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エネルギー基本計画 −「環境・エネルギー・経済のトリプル・デカップリング」へ抜本的転換を

 見直し中のエネルギー基本計画へのISEPの意見。再生エネ、省エネを軸にした「環境・エネルギー・経済のトリプル・デカップリング(切り離し戦略)」をめざすべきと提言している。国際再生可能エネルギー機関からも、再生エネの積極対応と求められている。
送電線の空容量の活用で若干の見直しがされようとしているが、原発、石炭火力を「ベースロード電源」としている基本計画では、脱原発、脱炭素という世界の潮流から置いてけぼりにされる。
【「日本は再生可能エネルギーに積極対応を」国際機関事務局長 NHK4/4】
【エネルギー基本計画への意見 −「エネルギーコンセプト」の抜本的転換を ISEP4/2】
【送電線の空き容量増へ 再生エネ普及に向け新ルール導入 NHK4/1】


【「日本は再生可能エネルギーに積極対応を」国際機関事務局長 NHK4/4】

再生可能エネルギーの普及を進めている国際機関の事務局長が、日本企業や政府関係者に対して、二酸化炭素を削減する「脱炭素」への対応を強化すべきだと訴え、再生可能エネルギーへの積極的な対応を促しました。
来日しているIRENA=国際再生可能エネルギー機関のアドナン・アミン事務局長が、4日、東京都内で開かれたエネルギー関係の日本企業や政府関係者との会合に出席しました。

 再生可能エネルギーの普及を進めている国際再生可能エネルギー機関は、日本を含む世界150か国以上が加盟し、ケニア出身のアミン事務局長が事務方のトップを務めています。

 会合で、アミン事務局長は「『脱炭素』の動きが想定以上に早く進み、世界のエネルギーシステムは根本から変わってきている。これに対応するのは世界の責任だ」と述べ、二酸化炭素を削減するため再生可能エネルギーの導入を強化すべきだと訴えました。

 このあと、アミン事務局長はNHKのインタビューに応じ、「世界的には、太陽光の発電コストがこの7年間で7割下がり、経済的な理由からも選ばれるようになっている。世界の発電量に占める再生可能エネルギーの割合は、現在は25%だが、2050年には65%を超えると思う」と指摘しました。

 そのうえで、アミン事務局長は、日本に期待することについて「日本は環境分野で改革を起こすことができる高い技術力と人材を持っていて、今はチャンスだ。企業や投資家が安心して投資できる枠組みを作ることが必要だ」と述べ、再生可能エネルギー分野をビジネスチャンスにするためにも国の役割が重要だという認識を強調しました。


【エネルギー基本計画への意見 −「エネルギーコンセプト」の抜本的転換を ISEP4/2】

  当研究所は、現在見直し中のエネルギー基本計画について、日本のエネルギー政策における「エネルギーコンセプト」の抜本的な転換が必要だと考える意見を以下に提示いたします。
私たち環境エネルギー政策研究所(ISEP)は、日本のエネルギー政策における「エネルギーコンセプト」の抜本的な転換が必要だと考える。

  指数関数的に拡大する太陽光発電や風力発電を筆頭とする分散型再生可能エネルギーの急速な本流化に加えて、電気自動車(EV化)を含めたエネルギーの分散化・人工知能(AI)化・デジタル化へのグローバルなエネルギー大転換は、ますます加速している。原発・石炭を軸とする旧来のエネルギーコンセプトにしがみついたままでの小手先の対応では、このエネルギー大変革の波にまったく対応できない。

 2014年に閣議決定されたエネルギー基本計画の3年毎の見直しの時期を迎え、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会ではエネルギー基本計画の見直しの審議が行われている。一方、2016年11月に発効したパリ協定に基づき、日本からも2030年までの温室効果ガス削減目標(NDC)が国連に提出されているが、エネルギーについては2015年に策定された経産省の「長期エネルギー需給見通し」がベースになっている。さらに2020年までのなるべく早期に今世紀半ば(2050年頃)までの気候変動対策に係る長期戦略を提出する必要があり、環境省が長期低炭素ビジョンを2017年に取りまとめた。経産省でも長期地球温暖化対策プラットフォームにおいて取りまとめが行われており、引き続きエネルギー情勢懇談会において、長期的なエネルギー政策の方向性が議論されている。しかし、これらの審議会では、福島第一原発事故の教訓から学んでないばかりか、グローバルに進みつつあるエネルギーの歴史的な大転換に対して逆行しているかのような議論が進んでいる。

 そこで、日本が目指すべき持続可能なエネルギーに向けた新しい「エネルギーコンセプト」への抜本的な転換のあり方をあらためて提言し、エネルギー基本計画への意見として提示する。

■要旨
1.自然エネルギー・省エネルギー・地域主導を「三本柱」へ
2.省エネルギーの深掘りとトリプル・デカップリング(切り離し戦略)を
3.自然エネルギーを基幹エネルギーに位置づけインフラ整備を
4.地域主導・分散ネットワーク型エネルギーとデジタル化への大転換へ
5.「11福島第一原発事故」の教訓を踏まえた現実的な脱原発を
6.パリ協定に基づき自然エネルギー100%への転換を目指すべき
7.情報公開と国民参加の開かれた議論の場が必要

1. 自然エネルギー・省エネルギー・地域主導を「三本柱」へ

 グローバルに進みつつあるエネルギーの歴史的な大転換の「3本柱」は、第1に人類史「第4の革命」と呼ばれる自然エネルギーの飛躍的成長であり、第2に環境・エネルギー・経済のトリプル・デカップリング(切り離し戦略)を実現しつつあるエネルギー効率化であり、そして第3に大規模集中独占型から地域主導・分散ネットワーク型へのパラダイムシフトである。世界経済の成長にかかわらず2014年以降の3年間、世界のCO2排出量は増えておらず、自然エネルギーの飛躍的な普及により世界的な環境と経済のデカップリングが進んでいる[1]。さらに、自然エネルギーの発電コストは太陽光を中心に急速に低下しており、2016年の世界の自然エネルギーへの設備投資額は20%以上も減少したにも関わらず、年間導入量は過去最高を記録している[2]。エネルギー政策の基本的視点とされている「S+3E(安全性+環境・経済・安全保障)」の実現のためにも、巨大リスクを抱える原発への固執を止め原発ゼロを政策決定すると共に、自然エネルギーとエネルギー利用効率化を重視する地域分散型のエネルギーシステムへ転換すべきである。http://www.isep.or.jp/archives/library/10895 - _ftnref1

2. 省エネルギーの深掘りとトリプル・デカップリング(切り離し戦略)を

 3.11後の節電・省エネルギーの実績を踏まえた省エネルギーのさらなる深堀りが必要である。経産省の「長期エネルギー需給見通し」では2030年度の電力需要は2013年度の実績よりも増加しているが、意欲的な目標を伴うスマートかつ徹底した省エネにより3割以上の削減が可能であり、化石燃料の削減や省エネ投資による大きな経済効果も見込むことができる。2011年以降、毎年夏の最大電力需要時の10%以上の節電を達成しており、年間の電力需要量も5%程度削減している[3]。こうした成功を踏まえ、今後は「経済成長にはエネルギー消費量の増大が避けられない」という「神話」(ドグマ)から脱却する必要がある。

 日本国内の建物の省エネルギーではさらなる規制強化が必要であり、すでにEUで実施されているような新築建物への省エネ基準適合の全面義務化、全ての建物への客観的な「エネルギー性能ラベリング」義務化、新築公共施設のゼロエネルギー化の早期義務化、既存建物の断熱改修の促進、自然エネルギー熱利用の義務化などの規制が必要である。

 さらに、すでにEU各国だけではなく中国でも導入が進められている総量規制型の排出量取引制度(キャップ&トレード)や有効な環境税の導入(温暖化対策税の税率引き上げ)などのカーボンプライシングもデカップリングのためには重要である。

 成熟社会の日本としては、環境・エネルギー・経済のトリプル・デカップリング(切り離し戦略)を目指すべきである。環境エネルギー政策で先行するドイツやデンマークなどの欧州各国では、1990年代以降、「エネルギー成長と環境負荷のデカップリング」「経済成長とエネルギー成長のデカップリング」「「豊かさ」と経済成長のデカップリング」というトリプル・デカップリング(切り離し戦略)の傾向がはっきりと見て取れる。

3. 自然エネルギーを基幹エネルギーに位置づけインフラ整備を

 「純国産エネルギー」である自然エネルギーを基幹エネルギーに位置付け、発電量比率で2030年までに自然エネルギー50%以上とする意欲的な導入目標を定めるべきである。トリプル・デカップリングを前提に省エネルギーにより2030年までに約3割の電力需要の削減を行うとともに、自然エネルギーの発電量を3,500億kWh以上とすれば十分に可能な目標値である[4]。経産省の「エネルギーミックス」では2030年の自然エネルギーの導入見込量が太陽光の従前からの電力系統への接続可能量等の制約条件から6,400万kW相当という現在の設備認定量よりも低い設備容量となっている。しかし、JPEA等が提言しているように1億kWは十分に可能であり、長期的には2億kW以上を目指すべきである。風力発電については、1,000万kWという非常に低い導入量が設定されているが、すでに1,500万kWを超える事業の計画が東北地方を中心にある。膨大な導入ポテンシャルや将来のコスト低減を前提とすれば2030年までにJWPA等が提言しているように3,600万kWを超える目標を設定すべきであり、長期的には1億kW以上を目指すべきである。

 これらの目標値を実現するためには、電力系統などのインフラ整備や規制改革など様々な課題を克服する必要があり、そのための新規の設備投資を必要とする。しかし、さまざまな恩恵のある自然エネルギーの導入「コスト」は、持続可能な未来を実現するためにインフラ投資として欠かせないと捉えるべきであるだけでなく、長期的な視点に考えれば、自然エネルギーが純国産でもっとも安いエネルギー源である。

 系統接続問題に端を発して定められた太陽光発電や風力発電の「接続可能量」は、自然エネルギーを封じ込めるための「トリック」であり、撤廃すべきである。さらに、昨今の電力系統の「空き容量ゼロ」や高額な「工事負担金」は、従来の電力会社の系統運用ルールがベースになっており、大幅な見直しをした上で自然エネルギーを優先した大量導入を可能とし、長期的な電力系統の整備を進める必要がある。

 さらに日本国内では、熱利用や運輸交通に関する自然エネルギーの導入が大幅に遅れており、そのための目標設定やインセンティブを与える政策(環境税などのカーボンプライシング等)、さらに熱供給や運輸での自然エネルギー利用のためのインフラ整備も重要である。

4. 地域主導・分散ネットワーク型エネルギーとデジタル化への大転換へ

 世界全体で各地域のステークホルダーが関わる自然エネルギーによる地域主導・分散ネットワーク型エネルギー体制(ご当地エネルギー、コミュニティパワー)への大転換が進んでおり、日本でも会津電力(喜多方市)やほうとくエネルギー(小田原市)などそうした取り組みが全国各地で次々と広がってきている。2016年11月に福島県福島市で開催された「第1回世界ご当地エネルギー会議」[5]での「ふくしま宣言」や、2017年9月に長野県長野市で開催された「地域再生可能エネルギー国際会議2017」[6]での「長野宣言」では、地域主導のエネルギーへの取組み(ご当地エネルギー)の重要性が謳われている。その中で、コミュニティパワーとエネルギー自治の重要性[7]、地域の経済・雇用効果への大きな効果が期待されている。地方の創生のためにも、現状の集中独占型から地域主導・分散ネットワーク型への転換は避けて通れない。

 また同時並行的に進展する電気自動車(EV)、とくに小型バッテリーの技術学習効果による急速な低コスト化や、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)、ブロックチェーン、ビッグデータ等を活用した「エネルギーのデジタル化」を考慮して、旧来の「大規模集中・独占型」のエネルギー産業構造からの構造転換を視野に入れることが欠かせない。

5.「3.11福島第一原発事故」の教訓を踏まえた現実的な脱原発を

 3.11福島第一原発事故の教訓を踏まえた原子力政策の根底からの見直しが大前提となる。原発を「重要なベースロード電源」と位置付けた国のエネルギー基本計画は、3.11以前の「原発神話」をそのまま復活させたものでしかない。

 今なお混沌とした状況の続く福島第一原発事故の処理は、半永久的に続くおそれが大きい。また、事実上の倒産会社である東京電力も、今からでも破たん処理されるべきであり、経営者および規制当局の責任が追求されなければならない。さらに本来必要な水準の原子力損害賠償措置への見直しを踏まえれば、脱原発こそがもっとも経済的で現実的な選択肢であることは明らかである。

 福島第一原発事故の被害とその根本原因を見据え、事故の実態や後始末の困難さや原子力規制の実態を深刻に考慮すれば、脱原発を前提とした原発ゼロ社会を目指すべきである[8]。そのための具体的な政策として「原発ゼロ基本法案」[9]を国会においてその実現に向けて真剣に議論すべきである。
さらに脱原発を前提に、廃炉や核のゴミ、実質的に破たんしている核燃料サイクルの後始末など原発が直面している難題に向き合って、国民的な対話で合意と改善を目指す必要がある。

6. パリ協定に基づき自然エネルギー100%への転換を目指すべき

 2016年に発効したパリ協定では、今世紀後半には世界の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする必要がある。世界では自然エネルギー100%を目指す動きが様々なレベルで加速している[10]。省エネ余地の大きい多くのエネルギーを消費している産業部門や業務部門の省エネ対策を根本的に見直す必要がある。それにより2030年までには電力需要の3割削減(2010年比)を目指し、熱や燃料需要についても根本的な削減を目指す必要がある。加えて、自然エネルギーを電力需要の50%まで導入することで、2030年における温室効果ガス削減目標は40%以上(1990年比)を目指すべきである[11]。長期的には自然エネルギー100%を目指す目標を国、地方自治体、企業が定めることが求められる。もちろん、世界全体で2度以下を目指す気候変動対策の努力を無視した、無責任な石炭火力建設ラッシュを緊急に差し止める必要がある。

 企業においても自然エネルギー100%に向けた取り組みが世界的に加速しており、世界的な大企業がすでに自然エネルギー100%を達成することを目標にし始めている。グローバルなサプライチェーンの中でも自然エネルギーの利用が求められており、日本国内の企業も無視が出来ない状況であるが、日本国内では自然エネルギーの電気を企業が調達することは容易ではない。日本国内では非化石価値取引市場が2018年度から始まるが、トレーサビリティが無く需要家への価値移転が出来ない中途半端は仕組みであり、自然エネルギーの発電源証明の制度や自然エネルギー価値(グリーン電力など)の取引市場などを国際的な基準で整備する必要がある。

7. 情報公開と国民参加の開かれた議論の場が必要

 そもそも2014年のエネルギー基本計画で示された「原発は重要なベースロード電源」自体が、3.11以前の「原発神話」(安全、安価、安定)をそのまま復活させたナンセンスなものであった[12]。さらに、原発比率をむき出しで議論することを避けるために、「ベースロード電源」という「包装紙」で原発を包み込んでその比率を定め、そこから逆算するかたちで一定比率の原発を維持が必要という論理を押し通そうとしていた。なお、欧州などでは「ベースロード電源」という概念が消えつつあり、今回の「国の論理」が時代遅れといえる。こうして振り返ると、国は不透明・不誠実な議論のプロセスを重ねてきており、国民参加や透明性ある議論とは対極にあり、今日の熟議民主主義の時代における政治や政府の姿勢とはかけ離れている。

 福島第一原発事故を始め、様々なエネルギー政策の硬直化を招いた一因として政府や独占的な地位にあるエネルギー関連企業による情報の秘匿が考えられる。また、エネルギー政策のような重要な基本政策は、最終的に国民や様々な主体が関与して合意すべき問題であることから、政府や関連企業は情報を公開する義務を負っているはずであり、政策決定プロセスにおいても多くの国民の意見が反映される適正なプロセスが担保される必要がある(環境問題においては市民参加を担保するオーフス条約の批准なども必要)。そのためには、国民の代表者から構成される国会上での手続き(熟議)をエネルギー政策の決定プロセスに盛り込む必要がある。

 エネルギーの選択は、国の専管事項でもなければ産業界の要望だけで決められるべきものでもない。地域分散型自然エネルギーが急速に進み、気候変動問題の大きなリスクに直面し、そして3.11福島第一原発事故を経験した私たち日本に住むすべての人々が参加し、議論し、合意を重ねて選び取るべきものである。


【送電線の空き容量増へ 再生エネ普及に向け新ルール導入 NHK4/1】

太陽光や風力発電などの普及を進めるため、経済産業省は1日から新たなルールを導入します。送電線の空き容量を実質的に増やして、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が受け入れやすくする狙いです。
新たなルールは、再生可能エネルギーの活用で先行するヨーロッパの制度にちなんで「日本版コネクト&マネージ」と呼ばれ、送電線の利用のしかたを大きく見直すことが柱です。

 送電線の空き容量は、これまで火力などすべてがフル稼働している前提で算出していたため、実際には余裕があっても空き容量が足りないとされて、太陽光発電などが十分に受け入れられていないと指摘されていました。
このため、新ルールは実態に合わせ実績をもとに計算することで空き容量を実質的に増やし、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が受け入れやすくします。
東北電力が試験的に導入したところ、空き容量が最大で60%増えたということで、経済産業省は新ルールの効果を期待しています。

◆資源エネルギー庁「再生エネ導入に弾み」

資源エネルギー庁の電力基盤整備課の曳野潔課長は「時間と費用がかかる送電線の増強ではなく空いている隙間を賢く使うことで、できるだけ多くの再生可能エネルギーの電源を導入していこうという取り組みだ。費用対効果が高い方法で導入に弾みがつくと考えている。ただ、当然、無限につなげるわけではないので、中長期的に見れば、再生可能エネルギーの導入に応じた送電網の増強などが必要になってくる」と話しています。

◆電力各社 対応を進める

新たなルールに合わせて、送電や配電の事業を手がける大手電力各社は対応を進めています。
このうち、風力発電など再生可能エネルギーの普及が進む東北電力の管内では、主要な送電線の6割以上で空き容量がゼロになっていたため、先行的に新たなルールを一部で導入しました。

それまで、東北電力では、送電線の空き容量を計算する際、火力発電などがフル稼働し出力100%になった状態を前提にしていました。
これを新たなルールに沿って、石炭火力は90%、太陽光は80%、風力は45%などと、実績に合わせて見直したところ、空き容量は最大で60%増えたということです。
東北電力は「設備を最大限活用しながら再生可能エネルギーの導入に積極的に取り組んでいく」としています。
各社は今月から本格的に運用を見直して、送電線の空き容量がどれだけ増えるかを順次、公表することにしています。
中部電力は送電線の空き容量を計算する際、これまで、太陽光や風力、水力の発電設備について、フル稼働し、出力100%になった状態を前提にしていました。
これを、1日からは、過去に実際に発電した量の最大値に見直しました。これにより、空き容量が最大で10%程度増えるとしています。
中部電力電力ネットワークカンパニーネットワーク企画室の舘竜司設備総合計画グループ長は「送電線を増強しなければ発電設備をつなげないことがいちばんの問題だったが、新たなルールは既存の設備を最大限に使うものなので、確実に実施し、再生可能エネルギーの普及拡大に取り組んでいきたい」と話しています。

◆新ルールの導入に業者は大きな期待

愛知県碧南市の発電事業者は、これまで中部地方を中心に耕作放棄地などで太陽光発電を行ってきました。

しかし、新たに事業を計画し、送電線への接続を大手電力会社に申し込んでも、「送電線に空きがない」との理由で断られたり、送電線の増強工事が必要だとして工事費の一部の負担を求められたりするケースがこの数年増えたということです。
このうち、三重県松阪市で計画し、去年9月に接続を申し込んだ太陽光発電については、電力会社から、空きがなく、接続には送電線の増強が必要だと説明され、工事費として29億円の負担を求められたということです。
さらに、工事が終わり、接続できるのは15年後だと言われたため、事業を断念したといいます。この業者では、事業を計画したものの接続できないため断念したケースがほかにも数十件あるということです。
こうした中での新たなルールの導入に、業者は大きな期待を寄せていて、松阪市のケースについても改めて申請することを検討しています。
さらに、接続できる送電線が増えるのではないかと考え、事業の拡大に向けて、耕作放棄地などの提供を呼びかけるチラシを新たに36万部作り、一般家庭などに配ることにしています。
石川清成社長は、新たなルールの導入について、「再生可能エネルギーの普及に向けた大きな一歩で、事業のチャンスが出てくると思う」と期待しています。一方で、「すぐには大量に受け入れてもらえないと考えているので、今回の算出方法の見直しだけでなく、いろいろな方法を取り入れて空き容量を増やしてほしい」としています。
そのうえで、空き容量がどの送電線で増えるのかなどの情報が、電力会社からどの程度示されるかまだわからないとして、「情報をもとに事業を組み立てたいので、多くの情報を出してほしい」と話しています。

◆家庭などの負担は増加

再生可能エネルギーの普及に伴い、家庭などの負担は増えています。太陽光や風力などで発電した電気は電力会社に買い取られ、家庭や企業の電気料金に上乗せされる仕組みになっています。
太陽光発電などを普及させるための制度ですが、平成24年度に導入されてから負担額は増加が続き、今年度に上乗せされる額は年間で合わせて2兆3700億円。電気の使用量が標準的な家庭では年間で9000円を超えることになります。
今回の新ルールの導入は、既存の送電線を活用することで新たな送電線の整備などのコストを抑えることも狙いの一つです。
再生可能エネルギーの一段の普及に向けては、こうした取り組みを通じていかに負担を緩和していくかも大きな課題になっています。

◆専門家「効率よく使う方法の検討必要」

京都大学大学院の安田陽特任教授は、情報が公開されている全国の送電線399路線について、去年8月までの1年間の利用状況を分析しました。
このうち、電力会社が「空き容量がない」と公表している139路線について、送電線の容量に対し、実際に流れた電気の量の割合=利用率を会社ごとに見ると、年間の平均で、北海道電力が14.1%、東北電力が9.5%でした。最も高かった東京電力でも36.6%だったということです。
安田特任教授は「空き容量がないとされている送電線でも、実際は空いていることがわかった。送電線を効率よく使うための方法を検討する必要がある」と指摘しています。

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