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現行の実態追認のための法整備~地方公務員制度の重大な転換

  行政の守備範囲、たいおうすべき課題が拡大しているのに、人を削減し続けてきた結果、技術職、専門職などの不足、正規職員の長時間労働が深刻化している。一方で、人で不足を、一時的、臨時的業務に限定された臨時職員に中心業務を担わす状況が蔓延した。
 今回の法改定は、「非正規にも賞与」〔これまでも禁止されていない〕というが、「例外」的任用を、追認することで、企画、管理、予算配分などコア業務以外はすべて「会計年度任用職員」で対応させ、正規職員による公務遂行という基本原則を有名無実のものにしていく危険性がある。
産業振興、福祉と防災のまちづくりなど、特に地方では公務の役割は決定的である。
【現行の実態追認のための法整備 いつまでも非正規、いつでも雇止めを許さない 3/28】
・関連
 【自治体の臨時・非常勤職員、任期付職員の任用の在り方~ 「研究会報告書」への談話 自治労連 2017/1】

【現行の実態追認のための法整備 いつまでも非正規、いつでも雇止めを許さない 3/28】

松尾泰宏(自治労連中央執行委員・非正規公共評事務局長)

総務省が設置した研究会は昨年末、臨時・非常勤職員の任用・勤務条件の「適正な確保」として、臨時・非常勤職員のうち、「特別職非常勤」を専門的な職に、「臨時職員」を正規職員の欠員が生じた場合に限定。そのほかの「労働者性の高い職」は「新たな一般職非常勤」に分類する内容を提言(以下、「提言」)した。

「提言」にもとづき総務省は、地方自治体に対して説明・意見集約を行い、それをふまえて政府は、地方公務員法及び地方自治法改正法案を3月7日、閣議決定した。法律案では、新たな一般職非常勤職員を会計年度任用職員と位置付け、常勤職員の勤務時間と「同じ」か「短いか」を基準に、フルタイムとパートタイムとを設けた。そして、フルタイムには給料・手当、パートタイムには報酬・費用弁償と期末手当を支給可能とするなど、新たな格差を持ち込んでいる。政府は、法律案を開会中の通常国会で成立させ、地方自治体での条例整備などの期間を設けて、2020年4月1日施行をめざしている。

◆地方公務員制度の重大な転換

新聞報道では「非正規公務員にも賞与を」という見出しだけが踊っている。確かに、法律に非常勤職員にも手当支給できると明記することは必要で、私たちの運動の成果である。一方、地方公務員法でこれまで例外とされてきた「期限付の任用」を会計年度任用職員として、法律に規定することは、地方公務員制度の重大な転換である。

会計年度任用職員について、法律案にはその業務に関する要件の規定がない。総務省の行政解釈でも「恒久的な職と認められる職については、特別な事情があるものを除き、雇用期間を限定して職員を任用することは適当でない」としてきた。たとえば、地方公務員制度の特例として設けられている地方任期付採用法では、不十分だが「①一定の期間内に終了することが見込まれる業務、②一定の期間内に限り業務量の増加が見込まれる業務」という要件が規定されているが、それすらない。

そして、判例で例外的に期限付任用を認める①期限付職員を任用する必要性があるか否か、②身分保障の趣旨を害しないか否かを基準としておらず、地公法の趣旨を無視して、現在、自治体が「活用」している実態に合わせようとするものであり問題である。

◆いつでも雇止めのお墨つき

会計年度任用職員の任期は、「最長1年」(会計年度の範囲内)と法律で規定されることになる。従来も任期は総務省通知で「原則1年以内」とされていた。しかし、実際には「再度の任用」を繰り返して長期に働いている人に対し、「法律で1年とされた」と明確に雇用継続に対する期待権を否定し、自治体当局の一方的な雇い止めを正当化する根拠を与えるものになっている。

民間であれば、採用時の説明、業務の恒常性、他の有期契約労働者の取扱いの実態などから、合理的な雇用継続の期待を保護し、かつ、一定期間有期契約を更新継続した場合には期間の定めのない雇用になる制度を設けることにより、有期雇用の拡大を防止し、その労働者の保護を図る立法がなされている。(労働契約法18条、19条)しかし、法律案では不合理な雇止めからの保護がなされず、相変わらず、法の保護の外に置かれ続けている。

◆非正規の固定化と正規から非正規への置き換え

「提言」では、「再度の任用」についての従来の考え方に変更はないとしている。しかし、任命権者はそれぞれの職の必要性に応じて、それにあった職員を配置することを予定しているはずである。業務は継続しているにもかかわらず、その業務を担う職員の任期・更新に制限をつけようとすることは、雇用の不安定化を促進するものである。そのうえ、①「本格的業務」以外は会計年度任用職員を充てる、②「本格的業務」が管理・権力的業務に限定されかねない、③定数外でフルタイムの会計年度任用が固定化されうる-など、非正規の固定化と正規から非正規への置き換えがすすむ恐れがある。また、正規職員による公務遂行という基本原則を有名無実のものとし、公務のアウトソーシングを際限なく推し進めることになりかねない。
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◆勤務時間で待遇差、労働条件後退すら

支給する手当の種類に格差を持ち込んだことは、現状でも、正規職員と職務内容に違いがないにもかかわらず、勤務時間を15分ないし勤務日数を1日程度短くして、手当支給や共済・公務災害適用を逃れる実態があるもとで、これを推奨することになりかねない。法律案では勤務時間が「同一」か否かを基準としている。これまで、手当支給の可否について裁判では、国の非常勤制度などを参考にして、常勤職員の4分の3程度の勤務時間であれば、常勤職員とみなして支給すべきだと判断されてきた。これにより、勝ち取ってきた労働条件すら、否定されることになりかねない。
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昨年末に策定された政府の「同一労働同一賃金ガイドライン案」は、正規か非正規かにかかわらず、仕事の成果や責任に応じて手当などを支給するよう求めている。法律案が勤務時間によって待遇差を設けることは、政府自身の方針に矛盾しているばかりか、直接適用されないとはいえ、パート労働法や労働契約法の趣旨にも反している。

◆国際公約にも逆行

自治労連が提出したレポートにもとづき、ILO第104回総会(2015年6月)の報告では、100号条約に関わって、①地方自治体の常勤職員の給与と比較した非常勤職員の給与の決定方法、及び雇用形態に関わらず同一価値労働を行う職員が同一報酬を得ることを確保する方法を示すこと、②地方自治体における臨時・非常勤職員の性別の数の報告を日本政府に求めていた。それに対し、2016年日本政府年次報告で、「総務省は、地方公共団体の臨時・非常勤職員に関する制度の趣旨や取扱いの留意点に関して、2013年日本政府年次報告の中で報告した2009年4月24日付の通知に代えて、2014年7月4日付の通知を地方公共団体に対して発出している。当該通知において、2009年通知に引き続き、地方公共団体の臨時・非常勤職員の処遇について、『(常勤の職員の給料と同様に)職務の内容と責任に応じて適切に決定されるべきものである』等の助言を行っている。引き続き、臨時・非常勤職員の職務の内容等に応じた必要な処遇の確保に取り組んでいくこととしている。」と報告した。

この引き続きの取り組みの具体化が、法律案によって、非正規の固定化と雇止め自由、勤務時間の差による新たな差別を持ち込むことであろうか。

◆臨時・非常勤職員が担っている職務実態に基づき待遇改善を

「公務の運営」原則を維持し、多様な行政サービスに対応するとともに、人員不足・過重労働の解消に、現に恒常的な業務を担っている臨時・非常勤職員を本人の希望にもとづき、合理的・客観的基準により選考するなど、正規職員化の道が示されるべきである。

また、現在、短時間勤務、「空白期間」が設けられ就労している臨時・非常勤職員は、業務上の必要があってこうした就労形態が求められているのではなく、「継続した任用とみられないようにするため」「任期の定めのない常勤職員との区別を明確にするため」「退職手当や社会保険料等の財政的負担を避けるため」に、こうした就労形態としている場合がほとんどである(2016年総務省調査)。したがって、職の個別の検証にあたっては、職務遂行に必要かつ十分な任期、勤務時間を設定することが求められる。なお、短時間勤務の必要がある場合は、任期の定めのない短時間勤務職員制度の検討を図るべきである。

手当支給などが法律に規定されたとしても、支給される給料・手当の水準等については、各自治体での労使交渉の結果による条例・規則の整備が必要となる。また、任用根拠の見直しで制約される権利について、法的救済や権利保護の仕組みをつくることが必要である。

今回の法改正は、「法と実態の乖離」を形式的に解消しようとするのみで、むしろ恒常的業務に従事させておきながら、いつまでも非正規雇用、いつでもどんな理由でも「雇止め」できる仕組みづくりに他ならない。

◆国際的に遅れた労働環境改善を公務職場から

憲法の規定に基づいて、住民の人権の実現のために奉仕する組織が自治体である。したがって、社会福祉、教育、労働者保護、まちづくりなどの住民生活に関連する業務について、全体の奉仕者として、社会的弱者についても社会権保障が実現するように努める責任が公務員にある。

行政の「能率(効率)的」な運営とは、地域住民の権利・利益の実現や福祉の増進を無視して、非正規化や民間・民営化による人件費削減などの一時的コスト削減を追求するものではない。単純な行政スリム化でなく、質的確保・持続性を担保することが自治体に求められている。

しかし、国や自治体による正規職員の非正規職員による代替や公務のアウトソーシングが、雇用の劣化を推し進め、官製ワーキングプアを生み出し、国民の利益も害してきたことは社会的批判にさらされてきた。

一方、ILOが1994年に採択した第175号条約(パートタイム労働に関する条約)では「均等原則」としてパートであることを理由に賃金を低くすることを禁止し、その他の権利、労働条件、社会保障についても、比較しうるフルタイム労働者と同等にすることを明記している。また、EU加盟各国では、1998年にEU指令に基づき均等待遇の規定による「フルタイム労働者との差別禁止」が実行されている。

日本の非正規雇用労働者、特に公務では「法の谷間」におかれ、権利侵害があっても救済機関さえない無権利状態は国際的に見ても大変異常である。本来、国や地方自治体などの行政機関が、民間に率先して均等待遇や権利拡充について模範を示すことこそが求められている。

◆おわりに

自治体では、臨時・非常勤職員のほか行政機関と民間事業者との業務請負契約、労働者派遣、指定管理者制度の導入によって民間労働者が就労している。こうした公契約のもとにある労働者は、どんなに懸命に働き勤続を積み重ねても、発注価格の切り下げで雇用が切れ、賃金は、上がらないどころか下がってしまうことさえある。そして、提供されるサービスの質にも悪影響を及ぼしている。こうした労働者を含め官製ワーキングプアの問題解決には、正規で働く労働者を含め公務労働者がみずからの権利の問題として捉え、住民の権利擁護、福祉向上の観点から広く市民と連携することが必要である。


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