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カツオ守れ~日本政府の「二枚舌外交」に終止符を

 カツオの不漁で、12月議会では自民党県議がカツオの資源保護で質問し、知事も積極的に答弁、カツオ県民会議の立ち上げた。2月県議会では、自民党が「カツオ資源保護」で意見書を提出している。
 が、日本は一貫して太平洋クロマグロの資源保護に横やりをいれ、国際的批判をうけている。
 クロマグロの親魚の生息数は初期資源量(漁業がないと仮定したときの資源量)比で2.6%の水準にまで減少しているが、日本は「資源は上昇傾向」と極めて低い回復目標〔24年までに7%〕しか提示しなかったからである。17年度予算でも混獲回避のための漁具改良支援で3000万円しか手当てしていない。
 自民党の意見書は、カツオの50%維持は低すぎで60%に、となっているが、現在の政府のスタンスでは他国は誰も相手しないだろう。カツオを守るためには政府の「二枚舌外交」を辞めさせることが重要!

以下は、そのことがよくわかるレポート。
【マグロ減らし国の名誉傷つける水産庁「二枚舌外交」~「科学を操作するな」諸外国の怒りを買った日本 ismedia 2017年1月12日】

【マグロ減らし国の名誉傷つける水産庁「二枚舌外交」~「科学を操作するな」諸外国の怒りを買った日本 ismedia 2017年1月12日】

○真田康弘 (早稲田大学地域・地域間研究機構客員次席研究員/客員講師)
早稲田大学地域・地域間研究機構客員次席研究員・研究院客員講師(法政大学大原社会問題研究所客員研究員兼任)。神戸大学国際協力研究科博士課程前期課程修了(修士・政治学)。同研究科博士課程後期課程修了(博士・政治学)。大阪大学大学教育実践センター非常勤講師、東京工業大学社会理工学研究科産学官連携研究員、法政大学サステイナビリティ研究教育機構リサーチ・アドミニストレータを経て、2014年より現職。専門は政治学、国際政治史、国際関係論、環境政策論。地球環境政策や漁業資源管理など幅広く研究を行っている。著書に『A Repeated Story of the Tragedy of the Commons: A Short Survey on the Pacific Bluefin Tuna Fisheries and Farming in Japan』(早稲田大学、2015年)、その他論文を多数発表。

 2017年1月5日、東京築地市場の初セリでは大間のクロマグロがキロ35万円、1匹7400万円という史上2番目の高値で競り落とされた。テレビはワイドショーなどで競ってこのニュースを取り上げるなど、「クロマグロ狂騒」は今年も健在である。
 その一方、太平洋クロマグロの資源は現在危機的な状態にある。最新の資源評価によると、親魚の生息数は初期資源量(漁業がないと仮定したときの資源量)比で僅か2.6%の水準にまで減少しており、国際社会でのクロマグロの乱獲に対する厳しい目、とりわけこの乱獲に対して資源回復のための有効な措置を取らない日本に対する批判は、この数年で急速に高まり、筆者もこれを危惧していた。

 こうした批判は、先頃(2016年12月)フィジーで開催された「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」年次会合の場で、加盟国からの日本に対する鋭い批判としてあらわとなった。筆者は政府とは独立のオブザーバーとして会議に傍聴したが、手前勝手な理屈に終始する日本に対する参加各国の怒りが爆発する瞬間を目の当たりにし、ついに来るものが来てしまったか、と暗澹たる気持ちに包まれた。
 事はクロマグロだけにとどまらない。こうした現状が放置されるなら、クロマグロより遥かに身近なその他のマグロや日本の食文化にとって欠かせないカツオまで危うくなってしまいかねない。そこで本稿ではこの会議の模様を報告することを通じ、国際社会の日本のカツオ・マグロ外交及び規制に対する国際社会のこうした厳しい目を伝えるとともに、今後日本の進むべき方策について若干の提言を行うものとしたい。

◆カツオの不安

 WCPFCは、太平洋の西半分に生息・回遊するカツオやマグの漁獲量や漁獲ルールなどの規制を行う国際機関で、日本、中国、韓国、台湾といったアジアの遠洋漁業国のほか、インドネシア、フィリピン、フィジーやミクロネシア連邦といった太平洋島嶼国・地域、オーストラリア、ニュージーランド、米国、カナダ、EU等27の国及び地域により構成されている。うちオーストラリア、ニュージーランド、太平洋島嶼国など太平洋諸島フォーラム漁業機関(Pacific Islands Forum Fisheries Agency: FFA)加盟メンバー(計16)はこの委員会では統一した行動を取り、最大勢力を誇っている。日本もこの会議には今年水産庁審議官を筆頭に48名の政府代表団(業界団体も含む)を送り込み、並々ならぬ力を入れて交渉に臨んだ。なお代表団の中に外務省職員は2名(うち1名は大使館員)のみで、交渉はほぼ全て水産庁が担当している。

 日本がここ数年WCPFCで資源保護を訴えているのが、カツオである。近年、日本近海でのカツオの不漁が相次いでいる。例えば、生鮮カツオ水揚げ量日本一を誇る気仙沼漁港の10月末時点での水揚げ量は約19,000トンと昨年より約15%減り、過去20年間では下から4番目になる見込みだ。震災前年の5割に満たない(読売新聞2016年11月16日付)。カツオの不漁は全国でも相次いでおり、関係者は危機感を募らせている。

 不漁の原因ではないかと疑われているのが、低緯度海域での大量漁獲だ。熱帯地域で操業する日本の巻き網漁船の操業は横ばいだが、パプアニューギニアなど島国や米国などが漁獲を増やし、2014年の中西部太平洋の漁獲量は過去最高を更新している。2016年1月に日本カツオ学会が開催した「カツオフォーラムin気仙沼」は赤道域での大量漁獲が北方への回遊を減少させていること、WCPFCで外国の大型巻網漁業に対する管理強化を訴える宣言文を採択した(みなと新聞2016年2月2日)。

 カツオは太平洋海域を回遊するため、資源を保護するためには日本だけでなく太平洋の沿岸国・漁業国の協力が欠かせない。そこで日本は近年WCPFCの場でカツオの資源保護を各国に強く訴えている。ところがWCPFCの下に設けられている科学委員会では、カツオは乱獲されていないとの資源評価がなされてきた。本年夏に開催されたWCPFC科学委員会でも、その生息数は初期資源量比で58%とする推定が提示された。WCPFCではカツオは初期資源量比で50%の水準に保つことを目標とすることが既に合意されており、この評価に基づくならば、資源は極めて良好な水準に保たれていることになる。

 このままでは日本がいくら資源保護を理由として低緯度地域での先取り規制を訴えても各国にはその主張が説得力あるものとして響かない。当初日本はWCPFC本委員会の場で「資源回復目標は初期資源量比で60%とすべきだ」と主張したが、そこまで目標を高くしなくても良いとの意見が多数を占め、結局50%とされることが合意されたため、「これまでの資源評価は楽観的だ。実はカツオは減っている」との科学的知見を提供し、各国を説得する手段を採用することになった。WCPFC科学委員会で日本は中国及び台湾とともに独自の資源評価を提示、親魚資源量は初期資源量比で43 – 71%の水準にあり、目標とされる50%を切っている可能性がある、と主張したのである。対案を出した日本などは科学委での多数意見に合意せず、科学委員会報告書には双方の評価が併記されることとなった。

 日本近海でのカツオの漁獲は減っているとの声は現場の漁師の方々やカツオに携わる関係者から広く聞かれる。統計にも表れている。これまでの資源評価は過度に楽観的ではなかったろうか。とするならば日本がWCPFC科学委で提示した資源評価は大多数の支持とまではいかなくとも、ある程度の理解が得られるのではないか。筆者が会議に参加したのも、各国やその他参加者からこうした理解が得られていることを確かめたいというのが一つの理由だった。しかしこうした期待は裏切られた。

◆「科学を操作するな」

 カツオの資源評価が議題として取り上げられたのは会議が始まって二日目の火曜日。午前のセッションだった。各国代表を前に科学委員会代表からメバチマグロやキハダマグロなどと並んでカツオの資源評価がパワーポイントを用いて発表が行われ、先述のように「乱獲は起こっておらず、資源的に問題がない」との見解が提示された。そこで日本代表は発言を求め、「カツオについては日本等がこれとは異なる資源評価を提示している。その意見には合意できない。より多くのデータを用いて検討を行う必要がある」とコメントした。
ところが日本のこうした主張に対し、WCPFC参加メンバーは全く聞く耳を持たず、日本に対する辛辣な発言が相次いだ。FFA加盟国は「日本などの疑問に応じ、科学委員会は追加的な作業を行っている。そこでも資源に問題はないと出ているではないか」とコメントし、ナウル協定加盟国(ミクロネシア、キリバス、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、ソロモン諸島、ツバル)を代表して発言したナウルも「FFAの発言に賛成だ。日本は資源評価の操作(manipulate)をするな」と非難した。「manipulate」という言葉は「ごまかす、不正操縦を行う」という含意を有した極めて強い言葉であり、筆者は他の政府間の国際会議でも学会の場でもこのような言葉を聞いたことがない。

 日本に対する批判は他国からも上がった。EU代表は「カツオの資源評価は極めて説得力が高い。にもかかわらずこれを信頼できないという日本のコメントには驚きと懸念を禁じ得ない。日本はこの資源評価に合意すべきだ」と発言、ニュージーランドも「EUの意見に賛成だ」と後に続いた。科学委員会でカツオの資源評価で日本側に立ったはずの中国や台湾は一言も言葉を発さず、日本は孤立無援の立場に立たされた。

◆孤立する日本の「ダブルスタンダード外交」

 なぜ日本はこれほどまでに各国から批判を受けたのであろうか。それは、日本が「被害者側」の立場であるカツオに対してはさんざん資源保護を訴えておきながら、「加害者側」の立場、つまり日本が大半を漁獲する太平洋クロマグロでは全く態度を変えてしまう「ダブルスタンダード」にも一因があろう。「二枚舌外交」とも言えよう。

 先ほど述べたように、現在太平洋クロマグロはその親魚が初期資源量比2.6%であると推定されている。カツオの目標達成ラインは初期資源量比50%とされており、これを下回ったならば極めて厳しい措置を導入すべきとされている下限ラインは20%である。WCPFCはキハダマグロ、メバチマグロ、ビンナガマグロについてもこれを割ってはならないと想定されている下限ラインをカツオと同様、初期資源量比20%に設定している。北部太平洋の資源に関してWCPFCは主として北小委員会という下部組織で審議を行っているが、この場でも米国から2030年を目途に初期資源量比20%までに資源回復を目指すとの提案が数年前より繰り返し上程されてきた。

 ところが日本はこれに対し「初期資源量比20%というのは余りに高すぎて非現実的だ」と頑なに拒否し続けた。北小委員会はWCPFC条約の規定によりコンセンサスでしか勧告を行うことができないため、日本一カ国が反対し続ければ、何の決定も行うこともできない。この結果北小委員会では日本の主張に基づき、2024年までに漁獲統計がある1950年代から現在までの期間の資源量の中間値となる初期資源量比7%までに回復させるという暫定回復目標しか設定することができなかった。WCPFCの下で管理されている他のマグロ類の下限ラインは20%、カツオの目標ラインが50%であるのに比べ、7%という「目標」(下限ラインではない)がいかに低いかは、言うまでもないであろう(図1参照)。

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図1:太平洋クロマグロ推定産卵親魚資源量
(2016年資源評価値)
出典:ISCクロマグロ資料評価レポート写真を拡大

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図2:太平洋クロマグロ推定産卵親魚資源量
(2016年資源評価値と2014年資源評価値)
出典:ISCクロマグロ資源評価レポート写真を拡大

 日本は現状の目標でもよい理由の一つとして、2010年以降資源は上昇トレンドに転じたことを挙げている。確かに2016年に行われた最新の資源評価によると太平洋クロマグロの資源は上向いているように見えるが、2014年に行われた前回の資源評価では2012年の推定親魚量が26,300トンとなっていたところ、最新の評価ではこれが過大評価であったとして13,800トンとほぼ半減の下方修正が行われている(図2参照)。そもそも「資源は上向き」といっても2.6%でしかなく、WCPFC加盟国が日本の主張に賛意を表すとは到底想像することができない。

 日本のクロマグロに関するダブルスタンダードはこれだけに止まらない。大西洋や地中海に回遊・生息する大西洋クロマグロは今から10年ほど前、初期資源量比7%にまで減少していることが判明、過少報告も発覚したことから、この資源を管理する「大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)」で管理措置の強化が取り組まれたことがある。この際、「小規模の沿岸漁業者が多数このクロマグロを取っている」「経済的な理由もある」等々規制の強化に消極的な姿勢を示す国もあるなか、日本は「そうした事情はわからないでもない。しかし、ここで効果的な管理措置を採択できなければ、過去数十年にわたりマグロに関する主導的な地域漁業管理機関であったICCATのクレディビリティは、回復不可能なほどに損なわれるではないか」と規制強化の受け入れを迫ったことがある。
ICCATでは最終的に漁獲枠を3分の1に削減し、30kg以下の幼魚の巻網での漁獲を禁止するなどの措置を断行した。この結果、資源はドラスティックな回復を遂げたとされ、近年漁獲枠が増枠されている。厳格な資源強化に取り組めば、資源は回復する、そのモデルケースである(図3)。

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図3:大西洋クロマグロ産卵親魚資源量
出典:ICCAT REPORT 2014-2015 (II) 写真を拡大

 大西洋では資源回復が進む一方、今度は太平洋のクロマグロの資源状態が極めて深刻な状況にあることが2010年代に入り明らかとなってきた。ところが日本は自分が規制を受ける側になると発言を一転、「日本には多数の小規模沿岸漁業者がいる」と規制の強化を拒否し続けた。あまりの態度の豹変ぶりにあきれ果てたEUは今回の会議の席上、「あなたはICCATの場で、何と言っただろうか。このままでは、ICCATのクレディビリティが回復不能なほど損なわれる、小規模の漁業者がいることはわかるが、規制を強化すべきだと、そう言ったではないか。これはダブルスタンダードではないか。なぜあなたがその理屈を盾に規制を拒否するのか、私には理解することができない」と痛烈に批判した。EUはさらに「太平洋クロマグロの規制は一体何年赤ちゃんのよちよち歩きをしているのだ。よちよち歩きどころか、カニの横歩き、後戻りではないか」と発言、会場から大きな拍手がわき上がった。

 太平洋諸国もクロマグロの無策について失望を隠さなかった。FFAを代表して発言したニュージーランドは、「北小委員会は有意味な管理措置の勧告に失敗した」とコメントしたのち、「クロマグロを漁獲対象とする商業漁業の停止を提案する」とまで踏み込んだ。これまで環境保護団体からの商業クロマグロ漁業の停止は提案されてはいたが、WCPFCでの最大勢力を誇る太平洋諸国から漁獲禁止提案が行われたことは注目に値する。台湾すら「WCPFC加盟国のこうした懸念を共有する。現在の管理措置は十分とは言えず、より野心的な措置を採択すべきだ」と発言し、日本は加盟国からの批判の大合唱の矢面に立たされたのである。

◆国際的信頼を失いつつある水産庁の「マグロ科学」

 「多数の漁業者がいる」という社会的・経済的な理由に加えて日本がクロマグロの資源保護対策強化を拒否する理由としてWCPFCで繰り返し主張したのは、「クロマグロについての資源評価を行っている国際科学機関が現行の規制で資源は回復目標に達成すると言っている」という点であった。しかしこうした科学的側面からの日本の反論に各国は全く賛同の声を寄せなかった。日本が依拠する「科学」の一部に対する各国の信認が失われつつあるからである。

 WCPFCが管轄する海域の北半分で主として漁獲されるクロマグロなどについては現在「北太平洋マグロ類国際科学委員会(ISC)」という団体が資源評価を行っている。この委員会は米国、カナダ、韓国、中国、台湾、メキシコがメンバーとなっており、確かに「国際」科学委員会としての形式を備えているが、ISCのウェブサイトには事務局の本部所在地すら記されていない。実際は水産庁傘下の研究機関である「水産研究・教育機構」を中心に構成されており、太平洋クロマグロの資源評価を行うグループの議長と「ラポルトゥール」と呼ばれる取りまとめ役も同研究機構の日本人が占めている。2016年に開催されたクロマグロ資源評価グループ会合でも出席者22名のうち日本人は9人、提出報告書7本のうち日本側が提出したものは5本と水産庁の外郭団体の影響力が強い。この提出報告書にしても、冒頭に著者許諾のない引用の禁止が明記されているなど、国際機関の報告書としては異例のものとなっている。ISCの運営が透明性を欠いているとの批判はかねてより関係者からも側聞するところであった。何より、WCPFC条約にはISCに関する明文定在は何も存在していない。

 透明性に欠けるISCに対しては、科学者からも批判の声が上がっている。ブリティッシュコロンビア大学教授のダニエル・ポーリー、ダルハウジー大学教授のボリス・ワーム、IUCN種の保存委員会マグロ専門家グループ座長のブルース・コレットなど世界的に著名な科学者等58名の専門家は2016年11月末、WCPFC議長等に対し連名で科学的知見に即し資源回復に資する目標が設定されない限り商業的クロマグロ漁獲の一時停止を求める書簡を送付したが、このなかでISCについて以下のように述べている。

 管理の失敗に加え、国際漁業科学の標準的なあり方から外れた科学プロセスにおける透明性の欠如が未だに続いている。科学機関であるISCは最初の資源評価報告書を2012年まで公表せず、現在でも資源評価会合に独立オブザーバーの参加を認めていないばかりか、招待されて然るべき政府代表でない科学者の参加が著しく制限されている。報告書が一般に公表されるのは6か月かそれ以上後になってからであり、必要とされるアクションを遅らせるものとなっている 。

 東太平洋のマグロ類を管理する「全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)」に2016年6月に提出された独立評価報告書でも、太平洋クロマグロの資源評価が「何の権限も有さず、(IATTC)条約に何の規定もなく、当該資源に対する何の責任も負っていないISCによって行われている」と厳しい批判が加えられた。報告書では「太平洋クロマグロの科学は条約の規定に基づきIATTCとWCPFCの権限下に置かれるべきである」と提言が加えられ、「最早(クロマグロの資源評価は)ISCによって実施されるべきではない」とISCの役割を全面否定したのである 。

 WCPFC年次会合の場でもISCのガバナンスに対する不信が各国代表からも明言された。WCPFC科学委員会代表から資源評価に関するプレゼンテーションが行われた際、EUは発言を求め「なぜ科学委員会の資源評価にクロマグロが入っていないのだ。この種は本委員会の管轄事項の筈なので、発表に含まれるべきである」と述べるとともに、ISCの代表(日本人)からクロマグロにつて資源評価のプレゼンテーションが行われた直後、ISCの役割を全面否定したIATTC独立評価報告書をその場で読み上げ、「我々はこれに完全に賛成だ。ISCには何の権限も責任もない」と言い放った。パプアニューギニアからも、ISCのクロマグロ資源評価の前提になっている仮定が果たして妥当なのかとの疑義が提示された。

 ISCの日本人報告者が、「資源は増加しており、当初の暫定目標である初期資源量7%を達成できる」と日本側に都合の良い面ばかり強調したことも、EUの怒りに火を注いだ。この目標を達成するためとして、現在WCPFCでは30kg未満の幼魚の漁獲を2002 – 2004年水準から半減させ、30kg以上のものについては2002 – 2004年水準で抑制するとの管理措置が実施され、日本はこの会議でも「我々は幼魚の漁獲を半減した」としきりに主張した。しかし2002 – 2004年は比較的豊漁の時期であったため、日本は30kg以上の漁獲については2014年が3,526トンだったものをこの規制が実施された2015年には4,882トンへと3割以上漁獲を増加させてもよいことになっており、総計でも2014年が9,604トンだったものが8,890トンへと計714トン、率にして1割にも満たない漁獲削減であるに過ぎない。とりわけ産卵魚を守ることは資源保護にとって重要であるはずにもかかわらず、漁獲削減について30kg以上の漁獲について事実上何の実効的な規制もかけられていない。EUは「ISCと同じ資源評価データを用いている筈のIATTCの科学者は、成魚の削減を要求しているではないか、なぜISCはそれを言わないのだ」と批判したのである。

◆抜かれた「伝家の宝刀」

 太平洋クロマグロの資源状況の悪化は数年前から科学者や専門家の間では広く認識されていたが、この資源を管理している筈のWCPFCの本委員会でこの問題が十分な討議の時間を割いて取り上げられることはこれまでなかった。それは、太平洋クロマグロなどの太平洋北部に主として生息するまぐろ資源は北小委員会でまず審議して勧告すること、本委員会は北小委員会からの勧告に基づかなければ資源管理に関する措置を採択することができないと条約に定められているからである(第11条7項)。このため、本委員会は北小委員会に太平洋クロマグロ資源の管理を委ね、北小委員会からの勧告がそのまま本委員会でさして審議をすることなく採択されてきた。北小委員会は勧告をコンセンサス(全会一致)でしか採択できないと条約で規定されている。日本はこれを良いことに、少しでも実質的な規制を行おうとする提案がでると「拒否権」を発動、結果緩慢な保全管理措置しか勧告できなかったのである。

 ところがWCPFCの議事手続規則をよく読むと、確かに本委員会は北小委員会の勧告なしにクロマグロなど北太平洋に生息する資源に関する法的拘束力を有する保全管理措置を取ることができないが、「北小委員会に対し、委員会が適切と考える期間内に北部資源の資源管理措置に関する勧告を策定し提出するよう、指示(request)を行うことができ」、「北小委員会はこうした委員会からの要請を遵守しなければならない(shall)」と定めている(議事手続規則付則Ⅰ第4項)。「shall」という文言は法的拘束力があることを意味しており、ゆえに北小委員会は本委員会の指示に従う法的義務がある。この権限はいわば北小委員会に対する本委員会の「伝家の宝刀」とも言うべきもので、これまで一度も発動されたことがなかった。

 「北小委員会からの勧告は何もしないに等しいものだ。これでは勧告を承認できない」との加盟国の声を受け、WCPFCはこの場で北小委員会を開催して追加的な資源保護措置を勧告するよう求めた。これを受けて急きょ開催された北小委員会の席上、米国は初期資源量比20%を資源回復目標とし、幼魚の漁獲停止を含めた資源評価を行うようISCに求める提案を行った。しかし日本代表は「我々は一生懸命資源回復に取り組んでいるではないか。資源は回復しつつあるではないか」と文字通り声を荒らげ妥協を拒否、結果初期資源量比20%という提案はもとより、追加資源評価について幼魚漁獲ゼロシナリオは「政治的配慮から合意できない」という日本の反対から削除され、北小委員会は追加で2つの資源評価を行うようISCに要請したほかは「追加的な資源保護措置を来年の北小委員会で考える」というほぼ無意味な勧告案を提示するのみであった。

 ここにきて、加盟国はついに「伝家の宝刀」に手をかけた。会議最終日の金曜日、北小委員会議長からの「ゼロ回答」の報告の後、EUは「やはり赤ちゃんのよちよち歩きではないか。太平洋クロマグロの資源状況の深刻さから鑑みて、十分とは言えない」と発言、FFA諸国とともに、「北小委員会に対して、遅くとも2034年までに初期資源の20%まで資源を回復させる保全管理措置を策定し、次回の第14回本委員会で採択できるようにせよ」との指示を盛り込んだ提案を上程した。日本は「初期資源量比20%」案に対してなおも反対したが、WCPFC加盟国の圧倒的大多数が受け入れを迫った結果、最終的には日本側に多少譲歩する形で、「次回の北小委員会で、遅くとも2034年までに初期資源量比20%の水準に資源を回復させる保全管理措置を策定し、次回WCPFC本会合で採択するようにすべきであるとの本委員会の勧告を、北小委員会は十分考慮せよ」とのやや回りくどい表現がコンセンサスで採択されたのである。紆余曲折はあったものの、日本代表も圧倒的大多数のWCPFC加盟国の声に耳を傾け、クロマグロ資源保護対策に乗り出すものかと思われた。

◆「要請だから従わない」

 ところが水産庁は会議終了後早々に「決議は『要請』であって、強制ではない。(厳しい措置の導入を)検討した結果、「駄目なら駄目ということになる」と次回の北小委員会で初期資源量比20%提案に従わない姿勢を明らかにした(高知新聞2016年12月25日)。EUからの「ダブルスタンダード」批判に対しても「当時の大西洋では科学者の勧告をEUが無視し、生物学的許容量の倍ほどの漁獲枠を設定。しかも違法操業が横行し、実漁獲量はさらに倍近い値だった。一方、今の太平洋の管理は科学者の勧告に従っており、大西洋のような大規模な違反はない。一緒くたにするなら乱暴だ」と反論、「現行体制でも少しずつ資源は増える」と現状の措置維持に拘る姿勢を明らかにした(みなと新聞2016年12月19日)。

 本委員会からの指示はあくまで北小委員会に対する指示であり、またあくまで初期資源量比20%という資源回復目標を含んだ措置を北小委員会は「考慮せよ」と言っているにとどまることから、仮に「我々は端から考慮するつもりなどなかった。北小委員会では本委員会からの指示を考慮したが、(我々の反対で)こうした措置は採択できなかった」と言ったとしても、何らかの国際法上の義務に違反するわけではない。

 しかし仮にそうした態度を取った場合、日本は今後さらに苦しい立場に追い込まれる可能性があることを否定できない。一旦国際会議の場でコミットしたことを手のひら返しにすることは、各国政府代表の日本の担当者に対する信頼性を著しく低下させかねず、今後各国の態度がさらに硬化する恐れがあるからである。WCPFC終了直後、「水産という狭い業界のイザコザで、日本のという国の名や外交関係を傷つけてほしくない」と外務省から水産庁に苦言を呈したと報道されている(みなと新聞2016年12月15日付コラム「躍れ!21世紀」)。もしこれがWCPFCのことを指しているならば、筆者はこれに全く同感である。

◆「ダブルスタンダード外交」を超えて

 もしWCPFC本委員会からの上記要請に沿わない決定しか北小委員会がなし得なかった場合、次回のWCFPCではさらに厳しい指示が北小委員会に対して行われる可能性があるだろう。例えば、「北小委員会で初期資源量比20%という管理目標を含む措置を必ず勧告せよ。もし勧告を出すことに失敗した場合は、本件については本委員会で審議し、決定を下すよう求める勧告を必ずせよ」という有無を言わせぬような形式を取った指示である。

 WCPFC本委員会は決定を原則コンセンサスで行うことになっているが、この条約がコンセンサス方式によって意思決定を行わなければならないと明示的に規定している場合を除き、コンセンサスのためのあらゆる方策が尽きたと判断された場合、4分の3の多数決で決定を行うことができる。この多数決ではFFAのメンバーの4分の3以上の賛成とFFAの非メンバーの4分の3以上の多数が含まれなければならないが、そのような条件がいずれかの票決グループにおいて満たされない場合でも、提案に対する反対が当該票決グループにおいて2票以下のときは、当該提案は否決されないと定められている(条約第20条2項)。仮にFFAメンバーが4分の3の多数以上で賛成した場合、FFA非加盟のWCPFCメンバーは10カ国・地域であるため、2カ国・地域が反対するのみであれば提案は採択されることになる。WCPFCメンバーのうち太平洋クロマグロの主たる漁獲国は資源保護強化を訴える米国を除くと日本、韓国、及び台湾であるため、この3カ国が一致結束して反対票を投じなければ提案を否決することができない。とはいうものの、漁獲の大半は日本が占めており、太平洋諸国の反発を買ってまで韓国と台湾が日本に同調するかは不明である(図4参照)。

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WCPFC北小委員会メンバーの2015年における太平洋クロマグロ漁獲量(単位:トン)と比率

 加えて指摘されるべきは、WCPFCでは異議申し立てが認められていないという点であろう。WCPFCでは採択された決定に対して再検討を求めることはできるが(条約第10条6項)、再検討会議での検討の結果この再検討要請が却下された場合、異議を申し立てることはできず、これに従わなければならない。採択された措置にどうしても従いたくないならば脱退するしかないが、そうしてしまうと、この機関が管轄する水域でのカツオ・マグロ漁が不可能となる。日本も批准している国連海洋法条約では、カツオやマグロなどの高度回遊性魚種を漁獲する国は「直接に又は適当な国際機関を通じて協力」しなければならず(第64条)、同じく日本が批准する国連公海漁業協定でも、WCPFCのような地域漁業管理機関の加盟国あるいは当該機関が定める保存管理措置の適用に合意した国だけが、当該保存管理措置が適用される漁業資源を利用する機会を有すると規定しているからである(第8条4項)。

 仮に太平洋クロマグロの提案を否決できたとしても、太平洋諸国との対立はカツオやメバチマグロなど他の魚種の問題で日本は著しく困難な立場に立たされる可能性が大きい。現在WCPFCではコンセンサスで合意に至るようあらゆる努力をするとのアプローチが採用されており、これまで表決はほとんど全く行われてこなかったが、表決の決定が常態化すれば、WCPFCでは少数派の遠洋漁業国である日本は極めて不利な交渉を強いられることになるだろう。表決が常態化しなかったとしても、操業規制等の点で日本の主張が受け入れられることは極めて困難になることが予想される。カツオの資源保護を求める日本の声に対して太平洋諸国が耳を傾けることは、おそらくあるまい。そうであれば、日本に来遊するカツオの量がさらに減少することにつながりかねず、そうなった場合、カツオ漁業者は廃業を余儀なくされるだろう。

 ではどうすべきか。「ダブルスタンダード外交」をやめること、これ以外にはないだろう。WCPFCの他のマグロ資源で採られている同一のスタンダードに基づき、資源回復措置を率先してリードするのである。

 具体的には、太平洋クロマグロ資源の保全管理策を他のメンバーとともに北小委員会で話し合い、初期資源量比20%を中期資源回復目標に定めた管理スキームを来年勧告、WCPFC本委員会での採択を目指すことがとりあえずの目標となるだろう。国内的には、漁獲枠の削減によるクロマグロ漁業者の痛みを軽減する措置を策定する必要もでてこよう。現在クロマグロは国内で巻網、はえ縄、定置網、竿釣りなどの方法で漁獲されているが、2014年の太平洋クロマグロ漁獲量約9,604トンのうち半分以上の5,456トンが巻網による漁獲であり、定置は1,907トン、竿釣りに至っては僅かに9トンであるにすぎない(ISC調べ)。定置網は混獲が避けられないことから管理が難しく、これに対するさらなる規制は沿岸漁業者に更なる混乱を招きかねない。これに比較して巻網は漁獲対象魚種を選ぶことが可能であり、また産卵親魚を対象とする夏季のクロマグロ漁を全面的に停止するなどの措置を取れば、IATTCからの勧告で指摘されている通り、資源回復に資することになろう。したがって漁獲の全面停止も含めたドラスティックな措置を巻網対象に実施するとともに、休漁補償等痛みを軽減するための措置を適宜導入するというのが一案として考えられよう。また、沿岸漁業者に対しても一定の規制強化は避けられないが、こうした措置の実施に際しては一本釣りのような小規模零細漁業者や定置網漁業者に対する軽減・例外措置を導入すべきであろう。

 沿岸の小規模零細漁業者に対する軽減措置は、WCPFC条約でも認められている。すなわち、WCPFC加盟国はマグロ類など条約が対象とする回遊魚の管理のため、「零細漁業者及び自給のための漁業者の利益を考慮に入れること」を保存・管理における原則の一つと規定している(第5条)で、加えて、「FAO(国連食糧農業機関)責任ある漁業のための行動規範」は、各国が自国排他的経済水域内での「伝統的な漁場及び資源への優先的なアクセスについて、漁業者、漁業労働者(とりわけ生存漁業、小規模漁業、沿岸小規模漁業に従事している人々) の権利を適切に保護すべきである」と謳うとともに(6.18)、漁業管理のための措置は、とりわけ「生存漁業、小規模漁業及び沿岸小規模漁業を含む漁業者の利益が考慮されること」(7.2.2.)を求めている。実際、大幅な漁獲制限を実施したICCATでも、FAO責任ある漁業のための行動規範に即するかたちで、零細漁業に対する例外が認められている。

 確かに資源保護のための厳しい管理目標の設定と規制大幅強化は、一時的ではあれ、漁業者に大きな痛みを伴うことになるだろう。大西洋でも同じことが経験された。しかしその痛みの結果、大西洋クロマグロは大幅な資源回復を果たした。大西洋だけではない。乱獲や違法操業により資源が激減したミナミマグロは2035年までに初期資源量比20%に回復させる管理措置を採択、管理措置強化の過程で日本も漁獲枠が2006年に6,065トンであったものを2010年には2,400トンへと半減以上の大幅な削減を余儀なくされた。漁業者は多大な犠牲を払ったが、現在資源は回復に向かっているとされ、今年この資源を管理している「みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)」ではこの機関が設立以降最大の漁獲枠の設定が合意された。この結果を受け業界団体代表は、「資源管理をしっかりすれば水産資源は増える」と胸を張り、この交渉を担当した水産庁の担当官は「資源が悪化した時は漁獲を抑制して回復を待ち、資源が増えてくれば科学的な根拠に基づき漁獲が可能な範囲で増やすという流れは、今後、ほかの漁業管理機関が目指す理想が実現した」とミナミマグロにおける成功例の意義を力強く語っている(水産経済新聞2016年11月25日付)。

 最早「ダブルスタンダード」へ拘泥し無意味な規制とそれを正当化する言葉遊びをする時間など残されてはいないし、ごく一部の水産業界の短期的利益のためだけに日本という国の名や外交関係を傷つける余地などありはしない。大西洋クロマグロでの成功例を、太平洋クロマグロでも直ちに受け継ぐべきである。ミナミマグロでの理想を、WCPFCでも目指すべきである。それこそが、太平洋クロマグロ資源の保存と持続可能な利用につながり、長期的にはクロマグロ漁業者の利益につながる。そのことを、大西洋クロマグロとミナミマグロの事例は私たちに教えてくれている。

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