米イスラム入国制限 テロ対策に逆行、ISの思うツボ
トランプ氏が事業を展開している地域ははずされ、対象とされた7カ国は、イランをのぞけば政情不安な弱小国で「イスラム教徒の入国禁止」という選挙公約を実現するためにだけ選ばれたことが濃厚との指摘。
その代償はきわめて大きい。この措置は、米国内外の排外主義をあおり社会を不安定化させるとともに、イスラム社会の反米感情を高め、テロの温床をひろげ、IS対策をも困難にする。
トランプ氏は、IS壊滅計画をまとめる大統領令に署名したが、現地でIS対策の主力を担っているイラン、イラクの協力抜きには不可能だ。
世界各国の首脳が批判の声明を出している中、安倍首相は「見守る」とだけ。就任前のトランプ氏と会談し、簡単に「信頼できる指導者と確信した」と発言するから、こうなる。
【“イスラム圏入国禁止”大統領令 なぜこの5カ国許された?ゲンダイ1/30】
【弱小のイスラム諸国を狙い撃ち、米入国制限はISの思うツボ 「WEDGE Infinity」 1/30】
【米国トランプ大統領による入国制限措置の撤回を求める 1/30 日本共産党・志位和夫】
【“イスラム圏入国禁止”大統領令 なぜこの5カ国許された?ゲンダイ1/30】トランプ米大統領が「イスラム圏7カ国」の入国を一時禁止する大統領令を出し、米国内外で大混乱が起きている。28日は、入国禁止と“名指し”された当該国の旅行客が、米国への航空機搭乗を阻まれたり、米国に到着した際に空港で拘束される事態が発生。「人種のるつぼ」だった自由の国は、すっかり様変わりしてしまった。
入国禁止の対象となった7カ国は、イラク、シリア、イラン、スーダン、リビア、ソマリア、イエメン。いずれもテロ支援国家に指定されていたり、内戦状態や政情不安が続いている国だ。
不思議なのは、入国禁止の理由に「イスラム圏」を挙げながら、なぜか「9・11」テロのハイジャック実行犯の出身国であるサウジアラビアや、IS(イスラム国)によるテロ事件が続発しているトルコが対象に含まれていないことだ。なぜ、これらの国は入国禁止対象にならないのか。
「答えは簡単です。ビジネスでトランプと深い関係があるからです。例えば、トルコにはイスタンブールに『トランプタワー』が立っています。サウジアラビアでも大都市ジッダで進行中の大規模ホテル事業に参画している。トランプは、UAE(アラブ首長国連邦)の首都ドバイでも豪邸とゴルフコースを持っていて、エジプト、インドネシアにも関連会社を複数、保有しています。ヘタに敵視してビジネスがおかしくなることを嫌ったのでしょう」(在米ジャーナリスト)
元外交官の天木直人氏がこう言う。
「『入国の一時禁止』という世界が注目している重要な政策転換にもかかわらず、判断基準はあまりにもいい加減です。これで『テロ対策』とよく言ったもの。今のままだと、逆にイスラム圏の反発を食らうだけです。このまま続けていれば、場合によってはトランプ政権の命取りになりかねません」
トランプ政権は対中強硬姿勢などといわれているが、トランプは中国国内でも大規模ホテルの建設を計画し、関連企業が中国の商業銀行から多額の融資を受けている。この調子では、中国とも本気でケンカしないのではないか。
【弱小のイスラム諸国を狙い撃ち、米入国制限はISの思うツボ 「WEDGE Infinity」 1/30】
佐々木伸 (星槎大学客員教授)難民受け入れの凍結やイスラム7カ国からの入国禁止を決めたトランプ大統領の大統領令は米国だけではなく世界各地で大混乱を引き起こしている。入国禁止の対象となった国はイランを除き“いじめやすい弱小国”が中心。テロの脅威を減らすどころか、米国を憎悪したイスラム教徒を過激派に追いやる効果しかない。
■ビジネス展開国を回避か
トランプ大統領が27日署名した大統領令のポイントは3つ。1点目は全ての国からの難民の受け入れを120日間凍結、2点目はシリアからの難民は無期限停止、3点目は、イラン、イラク、リビア、イエメン、スーダン、ソマリアの6カ国の市民の入国を90日間禁止する、というもの。
この大統領令によって米国行き航空機の搭乗を拒まれたり、米国への入国を拒否された人々は29日までに約300人に上り、米国だけではなく、世界各地の空港などで混乱が拡大した。米国の永住権や正式なビザを持っている人たちも多く含まれている。たまたま旅行や葬儀に出席するために出国している間に大統領令が発効し、戻れなくなった人たちも多い。
こうした混乱の中、米国内の人権団体がニューヨークのケネディ国際空港へ到着後に拘束されたイラク人の難民2人を支援して提訴。連邦地裁が合法的滞在資格を持つ人を強制送還しないよう米政府に命じたが、難民入国を認めるという判断は明確に示しておらず、混乱が収まる兆しはない。
この大統領令に対し、入国禁止を名指しされた当該国は強く反発。イラン政府は「イスラム世界に対する侮辱だ」として、イランに渡航する米国民の入国禁止措置を検討する方針を表明した。イラク議会外交委員会も政府に報復措置を取るよう求めたほか、独仏外相やトルコの首相もトランプ氏を批判するなどイスラム世界を中心に全世界で反米感情が拡大しつつある。
標的にされた7カ国のうち地域大国のイランはトランプ氏が選挙期間中からテロ支援国として非難し、核合意の破棄にまで言及していた。しかし他の6カ国は政情不安や内戦下にある国々で、単に「イスラム教徒の入国禁止」という選挙公約を実現するためにだけ選ばれたことが濃厚。
■なぜイラクが対象国なのか? 疑問の声も
2001年の米同時多発テロ(9・11)以降、これら7カ国からの移民や、その両親が7カ国出身である者のテロで米市民が死亡したケースはない。特にイラクはトランプ政権が最優先課題とするIS壊滅のために戦っている国であり、米識者からもイラクが対象国に入っていることに疑問が出ている。
9・11の主犯グループはサウジアラビア人だったが、サウジは対象ではない。また、エジプトはトランプ政権が過激派と指名しているモスレム同胞団の根拠地だが、エジプトも入っていない。サウジは米国にとって重要な石油大国、エジプトはこれまたアラブの盟主として米国の同盟国の1つであり、双方とも地域大国であることが対象国から除外された理由だろう。
さらに大きな疑問がある。トランプ氏が事業展開していたトルコやインドネシア、アラブ首長国連邦(UAE)なども一切、対象国に含まれていない点だ。テロが頻発しているパキスタンやアフガニスタンも含まれていない。
テロリストの入国を阻止する目的というなら、まず欧州各国を対象にしなければならない。パリやブリュッセルで相次いだテロ事件で明らかなように、フランスやベルギー国籍のイスラム教徒が犯行グループに多く含まれているからだ。こうしたことからも、今回の入国禁止対象国の選定が合理性のないことが分かる。
しかし対象国に入らなかったイスラム教国が喜んでいると考えるとすれば、大きな間違いだ。「イスラム世界には、イスラム教徒としての誇りをトランプに傷付けられたという思いが強い。水面下で反米感情が一気に高まっている」(ベイルート筋)。
■IS攻撃にも悪影響必至
反米感情の高まりはトランプ政権のIS壊滅という目標の実現を困難なものにするだろう。今後のISとの戦いには、イラクやシリア、リビアなどとの軍事協力が欠かせないが、今回のトランプ氏の大統領令を侮辱と受け取れば、地元勢力が米国離れをしかねないからだ。
トランプ大統領は国防総省に対し、IS壊滅計画を30日以内にまとめるよう指示したばかりだ。計画の中には、米軍事顧問団や特殊部隊の増強、地元勢力との連携強化、前線指揮官への権限委譲などが含まれると見られており、「この時期にイラクなどを怒らせるのは最悪」(同)で、対IS作戦がつまずきかねない。
トランプ大統領のこうしたイスラム教徒いじめは、実はISがなによりも望んでいたことだ。米国から拒否され、絶望感や憎悪を抱いたイスラム教徒がISに加わる可能性が高まるからだ。
ISのテロの目的の1つは、キリスト教徒世界にイスラム教徒嫌いをまん延させ、イスラム教徒を追い込んで過激化させることである。トランプ氏はISの思うツボにはまったのかもしれない。
【米国トランプ大統領による入国制限措置の撤回を求める】2017年1月30日 日本共産党幹部会委員長 志位和夫
一、米国のトランプ大統領は、就任式で「過激イスラムテロ」を打倒すると演説したのに続き、テロ対策として、全ての国からの難民受け入れの120日間の凍結、シリア難民入国の無期限停止、中東・アフリカ7カ国の一般市民の入国の90日間禁止を命じる大統領令を出した。この措置に対して、世界各地で大きな混乱と批判がおこっており、重大な国際問題となっている。
難民の入国制限、特定の宗教や国籍者に対する入国制限は、難民条約をはじめ国際的な人権・人道法に反するとともに、テロ根絶の国際的な取り組みに対しても、きわめて深刻で否定的な影響を与えるものであり、すみやかな撤回を求める。一、2006年に、国際社会の対テロ基本戦略として、米国を含め国連総会で全会一致で採択された、国連「グローバル対テロ戦略」は、「すべての人の人権と法の支配の促進・擁護がこの戦略に不可欠」であると明記し、「テロをいかなる宗教、文明、民族グループとも結びつけてはならない」とのべている。
トランプ大統領による今回の措置は、この総会決議に明記された国際的なテロ根絶の大原則に真っ向から反するものである。それは重大な国際的人権侵害を引き起こしているだけでなく、テロ根絶にとっても深刻で重大な逆流をつくりだし、テロリストを喜ばせることになりかねない。一、トランプ大統領による今回の措置に対しては、米国国内で激しい批判の声が起こり、15の州と首都ワシントンの司法長官が共同声明を発表し、「憲法に違反し、違法でもあるこの大統領令は遺憾だ」と非難している。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、最も弱い立場である難民は、「宗教、国籍、人種を問わず、平等に扱われ、保護と支援、再定住のチャンスを受けることができるべきだ」との声明を発表した。アラブ連盟は、「正当な手続きではない」「アラブとアメリカの関係に悪い影響を及ぼしかねない」との声明を発表した。
ドイツ、フランス、イギリス、カナダなど、米国の同盟国の首脳からも批判・不同意が表明されている。こうしたなかで、安倍政権が、自身の見解を明らかにせず、「アメリカ政府の話であり、政府としてコメントすることは控えたい。関心を持って見守っていきたい」(30日、菅官房長官)との表明にとどめていることは重大である。
日本政府は、この重大な国際問題について、トランプ政権に対して、国際的道理にたって言うべきことを言うという姿勢にたつべきである。
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