「学校働き方改革」中間まとめ案に~過労死遺族、組合など要望・提言
文科省が2016年10月、11月に実施した教員勤務実態調査の結果は、10年前の2006年調査よりもいっそう時間外勤務が増大し、教職員の働き方がますます深刻な事態となっていることが明らかになった。
教職員の長時間過重労働による多忙化の問題は極めて深刻な状況にあり、教職員の健康問題のみならず、子どもと向き合う時間の確保、「教育の質」を確保し向上させる課題・・・日本社会の未来にかかわる問題として、抜本的な改善がもとめられている。
【過労死遺族らが要望 学校の働き方改革中間まとめ案で 教育新聞 12/4】
【教職員の長時間過密労働の抜本的な解決を求める全教の提言」を発表 全教11/20】
【過労死遺族らが要望 学校の働き方改革中間まとめ案で 教育新聞 12/4】研究者や過労死の遺族などで構成される「教職員の働き方改革推進プロジェクト」の青木純一日本女子体育大学教授らは12月4日、学校における働き方改革に関する中間まとめ案に対する見解を示し、下間康行審議官(初中教育局担当)に提出した。同見解では、中間まとめ案に一定の評価をしつつ、実効性のある取り組みを具体化するよう求めた。
特に、①国から学校現場に求められるさまざまな業務の廃止・統合・簡素化②教員の職務範囲を明確化する教員職務標準表に基づいた業務改善③中学・高校の部活動における休養日の設定と総量時間規制の導入④学校徴収金の公会計化の推進⑤教員定数の配置改善⑥外部専門スタッフの配置に向けた財政支援⑦統合型校務支援システムの全国的な整備への財政支援――などを、重要課題に挙げた。
また、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)が、教員の公務災害認定において高い障壁となっていると指摘し、中教審の議論で今後の検討課題とされた同法の抜本的見直しを求めた。
同プロジェクトには、内田良名古屋大学准教授、広田照幸日本大学教授、本田由紀東京大学教授、油布佐和子早稲田大学教授ら研究者をはじめ、教育評論家の尾木直樹氏、ジャーナリストの白河桃子氏、過労死の遺族などが呼び掛け人になっている。同見解の内容は次の通り。
「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」(中間まとめ)」【案】に対する見解
2017年12月4日
教職員の働き方改革推進プロジェクト呼びかけ人一同本年11月29日、中央教育審議会の「学校における働き方改革特別部会」において示された標記の中間まとめ(案)に対する私たち教職員の働き方改革推進プロジェクト呼びかけ人一同の見解を明らかにする。
文科省の教員勤務実態調査やOECDの国際教員指導環境調査(TALIS)などの各種調査でも明らかにされているように、我が国の学校教員の長時間過重労働による多忙化の問題は極めて深刻な状況にあり、教員の勤務実態の抜本的改善は直ちに取り組まなければならない喫緊の課題である。このような課題意識に立って、中教審・学校における働き方改革特別部会は、長時間勤務の是正など持続可能な教師の勤務環境の整備に向けて、緊急に講ずべき総合的な方策をとりまとめたことは一定の評価ができるものである。
しかしながら、問題は、今回の中間まとめが、教員の長時間労働を縮減するとともに、教員が学習指導や生徒指導などの本来的な業務に専念できる環境を確実に整備するための実効性ある取り組みとして具体化されるかどうかにかかっていることである。
とりわけ、①「教育改革」の名の下に、国から学校現場に押し付けられている多岐にわたる計画の作成業務をはじめ様々な業務を真剣に見直し、廃止・統合・簡素化などの措置を講ずることにより、学校と教員の業務負担の改善を図ること、②教員の業務範囲を明確化する教員職務標準表の作成とそれに基づく業務改善を進めること、③中学校・高校における多忙化の最大原因である行き過ぎた部活動指導の在り方の改善を図るため、週2日の休養日及び総量時間規制を設定すること、④学校徴収金の徴収・管理業務の「公会計化」の推進など、事務的業務からの解放などを強力に進めることが必須である。
また、教員の長時間労働の縮減のためには、必要な財政措置を講じ、教育条件整備を進めることが何よりも求められており、⑤教員の担当授業時数の削減や生徒指導担当教員の充実に向けた教員定数の配置改善、⑥部活動指導員をはじめ外部専門スタッフを地域格差なく配置するための財政支援、⑦教員の出退勤時間管理のためのタイムカードの設置や教務事務等の効率的な処理を可能とする「統合型校務支援システム」の全国的な整備への財政支援などは、待ったなしの最重要課題であることを訴えたい。
最後に、今回の中間まとめでは、「教員の自発性、創造性に基づく勤務」として事実上無定量の長時間勤務を容認している「給特法」が何ら時間外勤務の歯止め措置になっていない実態を踏まえた議論がなされず、今後の検討課題とされたことは遺憾である。「給特法」が、教員の公務災害認定において高い障壁になっていることを中教審委員、文科省は直視すべきである。
今後、特別部会において「給特法」の在り方を議論するに当たっては、教員の時間外勤務の業務範囲を明確化するなど「超勤限定4項目」を見直し、時間外勤務についての36協定締結権の付与や協定に基づく時間外勤務の上限規制の設定などの抜本的な見直しに向けて、労働法学の専門家の知見を有効に活用しつつ、教員の長時間労働縮減のための実効性ある法制度の構築を検討することを切に要請するものである。
【教職員の長時間過密労働の抜本的な解決を求める全教の提言」を発表 全教11/20】
(「提言」そのものは、全教のホームページより)全教は、11月20日、「教職員の長時間過密労働の抜本的な解決を求める全教の提言」をまとめ、記者発表をしました。教職員の長時間過密労働の抜本的な解決の方向及び、文科省に対する基本要求を示し、国民的な議論を呼びかけるものです。長時間過密労働の実態、問題の背景・原因とともに、教職員の声を広く社会にアピールしていきます。
文科省が2016年10月、11月に実施した教員勤務実態調査の結果は、10年前の2006年調査よりもいっそう時間外勤務が増大し、教職員の働き方がますます深刻な事態となっていることを明らかにしました。
労働基準法は、第32条で労働時間について、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き、一週間について40時間を超えて、労働させてはならない」としています。教員の時間外勤務は「原則として命じられない」としている「給特法」も、当然のことながら労働基準法の労働時間の原則に則っています。8時間働けばまともに暮らせることが原則です。現在の状況は、ここから大きく逸脱した違法な状態であると言えます。
この問題は、教職員の健康問題のみならず、子どもと向き合う時間の確保とあわせて、「教育の質」を確保し向上させる課題としてとらえる必要があります。日本政府も採択しているILO/UNESCO「教員の地位に関する勧告」でも「教員の労働条件は、効果的な学習を最もよく促進し、教員がその職業的任務に専念できるものでなければならない」(8項)と指摘されているところです。
深刻さを増す長時間過密労働の背景には、安倍「教育再生」のもとですすむ、学力テスト体制による過度な競争主義や、教職員評価や教員免許更新制など管理と統制を強化する教育政策があります。教職員のいのちと健康を守り、長時間過密労働の解消をすすめるためには、教育条件整備も含めて、抜本的に教育政策を転換することが求められています。
全教は、教職員の長時間過密労働の解消を求めて、全教提言を発表し国民的な議論を呼びかけるとともに、解消に向けた要求運動を強めていきます。
【全教提言の概要】
はじめに
1.教職員の「働き方」「働かされ方」の実態
(1)文科省「実態調査」が明らかにしたもの
(2)教職員の長時間過密労働の実態とその影響
2.わたしたちのとりくみの到達点と文科省がすすめる「働き方改革」の問題点
3.深刻さを増す長時間過密労働の原因
4.教職員の長時間過密労働の解決の方向
(1)教職員の定数改善を抜本的におこなうことを柱に据えた政策を真正面から打ち出すこと
(2)文科省は、教職員の長時間過密労働の実態を労働基準法や労働安全衛生法、給特法に沿って解決すること *給特法の改正(全教討議資料「給特法改正をめざす運動をすすめよう-教職員の恒常的な長時間過密労働を是正させるために」(2011年5月)
(3)過度な競争主義、管理と統制の教育政策を抜本的に転換すること
5.教職員の長時間過密労働の抜本的な解消に向けた全教の基本要求
(1)教職員定数を抜本的に改善すること
①少人数学級を小学校から高校まで実現すること
②教員一人の持ち授業時間数に上限を設定すること
(2)授業準備にかかる時間を勤務時間内に確保すること
(3)競争主義的な教育政策を抜本的に転換すること
(4)教員の専門性を尊重しない教育行政の姿勢を改めること
(5)成績主義の持ち込みや拡大をやめ、教職員にチームワークをいっそう高めるにふさわしい施策の検討、対応をすること
(6)給特法を改正すること
(7)労基法、労安法にもとづく教職員のいのちと健康を守るための責任ある環境整備をおこなうこと
(8)部活動問題について、勝利至上主義を改めるための有効な施策を打ち出すなど抜本的な見直しをおこなうこと
(9)教職員組合と誠実な協議・意見交換をおこなうこと
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