農業・農村つぶす農業競争力強化法
大手メーカーの独占価格引き下げ、買い叩きに対抗する協同組織を解体めさす、農業競争強化法が12日成立した。農業・農村をつぶし、地方の疲弊を加速する法律である。以下は、その問題点について解説もたもの。
【地域経済・雇用に影響 農業競争力強化法ただす 紙議員 5/16】
衆院農水委での2名の参考人意見陳述〔農民新聞4/17〕
【競争力強化でなく 農業弱体化法案だ 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏】
【担い手の多様性尊重し重層的な構造の構築を 岡山大学大学院教授 小松泰信氏】
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【農業競争力強化支援法案を廃案へ 小松 泰信 (岡山大学大学院教授4/5】
【農業競争力強化支援法案を斬る 狙いは総合農協潰し 田代洋一 横浜国立大学・大妻女子大学名誉教授2/20】
【地域経済・雇用に影響 農業競争力強化法ただす 紙議員 5/16】日本共産党の紙智子議員は9日の参院農林水産委員会で、農業競争力強化支援法(12日成立)で政府が進める農業関連企業の業界再編が持つ問題点をただしました。
政府は、業界再編によって生産や流通コストを下げるといいます。紙氏が農業機械などの独占価格はどの程度下がるのかとただしたのに対し、農水省の枝元真徹生産局長は「どの程度下がるか見込むことは困難」と答弁。農産物の買いたたきについても、山本有二農水相は「公正取引委員会等が監視する」と述べるにとどまり、独占価格引き下げにも、買いたたき抑止にも効果がないことが明らかになりました。
政府は業界再編指針を策定しますが、指針は国内の規制改定や経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)にあわせて変更するとしています。業界再編で中小メーカーの労働者を解雇、首切りすることもあるので、国は就職をあっせんするなどとしています。
紙氏は、規制改革推進会議の意見や農産物のさらなる自由化にあわせれば、農業を基幹産業とする地域経済、雇用に重大な影響を与えると主張。国が農協の共同販売を支援することなく、農産物の直接販売を促進、誘導すれば、農協外しになりかねないと指摘しました。
【競争力強化でなく 農業弱体化法案だ 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏】この法案は、全体として、農業競争力強化ではなく、弱体化になりかねないと思います。本法案を含む「農業競争力強化プログラム」の底流には「民間活力の最大限の活用」という表現で、「規制緩和すればすべてがうまくいく」という時代に逆行した短絡的な経済理論があります。
そしてその裏には既存の組織によるビジネスやお金を自らの方に引き寄せたい「今だけ、 カネだけ、自分だけ」という「3だけ主義」の人たちの思惑が見え隠れしています。
国民が求めているのは、アメリカを含む一部の企業利益の追求ではなく、自分たちの命、環境、地域、国土を守る安全な食料を確保するために、国民それぞれがどう応分の負担をして支えていくのかというビジョンと、そのための包括的な政策体系の構築です。
競争は大事ですが、共助・共生的なシステムとその組織(農協や生協など)の役割、消費者の役割、政府によるセーフティーネットの役割などを包括するビジョンが、本法案にはありません。
◆共販と共同購入位置付けるべき
本法案には、個々の農家が農産物の販売先や資材の購入先を多様化させて、農協を通じた共販や共同購入から、むしろ離れることを意図するような文言があります。
歴史的に見れば、大きな相手と農家が個別取引することで農産物価格が買い叩かれたり、資材価格がつり上げられたりして、農家は苦しんできました。
そこから脱却するために農協による共販と共同購入が導入され、これは取引交渉力を対等にするものだとして独占禁止法の適用除外とすることが、世界的な原則になっているのです。つまり農業所得の向上には協同組合の共販と共同購入が重要であることを、本法案にもしっかりと位置付けるべきだと思います。◆ コストダウンで競争に勝てない
それから、そもそもコストダウンだけが競争力強化だという視点もまちがいだと思います。
「強い農業」とは何でしょうか。規模拡大して、コストダウンすれば「強い農業」になるでしょうか。それだけをがんばっても、オーストラリアやアメリカには一ひねりで負けてしまいます。
「少々高いけれども、ものが違うからあなたのものしか食べたくない」という人がいることが重要で、本物を生産する生産者とそれを理解する消費者とのネットワークこそが、強い絆の源です。
またスイスやフランスなどでは、環境保全や景観、生物多様性など農業が果たしている多面的機能が国民にも理解されており、アメリカでは農家に最低限の所得が確保されるような「予見可能」なシステム、政策を完備しています。これが食料を守るということです。農業政策は、農家保護政策ではなく、国民の命を守る安全保障政策です。
そういう意味では、わが国の収入保険は米価が下がるたびに基準収入が下がり、セーフティーネットとはいえません。まったく規模の違うアメリカ農業が不足払いなど徹底した農業競争力強化策を行っているのに、わが国はセーフティーネットもなくし、コストダウンだけで競争に勝てるというのは、実は日本から家族農業がなくなってもいいという議論になるのではないでしょうか。
◆一連の農業改革プロセスは異常
最後に、一連の農業政策プロセスは異常だと言いたい。規制改革推進会議という法的位置づけもない諮問機関に、利害の一致する仲間だけを集めて国の方向性が決められ、誰にも止められないというのは異常事態です。本法案は、アメリカの経済界の要求に応えて、信用・共済マネーを奪い、共販と共同購入を崩し、既存農家をつぶして企業を参入させようという同会議の答申を受けたものになっており、農家所得増を目指す農業改革ではありません。同会議は解散すべきです。
国民に有害な「3だけ主義」の流れに終止符を打ち、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」の法案をつくるべきです。真の農政改革実現には、政界再編の方が効果的だと思います。
【担い手の多様性尊重し重層的な構造の構築を 岡山大学大学院教授 小松泰信氏】◆地域に根を張り 資源の保全管理
今朝の新聞報道では、本日、農業競争力強化支援法案が可決されるとあり、参考人質疑はどうなるのかと心配しましたが、食料については超長期的、将来にわたる問題なので、見解を述べさせていただきます。
今大切にすべきものは何か。農村社会は2つの領域から成り立っています。1つは、表層領域で食料の生産販売機能をもち、財・サービスの取引と運営や参画を行うものです。農協はこの領域に位置づけられます。
2つめは、基層領域で、地域にある土地や里山など地域資源の保全管理を行い、人のつながりやコミュニティーを維持し、伝統文化、防災、信仰・神事などを守り、司るところです。農家組合など集落組織がここに位置づけられ、地域を支え、地域に根を下ろしているところです。失われたら、取り戻すことができない領域でもあります。
農業競争力強化支援法案や今の農業をめぐる動きは、基層領域の重要性を認識していないか、あえて目を伏せているのではないかと危惧しています。
農業競争力強化支援法案を検討する際に次のことを考えなければならないと思います。(1)第2次、第3次産業の論理を単純に第1次産業に当てはめることは問題、(2)農業には、地域に根を張った根強さが求められる、(3)自給率39%で国民の体の基礎代謝すら賄えていない現状で輸出を語る資格なし、(4)生命の連鎖性という農学の使命から考えたとき、超長期の視点、岩盤規制、成長よりも安定、改革よりも日々の改善・改良が大切――であること。
「農業の競争力」強化と言いますが、今年の農業の競争相手は昨年の農業、来年の農業の競争相手は今年の農業ということになります。法案のいう「有利な条件」とは何か。これは買い支えるという判断や超長期的な視点からの個人的な判断に委ねられるものであり、その是非を他人が判断すると恣意的になる可能性が大きいと思います。
さらに法案のいう「良質かつ低廉な農業資材の供給」について、資材の銘柄の多さは、業者が農業者や農協のニーズに応えてきたという側面があります。各地域の農業の特色や自然条件にも差異があります。
法案は、「農産物流通等の合理化」を実現するための施策と言いますが、農産物の商品特性に対応すべく整備された卸売市場の存在意義をどう考えるのでしょうか。卸売市場は、豊富なアイテム数の農産物を安定的に供給し、わが国の豊かな食生活の創造に貢献してきましたし、これからも貢献します。にもかかわらず、合理化の対象とすることは疑問です。新たな流通経路は枝葉であり、卸売流通という大幹があればこそ、その存在意義を発揮できるという点を忘れるべきではありません。
また、「農産物流通等事業にかかる事業再編または事業参入の促進」等をうたいますが、事業への参入主体は国外企業・資本ということも十分想定されます。食料の安全・安心を担保するうえで大いに疑問です。民間企業の再編は市場原理を基本に進められるべきであり、過剰な介入だと考えます。
さらに、「農産物の直接販売の促進」をいいますが、これは、「間接的な流通経路を選択するな」ということを意味します。既存の中間業者や業界を国家が壊す行為です。
◆ 食料自給率の60%実現めざし
最後に、私たちには今、健康で文化的に適切な食料を持続的に得る権利を保障する国づくりが求められています。
わが国の食文化を守りながら、まず食料自給率60%を目指すことです、せめて国民の基礎代謝ぐらいは自給できる国づくりが必要です。
人的資本への大胆な投資で、農のある世界のひとづくりを実現し、担い手の多様性を尊重し、重層的な担い手構造を構築する必要があります。
【農業競争力強化支援法案を廃案へ 小松 泰信 (岡山大学大学院教授4/5】政府が、農業競争力強化プログラム関連8法案のなかでも最重要と位置づけている、農業競争力強化支援法(以下、強化支援法)案に関し、6日に予定されている衆議院農林水産委員会において、参考人として意見を陳述する。関連資料等を読めば読むほど、その問題点が明らかになってくる。
◆強化支援法の出自と見当たらぬ「農業所得の向上」
同法案は、昨年11月に政府・与党が取りまとめた「農業競争力強化プログラム」の、「生産者の所得向上につながる生産資材価格形成の仕組みの見直し」と「生産者が有利な条件で安定取引を行うことができる流通・加工の業界構造の確立」に係るものである。
法案提出の理由は、「農業者による農業の競争力の強化の取組を支援するため、良質かつ低廉な農業資材の供給又は農産物流通等の合理化の実現に関し、国の責務及び国が講ずべき施策等を定め、農業生産に関連する事業の再編又は当該事業への参入を促進するための措置を講ずる等の必要がある」と、記されている。
競争力強化、良質かつ低廉な資材供給、農産物流通等の合理化、事業の再編と参入促進、がキーフレーズ。しきりに言われてきた「農業所得の向上」という文言は見当たらない。農業所得の向上を出汁にした、規制緩和による事業の再編と参入が本当の狙い、という見立ても可能だ。◆外資企業にも門戸開放
というのも、3月23日衆議院本会議において、畠山議員(日本共産党)が事業再編と参入促進に関する実施指針において、国籍などの要件がないことから、外資の参入の可能性を問うたところ、農相は「事業者の国籍に関係はありません。外資企業が支援措置を活用することも可能」と、答弁したからである。見立て違いの可能性は少ないようだ。
その農業資材に関する条文で、しきりに繰り返されるのが「良質かつ低廉」という枕詞である。これを見た瞬間思い出したのが、〝ええもん高いのは当たり前! ええもん安いのが.........〟という、若いころよく利用していた関西圏にある某スーパーのBGMである。これは、良質かつ低廉な商品を提供することが、いかに難しいかを示唆している。加えて、質や価格に関する消費者の判断は、使用する目的や状況で異なるもの。それを条文で示さねばならないものなのか、理解に苦しむところである。
おそらく、できない約束を全農はじめ生産資材に関わる農業生産関連事業者に突きつけ、全農さらにはJAグループの解体を目指しているのではないか、という職業病的妄想が広がるところである。◆「良質で低廉」要求の先にあるもの
4月3日の日本農業新聞に、昨年8月下旬から9月上旬に農水省が農業者を対象に実施(回答者数1149人)した、〝農協に対する農業者の意向調査〟の結果の一部が紹介されている。
資材の供給価格については、「満足していない」が52%、「どちらともいえない」が33%、「満足している」が8%。期待することを2つまでとの問いには、「価格の引き下げ」が82%と最多。次点の「品ぞろえの充実」が28%であるから、低価格化要求がいかに強いかがわかる。
農協の農畜産物の販売価格についても、「満足していない」が35%、「どちらともいえない」が41%、「満足している」が10%。期待することを2つまでとの問いには、「販売力の強化」が77%。次点の「消費者ニーズの把握と生産現場への情報提供」が27%である。高値を求めた販売力強化要求の強さがわかる。
これらから、「農協が供給する生産資材価格や農畜産物の販売価格に満足している農業者は少なく、資材価格の引き下げや農畜産物の高値販売に期待する声が大きいことが改めて浮き彫りになった」と、記事には記されている。
しかし、このデータから、「だからJAの経済事業は駄目。全農改革も自己改革も進んでいない」と、結論づけるのは早計である。いかなる経済主体にとっても、買うものはできるだけ安く、売るものはできるだけ高く、というのが一般常識であり、永遠の願望だからだ。
これが農水省や政府・与党がしきりに言う点検でありフォローアップだとすれば、JAグループが、彼らにその役割を奪われた瞬間に勝負あり。JAグループが解体するまで、彼らは執拗に攻め続けてくる。もちろん解体したあとはハゲタカたちが利権を狙って国の内外から飛来する。ハゲタカたちが、全農やJAグループ以上に「良質で低廉」な資材を供給する保障はない。
◆本法案は廃案が適当同法第13条には、「国は、農産物流通等の合理化を実現するため、農業者又は農業者団体による農産物の消費者への直接の販売を促進するための措置を講ずるものとする。」として、農産物の直接販売を促進することが示されている。直接販売のメリットやデメリットの精査以前に、卸売業者をはじめとする既存の中間業者に対する〝非利用のすすめ〟という性格が感じられる。だとすれば、法が特定の業界や業者の非利用促進をうたうことは極めて問題といえる。
すでに本紙において、田代洋一氏が〝努力規定〟や〝市場経済への過剰介入〟等々の問題点を指摘し、バッサリと斬り捨てている。当コラムもまったく同感。よって本法案は廃案とすべし。
【農業競争力強化支援法案を斬る 狙いは総合農協潰し 田代洋一 横浜国立大学・大妻女子大学名誉教授2/20】政府は2月10日に「農業競争力強化支援法案」を閣議決定し、今国会に提出する。法案には農業者や農協の努力規定が盛り込まれるなど、民間の経済活動に対して国が介入し一定の選択・行動をとるよう法律でしばろうとしていると批判が出ている。法案の狙い、問題点は何か-。田代教授に国会で十分な審議を行うためにも問題点を指摘してもらった。
◆農業者のプライド傷つけ
農業競争力強化支援法(以下、強化支援法)案の農業者の努力規定が自民党内で問題になり、例によって微修正がなされた。農水省の当初案は「農業者は、その農業経営の改善のため、農業資材の調達又は農産物の出荷若しくは販売に関して、必要な情報を収集し、主体的かつ合理的に行動するよう努めるものとする」だったが、議員から「農業者個人の判断にまで踏み込んだもの」「農業者の一人として馬鹿にされたようだ」「農業者に対して上から目線」といった反発が噴出した。
それに対して農水省の総括審議官は、三条で国の責務、四条で農業生産関連事業者の努力を規定したので、「そのうえで恩恵(メリット)を受ける農業者に対して農業経営の改善のために努力してもらいたいという意味で規定した」「法制局から条文のバランスをとるために農業者の努力義務規定を記載するよう指示を受けた」「努力義務は訓示規定であり罰則は設けない」「フォローアップの際に指導することは考えていない」と答えている。
やり取りの末、「有利な条件を提示する農業生産関連事業者との取引を通じて、農業経営の改善に取り組む」よう修正することで一件落着したようだ。しかし「主体的かつ合理的に行動」が「農業経営の改善」となっただけで、農業者に農業経営の改善努力を課する点は変わらない。
ちなみに「訓示」を辞書で引くと、「(執務上の注意などを)上の者が下の者に教え示すこと」とあるので、「上から目線」であることに変わりはない。国が民間会社の社長にしっかり経営しろと訓示を垂れたらどんな反応が返るか、想像しただけでも事の異常さが分る。「指導は考えていない」というが、「指導」と「訓示」はどう違うのか。「法制局の指示」という弁明も責任転嫁であり、「主体的かつ合理的に行動」すべきは農水省の方ではないか。
とはいえ最近では、国の責務に次いで関係者の努力規定を設けるのが法の書きぶりになっている。食料・農業・農村基本法も、国・地方公共団体の責務の次に「農業者等の努力」をあげている(九条)。しかしそこでの「努力」とは「基本理念の実現に主体的に取り組む」こと、すなわち食料の安定供給の確保、多面的機能の発揮、農業の持続的発展、農村の振興という農業者の国民に対する社会的責任を規定したものである。
しかるに強化支援法のそれは、農業者が自ら責任をもつ個別経営について「主体的かつ合理的に行動」しろというものであり、そこには、農家は農協の言うことに唯々諾々と従う非主体的・非合理的な存在であり、国が善導してやらねばならぬものという古い農政思想が息づいている。
罰則も指導もないのなら農業者の努力規定は個別具体法にわざわざ入れるべき法律マターとはいえないが、それを敢えてするのはなぜか。◆市場経済への過剰介入
第一に、国家の市場経済への過剰介入の根拠づけである。本来、農業者の「営業の自由」の領域にまで国家が乗り出して、仕入れ・販売の方法を方向付ける。それは例えば国に「第二全農」を作らせるとか、指定生乳生産者団体が行ってきた牛乳の需給調整を国に販売計画・実績を報告させて国が需給調整に乗り出すといったことにも現れている。「第二全農」は規制改革推進会議の言辞だが、財界はトランプ流「自分には自由、他人には規制」である。強化支援法の全体に、国の力で産業構造を変えてみせるという介入主義が充満している。
それは安倍内閣で勢いを得た経産省ターゲッティング派の「新ターゲッティングポリシー」(特定産業・企業への国家介入)に近い。強化支援法が対象とする領域は本来、経産省の守備範囲にかぶる。経産・農水省の共管領域ともいえる。そのことは農水省が出張ったというよりも、農水省の経産省への統合過程の一齣であろう。農林次官は「農業が産業化し、農水省が要らなくなることが理想」(『ダイヤモンド』2016年6月9日号)とうそぶいている。省益争いはどうでもいいが、本来の農業政策の領域がなくなったら困るのは農業者だ。◆総合農協と全農潰し狙う
第二に、法案は、国が「農業者又は農業者団体が、農業資材の調達を行うに際し、有利な条件を提示する相手方を選択するための情報を入手することができるようにする」(第十条)、国は「農業者又は農業者団体による農産物の消費者への直接の販売を促進する」措置を講ずる(第十三条)、としている。これは農業者や農協の購買・販売の方法を特定づけるもので、協同組合としての共同購入・共同販売の否定につながる。農水省の修正原案には「農業生産関連事業者を適切に選択すること」が入っていたそうだが、要するに単協(農業者)と全農の利害対立をあおり、全農と他の事業者との比較を露骨に指示し、系統購買事業潰しを狙っていると言える。
これらは本体の農協法改正には盛り込まれなかったものだが、農協「改革」の初発から規制改革(推進)会議が狙ってきたことで、それがここにきて法律に頭を出した。とくに推進会議のWGの原案は、指定生乳生産者団体の廃止、クミカンの廃止、三年間で半分の農協の信用事業を譲渡させるとしていた。そこに共通するのは協同組合の否定、もっと言えば協同組合は株式会社になれというメッセージであり、本法にも貫かれている。
すなわち農業者の努力規定の次には農協や全農の努力規定が入っている。農協や全農は国や企業の努力の「恩恵(メリット)」を受けるのだから、自らも努力するのは当然だという論理である。結果、農業者の農業所得の増大が思わしくなければ、農協や全農がその責任を取らされ、さらなる農協「改革」を押し付けられることになろう。それは、単協が信用事業を譲渡するまで、そして全農が事業をやめるまで続くことになりかねない。◆法案の充実した審議を
第三に、敢えて農業者の矜持を傷つけて空中戦を演じることで、肝心の法案内容から目をそらさせている。同法は、元をただせば「総合的なTPP関連政策大綱」から「農林水産業・地域の活力創造プラン」に引き継がれ、今国会への8本の法案提出になったものの筆頭だ。法案にはそのほか、種子法の廃止、土地改良法、農工法、農業災害補償法(収入保険がらみ)、畜安法(指定団体の廃止)の改正等が含まれ、いずれも農政の根幹にかかわる。
種子法や指定団体の廃止は、規制改革推進会議が自由競争を建前として民間企業の参入やアウトサイダーへの補給金支給を求めたものだ。その結果、多国籍企業の種子ビジネスの進出を招いたり、牛乳の需給調整を乱し、対メーカーの価格交渉力を低める結果になる。
土改法改正は、農地中間管理機構が借り受けた農地について地権者の費用負担や同意を求めずに基盤整備できるとするものだが、共有地(相続未登記農地等)について、代表者一人を選任できるとするもので、地権者の権利を侵す可能性を持つ。 農工法改正は対象業種をサービス業等にも拡大するもので、敷地の大きなものの導入で農地転用を促進しかねない。収入保険は青色申告を条件とするが、それでは農業者の三割しかカバーできず、かつ収入が傾向的に低下していく場合には有効でない。また農業共済が任意加入になると、大きな被害を受ける者が出かねない。
他方で野党四党が、TPP発効を待たずに牛豚の経営安定対策(マルキン)を講ずる法案を提出する等、政策的な競り争いが強まっている。
政府提案の8法案は、TPPが潰えた後で安倍首相が日々傾いている日米FTAの受け皿作りになるものである。その中に農業者のプライドを傷つけ、過剰介入する法文を無神経に装填するのは、後ろから鉄砲を撃つに等しい。農業者も農協も怒るべき怒りつつ、法案内容の冷静な吟味が欠かせない。
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