ブラック部活動~教師に「自主的活動」を強制
ネットを通じ、教員のブラックな働き方が発信され、社会問題となるとともに、政府も無視できなくなってきた。先日の調査でも、小学校の3割、中学校の6割の教員が過労死ラインの働き方をさせられている。
その調査でも、中学校の場合、一番増えているのが部活動である。
しかも、学習指導要領が変わり、英語、道徳、プログラミング、アクティブラーニングと、選択と集中することなく、どんどん教科内容も膨らんでいる。その中で、テスト作成の外部化もふくめて、教育産業を超え太るだけの取り組みではないか、と思える。社会の未来もどうでもよい、こども、教員がどんなに消耗しようが関係ない、そういう新自由主義の大きな流れ教育全体をゆがめている。真の働き方改革をしないと、日本の未来はない。
内田良・名大准教授のレポート2つ〔図は省略〕。
【試合に「早く負けてほしい」? ネットが明らかにした「ブラック部活動」 内田良・名大准教授7/25】
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170724-00000010-wordleaf-soci&p=1
【「部活未亡人」 妻たちの嘆き 内田良・名大准教授 7/17】
https://news.yahoo.co.jp/byline/ryouchida/20170717-00073370/
【試合に「早く負けてほしい」? ネットが明らかにした「ブラック部活動」 内田良・名大准教授7/25】部活指導のあり方が問題となっている。長すぎる練習時間や少なすぎる休養日など、課題を是正するため、スポーツ庁は総合的なガイドラインづくりに取り組み始めた。具体的に先生はどのような状況なのか。部活動の問題を研究してきた名古屋大学の内田良・准教授に寄稿してもらった。
◆試合では「早く負けてほしい」
部活動指導の負担を嘆く教員の声のなかで、私がもっとも衝撃だったのは、試合に「早く負けてほしい」という発言である。大会で一生懸命声をあげている指導者が、心の奥では「早く負けてくれ。休みたいんだ」などと思っていようとは……。
私にとってこれが衝撃だったのは、まさにそうした考え方が学校文化のタブーだからである。率直に考えれば、教育者としての素質を疑われるかもしれない。
私の目から見ればその先生は、本当に生徒思いでユーモアもあって、包容力がある、素敵な先生である。逆に言えば、それほどに生徒思いの先生でさえ、大会で頑張っている生徒を前にして「早く負けてほしい」と思ってしまうほどに、先生たちは追い詰められている。
図1 各種業務における勤務時間の増減(平日/休日) ※文部科学省「教員勤務実態調査」の速報値(2017年4月公開)をもとに筆者が作図
◆10年間で大幅増の部活動指導時間
2017年4月に公開された文部科学省による10年ぶりの「教員勤務実態調査」(小中学校の教員対象)の結果(速報値)は、部活動の過熱ぶりを浮き彫りにした。
勤務時間全体についていうと、中学校教諭の場合、前回調査の2006年度と比較して2016年度には、平日一日あたりで32分、休日一日あたりで109分、勤務時間が増えている。
そして中学校の各種業務内容のなかで突出して増加したのが、中学校の休日における「部活動」である。休日の一日あたりで、64分もの増加である【図1】。教員の働き方改革のなかでも、部活動のあり方の改善は、最優先事項であると言える。
図2 教員全員で部活動指導に当たっている中学校の割合 ※スポーツ庁「平成28年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査報告書」(2016年12月公開)をもとに筆者が作図
◆「自主的な活動」が強制されている
そもそも部活動は授業とは異なり、教員の本来業務ではない。だから、学生時代に大学で部活動の指導方法を学ぶこともない。そして、部活動はその多くが教員にとって所定勤務時間外の活動である。だが教員は法制度上、残業ができない。
つまり建前としては、部活動は教員の「自主的な活動」に位置づけられる。だが現実には、教員は全員で部活動を指導することが慣例となっている。実際に2016年度のスポーツ庁による全国調査では、じつに87.5%の中学校で教員全員による指導体制がとられている。希望制としているのは、たったの5.3%である【図2】。「自主的な活動」とは名ばかりである。
指導の強制にくわえて、平日の夕刻(ときには早朝も)とさらには土日と、所定勤務時間を超えた部活動指導が当たり前になっている。そして平日残業代なし、土日も上限数千円の手当がつくだけである。しかも、当の競技や活動が未経験であっても、そこに巻き込まれる。今日の部活動が「ブラック部活動」と総称されるのも、もっともである。
◆先生の嘆きは「タブー」
教員における部活動負担の問題は、これまで部活動関連の議論から漏れ落ちてきた。部活動の問題点はこれまで、生徒の側の被害や損害、たとえば顧問からの暴力(いわゆる「体罰」)、過酷な練習とそれによる事故(熱中症や負傷・障害など)、生徒間のいじめなどの話題が中心であった。
このときの構図では常に、生徒は被害者で、教員や学校は加害者に位置づけられていた。被害者である生徒の立場から部活動を問題視することはできても、加害者とされる教員の側から不満を訴えることは教育界のタブーであった。
しかも学校では、「部活動を指導してこそ一人前」という教員文化が支配的だ。部活動を重荷に感じる教員の苦しみや嘆きは、なかなか表に出にくい。嘆こうものなら、「教師失格」と言われかねない。部活動指導を嘆くことは、長らく職員室のタブーであった。
◆ネット空間で先生たちが立ち上がった
では、なぜ部活動の実態が明らかになってきたのか。教育界や職員室のタブーを打ち壊して、教員側の声を拾いあげたのは、インターネット空間であった。
教育界や職員室では「部活がつらい」と言えなくても、匿名のTwitterであれば、声を発することができる。部活動の改善を目指す団体「部活問題対策プロジェクト」(2015年12月設立、教員6名で構成)の一員である「ゆうけん」先生は、「部活問題が社会問題として世に出るようになった最大のきっかけはTwitter」(ブログ「部活動のあり方はおかしい!」より)と振り返る。
Twitterでいざ声を発してみると、同じ思いをもっている人が意外とたくさんいることに気づく。そして先生たちが一人ひとりつながりながら、輪が大きくなっていった。
部活動改革を目指す新たな連携である「部活改革ネットワーク」(2017年4月設立、教員約60名から成る)は、まさにTwitterを活動基盤にしている。匿名の教員が地域を越えてつながり、部活動改革のための知恵と戦略を共有している。
◆部活動改革に向け教員ができることとは
教員向けの講演会で私が受ける定番の質問は、「私たち一教員に何ができるでしょうか」である。改革の気運が高まるなかで、自分に何ができるのかと先生たちが問いかけてくる。
そのとき私はいつも「インターネット環境があれば、ぜひTwitter やFacebookに登録をして、ほんの一言つぶやいてみたり、リツイートしたり、『いいね』ボタンを押したりしてみてください」と伝えている。
たとえば、Twitterで誰かがつぶやいたとき、そのつぶやきに対して「リツイート」をワンクリックするだけでよい。そこでリツイート数が一つ増え、またあなたのフォロワーにもその情報が伝わり、その結果さらにリツイート数が増えていく。
その「数」を見て、今度はマスコミやウェブメディアが関心をもち始める。そしてときに、記事を出してくれる。今度はその記事を私たちが、(自分の意見を交えずとも)ツイートすれば、記者は手応えを感じ、さらにその問題に関心をもってくれる。
改革とは、そんなに大げさなことではない。その方法は、意外と簡単で身近なところにある。
【「部活未亡人」 妻たちの嘆き 内田良・名大准教授 7/17】■「部活未亡人」の嘆き
教育界にはいつからか、「部活未亡人」なる言葉がある。夫(教員)が部活動指導に時間を奪われ、まるで夫がいないかのような立場に置かれた妻のことを指す。
部活動のあり方が問題視される際、長らくその中心にはいつも「生徒」がいた。過剰な練習の弊害や、顧問による暴力・暴言など、これらはいずれも生徒が受ける被害であった。それがこの数年、世論は「教員」の負担にも目を向けるようになった。部活動指導が長時間労働の主要因とされ、その負担の大きさが問題視されている。
そして新たにいま、「教員」本人ではないけれども、過熱した部活動の影響を日々直接に受けている「教員の家族」の声が、少しずつ大きくなっている。「部活未亡人」と呼ばれたり、あるいは「過労死遺族」となったりした家族からの訴えである。この記事では、とくに「部活未亡人」と称される教員の妻たちの声に焦点を絞り、その現実を伝えたいと思う。
■教育界内部で語られる 「部活未亡人」
「部活未亡人」には、本当に悲しい響きがある。
この言葉は、まだ世間に広く流布しているものではない。先生やその家族が悲哀を込めて使う、教育関係者の間に流通する特有の表現といってよい[注]。
私自身も、この数年ほど部活動改革にたずさわるなかで、学校の先生からこの言葉をたびたび見聞きするようになった――「『部活未亡人』ってご存じですか?」と。私が受け取った限りでは、後述するように、この言葉は皮肉や揶揄というよりは、部活動指導による夫の不在を真剣に問題視するために用いられているようである。
先生たちの説明によると、このところの部活動改革のなかでよく聞くようになったけれども、けっして新しい言葉ではないという。私が調べた範囲では、新聞紙上では、『静岡新聞』の2001年9月9日(朝刊)の特集記事「休日の部活動は必要か」に「部活未亡人」の表記を見つけることができる。
書籍の場合にはさらにさかのぼることができ、1996年刊『教師社会・残酷物語』(エール出版社)や1999年刊『学校のナイショ話・ウラ話』(河出書房新社)に、「部活未亡人」に関する記述を確認することができる。少なくとも1990年代にはすでに、「部活未亡人」という言葉が一部の教育関係者の間で使われていたようである。
■20代妻たちの声
「教働コラムズ」という、教員やその家族らが今年4月に設立したばかりのウェブサイトがある。
「部活動をはじめとした教員の労働環境の苦しさ・辛さをお互いに知り、実際に出会い悩みを共有する」ことを目的としており、部活動に携わる教員本人やその配偶者、さらには生徒の保護者の声などが「コラム」として掲載されている。
ここで、夫が部活動顧問である女性(妻)二人のエピソードを、一部割愛・編集の上、以下に紹介したい。
まずは、「運動部顧問の妻として出産前に思うこと」と題された、臨月中の妻の訴えである。
夫は、中学校教員で運動部の顧問をしています。平日は21時頃帰宅。ヘトヘトになって帰ってきて夜ご飯を食べてすぐに寝てしまいます。土日ももちろん部活で、半日部活でも平日に溜まった仕事をこなすため平日と同じくらい学校に残って仕事をします。
4月は1日たりとも夫に休みはありませんでした。夫婦の会話なんて事務連絡できたらいいくらいです。だってそんな時間ないのですから。
夫は子どもが大好きで、いい父親になると思います。しかし、部活による拘束でこれから産まれる子どもの話を夫婦でしたいのにできない。ベビー用品も一緒に見に行く時間もありません。4ヶ月前から何度も参加するチャンスがあった両親学級も、部活の大会、審判等により結局参加できませんでした。
夫を家庭に返して欲しい。私以外にもそんな思いをされている教員の家族の方がいるはずです。教員も、教員の家族も幸せに、当たり前に過ごすために、この声を上げ続け、部活問題を解決していきたいです。出典:(はーみ/20代/中学校運動部顧問の妻、全文はこちら)
続けて、「顧問の家族から考える部活動」と題して、幼い子どもをもつ妻からの訴えである。
主人は、月火水木金は6:00に家を出ます。夜少しでも早く娘が寝る前に帰るために、業務を早朝にし、朝練をみて、授業し、部活が終わってから残りの業務をして帰ってきます。
土日も同じく6:00に家を出ます。部活の練習試合です。長期休暇中は強化合宿や遠征試合で数泊家を空けることも。
私が初めての子育てで余裕のない中、主人も激務と部活に付随する保護者の理不尽なクレームでどんどん疲弊していました。そして教員6年目にして心療内科にかかりました。それでも学校からは、次年度の担任と部活動主顧問を頼まれました。
私は「部活動顧問を断ってほしい、せめて一週間に一回は一日休んでほしい」と主人に再三伝えました。でも主人にもどうすることもできない部活動の慣例や制度の矛盾があります。悪いのは主人ではなく制度なのだから、責めちゃいけない。喧嘩したいわけじゃない。
我が家は肥大しすぎた部活動の在り方に大きな不安を抱いています。そして将来自分の子どもたちは、自分のための休養や家庭の時間を大切にできる先生のもとで学べる教育環境になっていてほしいと強く願います。
出典:(ふぁしこ@coupe303/20代/教員家族、全文はこちら)読んでいて、胸が張り裂けそうになる。
夫は部活動のために休みなく働き、家庭を不在にする。まさに「部活未亡人」となりつつある現状に、妻たちは大きな不安を抱いている。
■若手の先生たちにおける過重な負担
年代別と運動部/文化部別の仕事量(拙著『ブラック部活動』より転載)声をあげた妻たちの年齢は若く、子どもの年齢も小さい。これは、ただの偶然ではない。
やや古い調査ではあるが、文部科学省の教員勤務実態調査(2006年度実施)は、若手の運動部顧問における過重負担をはっきりと示している。
たとえば中学校では、30歳以下の教員は30歳以上の教員に比べて、勤務日の残業や持ち帰り仕事の時間量が多い。また、運動部を担当する教員は、文化部顧問や顧問なしの教員に比べて、残業や持ち帰り仕事の時間量が多い。部活動指導においては、若手の運動部顧問にその負担が大きくのしかかっている。■重大な問題として向き合っていくべき
2016年を「部活動改革元年」と位置づけ、部活動改革を主導する長沼豊氏(学習院大学・教授、元中学校教諭)は、昨年、私との対談で学校現場の切実さをこう語ってくれた。
私は、(世の中の人たちに)実態を知ってもらいたいですね。たとえば、「部活離婚」という言葉があるんですよ。そして「部活孤児」、「部活未婚」、「部活未亡人」。これ別に比喩ではなくて、現実に存在するんです。こういう実態を、やはり知っていただきたい。1年間のなかで休みはお正月3日間だけで、あとはずっと土日もない。それは離婚するわと。
出典:「【内田良×長沼豊対談】まだ部活動で消耗してるの? ※括弧内は筆者が追記」長沼氏が強調するのは、「部活離婚」「部活未亡人」などの言葉は、現実に起きていることとして深刻に受け止めるべきということである。
冒頭で指摘したように、「部活未亡人」という言葉には、本当に悲しい響きがある。軽い話ではないのはもちろんのこと、それは皮肉でも揶揄でもなく、いま起きている現実を重大な事態として表現するものである。
部活動の過重負担は、ときに教員だけでなく、その家族をも苦しめている。
部活動には、たしかに多くの教育効果がある。そうだとするならば、今後は過熱した部活動を抑制しながらいかにその教育効果を達成できるのか、検討していくことが求められる。注:言うまでもなく、女性教諭のなかにも、部活動で時間を奪われている者は多くいる。
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