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東京五輪 選手村の食材 国産大幅不足の恐れ~国際基準で遅れ

 調達要件となる農業生産工程管理(GAP)取得が日本では進んでいないため。「食材の大半を輸入品が占めるのでは」と大会関係者。儲かるのは実は海外の有機農産物メーカーとなるかもしれない、とのこと。
 野菜、米、麦、果実、大豆の産地強化計画などを策定する4391産地のうちグローバルギャップ、JGAPを取得している産地に2%しかないと報じている。
 GAPは、肥料の制限など環境負荷の軽減により、水の安全を確保し、持続可能な社会、農業にしようとするこころみ。食材の安全とか新鮮さとかとは別の「生産過程の管理」に関する概念〔化学肥料でも有機肥料でも、過剰使用すれば、硝酸態窒素が地下水汚損をもたらす〕。


【東京五輪 選手への提供食材 国産大幅不足の恐れ 農業新聞1/19】

【『農産物生産段階でのリスク管理』―農業をずっと続けていくために― GAP普及ニュース2016/3】

【『農産物生産段階でのリスク管理』―農業をずっと続けていくために― GAP普及ニュース2016/3】

《長崎県が、佐世保と長崎で開催(2013 年11 月)した「食品の安全・安心リスクコミュニケーション」で講演した『農産物の生産段階でのリスク管理』の講演内容を連載します》

株式会社AGIC(エイジック)
代表取締役 田上隆一

作物の栄養素として使われる「窒素」は、その形態が様々に変化しますが、アンモニアでいるときには揮発し、大気汚染につながります。また、水田の土壌粒子に吸着していれば、代掻き後の濁水とともに河川に流れ出します。乾いた畑の中で硝酸態窒素に変化すれば、土壌中で雨水などに溶けて地下水を汚染します。考えてみたら、生産性の向上によって私達に幸せをもたらした化学肥料が、環境汚染という形では私達の不幸につながりかねないということです。

具体的に見ていきますと、例えば、私の住む茨城県の霞ケ浦という湖は、最近では窒素とリンが多すぎる「富栄養化」で知られていますが、その水を筑波山に連なる小高い場所に調整池を作ってポンプアップし、学校のプール約1,000個分の水を貯めることが出来るようにいなっています。私の町では、その水を飲料水にも農業用水にも使っています。小貝川を横切る導水管は直径2.2メートル、長さ300メートルのパイプ2本で農業用水と都市用水を運んでいます。
なぜそのようにするかというと、水利権がないからです。栃木県や群馬県、福島県などの、茨城県の河川の上流地域は水に恵まれているのですが、茨城県は平地が多くて山が少なく、耕地に供給する充分な水が蓄えられないのです。
水利権というのはお金で買えるとは限りません。上流からの水が湖に入って、溜まったものを、今私たちは農業や飲用に使用しているのです。

ところが、その水が窒素やリンで酷く汚れてしまっているのです。霞ヶ浦の水の窒素成分の原因の43.7%は農業が原因であると発表されています。一般的には工業排水や生活排水で汚染が進むものと思われがちですが、農業由来の汚染の方が遥かに多いのです。畑に投入された窒素成分には地下に浸透するものもあります。植物が吸収しなかった窒素成分は土壌中で形態が変化して硝酸態窒素になり、雨が降ったときにそれが溶けて地下に浸透します。地下には、私達が想像する以上に水が流れているのですが、その地下水が硝酸塩で汚染されるのです。

汚染の実態はどうかと、地目別に調査した結果では、次頁の図のように、畑の約6割以上が水道水としての基準値をオーバーしていました。樹園地とは、ミカンやリンゴなどの果樹園のことで、5割近くが基準値をオーバーしているということです。農村集落や市街地などの生活排水などによる汚染よりも遥かに高いということを考えますと、広々として自然で美しい、良い空気で清々しい自然だと思っていた農業地帯の地下が、このように汚染された状態であるということが驚きです。

水田の地下水が他のどの地目よりも少ないのは、水を張った田んぼでは、窒素成分はアンモニア態で存在していて、溶脱せずに土壌の粒子にくっついているからで、地下水を汚染することが殆どないのです。その代わり、皆さんはご覧になったことはあるでしょうか、例えば田んぼは、田植えの前に代掻きをしますね。代掻きではある程度の水が必要ですが、田植えをする際には機械作業の都合上、水は少ないほうが良いのです。そのため、田植えの直前に余分な水を排水することがあるのですが、その時には黒く濁った水が流れていきます。当然、土壌と一緒に肥料成分も流れ出てしまいます。これを防ぐために、最近では、浅水の代掻き、深水の田植えができる農業機械が普及しています。

土壌流亡に関しては、「沖縄の海岸が真っ赤になっている、赤土が流れてサンゴ礁が破壊される」という航空写真をご覧になったことがあるかもしれませんが、土壌流亡は、自然資源保護の観点から大きな問題になっています。沖縄の場合の多くは水田ではなく、畦(あぜ)による対策が取りにくい「畑地」からの流出ですが、海に直結しているところが多いため、土壌流亡による海岸の汚染が深刻です。

このことは分かってっているのですが、あまり問題にされてきませんでした。日本は雨が多いため水が豊富で、上水道を地下水に頼っている地域が少ないということもあるのかもしれません。ところが、長野県の新聞にこんな記事が出ていました。ダムの建設の計画が中止になったため、地下水を上水道に利用しようと、その水質を調査したところ、硝酸態窒素の量が多くて飲めないことが分かりました。これではいけないと、その市役所の市長は農協になどに「農家の皆さん、肥料を少なくして下さい。養豚農家の方は、家畜糞尿を流さないで下さい」というお願いをしたそうです。なぜなら、その地域の地下水の硝酸汚染の6割から7割は化学肥料が原因で、3割から4割が畜産糞尿に由来しているという調査結果であることが分かったからです。北アルプスの東側の山麓にあって風光明美で知られた安曇野市で、環境汚染とは無縁と思われたところですから驚きでした。

地下水の硝酸塩による汚染は、今になって驚くことではありません。既に岐阜県の各務原市においては、1970年代に同じ問題が起こっています。住宅団地の造成で、大量の水道水が必要となり、地下水を上水道の水源にしようと市役所が取り組んだところ、とても飲める状態ではないことが判りました。水道法によれば、硝酸性窒素(硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素)は、水1リットル中に10mg以上あってはならないという基準になっています。これが飲料水の要件なのです。ところが測ったら30mg近くあったので、これが大問題になりました。詳しい調査の結果、大きな原因は、この地域がニンジンの産地で、一般に10アールあたり30 kgの肥料を投入していたことなどがその原因と考えられました。

その後の研究で、肥料の投入量を12 kgに減らす実験をしたところ、収量は変わらず、汚染が減ってきたということでした。原因がわかれば、汚染を解消するためには、その原因を元から断つことが必要です。全ての農家の皆さんに協力を求めて、肥料を減らした栽培方法を続けた結果、10数年経って、30mg近くあった硝酸態窒素の値が、15~20mg程度になったということです。

これらのことから、農業についていろいろ学ぶことができます。「このニンジンは安全です」と言っても、そのニンジンの生産過程で環境が汚染されたら、それは「暮らしの安心にはならない」こと、まして「水が危ない」国は持続不可能な国です。これまでどおりの良い農業-生産性を上げる農業-を、ただ真面目にやっていれば良いということではないことを理解しなければなりません。私達は地球の全ての環境と関わって生きています。ですから、環境負荷を低減した農業、循環型の農業、持続的な農業が求められているのです。

こういう問題に関して、科学者も分かっていたし、政治・行政側も分かっていたはずです。ですから、早くから「持続可能な農業」が称えられ、「エコファーマー」の制度や「特別栽培農産物」の制度などが作られ、有機農業を志ざす産地や農業生産者も増えてきたのです。しかし、環境保全を実現するための社会システムや経済体制をバランスよく整えることが出来ずに、日本では未だに持続可能な農業は「非常に困難な課題」と考えられています。

社会的・経済的な対策を整えて持続可能な農業を推進することに関しては、ヨーロッパが早くから取り組み始めました。1985年頃から、特にEUでは1990年代に、積極的な農業政策として、「農家の皆さん、環境保全に努めて下さい」ということを重大な農業政策として実施してきました。その際の説明では、「圃場は面汚染源である」と言っています。そして「その累積した影響は甚大である」と欧州のGAP規範で説明しています。

環境問題の本を開いてみますと、環境汚染の原因になるもの、例えば化学物質や重金属、放射性物質、家畜糞尿の窒素成分などの物質が、環境中に流れ出す場所を汚染源といい、それが一定の場所に限られていれば「点汚染源」と言います。その場合は、工場施設などの排水口や、煤煙の出口である煙突などを抑えて浄化できれば環境は守られます。しかし、作物を栽培する圃場は広い範囲に亘っていて、そこにたくさんの肥料や様々な化学物質が投入されて、辺り一面に広がっていますので、これを「面汚染源」と表現します。作物にとっての栄養成分や病気に対する薬剤は圃場一面に広がっている状態ですから、それらの物質が一定の水準を超えると人間にとって
有害な効果をもたらすことになります。少しずつであっても圧倒的に広い面積に広がっている物質は除染のしようがありません。ですから、できるだけ使用量を減らす以外にないのです。ここにこそ農業における最大の環境問題があるのです。
ヨーロッパ、特にイギリスでは、流れている川のうちの約7割は硝酸塩で汚染されているといわれ、その約6割は農業が原因だと分かっています。そのことを社会的に明らかにし、「生産者が理解した上で適切な農業に取り組むべきです」と、英国のGAP規範では解説しています。その結果どうなったかをEU全体の右の図で見てみます。

今EUに加盟している28カ国のうちの27ヵ国が1950年から2007年までに使用した化学肥料の3要素(窒素、リン酸、カリ)の量の推移です。1970年代になって、ここから赤い線、窒素だけがぐんと伸びている。これは日本でも同じような傾向なのですが、1970年頃になると国内の需要が満たされてきたのです。そうなると、工業立国を選んだ日本は別ですが、余剰農産物は輸出に向けられ量産体制になりますから、窒素の使用量がどんどん伸びてきたということがあります。その結果、農業が原因の環境汚染が目立ってきて、日本でもそうですが、世界的にさまざまな対策が考えられ始まったのです。1980年代には、先進諸国では環境保全型農業が称えられ、生産者に肥料を減らす呼びかけがされたのです。しかし、農家にとって実害は見え難くい上に、「肥料を減らしたら収量が減って収入が減る」という問題が解決できないのです。

そこでEUは1991年に「硝酸指令」という厳しい法律を制定しました。いわば「窒素撒き過ぎ禁止令」です。草地で10アールあたり17 kg以上の家畜糞尿スラリーを散布してはいけないとか、作物が吸収しない冬の間に肥料を撒いてはいけない、また、取り扱いや保管の制限など非常に厳しい規制が設けられました。同時に化学農薬を規制する「作物保護指令」も制定して農業の規制をしています。これらの順守によって、環境負荷をかけない農業に転換するためにEUは、農業補助金政策を抜本的に見直しました。これまでの「農産物価格支持政策」から「農業環境政策」に大きく舵を切ったのです。

補助金や罰金(過料)に関わりますから、GAP規範の順守は厳しく査察されます。そのために生産者は、農業の計画と実施の厳密性が問われます。例えば栽培するニンジンが標準的に12Kgの肥料を吸収する場合に、12kgの肥料を投入してはいけないのです。土壌中には草や作物の残渣などが窒素成分に変換したものが存在しています。その上に土づくりのために家畜ふん堆肥を投入すれば、そこにも多くの肥料成分特に窒素が存在しています。これらのすべての量を検査・分析して、それらが12kgに満たなければ、その不足分が肥料として投入できる量ということになります。すでに多すぎる場合には、栽培を中止して栄養成分を吸収するための植物-クリーニングク
ロップ-を栽培しなさい、と非常に厳しい法律なのです。このような科学的な根拠を元に農業を実践することが適切な農業つまりGAPです。

その結果、5年間でいっきに使用量が減りました。化学肥料の使用量が半減し、それでヨーロッパの農業生産性がひどく下がったかというと、そうはなっていません。EUでは農産物の輸出国が多いし、オランダの施設園芸は世界ナンバー1といわれています。量的にだけではなくて質的なものとしてもね。このように、農業のあるべき姿(GAP規範)を示して、それを実施する政策がとられれば、問題を解決できるということが、このことで証明できると思います。


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