社会保障分野を「基幹産業」に ~ 地域で生き続けるための道すじ
日野秀逸・東北大名誉教授 経済2017.1 「社会保障構造改革の20年の展開過程とその結末」の最後の部分の備忘録。と、年金が地域経済に与える影響のメモ。
【社会保障分野を「基幹産業」に ~ 地域で生き続けるための道すじ】
「社会保障構造改革の20年の展開過程とその結末」 日野秀逸・東北大名誉教授 経済2016.12
(1) 地域の活性化には福祉・医療が第一
・内閣府「人口、経済社会等の日本の将来像に関する世論調査」2014年8月
今住んでいる地域が活力を取り戻したり、さらに活性化するために特に期待する政策は何か/上位4つ
①多様な世代が共に暮らせるための福祉医療の充実 45.5%
②地域に雇用を生み出す新産業の創出 42.6%
③安心して住み続けるための防犯・防災対策の充実 37.7%
④商店街の活性化対策や、まちなか居住環境の向上など中心市街地の活性化 37.2%
・内閣府「国土形成計画の推進に関する世論調査」 2015年10月19日
老後に備えて移住の意向はあるか、の問いに
「移住したい」6.8㌫、「どちらかと言えば別の地域に暮らしたい」12.3% 2割弱
「現在の地域に住み続けたい」57.0%、「どちらかと言えば・・」22.2% 8割
~ 多くは、住み慣れた地域で住みたいと願っている(メモ者 2割が「移住」を考えているのも大きい)
(2)憲法25条と地方自治法と住民の協同
・「国土形成計画の推進に関する世論調査」/「地域において住民が生活を営んでいく上で、主に自助、共助、公助という考えがありますが、本格的な人口減少・高齢化時代を迎え、財政的な制約も厳しくなっていく中で、あなたはどの考え方を最も重視しますか。1つだけお答えください」
「住民の生活は、個人が自立して営んでいくべき」(自助) 16.3%
「住民が互いに協力しあって営んでいくべき」(共助) 44.9%
「行政が中心となって支えるべき」(公助) 33.4%
~政府・財界が強調する「自助=自己責任」は最下位
国や自治体の責任を基本に、地域の人々が協力し合って生きていこう、というのが大多数の国民の考え方
(3)医療・福祉・介護・保育は真の成長産業=雇用の切り札
・産業構造審議会・産業競争力部会「産業構造ビジョン2010」2010年6月
「今後日本は何で稼ぎ、何で雇用していくか」の問題提起のもと戦略的産業5分野の生産と雇用の増加予測提示
→「医療・介護・健康・子育てサービス」
生産額では、増加額のわずか15.5%(12.9兆円/83.2兆円)
が、雇用面では43.9%を占める(113.4万人/257.9万人)
・対人サービス部門であり、資本の有機的構成が低く、生産額の増大への貢献はさほど見込めないものの雇用増大が期待できる
~ この分野が低賃金、非正規雇用の主要分野である現実と重ねてみれば、財界は、雇用問題はこの分野に押し込んでおけばよい、と考えていることが読み取れる
(4)国民生活優勢の国民経済を
・グローバル経済の成長が、国民経済の成長と対立するようになった現在、国民生活の安定化を最優先する国民経済づくりは、経済成長自体を自己目的化する必要はない
・生産額がさほど増えなくとも、雇用の大きな伸びが期待できる産業分野があり、国民生活の安定化と向上に直結する。
(5)社会保障分野を基幹産業に
・07-12 医療・福祉分野 228万人増(508-736万人) 正規・非正規がほぼ同程度に増加
・最大の雇用分野 製造業だが、過去10年に25万人、特に正規雇用は74万人減
(6)25条に立脚した生存権保障産業へ
・問題は、「医療・福祉」分野を、安倍政権が成長戦略のターゲットとして営利化を一層強めていること。
→医療、介護、保育/その切実な要求は、可処分所得の低い庶民からのものであり、経済的な有効需要にはならない
(メモ者 この分野の充実は、所得再配分機能の向上、ビルドインスタビライザーの役割としても重要である)/人手不足を解消するための処遇改善には公的な支援が不可欠であり、アベノミクスではできないもの
■年金削減が地域経済に与える影響
・高齢者世帯の年収の7割(公的年金と恩給 平均200万円)を占め、年金だけで暮らす世帯が約6割
・地方の経済における重要な構成部門
・大和総研2015年12月 都道府県別の名目県内総生産に対する保険料と年金額を比較研究
~大都市圏に多い現役世代が払う保険料が地方に年金給付として分配されているとし
「公的年金は世代間の所得配分だけでなく、地域的な所得再配分の機能も発揮している」と評価
・厚労省もこれまで、年金は「地域経済を支える役割」がある
塩崎厚労大臣 物価スライド「購買力を維持する」(15年2月)
★年金財政
・上限改善で、1.5兆円の増収
厚生年金保険料 標準報酬月額の上限62万円。31等級
医療保険 標準報酬月額の上限139万円。50等級
→ 医療保険並みの上限に改善すれば、約1.5兆円の増収
~社会保障審議会年金部会「再分配機能の強化の観点から、上限を撤廃していくことも考えられる」が議論の整理に盛り込まれている(2015年1月21日)
・149兆円まで膨らんだ積立金/「マクロ経済スライド」終了後の2050年代以降になって取り崩す計画
~政府は「将来の年金財政」と固執する一方、株価対策への活用を「日本経済に貢献する」と正当化
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