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原発過酷事後と企業の社会的責任(メモ)

 野口義直・摂南大学准教授の論考(経済2016.12)の備忘録。

原発に固執する東芝の不正会計、シーメンスなど欧米企業の脱原発にふれながら、資本論の「社会基準上の摩滅」、帝国主義論の独占に固有の「停滞と腐朽への傾向」の視点から整理している。

【原発過酷事後と企業の社会的責任】

1.エネルギー企業の社会的責任~ 福島原発過酷事故後の状況

〔1〕東芝の不正会計問題と原子力事業

・不正会計の原因は、原子力ビジネスへの過剰投資
・06年 企業価値2000億円と見込まれるWH社を6000億円で買収/4000億円を「のれん代」(将来利益を生む可能性)として資産計上/
→発展途上国の電力需要急増、温暖化対策にも有効として「原子力ルネサンス」が喧伝された状況/2015年までに、30基の新規建設、1兆円の売上げ見込み

・11年福島原発事故発生。原発の新規建設が停滞、WH社は赤字化し企業価値が急減/ 東芝は「のれん代」の減損処理を隠蔽。さらにWH社の赤字を補うために複数の事業部門で利益を水増し

・日本を代表する大企業の不正行為~株主への背信行為、日本企業のコンプライアンス、企業統治が国際的にも問われる事態に/ 東証から上場廃止に次ぐ措置の「特設注意市場銘柄」の指定をうける
・16年4月 WH社の資産価値を見直し2600億円の減損処理

・「原子力ビジネスから徹底しない」と宣言
16年5月、「将来計画に大きな変更はない」(室町社長)と今後15年で45基の新規受注する方針を維持
/赤字事業を整理する中でも、累積赤字のWH社を売却せず。6月WH社の会長が東芝会長に就任
→不正会計をスクープした日経ビジネス取材班「原子力が東芝の意思決定をゆがめる構図は、今も昔も変わらない。現実を直視しない限り、東芝再生は厳しい」とコメント

〔2〕ドイツ・シーメンス社の脱原発戦略

・福島事故とドイツの脱原発をうけ、同社は、原発事業に変え、風力発電、ガスタービン発電を重点的に投資
~ガスタービン発電は、出力調整が容易で、自然エネのバックアップ電源として相性がよい。石炭・石油発電に比べCO2排出量が少なく、建設コストも原発の4~5分の1

・自然エネルギーの普及には、次世代送電網~分散する小規模の発電所の間で、双方向で電力を融通しあう分散型のシステムが必要/ 同社は、送電設備分野も中核事業にしている
→同社の判断は、エネルギー企業に対する社会からの要請、自然エネルギーへの転換の世界的潮流に応えるもの

〔3〕自然エネルギーの進歩と原子力発電の陳腐化

・ドイツなど欧州諸国…環境政策のもとにエネルギー政策が統合されつつある/従来のエネルギーの生産と消費のあり方が、地球温暖化や放射能汚染といった地球規模の環境問題の原因

・温暖化対策のために化石エネから再生エネへの展開は、人類の世界史的な挑戦~エネルギー企業の社会的責任→豊かな物質的生活を維持しつつ、自然環境を保護するようなエネルギーの安定供給
→それを可能とする自然エネ技術の開発と普及の投資
~ シーメンスの例だけでなく、石油メジャーのノルウェー・スタイル社、欧州・ロイヤルダッチシェル社、英BP社など、洋上風力発電への大規模な投資。米グーグル社・アップル社の太陽光・スマートグリッド・電気自動車(自動運転など)へ投資を惜しまない姿勢
→長期的に見れば世界の大企業にとって、自然エネは数少ない有望な投資部面の1つ

・自然エネの技術革新の一方で、環境破壊の原因となる原発の技術の停滞と陳腐化が顕著
→ 20世紀半ばに期待をあつめた原子力エネルギーは、技術的な課題を克服できず、3度の過酷事故の結果、人々の信頼をえられなかった。/もともと核廃棄物の処分技術、過酷事故を防ぐ安全技術が未確立なもと、技術的困難の解決は将来に期待し「見切り発車」した技術

・3度の過酷事故が明らかにしたこと

①想定外の人為ミス、自然災害により過酷事故は防げなかったこと
②放射能汚染による自然の破壊と富の喪失は甚大で回復困難なこと
③巨額の事故処理費用、賠償費用を電力会社、保険会社では引き受けられず国民負担に転嫁されるしかないこと
④高レベル放射性廃棄物の処分は今も技術的に困難で、管理に数万年単位の時間、巨額のコストを要する
⑤原発は個々の民間会社の手に追えるものでなく、半永久的な国家の管理が必要となることが明白に

・原子力利用では、国ごとの相違があり、すべてが原発に否定的ではないが、国民の知的水準、環境保護意識が高く、民主主義の成熟した国で、脱原発にすすんでいる
(メモ者 インド、トルコの現地の激しい反対運動、最近のベトナムが中止、原発増の中国も圧倒的には自然エネ中心、世界銀行の原発に投資しない方針 と大勢は圧倒的に自然エネ)

・自然エネの急速な技術革新が、IT技術をとりこみなから継続する/一方、原発は致命的な技術的欠陥を克服できず、環境破壊的で高コストとなり、技術的(経済的)合理性を喪失しつつる。
→ 資本主義のもとでの急速な生産力な発展-―新技術の登場により旧来の技術を陳腐化させ、現存資本の価値を減少させる = マルクス「社会基準上の摩滅」


2.マルクスの「社会基準上の摩滅」の概念

(1)生産力発展による「社会基準上の摩滅」

・「資本論」第1部13章「機械設備と大工業」~「機械は、物質的な摩滅のほか、いわゆる社会基準上の摩滅をこうむる。機械は、同じ構造の機械がより安く生産されうるようになるか、より優れた機械が現れそれと競争するようになれば、その程度に応じて交換価値を失う」

・「資本論」第3部6章「価値変動の影響」~「(固定資本の)価値減少にとって一般的に重要なのは、次のことである。①現在の機械設備、工場施設などから想定的にその使用価値を奪い、それゆえまたその価値も奪い取る恒常的な諸改良。…機械設備の短い活動期間(予想される諸改良を目前としての機械設備の短い寿命)が右のようにして(労働時間の延長によって—筆者)埋め合わされなければ、機械設備は、社会基準上の摩滅のためにあまりにも多くの価値部分を生産物に交付し、その結果、機械設備は手労働とさえも競争できない」

~ 既存の機械設備の価値をやすくすること/新たな機械が既存の機械を陳腐化し使用価値を奪うことにより/生産力の発展は、既存の機械設備の「社会基準上の摩滅」を引き起こし、現存資本の価値を減少させる。

(2)環境政策による「社会基準上の摩滅」

・現代資本主義には、「社会基準上の摩滅」として把握すべき新しい現象が存在
→ 資本論では、摩滅する対象を「機械設備」に限定して説明しているが、現代では製品や原料も価値を失う場合がある (メモ者 化学的染料の発明に旧原料の駆逐、新製品による特別剰余価値の獲得や「命がけの飛躍」が実現しないことによる投売りなど、原料、製品についても価値の喪失は明確にされており、商品一般に言えること。むしろ「社会基準上の摩滅」が労働強化を不可避とすることの根拠として強調されているのではと思う。著者の誤解と言える)

・「社会的基準上の摩滅」は、生産力発展を根拠に描いているが、現代では、有害物質の利用を禁止する環境政策(メモ者 健康・安全、生物の多様性などをふくむ広義の環境政策)が「社会的基準上の摩滅」の根拠に
~ アスベスト、フロンの利用禁止/使用価値としての有用性が環境政策により否定され、商品価値を失った

・地球環境問題を質的にも量的にも深刻化させた現代にあっては、環境政策の「予防原則」の確立が提起されている所以。


3.原発の「社会基準上の摩滅」と「摩滅」への抵抗

(1) 原発の「社会基準上の摩滅」
・脱原発とは、原発を、社会基準上摩滅させること。その根拠

①環境政策を根拠とするもの  過酷事故と放射能汚染の防止の必要性
②生産力の発展を根拠とするもの/ 安全対策費、廃棄物費用が膨らみ経済性を喪失、自然エネの技術的確信のもとで、原発の陳腐化がすすみ、使用価値が相対的に奪われ、価値を喪失

~ 資本の「合理的判断」として、脱原発、自然エネが推進ざれている

(2)「摩滅」への抵抗

・日本の電力企業の原発への執着/その根拠は、日本の原子力事業が少数の大企業の独占(メモ者 「原子力事業」→「電力産業」の間違い? 原発が独占されていても電力市場が自由化されれば原発は存続できない。よって原発の廃炉・賠償費用を託送料に転嫁させ「電力システム改革」をゆがめようとしている。)
~地域独占と「総括原価方式」により、原発の採算性は確保され、その利益は、電力会社、原発メーカー、ゼネコン、金融機関など「原発利益共同体」に還元されていた。

・電力会社は数十年も独占的に投資してきた。原発が「社会基準上の摩滅」すれば固定資本の価値が破壊され、事業価値が喪失する

・電力会社は、原発そのものが無価値に(メモ者 原発事業は40年稼動により減価償却と廃炉費用の積み立て[額が少なすぎ指摘されているが]をするスキームとなっており、直ちに廃炉されると、巨額の残存簿価の喪失、廃炉積立金不足から、債務超過に陥る)

・原発メーカーも新規建設需要がなければ、原発部門の事業価値が低下

・苦境にたつ電力会社、原発メーカーへの政府の助け舟
①「エネルギー基本計画」…「重要なベースロード電源」と位置づけ、再稼動と老朽原発のリプレイス推進/外国への原発輸出を位置づけ /政府が原発拡大を主導

②(メモ者 廃炉費用など託送料金への転嫁、FIT法の「優先接続」の廃止、原発事後の有限責任論)

★一国的に独占にもとづく、原発延命は、果たして可能か

レーニン 帝国主義論 8章「資本主義の寄生性と腐朽」

 「帝国主義の最も奥深い経済的基礎は独占である。これは資本主義的独占であり、すなわち、資本主義から成長してきて、資本主義、商品生産、競争という一般的環境のうちにある、そしてこの一般的環境とのたえまない、活路のない矛盾のうちにある、独占である。しかしそれにもかかわらず、それは、あらゆる独占とおなじように、不可避的に停滞と腐朽の傾向を生みだす。たとえ一時的にでも独占価格が設定されると、技術的進歩にたいする、したがってまたあらゆる他の進歩、前進運動にたいする刺激的要因がある程度消滅し、さらには技術的進歩を人為的に阻止する経済的可能性が現われる。…もちろん、独占は資本主義のもとで、世界市場から競争を完全に、長期にわたって排除することはけっしてできない(ちなみに、超帝国主義の理論がばかげていることの理由の一つはここにある)。もちろん、技術的改善をとりいれることによって生産費を引き下げ利潤を高める可能性があることは、変化をうながす作用をする。しかし停滞と腐朽とへの傾向は独占に固有であって、それはそれで作用をつづけ、個々の産業部門で、個々の国で、一定期間優位を占める。」

・世界的潮流に反して、日本でだけ原発を延命しようとすることは、独占に固有の「停滞と腐朽への傾向」
→が、個々の国で一定期間優位を占めるに過ぎず、永遠ではない
→「独占は資本主義のもとで、世界市場から競争を完全に、長期にわたって排除することはけっしてできない」
→環境面、社会面、コスト面で競争優位にある自然エネを、日本で普及することを妨げるものではない

・日本政府が原発の延命政策をとるが/ 国民の多数は再稼働に反対・慎重の立場をとり、住民訴訟をうけて地裁の再稼働差し止め判断、再稼働に慎重な立場の首長の誕生/と、政府と地方自治体、国民意識の対立は容易には解消できない。

◆おわり

・活動期に入った地震大国日本で原発を稼働することは、巨大地震、巨大津波と原発災害が連動する一国を滅亡させかねない大災厄の危険性をはらむ。/日本でこそ原発を社会基準上摩滅させなくてはならない

・原子力事業にかかわる営利企業の個別的な利害を優先させ原発を延命させるか、原発災害の再発から国民の生命と財産を守るために原発を社会基準上の摩滅をさせるのか—将来世代に対する現役世代の社会的責任が問われている。

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