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「若者支援政策の拡充」で提言  学術会議

提言作成の背景説明で“若者の貧困、教育機会・労働市場・社会保障からの排除、離家や家族形成の自由の阻害、地域間の分断など、様々な面で厳しい状況に置かれている。政策や制度の不備、特に日本社会に強固に存在する自己責任論・家族責任論が若者支援政策の拡充を阻害してきたとし、少子高齢化が進む中、支援策の充実は、若者自身にとってのみならず、社会の維持存続にとっても喫緊の課題となっている。”と述べ、(1)セーフティネット、(2)教育・人材育成、(3)雇用・労働、(4)ジェンダー、(5)地域・地方、という5つの軸を設定し、“具体的な諸施策を洗い出し、提起”している。
【若者支援政策の拡充に向けて 提言 2017/7/4】

【若者支援政策の拡充に向けて 提言 2017/7/4】

日本学術会議 社会学委員会 社会変動と若者問題分科会

1はじめに―提言の背景と基本的な考え方―

日本学術会議社会学委員会社会変動と若者問題分科会はこれまで、若者の現状に関して様々な角度から検討を加え、公開シンポジウムや書籍の刊行を通じて問題提起を行ってきた。23期においては、特に若者の生活保障と地域移動・地域間格差に関して、有識者ヒアリング及び公開シンポジウムを通じて検討を深めた。そうした検討と議論の中から、日本における若者支援政策の問題点が明らかになってきたことから、主に政府・地方自治体に対して早急な改善を促すことを目的として、本提言を取りまとめた。

(1)「若者」の定義と現状

「若者」の年齢の定義は、政府諸機関の間でも異なり、また1つの政府機関の内部でも施策によって異なっている。たとえば、主に内閣府が施策を担当する「子ども・若者育成支援推進法」についての内閣府説明資料における「若者」の年齢層は30代までとされているのに対し、厚生労働省が全国に設置している「わかものハローワーク」「わかもの支援コーナー」「わかもの支援窓口」の対象年齢層は「おおむね45歳未満」とされている。他方で、同じ厚生労働省が認定する「若者応援宣言企業」は、「一定の労務管理の体制が整備されており、若者(35歳未満)を採用・育成するために求人の申込み又は募集を行っており、通常の求人情報よりも詳細な企業情報・採用情報を公表する中小企業」と定義されている。本提言における「若者」は、上記の「子ども・若者育成支援推進法」の運用例に準じ、おおむね15歳以上40歳未満の年齢層を念頭に置いている。かつては「若者」と言えばおよそ15~24歳の年齢層とされていた時期もあったが、1990年代以降の社会変化の中で困難な状況に遭遇した若年世代の加齢に伴い、政策的な「若者」の定義はより年長者をも含む方向で拡張されてきた。すなわち、現在の「若者」問題は、いわゆる青少年だけでなく、子育て世代までをも含む幅広い年齢層を視野に入れて把握せざるをえなくなっている。

1990年代初頭のバブル経済崩壊を契機として経済の低迷が続く中で、若者世代の就労や生活には様々な問題が生じてきた。就職氷河期・超氷河期に遭遇し、「失われた世代」と呼ばれた世代、あるいはリーマンショックにより「内定切り」「派遣切り」などの対象となった世代の中には、各時期の労働需要の低下により不安定就労に従事する層が、かつてなく高い割合で含まれている(図1)。

2010年代に入ると団塊世代の定年退職により労働力需要にはやや回復が見られるが、長時間労働などを含め若者の状況が明確に好転しているとは言えない事態はいまだ継続している。

若者が置かれている厳しい状況は、単に経済情勢や労働市場状況のみならず、様々な政策や制度の不備にも起因している。適切な政策的・制度的支援が講じられれば、彼ら自身の多様で自由な選択により、十全に自らの可能性を実現しえていたはずの若者が、そうした支援が欠落していることから窮状の中に放置されているのである。

若者に対する政策や制度が不備であった原因としてこれまで指摘されてきたのは、①1980年代までの若者は新規学卒一括採用や正社員の長期雇用慣行などにより中高年層に比べて有利であるとみなされてきたこと、②90年代以降の大きな社会変化に対して政策面での転換や対応が遅れたこと、③日本では特に高度成長期・安定成長期において自助努力を重視する自己責任論・家族責任論が強固となり、若者に支援など必要ないとする意見もいまなお根強いことなどである[2]。しかし、少子高齢化が進行する中で、若者が多様で自由な選択を通じて活力を発揮できる社会的条件を整えることは、若者自身にとってのみならず、社会の存続にとっても喫緊の課題となっている。本提言は、こうした課題に取り組むために不可欠と考えられる具体的な諸施策を洗い出し、提起するものである。

なお、上記のように本提言では若者を幅広い年齢で捉えているため、政策課題が多重的かつ複雑になっており、また各課題において主な対象となる年齢層が異なることから、錯綜した印象を与えるおそれがあるが、現状を反映した結果としてお許しいただきたい。

(2)総合的な若者支援政策の必要性

若者支援政策は、若者層に特有のリスクとニーズへの対処というミッションを持っている。しかし、従来の日本では、若者支援政策は極めて弱体であり、それは特に社会保障制度に関して著しい。この事実は、日本の社会保障制度が、家族に依存した制度枠組みを前提とし、若者を社会保障における固有の対象として問題にしてこなかったことに起因している。若者は「雇用される」ことによってのみ「企業福祉」という福祉を得る権利を手にしてきた。それがない場合には、親の責任が無制限に期待されてきたのである。したがって、人生の典型的なリスクに対してのみ、高齢者・障害者・母子家庭・貧困者など対象ごとに保障する制度を採ってきた。特に、多くのリスクは退職後の高齢期に主に発生すると想定され、社会保障は高齢期の生活保障に重点が置かれてきた。

この社会保障のあり方は、社会保障給付費の国際比較を見れば明らかである。社会保障の項目のうち、障害、家族、積極的雇用政策、失業、住宅が人生前半期の社会保障に該当する。スウェーデンなどヨーロッパ諸国はこれらの公的支出が大きいが、日本はアメリカと並んで最も小さい。さらに中身をみると、日本は雇用・失業関係の社会保障と、保育サービスや児童手当などの家族関係費が著しく低い。

しかし今や、人生前半期に当たる若者世代においても、リスクやニーズは高まっている。貧困、教育機会・労働市場・社会保障からの排除、離家や家族形成の自由の阻害、地域間の分断などの重層的な諸問題が、若者世代にのしかかっている現状があることは既に多々指摘されてきた。若者が多様で自由な選択を行える余地は、現在の日本社会では極めて限られていると言わざるをえない。そうした現状を、従来通りの自己責任・家族責任的な発想で放置することは、若者の今後の人生と、社会の維持可能性をも脅かすことにつながる。それゆえにこそ、若者支援政策の充実化が必要とされるのである。

若者支援政策は、福祉・教育・労働・保健医療その他で構成される総合政策でなければならない。若者が親の経済状態に左右されず自らの人生を選択し歩んでいけるようにするためには、その過程を見守り、時には積極的に援助する複合的な政策が必要である[3]。むろんそれは、特定の望ましい生き方を若者に押し付ける政策であってはならない。若者が多様な生き方を自由に選び取ることができるようにするためにも、それを支える諸政策の拡充が必要とされている。

なお、本提言は「子ども」ではなく「若者」に焦点を当てているが、それは前者への支援の重要性を軽視していることでは全くない。しかし、近年は「子どもの貧困」など子どもへの社会関心には一定の高まりがみられるが、新規学卒労働市場の表面的な回復などから若者への関心はむしろやや後退しているように見えることに警鐘を鳴らす必要性があると考えたことから、本提言では若者を対象に据える。

2若者支援に係る諸政策の現状と問題点

(1)セーフティネット

セーフティネットとは、社会の構成員全体にミニマムとして必要とされる共通項の保障であるということができる。2010年代以降の日本ではセーフティネットの「重層化」が進み、第1のセーフティネットである雇用保険と第3の「最後の」セーフティネットである生活保護との間に、第2のセーフティネットとして生活困窮者自立支援制度が挿入されたが、各層の施策がそれぞれに問題を抱え、また相互の齟齬もみられる状況の下で、「重層化」が安全化をもたらしていないことが指摘されている[4]。

実際に、日本社会では相対的貧困率が上昇傾向にあり、特にひとり親世帯と単身世帯において貧困の度合いが高い。図2により性別・年齢別にみると、特に10代から20代前半の年齢層において近年ほど貧困率が上昇する傾向にあり、若い世代にとってセーフティネットが機能していないことがうかがえる。

このような状況の背後には、稼働能力がある人には生活保護を受給させないという考え方が根強かったことや、そもそも若者は障害を持たない場合には対象になりにくいという根本的な問題が存在する。これらを反映して、現在の「重層化」したセーフティネットの各層にも以下のような諸問題が見いだされる。

①生活保護に関する問題

第一に、最後のセーフティネットとされる生活保護については、そもそも他の先進諸国と比較して捕捉率が極めて低いことが繰り返し指摘されている。その原因としては、日本社会における生活保護受給に対するスティグマの強さ、窓口で受給申請を違法・不法に受理しない「水際作戦」の存在などが挙げられている。特に若者に関連する生活保護制度の具体的な欠陥として、(ア)生活保護世帯からの高等教育機関への進学が認められていないこと、(イ)自家用車の使用が制約されること、が重要である。

ア生活保護世帯から高等教育機関への進学が認められていないこと

高等教育への就学は稼働能力を有することになるため、生活保護世帯からの大学等進学は夜間部等を除き現行制度では認められていない。進学する場合には当該個人のみ世帯分離をするという手段があるが、その分もとの世帯は人数が減るため受給できる保護費が下がり、世帯分離した個人は生活費と学費を自ら捻出しなければならない。その結果、2014年3月に高校を卒業した生活保護世帯の出身者の大学・短大進学率は18%、専修・各種学校進学率は13%に留まり、高卒者全体のそれぞれ53%、22%と比べて、特に大学・短大への進学率が極めて低くなっている[6]。

イ自家用車の使用が制約されること

また②については、自家用車の価値が低く1年程度で再就職が見込める場合や、公共交通機関がない地域における早朝深夜もしくは障害者の通勤用である場合、事業用に必要である場合などには保有が認められるが、生活用品としては「原則的に保有は認められない」ことが前提であり、「まずは公共交通機関で可能な職場や保育所への転職転園」をすることが奨励されている[7]。
これら、高等教育進学と自家用車保有は、生活保護世帯出身の若者が知識・スキルの習得や就労・求職・社会参加を果たし貧困の連鎖から脱する上で有効な手段となるにもかかわらず、その利用が阻害されていることが、特に若者支援の観点から見た生活保護制度の重大な問題点であると考えられる。

②生活保護と生活困窮者自立支援制度の関係に関する問題

続いて、生活保護と、第2のセーフティネットとされる生活困窮者自立支援制度の関係についても改善すべき点が見いだされる。2015年4月より全国に導入された生活困窮者自立支援制度は、生活保護の受給までには至らない困窮者に対して生活自立と経済的自立のための諸支援を実施する制度である。しかし、表1に示すように両制度には内容的に共通性の高い事業が多く含まれているにもかかわらず、根拠法や実施主体が異なるなど、複雑な関係が存在する。

特に若者世代が対象に含まれる場合が多い自立相談及び就労準備支援に関しては、5~6割の基礎自治体で両制度を一体的に実施しているが、その選択は地方自治体に一任されている[9]。支援者の中からも、両制度が別々に実施されているため、対象者が制度間を移行した場合などに継続性や定着性に懸念があるとの指摘がなされている[10]。両制度の対象者には共通する部分が多く含まれているにもかかわらず、異なる制度が別個に動いていることが現場での支援の一貫性の確保に課題を残す状態を招き、対象者の生活の安定と経済的社会的な自立を阻害する結果になっている。

③住宅保障の問題

また、上記の諸制度の対象者以外にも広く該当する、社会の構成員全てに必要なミニマムが必ずしも保障されていない事項として、住宅の問題が挙げられる。特に若者が離家し、独立した生計を営もうとする際に、住宅にかかる費用が極めて高額であることが大きな障害となっている。40歳未満の若者の中では民間賃貸住宅に居住する者が1983年には39.7%であったが2008年には59.7%にまで増加している[11]。そして民間賃貸住宅の家賃は90年代以降上昇を続けており、収入ははかばかしく増加していないことから、図3に示すように若者世代の家計を極めて圧迫する状況となっている。また家賃の高騰は大都市圏で著しい(図4)。このような家賃の負荷の重さから、離家に消極的になったり、あるいは離家した場合に困窮状態に陥ったりする若者が多いことが報告されている。例えば2014年に20代・30代の若者を対象として実施された調査結果では、実家に住む若者の半数以上が、親の家に住む理由として「親の家を出ても、住居費を自分で負担できない」ことを挙げている[12]。

困窮者やホームレスに関しても、住居の安定を確保した上で様々な支援を提供する「ハウジング・ファースト」の施策が有効であることが報告されているが、日本の無料低額宿泊所の中には、劣悪な住環境に閉じ込める「貧困ビジネス」を行っているところも多い[15]。

なお、出身地以外の高等教育機関に進学する若者に対しては、大学の学生寮及び出身都道府県の県人寮が、比較的安価な住居を提供してきた。しかし、旺文社が2016年に実施した「学生寮」設置状況調査では、国立大学のほとんどが学生寮を設置しているのに対し、公立大学では27%、私立大学では50%と設置者間で差が見られ、また各設置者内部で地域間にも差が存在する[16]。また、県人寮の多くは男子学生のみを対象としており、女子は排除されている場合が多い上に、主に大都市に集中している。

他方で、国土交通省の統計では、全国の空き家の総数は、過去20年の間に448万戸から820万戸へと1.8倍に増加している。2017年4月19日には低所得者などへの住宅供給の基本方針を定めた「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(住宅セーフティーネット法)の改正が国会で成立し、空き家に入居する子育て世帯や高齢者は最大月4万円の家賃補助及び最大6万円の入居時債務保証料補助を受けられることになった[17]。この改正案は住宅政策として前進であるが、家賃負担の大きい単身者が除外されていることが大きな問題点である。

④10代の若者が含まれる世帯の所得保障に関する問題

さらに広い層が該当する問題は、子育て世帯の所得保障政策である。具体的には、近年、低年齢の子どもへの支援が優先されてきたため、16~18歳の子どもを持つ世帯への再分配が悪化していることである。2011年に年少扶養控除が廃止、特定扶養控除が縮減され、その代替施策として子ども手当が導入されたが、結局、子ども手当は満額とならず、また、2012年度に復活した児童手当も含め支給対象年齢が中学校卒業までであるため、16~18歳の子どもを持つ世帯への再分配には負の影響があった(図5)。

扶養控除は高所得階層に有利な制度であるため、扶養控除から手当へという流れは、貧困対策という意味では評価できる。それゆえ、扶養控除の復活が望ましいわけではないが、先の図2に示した通り、子どもの貧困率の年齢層別の格差は近年拡大しており、15歳以上の子どもの方がより貧困率が悪化している。低所得で高校生以上の子を扶養している世帯には、再分配政策の拡充が必要である。

(2)教育・人材育成

日本の教育・人材育成は、国際学力テストの結果などから一般的な知力の形成には極めて効率的とされているが、その反面、職業教育・訓練の低調さ、高等教育の費用負担の重さ及び制度的な硬直性という側面に関しては、著しい問題を含んでいる。

①職業教育・訓練の低調さ

まず、職業教育・訓練の供給に占める公的セクターの比重が非常に小さく、教育費用負担が大きいことが重要な問題である。企業内教育・訓練の比重が高かった我が国の特質のもとで、これまで公教育制度内の職業教育や公的職業訓練はそれほど大きな役割を果たしてなかったとはいえ、例えば高校専門学科(職業学科)は60年代には在籍者の4割余り、在籍生徒数200万人余りと一定の役割を果たしていた。しかし90年代以降、企業内教育・訓練を十分に受ける機会がない非正規雇用などが拡大しており、職場外での職業教育・訓練機会の重要性は高まっている。けれども高校専門学科(職業学科)は現在では在籍者の2割強、1学年当たり30万人程度に過ぎない。

職業教育の多くは近年、専門学校を含む高等教育段階に移行してきているが、専門学校生徒数の96%を私立が占め、学費も年額で私立大学並みであるなど高額の負担が必要とされている。無償・低負担による職業教育・訓練機会の拡充が必要である。

他方で、高校以上の学校段階では、生徒・学生の相当数が、学費や生活費を得るためにアルバイトに従事している。その場合、彼らは生徒・学生であると同時に労働者でもあり、実社会に足を踏み入れていると言える。むろん、生徒・学生のアルバイトの労働時間が長くなり過ぎれば、学業を阻害する危険がある[19]。しかし高校や大学等の教育機関は、こうした生徒・学生のアルバイトを無視・黙認している場合が大半であり、そのプラスの側面を教育に活かすことも、マイナスの側面に対処することも、ほぼ全くなされていない。このような点でも、日本の学校教育制度は若者を在学中及び卒業後の職業生活に対して準備させる機能が弱いと言わざるをえない。

②高等教育の費用負担の重さ

教育費の問題は職業教育・訓練に限られない。大学等の高等教育機関の授業料の高さと奨学金制度の不備により、個人と家計の経済的負担が既に限界に達していることについて、多数の指摘がある。言うまでもなくこの問題は、出身家庭の経済力を反映した教育機会の格差や、奨学金の債務返済の圧迫による人生設計への制約につながり、若者の活力の発揮や将来への希望を大きく損なう事態をもたらしている。

図6が示すように、大学授業料は高騰を遂げており、特に私立大学の場合にそれは顕著である。また90年代以降の大学進学者数増大とも相まって、日本学生支援機構の奨学金の受給者数も増加しており、その多くが有利子貸与である(図7)。大学4年間を通じて標準的な奨学金の貸与を受けた場合、卒業時に貸与総額は200~300万円に達しており、10数年間にわたって返還を続けていかなければならない(表2)。このような負債が、若者層の職業選択のみならず結婚や子育てなどのライフプランに負の影響を及ぼしていることは表3からも裏付けられる。

こうした大学等の学費の高さと奨学金の返済負担の問題に対する社会的な関心と批判が高まってきたことから、2012年4月以降の第一種奨学金採用者(大学院を除く)で家計支持者の所得金額が一定以下の場合は、卒業後に一定の収入を得るまでの間は願い出により返還期限を猶予する「所得連動返還型無利子奨学金制度」が新たに導入された。また、2015年度からは、地方公共団体と地元産業界・職業団体が連携して、地方大学等に進学する学生や特定分野の学位を取得しようとする学生に対して無利子奨学金の地方創生枠への推薦を行うとともに、地元企業等に就業した者の奨学金返還を支援するための基金を造成する「無利子奨学金(地方創生枠)」が創設された。2016年度の採用者は全国で44人に留まるが、この制度は2017年度から拡充されることが予定されている。

さらに、2018年度からは、住民税非課税世帯からの大学・専門学校進学者2万人(学校推薦により選考)を対象とし月2~4万を支給する給付型奨学金制度の実施が予定されている(2017年度に一部先行実施)。

このように、奨学金制度には改善の兆しがあるが、現状ではいずれの新制度も対象者が限定されており、給付額が少ないなどの限界を抱えている。しかも、奨学金が本人の就学や生活ではなく家族の事業や負債の返済等に流用されているという報道も散見される[24]。それゆえ、奨学金制度を通じた若者の教育費負担軽減策には、さらなる検討の余地が多大に残されている。

なお、文部科学省は、国立の大学・短期大学・高等専門学校に対し、運営費交付金の10.3%(2016年度は10.8%)を総額上限として授業料免除の実施を認めており、その対象者選考基準についても厳密に定めている。これらの上限額の拡大、基準の緩和、個々の大学等の裁量の拡大について、考慮がなされるべきであろう。

③制度的硬直性

教育・人材育成をめぐるもう一つの問題は、学校段階間・教育機関間の柔軟な接続や連携が不十分であるということである[25]。こうした制度的硬直性は、若者の進路選択におけるミスマッチやウェスティジ(損失・浪費)を生み出している。

例えば、日本の高校においては高校普通科に在学する生徒が7割以上を占めるという点で、先進国の中では特異な状況にあるが、専門分野についての知識やイメージが持てないままに入試難易度や合格可能性を重視して進学先大学を決定する場合が多いことにより、進学後の不適応や中途退学を生み出している。2014年に文部科学省が実施した大学中退に関する調査によれば、大学・短期大学・高等専門学校の年間中退率は2007年度の63,421人(2.4%)から2012年度には79,311人(2.6%)へと増加している。また、労働政策研究・研修機構が実施した調査によれば、大学等の中途退学理由のうちで最も多いのは「勉強に興味・関心が持てなかったから」(49%)である[26]。

一方、高校専門学科(職業学科)からの大学進学は漸増してはいるが、2018年3月卒業者については普通科からの大学・短大進学率が64%であるのに対し、普通科以外では30%に留まり、進学率に相当な差がある。これは、高校専門学科(職業学科)等での専門的な学習内容を入学試験において尊重・評価する大学が少なく、推薦入試やAO入試などを利用する以外に進学の道がほぼ閉ざされていることを原因とする。

また、国内には、学校教育法第一条で定められる、いわゆる「一条校」以外に、国・都道府県・独立行政法人などが設置する大学校及び短期大学校が多数存在する。その中には、学位を取得できる機関とできない機関が混在しており、特に大学校・短期大学校や、公共職業訓練の学卒者訓練(1~2年間)からは「一条校」の高等教育機関への編入が不可能である場合も多い。その結果、密度の高い教育訓練を受けているにもかかわらず、これらの機関が「行きどまり」の進路となっている。

(3)雇用・労働

2016年5月に政府がまとめた「ニッポン一億総活躍プラン」の中で「働き方改革」が打ち出されたことに象徴されるように、日本の雇用・労働のあり方が内包する多大な問題については、既に衆目が一致している。その中でも重要なものとして、長時間労働の蔓延、正規労働者と非正規労働者の間の労働条件格差と雇用契約内容の不透明性、労働組合加入率低下の3点に、本提言では着目する。

①長時間労働の蔓延

第一の長時間労働については、生産性とワークライフバランスのいずれをも阻害し、時には健康や生命をも脅かすものであり、その弊害が極めて大きいことは論をまたない。日本では既に1980年代から過労死・過労自殺・過労鬱などの問題が指摘されてきたが、近年は少子化対策との関連からも、長時間労働への取組が一層喫緊の課題であるとみなされるようになってきた。

2015年に広告代理店の若手社員が過労自殺をしていたことが2016年に社会的関心を集め、当該企業が強く糾弾されたことを契機として、厚生労働省は2016年12月26日に、「過労死等ゼロ」緊急対策を公表した。この緊急対策では、長時間労働是正を推進するため、従来は企業名の公表基準として月100時間以上の違法残業が年間に3事業所で認められた場合としてきた要件を見直し、月80時間以上の違法残業又は過労死などによる労災認定が2事業所で確認された場合に企業を指導した上で改善されなければ公表するとした。これは改善ではあるが、複数の事業所での確認を要件とするなどの点で対象が限定され過ぎているため、過労死・過労自殺が労災認定された場合は全件を企業名公表の対象とするなど、より厳しい姿勢が望まれる。

長時間労働を生み出す、より根本的な法律・制度上の問題としては、労使間でいわゆる「36協定」を締結すれば、ほぼ無制限の時間の残業が違法ではない形で実施可能になっていることについてはあまたの指摘がある。2017年3月には、政府の「働き方改革実現会議」において、残業時間の上限を原則「月45時間、年360時間」とし、繁忙期は例外的に(1)月100時間未満、(2)2〜6カ月の月平均80時間、(3)年720時間(月平均60時間)(4)月45時間を超える場合は年6カ月までとする「働き方改革実行計画」がまとめられた。しかし、一部の業種が例外とみなされている上に、繁忙期の100時間は過労死ラインをゆうに超えており、長時間労働の是正策としては弱体にすぎることが懸念される。より妥当な上限規制が早期に実現されることが不可欠である。

また、終業から始業までの間に一定の時間を空ける「勤務時間インターバル規制」についても、導入企業に対して2017年度から助成金を支給する方針であることが報道されている。これに関しても、助成金に留まらず、法制化を進めることが必要である。

②労働条件格差と雇用契約内容の不透明性

正規労働者・非正規労働者間の労働条件格差については、1990年代以降に若者の非正規労働の増加が顕在化して以降、繰り返し問題として指摘されてきた。前述の政府の「働き方改革」でも、この問題に対して「同一労働同一賃金」というスローガンにより対処を進めようとしており、2016年12月20日には「ガイドライン案」が示された。そこでは、職業経験・能力、業績・成果、勤続年数の各観点が同じなら基本給は同一にするが違いに応じた差は容認すること、通勤手当・出張旅費・役職手当・福利厚生施設の利用、時間外労働手当や深夜・休日手当の割増率、現在の職務に必要な教育訓練などについては正規と非正規の間で同一にすることなどが掲げられている。

しかし、このガイドライン案では、正規労働者と非正規労働者の間に職務内容や責任範囲に関して何らかの差がつけられている場合は(現状ではそれが大半である)、むしろ基本給における賃金格差が正当化されることになる。

さらに、非正規労働者の賃金水準に対して影響の大きい最低賃金に関しても、日本では他の先進諸国に比して著しく水準が低いことに加え、違反する事業所が存在し、東京都と大阪府では5%を超えることが厚生労働省の調査で明らかになっている[27]。労働組合や研究者が、全国各地の最低生活費をマーケット・バスケット方式(生活上で必要な物やサービスの価格の合計額を推算すること)で把握する運動が繰り広げられているが、その結果によれば、全国で最低生活費の総額には大きな違いがなく、時給に換算すると1300~1500円程度の水準である場合が多い。この結果は、現在の地域別最低賃金額が、実際に生活を営む上で必要な額と乖離していることを明らかに示している。

また、正規・非正規間の格差は賃金に留まらず、健康保険の加入や定期健康診断などいわゆる「健康格差」の問題が注目されるようになっている。健康保険の加入については、2016年10月より、従来の「週30時間以上」労働者から「①週20時間以上、②月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)、③勤務期間1年以上、④学生は適用除外、⑤従業員501人以上の企業」という基準に改められたが、依然として対象者は限定されている。また、厚生労働省が2014年に実施した調査では、正社員の週所定労働時間の4分の3以上働くパートタイム労働者の定期健康診断受診率は91%であったが、2分の1以上4分の3未満では72%、2分の1未満では58%と、定期健康診断の受診機会がない非正規労働者がかなりの比率を占めていることが判明している[28]。健康管理は全ての基本とも言える事柄であるにもかかわらず、非正規労働者であることによってその維持が保障されないことには重大な問題がある。

この労働条件格差と密接に関連する労働市場の問題点は、求人時点・採用時点・採用後における労働条件の不透明性である。求人票の労働条件と採用時点で提示された労働条件が異なるケースが多数存在することが問題視されるようになっており、特に近年の人手不足下で増加・悪質化しているという指摘もある。2015年9月に公布された「青少年の雇用の促進等に関する法律」(若者雇用促進法)では、新卒者の募集を行う企業に対して、職場情報の積極的な提示と、違法行為のあった企業からの求人票をハローワークで受け付けないことを定めている。

また、企業が自社のサイトなどで直接募集する場合には、虚偽の労働条件を示した場合に罰則が設けられている。しかし、ハローワークに虚偽の求人情報を提出することに対しては罰則がなかったため、虚偽の求人情報に罰則を設けるとともに、給与と残業代を明確に分けて示すよう義務付ける旨の職業安定法の改正がなされた(2017年3月)。

このように、一定の前進はみられるが、上記の若者雇用促進法では、知りたい情報が開示されない場合があること、虚偽の情報を開示しても罰則がないこと、情報開示を求めた若者が採用選考で不利になるおそれがあることなど、有効性には疑問がある。

また、労働条件に含まれる諸要素の中で、仕事内容(職種)は重要な事項のはずであるが、日本では仕事内容の変更や拡張、部署間の移動等は茶飯事であり、それが専門的スキルの形成や仕事の効率性を阻害している。

③労働組合加入率の低下

第3として、労働組合加入率の低下が挙げられる。労働組合は労働者が権利を主張し労働条件向上の交渉を行うための重要な場であるにもかかわらず、組織率は長期的に低下を続けており、2016年には17%となっている。ただし、パートタイム労働者の組織率、「複数企業の労働者で組織されている単位労働組合及び企業規模不明の単位労働組合の労働組合員数」を含む企業規模「その他」の組合員数は増加しており、従来の正規労働者を主な対象とする企業別労働組合とは異なる層において労働組合が活性化する兆しがある。労使関係を通じて雇用・労働の諸問題の是正を促進するためにも、労働組合費の税額控除や所得控除等、労働組合の加入について奨励・支援する施策が期待される。

(4)ジェンダー

2013年12月に発足した第二次安倍政権のもとでは「女性の活躍」が掲げられ、2015年8月には「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)が国会で成立した。しかしながら、世界経済フォーラムが毎年公表するジェンダー・ギャップ指数をみると、2016年に日本は144か国中111位と前年よりも10位も順位が低下しており、「女性の活躍」が進展しているとは言い難い状況にある。

日本におけるジェンダーの問題は根深く、女性はライフイベントごとに大きな制約や困難に遭遇している。特に女性の経済的自立を阻害する要因は数多い。減少しつつもいまだ女性の中で一定の比率を占めている専業主婦という生き方が否定されるべきではないことはむろんであるが、未婚率の上昇や少子高齢化など、日本の社会状況を総体として把握した場合に、女性が家庭役割を主に担うことを前提とした施策や制度には限界があると言わざるをえない。逆に、若年女性が特定の生き方に誘導されず多様な選択を可能にするための基盤として何が必要かというスタンスが求められる。

そのようなスタンスから、本提言では、特に重要な問題点として、女性に対する差別とハラスメントの蔓延、シングル女性(ひとり親家庭の母親を含む)の就労と生活の困難さ、有配偶女性に対する差別的処遇、を取り上げる。

なお、日本学術会議は過去にもジェンダー(男女共同参画)に関して提言を行ってきた[29]。以下の事項にはそれらと重なる点も含まれるが、若者政策の一環としてジェンダー問題を位置づけなおし、改めて提起するものである。

①女性に対する差別とハラスメントの蔓延

日本では今なお、女性に対するハラスメントが職場や学校その他様々な場で蔓延している。労働政策研究・研修機構が2015年に実施した調査結果では、女性の中でセクシュアルハラスメントを経験した比率は28%(正社員では34%)、妊娠等を理由とする不利益取扱い(いわゆる「マタハラ」)の経験率は21%に達する[30]。また、プライベートな場面においてもハラスメントやDVは広がっている。2012年に東京都生活文化局が実施したデートDVに関する調査結果では、被害経験率は女性で42.4%(男性は31.3%)にのぼる[31]。

こうした事態は、女性が性的欲求や暴力の対象とみなされがちであり、その人権が尊重されない社会状況が広がっていることを意味し、重大な問題である。

②シングル女性の就労と生活の困難さ

第一に、女性は全て夫の扶養を受ける有配偶であるかのような前提の上で、そうではないシングル女性も、労働市場において低い扱いを受け続けている。シングル女性は、その多くが非正規労働者として働いており、雇用の継続に対する不安や低賃金、社会保障からの排除に苦しんでいる。特に一定年齢以上の非正規シングル女性の中には、親の介護を担っている女性も多く、その結果十分に働けず自分自身の年金保険料等の支払継続ができなくなっている人もいる。

このような配偶者をもたない女性の経済的自立が困難であることの負の帰結として、母子家庭が大半を占めるひとり親家庭の相対的貧困は、世界最悪水準の54%に達している。厚生労働省の調査結果によれば、離婚した父親からの養育費支払を受けている母子家庭は2割に留まるということも、その貧困の重要な要因である[32]。

ひとり親家庭の親に対しては、教育訓練への支援としては「自立支援教育訓練給付金」、「高等職業訓練促進給付金」、「ひとり親家庭高等学校卒業程度認定試験合格支援事業」など、また日常生活の支援に関しては「ひとり親家庭等日常生活支援事業」「母子生活支援施設」などの制度が地方自治体によって実施されている。しかし、実施自治体や支援金額・内容の限定性などから、拡充が必要とされている。

③既婚女性の社会的活躍を阻害する諸制度の存在

第一に、雇用における有配偶女性に対する差別的取扱いがいまだ強く残存していることが指摘できる。2015年12月に、夫婦同姓を義務付けている民法750条の規定について、最高裁判所が合憲という判断を下したことにも表れているように、女性の職場や社会での活動を阻害する要因を積極的に取り除こうとする動きは明確ではない。

旧姓の通称使用の範囲を拡大する動きはあるが、それは戸籍上の姓と通称の姓との相違から生じる様々な煩雑さを軽減するものではない。

また、2017年1月の税制改正により、配偶者控除を利用できる給与収入の上限が103万円以下から150万円以下へと引き上げられたが、150万円が就労調整の「壁」として残る上に、住民税に関する「103万円の壁」、社会保険加入に関する「106万円の壁」、社会保険上の被扶養者資格に関する「130万円の壁」といった形で何重にも壁が残り、女性を短時間の低賃金就労へと押し込める圧力は作動し続けている。働き方や配偶者の有無に中立的な、特定の収入額による「壁」を設けない税制への変革は遅れていると言わざるをえない。

(5)地域・地方

少子高齢化により日本全体の人口が縮小する中で、地方圏の一層の人口減と東京一極集中には歯止めがかかっていない。いくつかの地方自治体では、少子化の漸次的進行のため、これまで地域に根差した次世代育成の機能を担っていた地元の高校の統廃合を余儀なくされている。あわせて、高校卒業時の進学や就職による若者の都市部への流出も深刻である。これらの人口の自然減と社会減の二重の問題は、地域の存亡にかかわる問題となっている。2014年9月の閣議決定により設置された「まち・ひと・しごと創生本部」は、「長期ビジョン」と「総合戦略」を策定し、2015年・2016年には総合戦略の改訂版を発表してきた。

包括的な施策が講じられているが、この中で危惧される点として、地域に生きる若者の現実に即した支援の弱さ、「地域おこし協力隊」の制度的不備、地方自治体及びその内部の企業等の婚活支援策がはらむ危険について取り上げる。

① 若者の現実に即した、地域における支援の弱さ

まず、看過してはならないのは、いじめ・不登校・DV、そして無業あるいは不安定就業といった負の連鎖に苦しみ、孤立している若者の存在である。その中にはいわゆる「ひきこもり」が含まれるが、後述するように孤立する若者の実情は「ひきこもり」に限定されない。そうした若者の中には、家族と同居していても家族の中で孤立している場合もあれば、家族全体が外部とのつながりを失っている場合、あるいは家族からも家族外からも何らの支援も得られず文字通り孤独と困窮に堪えている場合など、個別の実情は多様である。しかしいずれの場合であっても、「自己責任論」や「家族(親)の責任論」が喧しく語られる社会の中で、複雑な課題をかかえた若者たちやその家族は地域の中で孤立しがちである。窓口に行って申請しなければサービスを受けられない福祉の仕組みの中では、そうした人々は地域の中で不可視化されやすく、サービスにつながりにくい。

また、彼らの困難は、就労、医療、福祉、法律、教育など、様々な領域での問題が絡み合いながら生じていることも多い。しかし、制度は「縦割り」であり、包括的な相談と支援の提供は難しかった。こうした課題に対しては、既存の若者支援機関のさらなる活用、納税や水道など生活困窮情報を扱う部局と困窮者支援部局との庁内連携の仕組みづくり、アウトリーチや包括的な支援を行ってきたNPOと地方自治体との連携の促進等、困難な状況に置かれた若者やその家族の情報を把握し、包括的な支援の窓口につないでいく必要がある。

②「地域おこし協力隊」の制度的不備

地域おこし協力隊は、2015年時点で2799名であり、うち約6割が任期満了後も当該地域に定住を果たしているとされている。しかし、経験者の中からは、地域での受入れ・協力体制の不十分さ、任務の曖昧さ、任期満了後の進路の不安定さ、活動中の事務手続の煩雑さなどの問題点を指摘する声が上がっている。また、地域外の人材を対象としており、地域内出身者で地域への貢献や活性化を希望する者は対象とされない。より目的・内容・必要なスキルを明確にした上でポストを用意し、地域内外を問わず若者を採用する新たな仕組みを工夫する必要があると考えられる。

その際に、地方では男尊女卑的な風土が色濃く残っている場合もあることから、そうした雰囲気を払拭し、女性の意見やスキルを最大限に尊重し、権限や責任を担い得る役割やポストに登用してゆくことが必要である。

地域おこし協力隊という形態以外でも、若者層の地方圏への移住を促し、定住を推進することにつながる事業については、既に先進的な事例が多数報告されている。例えば島根県では「半農半エックス」の取組が進められており、地域特性を活かした農業就業によって半分の収入を得て、残りの半分を農業以外から得ていくという柔軟で現実的な事業が推進されている。他にも、地域内の住民あるいは外部の人々による地域おこしのためのアイディアを募り競わせて、現実化させていくような仕組みを作っている地方自治体も存在する。そうした例に倣い、地域内部の若者層を巻き込んでの交流や支援の仕組みをつくり、地域課題に向き合う若者を育成することが重要である。

地域を超えた若者の交流を活性化させるためには、初等・中等・高等教育の各学校段階における短期・長期の離島・山村留学も有効であると考えられる。例えば島根県が実施している「しまね留学」制度は、離島・山村留学を全県的に整備したものであり、これが一定の実績を挙げていることは注目すべきであろう。この動きは従来からの人口減の恒常的な動向に対して、新しい流れをもたらすのみに留まらず、若年層の増加による地域の活性化の直接的な効果も期待できる。中長期的な視野で見るとき、こうした地域の学校教育についての制度的な取組も有効であるだろう。

③地方自治体及びその内部の企業等の婚活支援策がはらむ危険

また、地域内での結婚・出産を増加させることを目的として、近年は地方自治体主催の婚活イベントなどが多数開催されているが、その成果の把握が困難であり、有効性に疑問があることから、企業や団体の内部での結婚推進に力点が移されてきた。しかし、2016年12月27日に公開された「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」の提言においては、「取組の進め方によっては、ハラスメントと捉えられるリスクが増大しかねない」との記載がある[33]。それゆえ、単にマッチングと出会いを奨励し、そのためにイベントを打つというよりも、若者世代が現実的な生業基盤を確保しつつ、子育て支援情報や生活相談を提供する機能を結婚支援センターに持たせることが、より現実的な結婚支援事業たり得るのではないか。結婚支援センターが新しいライフスタイルの提示を行いつつ、コーディネート機能を果たすといった、より高次の活動内容が求められる。

とりわけ地方圏では男性の稼ぎ主基盤が相対的に弱く、夫婦共働きの伝統を持つ地域が少なからず存在する。そうした地域では、男女双方の雇用創出と経済的安定性の確保を追求する施策が求められている。さらには地方圏ほど三世代同居規範や跡継ぎ意識が今なお強く、このことが結婚への現実的な障害になっている場合が少なくない。こうした実態を踏まえた家族形成支援が求められる。

(6)財源について

ここまでに5つの軸に即して述べてきた諸施策の実施には、言うまでもなく財源が必要とされる。そうした財源をいかに調達するかについては、税(消費税、所得税、相続税等)、国債、社会保険など複数の選択肢が存在し、政府内でも検討や提案が繰り広げられている。

本提案では特定の財源調達方法を推奨するところまでは踏み込まないが、持続可能性、再分配、社会連帯という3つの原則を重視した財政政策が期待される。すなわち、持続可能性については、単発的であったり、将来世代に負担を先送りしたり、償還の目途が立っていなかったりするような財源調達方法は回避されるべきである。

また、再分配機能については、逆進的な負担を増大させるのではなく、収入や資産に応じた累進的な負担が望ましい。そして社会連帯については、特定の世代や対象のみが負担を担うことは社会内の対立や分断を悪化させるため、誰もが負担と受益の対象となるような財政政策が必要とされる[34]。この場合の「受益」とは、単に個々人が直接的な恩恵や利益を得るという狭い意味に限定されず、分配を得た他者が可能性や活力を発揮することによって社会が活性化され存続可能になるという間接的な社会的便益という広い意味で捉えることが望まれる。なお、上記の原則に加え、政府支出における無駄や不合理をなくしてゆくための継続的な見直しと、脱税の防止、租税回避の縮減がいっそう求められることは当然である。

これらの基準に沿って各財源調達方法の得失や優先順位を比較考量した上で、従来はきわめて貧弱であった、若者すなわち人生前半の年齢層への財政支出の拡充が速やかに進められることを期待する。

3提言

前章における現状の問題点の検討に基づき、以下の諸点について、政府・地方自治体および教育機関等、関連する諸機関による早急な検討と改善を呼びかける。

(1)セーフティネット

①生活保護及び生活困窮者自立支援制度について
ア生活保護を受給しながらの高等教育機関への進学を認めること。
イ生活保護世帯に一定価格以下の自家用車の使用を認めること。
ウ生活保護法及び生活困窮者自立支援法を一体的に改正することにより、生活費保障と自立支援を同時に受けることを可能にすること。

②住宅保障について
ア若年層も入居が可能で家賃の低い公営住宅の拡充整備。
イ各地方自治体出身の若者の主要な移動先の地域において、性別による偏りのないように費用の低廉な県人寮を拡充整備すること。
ウ大学等の高等教育機関における、費用の低廉な学生寮の拡充整備。
エハウジング・ファースト(困窮者に対する支援付き住居の提供)を行うNPO等に対する政府及び地方自治体からの補助金の拡充。その際に、いわゆる「貧困ビジネス」が該当しないよう補助金の支給基準を明確化すること。
オ住宅セーフティネット法に若年単身者も含める改正を行うこと。

③子育て世帯の所得保障制度について
ア所得税及び住民税における特定扶養控除を拡充し、16歳~18歳の子どもを持つ世帯の所得保障に役立てること。

(2)教育・人材育成

①職業教育・訓練について
ア高校専門学科(職業学科)及び公共職業訓練の学卒者訓練の定員を拡大し、教育・訓練の内容を産業構造の変化に即して変革・改善すること。
イ高校以上の教育機関に在学する生徒・学生のアルバイトの実態に関して、調査等により把握すること。また、ワークルール教育を教育課程に組み込むことを推進すること。

②教育の費用負担について
ア日本学生支援機構の所得連動型奨学金返済制度を、過去の受給者に遡って適用すること。
イ国立の大学・短大・高等専門学校における授業料免除の上限額を上げ、選考基準を緩和するとともに、額・基準に関する各機関の裁量性を増大させること。
ウ高等教育を含む教育の無償化に向けて、財源等の具体的検討を加速し、段階的な学費引下げや給食無償化などを先行的に実施すること。

③制度的柔軟性について
ア大学等の高等教育機関から高校専門学科(職業学科)に対する推薦枠の拡大や、専門的な資格の取得を以て入試科目の一部を免除するなどの措置を拡大することにより、高校専門学科(職業学科)からの進学機会を拡大すること。
イ国・地方自治体・独立行政法人などが設置する大学校及び短期大学校等を学校教育法第一条に規定される教育機関と同格化し、学位の取得や他機関への編入・進学の機会を保障すること。

(3)雇用・労働

①長時間労働の是正について
ア全ての労働者について、残業時間の上限を月50時間とする規制を設け、違反への罰則と、従業員の正確な労働時間の把握義務を企業に課すこと。
イ厚生労働省は、「過労死等ゼロ」緊急対策において、違法残業や過労死等の労災認定が1事業所でも発生した場合は企業名を公表すること。
ウ勤務時間インターバル規制を法制化すること。

②労働条件の格差縮小と透明化について
ア企業に対し、求人時及び採用時において労働条件を明示し、採用時にはその労働条件を明記した文書を応募者に対して交付することを義務付けること。明示される労働条件には、労働基準法施行規則第5条第1項に定める賃金・手当、労働時間、残業時間、休日・休暇、勤務地、諸手当に加えて、新たに職務内容を加える規則改正を行うこと。
イ最低賃金の引き上げを加速化し、1500円程度を目標として達成までの工程を提示すること。また、違反企業への取締りを強化すること。
ウ健康保険の加入対象及び定期健康診断受診対象の大幅拡大。

③労働組合加入について
ア就労者に対し、個人加盟ユニオンを含む労働組合への加入を奨励・促進し、労働組合費を税額控除や所得控除の対象に含めること。

(4)ジェンダー

①ハラスメントの防止について
アセクシュアルハラスメント(性的虐待・DV・違法な性産業等を含む)やモラルハラスメント等の実態や対応策についての教育を、初等・中等・高等教育の全ての機関で実施すること。
イ職場・学校・家庭等でのハラスメントやDVについて弁護士等が相談に応じる公的な総合窓口(電話相談を含む)を設けること。

②シングル女性の就労と生活保障について
ア離婚後に養育費に関して取り決めた公正証書の作成を義務付けるとともに、支払われない場合は地方自治体等が代位弁済した上で差し押さえるなど、ひとり親を支援する仕組みを強化すること。
イひとり親に対する支援のための諸制度の実施を地方自治体に義務付けるとともに、住宅や教育訓練など現物の支援を強化すること。

③有配偶女性の処遇について
ア婚姻時において別姓を選択することの法的承認に向けて議論を加速すること。
イ税制や社会保険加入を特定の所得額で区切る仕組みに代えて、切れ目のない料率制を導入すること。

(5)地域・地方

①若者の現実に即した、地域における支援について
アNPO等が地域の若者の個別的かつ包括的な支援に当たることができる仕組みの整備。
イ子ども・若者育成支援推進法などを活用し、地方自治体内で生活困窮関連の情報を扱う部局と包括的な支援を行う部局との庁内連携の仕組みを整備すること。

②若者による地域おこしについて
ア「地域おこし協力隊」に地域内の若者が参加することを認め、地域内外の若者が共同で地域活性化に取り組むことを奨励すること。
イ地方自治体内の委員会等の諸組織において、様々な役割やポストにおける男女同数を目標とし、諸決定への女性の参加を保障すること。
ウ地域を超えた若者の交流を図るために、短期・長期の国内留学制度を拡大・拡充すること。

③地方自治体及び企業等の婚活支援策について
ア結婚を目的としたイベントや個人への働きかけではなく、サークル・スポーツ・社会活動など、自然で継続的な交流の場を整備すること。
イ住宅、保育・教育、医療などの現物支援を通じて、多様な形態での家族形成が可能な環境を整備すること。

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