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東芝の失敗は福島第1原発事故の前から~すでにコストの優位性喪失

  9.11を受けての対航空機テロ対策など建設費の高騰、シェールガス革命・・・原発のコスト優位性は、福島原発事故以前に喪失していた、と日本エネルギー経済研究所の村上朋子氏。
「業界関係者の多くは福島の事故のせいで原発ビジネスが傾いたと言いますが、非常に都合のいい責任転嫁と言わざるを得ません」と指摘する。
【東芝の失敗は福島第1原発事故の前から  日本エネルギー経済研究所の村上朋子氏に聞く 日経ビジネス2/27】

【東芝の失敗は福島第1原発事故の前から  日本エネルギー経済研究所の村上朋子氏に聞く 日経ビジネス2/27】

東芝が巨額損失を発表し、原子力ビジネスのリスクが改めて浮き彫りになった。多くの業界関係者は福島第1原子力発電所の事故が転機になったとの見方を示すが、その意見に真っ向から反論する専門家がいる。日本エネルギー経済研究所の村上朋子・研究主幹は「原子力業界が直面する苦境のほとんどは、事故以前から顕在化していた」と指摘する。いつが転機だったのか、話を聞いた
(聞き手は小笠原 啓)

◆東芝が2月14日、米国の原子力事業に関して7125億円の減損損失を計上すると発表しました。同社の原子力事業は4期連続で営業赤字に陥る見通しで、この間の累積赤字は1兆円近くに達します。東芝はどこでつまずいたのでしょうか。

・村上:世界各国の原発建設計画は2011年までは順調だったが、福島第1原発の事故により情勢が一変。規制の強化などでコスト競争力を失い、東芝を始めとしたプラントメーカーが苦しんでいる……。
 原子力業界が直面する苦境について一般的に語られるストーリーですが、私の考えは違います。
 もちろん、原発事故の影響があることは否定しません。しかし、ほとんどの問題は事故以前から顕在化していました。業界関係者の多くは福島の事故のせいで原発ビジネスが傾いたと言いますが、非常に都合のいい責任転嫁と言わざるを得ません。

◆原発事故でないなら、どこで道を間違えたのでしょうか。

・村上:今回、東芝が巨額の損失を出した米国を例に考えてみましょう。
 米国で原発新設の気運が高まったきっかけは、2005年に「包括エネルギー法」が成立したこと。米政府が融資保証などの優遇策を掲げたため、多くの事業者が新規建設計画を検討し始めます。東芝が米ウエスチングハウス(WH)を買収したのはその翌年、2006年のことです。
 原発を建設するには、NRC(米原子力規制委員会)の審査をクリアして「COL(建設運転一括許可)」の承認を受けなければなりません。米国では航空機が突っ込んでも問題が発生しないよう安全対策を考慮する必要があり、NRCは厳しい審査をすることで有名でした。福島の事故が起きる前から、厳しい審査に対する懸念の声があったのは事実です。
 2007年ごろから、原油価格の上昇に伴い資機材価格の高騰が目立ってきました。多くのプラントメーカーにとっては、原発建設に必要な資材の調達が課題になっていました。
 そこに追い打ちを掛けたのが2010年の「シェール革命」です。米国内で天然ガス価格が急落したことで、原発のコスト優位性が失われてしまったのです。米国では2010年時点で既に、原子力の発電コストはガス火力と石炭火力、陸上風力に負けていました。


◆発電コストが高いのなら、電力会社が原発を建設する合理的な理由はなくなります。

・村上:そこで電力会社は、COL承認を受けた後で実際に投資するか判断する方針に転換しました。許認可の取得には時間がかかり、その間にビジネス環境が変わってしまうからです。実際に、多くの電力会社が投資判断を先延ばししています。
 こうした傾向も、2010年の段階で既に見えていました。福島第1原発事故が起きる前から、米国内での原発新設には強い逆風が吹いていたのです。

◆東芝は逆に、原発新設に関して「バラ色」の計画を打ち出しています。2008年には当時の西田厚聰社長が「2015年までに33基の受注を見込む」と宣言し、翌2009年には佐々木則夫社長が受注計画を「39基」へと上方修正します。

・村上:米国で原発プロジェクトが相次いで立ち上がると本気で思っていたなら、かなり甘い判断ですね。米エネルギー省は長期見通しの中で、原発の新規建設が数機にとどまる可能性を示していました。一方で東芝は株主や投資家に対し、市場が急に伸びるともっともらしく説明していました。

■原発の建設コストは2005年比で3~5倍

◆WHは2008年に米国で、「ボーグル3・4号機」と「VCサマー2・3号機」の4基の原発新設を受注しました。中国でも2007年に4基の建設を受注しており、勢いに乗っていた印象があります。

・村上:ところが、ボーグルとVCサマーの4基についてCOLを取得できたのは2012年です(注:建屋建設工事が始まったのは2013年)。その頃には、原発の建設コストは以前と比べて急騰していました。
 WHや米ゼネラル・エレクトリック(GE)などプラントメーカーの「セールストーク」によると、原発の建設コストが底値をつけたのは、2005年頃だったと推定できます。1キロワット当たり15万円程度とされていました。

◆ボーグルが採用した110万キロワット級の原発であれば、1基2000億~3000億円程度で建設できる計算です。

・村上:日本の原発で最も安く建設できたのは、東京電力の柏崎刈羽原発の6号機もしくは7号機で、1キロワット当たり25万円程度とされています。(2009年12月に運転開始した)北海道電力の泊3号機は、同32万円と言われていますから、メーカーのセールストークもそれほど外れた数字ではないでしょう。
 ただし今では、原発の建設コストは2005年の底値と比較して3倍から5倍ぐらいになっています。一方でガス火力発電所なら、1キロワット当たり10万円程度で建設できるはずです。
 東芝とWHも、簡単な戦いでないことは承知していたはずです。今から考えれば、コスト削減の方法をもっと真剣に考えておくべきでした。

■高値づかみしたWH株を売却できなかった東芝

◆東芝自身も、海外の原発事業が上手くいっていないとの自覚を持っていた。

・村上:そう思います。2010年にシェール革命が起きて原発のコスト競争力が失われ、COL取得に時間がかかり始めた頃から、内心では「しまった」と思っていたのではないでしょうか。だから東芝はWHへの出資比率を下げようと、売却先の開拓を進めてきました。
 ところが東芝は、WH株を売却できませんでした。2006年に買収したときの値段(約6000億円)が高すぎたからです。買った値段よりも安く売ると、売買が成立した瞬間に損失が生じかねません。(注:WH株の3%を保有していたIHIは2月17日、全株を189億円で東芝に売却する権利を行使した。東芝の持ち分は90%となる)。
 東芝は、WH買収に投じた巨額の資金を正当化する必要にも駆られていました。資金を回収するシナリオを実現するには、積極的に原発建設を受注する必要がある。だから東芝は、米国で建設受注を進めざるを得なかったのだと思います。

◆米国の原発建設で東芝は足元をすくわれました。他の国でも、原発建設がトラブルの種になっているのでしょうか。

・村上:フィンランドのプロジェクトで仏アレバが苦戦し、英国でも2008年当時に描いたロードマップからは遅れが目立ちます。米国を含め、先進国では苦労しているケースが目立ちます。
 一方、中国やロシアでは順調です。中国では2016年だけで7基の原発が営業運転を開始しました。そのうち1基は、2012年に着工したものです。中国政府は3.11以降に安全基準を見直し、審査を厳格化しています。新たな規制に適合した原発が、既に立ち上がっているのです。ただし、WHが中国国内で建設中の原発は稼働に至っていません。
 中国政府がどのような規制を課し、建設工事を指導しているのか。外部からでは定かなことは分かりません。しかし中国では、ほぼ予定通りのスケジュールで原発が着工され、営業運転に至っているのは間違いありません。
 こうした実績をテコに、中国やロシアの原発メーカーは海外展開を進めています。アルゼンチンやパキスタン、サウジアラビア、インドネシアなど、欧米勢の影響の及びにくい国でマーケティングを積極化しています。

◆東芝とWHは、中国勢などに対抗できるのでしょうか。

・村上:WHも新興国を開拓しようとしていますが、コスト競争力でやや見劣りします。WHは先進国向けに超高品質な製品を作っていますが、それだけの品質が新興国で求められるかは不明です。
 また、米国の原発建設でWHが苦労しているのは周知の事実です。何とか運転開始にこぎつけて実績を示さない限り、苦しい状況は続くでしょう。


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