亡国の漁業権開放論 資源や地域崩壊招く、主権脅かす
鈴木宣弘・東京大学大学院教授の論稿。
漁業権開放論・・目先の自己利益の最大化を目指して行動し資源が枯渇する懸念、実質は外国の資本が日本の沿岸とその水産資源を支配下におく懸念
日本の国境線を支える沿岸、離島での家族経営の農業、漁業は、安全保障上、「戦略的支援を強化するのか本来」だと、指摘している。
【亡国の漁業権開放論 資源や地域崩壊招く 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏 農業新聞8/29】
【亡国の漁業権開放論 資源や地域崩壊招く 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏 農業新聞8/29】幼少期から、そこに浜があり、アコヤ貝の貝掃除、ノリの摘み取りなどを手伝い、毎日浜で暮らしてきた一人として漁業権開放論には強い違和感を抱く。
まず、「規制撤廃して個々が勝手に自己利益を追求すれば、結果的に社会全体の利益が最大化される」という論理の漁場への適用は論外である。個々が目先の自己利益の最大化を目指して行動すると資源が枯渇して共倒れするというのが「コモンズ(共有牧場や漁場)の悲劇」。「コモンズの共同管理をやめろ」というのは根本的な間違いだ。
総量規制すれば資源管理はできるというのも空論だ。行政府が漁場ごとの再生産能力を把握した上限値を正確に計算するのは困難で、その割り当て・監視の行政コストも莫大(ばくだい)だ。
漁協に集まって、毎年の計画を話し合い、公平に調整し、年度途中でも情勢変化に対応してファインチューニング(微調整)し、浜掃除の出合いも平等にこなすといった資源とコミュニティーの持続を保つ、きめ細かな共生システムが絶妙なバランスの上に出来上がっている。そこに漁協と別の主体にも漁業権が免許されたら、漁場の資源管理が混乱に陥ることは水産特区で経験済みだ。
かつ、割り当てた漁業権を入札で譲渡可能にすべきだというが、そうなれば、資金力のある企業が地域の漁業権を買い占めかねない。浜は既存の非効率な漁家の既得権益でなく、みんなのものだから、効率的な企業にも平等にアクセスできるようにしろといって、結局、そう主張した企業が買い占めて既得権益化する(浜のプライベートビーチ化)という詐欺的ストーリーが見えている。海と隣接した集落で長年なりわいを営んできた多くの家族経営漁家を追い出し、地域コミュニティーを崩壊させる権利が誰にあるのか。
さらには、漁業自体は赤字でも漁業権を取得することで日本の沿岸部を制御下に置くことを国家戦略とする国の意思が働けば、表向きは日本人が代表者になっていても、実質は外国の資本が日本の沿岸とその水産資源と海を、経済的な短期の採算ベースには乗らなくとも、買い占めていくことも起こり得る。海岸線のリゾートホテル・マンションなどの所有でも同様の事態が進みつつある。こうした事態の進行は、日本が実質的に日本でなくなり、植民地化することを意味する。
そうした事態を回避するために、欧州諸国は国境線の山間部に多数の農家が持続できるように所得のほぼ100%を税金で賄って支えている。彼らにとって農業振興は最大の安全保障政策である。日本にとっての国境線は海である。沿岸線の海を守るには自国の多数の家族経営漁家の持続に戦略的支援を強化するのが本来なのに、企業参入が重要として、結果的には日本の主権が脅かされていく危機に気付いてないとは、何と愚かなことか。
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