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米国依存・安倍政治から脱却を/転換期声上げ闘おう JA新聞・鼎談

 森田 実 氏(政治評論家)、孫崎 享 氏 (元駐イラン大使・元防衛大教授)、萩原 伸次郎 氏 (横浜国立大学名誉教授)による鼎談。昨日から、党大会がはじまっているが、シンクロする部分もすくなくない。
 司会を務めた萩原氏は「2017年はまさに激動の年になるという予感がします。」「2017年に、安倍政治からの脱却が、日本の政治にとっての大きな課題となることは間違いないところでしょう。」と鼎談を終えてコメントしている。
 先日のコラムに続き、JA新聞は気合がはいっている。

【鼎談:2017 世界はどう動く】転換期声上げ闘おう(1) 1/14 】

【鼎談:2017 世界はどう動く】転換期声上げ闘おう(2) 1/15 】

《この国の針路 米国依存から脱却を》
森田 実 氏(政治評論家)
孫崎 享 氏 (元駐イラン大使・元防衛大教授)
萩原 伸次郎 氏 (横浜国立大学名誉教授)

 イギリスのEU離脱、トランプ次期米国大統領の選出など、今後の世界を揺るがすことになる出来事が起きた2016年が幕を閉じ、いよいよ2017年を迎えた。政治評論家の森田実氏はロシア革命から100年目の今年は世界史を画す年になるのではと予測する。元外交官の孫崎享氏は先進国で既存の勢力、価値観にノーを突き付けた世界の人々が新たな歴史を刻む年になるとみる。米国経済が専門の萩原伸次郎横浜国立大学名誉教授に司会をお願いした(文末に「世界と日本 この100年」年表掲載)。

◆既存の勢力に「ノー」

○萩原 2017年、世界はどう動くのか――。まずはご関心をお持ちの最近の動向からそれぞれお話しください。

○孫崎 私は非常に大きな転換点に来ていると思います。
 かつて1990年代のはじめにアメリカの政治学者のフランシス・フクヤマが「歴史の終わり」ということを言いましたが、まさに今、アメリカ的なモデル、グローバリズムと新自由主義、これが本当にいいのかということが問われ、ノーが出てきたということだと思います。
 とくに顕著だったのが実はアメリカで、まず民主党からバーニー・サンダースという自称、民主主義的社会主義者が大統領候補にならんかというところまでヒラリーを追い詰めました。その影響もあって、いわゆる軍産複合体的な世界と金融界を代表するヒラリー・クリントンがドナルド・トランプに敗れたというわけです。
 トランプが大統領に正式に就任してからどういう政策になるかはまったく不透明ですが、重要なことは今の流れにノーを突き付けたということです。これが非常に大きかったと思います。
 同じことはイギリスのEU離脱にも示されています。これも多くの人、知識人といわれるような人間はEUから離脱すればイギリスが被害を被ることは間違いないと思っていたわけですね。それは世界的な企業の中心の多くがイギリスにあるし、とくにヨーロッパを睨んで企業のヘッドクォータをロンドンに置いているからです。だから、EUを離脱すればマイナスに決まっているではないかと言われていたわけですが、国民はノーを突き付けた。
 EU離脱を求めた人たちの7割、8割は政治家不信、新聞不信であり、宗教界に対しても不信を持っています。いわゆる既存勢力のすべてにノーを突き付けたということです。まさに歴史が終わったのではなくて、国民の反発を背景に今までのものにノーが出た。具体的にどのようなかたちで結実するかはまだ不明ですが、とにかく多くの西側の国民は現状に不満だ、ということでしょう。
 今まで経済成長が重要だと言われてきましたが、かりに成長があったとしてもそれは一般国民のところには降りてこない。だから、経済成長こそすべてだという流れがあるなか、実質的に多くの国民が利益を得ているのかということになると、実はイギリスでもアメリカでもそうではなかったということから、これまでの枠組みに2016年はノーを突き付けたのだと思います。
 それは当然、アメリカで起こっている現象とイギリスで起こっている現象は、本来的には日本でも同じように起きてノーが突き付けられなくてはいけないと思います。ところがそうではなくて、非常に高い安倍支持が続いている。
 いろいろな理由がありますが、いちばんの問題は日本のメディアが完全に劣化してしまったことだと私は思っています。多くの人にこの数字を言うとそんな馬鹿なことはないと言いますが、国境なき記者団が日本の報道の自由度を調べると70数番目だということです。安倍政権とマスコミが一体となって国民にとって今いちばん何が問題かを見えなくしている。それは原発であってもTPPであっても集団的自衛権であっても核心がまったく議論されないということです。
 世界が何となく目覚めてきて、そして新しい道を探っているなかで日本だけが迷走しているという状況ではないかと思っています。

◆ロシア革命から100年

○森田 私はこの1年は入院したり自宅で療養したりという時間が長かったものですから、病床から世界をずっと見ていたという感じです。
 自分自身のことを振り返ると、戦後すぐに周りからの影響もあって私は唯物史観から入り、そういう目で当時は世界を見ていました。ロシア革命の研究や、カール・マルクス研究などもやっていたものですから、とくに1917年のロシア革命の印象が個人的には強いのかもしれませんが、2017年はロシア革命からちょうど100年が経ちます。
 これはたまたまに過ぎないともいえますが、2017年1月20日のトランプ大統領の就任から2017年が始まることになるわけですが、100年前はロシア暦の2月に革命が起こりました。
 それによってロシアにはケレンスキー政権が成立し、10月にボリシェビキの革命が起きてレーニンの政権が成立、そこから新たな時代が始まりました。ソビエトを潰そうと思って列強はいろいろとやりましたが潰せませんでした。ですから今は崩壊してロシアになっていますが、社会主義国家というものができていった1917年からの新しい時代は歴史のなかで相当重みを持つと思います。 その後、やはり大きいと思うのは1933年でした。ヒトラーが政権をとってヒトラーの進撃が始まった年です。それは同時に第二次世界大戦に入っていくことになりますが、その時代の注目すべき国の政権交代はやはり時代を区切っていく出来事になるのだろうと思います。
 そして終戦の昭和20年、私は中学1年でした。日本は本当にゼロからの再出発でした。それからの71年間で体験的に大きなことだったと思うのは1973年の第一次オイルショックです。石油にどっぷりと浸かった資本主義文明が根底から揺すぶられました。そのときに出てきた議論というのが、シューマッハの「スモール・イズ・ビューティフル」やローマ・クラブの報告書でした。これはあまりにも産業技術に頼った国の運営から根本的に考え直す必要があるのではないかという問題提起でしたが、その後、79年に英国でサッチャー革命が起きて流れが変わりました。
 ここから一気に大転換が始まるわけです。それまでの労働党政権の時代を英国病と名付け否定し、保守党サッチャー首相の快進撃が始まる。さらにその2年後にレーガンが出てきて、サッチャー、レーガンというアングロサクソンのリーダーたちが新自由主義革命を始めて、競争市場主義、完全なる自由競争で資本主義の再建だという路線になりました。自由競争至上主義の経済学者・ミルトン・フリードマンが出てきて彼らの政策を裏打ちしました。
 この新自由主義が30年以上続いてきて、ついに米国、英国自身が矛盾にぶつかった。サッチャー革命を起こしたイギリスが国民投票でEUから離脱、難民拒否という世論が勝つ結果になりました。今までの流れにノーを突き付けたという意味では、やはり2016年から17年は方向は違いますが、1917年に匹敵するほどの歴史的大転換点ではないかと思います。
 ここで思い起こしておきたいことは、実は1970年代のオイルショックによる転換点のときに、世界は日本はうまくやったと評価したことです。エズラ・ボーゲルが『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を書いて日本人をおだて上げた。
 たしかに石油にどっぷり浸かっていた産業が危機に陥ったのは事実で、日本はうまくやったと言われたのは、第一に減量経営、第二に技術革新、そして第三に労使協調によって大企業が危機を乗り切ったからでした。ただ、考えてみれば産業にだけ手を付け、ほかのところは手を付けず弱いままでした。 その弱いところをその後、アメリカなどから突かれてきたわけです。金融や保険、農業です。そうやってこの何十年の間に70年代の日本の技術革新を中心とする成果の富は米国にほとんど吸い取られてしまった。
 それでも日本の政府はまだ先進国、経済大国だという。まったく道がなくなったのに空中を車が走っているかごとくです。TPPも同じです。トランプが出てきてTPPは発効の見通しがないのに、日本は走りつづけている。
 繰り返しますが、1945年の大日本帝国をはじめドイツも含めて敗戦し、連合国主導の時代が始まったのです。この時代が70年代の半ばに大打撃を受けたのですが、間違った方向に、レーガンやサッチャーらによって引っ張っていかれたのです。しかし、この時代がいよいよ壁にぶつかった。もちろんこの時代の変化をより悪い方向に進めようという動きはあるわけですが、視点を変えれば、変化の時代こそ日本のような国にとっては千載一遇の好機がきていると思います。
 私は日本は戦争に負けたことによってアメリカに従属することになり、最近では従属に慣れてしまってそれを喜ぶという人すらいる状況になってしまったと思っています。日米同盟はすばらしい、と思い込んでいる人が少くない。
 しかし、可能性は100分の1か1000分の1かは別にして、今この変化の時代にこそ、日本が戦争によって抱えた対米従属という原罪を何とか償わなければならない。つまり、日本がアメリカの占領下に置かれ、事実上の占領下が続き、このままではそれが永遠に続くかもしれないということだけは、われわれ戦争を知っている人間として、止めなければいけない。そういう責任を負っていると思いますが、この時代の変化で対米従属を乗り越えるチャンスができたのではないか、という気持ちを私は今持っていて、独立のための闘いはこれからだという感じです。

○萩原 お話を聞きまして非常に大きな歴史的な転換期にあるということは間違いないのではないかと思います。
 経済の観点からすると2008年にリーマンショックがありました。それは100年に一度、あるいは大恐慌以来だと言われたわけですが、アメリカにとって新自由主義的経済政策を進めてきた大きな矛盾が出たと考えると、非常に理解しやすいのではないかと思っています。
 今の状況を見てみると1929年の大恐慌の数年後にヒトラーが出てきたというように、ちょうどリーマンショックから8年という年です。これはアメリカでは大恐慌から8年経ってルーズベルト政権時代になったという時代ですが、当時はアメリカでもやはりファシスト的な動きが出てきたのをルーズベルトが止めたという状況でした。
 先ほどサンダースの話が出ましたが、彼の言う民主的社会主義とはルーズベルトなんです。しかし、その意味ではアメリカでは危機から8年経って、オバマ政権のやり方、そしてそれに対する共和党の対処にも国民が非常に不満を持ち、それで政治経験もないトランプを選んだということになるのではないかと思います。
 そこで本紙は農業・農協の専門紙ですから、やはり読者にとっては先ほどからご指摘されているように、TPPが大きな関心になると思います。1月20日の就任式のときにはトランプ次期米国大統領はTPPから離脱を宣言すると言っています。それをちょうど昨年11月のAPEC会合が終わった直後に政権移行チームが発表するという実に絶妙なタイミングでTPPやめるということを宣言したわけですが、その後に出てくるのが二国間交渉だと言われています。 この点に関して外務省で仕事をされてきた孫崎さんはどう考えますか。

◆    ◆

○孫崎 私は二国間交渉は確実に厳しくなると思います。トランプは「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」と言っているわけです。トランプと新自由主義的なものの考え方はかなり違っています。新自由主義的な人たちの考え方はアメリカに工業はいらない、労働力が安く、規制が緩い、そこで利潤を上げればいい、です。
 その利潤を上げるために相手国の法律ではどうなるか分からないから、ISD条項をTPP協定で締結し仲裁裁判所で全部決めるということですね。つまり、TPPはアメリカの中の経済はどうでもいいわけです。それに対してトランプはアメリカの中にやはり企業を置くべきだというわけです。
 もうひとつ彼が言っていることがあります。自分の友人に運送会社の人間がいて彼は何でもナンバー・ワンをめざしている人間なのでトラックもいちばんいいものを買っていた。けれども、ある日電話をかけてきて、いちばん安いトラックにする、という。なぜかといえばアメリカの高速道路はあまりにもひどいので走らせるとすぐにトラックが壊れる、と。つまり、自分の国の中で経済をきちんとやろうとすれば、インフラも整備しなければならないということですから、もう全部、外でいいという人たちに対してそうではないんだという主張です。非常に強いアメリカという意識を持った、ナショナリズム的なものに変えてきているところがあるわけです。 したがって、貿易交渉、とくに彼が言っているのが為替操作、この問題では中国、韓国が強烈なターゲットになると思いますが、二国間の圧力、これは非常に強くなると思います
 そうすると日本はいかにやられてしまうかをみんなの目の前で見せつけられることになるかもしれませんが、そのことによって、われわれはやはり大変な時代にいるんだと考えてもらったほうがいい。

◆日米地位協定の真実 / 厳しい二国間の交渉

○孫崎 経済ではなく、たとえば安全保障でも実はいかにひどいことが起こっているかということです。トランプは、日本は米軍基地の経費を全額負担をしろといっていますが、読売新聞が報じたのが7200億円ぐらいの基地負担をしているということです。ドイツは1700億円ぐらいですから、日本は4倍ぐらい負担をしていることになるのです。ところが、日米地位協定には米軍経費負担は米国側がする、と書いてあります。
 だから基本的に払わなくてもいいのに7200億円も払っている、というようなかたちで私たちがいかにアメリカにひどくやられているかということを改めて知っていけば、立ち直るチャンスになるかもしれません。

○森田 日本国民は目覚めよと私も思います。すでに沖縄は引き返せないところまで目覚めてしまっているといっていいと思います。沖縄が目を覚ました直接的なきっかけは仲井真知事のひどい裏切りでした。選挙の時は反対だと言っておいて知事になったらサインしてしまった。これで沖縄県民が目を覚まして逆戻りできない状況になって、沖縄の人たちの主張は日米地位協定を改定せよ、となった。
 私は昭和27年4月28日のサンフランシスコ講和条約の発効、日米安保条約の発効のときから平和・反戦運動をしていますが、そのときの最大のテーマは行政協定(今の地位協定)だったんです。行政協定をつくっておいて、それを守るために第一次安保条約を結ぶということでした。行政協定に基づく法律をどんどんつくり、米軍基地をつくったのです。行政協定こそが日本に基地を置くということになった元凶です。実は行政協定こそがアメリカが日本を支配する鍵だったですよ。
 だから、1952年から60年頃、われわれは行政協定反対でデモをして国会突入したりしましたが、政府はずるいので日米地位協定に名前を変えてしまった。それで何となく小さなことのように見せているわけです。つまり、アメリカの日本支配の根幹は、初めに行政協定あり、つまり、初めに基地ありき、でした。基地を押さえていれば日本は抑えられるというのが米国政府がやったことです。第一次安保条約はこの地位協定を包むオブラートだったわけです。いまこれに沖縄県民は反対している。
 まだ沖縄に限られていますが、本土に波及することで運動が広がれば、アメリカが日本を支配することの根幹であるごまかしの日米地位協定に国民が反対する。そして選挙においてその改定を要求することがテーマになって、それを約束しなれば当選できないという状況が生まれるかどうか、私はそこがこれからの日本の政治のポイントだと思います。

○萩原 ところで、トランプは日本の牛肉関税が38%、しかし、日本の自動車関税は2・5%だから不公平だ、公平を期すなら日本の自動車にも30数%の関税をかけるべきだという主張をしているようです。これはアメリカに産業を呼びたいという意図ですか。

○孫崎 その意図は非常に強い。明らかにトランプは今までの新自由主義的な流れもノーだということを明確に出しているし、この圧力は相当強い勢力なわけです。しかし、そこにヒラリー・クリントンを支えていた新自由主義的なグループとそれから軍産複合体的なグループが襲いかかってきます。そうするとこれに彼が耐えきれるかどうか。トランプにとって今の方向性は好ましいでしょうが、国内を支えきれない可能性も十分にあると思います。

○森田 米民主党はたしかに大統領選挙では敗北しクリントンが負けました。日本ではトランプが勝つべくして勝ったという主張がありますが、クリントン自身は実はFBI長官にやられたと言っています。FBIはメール疑惑をもう一度捜査するといいましたが、選挙寸前にそれをやめた。しかし、そのときはもう世論が変わってしまっていてトランプと対等の戦いになっていた。クリントンは原因はFBIだといっています。
 クリントンが敗北したのですが、民主党側には負けた気がしないところがあると思います。実際に総得票数はクリントンのほうが多いわけですから。2年後には民主党はかなり議会で復活してくるのではないかと思っていますし、4年後には再び民主党の体制ができあがる可能性があると私は思っています。

◆空振りアベノミクス / 自民党の分裂も

○森田 それ以上にトランプにとって大きいのは失業問題の解決です。白人労働者の失業問題の解決は、4年でできるような問題ではありません。だいたい完全雇用というものをレーガン以来の新自由主義がつぶし、大多数の労働者は半失業者にされてしまったわけです。35年間かかったことを4年間で回復するなんてことは難しい。
 日本でアベノミクスで黒田日銀総裁が出てきて異次元の金融緩和だ、金はいくらでも出すといっても空振りです。今のデフレ不況は、3年や4年では解決できません。それは20年、30年が経てばデフレ不況の生活習慣が作られるからです。たとえば私の50歳前後の若い友人たちが言うには、自分の子どもたちにいちばんしたいことは何かと聞くと、ほとんどが貯蓄と答えるそうです。生まれたときから不況だからお金を貯めるんだという。もう金は持っても使わないという文化、習慣ができ上っているわけで、黒田総裁がいくらはったりを言っても世の中は動かない。世の中を動かすにはやはり企業家が完全雇用を達成する、正規雇用を増やす、賃金を増やすということをやらない限りだめです。
 アベノミクスはうまくいかないと私が言っていたのは結局、物価上昇目標を2%、3%としたからです。物価上昇というのは決して一般大衆にとっては楽しいことではありません。不愉快なことです。ところが経済分析をやっている人間にとっては成長率や物価上昇率が大事です。
 1960年に池田内閣が登場しましたが、池田さんも大平さんも所得倍増という言葉を注意深く使い続けました。所得が倍増することは国民にとってはいいことだからです。ブレーンの学者の下村治や内田忠夫などは成長率といった言葉を入れていましたが、政治家は使わなかった。物価上昇率などは学者の言葉です。
 ところが今の政治家は平然として物価上昇率いくらを目標にするなどと言う。失業率をどこまで下げるか、正規雇用をどこまで増やすか、賃金をどこまで上げるかという国民の生活に直結することを語らず、物価上昇率や成長率ばかり言っています。アベノミクスは空振りに終わってしまったのは観念先行だったからだと思います。

◆    ◆

○孫崎 森田さんが指摘されたようにトランプが出てきて終わりではなく、2年後の中間選挙、そして4年後に向けて、ドラマはこれから始まるということだと思います。
 トランプが起用したマティスという国防長官はひどい人間です。2000年代初め、彼は、アフガンにはベールを被らないといって女性を殴る男がいる、これを撃ち殺すのは楽しみだ、と言いました。彼は重要なことに全部関わっています。2001年にアフガンに拠点をつくり、03年からのイラク戦争では海兵隊を仕切って現地に行った。04年にファルージャで戦闘があったとき、一般市民も巻き込んで殺して、それが今日のIS(イスラミック・ステート)の元凶となった。少なくともオバマはアフガニスタン戦争、イラク戦争はおかしかったではないかといって当選したわけです。ところが次期政権はその最高責任者を起用した。だから安全保障の面では暗黒の時代に入っていくとも考えられます。
 そうした問題の日本への影響をどう考えるかですが、集団的自衛権に関連してこれまで日本が米国から言われてきたのは、ショー・ザ・フラッグ、旗を立てろ、であり、次はブーツ・オン・ザ・グラウンド、戦場に軍靴を出せ、でした。そして今、言われているはシェッド・ザ・ブラッド、血を流せ、です。
 ただ、こういう状況のなかで、安倍支持の流れにどっぷり浸かっていた国民のなかから、おかしいではないかという動きがかなり出てきていると思います。
 そのいちばん顕著だったのは参議院選挙の一人区だったし、新潟の知事選挙だったということです。今までの動きが反転する可能性が出てきたと思います。それは野党共闘が次の衆議院総選挙でどこまでできるかということになってきました。逆にそれを止めようとしている勢力もあり、この動きがどうなるかということが日本の将来に非常に大きな影響を与えるのではないかと思います。

○森田 その通りだと思います。ただ、実際を見ると共産党は小選挙区のほとんどに候補者を決めました。今までは民進党の野田や岡田の選挙区には、候補者を立てないでおこうという見方があったんですが候補を立てている。もちろん今の共産党の志位委員長は民進党が野党連合政権というものを呑めば、候補者を取り下げていいというだけの指導力を持っています。ただ、それをやると民進党に分裂のおそれがある。
 したがって、今度の選挙は民進党が自民党を大きく切り崩す選挙をやる以外に道がなくなっていると思いますが、今の民進党は本当に腰抜けで候補者も過半数ぎりぎり立てればいいというような姿勢です。過半数ぎりぎりの候補者で過半数などとれるはずがありません。
 民進党独自で小選挙区295のほとんどに候補者を立てる決断を今の民進党ができるかどうかが大きな焦点になってきています。
 それをやると今度の総選挙はどうなるか。安倍首相は衆議院選挙を2度、参議院選挙も2度勝ち統一地方選も勝っていますが、これだけ勝つと国民の不満が蓄積しています。このため投票率は下がります。政治に不満をもつ有権者が投票所に行って投票するのは反安倍です。民進党がその層を吸収すれば今の自民党の議席は相当減らすことができます。
 他方、自民党が勝ちつづければ自民党内に分裂の芽が出てくる。1993年に細川政権ができたときにも自民党が分裂した。鳩山政権ができたときは表には出ませんでしたが、与謝野や石破という議員が内部で造反を起こして、もし選挙が8月でなければ分裂が公然化する恐れがあるぐらいの状況で選挙になりました。
 自民党がずっと優位でやってきたこの日本において自民党政権を倒すには、自民党分裂しかない。今の流れはそっちの方向にいく流れだと思いますが、長期的にみると、私は15年に一度くらいは太りすぎた自民党に分裂が起きると見ています。その時が政権交代のチャンスです。

○孫崎 参院選での東北、北海道の反発のひとつの根拠がTPPです。
 ところが、農業団体はTPP反対では腰が引けていたと思います。しかし、今の状況は意味のないTPPが成立した。意味がないTPPなら反対勢力をつぶす意味もあまりないわけで、そこで何が起こるかというと、農業関係者からもTPPのような意味のないことをやるこの安倍政権はおかしいという声も出やすくなるということです。

○萩原 世論調査ではTPPについて、国民には慎重に審議すべきだという声が多かったですが、こと安倍政権を支持しますかという質問では結構支持率は高い。

◆若者は怒りと勇気を

○孫崎 冒頭の話に戻ることになりますが、イギリスでもアメリカでもノーが出てきたということですし、本当にノーと言い続けられるかどうかという問題はありますがイタリアでもノーが出てきました。フランスもその勢力が増えてきている。その原因は共通なんです。ところが日本だけなぜかノーの動きが出てきていない。私はそこには2つの要因があると思っています。
 1つは今日も話題になりましたがマスコミです。もうひとつ残念なことですが、日本国民には権力に隷属する基本的な流れがある。これは幕末のときにアーネスト・サトウが書いていることですが、この国の国民は権力者に隷属することしか考えていない、だから外国が来ても支配するのは簡単だと、そこまで書いています。
 その意味で残念ながら力の強いものにつくということです。とくに今深刻化しているのが経済がおかしくなったということで就職が担保されないという状況になってくると、ますます自分を守るためには権力側に少なくとも反発しているというグループにはいたくないという心情を持つ。それは若い男性になればなるほどそうなんです。
 ですから私は日本の新たな展開をしてくれるのは女性しかないと期待しています。それは現実の問題として参議院選挙であれ、集団的自衛権や憲法改正であれ、男性誌は取り上げませんが女性誌ではTPPはおかしい、憲法改正はおかしいなどとかなりスペースを取って書いているからです。それはそのテーマで買う層が女性にはいるからです。男性にはいない。

◆    ◆

○萩原 アメリカはご存知のようにサンダースを支える人は若者です。サンダースは高い学費など若者特有の問題を語りかけて支持を広げていった。今回の投票でもクリントンには若者が結構投票し、トランプに投票したのはおじさんたちです。サンダースはクリントンを当選させるといったので、若者がクリントンに投票したと思いますが、アメリカの若者と日本の若者はかなり質が違うということでしょうか。

○孫崎 アメリカだけではなく世界中と比較して違うということではないでしょうか。
 この間を振り返ると、いい運動だったかどうかは別にしてもアラブの春、オレンジ革命、そしてアメリカ、韓国ですね。若者が中心になって革命的な動きが起きてくる。ところが今、日本でいちばん声を上げているのは老人です。安保世代がやっているわけです。

○森田 結局、60年安保の場合は社会党がしっかりといてそれが命がけで戦った。それからマスコミが社会党に乗った。それで大衆運動が起きた。だがそれだけでは勝てないことは分かっていた。安保条約を潰すために必要だったのは自民党議員の造反でした。
 実は60年安保のときには石橋湛山、河野一郎、三木武夫らが安保反対に回ったんです。岸首相が5月19日の未明に本会議で一挙に採決したのは、もし時間を置くと自民党内の造反が広がって危ないという状況がでてきたからだった、と私は当時から思っていました。岸首相が採決を逡巡したら反対が増えたかもしれませんし、実際、賛成多数というだけで正確な数は発表されていません。あれだけ多数を持っていた自民党が何十人かの造反で追い詰められたんです。
 だから安保条約反対派はもう一歩のところまでいった。
 60年安保闘争の運動の目標は安保条約を阻止することと岸を倒すことでした。
 しかし、岸は倒したが安保はだめでした。ただまったく駄目だったかといえばそうではなく、自民党のなかで総理経験者も含めて超大物も造反に回った。これがもう20、30人増えれば「あっと驚く大逆転」という状況までいっていたんです。ですから、私は、惜しいところまで行った、最後に岸にやられたと思っていました。ただ、その岸だけは倒すことができたと思っています。
 安保闘争は日米両国政府の心胆を寒からしめたものがあったから、両国政府はしばらく何もできなかったわけです。何もできなかったから池田内閣でケインズ型経済政策を実行することができた。だから孫崎さんの言うように、60年安保は意味があったということは私も同意見です。

○森田 今、わが日本でピンチなのは、つまり、野党第一党が闘う野党になっていないことです。それからマスコミが野党と手を組むという状況にはなっていない。むしろ与党の側に立っている。大衆運動が起きようがないんです。
 マスコミと野党がタイアップする、そして大衆運動が起る。とくに大衆運動は学生と労働組合、それに農民運動ですがこれがあれば市民運動が盛り上がってくる体制になりますが、今の状況はマスコミが政権の手先になってしまっている。野党でも手先が増えてしまって裏切り者ばかりになってしまっている。こういうお寒い状況ですが、私は、韓国の大規模な反政府運動は日本に影響すると思います。過去がそうでしたから。近い将来学生が動き出すのではないかと思います。

○萩原 今の大学生をはじめ若者の経済的状況は非常に困窮を極めていますね。私たちの時代はそれなりの余裕がありましたが、今は奨学金の援助を受けるとそれを返さなければいけないという大変な借金を背負っています。アメリカと同じ状況が日本でも起こっています。それを考えると今の自民党政権のやり方というのは本当にやりたい放題で、カジノ法案も本当に短い時間で通していってしまったというようなことがまかり通っている。マスコミもそれなりに批判はしていますが、体制にすり寄っているという側面は確かにあるかもしれないですが、世界の状況が大きく変わってきている認識を持たなければならないということが今日のお話しで明らかになったと思います。

○孫崎 昨日もある弁護士の集まりで講演しましたが、この世界の状況を若者にどう訴えていくのかという話になりました。
 私が申し上げているのは、今日も強調しましたが、日米安保の基地負担が7200億円にもなっており、私たちが考えなければいけないのは軍備に力を入れているということは、必ずわれわれの生活環境がおかしくされるということです。学生の困窮を指摘されましたが、ある野党のリーダーは国公立大学の無償化は5000億円あればできると言っています。

○萩原 基地を撤去すればできるわけですね。

○孫崎 そうです。思いやり予算を振り向ければ、国公立大学は無償化できるんだということです。米軍基地のような問題はわれわれから縁が遠い、安全保障について私は分かりませんというのではなくて、実は自分たちの問題と関係しているんだというかたちの論理展開をしていったほうがいい。 いろいろな政策に対する反対派も細切れですね。TPPで反対する、原発で反対する、その反対運動としての関係はあまりありません。しかし、基本的にはつながっている問題です。そういう意味で、たとえば学生の生活問題と安全保障の問題は実はつながっている、福祉がおかしくなっていることともつながっているということをまとめて考えていくことが求められていると思います。

○萩原 アメリカではサンダースが言っていますね。国公立大学無償化など夢物語ではないかと批判されることに対して、彼は軍事費を減らせばこんなことは簡単にできる増税しなくても今の税の使い方を考えればできるんだと反論しています。要するに税金の取り方と使い方、そういうものを工夫する、具体的に訴えていくということが非常に重要な時代に来ているということでしょうか。

○森田 戦後の運動を考えると、きっかけは権力側のやり過ぎやミスです。ほとんどがそうで、今はミスが非常に起きやい状況になっています。
 しかし、どうして野党が大騒ぎしなかったのかと思った問題に安倍首相の発言があります。安倍首相は年金カット法案の審議に出席し、民進党に対してあなた方がいろいろ主張しても国民の支持が上がらないではないか、と発言しました。一昔前ならばあの発言は問題になった。傲慢不遜だ、取り消せと。しかし、野党は黙ってしまいました。 そのようにみんながおとなしくなっている感じがあります。政治家だからやはり、どこかで首を刎ねられても仕方がないというような勇気ある人間が出てこないと活性化しません。もともと政治活動というものは狂気性を帯びやすいものです。狂気になった人間が勝負していく。だから首相にも狂気性はあると思いますから、野党側にも狂気性を持った人間が出てきて勝負してもらいたいと思います。みんな冷静すぎると思います。理性だけでは闘いはできません。野党議員に闘争精神をもってほしいと思います。

○萩原 多岐にわたるお話しをありがとうございました。

【鼎談を終えて】
 2017年はまさに激動の年になるという予感がします。歴史的転換は、ドナルド・トランプ氏の大統領就任で事が始まるわけで、懸案のTPPからの離脱宣言の後、トランプ政権が、どのような政治を展開するのかが注目されるところでしょう。従来の政治パターンからの変化が訪れることは間違いありません。また、衆議院選挙必至と言われる2017年に、安倍政治からの脱却が、日本の政治にとっての大きな課題となることは間違いないところでしょう。(萩原伸次郎)

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