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日本郵政・巨額損失 米日金融資本の都合ではじまった民営化の末路

 M&Aで巨額の損失を出した日本郵政。ユニバーサルサービスを担う公的セクターを、無理やりに利潤第一を魂とする民営化した結果である。そもそも民営化は、米日金融資本が郵貯マネーとそのネットワークを餌食にするためのも。
 この民営化路線の現在の焦点が農協「改革」である。農協マネーとネットワークの獲得、販売・購買分野で大手メーカーと対峙する価格交渉力の破壊・・ ここでも「改革」の出所は、米日巨大資本である。

【日本郵政「M&A蟻地獄」、お荷物の郵便抱えた民営化の末路 2017/5/25】
【日本郵便元副会長が実名告発「巨額損失は東芝から来たあの人が悪い」 これでは東芝と同じじゃないか… 週刊現代5/24】

【日本郵政「M&A蟻地獄」、お荷物の郵便抱えた民営化の末路 2017/5/25】

山田厚史:デモクラシータイムス同人・元朝日新聞編集委員

民営化し株式を売り出した時、赤字転落を誰が予想しただろう。豪州の物流会社トールの買収に失敗し、4003億円を減損処理した日本郵政。「損失は一括処理で解消された」と長門貢社長は言う。本当だろうか。

 日本最大の金融機関・ゆうちょ銀行を抱え全国2万4000の郵便局を擁する巨大組織は、今もって確かな未来を描けないままだ。「全国一律の郵便事業」というユニバーサルサービスを担いながら、市場競争に晒される。二兎を追う苦し紛れが「M&A依存」を招いた。競争原理と縁遠いお役所企業が、異業種を買収して経営するのは至難の業である。

◆貯金で儲けて郵便を支える 明治以来の郵政の姿

 日本郵政グループの稼ぎ頭は、今も昔も「郵貯」である。世界8位、日本では3メガバンクを尻目に207兆円の資金を抱える巨大銀行だ。潤沢な資金が生む利ザヤによって、郵便事業という公共インフラを担ってきた。それが明治以来の姿だった。

 その構造をもう少し詳しく説明しよう。
 統一国家を実現した明治政府は情報インフラの整備に向けて郵便事業を始め、津々浦々に郵便局を設けた。同時に庶民の零細預金を集め国家事業に振り向ける貯金を奨励する。富国強兵を支え、戦後は高度成長の中で郵貯は国家の財源となり「第二の予算・財政投融資」の原資となった。資金は大蔵省(現財務省)が一括管理し、鉄道・港湾など産業基盤の整備に投じられた。庶民の貯蓄は日本列島に循環する成長資金となった。

 政府は郵貯を優遇した。民間の金融機関では扱えない有利な貯蓄商品や税金への配慮がなされ、郵貯は庶民に支持されたが、やがて銀行から目の敵にされる。高度成長が終わると、郵貯を振り向けた先に「不良債権」が発生した。穴埋めに税金が投入される。

 庶民の貯蓄を自分のカネのように使う傲慢な官僚への批判も重なり、「郵貯を市場原理に」との声が高まり、郵政民営化が叫ばれるようになる。石油ショックを経て成長の鈍化が目立った1980年代からである。
郵貯だけを見ると「民業圧迫」と言われても仕方がない。だが郵貯は郵便事業の赤字を埋める、という役割を担ってきた。

 郵便は日本の近代化や情報化に貢献してきた。やがて通信の主軸は手紙から電話へと移り、電気通信は一足先にNTTとして独立。民営化に向かない紙の郵便は取り残された。地域に根付く郵便局は、独立も撤退もできない。ソロバン勘定には合わなくても地域の拠り所としての役割を負った。

◆はがき値上げで300億増収も焼け石に水  非効率抱え人件費上昇に脅かされる

 この構造を反映したのが事業3社の違いである。郵政民営化は紆余曲折の末、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、日本郵便の3社体制になり、3社を日本郵政がホールディングカンパニー(持ち株会社)として統括する。つまり4社体制である。

 民営化というと「上場=株放出」が思い浮かぶが、上場されたのはゆうちょ銀行、かんぽ生命、日本郵政の3社だけである。日本郵便は外された。「投資に値する企業」と世の中を納得させるストーリーを描けない。

 そんな日本郵便は、持ち株会社の日本郵政が抱え込むことで「おまけ」として民営化に加わったのである。この「おまけ」が4000億円の減損処理の原因をつくった。

 インターネットの普及で、はがきに代表される郵便の市場は縮小の一途だ。日本郵便は非上場だが、非正規も含め社員40万人を抱えグループの骨格をなす会社だ。この会社が元気にならなければ郵政民営化は成就しない。

 ところが2017年3月期の決算を見ると、日本郵便の営業利益は190億円だが、そのうち120億円は金融窓口事業。つまり郵貯や簡保を売った手数料である。本来の事業である郵便・物流事業は20億円しか稼いでいない。

 郵便事業がどれだけの赤字になっているかは公表されていないが、日本郵政は「赤字解消」を理由に6月から郵便料金を値上げする。はがきを10円上げて62円にすることで、300億円の増収になると見ている。

 ところが2018年3月期の決算予想では、日本郵便の純利益は130億円。値上げで300億円も売り上げを嵩上げしながら130億円しか収益が上がらない。それもほとんどが金融商品を売る手数料による稼ぎだ。

 郵便事業は「ユニバーサルサービス」の担い手だ。過疎地や離島にも拠点を置き、全国一律のサービスが郵政の社会的責任となっている。事業改善のため人件費が切り詰められた。2万4000ヵ所の郵便局は、かつてほとんどが正規の郵政職員だったが、今では約半数が非正規だという。最近の「人手不足」で非正規の給与を上げざるを得なくなっている。ユニバーサルサービスは、人手に負うところが大きい。40万人を擁する郵便事業は人件費の上昇に脅かされている。

 郵便料金の値上げは24年ぶりという。だが値上げで非効率を食い止めることはできない。料金値上げが利用者離れを誘ったのがかつての国鉄だった。分割民営化で命脈を保ちたが、都市を結ぶJR東海は大儲けしたが、へき地を抱えるJR北海道や四国は惨憺たる有り様。全国一律の郵便事業は北海道や四国を切り離すことはできない。

 民営化で郵貯も簡保も収益性を求められ、郵便の赤字を補填する余地はない。持ち株会社にぶら下がる日本郵便の経営悪化は、日本郵政の株価に影響を与える。

◆似て非なる「郵便」と「国際物流」  絵に描いたようなM&A失敗

 郵便の未来は暗いと見た日本郵政が打ち出したのが、「国際物流への進出」だった。この分野ではドイツのブンデスポストが欧州市場で成功している。例に習ってアジア進出の足掛かりにしようとしたのがオーストラリアのトールだった。
「高値つかみだった」と長門社長が言うように、絵に描いたようなM&Aの失敗である。2006年に東芝が買収したウエスティングハウスが2016年に弾けたように、買収の失敗は10年ほどして顕在化することが多い。トールの場合、2年で誰の目にも明らかになった。「高値つかみ」どころか、企業価値の査定がきちんとなされていなかったのではないのか。買収を仲介したみずほ証券にいくら手数料を支払ったかは公開されていないが、6200億円の買収なら仲介業者は100億円を超える手数料を取るのがこの業界の常識だ。

 トールの買収は2015年、株式上場に向けて行われたものだ。関係者の間では「エクイティーストーリーが必要だった」と言われている。エクイティーストーリーとは「投資家向け物語」。株の売り出しには、投資家をわくわくさせる魅力的なストーリーが欠かせない。日本郵政は面白いことをやりそうだ、という期待感を煽って株を買わせる。証券会社と組んで発行会社がやる手法である。

 日本郵政は投資家を胡麻化しただけでなく、自分も騙されたのではないか。トールは決算を良く見せようと目いっぱいお化粧し、売却後の業績は急激に悪化した。日本郵政が強調した「シナジー効果」、すなわちトールの物流拠点と日本郵政が培った宅配技術が結合すれば、アジアに日本主導のネットワークが広がる…。
「地域を知り尽くし半径10キロで育った郵便と、国境や言語の違いを超える国際物流は似て非なるもの」。関係者は今になって言う。
買収の失敗を認めながら、日本郵政はトールを売却して処理する考えはないそうだ。リストラして再建するという。しかし、持ち続けるリスクをどう考えているのだろう。

 トールは買収・合併を続けて大きくなった会社である。事業や組織に重複がある。業績がいい時は、それぞれが競い合って事業を拡大するが、逆風になると仕事の取り合いや責任の押し付け合いなど問題が起こりがちだ。

 アングロサクソンのビジネス風土は会社への忠誠は薄い。仲間でチームを作り会社を渡り歩く。業績が悪化すると、さっさと辞めてしまう。事情が分からない日本人が経営者としてやって来てあれこれ言えば、「人材がいなくなる」というのがこの世界だ。M&A業界の言葉で「ドンガラを買う」と言う。大きな会社を買ったつもりが、従業員がどんどん辞め、結果として図体だけ大きい非効率な会社を買う結果になる。トールはいまリストラを進めているが「ドンガラ化」する恐れはないのか。4000億円の減損処理で終わり、といえるほど事態は甘くはない。

◆郵政株売り出しに新たな「物語」が必要  野村不動産買収は苦肉の策か

 トールの失敗で郵政グループの株価は、売り出し価格を割り込んだ。裏切られた思いの投資家は少なくないだろう。財務省も頭を抱えている。政府保有株の売却で1.4兆円を稼ごうと期待していたからだ。新たなエクイティーストーリーが必要になった。

 野村不動産の買収という情報が漏れ伝わっている。日本郵便には局舎や従業員宿舎などがたくさんある。「プラウド」のブランドでマンションの分譲を手掛ける野村不動産をグループに取り込めば新たなビジネスに乗り出せる、というのだ。
 野村不動産の筆頭株主は野村證券。郵政株の売り出しの主幹事を務める証券会社だ。身内で作った苦肉の策とも思えるが、常に新しい「物語」を出し続けないと日本郵政は株価を維持できないのかもしれない。
 金融事業と一体となって郵便事業の損を埋める、という構造が民営化で壊れた。市場原理とは別の世界にあるユニバーサルサービスを抱えたまま株価を気にするビジネスに突入した咎めである。

 では、独立事業となった郵貯は日本最大の金融機関としてメガバンクを蹴散らすことはできるだろうか。これも無理としかいいようがない。郵便貯金は大蔵省の下請けとして資金を集めていた貯蓄機関でしかなかった。集めたカネを自分で運用した経験がなかった。
 民営化され独自運用が始まったが、企業への融資などできない。審査能力がなく、融資判断ができない。結局、国債を買う機関にとどまっている。
 今の低金利が郵貯の息の根を止めかねない事態となった。利子を付けて貯金を集める郵貯にとって、マイナス金利は死活問題だ。国債中心の運用が壁にぶつかっている。やむなくアメリカ国債など外国債券へと運用を増やしているが、為替リスクを背負うことになった。今では207兆円の運用資産の25%が外国証券である。

◆始まりは銀行とアメリカの都合  誰のための郵政民営化だったのか

 思えば郵政民営化は、事業主体である日本郵政や郵政省が望んで始めたことではない。「民業圧迫」を批判する銀行業界が「同等の競争条件で」と言い出した。それに政治家が乗った。背後には自民党への政治献金や融資があった。
「民営化」の圧力は米国からもやって来た。日本市場の閉鎖性や、政府を後ろ盾とする郵貯・簡保は「アンフェアだ」と批判した。アメリカの狙いは、郵貯に溜まる膨大な資金をウォール街が取り込むこと。国際収支が万年赤字の米国は、世界から資金を集め再分配することで金融資本に活躍の場を設けてきた。貯蓄大国日本のカネは垂涎の的だった。さらに日本の金融市場で商売するには営業拠点が欠かせない。郵貯のネットワークを手中に収めれば怖いものなしだ。

 銀行とアメリカの都合で始まった郵政民営化で郵貯が躍進するとは思えない。

 困り果てたゆうちょ銀行が、いま力を入れているのは投資信託の販売である。金利がないも同然の貯金には魅力はない。「有利な運用ですよ」と元本保証のない投資信託を売っている。売る側にとっておいしい商売である。
 どこの銀行もそうだが、売る側は顧客の金融資産を知っている。口座に1000万円預金があれば、「500万円ほど投信に乗り換えたらいかがですか」と誘う。スズメの涙ほどの利息にウンザリしている預金者は「では投信でも買ってみるか」という気になる。
 500万円で投信を買った途端、5万~10万円の販売手数料が銀行側に落ちる。低金利の今日、10年分の金利に等しい。
 右のポケットから左のポケットに預金者の資産を動かしただけでガッポリ手数料を抜く、というのがいまの投信ブームだ。
 ゆうちょ銀行も「手数料収入に経営に軸を移す」という。少額貯蓄が民営化の食い物にされている。
 ホールディングカンパニーである日本郵政は、M&Aのカモにされ、郵貯の現場では長年の顧客を投信のカモにする。
 誰のための郵政民営化だったのか。



【日本郵便元副会長が実名告発「巨額損失は東芝から来たあの人が悪い」 これでは東芝と同じじゃないか… 週刊現代5/24】

今世紀最大の上場劇、NTT株の再来――華々しい惹句につられて、郵政株に手を出した人はいま後悔しているだろう。まさかの巨額損失に追い込まれた巨象の実情を、元最高幹部がすべて明かす。

◆私は最初から反対だった

「私が現役だった頃は、郵便局では1円でも懐に入れたら懲戒免職になっていました。サラ金に手を出した職員がいれば、それも解雇した。
郵政公社時代からの職員には、国民の大事なおカネを預かっていることへの強烈な自負がありました。だから、おカネに関する不祥事には非常に厳しく対応してきたのです。
それが、どうしたものでしょうか。いまの日本郵政は4000億円もの損失を計上したにもかかわらず、長門正貢社長をはじめ経営陣は誰一人として、まともに責任を取ろうとしていません。巨額損失の元凶である西室泰三・元社長にいたっては、一切お咎めなしです。
彼らが失った4000億円は、もとはと言えば国民からお預かりした大事なおカネ。それを浪費しながら、のうのうとしている首脳陣の姿は見ていられるものではない。特に巨額損失の全責任を負うべき西室氏に対しては怒りを感じます」
そう語るのは総務省政策統括官から日本郵政公社常務理事に転じ、日本郵便副会長などを歴任した稲村公望氏(68歳)である。

元副会長という大幹部が、実名で当時の社長を批判するというのは異例のこと。稲村氏はそれほどまで、巨額損失を出して会社を傷つけた経営陣に対して、義憤を覚えているということである。
今回、稲村氏は本誌の独占インタビューに応じ、約60分にわたって語り尽くした。
日本郵政はこのほど、オーストラリアの物流子会社トール・ホールディングスの業績悪化から、約4000億円の損失を計上すると発表。この巨額損失によって、2007年の郵政民営化以来、初の赤字に転落することが決定的となった。

その物流子会社であるトール社は、日本郵政が'15年に約6200億円で電撃買収した会社である。この買収劇こそ、当時社長だった西室氏の鶴の一声で決まったものだった。
「東芝社長や東京証券取引所会長を歴任してきた西室氏が安倍政権から請われて日本郵政社長に就いたのは、いまから4年前の'13年のことです。
西室氏は就任時からさっそく、『世界全体を俯瞰した物流業を作り上げる』『日本の金融業界、物流業界の最先端を行く企業になる』と語っていました」
西室氏が物流事業への参入を強く主張したのには、郵政グループの株式上場という重要なミッションを抱えていたという背景事情があった。

「当時、郵政の株は政府が保有していましたが、上場の際にはその一部を売却して、東日本大震災の復興財源に充てることになっていました。上場時に投資家にたくさん株を買ってもらうため、西室氏は郵政が将来にわたり成長していくバラ色のシナリオを描く必要があったのでしょう。
とはいえ、郵便事業というのは急速に成長していくビジネスではない。そこで西室氏は、内需企業であった日本郵政に、『物流参入』や『グローバル化』という新しい成長戦略を売り物として加え、箔をつけようとしたのだと思います」

実際、西室氏は就任当初から国内外の物流各社の買収戦略を開始。国内勢の佐川急便、日立物流なども買収対象として検討に入った。
しかし、そんな西室氏の前のめりの熱意とは裏腹に、当初から郵政社内には物流事業への参入に反対の声があったという。

「理由はとても単純で、そもそも郵便会社が物流に参入してもビジネスモデルとして成り立たないからです。なぜかと言うと、郵便は10~100gほどの軽いものや、単価が安いものを数多く取り扱う商売。
一方の物流のビジネスはその正反対で、重くて一つ当たりの単価が高いものを運んで儲ける。つまり、郵便と物流はビジネスが根本的に違うのです」

◆掟破りの資金調達

実際、買収したトール社にしても、もとは石炭運搬会社として設立されており、郵便とはまったく別物だった。
「しかも、郵政社員には物流事業のノウハウもないので、うまくいかないことは目に見えていた。
私が日本郵政公社の常務理事時代にも海外物流会社と提携する話が浮上したが、当時の生田正治総裁に『この会社と組むべきではない』と進言し、結局ご破算にした経緯もある。
アメリカでも郵政公社は郵便に特化し、物流に手を出していない。これが世界の常識。ところが西室氏を始めとする電機メーカーや銀行出身の日本郵政首脳陣は、その違いすらよくわからず、無理矢理に突っ走った」

当時、上場の目途とされていたのは'15年秋。刻一刻とその「期限」が迫ってくる中、西室氏は一部の幹部だけを集めて買収チームを組織してプロジェクトを進めたが、その過程では掟破りともいえる一手を断行している。
「トール社を買収するには巨額の資金が必要だったので、その資金捻出のために『ウルトラC』をやったのです。
そのスキームというのは上場前の'14年に実行されたもので、親会社の日本郵政が所有するゆうちょ銀行の株式を、ゆうちょ銀行に買い上げさせるもの。ゆうちょ銀行に自社株買いをさせて、1兆3000億円ほどあったゆうちょ銀行の内部留保を日本郵政に吸い上げさせた。
自社株買いは制度的に認められているものとはいえ、このような大規模な『資金還流』は本来なら許されないものです」
西室氏がこのように強引に進めてきたトール社買収が、世間にお披露目されたのは'15年2月のこと。西室氏は発表会見で、「必ず(買収)効果は出る」と胸を張ってみせた。

しかし、そんな西室氏の「楽観論」に水を差すように、この巨額買収をめぐっては、発表直後からさっそく辛辣な意見が噴出した。
「英フィナンシャル・タイムズ紙は、約6200億円という買収価格について、『49%のプレミアム』をつけたと報じました。郵政の経営陣がトール社の企業価値について過大に評価したということです。
実際、当時すでに鉄鉱石など資源価格が下落し始め、トール社の業績には先行き不安が出ていました。
しかも、西室氏はトール社を日本郵政傘下の日本郵便の子会社としたため、日本郵便は'15年以降、買収にかかわる会計処理として毎年200億円級の巨額を償却しなければいけなくなった。'15年3月期の日本郵便の最終利益は約150億円だったのに、です」

◆東芝とまったく同じ構図

しかも、周囲が懸念していた通り、買収後のトール社の業績は低迷。買収した郵政側に物流事業のノウハウがないため、その経営をまともにマネジメントすることもできない状態に陥った。
当然、晴れて上場した日本郵政グループの株価も振るわないまま「じり貧化」。そして、買収発表からたった2年しか経過していない今年4月、トール社の業績悪化を理由に、日本郵政は4000億円の巨額損失計上に追い込まれたのである。

「いま西室氏の出身母体である東芝は巨額損失で危機的状況だが、その原因となった米原発会社ウェスチングハウス社の巨額買収に当事者としてかかわっていたのが、東芝相談役だった西室氏でした。その意味では、今回も同じ構図が繰り返されているように見えます。
西室氏の経営手腕には、ほかにも疑問に感じる部分がありました。それは社長就任早々のこと、米大手生保アフラックと提携して、アフラックに全国の郵便局の窓口でがん保険を独占的に販売できるようにしたのです。
これはグループ会社のかんぽ生命の収益を圧迫する施策だったため、かんぽ生命を民業圧迫と批判していた米国政府に配慮したものだと囁かれました。
そもそも、郵政民営化というのは'94年以降、米国が毎年の対日年次改革要望書で求めていたもので、その郵政民営化委員会の委員長だったのが西室氏でした。
いずれにしても西室氏はグループの利益を失するような手を打ってきた。西室氏は昨年、体調不良を理由に社長職を退任しましたが、その責任は重大と言わざるを得ない。そんな西室氏を推薦した安倍晋三首相、菅義偉官房長官にも『任命責任』がある」

西室氏の後任に就いた長門社長も、赤字転落を発表した4月25日の会見で「トール社買収の狙いは正しかったといまでも考えている」と語り、自らの責任については6ヵ月間の役員報酬20%カットで済ませた。
稲村氏は言う。

「私は5月8日に、著書『「ゆうちょマネー」はどこへ消えたか』の共著者である菊池英博氏との連名で『辞任勧告書』を長門氏に送りました。長門氏はトール社の実態を知りながら、適切な経営指導もせずに放置してきたのだから、経営者失格です。

トール社の4000億円もの損失処理に使われる原資は元々、国民の資産。役員報酬のわずかな減額だけで責任を取ったふりをするのは国民への背信行為で、絶対に許せません。
西室氏も病気療養中というが、代理人を通じて責任についてコメントを発表することぐらいはできるはずです」
赤字発覚直後、日本郵政の株価は急落して1200円台にまで落ち、上場前の公募価格(1400円)を下回った。それでも、日本郵政の経営陣たちはまともに責任を取ろうとしない。株主たちはこの怒りを、いったいどこにぶつけたらいいのだろうか。


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