介護「卒業」を強制する財政インセンティブ
医療・介護給付費の「適正化」の名のもとにその成果によって国からの交付金を増減させる動きが強まっている。国保の「保険者努力支援制度」、介護保険でも、同様の改悪が強行された。交付税にもそうした成果主義がはひこってきている。「ふるさと納税制度」も、市町村間の財源獲得競争という意味で同じ。国は新たな金を使わず自治体を誘導できる。
介護分野の先行自治体の三重県・桑名市では、介護保険から「卒業」して六か月間介護保険サービスを利用されていない方に、元気アップ交付金で、本人に2千円、事業者に1万8千円、ケアマネジャーに3千円を交付し、地域包括支援センターの委託費についても卒業件数等によってその委託費を決定している。
その結果、無理な「卒業」が強要されている。
国会論戦、参考人陳述などから・・・
【参考人 村瀬博・三重短期大学非常勤講師 参 - 厚生労働委員会 20175月23日 】
【「要支援者外し」先行自治体で何が サービス使えず重度化 介護保険“卒業”迫られ悲鳴 とくほう・特報 2016/2/4】
【介護保険制度2017年見直しの概要と問題点/説明資料 全日本民医連】
【参考人 村瀬博・三重短期大学非常勤講師 参 - 厚生労働委員会 20175月23日 】私の話の中心というか、限ったお話ですが、自立支援に係る財政的インセンティブについて考えるということですが、自立支援をどう評価するか、それに対するインセンティブをどのように付与するかという、そういった点を桑名市の事例についてお話をさせていただきます。
御存じの方も多いかと思いますが、桑名市は、厚生労働省から来ていただいた前副市長、今は厚生労働省へ戻ってみえますが、副市長さんが中心になって地域包括ケアシステムを骨組みから組み立てたという非常に先進的な市であります。二年間が経過したわけですが、今どんな状況になっているかということを私の懸念という意味でお話をさせていただきます。
厚生労働省のホームページで、要介護認定率の推移ということで、和光市あるいは大分県が自立支援に努力されて認定率が下がっているという表が載っておりますが、桑名市はこれを上回る認定率の減少という状況にあります。桑名市の場合には、先ほど申し上げましたように、二年前の四月、新しい総合事業ということで出発しました。この中心の柱になるのが地域生活応援会議、一般に応援会議と言っていますが、介護保険法では地域ケア会議の一類型という位置付けで出発しています。目的が、介護保険を卒業して地域活動にデビューする。
これは、下に桑名市のホームページを付けさせていただきましたが、この中ほどの右側に、高齢者が介護保険を卒業して地域活動にデビューするというのが一つの大きな目標となっています。このために多職種が協力していろいろな助言、支援をするという、そういうふうな仕組みで出発しております。地域生活応援会議というのはこんな形で行われます。左下の方に、サービス担当者あるいは介護支援専門員、いわゆるケアマネジャーが座りましてプランを提示します。約四十名の方が毎週、これは水曜日の午後、桑名市の市役所へ集まってこういう会議を開くわけですが、いろんな職種、理学療法士であったり薬剤師であったり作業療法士であったり、こういう方、それから地域包括支援センターの三職種の方々は基本的にはここに出席するという、そういうことで大変な人数になるわけです。ただ、多職種とはいうものの、医師の参加というのはこの中には予定されていない、医師は参加していないという状況があります。
この中でどういうことが話し合われるかというのを典型で示したのが、この桑名市のホームページにあります下の方です。これはよく見られた方も多いかと思いますけど、介護予防に資するケアマネジメントの在り方ということで、陥りがちなケアマネジメント、いわゆる独りで入浴できないという場合、清潔を保持したいという要求に基づいて通所介護、いわゆるデイサービスで入浴をするということになります。だけれども、こういうふうな形でいつまでもデイサービスに通うということになると、これは独りで入浴はできない、できないことを代わりにするケアがいつまでも続くということになります。
右側に目指すべきケアマネジメントとありますが、なぜ独りで入浴できないかということをよく検討するという中で、バランスが不安定で浴槽をまたげないという、そういう例であれば、デイサービスで足を持ち上げる動作を指導する、あるいは自宅で専門職種が自宅の浴槽をまたげるように訓練する、こういう経過をたどって独りで入浴できるようになる、いわゆるできないことをできるようにするケア、これを目指すべきだということで、応援会議の一つの方向性というか、そういうことを桑名市は何度もホームページ等で示しています。次のページ、四ページですが、この場合、私としましては、この自立という考え方についての誤解あるいは誘導があると考えます。
介護保険の目的は、状態を軽減あるいは悪化を防止するということが介護保険法に規定された目的、理念であるはずなのですが、介護度の改善だけが成果であるという捉え方をしますと、これは現場では大変なことになるんじゃないかなと思います。維持を評価する、状態の維持を評価するというのが基本というか、多くの人に当てはまる状態ではないかというふうに思います。
確かに、骨折をして、七十歳代の方で、先ほどのお風呂の図のように改善される、これは行政にとってもいいことですし、本人にとっても幸せな、一番幸せなことでありますが、多くは、四ページの下の図にありますが、高齢者の場合は、その状態像においては一般的には穏やかに老いる、その状態をどういうふうに支援するかという、そこに重点が置かれるというか、そういう状態を支援するということが大事ではないかと思います。
いわゆる、ケースを発見し、アセスメントをし、ケアプランを作成し、サービス担当者会議でサービスを選んで提供する、そして三か月後にはまたモニタリングをする、こういうぐるぐると回るサイクルが一般的に、穏やかに老いるためにその時点時点で支援していくというのが一般的ではないかと思います。
ところが、桑名の場合には上のいわゆる卒業ということが言われますので、卒業を目的としているという形で若干のゆがみというところへつながるというふうに思います。
次のページを御覧ください。
いわゆる数字目標ということになるかと思いますが、桑名市では、桑名市のホームページ、地域生活応援会議の評価ということに関しましてこういう表を掲げています。上の表の左下の方に評価指標というのがありまして、その目的、目標は卒業の件数です。卒業の件数を多くしていく。その右に評価結果、三角がありますが、これは、ちょうど一年ほど前の、地域包括ケアシステムの推進会議という、地域ケア会議の一番上部の団体という桑名市は位置付けをしておりますが、そこでの自己評価は三角になっています。これは、一つは、余り卒業が伸びなかったということもあるわけですが、丸が書いてあって、二つ目の丸に卒業された方のその後の把握等が十分にできていないという、卒業された後の方がどういう状況でいるかという把握がやるべきだということで、三角になっているということであるわけです。こういうふうな課題を私自身どうなっているんだろうということで、下のようなフォーマットを作りました。卒業後の状況調査票ということで、三月に桑名市さんにお願いして、桑名市から回答をいただいた結果がこういう結果です。
この結果の中で一番問題となる、まあ幾つか問題がありますが、一つは、⑤の自費のサービス事業所に参加という、卒業された方がなかなかそのままではやっていけなくて、それが九・二%、一〇%弱いる。同じデイサービスをやりながら自費のサービスで十割を払ってそのサービスを受けているという方がこういう比率というのは、介護保険は負担と給付というのを基本とした保険原理で成り立っている制度ですので、保険料を払いながら自費で十割払わなければ生活をしていけないというのは非常に重大なことだというふうに私は思います。
その下、⑥は介護保険サービスを受給ということで、卒業したものの重度化して介護保険の方へ戻ってきたという、その方が二割います。⑦番の死亡につきましては一〇・六%。この一〇・六%という数字は、昨年、社会保障審議会の六十三回介護部会の資料で、二年前要支援一あるいは要支援二であった方が二年後にどうなったかという表が九月七日の部会に提出されていますが、そのパーセントで見ても、大体多くても六%から七%が死亡というふうになっておりまして、桑名市が元気な方を卒業させたというか卒業に至ったということを考えた場合、一〇%を超える死亡者というのは多い、まあ母数が少ないという問題はありますが、そういうふうに私は思っています。
とはいうものの、①の自宅で元気に生活という、元気にという言葉、私がフォーマットで付けた言葉ですが、元気に生活というのが四割以上いるというのは成功ではないか、非常に目的が達成されているかという評価はあるんじゃないかというふうに一面思われるわけですが、次のページの表、上の表、これは行政自体が課題として、幾つか新しい総合事業を進める中で課題として掲げているものがありまして、今回の私の話に関連しては、一番右の、卒業後、住民主体のサービスにつながらない理由ということで書かれていますが、これは地域包括支援センターの三職種の職員さんに行った調査結果なんですけれど、行く手段がない、二十四、行く手段がないが半分近く、サービス回数が少ないというのも大体四分の一、サービスが合わないというのもかなりのパーセントがあるということで、初めこの円グラフを私が見せていただいたときに何か変な感じがしました。
卒業して元気でいわゆるデビューということができる方が、サロン等いろいろなそういうところへ行く手段がないというのは、元気になったはずなのに、なぜそんなことが起こっているのかというのは非常に不思議だったし、サービスの回数が少ない、いわゆるデビューで担い手となっていくべき方が、回数が少ない、週一回行くのが二回にしてくれと。そういう意味で言われるのは何か変で、実はそういう方が一定の支援を受けながら生活、そこで介護のサービスを一定必要としているんじゃないかという、いわゆるサービスを受けるという、そういうふうなことを意味する結果ではないかというふうに思いまして、先ほどのページの六十名四二・三%というのは、非常に元気に生活しているという状況ではないんではないかという、そういう懸念を持ちます。
申し訳ありません、戻ってもらって四ページですが、終結、評価というところですが、実際には、上の矢印、卒業した方が、お金のある方は自費サービスを利用している、十割を払ってでも利用している。この数は、そういうことをやっているデイサービスは十か所以上ありますので、かなり広がってきているということです。
下の②サービス待機卒業者と書きましたが、初め私はデビュー待機卒業者というふうな意味合い、言葉で書いたんですが、この円グラフの結果を見ると、もうサービスをやっぱり待機している卒業者という、こういうふうに書いた方が実質を表しているんじゃないかと思って変えたわけなんですけれど、待っている間に死亡あるいは重度化する方がかなり見えるという、こういうイラストを作りました。済みません、先ほどの六ページの下へ行きますが、既にインセンティブという意味で桑名市さんは、くらしいきいき教室という短期集中型のこれはサービスC型なんですが、そこで卒業された方、卒業して六か月間介護保険サービスを利用されていない方については元気アップ交付金ということで、本人さんには二千円、事業者さんには一万八千円、プランを立てたケアマネジャーさんには三千円を交付する。その下の地域包括支援センターの委託費についても卒業件数等によってその委託費を決定するという、そういうふうになっています。
七ページは認定率の桑名の下がり方ということで、アウトカム指標としましては桑名はこういうふうな表をホームページに掲載してチェックをしています。
最後のページは、そういう中で来年の四月には専門職によるサービスというのはもう廃止するということをパンフレット等で明言しているということで、住民主体のサービスで支えていくという、こういう仕組みを徹底させるという、そういう在り方を考えています。これについて私は大変懸念をしているところであります。
以上で意見とさせていただきます。ありがとうございました。
【倉林質問】 ●倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。 先ほど来質問も続いておりますが、財政的インセンティブについて質問したいと思います。 要介護認定率などの自治体ごとの違い、これを見える化して、給付適正化の努力を評価し、優先的に予算を配分すると、こういうものだと理解をしております。 本会議で、新たな財政投入で行うのか、既存の調整交付金を使うのかという質問をしましたところ、大臣は、追加財源を確保してやるべきという意見と財政中立でディスインセンティブを組み合わせてやるという意見の両方があり、詳細は検討中ということでした。 そこで、改めて今日は確認したいと思うんです。追加財源なしに既存の調整交付金を使って、大臣に聞きますので、インセンティブを与えるとなれば、給付適正化の努力が足りないというふうにされた自治体の予算は減るという関係になろうかと思います。こうなった場合は、減った自治体、これペナルティーになるんじゃないでしょうか。大臣、認識いかがでしょうか。●倉林明子君 いや、減る自治体が出ると、その五%の枠内ということになればということで、やっぱり減る方にとってはペナルティーになると思うんですよ。
反発の声ということで、医療のところでも、五月十七日に緊急要請ということで、知事会、市長会、町村会ということで緊急の要請も出ている。これ、やっぱりインセンティブやめてくれということですよ。介護保険でもこのようなペナルティー措置につながるインセンティブというのをやめてほしいというのは自治体からも上がっているということです。私、これを真剣に受け止めるべきだと思うんですが。
財政制度等審議会及び経済財政諮問会議、この民間議員からは、インセンティブは五%、これでやれという意見が上がっているということです。五%の調整交付金を使って傾斜配分をする仕組みにしなさいと、こういう要求が出ていると認識しているんですけれども、これ、ペナルティーにしてはならない。自治体の声をしっかり反映するというのであれば、財務省、財界人の提案はきっぱり拒否すると明言していただけますか。●倉林明子君 財政調整交付金で、その枠内で五%で傾斜配分せいというような明確な要求に対して、やっぱりノーとはっきり何でここで厚生労働省言えないんだろうかと、そういう立場でしっかり臨まないと駄目だというふうに厳しく指摘をしておきたいと思います。
自治体を競争させるこのインセンティブ、一体何をもたらすのかという中身の問題です。自治体の総合事業、先行事例ということで私はかなり見えてきているんじゃないかというふうに認識しています。
大阪府の大東市、ここで一体何が起こっているか。要支援者を対象とした新総合事業は昨年度からの導入です。要支援者や軽度者対象にして、自治体のケアマネジメントなど介護サービスを終了し、介護予防、大東元気でまっせ体操というんですって、これにつなげるというんですね。この一年間に要支援の人を三割、要介護一の人一割減らしたというんですよ。
もう一つ、午前中にも紹介あった三重県の桑名市の事例です。これは、介護保険を卒業して地域活動にデビュー、こういうことができた人が出た場合、交付金出すんですよ。元気アップ交付金、事業所に一万八千円、ケアマネジメントの実施機関に三千円、本人は二千円、市からお金を出す、こういうインセンティブを既に実施しております。これで認定率が低下したというわけです。
そこで、今後、認定率は直接指標にしないという答弁はいただいておりますけれども、介護保険から卒業させる、こういうことがインセンティブの評価指標としていくのではないかと十分に考えられるんですけれども、どうですか。これは蒲原さん、どうぞ。●倉林明子君 いや、大東市の元気でまっせ体操、これ厚労省のホームページでも、昨年の総合事業担当者向けセミナー、ここでも、今おっしゃったように厚労省が先進事例ということで紹介しているんですよね。つまり、自治体にとっては厚労省推薦事例という取組になっているんです。
そこで、一体どういうことになっているのかということが私は重要だと思っているんです。先ほど蒲原局長は、大前提としてサービス利用の阻害になってはならないと。この大前提が、じゃ担保できているのかということなんですよ。
午前中の桑名の実態、介護からの卒業ということで状態悪化となる例が起こっているということが村瀬参考人から紹介ありました。私たちも聞いています。死亡率も高い傾向があると懸念を示されておりました。要支援の場合は、これ卒業というだけじゃないんですね。要支援の場合は介護サービスが利用できないということで、何と自費負担ということで、約二割の人がそういう実態になっているんですよ。
じゃ、その先進事例、厚労省の推薦事例となっている大東はどうかと。これ見てみますと、医療機関から、あるいは事業所から上がってきているお話では、要支援一、この高齢者の通所リハビリ、こうしたものが認められずに、結果として寝たきりになるというような事例があるというんですよ。これ実際の話で、担当者が評価してどんなセルフケアが必要かを決めるということで、自分で介護予防体操をしなさい、入浴は風呂場を改修して自宅でと、こういうプランになったんですよ。まさに筋力アップで、風呂には自分で入れるようにということを指導受けたんだけれども、できなかったんですよ、自分では。で、悪化して寝たきりということが起こっているということなんですね。
これ、大東でも桑名でも共通していることがあります。それは何かといいますと、既に要支援で介護を利用している、こういう人に対して説得による卒業が勧められていると。卒業。卒業加算、二つ目、卒業加算などのインセンティブで卒業を促す仕組みを設けている。さらに、三つ目、新たなサービス利用希望者に対して基本チェックリスト、これを使うてくださいということで、安上がりなサービスへの誘導あるいは自分でやる体操の指導というようなことにつながっているんですよ。四つ目、地域ケア会議がこれ門番の役割担って申請や更新を簡単にさせない。こういう共通項が見えてきているわけですね。
私、介護が必要な人に、そして大前提としてサービス利用阻害につながらないという説明しているんだけれども、モデル事業推薦事例で起こっているこういう実態、ちょっとつかんでいるんだろうかと思うんです。こういう実態を踏まえたら、必要なサービス、これが適切に受けられているとは私到底言えないと思うんですけれども、大臣の認識、いかがでしょうか。
【「要支援者外し」先行自治体で何が サービス使えず重度化 介護保険“卒業”迫られ悲鳴 とくほう・特報 2016/2/4】安倍自民・公明政権が2014年の国会で可決した「医療・介護総合法」にもとづき、要支援1、2の訪問介護と通所介護を保険から外し、市町村の「新総合事業」に丸投げする改悪が進んでいます。介護給付費の削減がねらいです。17年4月にはすべての自治体でスタートする予定ですが、先行自治体で矛盾があらわになっています。 (内藤真己子)
【来春、全自治体で実施】
◆三重・桑名市
揖斐(いび)川の河口に面した三重県桑名市に1人で暮らすMさん(88)は要介護1。週5日通所介護に行っています。「おしゃべりして楽しいですよ。お風呂や送り迎えもあって、ありがたい」。ところがMさんは当初、通所介護を利用することができませんでした。
ボランティアで
一昨年秋、初めて要支援1と認定されました。隣市から世話に通う長女は通所介護に行かせようと、市が委託する地域包括支援センターに相談に行きます。ところがセンターは「要支援者がすぐ通所介護を使うのは難しい」と言い、ボランティアによる「シルバーサロン」利用をすすめました。
「パンフレットを渡されましたけど月1、2回だけなんです。送迎がないし使えないと思いました」と長女。介護サービスが利用できず3カ月が経過。引きこもったMさんの認知症が進みました。
「このままではダメや」。自身も介護施設で働く長女は意を決し直接、通所介護事業所を訪ねて、事情を説明。ようやく利用につながりました。介護認定を受け直すと要介護1へ、2ランクも重くなっていました。「要支援と認定されているのにサービスを利用させないのはおかしい」。長女は憤ります。◆自費利用が増加
こんな「水際作戦」ともいえる事態を引き起こしているのが、同市で昨年4月から始まった新総合事業です。国から派遣された特命副市長が主導し、厚生労働省の指針に沿って計画されました。全国の自治体から視察が相次いでいます。
そこでは「介護保険を『卒業』して地域活動に『デビュー』する」ことを目指した、「介護予防に資するケアマネジメント」が徹底されるのが特徴です。
新規の要支援者が介護サービスを利用するには、市当局や介護関係者らが出席する「地域生活応援会議」での検討を経なければなりません。膨大な資料提出が必要で、ケアマネジャーや事業所には大きな負担です。ケアプランでは半年程度で介護サービスを「卒業」=中止し、ボランティアなどの「住民主体による支援」への移行が求められます。
同市内にあるNPO法人・桑名の杜居宅介護支援事業所のケアマネジャー、中嶋恵子理事長(70)は証言します。「ケアプランで求められる介護サービスの目的が機能訓練に偏っています。訓練して介護サービスを『卒業』し『住民主体のサービス』に移行するよう厳しく点検されますが、実態にあいません」
別の事業所のケアマネジャーが続けます。「受け皿となる『住民主体』のシルバーサロンは少ないです。入浴はおろか送迎すらないので通所介護の代わりになりません」。実際、市内の通所介護72カ所にたいし「住民主体」は28カ所。回数も月1、2回が現状です。そのため「月1万円払って週1回の通所介護を続けている」など、自費の介護サービス利用が増えています。
同市はこれまでに28人が介護サービスを「卒業」したといいますが、その後の詳細は把握していません。住民主体サービスの担い手からは「認知症の要支援の方を受け入れましたが、無理でした。認知症や80歳以上の方は『卒業』の対象から外してほしい」と声があがります。
総合事業実施から昨年11月までに同市の高齢者(65歳以上)が532人増えるなか、要支援・要介護の認定者は逆に201人も減りました。
村瀬博三重短期大学非常勤講師は批判します。「『応援会議』のほか二重、三重の仕組みで要支援者が介護保険から排除されています。保険料を強制徴収しながらサービスを使わせない仕組みは保険原理にも反します。国家的詐欺といっていい」
◆ヘルパー報酬23%減 「お話する時間もなくなった」東京郊外の国立市。1月中旬の朝、ホームヘルパーの岡田千奈美さんが雪道を自転車で急ぎます。都営住宅の3階で1人暮らしの栗田栄子さん(93)が待っていました。「お変わりありませんか」。健康状態を確認し掃除の準備をします。
要支援1の栗田さんは週1回訪問介護を利用。「ヘルパーさんが掃除機をかけて、拭き掃除もしてくださるので助かっています」
同市は昨年4月から要支援者の総合事業への移行を開始。「緩和した基準による訪問型サービス」を導入し、ヘルパーによる「生活援助」の時間を1回45分に15分短縮。報酬を23%カットしました。市内の全訪問介護事業所がこれに参入。総合事業の訪問介護の95%を占め、栗田さんも同サービスを受けています。
たちまち40分が経過。「時間ですよ」、栗田さんがヘルパーの岡田さんに声をかけました。「お話しする時間がなくなりましたね」と栗田さん。岡田さんは実働時間が減り収入が落ちたと言います。
ヘルパーを派遣する地域福祉サービス協会・コスモス国立の服部文恵管理者(63)は訴えます。「これまでヘルパーが要支援の方といっしょに家事をすることで重度化を防いできました。それなのに時間や単価を削るなんて『予算削減先にありき』。重度化する危険があります」
総合事業への移行でコスモス国立の収益は減り、要支援者の受け入れを控えざるを得なくなっています。市当局も「『減収になる』と面と向かっていう事業者があることは否定できない」(高齢者支援課)と認めます。
さらに同市は研修を受けた無資格者による生活援助を計画しています。報酬は49%減です。服部さんは言います。「今後認知症の方が急増します。生活が組み立てられなくなる初期の認知症の方に必要なのは、生活全体を見通すことができる有資格のヘルパーによる援助です。なくなれば地域で暮らせません」◆安倍政権 要介護1・2外しも狙う
自治体が介護サービスからの「卒業」や、基準緩和サービス導入に走るのは、国が総合事業費の伸び率を75歳以上の高齢者人口の伸び率(3~4%)以内に抑え込むよう規制しているからです。2035年度には2600億円の介護給付費の大削減になります。
改悪はこれにとどまりません。安倍政権は要介護1・2のサービスの保険外しまでねらっており、17年の通常国会への改悪案提出を計画しています。
介護保険改悪に反対してきた大阪社会保障推進協議会の日下部雅喜介護保険対策委員は語ります。「さらなる改悪を止めるためにも国に総合事業の撤回を求めるとともに、自治体に『卒業』や『基準緩和サービス』の導入をさせないたたかいが大事です。国に総合事業費の上限撤廃を求めながら、当面、事業費が不足すれば自治体にも財源投入を迫っていく必要がある」■ 要支援者の保険外し 介護保険の要介護認定は軽度な者から、要支援1、2、要介護1~5に分かれます。改悪では、170万人の要支援者の5割以上が使う訪問介護と通所介護を保険から外し自治体に丸投げします。
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