原子力損害賠償の「過去分」を託送料金で回収する6つの過ち ISEP
環境エネルギー政策研究所研究所(ISEP)は、パブリックコメント「電気事業法施行規則」等の一部改正に対する意見の募集に対して、6つの過ちとの意見を提出している。
【意見の要旨】
①「過去分の請求」は「後出しジャンケン」であり非常識である。
②託送料金による回収は料金制度および会計原則を歪める
③国民の損害賠償や廃炉等の費用負担をなし崩し的に拡大させる「アリの一穴」となる
④経済産業省は託送料金を「都合の良い特定財源」として濫用している
⑤そもそも論に立ち返り、責任者が相応の責任を負い、国民負担の最小化の上で再出発することが必要である
⑥原発の発電コストは高いと認めるべき
【意見】1.「過去分の請求」は「後出しジャンケン」であり非常識である。
まず、「『過去分』に支払ったが、請求漏れがあり何年も後に請求する」、「支払った人から回収するのが現実的ではないため、電力消費者全体で支払う」という考え方は、資本主義や市場の原則に反する「後出しジャンケン」であり非常識である。しかも、「過去分」は比較的長期(委員会案では約40年間)に渡って託送料金から回収するとされているため、将来的には原子力発電で発電された電気を使用していない世帯に対して、使用してもいない料金が請求されることとなる。またこの省令改正直後においても、沖縄電力管内在住者であって2011年の原子力損害賠償機構法成立以降に他の電力会社へ転居した者、原子力損害賠償機構法成立以降に誕生した子供、原子力損害賠償機構法成立以降に来日した外国人なども、原子力発電の恩恵に預かっていないにも関わらず支払いの責務を負うこととなり、これも資本主義や市場の原則から大きく逸脱することとなる。よって今回の改正そのものを認めてはならない。
2.託送料金による回収は料金制度および会計原則を歪める
託送料金とは送配電事業に関連する費用を回収する制度である。今回提案されている「過去分」は「発電分野の費用の過去分」であり、「賠償負担金」と称して託送料金で回収することは、料金制度および会計原則を歪めるものである。今回の「過去分」についても原発の発電コストであるため、原子力発電事業者が発電コストとして負担すべきである。仮に今回の「過去分」が託送料金による回収となれば、それは原子力発電事業者に対する新たな支援策であって、特定の発電事業者の利益となることは明白である。それは、電力自由化や電力システム改革の本旨から大きく外れるものとなりかねない。
3.国民の損害賠償や廃炉等の費用負担をなし崩し的に拡大させる「アリの一穴」となる
「過去分」についての議論は今回が最初ではなく、使用済燃料再処理等既発電費用に続いて2回目である。使用済燃料再処理等既発電費用の議論の際に託送料金で回収することが案として出され、PPS側から反発があり「今回の小委員会で最後」にすると言う話で結審した[6]。しかし、今回の「過去分」に関しても貫徹小委員会では「今回限り」「例外的措置」という発言があった[7]。しかしながら、特定の電源を扱う特定の発電事業者の利害に関わる費用を、送配電事業のための公共性の高い託送料金で扱うべきではない。「使用済燃料再処理等既発電費用の先例」に重ねて、ふたたび今回も託送料金を都合良く使うならば、原子力損害賠償等の原子力事業に係る費用負担をなし崩し的に拡大させる「アリの一穴」となる。
4.経済産業省は託送料金を「都合の良い特定財源」として濫用している
加えて、家庭部門の託送料金は、消費者委員会の「電力託送料金に関する調査会報告書」[6]にあるように、3〜4割と国際的にも極めて高い水準で維持している。そうした指摘がある中で、この「過去分」を託送料金で回収することを決定しようとしている。すでに託送料金原価に参入されている使用済燃料再処理等既発電費用、電源開発促進税等でさえ、消費者委員会の報告書では透明性の確保と消費者への周知を徹底するように指摘されているが、それ以上の問題点は、明らかに経済産業省は、国会審議を避けることができる託送料金を「都合の良い特定財源」として濫用していることである。
もし仮に止むを得ず「過去分」なる考え方を認めざるを得ないとしても、税負担等による託送料金以外の手段を再度検討すべきである。今回の「過去分」の託送料金回収には今回のように省令改正のみで原価参入が可能であり、透明性の確保と費用増大の回避に大きな問題がある。他方で税方式の場合は、国の予算措置であるため少なくとも国会での審議が必要であり、国民の目に晒されるとなる。今回の「過去分」が託送料金回収という手段であるとすれば、透明性の確保の問題以外にも、国会審議の必要のない省令改正という安易で都合のいい徴収方法を採用したいとの意図があると見ざるを得ない。今回の託送料金による回収が、透明性も消費者への周知も国会のチェックもない「見えない税金」に他ならない。
5.そもそも論に立ち返り、責任者が相応の責任を負い、国民負担の最小化の上で再出発することが必要である
そもそも問題の原点は、本来、破たんさせるべきであった東京電力の破たんを回避した2011年に遡る。これは、当時の民主党政権による歴史的な過誤であるとはいえ、国家的な未曾有の危機の大混乱の中で、松永和夫経産省事務次官(当時)と勝俣恒久東京電力会長(当時)が東電破たん回避の「密約」を交わし、しかも国家的な未曾有の危機の最中でありながら菅直人政権(当時)が退陣に詰め寄られていたという状況の中では、当時の「誤った判断」は1万歩譲って目をつぶらざるを得ないかもしれない。
しかし、現在は違う。東京電力を破たんさせても、停電がおきることはなく、東京電力福島第一原発事故の処理を進める体制も維持することは問題なくできる。むしろ、この「過去の過ち」を固着し拡大することで、福島第一原発事故の処理はますます見通しが立たたない上に、日本の電力市場の方も現状の「東京電力」という歪んだ存在によって、未来永劫、歪んだままとなることは避けられない。東京電力は、本来、電力自由化市場でフェアに競争すべきだが、実態は国の資金(交付国債等)という「生命維持装置」を付けられており、けっして倒産せず、国も今の構造のままでは東京電力を破たんさせることもできない。このままでは、今後、事故処理や損害賠償費用などがいくら膨れあがっても、交付国債や託送料金でそれを充当することができるため、今の構図のままでは、今後、過去の過ちが未来に向けてますます大きな歪みとなることは避けられない。
あらためて、そもそも論に立ち返って再出発することが必要である。東京電力を破たんさせ同社の持つ資産を民間もしくは国に売却するとともに、東電の危機の渦中に巨額の融資をした銀行団にも債券放棄をさせることで、損害賠償に充てる費用を最大限に捻出することにより、国民負担の最小化を行う。それでもなお不足する費用は、国=国民が負担することになるが、それは税で行うことが望ましい。
6.原発の発電コストは高いと認めるべき
これまで、「原発は安い」と喧伝されてきた。しかしながら、一度起きれば事故処理費用と除染費用、賠償費用が発生するとともに、社会的コストも見過ごすことができないほどのものとなる。さらに今回の「過去分」のように、本来必要だった費用が後から生じるという事態も横行している。福島第一原発の事故処理費用と除染費用、賠償費用の総額に関しても、政府試算では21.5兆円と言われているが、日本経済研究センターのレポート[8]では50〜70兆円と試算されている。政府試算においても「蓋然性のある費用」として算出した金額が21.5兆円なのであって、原発の事故処理関連費用の上振れは避けられない。事故処理関連費用が上振れした場合、今回のようにまた新たな制度的な担保が検討される可能性があり、こうしたことは認められるべきではない。
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