先も許容して米国の要求に完全に応えたのです。運用方針変更直後、GPIFは短期間で大幅な赤字を計上しました。

 安倍政権は年金基金を米国の株価上昇や米国ファンドのもうけのための投機資金に供し、基金の未来、すなわち国民の未来を危険にさらしているのです。

 同時に日本財政の未来も危うくしています。日本は世界一の借金大国ですが、年金基金をはじめ国内機関が国債を保有し、財政は安定していました。現在、安倍政権は「デフレ脱却」と称し、日銀に多額の国債を買い入れさせています。しかし今後それを止めるにしても、国内の買い手は激減しています。売れなくなった国債価格は下落し利率が高騰し、外国投機機関に翻弄(ほんろう)され、日本の財政破綻の可能性は急激に高まるでしょう。

◆国民の力結集を

 安倍成長戦略はまた、日本企業の未来も危うくしています。成長戦略の一環として「企業統治指針(コーポレートガバナンスーコード)」を上場企業に採用させたからです。それは徹頭徹尾、株主、特に外国株主の利益を最優先するものです。企業の目標を自己資本利益率や株価の上昇に置き、株主の立場から企業を監督する社外取締役を多数設置し、外国人を差別せず経営者にするというのです。

 これも米国の要求でした。株主利益を最優先する経営に転換することを「要望書」で長年求めてきたのです。
 すでに日本企業は約3分のIの株を外国機関に保有されています。そのほとんどは米国の投資顧問会社や機関です。外国株主の目当ては株価上昇や配当、企業買収でもうけることだけです。赤字部門の切り捨てや労働者のリストラで短期の利益を向上させ、見かけの自己資本利益率が上がればよいのです。企業の長期の成長や技術開発には関心がなく、国内生産を守って日本経済を支える気持ちなど毛頭ありません。

 外国株主優先の経営への転換は、短朗の株価上昇に固執する投資家に企業が振り回され、ものづくりで勝つことからますます遠ざかる、日本資本主義の自滅の道です。

 米国は敗戦後の日本を属国化した上、この30年間は米国企業王国への新たな従属を強制してきました。そしていまや日本の経済と企業、国民生活を破壊し、憲法や平和まで破壊しようとしています。新帝国・米国への属国化に抗するには、軍事面、経済面での「自主独立」に向け、圧倒的多数の国民の力を結集するしかありません。
(おわり)


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