「加計ありき」 新設4要件の「新たな需要」 農水省・文科省検討せず
獣医学部の新設には、には新たな需要への対応、既存の大学・学部では対応できない、など4要件が閣議決定されている。ところが農水省も文科省も、いつ、どこで、どのように検討したのかの追及に「農水省は「(新たな需要の)知見を有しておらず、検討していない」、大学を所管する文部科学省も「特段意見を出していない」と答弁している。
その点で、郷原氏は、4条件を満たしていれば、既得権益を守るための規制に、官邸が主導的役割を果たすのはさほど重要な問題でないと、条件を満たしているかどうかがカギであると指摘する。そして、検討を加え、「今治市での加計学園の大学の獣医学部の新設を認可したこと自体、行政として合理的な判断とは到底考えられない。」とし、よって「首相の指示やその意向の『忖度』があったと考えざるを得ない。」としている。
政府にしても4条件について、どう検討し、充たしていると判断したのが、その材料をしめせばよいだけである。これは安倍首相が口実とする「『ない』ことを証明めすのは悪魔の証明」ではなく、「あるべきもの」「あるはずのもの」で、示せないことが最大の問題である。
【「加計ありき」いよいよ鮮明 田村智・紙両議員が追及 赤旗6/2】
【「加計ありき」いよいよ鮮明 田村智・紙両議員が追及 赤旗6/2】安倍政権が国家戦略特区で決めた52年ぶりの獣医学部新設は、やっぱり学校法人「加計学園」(加計孝太郎理事長)ありきだった―。1日の日本共産党の国会質疑で“行政私物化”の実態がいよいよ鮮明になりました。
◆ “今治構想”加計が前提
獣医学部新設は、愛媛県と今治市の共同提案が国家戦略特区諮問会議で認められたもの。加計学園は共同提案には加わっておらず、事業者公募に応じて選ばれた形でした。
田村智子議員は参院内閣委員会で、諮問会議が獣医学部新設を議論しているさなかの2016年9月7日に、戦略特区を所管する山本幸三地方創生担当相と加計理事長が面談していたと追及。山本氏は「加計理事長から今治市と共同で獣医学部新設を提案したのでよろしくとあいさつがあった」と述べました。「加計学園は共同提案者ではない。不自然だと思わなかったのか」とただした田村氏に、山本氏は「今治市と加計学園は従来から共同でやりたいと相談し、そういう要請をしていると理解していた」と答弁。田村氏は「それでは公募の意味がない」と批判しました。
山本担当相の発言は、“今治構想”が加計学園を前提としていたと政府が認識していたことを示しています。
獣医師は足りているという日本獣医師会などの批判をかわすため、新設される獣医学部には新たな需要への対応=既存学部との差別化という条件がつきました。その新たな需要を検討したのはどこなのか。田村氏の質問に、農水省は「(新たな需要の)知見を有しておらず、検討していない」とし、大学を所管する文部科学省も「特段意見を出していない」と答弁。田村氏は「いつ、どこで、誰が『新たな需要がある』『既存大学・学部での対応は困難』という結論にいたる検討をしたのか」と迫りましたが、山本担当相は具体的検討経過を一切明らかにせず「私が決断した」と繰り返しました。
◆ 内部文書を答弁裏付け
紙智子議員は参院農林水産委員会で、共産党の小池晃書記局長が明らかにした「内閣府審議官との打合わせ概要(獣医学部新設)」をもとに追及。16年9月26日付の同文書に「今治市構想について、獣医師会から文科省・農水省に再興戦略を満たしていないと指摘する資料が届いており」と記されていることを指摘したのに、山本有二農水相は「9月23日に日本獣医師会の蔵内勇夫会長と懇談した際に要請文を受領した」と述べました。
「概要」には、獣医学部新設に難色を示す文科省を、内閣府が「官邸の最高レベルが言っていること」「できないという選択肢はな(い)」と一蹴する様子が記されています。山本農水相が日本獣医師会の資料提出を認めたことは、「概要」の信憑(しんぴょう)性を裏付ける重要答弁です。
紙氏は、日本獣医師会も加わった農水省の「獣医師の需給に関する検討会」(07年)で40年までの需給を推計していたことを示し「新たな需要があるというなら推計を見直すのが農水省の役割だ」と強調。同省が推計を見直さないなら国会で集中審議を行うべきだとし、日本獣医師会などの関係者の招致を求めました。
【獣医学部新設は本当に必要なのか ~「法科大学院の失敗」を繰り返すな 郷原信郎 6/2】学校法人加計学園が運営する大学の獣医学部を今治市に設置する認可をめぐる問題は、2つの点に整理できる。
第1に、獣医学部の新設を認めた文科省の行政判断が正しかったのかという点、第2に、その文科省の行政判断に対して、内閣府・官邸側からの「不当な圧力」が加わったのではないか(或いは、「首相側の意向の忖度」が働いたのではないか)という点だ。
第1の点に関して問題がなかったのであれば、第2の点は、さほど重要な問題ではない。50年以上にわたって獣医学部の新設が認められて来なかったことに問題があったということであり、獣医師の業界の既得権益を保護する岩盤規制の撤廃のためには、ある程度の圧力がかかったり、忖度が働いたりすることも、むしろ望ましいということになる。
しかし、逆に、獣医学部の新設の設置認可の判断に問題があったということになると、なぜ、そのような問題のある判断が、所管の文科省において行われたのか、という点が問題となる。それが、官邸側の「不当な圧力」や、首相の意向の「忖度」によって行われたのだとすると、その背後には、加計学園の理事長が安倍首相の「腹心の友」であることが影響しているのではないか、ということになり、まさに行政が、首相の個人的な意向の影響で捻じ曲げられたのではないかという重大な問題に発展する。
前川氏が、記者会見で、「官邸側から文科省への圧力」の存在を窺わせる「文科省の内部文書」について「確かに存在した」と述べたことで、第2の点について関心が集中しているが、それ以上に重要なのは、今年1月まで文科省の事務部門のトップを務めていた前川氏が、獣医学部の設置認可に関する「行政が捻じ曲げられた」と明言したことである。
この点について、前川氏は、概要、以下のように述べている(産経新聞記事【前文科次官会見詳報(2)】)
今治市における新しい獣医学部の新設に向けて、新たな追加規制改革を行うかどうかは、2015年から既に検討課題にはなっていた。
「『日本再興戦略』改訂2015」という閣議決定があり、この中で、新たな獣医学部の新設を認めるかどうかを検討するにあたって、以下の4つの条件があると示した。
①現在の提案主体による既存の獣医師養成ではない構想が具体化すること、②ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになること、③それらの需要について、既存の大学学部では対応が困難であること、④近年の獣医師の需要の動向を考慮しつつ全国的な見地から検討すること、である。
獣医師養成の大学の新設を、もし追加規制改革で認めるなら、この4つの条件に合致していることが説明されないといけないが、私は4つの条件に合致していることが実質的な根拠をもって示されているとは思えない。
前川氏は、閣議決定により、上記4条件が充足されることが、獣医学部の新設の規制緩和の条件とされたのに、それが充たされないまま認可をすることになった、ということで、「行政が捻じ曲げられた」と述べているのである。この「4つの条件」で検討することについての閣議決定があったのは事実のようだが、問題は、加計学園の設置認可が、この「4つの条件」を充たしているのか、ということだ。
確かに、長年にわたって獣医学部の新設を認めて来なかったことは、一つの行政の規制であり「岩盤規制」と言っても良いであろう。一般的に、「岩盤規制の撤廃」は「善」であり、それに抵抗して既得権益を守るのが「悪」であるかのように決めつける見方がある。しかし、少なくとも、専門職の資格取得を目的とする大学等の設置認可や定員の問題は、そのような単純な問題ではない。
本来、憲法が保障する「学問の自由」(23条)の観点からは、大学等の設置は、自由であるべきだ。しかし、それが、何らかの職業の国家資格の取得を直接の目的とする大学、大学院の設置となると、国家資格取得者が就く職業の需給関係等についての見通しに基づいて、大学、大学院等の設置認可の判断が行われる必要がある。その見通しを誤ると、大きな社会的損失を生じさせることになりかねない。
◆国家資格取得のための大学院設置認可の政策の大失敗
2004年に70を超える大学に設置され、既に35校が募集停止に追い込まれている「法科大学院」、18校設置され、そのうち6校が募集停止に追い込まれている「会計大学院」等、近年、専門職育成を目的とする大学院設置認可で、文科省は失敗を繰り返してきている。それだけに、文科省としては、獣医師の資格取得を目的とする獣医学部の大幅な定員増につながる学部設置認可に慎重になるのも、ある意味では当然だと言える。
特に、法科大学院の認可の結末は惨憺たるものだった。2013年4月の当ブログ【法曹養成改革の失敗に反省のかけらもない「御用学者」】でも述べたように、法科大学院の創設、法曹資格者の大幅増員を柱とする法曹養成制度改革は、2001年の司法制度改革審議会の提言で、「実働法曹人口5万人規模」との目標が掲げられ、「平成22年ころには新司法試験の合格者数を年間3000人とすることをめざすべき」との政府の方針に基づくものだった。
文科省は、全国で70校もの法科大学院の設置を認可したが、結果的には、それらの法科大学院に膨大な額の無駄な補助金が投じられ、巨額の財政上の負担を生じさせたばかりでなく、司法の世界をめざして法科大学院に入学した多くの若者達を、法曹資格のとれない法科大学院修了者、法曹資格をとっても就職できない司法修習修了者として路頭に迷わせるという悲惨な結果をもたらした。
このような法曹養成制度改革は、「従来の日本社会で、『2割司法』などと言われて司法の機能が限定されてきたのは、諸外国と比較して弁護士等の法曹資格者が少なすぎたからで、その数を大幅に増やしてマーケットメカニズムに委ねれば、司法の機能が一層高まり、公正な社会が実現できる」という考え方に基づき、法務省主導で行われてきた。弁護士が少なすぎて弁護士報酬が高すぎるから、多くの人が訴訟等の司法的手段を選択しないのであり、弁護士を大幅に増やせば、司法的手段を使う人が大幅に増える、という極めて単純な考え方である。
法曹資格者が諸外国に比較して少ないことによって弁護士等の法曹資格者の既得権益が守られているという認識の下、「岩盤規制の撤廃」として行われたのが、法科大学院設置による法曹資格者の大幅増員の政策だった。
しかし、一つの国、社会において、司法的解決と、それ以外の解決手段とのバランスがどうなるのかは、社会の在り方や、国民・市民の考え方そのものに深く関わる問題であり、単純にマーケットメカニズムに委ねれば良いという問題ではない。
結局、法曹資格者の数は大幅に増えたが、訴訟はほとんど増えず、弁護士の需要はそれ程高まらなかった。
法務省が主導した法曹養成制度改革での「司法試験合格者3000人、法曹資格者5万人」という見通しに引きずられる形で行われた法科大学院設置認可という政策は、文科省にとっては「大失敗」に終わり、大きな禍根を残したのである。◆獣医学部の新設と獣医師の需要見通し
国家戦略特区の指定によって、今治市における加計学園の獣医学部新設の認可を強く求めてきた内閣府は、文科省にとって、法曹養成改革における法務省と同様の存在だったと言える。「確かな需給見通し」に基づかないものであれば、文科省が設置認可に強く反対するのは当然だ。
では、獣医学部卒業者が国家試験に合格して取得する獣医師の需給関係の見通しはどうだったのか。これまで獣医学部がなかった四国において獣医師の需要が特に大きかったのか。
獣医師の主な職種には、牛や豚・鶏などの産業動物を対象とする診療行為やワクチン接種、伝染病防疫等を行う「産業動物臨床獣医師」・「行政獣医師」等と、犬、猫などを対象として診療行為を行なう「小動物臨床獣医師」とがあり、概ね前者が6割、後者が4割となっている。
農水省の資料【畜産・酪農に関する基本的な事項】によれば、日本における家畜等の飼養数は、概ね横ばいの鶏以外は、牛、豚ともに減少傾向にある。畜産物の自由化に伴って日本の畜産業が衰退傾向にある中では、当然と言える。一方、【社団法人ペットフード協会の公表資料】によると、日本におけるペット飼育数は、ここ数年、犬が減少傾向、猫は概ね横ばいである(高齢化により、毎日散歩が必要な犬の飼育数が減少するのは自然のなりゆきとも言える。)。
獣医師が診療の対象とする家畜、ペットの数を見る限り、獣医師の需要が今後拡大していくことは考え難い。過去50年にわたって認められてこなかった獣医学部の新設を、今、新たに認める根拠となる需給予測を立てることは相当に困難だと言えよう。
では、従来、四国地域に獣医学部がなかったことが、同地域に獣医学部を新設しなければならない特別の事情になるのだろうか。農林水産省「平成27年農業産出額(都道府県別)」によると、平成27年の全国の畜産物産出額が3兆1,631億円であるのに対して、四国4県の産出額は、合計で1036億円であり、全国の3.3%に過ぎない。
しかも、四国というのは、独立した地域ではあるが、本四架橋が3ルートで開通して以降は、実質的に中国地方、関西地方と地続きに近く、四国地域に獣医学部が存在しないことが特に弊害を生じさせているようには思えない。
このように考えると、少なくとも獣医師の需要という面から、獣医学部の新設を根拠づけることは困難だ。既存の獣医師養成ではない構想が具体化し、ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになり、それらの需要について、既存の大学学部では対応が困難だという事情がある場合でなければ獣医学部の新設を認めるべきではないという、前川氏が指摘した閣議決定の「4条件」は合理的だと言える。加計学園が運営する大学の今治市での獣医学部新設は認可される余地がないように思える。「獣医師が新たに対応すべき分野」の獣医師医療という面では、むしろ、加計学園の大学ではなく、「ライフサイエンス分野の業績」を強調した京都産業大学こそ条件を充たす可能性が高いように思える。
◆獣医医療の質の確保の必要性と教育人材の確保
もう一つ懸念されるのは、今回160人もの定員の獣医学部を新設して、十分な質の獣医師教育が可能な教育人材が確保できるのかということだ。一度に70校もの法科大学院設置認可を認めた際にも、教育人材の問題があった。教員が圧倒的に不足した科目があり、また、実務教育のため現役法曹を実務家教員として活用しようとしたが、教育に不慣れなこともあって十分な教育成果が上がらなかったことも、法科大学院修了者の司法試験合格率の低迷の一因となった。
加計学園での獣医師養成教育については、果たして十分な教育人材が確保できているのであろうか。獣医師の国家試験に合格できない卒業生が出たり、資格はとれても、十分な技能を有しない獣医師を生じさせたりすることはないのであろうか。
獣医師の需要が、今後全体として増加するどころか、減少する可能性もある中で、従来の獣医学部の定員合計の2割を超える新たな獣医学部が新設されることで、獣医師が過剰になり、獣医医療の質が低下することだけは避けてもらいたい。
「ペット病院での診療費が高い」との声もあるようだが、健康保険制度がないペットの診療の単価が高くなるのは当然である。ペットに愛情を注ぐ多くの人は、ペット病院の診療費が低下することより、不測の怪我、病気の際のペットに対する医療の質が維持されることの方を望んでいるのではないか。
冒頭で述べた第1の点について、今治市での加計学園の大学の獣医学部の新設を認可したこと自体、行政として合理的な判断とは到底考えられない。
国家戦略特区を所管する内閣府の官僚が、「『岩盤規制の撤廃』は、国家資格取得のための大学等の設置認可も含め、あらゆる領域において『常に善』」などという妄想に取り憑かれているとも思えないので、彼ら自身の判断で、文科省に対して無理筋の認可を迫ったということではないのであろう。やはり、第2の点に関して、安倍首相の指示やその意向の「忖度」があったと考えざるを得ない。
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