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当事者が参加して、認知症になっても安心して暮らせる地域を 提言

京都市で開かれていた第32回国際アルツハイマー病協会国際会議が閉幕した。78の国と地域から約4000人が参加。本人の視点を重視し、「ともに新しい時代へ」をテーマに掲げた会議は、認知症の方の参加は過去最多の200人を超えたとのこと。認知症は15年時点で日本に500万人超、世界では約4700万人と推計されている。
 この会議にさきだち「認知症の人と家族の会」で3月に提言を発表(下段に、「まとめ」部分掲載)している。まとめは最後に「当事者が参加して、認知症になっても安心して暮らせる地域を」と呼びかけるとともに、介護軽度者の市町村事業への移行(専門職でなくてもサービス提供可能)や生活援助、福祉用具貸与の原則全額自己負担など議論について「これらが実行された場合、認知症初期の人と家族の生活は大変な深刻な事態となります」と指摘し「要支援や要介護1・2 の人にこそ、専門職による柔軟な支援を願う」と主張している。

【認知症「当事者も参画しよう」 本人重視へ転換訴え 国際会議が京都で開幕 東京4/27】
【認知症初期の暮らしと必要な支援  提言 2017.3 認知症の人と家族の会】

【認知症「当事者も参画しよう」 本人重視へ転換訴え 国際会議が京都で開幕 東京4/27】

 世界各国から認知症の人や家族、専門家らが集まり、地域づくりや最新の科学的知見を話し合う「第三十二回国際アルツハイマー病協会国際会議」の開会式が二十七日午前、京都市の国立京都国際会館であり、実質的な議論が始まった。二十九日まで。
 日本での開催は二〇〇四年に続き十三年ぶり二回目。国内では二五年に高齢者の五人に一人が認知症という時代を迎える。会議には認知症の人が自ら企画、運営に携わっており、これまでは介護の負担軽減など家族や介護者ら「支える側」の視点に偏りがちだった国の施策を、本人の意思重視へと転換させる後押しになりそうだ。
 会議のテーマは「ともに新しい時代へ」。三十九歳で若年性アルツハイマー病と診断された丹野智文(たんのともふみ)さん(43)=仙台市=が「当事者の話を聞いて、一緒に考える人が増えることを望みます」とスピーチした。
 会議は国際アルツハイマー病協会と「認知症の人と家族の会」(京都市)が共催。家族の会の高見国生(たかみくにお)代表理事は開会式で「〇四年の会議以降、理解が進み、当事者の活動も活発化した。今回はさらに認知症の人も家族も生きやすい社会をつくろうというのがテーマだ」と話した。

◆30代で発症、丹野さん 守られるだけの存在でない

 認知症の人は「守られる」だけの存在ではない-。仙台市の会社員丹野智文さん(43)は二十七日、国際アルツハイマー病協会国際会議のスピーチで、当事者が自ら意思決定し、主体的に社会と関わる必要性を訴えた。
 若年性アルツハイマー病と診断されたのは、自動車販売会社のトップセールスマンとして活躍していた三十九歳の時だった。二人の娘は当時、中学生と小学生。泣きじゃくる妻を前に平静を装ったが、インターネットで検索してもマイナスの情報ばかり。不安と恐怖で押しつぶされそうになりながら夜、ベッドで涙を流し「終わった」と思った。
 絶望の淵から抜け出すきっかけになったのは、不安を乗り越えた人たちとの出会い。十年たっても元気でいられると知り、「認知症を悔やむのではなく、認知症とともに生きよう」と決めた。
 国の認知症施策は長年、介護する家族らの負担軽減や地域の見守りなどに重点が置かれてきた。「(認知症の人は)何もできない、守られなければならない存在だとされてきた」。だが丹野さんら当事者の声は少しずつ、しかし確実に社会を動かす。
 二〇一四年に結成した国内初の当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」のメンバーとして一五年に安倍晋三首相と面会。認知症の国家戦略策定にも影響を与えた。相談窓口「おれんじドア」の代表に就任し、認知症の人が家族や周囲に気兼ねせず、本音を打ち明けられるよう、車座になって悩みに耳を傾ける。
 昨年九月、認知症対策の先進地、英北部スコットランドを旅して、多くの当事者から話を聞いた。「自分のことは自分でやる。支援者のサポートは最低限」という姿勢を目の当たりにし、「認知症とともに生きる」意味を改めて問い直したという。
 「世界と日本が手を結び、当事者も参画して、認知症にやさしい町づくりに取り組んでいきましょう」。共生社会実現の理想を胸に、父として、一人の人間として歩き続ける。

【認知症初期の暮らしと必要な支援  提言 2017.3 認知症の人と家族の会】

9.まとめ

(1)考察

1. 認知症初期の人は、適切な支援があれば社会的ネットワークを維持し、自立した生活を送ることができる。

今回の調査結果では、回答した認知症の人のうち約70% の人はADL への援助を必要としておらず、10% 余りの人が1 人暮らしをしていた。また、59 歳以下に限れば、28% が仕事を続けており、休職中の給与も含まれると思われるが、給与収入を得ている人も40% となっていた。加えて、34% の人は介護保険サービスを利用していなかった。

ただしこの中には、使いたくても自分に合うサービスがないため、使えない人も含まれていると考えられる。また、ほとんどの人が何らかの形で外出をしており、週5 日以上外出している人が60% 近く、そのうち1 人で外出している人は25% であった。外出先として、自立度に関係なく散歩に出かける人が40 ~ 50% いた。1 週間のうちの外出日数が多い人ほど、家族以外との人と話した頻度が多く、外出が家族以外の人との交流につながっていることもわかった。ただ、現況の移送サービスが不十分なため、趣味のための外出をしたいけれどもできない状況があることがわかった。このように、認知症初期の人は、自立して生活している人が多い。

また、約40% の人が散歩のための外出をしており、畑仕事や趣味のための外出などとも合わせ、現在の生活を続けられるように努力をし、認知症になっても希望を持ち続けて自らの力で自立した生活を続けていることがわかった。例えば、現在できないことの中で多かったのは「銀行等のATM の利用」(75%)、「バスや電車の利用」(73%)、「日用品の買い物」(60%)と続く。しかし、このような場面に適切なサポートがあれば、自立した生活は可能であるとも言える。人によって、できないことや苦手なことは異なるため、電話をかける、洗濯や掃除をする、料理する、入浴する、といった生活の一場面における行為のどの部分にどのようなサポートがあれば、自立した生活を維持できるのか、という視点で認知症初期の人の生活を理解し、支援する必要がある。適切なタイミングでの声かけや見守り、付き添いといった最小限の支援で、認知症初期の人の生活の範囲が維持されることがわかる。

発症を機に仕事を退職せざるを得なかった認知症の人は「仕事を続けたかった。(仕事を辞めて)やることがなくて困ったから、やりたいこと、できることが出来る場所があると良いと思う」と答えている。今回の調査に回答した認知症初期の人のうち10% を超える人が「仕事をしたい」と答え、また17% が「人の役に立ちたいが機会がない」と答えている。以上から、認知症になると何もできないという従来の理解は、認知症初期の人の生活の実態とは明らかに異なることが明らかとなった。このように、認知症の人が「自助」を続けている現状はあるものの、周囲や同僚の理解といった「共助」、職場が柔軟に対応できる制度等の「公助」が現在では不十分である。また、フォーマル、インフォーマル問わず、認知症の人が活躍できる場を作っていく「互助」の工夫も望まれることが明らかである。

2. 認知症の人と家族は同じような変化から認知症に気づき、対応について情報収集や相談をしている。

認知症と診断される前の変化について、認知症の人が自身の変化に気づいていたのは全体の15%、59 歳以下では26% であった。また、家族の81% が認知症の人の変化に気づいていたと答えた。また、家族の24% は、認知症の人が発症する以前から認知症について知っていたと答え、変化に気づいてからも、家族の90% 以上は何らかの形で認知症に関する情報を収集していた。昨今、認知症については報道でも取り上げられる機会が増えており、かつ、インターネットや行政の広報など情報を得る手段は多いことから、変化に気づき認知症を疑うだけの知識を持ち合わせる人は増えているのではないかと考えられる。家族が身内以外に相談した先は、80% 以上がかかりつけ医を含めた何らかの医療機関で、地域包括支援センターが21%、認知症カフェや家族会が11% の順で多かった。それらを知った経緯は、「以前から利用していたから」と答えた人が30%、「家族や知り合いからの勧め」が30%、他には広報やチラシ、本やインターネットで調べた、と様々であった。このように、日ごろから利用している機関や認知症カフェに相談する人、近所や友人との話の中で新たな相談先の情報を得ている人が多いことが分かった。

変化への気づきが医療機関受診につながっていることは、認知症が病気のひとつであることの認識が高まっていることの表れであると言える。相談した先での対応への満足度をみると、もの忘れ外来での満足度が他に比べてやや低い。このことは、もの忘れ外来が確定診断に特化した役割を担い、その後の介護や生活に対する助言ならびに対応については、かかりつけ医や介護サービスが担うという分担構造が存在しているからではないかと考えられる。変化に気づいてから受診するまでにも、多くの不安や葛藤、苦悩を抱えている認知症の人と家族の心情に配慮し、認知症の診断にかかわる医療機関では、わかりやすい説明と今後の見通しを含めた告知など丁寧な対応が求められている。

3. 要支援、要介護1・2 の人のサービス利用が、家族の就労、認知症の一人暮らし等を支えている。

認知症初期の人のうち、要介護認定を受けている人に利用サービスについて尋ねたところ、要支援や要介護1・2 の人の多くがサービスを利用していた。要介護1・2 の人のうち、通所介護・通所リハビリと、訪問介護・訪問看護や短期入所介護とを「複合利用」している人の割合が多かったのは、介護家族が働いている人であった。

従って、介護保険サービスの適切な利用が介護家族の就労を支えていることがわかった。要支援、要介護1・2 の人の介護家族で働いている35 人のうち、「家庭や仕事との両立が困難」と答えた人が13 人(37%)、「介護のために仕事を続けられない」と答えたのは7人(20%)であった。

また、一人暮らしの人は、通所系サービスと訪問系サービスを合わせて利用しており、複合利用が一人暮らしの人の生活を支えていることもわかった。しかし、75 歳以上で配偶者を亡くした女性の場合は、自宅で暮らし続けたかったが離れざるを得なくなっていることも明らかとなっており、性別や家族背景の問題で一人暮らしの継続が難しくなる場合があることが分かった。一概に一人暮らしといっても、その多様性に目を向けた支援も必要であることが明らかとなった。このように、人により千差万別な生活背景や症状だけでなく、状況や変化に合わせて支援や介護サービスを利用しながら穏やかな暮らしを維持するためには、ケアマネジメントの質が大変重要である。

4. 介護する家族の生活が安定したものとなるためには、認知症の人が気軽に通える場が必要である。

介護家族の30% は現在も働いていた。しかし、そのうち15%が「介護のために仕事を続けられない」と答え、32% が「家庭や仕事と介護の両立が困難」と答えていた。

また、全体の52% が健康状態に不安を抱いており、家族は家庭、仕事、健康問題を抱えつつ、介護を担っていることがわかった。同時に、介護そのものに対しても「認知症の人にどう対応すればよいのか分からない」(20%)、「介護や見守りを手伝ってくれる人がいない」(32%)と初期に抱えがちな困難を感じていた。認知症の人への対応には認知症初期集中支援チームなどの専門職による支援の充実や、地域の介護保険施設や事業所が相談窓口になる等の対応が当然必要である。また、家族が介護と両立しながら仕事を続けるためには、職場の理解が必要であり、介護の状況に合わせて柔軟に勤務体制を変えることのできる制度や使いやすい介護休暇等の拡充も必要である。しかし、それに加えて、介護に直接関わっていないが、家族・親族として、友人・同僚・隣人として、何気ない声かけや挨拶をする間柄や相談相手として、認知症の人の見守りをする地域住民や社会の温かい目も必要である。さらに「互助」として、近隣地域での見守りや付き添い、傾聴ボランティア、介護保険サービス以外で気軽に認知症の人が通うことのできる集いの場も期待される。これらは、認知症カフェや地域サロンに限定されるものではなく、街角にある喫茶店やカフェなどが、認知症の人にとって居心地の良い空間であれば、一般の客として利用できる。このように、認知症の人が外出や買い物、公共交通機関の利用を安心してできるような街づくりも、認知症初期の人が暮らしを維持するために重要なことである。

5.薬の飲み忘れや飲み過ぎへの対処法と、新薬に関する情報が求められている。

認知症初期の人の20% が薬の自己管理をしていた。服薬に関する最大の悩みは、本人、家族とも「飲み忘れ」であった。また「飲んだことを忘れて多めに飲んでしまう」という悩みもあった。服薬管理を困難にしている理由の一つとして「薬の種類や数が多くて大変」という項目で、認知症の人も家族も10% 以上の人が「はい」と答えていた。日々の服薬については指示通り飲むことに難しさを感じている様子が明らかとなった。

しかし、薬に関する悩みで「飲み忘れ」に次いで多かったのは「新薬や治験の情報が知りたい」というものであった。これは、認知症の人も家族も治療によって認知症の進行を遅らせ、治すということに対する望みが大きいことの表れである。だからこそ、薬を忘れずに飲むという行為そのものも、認知症の人や家族にとって重要な問題でもある。従って、より効果の高い新薬の開発とともに、より管理しやすい方法で服用できる新薬が開発されることも期待される。

6.「 家族の会」あるいは当事者の会、認知症カフェは生活や症状の相談窓口として、認知症の人と家族の心のよりどころとなっている。

認 知症の人の困りごとへのサポートについて、今回の調査では、回答した認知症初期の人と家族の30% が認知症カフェを利用し、家族会や当事者の会を利用している人は60% を超えていた。認知症の変化に最初に気づいた時に、身内以外に相談した先としては、11% の人が認知症カフェ、家族の集いと回答していた。そこで受けたサポートは「介護や支援サービスの紹介」が30%、「日常生活の工夫や介護の相談」が10%、「介護家族による励ましや支え」が30% であった。これらに比べて、かかりつけ医やもの忘れ外来では診察や検査、診断にとどまり、介護等のサービスや具体的な生活や介護の相談にはつながってはいなかった。また、地域包括支援センターで介護や支援サービスの紹介を受けた回答者は40% に上ったが、日常生活の工夫や介護の相談をし助言を受けたと答えたのは10% であった。日々の困りごとへの対応について、家族会や当事者の会と地域包括支援センターでは数字に大きな違いはみられないが、認知症の人や介護の経験者による助言や励ましが支えになるという点から、家族会や当事者の会の果たしている役割はより大きいと考えられる。

7.まとめ

認知症初期の人は、今の状態を維持し、今の生活を続けたいと願っていることがわかった。また、できる限り自宅で穏やかに過ごしていきたいという希望を持ち、周りに迷惑をかけず仲良く暮らしていきたいと思っていた。仕事やボランティアを続けながら、自分のしたいことを続け、まわりの人と関わり続けたいという希望も持っていた。

人間として誰もが持っている希望を実現するためにも、医療と介護、福祉、行政、企業、そして我々地域住民の一人一人が認知症の人と交流し対話すること、そして認知症の人とともに暮らしやすい社会に向けて実践していくことが必要である。


(2)提言

以上の結果を踏まえて、認知症の人と家族とともに、認知症初期の人の暮らしを支える支援や認知症施策推進総合戦略提案(新オレンジプラン)等への推進に向けた提言をまとめた。これらの提言は、認知症初期の本人と家族の両方に同時にアンケートを行った今回の調査結果を踏まえて、認知症初期の本人が作成に参加して内容をまとめたものである。従って、アンケートに回答した認知症初期の本人と介護家族からの要望に加え、認知症初期の人とその家族あるいはパートナーの現実のニーズをもとに作成した提言である。

1.認知症になっても今までの生活を続け、やりたいことができる社会を実現しよう。

1)今まで通り、普通に暮らすことができることを知って下さい。

認知症になったからといっても、すぐに全てができなくなるわけではありません。また、すぐに誰かにお世話してもらわなければならないわけではありません。ただ、今まで通りに普通に暮らすためには、少しだけ周囲の人に声をかけてもらったり、一緒に考えてもらったりしなければならないことがあります。それは家族や近所の人、乗り物に乗り合わせた人、お店の人、道端で出会った人など、ごく身近な人で十分に対応してもらえることです。例えば、ある認知症初期の人は日々の生活を次のように表現しています。「今まで何気なくしていたことの1 つ1 つに時間がかかり、朝の支度ひとつとってもストレスが溜まることがあります。1 人で外出できても乗り物や道に迷う、案内板を見落として遠回りしてしまい疲れ果ててしまい、もう外出は嫌だと思うのに、翌日にはそのことを忘れて外出する、ということもあります。しかし、つい気を遣い、自信がなくて情けなくて、自分から誰かに尋ねたり、わからないことを打ち明けることができません」。この体験談からもわかる通り、周りの人のちょっとした歩み寄りがあれば、今まで通り暮らすことができるのです。

認知症であるとわかっても、まずは今の生活を続けることを目的に、病気の治療だけでなく、本人と家族の生活の変化が最小限となるように、寄り添いの支援が開始されることを求めます。今まで通りの生活をするには、不安な状況に精神的なサポートをし、必要な手続きや支援を導いてくれる最初のパートナーが必要です。介護保険制度のサービスの多くは、重度な介護を想定しているため、認知症初期の本人には合わない場合があります。

認知症初期の本人や家族が抱えている困難は、周囲の理解や物事の考え方の転換で対応できるかも知れないし、安心できる居場所が地域にあれば十分かも知れませんが、そのような発想を導き、必要な支援のコーディネートをする専門職が必要です。

2)認知症初期の人が就労を継続できる支援の充実と、通勤の移動支援の創設を願う。

今回の調査結果からは、在職中に発症した人が仕事を続けることが難しくなっている現状が明らかとなりました。アンケートに回答した認知症初期の人のうち、周囲の支援を得て現職を続けフルタイム勤務だった人は、1 人だけであり、IADL が自立している人でも退職に追いこまれている現実がありました。従って、経済的保障や社会的ネットワーク維持の観点からも、認知症発症直後の初期に就労を継続することを焦点にあてた支援の拡充が必要です。まずは現在の仕事を継続することが難しい事情や、どのような配慮や支援があれば、仕事を継続することができるのかについて、いつでも相談にのり、偏りのない立場で判断し支援を行う専門職の配置あるいは専門窓口が設けられることを願います。

特に、通勤や職場への移動の付き添いができる移動支援の創設は早急に実現をお願いします。現行の介護保険制度には、移動支援自体が存在しません。現在、認知症初期の人が利用しているのは、障がい者支援制度や民間のガイドヘルパーです。障がい者支援制度のガイドヘルパーを利用する場合の難点は、通勤のための利用など経済的な活動の際には利用できないことです(注)。認知症初期の人にとって、最も必要な支援のひとつであるにもかかわらず、支援制度が存在しないことは就労の継続を妨げています。認知症初期の人の中には、公共交通機関の利用など通勤が難しくなることで仕事を続けることが困難な人もいます。その場所にさえ行くことができれば、そこで仕事をしたり、人とコミュニケーションをとったりできるのに、そこに支援が不足しているために、居場所があっても行けない現実があります。通勤に使える移動支援サービスがあると、認知症の人は自立した生活を切れ目なく、そして長く続けることができるのです。従って、通勤や仕事先への移動のために使える移動支援を介護保険制度のサービスで利用できることは就労支援のひとつとして重要です。

(注) 自治体によっては、障がい者支援制度のガイドヘルパーを通勤で利用できる措置を講じているかも知れませんが、本報告書作成時点ではそのような特例措置は確認できておりません。

3) 若年性認知症の人向けのサービスは個別のニーズに合わせた多様性と新規性を期待する。

認知症になったら介護保険制度を利用するように勧められ、若年の方には不相応なサービスを使わされる現状があります。それは介護保険制度以外の支援が十分でなかったり、認知症初期の人にとって安心して過ごせる居場所が十分にないからです。実際に行きたくもないデイサービスに無理に行ったり、途中でどうしても行きたくなくなってひきこもってしまう人もいます。例えばデイサービスでは、利用者のニーズに合わせて、利用者のやりたいことができるデイサービスもありますが、こういったデイサービスは希少です。従って、そういった情報自体が入手しにくく、発症当初に認知症の人と家族が利用したくてもできないため、早くにこういった情報を知ることができるようにして欲しいです。実際に、今回の調査結果でも、認知症初期の人のうち、64 歳以下の人が現在の介護保険サービスを十分利用できていない現状がありました。それは「使いたくても、使えるサービスがない」という理由が大きいのです。若年認知症や認知症初期の人が抱える症状は個人により異なり、ほとんど自立した生活を送っている人もいれば、手順に沿った行為や読字が困難となり、生活行為の一部に苦手な部分が出てくることによって、仕事や家庭内での役割を継続することが困難になっている人もいます。従って、収容型の提供サービスを当てはめる既存の発想では、若年認知症、および認知症初期の人の生活実態に沿った支援はできません。能力や体力がある若年性認知症の人が、できる限り地域や社会で、本人の希望に近い生活や仕事が継続できるよう、認知症の人の社会参加を支援する視点が新たに必要です。それはサービスに限らず、新たな就労形態という意味でも、認知症の人が活躍できるような場をつくっていくことです。

4)今までの行動範囲を維持できるような外出支援の充実を願う。

認知症初期の人は、発症前と同じように、家族以外の人と関わって、社会的な存在として生きていくことを望んでいます。調査結果において、認知症初期の人と家族以外の人との交流は、趣味のための外出を行う場面で多くなっており、認知症の人は余暇活動等への付き添いサービスを希望していることもわかりました。現在、要介護2の認知症初期の人は、発症のために退職した当時を振り返り「認知症と診断された後は、今まで付き合っていた友人は離れていき、行くところもなく、やることもなくなり、毎日死にたいと思っていた」と話しています。しかし同時に「同じ病気の人と知り合いになって、話がしたいと思っていた。認知症カフェに通い始めて、友人がたくさんできた」と話しています。同じ病気の人と出会い、人と関わりあうためには、自宅から一歩出て、仲間や話し相手のいる居場所や、一市民として安心して穏やかに過ごせる空間に出向くことで実現されるものです。実際、この認知症の人は、認知症カフェに一人で通っていましたが、バスの番号がわからなくなるなどして、やがて一人で通えなくなりました。しかし、障がい者支援のガイドヘルパーを使って、さらに一年程認知症カフェに通うことができました。

従って、現行の移動サービスと合わせて、趣味のための外出への付き添いが求められるため、移動サービスのさらなる充実を求めます。前述した通り、介護保険には付き添いサービスはないため、現在認知症の人の多くは「障がい者総合支援法」のサービスによるガイドヘルパーを利用している場合が多いようです。まずはこのガイドヘルパーにあたる移動支援を介護保険、特に認知症初期の人と家族が利用できる支援サービスとして設置して欲しいと思います。なぜならば、その理由は3 つあります。第1 に、障がい者支援制度のガイドヘルパーは介護保険サービスではないため、最もこの支援を受けたい発症直後から認知症初期の時期に、これらの情報を得る機会がほとんどなく、情報にたどり着くまでに時間がかかることです。第2 に、利用するまでの手続きが煩雑なために、さらに利用までに時間がかかってしまうことです。第3 に、介護保険とは別に利用料金がかかるため経済的な負担になることです。これらの理由で認知症初期の人や家族は大変困った経験をしていました。従って、介護保険で趣味にも通勤にも利用できる移動支援の創設を願います。

5)認知症の人同士がつながりあい、語り合う場、安心して過ごせる場の充実を願う。

認知症初期の人は、家族以外の相談相手として「認知症や軽度認知障害(MCI)の人同士のつどい」を希望していました。特に介護保険サービスを利用しづらい64 歳以下の人たちにとって、家族会や当事者の会は、同じ境遇の仲間と思いや悩みを打ちあけ、知恵を共有しあう場として非常にニーズが高いことが調査結果からも明らかでした。

従って、「認知症や軽度認知障害(MCI)の人同士のつどい」や認知症カフェ等、安心して過ごせる場の拡充、それらの活動を継続していくための経済的支援や、サポーターの存在など、寄り添いの支援がさらに充実することを願います。また、認知症であることがわかっても、自分の住む地域に「安心して利用できる居場所」があって、やりたいことができる、やりたいことがなくても安心して過ごすことができる、ということがごく普通の日常になることを願います。そういった居場所は、なにも認知症の人たちだけが集まる場である必要はなく、地域の喫茶店やスポーツジム、習い事など、認知症初期の人が安心して行ける環境があれば良いのです。そこで皆と一緒に過ごすための工夫を私たち認知症の人と一緒に考えて欲しいと思います。

2.家族の安心を保障し、認知症初期の人の生活の安心につなげよう。

1)認知症初期の人と家族が、仕事を辞めずに一緒に暮らしていける世の中を願う。

家族が認知症であるとわかっても、仕事を継続することに支障があってはなりません。今回の調査では、介護と仕事の両立に困難を感じていても、介護をしながら仕事を継続するための相談を受けた家族はいませんでした。 しかし、生活が多少なりとも変化する中で、仕事をいかに継続するかについては、家族それぞれの状況に応じて相談に応じてもらえる支援が必要です。

また、介護をしながら仕事を継続している家族は、介護支援サービスを複合して利用していても、介護と仕事の両立が難しいと感じていました。前述したように、制度はあっても使えない場合や、サービスでは行き届かない部分も多くあります。サービス利用のみでは不十分で、家族が認知症初期の本人とともに暮らしていくためには、多くの工夫や努力が必要となるのです。従って、このような状況の中で、職場での柔軟な配慮を推進する制度の整備は、家族にとって介護サービスに相当する重要な支援となるに違いありません。

2) 家族が認知症あるいは軽度認知障害(MCI)と判明したその時から、家族も支援の対象とし、家族が認知症であるとわかっても、不安な日々を送る家族がいない社会の実現を願う。

認知症の人が、病気になってもそれを受け入れ、今まで通りの生活をしようと思っていても、キーパーソンとなる家族が悲観的に考えていては、本人の気持ちが台無しになります。従って、認知症あるいは軽度認知障害(MCI)であるとわかったその時から、家族自身も支援や教育を受ける必要があります。特に、認知症の人の症状の変化や進行に伴い、家族も初めての経験に戸惑うと共に、どのように対応すればいいのかわからず、家族自身がその変化についていけないこともあります。認知症がわかったとしても、家族にとって家事や仕事の負担は変わらず存在します。しかし、認知症の人にとって、家族は大事な理解者です。認知症の人はもちろん、家族も自分を取り戻す時間を持ち、ストレスを和らげ、明日に向かうエネルギーを蓄えることが必要です。従って、家族の精神的なサポートを充実することが重要です。また、介護する家族は、年齢に関わらず、若い人であっても自分の健康状態に不安を感じています。当会でかねてから提言してきたことですが、認知症の人と家族は、それぞれにおいて、それぞれに応じた支援が必要です。年齢に関わりなく、家族が低負担でいつでも利用できるサービスの充実と、家族の心身の健康維持への配慮も、より一層具体的に進められることを願います。

3.専門職の助言や支援は、認知症初期の人の生活の質に良くも悪くも大きく影響する。

1) 医療機関の専門職が、認知症初期の人を理解し、その後の人生を生きる支えになって下さい。

認知症初期の人と家族は、認知症によって生じた様々な変化や周囲の人との関係性、生活の継続において、どのように対応すればいいのか、これらの現実をどのように受け止めればいいのか、それぞれに不安や悩みを抱えています。「認知症初期が一番辛く不安な時期だった」と振り返る本人や家族の人が多くいます。認知症の人や家族に接する機会の多い専門職の皆さんには、検査や診断、通院には本人や家族の身体的・精神的・経済的な負担が伴うものであることを、改めて理解して、本人や家族を尊重する態度で対応して頂きたいです。また認知症であるとわかった場合には、検査結果や診断内容の告知だけでなく、明日からどうすればいいのか、といったすぐに生じる疑問や問題に対する対応、日常生活の工夫、相談窓口の紹介、支援サービスの紹介等、生活を継続していくための情報提供や助言が、確実に本人や家族に届けられるようにして頂きたいです。そのためには、それぞれの医療機関や相談窓口、行政が連携して、これらの情報が切れ目なく認知症初期の人に提供されるシステムが必要です。新オレンジプランに盛り込まれている「かかりつけ医向けの認知症対応力向上研修等」でも今後、周知をお願いしたいことです。また、医師だけでなく、日ごろ通院などで認知症の人と関わる薬剤師や看護師、介護職、その他医療・介護に関わる従事者も対応能力を向上することで、これらのシステムが充実するものと期待しています。

2)要支援や要介護1・2 の人にこそ、専門職による柔軟な支援を願う。

現在、要支援者については、訪問介護による生活援助と通所介護は、介護保険の受給対象から外され、市町村が主体でサービスを供給する地域支援事業に移行しつつあります。また、要介護1・2の人についても、地域支援事業でのサービス供給と、生活援助や福祉用具貸与が原則自己負担、という案が検討された経緯がありました。これらが実行された場合、認知症初期の人と家族の生活は大変な深刻な事態となります。

今回の調査結果では、認知症初期の人のうち、要支援や要介護1・2 の人の多くがサービスを利用していました。
また、要支援や要介護1・2 の人における「通所」と「訪問」や短期入所等の複合利用が介護家族の就労継続、認知症の人の一人暮らしを支えていることも分かりました。従って、要支援や要介護1・2 の認知症の人については、従来の介護保険サービスの利用がすでに欠かせないものとなっており、これらの介護サービスの利用継続が可能となることを求めます。また、これまで述べてきたように、認知症初期の人にとって、発症した直後の時期に個々の現状に合わせた柔軟な支援を受けることにより、それまでの生活を維持して自宅で過ごすことが可能となるのです。

従って、要支援や要介護1・2 の人にこそ、暮らしにくさや生きづらさを解消する柔軟なサービスをコーディネートし、適切な支援を提供できる専門職が関わる支援サービスが必要です。そのことによって認知症になっても、穏やかに生活を維持し、社会とのつながりを保ちつつ、生きていくことができるのです。
しかし、現状の介護保険サービスでは不十分です。現行の施策を認知症の人に当てはめるのではなく、利用する人のための施策にして頂きたいです。そのためには、認知症の人と家族それぞれに合わせたプランが必要となるはずです。そういった発想で、今後提案したいことが2 つあります。

1 つは、認知症あるいは軽度認知障害(MCI)であると判明したその時から、本人と家族に寄り添い伴走支援を行う、スコットランドの「リンクワーカー」のような支援者を置くことです。なぜならば、それぞれの生活の状況や症状に合わせて必要な助言や支援のコーディネートが必要で、それこそが認知症の人と家族の生活を滞りなく維持するために最も必要なことだからです。
2 つ目に、認知症の人と家族は、人それぞれに生活が異なり、居住する地域性も異なるため、個々の「プチ・オレンジプラン」を作成して欲しいです。認知症の人と家族が病気を受容し、新たな生活を構築するためのサポートこそ、認知症初期の人に必要な支援なのです。

4.当事者が参加して、認知症になっても安心して暮らせる地域を実現しよう。

1) 認知症の当事者が参加できる場、病気であることを意識せずに過ごせる場が必要です。

認知症の人が参加する話し合いや会議、イベントが行われることがあります。しかし、認知症の人が参加すれば「当事者参加」というわけではありません。当事者のわからない専門用語を使ったり、細かい文字の資料を渡されたり、時間がないのか早口で進められたりしています。そんな会議に当事者が参加しても理解できません。理解できなければ自分の意見も言えません。認知症の人にもわかる話し合いをすることが、本当の当事者参加です。また、認知症カフェなどの場に出向くと、質問攻めに遭うのも嫌です。一般の人がカフェに行って質問攻めにあうことなどないはずです。認知症の人も家族も、一般の人と同じようにカフェを利用し、穏やかな時間を過ごしたいのです。認知症の人が何人来たかという統計をとる必要がある認知症カフェを作るくらいなら、安心して気軽に行ける喫茶店やコーヒーショップが地域にあることの方が認知症の人にとってはありがたいです。

2)認知症の人だからこそ持てる役割をもっと開拓しよう。

本当に認知症の人にやさしい町を作ろうとするならば、当事者が実際に出向いて判断をする必要があるはずです。例えば「ここは認知症の人が行きやすい」と当事者に認定されれば「認定ステッカー」を貼るなど、安心して行ける場所の選定や普及を目指して欲しいのです。それはお店やサロンだけでなく、地域の窓口や銀行を含めて、当事者が使いやすいのかを実際に利用して判断してもらうといった、当事者が参加しての町づくりです。これは大変重要な仕事ですが、認知症の当事者にしかできない仕事でもあるため、認知症の人に報酬を出して依頼するなど、認知症初期の人の新たな就労支援としても考えて頂きたいです。このように、少しの工夫があれば地域で自立して暮らせる認知症初期の人だからこそ持てる役割があります。もっと認知症の人が役割を持てるように工夫ができると思うのです。こういった発想は、認知症初期の人も、一般の市民にとってもお互いにとって有益なことです。認知症初期の人が感じること、思っていることを、もっと社会の様々なことを良くする活動に活かして、誰が認知症になっても安心して暮らしていける地域や社会を、ともに実現していきましょう。


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