子ども医療費助成 「安易な受診」「医療費膨張」は起きていない
保団連が日経8月1日付「子供医療費 過剰な競争 安易な受診を助長」の記事について「あまりにも事実とかけ離れた記述で、誤った認識を流布するものとして危惧を抱くものです。つきましては、事実に基づいて報道されることを求めると共に、ぜひご懇談を要望するものです。」と見解を求めている。
どこかの勢力の意向を忖度したものなのだろうが、お粗末すぎる記事の内容。が、ウソを放置していては定着してしまう。保団連のタイムリーな行動である。
【要望 事実に基づいて執筆を―日本経済新聞8月1日付3面「子供医療費 過剰な競争 安易な受診を助長」の記事への意見と要望― 保団連8/9】
【要望 事実に基づいて執筆を―日本経済新聞8月1日付3面「子供医療費 過剰な競争 安易な受診を助長」の記事への意見と要望― 保団連8/9】2017年8月9日 全国保険医団体連合会 会長 住江 憲勇
日夜、報道の重責を担われていますことに敬意を表します。
私ども全国保険医団体連合会は、医科・歯科保険医10万5,000人の団体です。
さて、日本経済新聞8月1日付3面に「子供医療費 過剰な競争 安易な受診を助長」との記事が掲載されました。厚労省が7月7日に「乳幼児に係る医療費の援助についての調査結果(2016年4月1日現在)」が公表されたことを受けてのものだと思われますが、あまりにも事実とかけ離れた記述で、誤った認識を流布するものとして危惧を抱くものです。つきましては、事実に基づいて報道されることを求めると共に、ぜひご懇談を要望するものです。以下、記事の誤りについて指摘させていただきます。
1.子ども医療費助成によって、「安易な受診」は増えていないし、「医療費膨張」は起きていない記事全体として、子ども医療費助成が増えることで「安易な受診を増やし医療費膨張につながる副作用は深刻だ」とあります。
事実として、「安易な受診」は増えていませんし、「医療費膨脹」は起きていません。
ここでは、窓口負担無料化を行っている自治体の具体的な事例をあげて指摘します。
① 群馬県は、15歳まで所得制限無しで外来・入院の窓口負担を無料化していますが、
2012年の県議会で国保援護課長は、「救急医療への過度な依存や時間外診療の増加が懸念されたが、国保診療分の時間外受診件数を検証したところ、拡大前の92.7%となり減少」と答弁しています。
② 2012年10月から18歳までの窓口負担無料化を実施した福島県の国保データをみると、医科・歯科とも無料化後、18歳未満の被保険者1人当たりの医療費は横ばいです(2016年5月26日の社会保障審議会医療保険部会)。
③ 岐阜県大垣市は、18歳まで窓口負担無料化を実施していますが、経年的に見ても子ども医療費の自治体の支出(扶助費)は、導入前の2011年度の約7.9億円から導入後の2012年度は約8.7億円(110%増)となっています。しかし、これは、対象人数の伸び(2万2,818人から2万6,875人(117%増))よりも低くなっています。さらに2015年度は約8.6億円ですので、どう見ても医療費膨張は起きていません。ちなみにこの8.6億円という数字は大垣市の予算総額の1.5%(一般財源でも1.4%)にすぎず、とても「財政が圧迫する」数字ではありません。
上記以外でも、現在は多くの自治体の実績から「医療費膨張」が起きていないのは明らかになっていますし、自治体関係者も認めているところです。
記事では、ある「都内の小児科医」の指摘のみで「安易な受診」を印象づけているだけです。
2.むしろ、医療費助成があるために多くの命と健康がすくわれるという認識をそもそも窓口負担があることによって、経済的理由で必要な医療が受けられない子どもたちがいるという事実から出発すべきです。
沖縄県が実施した「沖縄子ども調査」(2015年10月~11月実施)では、各年齢層で1割強が「過去1年で子ども受診させなかった経験がある」と回答しています。
沖縄県の助成制度は「償還払い」のため、窓口負担が発生します(外来は4歳未満<市町村によって対象年齢の引き上げあり>、入院は15歳年度末が対象)。そのため、未受診の理由について、全体の16%が「自己負担金が払えなかったため」と回答しています(調査対象は中学2年生)。
この「償還払い」で窓口負担が発生するために、子どもが受診を抑制した事例は、「東京新聞」(7月17日付)や「読売新聞」(2月23日付)でも取り上げられているところです。
窓口負担無料化で、成長期にある子どもの病気を早期に発見し、早期に治療すること、そして治療の継続を確保することは、子どもの心身の健全な発達にとって必要不可欠であることをご理解頂きたいと思います。
3.子ども医療費助成の拡大で国や医療保険財政は圧迫しない記事では、「自己負担分を自治体が補助しても、医療費の残りの7~8割は、国の税金や企業の健康保険組合などの保険料で賄う。過剰な受診が増えれば、国や健保財政の圧迫する」とあり、子ども医療費助成が国の財政や医療保険財政が圧迫するかのように書いています。
そもそも保険料は、多くの国民が払っています。企業の健保組合が主に負担しているような印象を与える書きぶりはかなり意図的です。自己負担分を「自治体が補助」している財源は、「地方の財源」からなので、国の財政や医療保険財政が圧迫することはありません(4を参照)。そもそも、1で触れたように「過剰な受診が増えて」いないので圧迫することはありません。
4.制度のしくみへの正確な理解と事実に基づく執筆を記事では、「自治体の医療費補助が財政を圧迫する」と図までつけて強調しています。
これも事実とかけ離れています。
① 「支出増で自治体の財政苦しく」とありますが、1で触れたように、助成水準が高い大垣市でさえ、市の一般財源の1.4%に過ぎません。都道府県レベルでも、一般財源(2015年の標準財政規模)の子ども医療費助成の占める割合は、群馬県でさえ、0.9%にすぎません。少なくとも、子ども医療費助成で「自治体の財政が苦しく」なることはありません。
② 1でふれたように「医療費膨張が起きない」ので、少なくとも、子ども医療費助成で医療保険財政が圧迫することもありません。
③ 記事では「財源なき優遇に限界」という中見出しで、なぜか地方交付税制度と赤字国債のことを持ち出しています。そもそも、交付税算定にあたって、子ども医療費助成の必要額は基準財政需要額に入っていません。ですから、地方交付税と子ども医療費助成には直接の関係はありません。たぶん、地方交付税という「一般財源」からも、子ども医療費助成が充てられているといいたいのでしょうが、①で触れたように、一般財源の1%前後に過ぎない子ども医療費助成で、国の財政が圧迫することは考えにくいことです
④ 最後に地方交付税制度への無理解があることにも触れておきます。そもそも、地方交付税は、基準財政需要額から基準財政収入額を引いた額が交付額となります。「予算の不足分を国に請求書を回」すような制度ではありません。さらに、地方交付税の原資は、所得税・法人税、酒税、消費税の一定割合、地方法人税の全額です(地方交付税法第6条)。これらの財源は「地方固有の財源」されています。上記が原資である以上、「赤字国債」で「穴埋めする」ことはありません。
きちんと制度を理解した上で記事を執筆することを強く願うものです。
最後のさらにひと言、申し上げます。社会保障の本質とは何でしょうか。
この間、とりわけ、安倍政権下での労働分配率低下の厳しさについては、種々の労働統計、企業の収益統計をみても衆目の一致するところです。この結果が、今の貧困と格差拡大をもたらしています。この貧困と格差を徹底的に是正するのが、所得再分配としての社会保障制度です。
したがって、自ずとこの社会保障費用がいかほど必要とするかの結果はでてくるものです。以上
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