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イギリスで進む「脱」民営化

民営化に対して賛成、反対の確固たる自説があるわけではない、という筆者が、電力契約、年金運用、公共交通を例にとり、結論として「公営企業は、民間よりしっかりと顧客ニーズに対応できる(民間企業では株主と経営者の利益が最優先だ)。そして公営企業は、大量の顧客を獲得し、効率的な経営ができる。」「僕(自由市場でいろいろな情報を手にしている一消費者だ)の最近の行動を見てみれば、おのずと見えてくる。僕が「消費行動という投票」によって、民営化に反対票を突きつけているということが。」と結んでいる。

 そうした動きはいち早く整理した論考のメモと最近の水道事業の再公営化の動きのレポート
【イギリスで進む「脱」民営化 ニューズウイーク 2/17】
【「インソーシング・行政民営化の反転」 備忘録2011/01】
【世界的趨勢になった水道事業の再公営化~日本政府は周回遅れで逆走 2016/11】

【イギリスで進む「脱」民営化 ニューズウイーク 2/17】

 コリン・ジョイス

<サッチャーが経済効率のために導入した公営事業の民営化だが、今や公営企業の方がサービスが充実してしっかり顧客ニーズに対応しているケースは多い>

民営化といえばイギリスが思い浮かぶぐらい、イギリスと民営化は縁が深い。マーガレット・サッチャーの政権は30年以上前、「公的」経済政策として民営化の道を切り開いた(それ以前にもいくつかの国で個々の公企業が民営化した例はたくさんあったが)。

民営化の理屈は、道理にかなっているようにみえる。競争と利益追求によって、企業はイノベーションと顧客サービスの改善を図り、できるかぎり価格を引き下げようとする。巨大な国営企業の独占体制ではそのような力が働かず、強気の実業家よりも「官僚的な」管理職が中心になる。

だが30年たって、理論どおりにうまくいってきたかどうかは疑問視されている。その点、政府が以前よりもある意味、市場に介入するようになってきたのが興味深い。これは「再国有化」とは違う。むしろ、自由市場がうまく機能していなそうな領域に、政府が時おり踏み込んでいる、というケースだ。

僕がまさにそれを実感したのは、これまで契約していた電力会社のお得な初年度契約が終わりそうなので、乗り換えのためにまたお得な新規の電力会社をネット検索していたときのこと。魅力的なプランを打ち出している会社はいくつかあったが、そのうち3社が地方自治体の運営する会社だという点に興味をそそられた。

最初は、その地方自治体の地域住民限定のプランなのかと思ったが、そうではないらしい。たとえば、居住地でも何でもないノッティンガム議会の非営利企業から、僕が電気を買うこともできるのだ。

今のところ、年間当たり30ポンド安いプランを売り出している民間企業が1社あって、僕は(しぶしぶながら)その会社を選ぶつもりだ。でも、もしも政府運営のとある非営利企業がもっと顧客を増やし、スケールメリットを達成するようになったら、数年後には状況も変わるかもしれないなと思う。

その非営利企業の社名はロビン・フッド。これは金持ちから奪った富を貧民に与えた、ノッティンガムの伝説のヒーローに便乗してブランド認知を図っているだけではない。大手電力会社の強欲なやり口にうんざりした多くの人々にアピールする賢いやり方だ。

◆公営企業のほうが消費者優先

もうひとつの例は年金だ。僕は個人年金保険への加入を何年も遅らせている。年金資金への投資については国が気前よく控除をしてくれるが、利益は結局のところ、年金運用マネジャーに(運用成績が良かろうと悪かろうと)支払われる高額な年間手数料に吸い取られている(市場を上回るほどの運用成績を一貫して上げ続けている年金ファンドマネジャーなどほとんどいないことは、周知の事実だ)。

だが今は、イギリス政府が立ち上げたNESTというファンドがある。このファンドの年間手数料は民間の年金ファンドよりずっと安い。単純に市場平均をめざす「トラッカー」ファンドに資金を投資する仕組みなので、高給のマネジャーを必要としないからだ。

新規登録料は比較的高くつくものの、しばらくたてばなくなる。新規登録料はあくまで、政府の初期費用を賄うためのものだから。だから、僕は今、少額の年金基金を始めたところだ。これで多少の不安は解消される。

◆消費者の行動は反民営化に傾く

最後の例は、ロンドン交通局(TFL)だ。ロンドンの公共交通機関は2000年から市の管轄下にあるため、これは新しい現象ではない。僕が興味深く思ったのは、今のところTFLが私鉄各社と肩を並べられる存在になっているという点だ。

TFLは完璧にはほど遠いが、いくつか利点もある。1つには、旅客への情報提供だ。電車の到着時刻(と遅延)を知らせる駅の掲示板システムで先端をいっている。

2つ目には、運賃支払いシステム。ロンドンのあらゆる交通機関で使える「オイスターカード」は非常に革新的なサービスだ。便利だし、最も安い経路で精算してくれる信頼できるシステムだ(間違って払いすぎることがなくなる)。何と最近では、銀行が発行したデビットカードまで、オイスターカードと同様に使うことができるようになった。

3つ目に、顧客サービスだ。何らかのトラブルが発生した際に、TFLの駅係員は、その場で払い戻しをする権限を持っている。僕自身、このサービスを体験して驚いた。私鉄の場合は、書類を記入し、証拠を提出し、返事を数週間待つことになる。

しかも、現金の払い戻しではなく、無料乗車サービス券を受け取るだけ、ということもある(このシステムは明らかに、払い戻しを思いとどまらせ、先送りさせ、減らそうとしているようだ)。

4つ目には、投資。ロンドンの人口は大幅に増加しており、旅行者も増えている。新しい路線が作られ、環境に優しいバスや、テムズ川を渡るケーブルカーまで12年に開設した。

【参考記事】「ぼったくりイギリス」から逃げられないカラクリ

TFLが今の時代に「通用する」例だといえるのは、ロンドンの境界を越え、ロンドン通勤圏と呼べるところまで勢力を拡大したからだ。ロンドンの鉄道が市外まで走る日が来るなんて、僕は想像もつかなかった。でも今、TFLの電車はエセックス州シェンフィールドまで走っている。これはロンドン中心部から僕が住むコルチェスターまでの距離の3分の1を越えている。

だから僕は今では、よくTFLを使ってシェンフィールドまで行き、そこから別の鉄道に乗り換えて家に帰ることもある。場合によっては、かなり運賃が安くなる。欠点はあるものの、僕は私鉄会社よりもTFLを信頼している。

つまり、どうやら公営企業は、民間企業に改善を促すような新基準を打ち立てる役割を果たしているようなのだ(たとえば公営のNESTの「脅威」に対抗するために、民間企業の年金ファンドは手数料を下げるようになってきた)。

さらに公営企業は、民間よりしっかりと顧客ニーズに対応できる(民間企業では株主と経営者の利益が最優先だ)。そして公営企業は、大量の顧客を獲得し、効率的な経営ができる。

僕は民営化に対して賛成、反対の確固たる自説があるわけではない。でも僕(自由市場でいろいろな情報を手にしている一消費者だ)の最近の行動を見てみれば、おのずと見えてくる。僕が「消費行動という投票」によって、民営化に反対票を突きつけているということが。

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