米中軍事交流 安倍流「安保」観を否定する不都合な真実
屋良朝博「沖縄米軍基地と日本の安全保障を考える20章」(かもがわ出版)からの備忘録
厳しさを増す安全保障環境」に対応するための「安保法制」「辺野古新基地」という政府の主張。あくまで米中は軍事的対立関係であり、米軍は中国から日本を守ってくれる、という「筋書き」にとって、米中の親密な軍事交流は「不都合な真実」である。
それは、「冷戦後、敵をつくらない良好な国際環境を維持しようとする安全保障の新しい考え方に変わってきた」という防衛大学校の「教科書」からもずれたものである。
◆南シナ海と「航行の自由作戦」
・2015年10月26日、中国が領海と主張してる海域を、ミサイル駆逐艦「ラッセン」が航行
・翌27日、中国外務省が「中国海軍のミサイル駆逐艦と巡洋艦が米船を追跡し、警告した」と発表
・11月9日、米海軍と中国海軍がフロリダ沖で米中合同演習を実施
・11月16日 「ラッセン」と同じ第七艦隊所属のミサイル駆逐艦「ステダム」が上海港に寄港
埠頭には中国海軍の水兵がならび「Well Come US Navy」の横断幕を掲げて歓待/ステダム乗員365人は5日間中国海軍と交流。海上衝突回避のための対処訓練、救難救援訓練を共同で実施。バスケットボールの交流試合も開催。
→ ヴォイスオブアメリカ配信/ ヘンリー・マーシュ・ステダム艦長「『自由の航行』は定期的なオペレーションであり、いかなる国の軍隊との関係を複雑化させるものではない」
→米太平洋海軍司令部HP/ 上海寄港時の写真が掲載され、今回の友好親善訪問が「良好に米中関係を醸成する」と親密さをアピール。
(メモ者 定期的なオペレーションなので、中国艦艇が付近にいた、ということ。中国外務省の発表は、日本での、自由の航行作戦が対中警告の行動と報道されたことへの対応ではないか/ラッセンは、フィリピンが領海域も通過しているし、中国艦艇は、米艦から、かなり離れた位置で「追跡」している)
*「厳しさを増す安全保障環境」に対応するための「安保法制」「辺野古新基地」という政府の主張
→あくまで米中は軍事的対立関係であり、米軍は中国から日本を守ってくれる、という「筋書き」にとって/米中の親密な軍事交流は「不都合な真実」
◆その他、軍事交流
①沖縄31MEU 中国軍を招いて、フィリピン、タイで人道支援、災害救助活動をテーマに共同演習を毎年実施
・14年4月フィリピン「バリカタン2014」 大規模な自然災害を想定した多国間机上訓練に初参加
・15年2月タイ「ゴブラゴールド2015」 実働部隊の陸軍兵士が多国間の人道支援活動に参加
・16年2月 コブラゴールド。27ヵ国が参加
②ハワイ近海、アフリカアデン湾の海賊対策、海難救助での米中共同訓練実施
③かつて中ソ包囲のための演習・リムパックへの中国軍の参加
◆沖縄海兵隊の実態 ~ 縮小する部隊
①海兵隊/司令部、地上戦闘、航空、後方支援の4部隊構成。作戦の種類、規模で部隊の組み合わせが変わる
・国と国との紛争 8-9万人規模 海兵水陸両用軍(MAF)2個分
・対テロ紛争など局地的な戦闘 1万5千人程度の中規模部隊
・災害救助・人道支援、人質奪還など特殊任務 2千人規模の小規模編成
②沖縄の海兵隊 31MEUは、わずか2000名の小規模部隊
・対処できる任務は、非戦闘員救出作戦、人質奪還、人道支援・災害救助、警護、限定攻撃などに限定。
・しかも、佐世保を母港とする強襲揚陸艦にのって、1年のうち8-9ヶ月は、海外遠征している。
→ その主任務が、敵をつくらない良好な国際環境を構築することで安全保障に資するため、災害救助・人道支援などで中国を含む多国間の共同演習を通じて、アジアでの協調体制を構築することにある。
③縮小の歴史
・1個水陸両用軍が配備されたが、コンパクトな編成 2万1千
・湾岸戦争後、戦車部隊(2個中隊)が、沖縄に帰還せず米国へ撤退したため、通常の半分の1万7-8千人/スケルトン部隊と呼ばれ、有事になれば、本国から部隊が派遣される。通常は、紛争地域に設けた前線基地で合流する計画
④米軍再編の見直し 2012年
・沖縄 司令部と31MEU(2千人)を残す。
・グアムへ約5千人/ 地上戦闘兵力の主軸・第4海兵連隊と補給部隊の1部、第3MEB司令部を移設
オスプレイ飛行隊、ヘリコプター分遣隊の新設
・ハワイへ約2千人/ 第12砲兵連隊司令部と補給部隊の1部が移設
・オーストラリア ローテーションで2500人 上陸大隊、補給大隊、ヘリコプター部隊など海兵隊機能1式
→主力部隊、連隊規模の部隊は沖縄からなくなり、ばらばらに配置/有事に現地集合で対応可能
→MEUを沖縄に配置している意味さえ不明/ 出発地は佐世保港。沖縄は「乗車駅」の1つ
◆防衛大学校の「教科書」~ 安倍流は時代錯誤
・「安全保障学入門」(防衛大学校安全保障研究会編)
・第一章「安全保障の概念」第一項「普遍的概念の欠如」~「論者がどのような世界観や価値観を採用するかによって、安全保障概念の規定は大きく違ってくる」/万人が納得できる普遍的な定義がない。時代とともに国際環境が変わり、冷戦期には軍事が優先され、ポスト冷戦期では、経済、エネルギーなど非軍事部門の比重が増してきた、と説明。
・現在の安保環境 「破綻国家がテロリストの根拠にされやすいという事実が、深刻に受け止められるようになり、紛争地に『平和を作り出す』ための平和構築や国家再建といった活動の国際安全保障上の重要性が先進国によって強く意識されてきた」/また、工業化が進み経済的に相互依存が高まった先進国の間では、戦争は時代遅れになったとう米専門家の考えを引用するとともに、脅威に対応する従来の安保観は冷戦後、敵をつくらない良好な国際環境を維持しようとする安全保障の新しい考え方に変わってきた、と解説。
→敵か味方にわけ、軍事力で対抗しようとする安倍流安保観は時代遅れ
→敵をつくらず安全を確保しようとする「安全保障」と仮想敵に対峙する「国防」とは違った概念/新しい安全保障の考え方に基づき活動する沖縄海兵隊を、日本の「国防」の枠で語る自体がまちがい。
*メモ者/ 海兵隊が主任務としてきた上陸作戦は朝鮮戦争が最後 ~ 軍事作戦の変化(敵の司令部やレーダー網の破壊、大規模な空爆・ミサイル攻撃のあとに地上部隊が進行。敵前上陸の任務の消滅)と軍事費削減のもとで「第二陸軍」と揶揄され、存在価値が問われている海兵隊が、組織防衛として、日本を巻き込んだ「新基地建設」にしがみついている側面が極めて強い
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