国民不在 日欧EPA「大枠合意」ストップを
ほとんどまともな情報もないまま、この7月に日欧EPAの「大枠合意」がなされようとしている。現在眠っているTPP協定、日米の経済対話なども影響する。「自由化」の名のもとに関税や規制ルールなどの撤廃をすすめていくもので、地域経済、暮らしに大きな影響をあたえる。
とくに養豚、林業への影響が大きい。
欧米は、再生産を支える不足支払いなど岩盤制度、多面的機能の維持・増強を目的に再生産を支える直接支払いなど手厚い保護をしている。前提がまったく違うもとで、「関税」の「平等」を比べても意味がない。
TPP頓挫、アベノミクスの行き詰まり、低迷する支持率を「打開」するために地域と暮らしが犠牲にされてはたまらない。緊急な発信が求められる。下段に、「意見書決議案」の素案
【日欧EPAサイト 内田聖子】
【「CLTで林業振興」は夢となる? 日欧EPA交渉の行方 田中敦夫 6/26】
【日欧EPA 「大筋」ではなく「大枠」合意なぜこだわる 成果急ぐ政権 思惑見え隠れ 農業新聞6/26】
【対EU交渉 重要品目の国境措置確保を-JAグループ JA新聞6/17】
【緊迫 日EU交渉 「自由化ドミノ」に懸念 農業新聞6/27】
【国民に情報開示もないままの拙速な日欧EPA「大枠合意」を避けることを求める意見書案】
2013年5月から交渉が始まった日欧EPA(JEFTA)は、TPP以上に政府からの情報公開や説明が少なく、多くの人たちが交渉の内容はおろか、交渉分野の詳細や日本の主張を知ることができずにいる。日欧EPAは、TPPやRCEPなど他のメガ貿易協定と同じく、関税撤廃はもちろん、非関税分野も広範に含まれている。
地域経済や暮らしに直結する様々なルールが、変更される可能性が高く、その影響への懸念が広がっている。
農産品においては、特に豚肉や乳製品を巡り、EUはTPPを上回る水準の市場開放を要求。国内畜産業が大打撃を受けかねない状況にある。林業においても、TPP協定と同水準ということで、EU産木材製品にかけている関税を全廃する方向で調整していると報じられており、本県をはじめ林業振興、地域経済の活性化の中心としているCLTも当然その対象である。国内で製造されている国産CLTは、1立方メートル単価10万円すると言われており、それを早期に7~8万円台まで下げることを目標しているが、ヨーロッパではすでに6万円台まで価格が下がっており、たとえ関税撤廃に経過措置をもうけても、その影響ははかりしれない。
しかし、安倍首相は6月24日、神戸市での講演で「来月、大枠合意できるよう最終的な調整を急がせる」と明言し、EUの農相に当たるホーガン農業担当欧州委員が出身地アイルランドでのメディアとの会見で、「決着間近」との見通しを示している。7月7日からドイツ・ハンブルクで開く先進国と新興国の主要20カ国によるG20首脳会合を前に、大枠合意を目指すシナリオが描かれている、と指摘されている。このままでは十分な国民的な議論のないまま「決着」する事態に至っている。
大枠合意の内容が、新たな枠組みとして今後のTPP交渉や日米協議など他の通商交渉に波及することも必至であり、日本側の農畜産分野での妥協は「自由化ドミノ」となりかねない。すでに、米通商代表部のライトハイザー代表は既に、上院財政委員会の公聴会で米国の貿易赤字解消へ「日本は牛肉などの分野で一方的に譲歩すべきだ」と具体的な関心品目を挙げながら、一層の対日攻勢を強調している。
日本の食料自給率が39%と先進国最低の実態であり、「お金を出せばいくらでも輸入できる」時代はすでに過去のものとなっている。また、第一次産業の振興は、「地方創生」に不可欠であり、また国土保全、環境などの多面的機能の維持・拡充がますますもとめられている。
よって
1.交渉経過と内容を、ひろく国民に情報開示し、徹底した国民的議論を抜きにした「合意」をおこなわないこと。
2.重要品目の国境措置堅持が大前提の立場を堅持すること。
3.欧米並みの再生産を支える不足支払い制度や多面的機能の維持・増強を支える「直接所得」の抜本的強化など、第一次産業と地域社会の維持を政策の柱にすえること。
【「CLTで林業振興」は夢となる? 日欧EPA交渉の行方 田中敦夫 6/26】
田中淳夫 | 森林ジャーナリスト農水省・林野庁は、さかんに「林業の成長産業化」を唱えている。
あらたな木材需要を生み出し、林業を振興することで地域経済の活性化も目論むのだが、その中心に置いているのがCLT(直交集成板)だ。
CLTは、比較的分厚い板を直交させながら張り合わせたパネルで集成材の一種だが、非常に強度が増すのが特徴だ。耐火性、耐震性能もぐんとアップする。だからCLTを構造壁材として使えば木造ビルも可能になるのだ。
実際、欧米ではCLTによる木造ビルが次々と建てられている。たとえば現在建設中のカナダのブリティッシュコロンビア大学には18階建ての学生寮「ブロック・コモンズ」は、高さは53メートルだ。イギリス・ロンドンには80階建て木造ビル構想もある。
だから日本も国産材でCLTを製造し、またJASや建築基準法などを改正して建設に使えるようにすることに力を入れている。オフィス用ビルなどがCLTで建てられるようになれば、木材需要が増して林業振興に繋がるというわけだ。
ところが、そんな動きとは裏腹の事態が迫っていることがわかった。
妥結間近と言われる日本と欧州連合(EU)のEPA(経済連携協定)で、日本はEU産木材製品にかけている関税を全廃する方向で調整しているからだ。当然、この中にはCLTも含まれるだろう。
現在、国内で製造されている国産CLTは、1立方メートル単価10万円すると言われる。それをなるべく早く7~8万円台まで下げるのが目標だ。これ自体がかなり厳しいと思うのだが、ヨーロッパでは6万円台まで価格が下がっている。そんなCLTが関税なしで輸入されたら、果たして国産CLTは太刀打ちできるだろうか。
もし国産CLTも負けずに価格を下げようとすれば原木買取価格も下げねばならない。すると林業家の利益が圧縮されるだろう。それでは林業が地域振興につながると言えなくなる。いや、その前に山主は安い価格で木材を出すのを渋るのではないか。また製造メーカーは、安くなる輸入製材でCLTをつくろうとするだろう。
建築側からしても、欧米のCLTは実績が豊富で安定供給が約束されているわけで、どちらを使いたいと思うだろうか。
そもそも日本にとってEUは木材輸入先として大きい。CLTに限らず木材製品が安くなるのだから、いよいよ国内林業を圧迫するだろう。
政府は、撤廃までの猶予期間を求める方針だが、すでにCLT以外の構造用集成材はEU産が約9割を占める状態だ。果たして可能だろうか。ここ何年間か、林野庁や国交省はCLTの認可でやたら素早い動きを見せていた。しかし、それをちゃぶ台返しするような事態が進んでいる。
【日欧EPA 「大筋」ではなく「大枠」合意なぜこだわる 成果急ぐ政権 思惑見え隠れ 農業新聞6/26】日本と欧州連合(EU)が7月上旬に目指す経済連携協定(EPA)の「大枠合意」。日本政府は従来の通商交渉では「大筋合意」という言葉を使ってきたが、今回はあえて大枠合意を使う。どう違うのか、大枠合意にこだわる背景は――。
政府は、環太平洋連携協定(TPP)や日豪EPAなど、これまでの通商交渉で各国と合意に至った段階を「大筋合意」と呼んできた。署名で最終的に協定文を確定するまでの間に、法的精査など技術的な作業が残っているため「大筋」と呼ぶものの、実態は「ほぼ100%合意した状態」(TPP交渉関係者)という。
一方、今回の「大枠合意」は、大筋合意よりも完成度は低いとみられる。外務省幹部は「TPPの大筋合意ほど詰まりきれなくても合意と言える」と説明。仮に1、2分野が決着しなくても、互いに関心が強く、重要な関税分野などを決着させれば「主要部分は決着した」として合意を打ち出す考えだ。
日本がEPA交渉で大枠合意という言葉を使うのは、初めてとみられる。日本は日EU交渉で当初は、大筋合意を目指すとしていたが、昨年末ごろから「大枠合意」という言葉を使うようになった。
背景には、早く何らかの成果を打ち出したい安倍政権の思惑がある。交渉を推進するある省庁関係者は「大枠合意できれば、英国のEU離脱など保護主義が高まって以降、初めて結ばれた大規模な通商協定だろう」と指摘する。安倍政権にはこれを国内外にアピールし、急落した内閣支持率の上昇につなげたいとの思いがある。
日本とEUの首脳が会談する7月の20カ国・地域(G20)首脳会議の機会を逃せば次の節目が設けづらく、合意への勢いがそがれるとの切迫感もあるとみられる。だが、合意を急ぐ政府の姿勢に対し、与党内には「相手に足元を見られ、無理な要求をのまされかねない」(自民党農林議員)との懸念が少なくない。
【対EU交渉 重要品目の国境措置確保を-JAグループ JA新聞6/17】JAグループは日本とEUとのEPA交渉に関する要請事項をとりまとめ、6月15日に開かれた自民党の「日EU等経済協定対策本部」の第4グループ(農林水産分野)会合で奥野長衛JA全中会長らが「必要な国境措置を確保するよう交渉を」などと要請した。
日EU経済協定(EPA)については7月7~8日に行われG20首脳会合の機会に安倍首相は大枠合意をしたい考えで、自民党は6月6日の党総務会で対策本部の設置を決めた。党として7月の首脳会談に向けて対応を協議していく方針で、15日は1回めの団体ヒアリングを行った。 JAグループは「十分な情報提供がないまま日EU・EPA交渉が大枠合意に向かっていることについて農業者の間では大きな戸惑いと不安が広がっている」と指摘。
また、TPP協定からの離脱を表明した米国との間で年内に第2回日米経済対話が開催される見通しで米国は二国間交渉への強い意欲を示しているといわれるなか、「日本政府は日EU・EPA交渉において強い姿勢で交渉に臨む必要がある」と強調した。
具体的な要請事項としては▽28年12月の自民党と農林水産委員会決議に基づき、豚肉、乳製品等をはじめとする農林水産物の重要品目の再生産が引き続き可能となるよう必要な国境措置を確保するよう交渉を行うこと、▽わが国農林水産物・加工品の輸出拡大に向けた条件整備をはかること、▽交渉の状況について、生産現場に対して可能な限り情報開示を行うことの3点を要請した。JA全中の奥野会長は生産現場の努力を支える国境措置の確保とともに、輸出拡大が図られるよう条件整備も求めた。また、JA全中副会長の森永利幸畜産対策委員長は豚肉について「断固たる交渉」で国境措置の確保を求めた。
また、飛田稔章酪農対策委員長はEUからの乳製品輸入によって北海道酪農に打撃が出れば「わが国酪農全体への影響となる」ことや、農業者の所得向上をめざした国内での生乳の流通制度改革と矛盾しない交渉となるよう求めた。
会合ではEUの農畜産物は品質と安全性が高く生産者の不安が強いことや、乳製品など国内の生産力や需要の見通しなど徹底分析して、交渉の目安となる数値を示すべきなどの意見が出た。一方では農畜産物の加工品のEUへの輸出拡大も検討すべきとの意見も出た。
(写真)フランス・ブルゴーニュ地方のブドウ畑。EU全体のブドウ生産量は2600万t。ワインはEU最大の輸出農産品で全世界への輸出額は2兆8000億円(いずれも2013年)
【緊迫 日EU交渉 「自由化ドミノ」に懸念 農業新聞6/27】欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)大枠合意の動きが一段と加速してきた。大きな問題は安倍晋三首相の「前のめり」の姿勢である。保護主義への対抗、自由貿易堅持の名の下に、自動車と農畜産物をてんびんにかけ、農業に犠牲を強いる動きを懸念する。譲歩の内容次第では、他の通商交渉で新たな自由化が“連鎖”する「自由化ドミノ」が起きかねない。
全国の農業者が最も心配しているのは、十分な情報がない中でなし崩し的に押し切られないかという点だ。オーストラリア、米国を含む環太平洋連携協定(TPP)など農業大国との交渉では、重要品目を守るため衆参農水委員会の国会決議の存在が大きかった。だが、今回の対EU交渉は、昨年末の畜酪政策価格・関連対策で出された再生産確保の一文だけだ。不安が募るのは当然である。
官邸主導による「合意ありき」で、交渉急転の懸念が拭えない。日本側が「農業分野の交渉は難航」を強調する一方で、EUの農相に当たるホーガン農業担当欧州委員が出身地アイルランドでのメディアとの会見で、「決着間近」との見通しを示しているのも気掛かりだ。“水面下”で交渉は相当進展しているとの疑念も強まる。
大枠合意の内容次第では、新たな枠組みとして今後のTPP交渉や日米協議へと波及することが必至だ。つまり、日EU交渉が他の通商交渉に連動していく。日本側の農畜産分野での妥協は「自由化ドミノ」となりかねない。貿易交渉を担当する米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は既に、上院財政委員会の公聴会で米国の貿易赤字解消へ「日本は牛肉などの分野で一方的に譲歩すべきだ」と具体的な関心品目を挙げながら、一層の対日攻勢を強調した。
安倍首相は24日、神戸市での講演で日EU交渉に関連し「来月、大枠合意できるよう最終的な調整を急がせる」と明言。早期合意の時期をあえて区切った。しかも、大筋合意に比べ合意内容のレベルが落ちる大枠合意の言葉をあえて使い分けた。成果を急ぐ官邸の思惑が見え隠れする。内閣支持率低下が顕著となる中で、耳目を集め、再び政権の浮上を狙う政治的判断が働いているとの指摘もある。「前のめり」の姿勢が市場開放への呼び水にならないか。首相は「重要品目の国境措置堅持が大前提である」と明言すべきだ。
大きなヤマ場は、7月7日からドイツ・ハンブルクで開く先進国と新興国の主要20カ国によるG20首脳会合だ。その前に日EU首脳会談で、大枠合意を目指すシナリオが描かれている。日EU協議はメガ自由貿易協定を具体化することで、米国などで台頭する保護主義をけん制する狙いもある。その結果として国内農業が犠牲になるのは全く間違いだ。安倍政権は食料自給率が39%と先進国最低の実態を直視し、自給率と自給力の底上げにこそ目を向けるべきだ。
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