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シラスウナギ不漁?~そもそも絶滅危惧種。ワシントン条約・付属書Ⅱで規制を

 各地でシラスウナギの極度の不漁が報じられている。その中で、高知県がシラスウナギの採捕期間を15日間延ばし、95日にすると発表したことが物議を呼んでいる。
真田康弘・早稲田大客員准教授は、密輸、反社会的勢力の関与など不正な取引を抑止するワシントン条約付属書Ⅱによる規制を提案している。地元の中谷元衆院議員もウナギの資源管理を担保する上で流通の透明性が必要と訴えている、とのこと。
 クロマグロの資源保護、象牙の違法取引の禁止などで、国際社会から「問題児」扱いされている日本がイニシアをとれば、外交力を高めることができる。、

【ウナギ資源の減少 ワシントン条約で規制を-早稲田大客員准教授・真田康弘 静岡新聞2018.01.25】
 【2018/01/11 ニホンウナギは“絶滅危惧種”「知らない」約4割、 “絶滅危惧種”と知った後「食べるのをやめる・減らす」 約2人に1人ーーウナギの消費に関する意識調査を実施 グリーンピース】

【ウナギ資源の減少 ワシントン条約で規制を-早稲田大客員准教授・真田康弘 静岡新聞2018.01.25】

 ウナギを扱う関係者から悲鳴が聞こえる。絶滅危惧種ニホンウナギの稚魚、シラスウナギの漁獲量が国内外で前の漁期の同じころと比べて1%程度と極端に低迷しているからである。
 資源が極めて憂慮すべき状態にあることは以前より問題となり、日中韓3か国と台湾は非公式協議を開き養殖池に入れるシラスウナギの量の上限を定めている。だが、枠が大きすぎて規制の意味を有していない上、近年中国はこの協議にすら出席していない。台湾はシラスウナギの輸出を原則禁止しているが、これが香港へ密輸され日本に流れていることは業界の常識である。密輸や違法採捕には反社会勢力がしばしば関与しているとも指摘される。状況は末期的だとすら言える。

 危機を打開する一策としてワシントン条約による規制を提案したい。日本の業界には「輸出入ができなくなる」と、この条約に拒否反応を示す向きもあるようだが、使い方によっては、この条約はウナギの持続可能な利用をむしろ促進するのである。

 確かに条約の付属書Ⅰに掲載された場合、商業的な輸出入は禁止される。しかし、この条約には付属書Ⅱという別のリストがあり、この場合、輸出国が「輸出しても種の存続には害がない」と示した許可証を発給すれば、国際取引ができる。もちろん違法漁獲ウナギや密輸ウナギではこの証明ができないので、違法取引の抑止に役立つ。
 ワシントン条約では付属書Ⅱに掲載して海産種の持続可能な利用を図ろうとする動きが近年の流れとなっている。一昨年の締約国会議でも、多数の先進国と途上国が共同でサメやエイの掲載を提案、圧倒的多数で採択されている。

 付属書掲載基準の詳細は条約の決議で定められており、海産種についてはこれに基づき条約事務局やFAO(国連食糧農業機関)が助言する。FAOはヨーロッパウナギについて「基準となる量の15~30%まで減少していることが付属書Ⅱ掲載の目安で、ヨーロッパウナギはこの基準を満たしている」と勧告、2007年の締約国会議で付属書Ⅱ掲載が決定した。
 農水省統計によると、日本の内水面での親ウナギの漁獲量は、2016年には1960年代に比べ3%程度にまで落ち込んでいる。15~30%どころではない。確かに漁獲量は資源量を正確には反映はしないが、一昨年の締約国会議では、一部の地域で漁獲量が大幅に落ち込んでいるとしてイトマキエイに対する付属書Ⅱ掲載提案がなされ、FAOも漁獲量の落ち込みを理由に「掲載が妥当」と判断。締約国会議で掲載が決まった。こうしてみるとニホンウナギは少なくとも付属書Ⅱの掲載基準を満たしていると考えられよう。

【日本の内水面における親ウナギの漁獲量。JWCS、「ニホンウナギの生息状況と日本におけるウナギ養殖・販売の現状」、2頁。https://www.jwcs.org/wp-content/uploads/JP_EelsinJapan.pdf】

 象牙の違法取引などで日本は国際社会からワシントン条約の「問題児」と見なされることも少なくない。だがもし、最大の消費国である日本が率先してニホンウナギの付属書Ⅱの掲載を提案すれば、日本のこのイメージは一新されるだろう。そして何より付属書Ⅱへの掲載は、ウナギの違法取引を抑止し、反社会勢力への資金の流れを断ち切る重要な武器となるだろう。ウナギを末長く、持続的に利用するため、今こそ日本のリーダーシップが期待される。

■狭まるウナギ包囲網、「何でも反対」の日本に開けられた「蟻の一穴」

(『WEDGE』2016年12月号、46-48頁)
 9月24日から10月4日まで、南ア・ヨハネスブルグで野生動植物の国際取引等を規制するワシントン条約の第17回締約国会合(COP17)が開かれた。この会合は3年に一度の割合で開催されるが、今回の目玉は、象牙国内市場閉鎖決議などゾウに関係するものと、サメの付属書掲載提案、及びウナギに関する決議案等であった。筆者は2013年にバンコクで開催された前回締約国会合に引き続き、政府とは独立のオブザーバーとして会議の模様を傍聴したが、日本代表団の対応ぶりに当惑を禁じ得なかった。

 今回のCOP17では海産種に関し、サメとエイの一部を付属書Ⅱに掲載する提案が上程された。対して日本(海産種については水産庁主管)は一貫して「海産種は各海域や対象魚種ごとに設けられている地域漁業管理機関で扱うべきで、ワシントン条約での付属書掲載提案に原則全て反対」という方針を取っており 、一人長時間の熱弁を振るい反対討論を行った。「漁業国の力が強く、環境NGOの力が弱い地域漁業管理機関でこの問題を処理したい。ワシントン条約のようなオープンなフォーラムで扱いたくない」というのが本音なのであろう。

 しかし、日本の主張に賛意を表明する国は少数にとどまった。地域漁業管理機関でのサメの管理は十分とは言い難く、管理措置の強化に日本が必ずしも前向きとは言えないことをこの機関に加盟する国々は身をもって知っている。これでは日本の主張に支持が集まるはずがない。これまで海産種の付属書掲載には否定的だった中国すら抑制的な態度をとり、同じく海産種掲載に消極的な韓国は何も発言しなかったことから、日本の強硬論だけが浮き上がり、提案は採択に必要な3分の2を大きく上回る約8割の支持を得て採択された。

 日本の会議での「孤高」とも言える態度はこればかりではない。海産種ではないが、チチカカ湖にしか生息しない絶滅危惧種チチカカミズガエルを付属書Ⅰに掲載して保護してくれと生息国のボリビアとペルーが共同提案した。これに対して日本はただ一国、付属書Ⅰの掲載基準を満たしているのかと反対発言を行った。会場は日本代表団を冷笑するかのような沈黙に包まれ、結局日本がこれを取り下げてコンセンサス採択されたとき、会場の各国代表団及びオブザーバーからひときわ大きな歓声と拍手が沸き起こった。一人ワシントン条約で「悪役」を貫く日本に対する当てつけであることは明白だった。

 そんな日本でもEUから提案されたウナギ調査を求める決議案には賛成せざるを得なかった。ウナギについてはこのCOPで付属書掲載提案が出されるのではと日本のウナギ業界関係者は懸念していたが、結局EUは付属書掲載ではなく、ワシントン条約の下で生息状況や国際取引の現状が十分把握されていないウナギに関して調査を行い、これをもとに次回のCOPでどのような対応を取るべきか討議しようという提案を上程した。これに対して日本は、この問題は地域的な協力の枠組みによって解決されるべきであるとワシントン条約での取引規制に消極的な態度を見せつつも、反対は見送った。「調査にも反対」というのは、さすがにどの国からも支持されないと考えたからであろう。

★叩けばホコリだらけのウナギの漁獲と流通
 日本のこうした資源管理に消極的な姿勢は、ウナギ資源の枯渇を招き、様々な問題を惹き起こしている。 『Wedge』でも報じていたように、ウナギの漁獲や流通は叩けばホコリがいくらでも出ることは、日本の関係者の間では周知の事実である。シラスウナギ(ウナギの稚魚)は台湾が輸出禁止措置を取って以降それまで輸入実績がほとんどない香港からの輸入が激増している。香港経由の密輸であることは明らかである(『Wedge』2015年8月号、2016年8月号)。 10月末に中央大学・日本自然保護協会等の主催で東京で開催されたシンポジウム「うなぎ未来会議」 では、昨年漁期に国内で養殖したウナギの約7割が無報告採捕物または違法取引物と推定されるとの衝撃的な報告も行われた 。

 1955年ころには200トン以上あったシラスウナギの国内採捕量は現在約15トン程度と10分の1以下に激減している(水産庁(2016)「ウナギをめぐる状況と対策について」3頁)。「闇屋が跋扈し、国際的なシラス・ブローカーが暗躍し、暴力団も関与している」とWedge 2015年8月号でも報じられたように、ウナギに関する違法・脱法行為の指摘と黒い噂は絶えず、 事実、今年に入ってからもシラスウナギの密漁もしくは無許可所持で暴力団員が宮崎県と香川県で逮捕される事件が発生している。

 ウナギ資源の減少に対し、国際自然保護連合(IUCN)は絶滅の危機にある世界の野生生物のリスト「レッドリスト」でヨーロッパウナギを2008年に絶滅危惧カテゴリーとして最も上位の絶滅危惧1A類 、ニホンウナギは2014年にこれより1ランク下の絶滅危惧IB類に指定した。あくまでIUCNの「レッドリスト」の分類上の話であるが、ニホンウナギと同様に絶滅危惧1B類に指定されているものとして、シロナガスクジラ、タンチョウヅルやトキなどが挙げられる。

 ワシントン条約でもヨーロッパウナギは付属書Ⅱに掲載されて輸出入規制がかかっており、主たる原産国であるEUは輸出許可を現在発給していない。上記二種以外に関しても、IUCNはアメリカウナギをニホンウナギと同じく絶滅危惧IB類に、東南アジアなどに生息するビカーラ種についても準絶滅危惧種に指定している。ビカーラ種が指定された理由の一つは、他のウナギの乱獲によりこの種を代替品として利用する需要が高まることを懸念していることによる。

 日本も内外の圧力に押される形での対策に迫られている。2012年より政府は関係国と協議を開始し、2014年9月、ニホンウナギの池入れ量を直近の数量から2割削減し、異種ウナギ(ビカーラ種など)については直近3カ年の水準より増やさないとの日本・中国・韓国・台湾共同声明を発表、以後法的拘束力のある枠組みを設立するための非公式協議を行っている。

 しかし、池入れ量の2割削減は科学的根拠に基づいておらず、これによって資源の持続性が担保されるものではない。業界団体「日本鰻輸入組合」主催の会議においてすら、台湾の専門家から「現行の池入れ制限では多すぎる。これではEUは納得しない」と指摘されている。法的拘束力ある枠組に関する交渉も、中国の協議不参加等により一向に進展が見られない。

 こうした手緩い対策に関する関係者の認識は残念ながら不十分と言うほかない。日本鰻輸入組合の代表は「組合として台湾からのシラス輸入防止に向けて何らかの対策をうつつもりはない。香港からの輸入は日本政府も認めている」と主張し(Wedge2016年8月号)、水産庁も「闇流通はシラス高騰につながるものの、資源管理とは別問題。闇流通のシラスも最終的には養殖池に入る」と強調、現行の池入れ量規制でもシラスの過剰採捕を防げると結論づけている(みなと新聞2016年10月17日)。

 主管庁の消極的な対応はとりわけ憂慮すべきであり、これでは「日本の担当官庁は乱獲、違法行為と組織犯罪の横行に対して何ら有効な手を打たず、反社会勢力を助長する結果となっている」との批判すら国際社会から招きかねない。今回のワシントン条約COPでは組織犯罪について今まで以上に厳しい目が向けられるようになっている。ワシントン条約のウナギ決議は、調査を通じて「ウナギの闇」を国際社会に広く知らしめ、ワシントン条約を通じた取引制限につながる「蟻の一穴」となる可能性があるだろう。

 ただ、次回19年のワシントン条約COPまでまだ時間は残されている。有効な対策を何ら打とうとしない主管庁に業を煮やした政治も最近動きがみられる。自民党水産部会等の会合同会議の場で井林辰憲衆院議員は「(取引には)反社会的勢力の介在も指摘されている。警察関係者も招き、話を聞くべきだ」と提案、小林史明衆院議員と中谷元衆院議員もウナギの資源管理を担保する上で流通の透明性が必要と訴えている(みなと新聞2016年10月17日)。

 ウナギの持続的な管理に対する組織面でのキャパシティと意思が十分と言えない主管庁にのみこの問題を委ねるべきではない。組織犯罪という面から警察庁、密輸対策として税関及び海上保安庁、資源管理という面から環境省という「オールジャパン」でこの問題に対処すべきであると言えよう。将来にわたりウナギを食べ続けてゆくためにも、ウナギ資源の危機に関する一般やメディアの関心の高まり、これを背景とした政治からのインプット、行政一丸となった取り組みが今こそ必要とされている。

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