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ころころ変わる安陪政権のスローガン~実態隠す、目くらまし

実質成長率は1・3%。しかし、世界同時不況前の00~07年度は平均1・4%、旧民主党政権期は東日本大震災があったが平均1・8%・・・こうした惨憺たる実態なのに、「もはやデフレとは言えない」とか何か経済がなんとかなっているように印象を与えている。
その検証ができないままに、次々と新しいスローガンを出して、実態を覆い隠すことではないか。
【あのスローガン、どうなった? 「デフレ脱却」「女性活躍」から「東京大改革」「リセット」まで 毎日特集ワイド 10/5】

【あのスローガン、どうなった? 「デフレ脱却」「女性活躍」から「東京大改革」「リセット」まで 毎日特集ワイド 10/5】

「人づくり革命」や「生産性革命」を問うため、衆院は「国難突破解散」となり、総選挙が行われる。振り返れば安倍晋三政権、そんなスローガンを次々と掲げてきた。10日の公示前に思い出しておきたい。他党も含め、スローガンの行方はどうなったのか。【吉井理記】

◆派手な言葉に踊らされるな

 安倍首相は覚えているだろうか。政権に返り咲いて初の所信表明演説(2013年1月28日)のことだ。

 この時、安倍首相はデフレ下の日本経済や東日本大震災、学力低下などを「危機」と表現。「国民とともに危機突破にまい進する」と述べ、新政権を「危機突破内閣」と名付けた。それから4年8カ月。自身の政権下で、この国は「危機」どころか「国難」に至ったことになる。

 「そもそも選挙で国難が突破できる、という論理が理解できません。整合性のない言葉は、その都度きちんと検証しないと言葉を繰り出す側の思惑にのせられる。スローガンも同様です」と近現代史研究家の辻田真佐憲さんが指摘すれば、永田町取材歴30年のジャーナリスト、鈴木哲夫さんも「安倍政権は結果を十分には検証せず、政策を次々に塗り替える『上書き政権』ではないか」と厳しい。

 確かに政権発足間もない13年には「アベノミクス三本の矢によるデフレ脱却」を大々的に掲げたほか、「女性活躍」が登場した。14年には「地方創生」、15年には「1億総活躍」といった言葉が表れ、今年は「人づくり革命」「生産性革命」が加わった。その中身を吟味したい。

 まず、安倍政権が掲げてきた「デフレ脱却」である。

 古都・京都に同志社大教授の服部茂幸さん(理論経済学)を訪ねた。まだアベノミクスという言葉が飛び交っていた14年に「アベノミクスの終焉(しゅうえん)」という挑戦的な題名の本で「アベノミクスではデフレ脱却は不可能だ」と断じ、波紋を広げた。

 それから3年である。「不幸にして見通しは当たってしまいました。アベノミクスの公約とも言える『物価上昇率2%と実質経済成長率2%の達成』は遠く、すでに6度も達成目標の時期を先送りしました。『デフレ脱却』は失敗したと言わざるを得ません」

 事実、16年度の物価上昇率は0・2%のマイナス(生鮮食品を除く総合)で、これではデフレである。実質成長率は1・3%で一見喜ばしいが、「これではアベノミクス前と大きくは変わらない。例えば、世界同時不況前の00~07年度は平均1・4%だし、旧民主党政権期は東日本大震災がありましたが、平均1・8%でした」。

 「デフレ脱却」がダメでも、安倍首相が就業者の増加や有効求人倍率のアップといったデータを基に語る「経済の好循環の実現」「内需主導の力強い経済成長」(9月25日の記者会見など)といった言葉は信じたいが、服部さんは「輸出も生産も増えず、家計の消費支出もマイナス続きです。実質賃金も伸びていない。なのに雇用だけが改善し『経済の好循環』を生むなんてことは、論理的に考えてもあり得ません」。

 総務省の「労働力調査」によると、安倍首相の言う通り、就業者は12年の6280万人から16年は6465万人に増えた。景気が良くなり仕事が増えたように見えるが、就業者全体の働く時間(延べ週間就業時間)は、週あたり24・5億時間から24・2億時間に減少しているのだ。

 「就業者の増加は事実ですが、短時間就業者が増えただけで、雇用は全体として減少しているんです」と服部さん。有効求人倍率のアップも、少子高齢化などで働き手が減り、09年度を底に一貫して上がり続けているから、アベノミクスの成果とは必ずしも言えない。

 「成長率を高めるには、生産性(いかに効率良く価値を生み出すか)のアップが欠かせません。安倍首相が解散表明時に触れた『生産性革命』の考えは間違いではない。でも、言えば実現するものではない。これこそ単なるスローガンです」

 大学などの高等教育無償化など、教育環境の充実を掲げた「人づくり革命」にも疑問がある。国立大学への国の支援(運営費交付金)は安倍政権下でも減額傾向にある。

 前出の鈴木さんが嘆息する。「安倍首相の掲げるスローガンは、選挙前に掛け替えるケースが多い。『女性活躍』は13年の参院選前に登場し、14年の『地方創生』は15年の統一地方選に備えたものですが、果たしてどれだけ実現したか」

 鈴木さんは「同じ船で、船長も積み荷も同じなのに、船名だけが違っている」と表現した。「『女性活躍』も『地方創生』も『1億総活躍』も、スローガンは違っても、介護離職や育児負担を減らし、都市でも地方でも、女性を含めて働く人を増やし、高い成長率を実現する、との手法や目標はほぼ一緒です」

 実際、安倍首相はこんなことを言っている。昨年9月28日の参院本会議では「女性活躍」について「1億総活躍を目指す上での中核だ」と述べたかと思えば、「人づくり革命」は「1億総活躍社会を作りあげる上での本丸だ」(今年9月11日、首相官邸での会合)と表現したのだ。首相自身、政策に違いを感じているのかどうか。

 「政権の座をうかがう小池百合子東京都知事の『希望の党』にも疑念はあります。小池知事が都政で掲げた『東京大改革』や、国政で掲げる『日本をリセットする』といったスローガンは、言葉としては分かりやすいが、何をするかが見えにくい。築地市場の移転問題でも『豊洲新市場の無害化』といった当初方針を見直した過去もあり、不信感を抱く有権者もいるでしょう」

 改革の「一丁目一番地」と位置づけた情報公開の姿勢にも疑問符がつく。8月には市場移転を巡り、小池知事がどう判断したか、過程を文書に残していないことが発覚したばかりだ。

 もっとも、分裂した民進党にだって、スネに傷がある。旧民主党政権時代、沖縄・普天間飛行場の移設を巡る「最低でも県外」、群馬・八ッ場ダムの工事中止をうたった「コンクリートから人へ」といったスローガンが実現できなかったのは記憶に新しいだろう。

 結局、スローガンとは何か? 前出の近現代史研究家、辻田さんがまとめた。

 「私たちは長い文章は覚えられなくても、インパクトのある単語は覚えられるんです。長ったらしい政策の説明は有権者に残らない。だから政治家はスローガンをうまく使おうとする。中身があるか、結果が伴っているか。スローガンにのせられたら、きちんとした判断ができません。最近は政府に批判的なメディアを批判的に見る風潮が一部でありますが、メディアが地道に検証し、批判していくしかありません」

 「スローガンを叫ぶだけでは世の中は変わらない」(1月20日、参院本会議)とは安倍首相自身の言葉である。派手な言葉に踊らされないよう、心したい。

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