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「部落差別解消推進」法の重大な危険(メモ)

 仁比そうへい参院議員による「『部落差別解消推進』法の重大な危険」 議会と自治体2017年、3月、5月号からのメモ。
 新法の重大な問題点とともに、歴史的なたたかいの到達点、それを踏まえた国会論戦を通じて築いた「たたたかいの足場」を明確にしめしている。
 歴史を逆転させ、国民の中に新たな分断を持ち込む同法の具体化を許してはならない。
 

「部落差別解消推進」法の重大な危険(メモ)

◆法案~ 部落差別の解消推進のための理念法といいながら、部落問題解決の歴史に逆行して、新たな障壁をつくり出し、部落差別を固定化、永久化する恒久法であり、その危険は極めて重大なもの。

1.部落問題 大きく改善

・封建的身分そのものではなく、その残滓/その解決は、民主主義の前進を図る国民の不断の努力を背景に大きく前進
→国の同和対策特別事業は2002年3月に終結。14年たつ今日、社会問題としての部落問題は基本的に解決された到達点にある。

・時として起こる、不心得な非科学的な認識や偏見に基づく言動
→ その地域社会で受け入れられない民主主義の力を強めていくことこそ重要。

・行政の施策は全ての国民に対し公平に運用するのが原則/人権問題の相談、教育、啓発活動は、憲法に基づき、一般施策として行うべきもの

2.立法事実がない

*参考人質疑で明確になった点
・部落解放同盟/部落差別はいまだに根深く厳しい旨の認識が示された。/が
自由同和会推薦の参考人/その現状認識は差別の過大評価であり、日本は差別をうまくなくしてきていると評価
・全国地域人権運動総連合/従来の部落の枠組みが崩壊し、部落が部落でなくなっている状況であり、国民の多くが日常生活で部落問題に直面することはほとんどなくなった。

→ 部落問題の特別扱いを復活させようとすることに、立法事実はない

★2002年3月 総務省が明確にした3つの「特別対策を終了する理由」

①長年の取り組みで、物的な生活環境について改善が進み、全体的には同和地区と周辺地区との格差はみられなくなった。

→69年以来33年間16兆円を投じた事業で、65年同対審答申が指摘した「差別と貧困の悪循環」が大きく改善

②産業構造の変化、都市化など大きな人口移動が起こり、同和関係者の転出、非同和関係者の転入が増加し、同和地区・同和関係者に限定した施策を継続することが困難に

→93年、政府調査/同和地区全世帯のうち夫婦ともに非同和関係者 59.5%~「部落」の実体がなくなっている
→「部落地名総覧」の持つ意味も以前とは大きく変わったということ。
自由同和会2011年運動方針 「部落地名総覧を発見しても、差別の助長になると大騒ぎするのではなく淡々と処理すればよい。未だに差別があることの根拠にすることは差別の現状を見誤る危険な所業」

・西島書記長「部落問題がどんどん希薄化している」から新法が必要
→ 「希薄化されてきたことは、部落差別の解消が進んで、国民の間に大きな問題として残っているということではない」〔自由法曹団・石川元也弁護士〕

③「特別扱い」は「新たな差別意識」を生み出す

 同和地区が大きく変化したもとでは特別対策の継続は同和問題の解決に必ずしも有効でない
→行政施策は「本来全国民に受益が及ぶように講じられるべきもの」であり「国民の一部を対象とする特別対策はあくまで例外的なもの」です(「同和行政史」)


3.「部落解放同盟」の考え方を法に持ち込む危険性

・法には、部落差別とは何か、の定義規定がない。質疑で具体的に示せず/肌で分かっている」などなど
→提案者「定義を置かずとも一義的に明確、その者が部落の出身であることを理由とした差別」
→が、これは部落解放同盟の考え方を法に持ち込むもの/極めて曖昧。濫用によって表現や内心の自由が侵害される重大な危険をもつ

・かつて解同/ 部落民以外は差別者、差別かどうかは解同が認定するとして、八鹿高校事件を始めとする数々の暴力的確認糾弾事件を引き起こした

★教訓と国会質疑
・86年、地対協基本問題検討部会報告「同和問題について自由な意見交換のできる環境づくりをおこなうこと」は「同和問題の根本的解決を考えていく上で基本的な課題」
・今回付帯決議 「過去の民間運動団体の行きすぎた言動」が「部落差別の解消を阻害していた要因」であることを厳しくして指摘し、国や自治体が行う「教育及び啓発」「実態調査」によって「新たな差別を生むことがないよう」、強く求める内容。

★法は、解同が、85年以来制定を求めてきた「部落解放基本法案」とそっくりなもの

→解同「法の積極的活用にむけて、自治体との交渉で、この法律への見解を明らかにさせるとともに『特別措置法』終了後の同和行政の総括をふまえた施策の充実を求めていかなければならない」「同和教育が形骸化し、後退してきたことをふまえ、あらためて部落差別の実態から学ぶことを基礎にした教育・啓発の推進をはかることも重要」、「相談体制の充実をすすめることで、地区が直面する困難性を具体的に明らかにすることができる」〔「解放新聞」1月30日付〕

★「確認・糾弾会について」 地対協意見具申を具体化した法務省人権擁護局総務課長通知 89/8/4

 解同をあえて名指しし「被差別者、差別者が行った事実及びその差別性の有無を確定し、差別の本質を明らかにしたうえで〔確認〕、差別者に反省を求め、これに抗議して、教育して人間変革を求める〔糾弾〕とともに、その追及を通じて、関係者、行政機関などに差別の本質と当面解決を迫らねばならない課題を深く理解させる場」と明記~ 部落民以外はすべて差別者とする部落排外主義をテコに、主観的・恣意的で、人権侵害の危険性
→ 86年、地対協部会報告「何が差別かというのは一義的、明確に判断することは難しいことである、民間運動団体が特定の主観的立場から恣意的にその判断を行うことは、異なった理論や思想を持つ人々の存在さえも許さないという独善的で閉鎖的な状況を招来しかねない」と指摘し、「同和問題の解決にとって著しい阻害要因とにる」
→ 民間運動団体の行き過ぎた言動、その圧力に屈した行政の主体性の欠如が新しい要因となって新たな差別意識を生むことこそ歴史の教訓

・法務大臣 「認識は現在もかわらない」〔11/22〕、提案者「糾弾は一切ないように」と繰り返し説明〔12/8〕

★解同に反省なし

・12/6参考人質疑 解同書記長、矢田事件、八鹿高校事件に「50年も前の話」とし、「どう総括しているのか」の質問にも答えず
・「糾弾は部落解放運動の生命線」とし、改定した綱領〔2011〕の「解説のための基本文書」で「糾弾の取組を堅持し、糾弾の社会的正当性の確保と定着をはかる」ことを「今後の部落解放運動の基本課題」に第一に掲げている。

④不公正な同和行政復活の危険

・法の部落差別の解消に関する施策、相談、教育及び啓発、実態調査の条文は極めて無限定であり、同和対策事業の復活を排除するものとはなってない。
→ 民間運動団体のあれも差別、これも差別といった圧力の根拠となり、補助金や委託事業による施策を押し付けられ、学校や自治体、企業や地域で、あるいは人権擁護委員にまで、特定団体による教育、啓発が実質強制されかねない/各地になお残る個人給付を含む同和対策の特別扱いを固定し、助長することにもなる。

・行政に義務付けられる実態調査/旧同和地区と地区住民の洗い出し、精密調査や行き過ぎた意識調査によって、それ自体が国民の内心を侵害し、分け隔てなく生活する旧地区住民とそうでない者との間に新たな壁をつくり出す強い危険
→これらが部落問題についての自由な意見交換を困難にするものとなり、部落問題の解決に逆行するもの
〔86年、地対協部会報告〕

4.人権尊重と民主主義にもとづく教育、憲法にもとづく一般施策の充実こそ

①部落問題の解決とは

1) 生活環境や労働、教育など周辺地域との格差が是正されること
2) 部落問題に対する非科学的認識や偏見に基づく言動が、受け入れられない状況がくつり出されること
3) 部落住民の生活態度・習慣にみられる歴史的後進性が克服されること
4) 地域社会の自由な社会的交流が進み、連帯・融合が実現すること
 (1987 全解連「21世紀をめざす部落解放の基本方向)

★1986年の地域改善対策協議会 の意見具申「今後における地域改善対策について」

「新たな差別意識を生む様々な新しい要因」として4点を指摘
1)行政の主体性の欠如である。現在、国及び地方公共団体は、民間運動団体の威圧的な態度に押し切られて、不適切な行政運営を行うという傾向が一部にみられる。このような行政機関としての主体性の欠如が、公平の観点からみて一部に合理性が疑われるような施策を実施してきた背景となってきた。

2)「同和関係者の自立、向上の精神のかん養の視点の軽視」「特に、個人給付的施策の安易な適用や、同和関係者を過度に優遇するような施策の実施は、むしろ同和関係者の自立、向上を阻害する面を持っているとともに、国民に不公平感を招来している。」

3)えせ同和行為の横行である

4)「同和問題についての自由な意見の潜在化傾向である。同和問題について自由な意見交換ができる環境がないことは、差別意識の解消の促進を妨げている決定的な要因となっている。民間運動団体の行き過ぎた言動が、同和問題に関する自由な意見交換を阻害している大きな要因となっていることは否定できない。」
 を指摘し、「新しい要因による新たな意識は、その新しい要因が克服されなければ解消されることは困難である。」。
 また「差別事件」の扱いについても「司法機関や法務局等の人権擁護のための公的機関による中立公正な処理にゆだねることが法的手続きの保障等の基本的人権尊重を重視する憲法の精神に沿ったものである。また、そうすることが、一見迂遠のごとく見えても、結局は同和問題の解決に資することになる」。

②時として起きる非科学的な認識、偏見にもとづく不心得な言動に対して

 兵庫県高崎市の啓発活動 (広報2009/10/1発行)
「みなさんは同和問題が解決した社会をどのようにとらえておられますか?
 どのような時代になろうとも差別者が一人もいなくなる社会の実現はむつかしいでしょぅ。しかし、差別的な言動をする人が出てきても、まわりの人々が『それっておかしいのと違う。』とか『そんな考え間違っているよ。』と指摘し、差別的な言動が受け入れられない社会になったとき、同和問題は解決したといえるのではないでしょうか。そして、そうした社会は目前にせまっているように思います。
 つまり、現在、ほとんどの人が部落差別はいけないことであると理解しています。ですから、それを行動化すればいいのです。例えば、家族で『我が家では絶対部落差別などしないようにしよう。』と話し合うのもいいでしょう。大切なのは、それぞれの人がその人なりの方法で行動することです。」

③インターネットにおける差別事象

・1条「情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が起きている」
→法務省統計 ネット上の人権侵犯事件の受理件数 06年256件 ⇒ 15年1869件
 うち同和問題に関するもの 年間0~数件
→ 提案者 今後「手に合えないような状態」を「あらかじめ想定して」としか説明できず

・削除要請などの具体的課題は、ヘイトスピーチをはじめ他の人権問題ともに別に検討すべき問題
→ そもそも、同法によって具体的解決が進むものとはなっていない。

■法制定後のうごきとたたかいの足場、

・二階自民幹事長が代表質問で「成立した部落差別解消法は長年の悲願」と指摘、安倍首相「重要な課題。新法の趣旨を踏まえてしっかり対処していく」と答弁 衆院1/23
・自民議員「新法によって和歌山県の広報誌に部落差別という言葉がでるようになった。多くの自治体でも載せるように働きかけを」と質問、法務省人権擁護局「新法の趣旨を十分に踏まえて、関係省庁や地方公共団体とも連携しながら、しっかり取り組みをすすめていきたい」「地方公共団体に、国との連携をより一層深めたるための協力を依頼した」(2/22衆院予算委員会)
→新法を特別扱いの復活・固定化にすることは、参院附帯決議に照らして許されない/各条項の問題点とたたかいの足場

(1)第三条 「部落差別の解消に関する施策」~特別扱いの足がかりにさせてはならない

・3条2項「地域の実情に応じた施策を講ずるように努める」
→ 発議者答弁/「本法案ができたということを根拠として、国や地方自治体が旧同和三法のような形で、地域改善対策特定事業のような財政出動が求められるわけではありません。また、そのような根拠に使われるものではない」(仁比質問 参院法務12/8)
→その理由として、財政出動に関する規定を一切置いていない。旧特別措置法は事業内容を示した上で経費と財政割合にさだめがあったか、新法にその定めがないのは、財政出動の措置をとることを目的としていないことを表している、と答弁

(2)法4、5条 「相談」「教育・啓発」 ~憲法にもとづいてこそ

・86年地対協「意見具申」をうけた、87年「地域改善対策啓発推進指針」
「新しい差別を生む様々な新しい要因」(前述)をあげて「この解消も今日の啓発の重要な目的」とし、
→「民間運動団体の運動目標などをそのまま行政の行う啓発素材として取り入れることは、行政の主体性の観点から自粛すべき」「一部民間運動団体に事前に了承をとらなければ啓発文書や研修会の講師選定ができないようなことが慣行化している行政機関は改める必要がある」「確認・糾弾に対する考え方は、判例も紹介して啓発することが重要」と指摘。

→「教育の場における啓発の実施」の項目を特別に立て、「差別発言等を契機に学校教育の場に糾弾闘争その他の民間運動団体の圧力等を持ち込まないこと」と強調/「児童・生徒の差別発言は、先生から注意を与え皆が間違いを正し合うことで十分である。差別事件に限らず、どのような場合にも教育の場へ民間運動団体の圧力等を持ち込まないよう、団体は自粛することがのぞましい。団体の自粛がない場合には、教育委員会及び学校は、断固その圧力等を排除すべきである」

・「啓発指針」は、解同が敵視し圧力をかけ続けたため、この到達点が自治体関係者に知らされていない/徹底を

(3)6条「実態調査」の名目で差別を助長してはならない

・法は、国に「部落差別の実態に係わる調査」を行うことを義務付け、「地方公共団体の協力を得て」と規定

①大阪府の報告「旧同和対策事業対象地域の課題について—実態把握の結果及び専門委員の意見を踏まえて」(2016年1月22日)
→3つの柱 「対象地域で見られる課題の現れ方は多様であり、一括りにすることはできない」「対象地域と同様の課題の集中が、対象地域外にも見られる」「対象地域で見られる課題は、必ずしも全てが部落差別の結果と捕らえることはできない」
→部落差別の影響を知るには、「対象地域の住民から調査対象者を抽出し、調査の趣旨及び同地域が対象地域であることを明示した上で、対象地域出身者であることの自己認識、被差別体験の有無及び生活実態面の課題と被差別体験の関連を聞く必要がある。」が、「特別対策としての同和対策事業が終了した現在においては、調査対象者に対して、居住地が対象地域であることを教示し、対象地域出身者であるか否か、差別体験があるか否か等のセンシティブな情報を収集する調査は困難である」

②国会論戦での到達

→法務大臣答弁「その調査によって新たな差別が起きることがないように留意して、調査の内容、手法等が検討される必要がある」(仁比質問 参院法務11/22)
→発議者「本法案は、あくまで対象となる個人とか地域、いわゆる旧同和地域を特定した上で、その中の個人とか地区等々について実態調査をすることは考えておりません」(参院法務12/1)

③自治体の意見も聞かず「協力」の押し付け

・共産党が要求した自治体関係者の参考人質疑も拒否して強行したもの
・2011年、全国隣保館協議会の「実態調査」(厚労省補助事業)
 旧同和地区とその小学校区、市町村の3区分で、全住民の生活保護率、障害手帳所持数、高校進学率などを調査/プライバシー侵害の「部落民暴き、文科省も「部落の出身の特定は困難」として廃止した進学率調査の復活か、など厳しい抗議、関係自治体の困惑が広がった
→ 「調査」への「協力」を迫る解同に、高知県は拒否
「法の失効後は、地域や人を特定せず、行政課題ごとに施策を実施していく。したがって、施策ニーズを把握するために調査が必要な場合には行政課題ことに行う」
・岡山県人権施策推進課長「現在、県内に同和地区とか同和関係者というのはいない。分からないとしか言いようがない」(臨時国会人権メールニュース 16.1.30)

④「部落差別」との定義がない 乱用の危険

 法律で差別を問題にするとき「何を差別として誰が判定するのか」が核心の問題

⑤差別意識を拾い出そうとしたり、偏見をうえつける「意識調査」の問題

→啓発・調査でも「新たな差別を生むことがないよう」に。「啓発指針」、参院附帯決議

■おわりに 格差と貧困の打開こそ

・貧困の拡大、閉塞感の中で、国民の中に分断を持ち込む道具になる危険
・アベノミクスの転換し格差と貧困の打開こそ必要――野党共闘の前進こそ

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