内部留保急増。主因は従業員犠牲と企業減税 労働総研
「2015年度末の企業の内部留保は578.8兆円であり、しかも1年間に35.7兆円も増加している。財源は十分すぎるほどある」
「内部留保をこれ以上増やさない経営に転換するなら、賃金を過去のピークである1997年まで一気に引き上げたとしても、次年度以降の継続は可能である。」
「1人平均従業員賞与・給与および経常利益に対する企業税の比率が賃金ピーク時の1997年から変わらなかったとすると、この間の企業負担が318.9兆円増加する。内部留保の急増のほとんどは、従業員の犠牲と企業減税によりもたらされたと言える。」
【労働者のたたかいこそ展望を切り開く力――安倍内閣の「働き方改革」と労働組合の社会的責任―― 2017年1月17日労働運動総合研究所】
【2017春闘提言 労働者のたたかいこそ展望を切り開く力 2017年1月17日労働運動総合研究所】 ――安倍内閣の「働き方改革」と労働組合の社会的責任――・安倍内閣が発足した2012年と2015年を比べると、株価や一部大企業の利益は上昇したものの、日本経済の安定成長もデフレ脱却も出来ず、労働者の生活は、一層悪化した。労働者の生活を安倍内閣誕生前の生活水準に戻すだけで2万円以上の賃上げが必要である。
・安倍首相は、「働き方改革」と称して「同一労働同一賃金」、「長時間労働の是正」を掲げているが、政府・財界主導の「働き方改革実現会議」に任せておいたのでは、「同一労働同一賃金」が「同一労働同一低賃金」になり、「長時間労働の是正」は、金銭保証による解雇の自由化や「ホワイトカラー・エグゼンプション」の強要になりかねない。
・同一労働同一賃金の前提として、まず、「これ以下で働かせてはならない」最低賃金をしっかり確立しておくことが必要である。仮に、時給1500円に引き上げたとしても、1か月21.7万円であり、単身者世帯の家計費がかろうじて賄われるにすぎず、決して日本の企業が支払えない金額ではない。
・長時間労働の是正のためにまず実現すべきは、違法なサービス残業の根絶、年休の完全収得、週休2日制の完全実施による「働くルールの確立」である。
・2万円の賃上げによって、家計消費需要が8.3兆円拡大し、国内生産が15.0兆円、付加価値(≒GDP)が7.1兆円増加する。それに伴って、新たな雇用が93.2万人必要になり、税収も国、地方合わせて1.4兆円の増収となる。最低賃金の引き上げ、非正規雇用者の正規化および「働くルールの確立」も、同様に国内生産の誘発等を通じて、日本経済を活性化する。
・2015年度末の企業の内部留保は578.8兆円であり、しかも1年間に35.7兆円も増加している。財源は十分すぎるほどある
・1人平均従業員賞与・給与および経常利益に対する企業税の比率が賃金ピーク時の1997年から変わらなかったとすると、この間の企業負担が318.9兆円増加する。内部留保の急増のほとんどは、従業員の犠牲と企業減税によりもたらされたと言える。
・賃上げ・労働条件の改善は、客観的にみて、日本経済に必要な喫緊の課題であり、その実現は、労働組合の社会的責任である。他方、従業員の生活を保障し、社会が必要とする経費を負担することは、企業の社会的責任である。
【以下は、本文より、メモ者の特に関心のある部分を引用】1労働者の現状と2017春闘要求
(1) 日本経済は回復せず、労働者の生活は悪化
2012年12月に発足した第2次安倍内閣は、いわゆる「アベノミクス」によって、2年間程度でデフレを脱却して日本経済再生の道を切り開くと言い、日銀による「異次元の金融緩和」をテコに法人税減税、公共投資の大幅増などの経済対策を次々と行ってきた。
しかし、「アベノミクス」は、株価や一部大企業の利益を引き上げたものの、日本経済の安定成長もデフレからの脱却も出来ず、その破たんは、今や明らかである。日本経済について、第2次安倍政権が発足した2012年と15年を比較すると、企業の売り上げがわずか4.1%増と低迷する中で経常利益は40.7%も増加したが、その成果は従業員にも社会にも還元されず、株式配当を大きく増やした以外のほとんどが内部留保として蓄積された。
次に、「異次元の金融緩和」によって金余り現象が生じ、株価が上昇して一部資産家の財産を増やした。また、政府・日銀の思惑通り、為替レートが1米ドル79.8円から121.1円へ、41.3円も円安になったが、輸出数量は増えず2%の減少となった。その結果、一国全体の経済規模を表すGDP(国民総生産)は微増にとどまり、国の借金がさらに2.1%も増加した。
労働者の生活は、この間に実質賃金が4.6%も低下し、正規雇用が0.8%減少する一方で非正規が9.2%も上昇するなど、一層悪化した。
(2)世界不況は財界の口実、日本だけが低成長
財界、政府および一部のマスコミは、「これは世界経済全体を反映したものであり、日本だけの現象ではない」と言っているが、それは全く正しくない。日本経済は「アベノミクス」の下で、国際的にみても特異な国になっているのである。
OECD(経済協力機構)の最新の経済見通しによると、米国は2%台、ユーロ圏は1.5%前後、世界全体として3%台の経済成長が見通せる中で、日本は1%未満と、日本だけが特別に低くなっている。(表1)その主因は賃金にある。2010年から15年の5年間に、米国、カナダ、フランス、ドイツの先進4か国は、生産性の上昇以上に実質賃金が上がっているのに対し、日本は、生産性が上昇しているにも関わらず実質賃金がほとんど上がっていないのである。なお、名目でみると英国およびイタリアも6.5%、3.9%それぞれ賃金が上がっているが、日本は1%未満の上昇である。
2思い切った賃金の引き上げを
(1)生活を安倍内閣誕生前の生活水準に戻すだけで2万円以上の賃上げが必要
安倍内閣誕生前の2012年まで生活水準を回復し、2017年もそれを持続するとしたらどれだけの賃金改定が必要か、その額を試算したところ、ボーナス込み1か月平均6.87%、2万1556円となった。(表2)
その内訳は、①2012~2015年の消費者物価上昇率4.03%、②プラス2016~2017年物価上昇見通し1.40%、③プラス2012~2016年の消費者物価以外の負担増1.54%、④マイナス2012~2016年名目賃金上昇率-0.1%である。
そのために必要な原資、つまり、全労働者5284万人の1年間の賃上げ総額(=企業の雇用コスト増)は13.67兆円であり、2015年度末内部留保額578.8兆円のわずか2.36%にすぎない。また、2014~15年度1年間の内部留保増加額35.7兆円の38.31%である。つまり、過去から蓄積された内部留保を取り崩すまでもなく、これ以上内部留保を増やさない経営に転換するだけで、容易に2万円以上の賃上げを行うことができる。(3)給与水準を過去のピークの97年に戻す
本当に「経済の好循環」を実現しようとするなら、賃金の低下を止めるだけではなく、過去のピークである1997年の月間現金給与総額37万1670円まで戻す必要がある。
2015年の月間現金給与総額は、31万3801円だから、そのために必要な賃上げ額は月5万7869円、率にして15.6%であり、必要な原資は33.2兆円である。これは、2015年度末内部留保の5.7%、2014~15年度内部留保増分の93.0%に相当する。つまり、1年間の内部留保増分で賄える範囲であり、内部留保をこれ以上増やさない経営に転換するなら、賃金を過去のピークである1997年まで一気に引き上げたとしても、次年度以降の継続は可能である。
ちなみに、1年間の内部留保増加額の全額を賃上げ原資とするのではなく、役員手当や株主配当にも2015年度の実績(役員給与・賞与12.74%、株主配当11.22%、従業員給与・賞与76.05%)に基づいて配分するとして、どれだけの賃上げが可能かを試算したところ、13.6%、4万2788円であった。
5異常な内部留保の高水準
当研究所は、これまでも、また本稿でも賃上げ・労働条件改善の財源として膨大な内部留保の存在を指摘してきたが、内部留保の存在自体を“悪”と言っているのではない。また、蓄積された内部留保を直ちに全て取り崩せと言っているのでもない。
1999年以降の内部留保急増は異常であり、国内経済の需給バランスを崩して経済成長の阻害要因となっているから、正常な水準に戻し、そこから生じた資金を、これまで犠牲にしてきた従業員、下請け・関連企業、株主あるいは社会全体に還元して、経済の需給バランス回復を図るべきであると主張しているのである。(1)「労働者派遣法」の改悪を期に急増した内部留保
企業の内部留保は、1990年代まで、売上高および従業員給与・賞与の伸びとそれほど変わらずに推移していたが、「労働者派遣法」が改悪された1999年度を境に急増し、1998年度の209.9兆円から2015年度の578.8兆円へ、16年間に2.76倍、368.9兆円も増加した。異常な上昇である。しかも、2014年度から15年度の1年間に35.7兆円も増えている。
2015年度の内部留保を資本金規模別にみると、従業員が18.6%である10億円以上の企業に、全体の54.1%が蓄積している。従業員1人当たりの内部留保でみると、資本金10億円以上4159万円と、次の資本金1~10億円1249万円の間に3.3倍の開きがある。資本金1千万円未満に至っては134万円と、資本金10億円以上の30分の1である。それでは、どの程度の内部留保であれば妥当なのか、それを検証するために、よく国の借金の目安として使われるGDPの何倍という指標に倣って企業の売上高に対する内部留保の水準を計測してみると、1980年~85年の順調な経済成長期は9%台、バブル期の1987~90年は12~13%台、今回不況の前半である1991~1998年度も15%台にとどまっていたが、以後急上昇し、2015年度には40.4%に達した。この水準はどう考えても異常であり、これほどの内部留保が必要とは到底思えない。
(2)従業員の犠牲と納税額の減少が内部留保増加の源泉
大企業は、1990年代後半以降、国際競争力強化を名目として人件費の削減や下請け単価の切り下げなどによる徹底したコスト削減を図る一方で、海外進出を本格的に開始し、「売り上げが伸びなくても利益があがる経営」を実現した。いわゆる「新時代の日本的経営」戦略である。政府はそれを積極的に後押しし、法人税減税、投資減税、海外からの収入に対する減税などを行ってきた。その結果として、GDPも売り上げも伸びず、内部留保のみが急増するという、現在の異常な経済状況が生まれたのである。
それでは、もし、従業員給与・賞与ならびに業利益に対する内部留保の水準が、過去の賃金ピークである1997年のままだったとしたら、1998年以降の従業員給与・賞与および納税額はいくらになり、実際とどれだけの差が生じるかを、財務省の「法人企業統計」に基づいて、計算してみた。
1人平均従業員賞与・給与は、1997年度の年間390.9万円から2015年度の371.5万円へ、4.96%、19.4万円低下している。経常利益に対する法人税、住民税及び事業税の比率は、1997年度の51.80%が2015年度には26.07%まで低下した。もし、1人平均従業員賞与・給与および経常利益に対する法人税、住民税及び事業税の比率が1997年度のままであったとしたら、毎年の従業員に対する支払い額および納税額はいくらになったかを計算し、実際の額と比べてみると、1997~2015年度の18年間に、従業員給与・賞与で185.5兆円、納税額で133.4兆円の差があった。両方の合計318.9兆円は、この間の内部留保増分356.3兆円の89.5%に相当する。つまり、内部留保の急増は、本来の意味の経営努力ではなく、そのほとんどは、従業員の犠牲と企業減税によってもたらされたと言うことが出来る。
・むすび
安倍内閣の「働き方改革」に期待する労働者もいるが、自らのたたかいなしに賃金・労働条件の改善をかちとることが出来ないことは、歴史の教えるところである。本来、賃上げ・労働条件の改善は、労使の交渉によって決められるべきものであり、生産された価値が適正に配分されるためには、これまでの労働組合敵視政策をやめ、職場内組合活動の保障や賃金・労働条件に関する労使協議の義務化など、労働組合の活動条件を西欧並みに整えるのが本筋であろう。
安倍内閣が最大のチャレンジとして「働き方改革」を打ち出したのは、決して人気取りのためだけではなく、客観的にみて、日本経済にそれが必要だからである。この有利な条件を生かして2017春闘を成功させることは、労働組合の社会的責任である。一方、従業員の生活を保障し、社会が必要とする経費を負担することは、企業の社会的責任である。
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